セミダイブ!   作:小沼高希

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Who stole the fire? 4

難易度は最低にしてあるのに、なかなか解けない。空中にはメモ書きや切り取った画像とかが並んでいるが、見た目はそれらしくても中身はわたしの頭のように空っぽだ。

 

「……ええと、並列で回してルートを確認すればいいかな」

 

今やっているのは軍縮ゲーム。選択肢を選んで進んでいくタイプのものだ。ただし選択肢がそれなりに多いのと、かなり内部で複雑な処理がされているのかパターンが多いせいで単純に総当りするのは手作業では厳しい。

 

今このワールドには作業のために散らばった雑多な資料がある。大学指定のAIサービスであるTYRUS(タイラス)を駆使してもなかなか解けない。あの、これちょっとした論文ぐらいなら周辺文献をまとめてゼミに使えるという噂のあるぐらいの強さがあるんですが。

 

「でも三年前でも難しかったわけだしな……」

 

その時にプレイした人たちもAIを駆使しただろうが、それでも素直には解けなかったという。ちなみに人力でやろうとして最初に適当に選択肢を選んだら一瞬で核を打たれて死にました。もう少し考えてやったら裏をかかれて攻撃されて核があったせいで局地戦で済みましたがそれでも痛手を負いました。

 

ゲームが終わるたびに、その状況と似た過去の歴史がでてくる。特に「紛争の十年」では色々なパターンの衝突があったので引用されることが多い。こうやって見るとやはり核って持ってると便利なんですね。

 

解説の文面を辛口モードの批評ソフトにかけてみたところ、かなり良い文章らしい。このシステムは大学のレポートとかのために書いた文章の大半にダメ出しをしてくるやつなので、結構複雑な気分だ。ただ、人間が作ったというより生成させたような癖が微妙にあるらしい。傾向レベルに過ぎないが。

 

メタ的な分析というのは、一応はわたしの好きな手の一つだ。問題を直接解くのではなく、それがなぜ作られたのか、どういうふうに解決されようとしているのか、解答の候補はなにか、みたいな考え方。実際に社会にある問題に直接当てはめることは難しいけど、解けるように作られた問題であればけっこううまくはまることもある。

 

たぶんそれも想定されているのかもしれないけどね。このゲームの作成者はかなりいろいろな方面のことを考えている。ちょっとやそっとでは裏をかけないが、それでも少しだけヒントになったりする程度にはなっている。

 

調べた限り、このゲームが終わったのは2045年8月9日。場所は長崎県。人類が戦争用に使用した、最後の原爆投下から100年。その記念式典に変な人が集まっていたという投稿があった。たぶんクリアしたプレイヤーが参加していたのだろう。こういうイベントをゴールというか終着点にするのは結構ある手法だ。

 

交錯現実ゲーム「Who stole the fire?」ではVERY EASYであってもこの難易度だ。下手なレポート以上に色々使っているし、実質的にわたしじゃなくてAIが解いているようなものとはいえ、これである。一ヶ月未満の期間でクリアした人たちって何者なんだよ。実際は最高難易度程度だった上に実際に色々なところに行く必要もあったはずだし。

 

「ただ、半分ぐらいまでは進んだぞ」

 

一旦今まで解いてきた問題を見てみる。原子爆弾の設計に必要な数学的条件とか、その投下の影響の算出。原子爆弾一発で東亜・南海戦争の被害者の倍が死んでいた。それも、その多くが民間人だ。それと機密解除された資料の分析。OCRされていたので一発だったが、そうでなければ手作業でスキャンされただけの画質の悪いファイルを漁ることになっていただろう。

 

たぶん高難易度の場合は文字起こしされていないものについて調べさせるようになっていたのだろうな。意地が悪い。ただ、それでもやってのけたのだろう。なんとも恐ろしいプレイヤーたちだ。この手のイベントは一瞬でヤバい奴が集まって解かれるか、あるいは人が集まらないかのどちらかだが、うまく前者になったらしい。

 

そして今やっている原爆をテーマとした政治ゲームに続く。同時期仮想環境でいくつも開いて、総当たりで選択肢を選んでいく。内部のデータとかはかなり複雑に処理されているようで、デバッグ用の監視が上手く働いていない。ただ、文面から成功に近づいているかどうかが判断できそうなのでうまくいきそうなルートを中心に探索させている。

 

こういう解析をされることすら込みで作られているゲームなのだろう。そりゃわたしでも解けるようなら、慣れた人なら一日あればもとの難易度のものでも解けてしまうだろう。公開された場所にかすかに残されていた記録──ほとんどはクローズドの場所で議論されていたせいでよくわからない──をもとにするなら、徐々にヒントとか情報が与えられていったがそれを上回る速度で解かれていたようだ。

 

「それにしても、誰が作ったのかな……」

 

問題の端々から、その政治的意図というか目的みたいなものは見えてきた。まず情報を知ってもらうこと。そしてその政治的な意味を理解すること。今やっているやつがまさにそうだ。今までやってきた原子爆弾の被害ではなく、それが持つ外交上の役割にフォーカスしている気がする。たぶんだけど。となると単純な反戦とか反核とかとは別だよな。もう少しメタ的なアプローチに近いというか。

 

ようやく回していたうちの一つでクリアしたものが出たらしいので確認。なるほどね、そういう選択肢を選べばよかったのか。微妙な隙間を縫い、核を所持している可能性を示唆しながらも決定的な証拠を出さないみたいな綱渡り。

 

解説によれば東亜・南海戦争での北朝鮮での立ち位置を参考にしたものらしい。ふーむ、あの国は戦争には直接関与せずに裏で軟着陸ならぬ「胴体着陸」をした、みたいな話を聞いたことはある。詳しくは知らない。

 

いやだってそれがあったのは十年ぐらい前のことですし、そもそもあの国はあまりニュースにならないし。ふくよかな「女将軍」はたまにニュースに出るから顔は知ってるけどさ。やっぱりもう少し国際社会とか政治とかに興味を持ったほうがいいのかもしれない。そもそもこのゲームはそういうのを促進させようとしている側面もあるでしょうからね。

 

「さて、次のパズルは……」

 

そう言って、少しだけ嫌な予感がしたのでメニューを開く。晩ごはんを食べて帰ってから始めて、そろそろ空が白むような時間になっていた。

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