セミダイブ!   作:小沼高希

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Who stole the fire? 7

最後の問題にようやくたどり着いた。まるまる二日ぐらいかかったことになる。

 

「終わったらなにかくだらないものをたっぷりと見て脳を戻さなきゃな……」

 

指を鳴らす。今まで散らかしていた情報が整理されて、全体の様子が見えるようになる。ここまでくると、ゲーム主催者がやりたかったことはかなり明白だ。

 

思想のインストール、と言ってもいい。こういう概念は確か漫画の分析から生まれたんだよな、と記憶を漁る。

 

「南の島の林さん」という漫画が10年かもう少しか前にあった。SNSを中心に広まって、今でも無料で読める。内容としては「南の島」にある学校で東アジアのいろいろな地域から集まった学生があれこれするという物語だ。学園モノとしても楽しいし、文化を色々と学べるという点でもためになる。今では少し古くなってしまったものも混じっているが。

 

そしてこの作品には当時の様々なインターネット上のネタが散りばめられていた。全てを理解するためには相当調べなければならないし、ナマの感覚を知りたければ言語を超えて交流をする必要があった。事実、戦時中だったにもかかわらずそういうコミュニティは多かったそうだ。

 

ただ、この漫画は中国、日本、韓国で同時に、そして一見独立に展開されていた。そして、どの作品も主人公が同じなのだ。日本語版では(ハヤシ)さんだったが、中国語版では(リン)だし、韓国語版では(イム)さんだった。

 

そしてすごいことに、読者のほとんどは主人公を自分の国の人だと思っていたのだ。このあたりにツッコミを入れて論考をまとめたのが東南アジアの人だったというから恐ろしい。ちなみにその人は三言語で書評を書いてました。翻訳ソフトはほとんど使ってなかったそうです。

 

それによれば文化的に影響が出る要素を省きつつ、御当地ネタと見えるものをすべての国に含まれる要素を紛れ込ませて演出すると言った方法が取られていたらしい。そして、漫画自体がトランスナショナリズムとか文化のハイブリッド化とか、そういう類のものを推奨しているとその投稿者は論じていた。

 

事実、その分析は誤っていなかった。今の明星文化集団は「南の島の林さん」で培われたネットワークから生まれた、という話まである。これはかなり与太に近いが、それでもまるっきり間違いというわけではない。

 

明星文化集団は東アジア全土を股にかけるメディア企業グループだ。もともとの企業自体もかなり名の知れたものが多く、グループができる際にはなぜくっつくのかという意見もあったらしい。ただ、その思想とか企業指針みたいなものは「南の島の林さん」と似ているとこがある。実際、経営陣がちょくちょくインタビューでも言及しているらしいし。

 

落ち着いて見ると、この「Who stole the fire?」というのも似たようなところがある。少しアプローチは違うものの、疑って、そしてその上で自分が見つけたものが、自分の思想なのだと思わせるようなと言えばいいだろうか。もっと単純なものは陰謀論とかの方で使われているが、これはもう少し高度だ。

 

そして出てきた結論も、世に数多ある政治思想とかイデオロギーとかの中では比較的穏健なものだ。それでも核兵力に対する肯定的評価とそれを踏まえた上で社会があるべきという思想をちゃんと説明しようと思ったら面倒くさい人に色々言われかねないなとは思う。

 

「……もう少し、裏があるのかな」

 

そういう思想をプレイヤーに植え付けて、得をする集団があるのかどうか。もちろんその思想を信じているというか推奨したい派閥はあるのだろうけど、そういう派閥を大きくした先に別の目的がある、なんてこともあるのだ。

 

例えばこの思想だと核兵器を持ってしまった国に対しての妥協をしがちになる、とかなら北朝鮮が作ったみたいな雑だけどそれなりに筋の通った話になってしまう。確かにあの国は戦前からずっと外貨獲得のためにコンテンツ分野には力を入れていたし。

 

「あまり考えすぎても、向こうの思惑にハマる気がするし、ほどほどにしようか」

 

一般的にメタ的な思考というのは、向こうがそれを想定していると空回りしたり、ひどい時には真逆の結果に走ってしまったりする。中には完全に格が違うなっていうのもあって、そういう時は手の上で転がされたのを覚えている。

 

それを踏まえると、このゲームはかなりメタ的な分析を想定した上で作られている。人工知能とかの可能性も考えたが、ここまでの一貫した完成度を維持するとなると相当工夫して使う必要がある。人間もAIもまだ、完璧な作品を簡単に作ることができる領域には到達していないのだ。

 

そして、実は最後の問題の答えはもうわかっている。問題文は「Who stole the fire?(誰が炎を盗んだか?)」。解答欄に入るのはアルファベット2文字。

 

そういう単語はかなり限られるし、今までの流れからすれば答えはそう難しくはない。

 

──WE(われら)

 

決定ボタンを押すと、紙吹雪が小さく飛んだ。

 

ゲームクリア。終わった喜びと、綺麗にうまく騙されたような悔しさがある。わたしでも解ける程度の難易度に手加減されたという感覚は、ないわけではない。

 

それでもかなり悩んだ。自分一人の力とは言えない程度にいろいろな手を使った。なので、ある程度の達成感を感じても良いだろう。

 

さて、寝るとするか。このゲームのせいでいろいろな情報を脳に詰め込んだ。そういう意味では、教養を深めてくれたと言ってもいいだろう。その教養を使う場所がどこになるかはともかくとして。だって国際政治の問題って個人レベルでなにか判断できることがほとんどないじゃないですか。輿論を個人が動かすことがないとは言いませんが、それは偶然が重ならないと難しいですし。

 

見逃していたが、解答報酬があるらしい。URLが添付されていた。かなり長くて一見ランダムに見える文字列部分があるということはたぶんプレイ結果とかもまとめられているんだろうな。どれぐらい遊んだか、どの難易度をクリアしたか。下手なアンケート以上の情報が、このリンクを踏むだけで向こうに送られる。

 

ただ、それはかなり一般的な手法だ。ここでタップするのをためらっているようでは、今のインターネットを生きることはできない。

 

手を伸ばしてリンクを踏むと、ブラウザの画面が開いた。

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