セミダイブ!   作:小沼高希

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Who stole the fire? 5

「ソニドリくんじゃないか」

 

Bar Panoptica(バー・パノプティカ)に訪れたわたしを迎えたのは、ドミノ倒しを作っている跳華(トビハナ)さんだった。

 

「……何やってるんですか」

 

「ドミノを知らない?」

 

「同じ数字を並べてつなげていくゲームでしたっけ」

 

「……なにそれ」

 

「跳華、あんたの触ってる板の本来の使い方だよ」

 

チーフがカウンターから言う。

 

「それで、これは?」

 

わたしは跳華さんに聞いてもあまり意味がなさそうだなと思ったのでチーフに聞くことにした。

 

「物理演算能力の試験だよ、複数のオブジェクトを並列で処理した時の影響を見たい」

 

「ドミノだとそこまで並列処理って必要になりますかね?」

 

現象として相互作用はそこまで起こらないし、一旦倒れたドミノが他のドミノに影響を与えることも少ない。

 

「実際の問題でも相互干渉は減らせるからな、このくらいがテストケースとしてはちょうどいいのさ」

 

「そういうもんなんですね。ところで一つ一つ並べる必要は?」

 

「ないよ」

 

「ですよね」

 

「あーっ!」

 

わたし達が話している横でドミノが連続して倒れる音がする。

 

「……なにやっているんですかね」

 

「どうせバックアップから戻すぞ」

 

チーフの言う通りに、跳華さんは空中でメニューをちゃちゃっといじって時間を巻き戻していた。卑怯だな、と思ってしまう。いやわたしがやるならスクリプトを組んでやらせてしまうのでこうはならないけど。

 

「よし!」

 

「……わたしも並べていいですか?」

 

「いいぞ、じゃあこの372枚をこういう向きで……」

 

どうやら跳華さんは綿密な計画のもとに配置をしているようだ。それを乱さないように手伝っていこう。

 

「それで、なんで来たの?」

 

「なんとなくですよ」

 

日曜日の昼過ぎ。昨日の夜というか今日の朝まで徹夜していて、寝て、起きたらこうなっていた。軽い朝食を食べ、身体を横たえた状態でここに来ている。

 

「そう。何か抱え込んでいるなら、信頼できる人に言うんだよ」

 

「……跳華さんって、時々気持ち悪いですよ」

 

「そんな……」

 

「それぐらい、人をしっかり見てくれているなっていう意味です」

 

「そう?」

 

そんな会話をしながら、ドミノを積み上げていく。寝る前は複雑な作業で頭を使っていたので、こういう単調なものに浸れるというのは心が落ち着くな。

 

「それで、何かズルしてない?」

 

「いえ?」

 

「手の動きを自動化するツール……というより、置くのを補助するツールかな?今作ったの?」

 

「なんでわかるんです?」

 

さっきミュートにして、口頭でスクリプトを組んでいたのが気がつかれたか?いやでも無言だったし、リップシンクは切ってあったはずだから無言で口をパクパクさせていたとかそう言うのもないはずだし。

 

「動き、かな。私はそういうの、よく見る方だから」

 

「絵を作る人ですからね……」

 

跳華さんは念写師だ。生成するような術師とも直接手で描く絵師とも違う。脳計測デバイスで微調整を重ねながら絵を改善させていくような手法を取る人だ。

 

なお普通に考えればわかるように術師と絵師の上位互換とまでは言わなくても両方の技術をしっかりと極めていないとできない。細かい部分まで人間が手を入れつつも人間がやっては時間がかかりすぎるようなイラストの作成が専門、と言えばいいだろうか。

 

だからこそ、違和感を覚える事ができるようにするために違和感のない状態をしっかりと見ておく必要がある。なので目がとてもいい。少なくとも動きから何かを読み取るという点ならチーフといい勝負ができると思う。

 

「で、ズルをしていたのかい?」

 

「あくまで補助ですよ、置いていくのは楽しいですし」

 

「まあいいか」

 

「跳華、あんたのやり方をソニドリに押し付けないように!」

 

「わーってますよ」

 

そういって組み上がっていくドミノたちであるが、僕には全貌があまり見えない。たぶん崩すといい感じに何かになるのだろうが。参考までに今はドミノの上にドミノを置いて、さらにその上に倒れるドミノを並べていくようなことをやっている。

 

一般的に、これだけのものを崩せば重くなるはずだ。水しぶきみたいにある程度まとまった計算ができるならまだしも、こういうあまり規則性のない並べられ方をして相互作用を考慮しなくちゃいけないオブジェクト群があるとなると辛い。

 

「それで、何に悩んでるのさ。私が信頼できないのはそうだろうけど……」

 

「いえ、跳華さんのことは尊敬してますし、信頼している面もありますよ」

 

一応は仕事を締め切りまでには終わらせているらしいし、あまり悪い噂も聞かない。他の術師や絵師ともそれなりに絡んでいるようなのに。

 

「……それは、嬉しいね」

 

「ただ、これは跳華さんが思っているような深刻なやつじゃないです。ちょっとやっている交錯現実ゲームの話で……」

 

説明をしながらドミノを積み上げていく。全部でいくつぐらいだろう。

 

「チーフ、今のエンティティ数ってどれぐらいですか?」

 

「ドミノだけなら九千ちょっとだ」

 

ウィンドウを開く素振りすらしない。脳計測デバイスとかでやっているのか、常に表示させているのか、あるいは本当に人工知能か。

 

「まあでもそのゲーム、ちょっと危ないかもね」

 

「危ない?」

 

「そう。名前は……聞いたことなくはない、かな。昔見たはず」

 

「知ってる感じですか」

 

「そうだね。ただ、ああいうものって色々仕込めるから……」

 

「電子ドラッグみたいなやつですか?」

 

半ば都市伝説みたいな話だ。ある種の情報とか視覚刺激パターンが脳の快楽中枢を刺激して麻薬とかみたいな中毒症状、依存症状、離脱症状を引き起こす、みたいな。もちろんある種のゲームとかではそういうものが起こる可能性は示唆されているけどそれは別に物理世界でやるギャンブルにだって起こるし、ドラッグに比べればマシだというのが一般的だ。

 

だが、もし丁寧に調整されていれば、人間の脳に何か影響を与えること自体は可能だ。東亜・南海戦争中の輿論戦に使われた動画に仕込まれた手法とか。なおその手法はある種の口にするのもはばかられるような汚いジャンルで今なお洗練されているとも聞く。広告に使われているとかでネットで話題になるのは表面に過ぎないとかなんとか。

 

「そう。特にそれ、特定の政治思想をテーマにしたやつでしょ?ちゃんとモニタリングしといたほうがいいよ?」

 

「……そうですね」

 

またあの「Look in Yourself」みたいなカウンセリングワールドに行ってみるかな。というか今から行くか。そもそも生活リズムを崩さないようにと怒られるかもしれないけど。

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