セミダイブ!   作:小沼高希

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Who stole the fire? 8

「……大丈夫?」

 

目を覚ますとかっこいい人が心配そうに僕を覗き込んでいた。胸がどきりとしてしまう。

 

「ユミナ、さん……」

 

場所は大学の教室。いつの間にか情報技術要論Aが終わっていたようだ。見渡すと人が少なくなっていて、次の授業の人もちらほらと入ってきているようだ。

 

待て、どこから記憶が飛んでいる?XR端末をかけて事前配布されているスライドと照合していく。

 

「何してるの?」

 

ユミナさんが半透明の画面の向こうから聞いてくる。ええと、ここまでは記憶があるな。

 

「いつから寝たか調べてる」

 

「……そう」

 

隣をちらりと見ると、アキさんがノートパソコンを閉じているところだった。

 

「行かないの?」

 

荷物をまとめ、僕とユミナさんを見て言うアキさん。ぶれないな。ちなみに後半三分の一ぐらいを寝て過ごしていたようです。出席はちゃんと取れていた。だからといって寝ていてもいいわけではないが。試験がないとはいえ、あまり不真面目な態度は取りたくない。失礼だし。

 

「それにしても、ミドリが授業で寝てるの珍しいよね」

 

ユミナがふらつく僕の隣で言ってくる。僕より背が高い。いい匂いがする。うん、疲れすぎているな。こういう時には色々とリミッターが外れそうになる。

 

「そうかも……」

 

大きなあくびを一つ。辛い。どこか寝れる場所はないかな。家に帰ったほうがいいかもしれないが、そうすると授業に出れなくなるかもしれない。難しい。ひとまず頑張ってみよう。

 

「なにかしてたの?」

 

「前にええと、梶本さんだっけ。その人が言ってたゲームをやってた」

 

アキさんの質問に答える。目は半分閉じている。歩き慣れた廊下だからなんとかなるが、いきなりユミナさんから離れられたら倒れてそのまま寝てしまいそうだ。

 

そんな会話をしながら食堂に行って、いつもの感じでそれぞれご飯を食べる。僕の場合は遅い朝食で早い昼食。アキさんとユミナさんはちゃんと三食食べているようだ。健康的でとてもいい。

 

「結局あれって、どういうゲームだったの?」

 

ユミナさんが無邪気に聞いてくるが、簡単に説明できるほど僕には言語化能力がない。一応話せなくはないけど。

 

「聞きたい?」

 

「話したくないの?」

 

「……結構難しかったから」

 

当然ながら、この二人はプレイしてはいない。アキさんとかやったら楽しめそうな所あるけどな。僕がAIに補助を頼んだところを自力で突破しそうだ。

 

それでもなんとか、流れを説明していく。ゲームがいくつかあったこと。それぞれのゲームをどう解いていったか。たぶん政治思想についての汚染があるので、それを軽く避けながら全体の構成を説明していく。

 

「なるほど……」

 

アキさんはある程度の専門分野についても理解したようだ。ユミナさんもわからなくはないらしい。

 

「凄いね、たった二日でそこまでできるんだ」

 

「難易度調整があったからね」

 

ユミナさんの褒めに対応してラーメンを啜る。今日は札幌風なのでバターとコーンが乗っている。厳密にはバターの方はなんかそういう風味のついたオイルだけど、おいしいからいいんですよ。

 

「それで、報酬は何だったの?」

 

「最後のURLの先?」

 

僕の確認にアキさんは頷く。

 

「交流用SNSだったよ、今でも週に一人ぐらいは解けているらしい」

 

「そんなに?」

 

「入ってすぐに歓迎されたよ、日本語話者もいたし」

 

英語と一緒に返したが、それでよかったのかな。受験勉強とVR空間で鍛えられたおかげで最低限の英作文はできるが、細かい機微とか丁寧な表現とかには限界がある。インターネット上ではそこまで気にはされないけど。

 

「クリアしたのっていつなの?」

 

ユミナさんが聞いてくる。

 

「……昨日の、四時ぐらいかな?」

 

()()のではなく?」

 

確認してくるアキさん。定義の問題だよね。

 

「そうかも」

 

眠いわけである。僕はあまり徹夜とかが得意ではないのだ。できないわけではないけれども、一日中眠くて何もできなくなってしまうことも多い。大学に入ってから時間を比較的自由に使えるからなんとかなっているものの、社会人で夜遅くまで色々している人を見るとすごい体力だなと思う。

 

「……不健康ね」

 

「同意はする」

 

アキさんにそう言いながら、僕はラーメンのスープを飲む。満たされていくお腹に落ち着く感じがある。少しだけ薄れていた眠気がまた戻ってきてしまった。

 

「そういえば、聞けてなかったけど梶本さんと出会った時のこと、もう少し教えてもらえる?」

 

アキさんの言葉に、ユミナさんが頷いた。

 

「んーと、先週の月曜日の夜に駅前で飲んで動けなくなってて。動けはするけど足取りが危なかったから、家まで運んだの」

 

「住所は?」

 

「免許証を見て調べた」

 

僕の質問にユミナさんはサラッと言っているがちょっとアウトよりな気もしなくはない。ただ救急車とかを呼ぶのも問題だし、一番マシな方法だと言われればそうかも、という気になってくる。

 

「それでシャワー一緒に浴びて、少し酔いが冷めたところで話を聞いたんだけどまだ酔ってて……」

 

なんかさらりとなにかをやっていたようだが、あまり気にしないことにする。そう考えるとこの人に帰りに迎えてもらうのって凄いよな。僕もそういう出会いがしたくないと言えば嘘になるし。

 

「それで、結局話せるようになったのは火曜の昼。吐いちゃってその掃除とかで大学行けなかったけど、アキさんありがとうね、授業のメモ送ってくれて」

 

アキさんの方を見たが、別に表情が変わったりする様子もなく小さく頷いただけだった。

 

「それで聞いたら研修をしばらくやったらいきなり出張みたいな形になってて、せっかく住んでたここも使えないみたいな話になって、それでいっぱい飲んでいたんだと」

 

「どういう仕事なの?」

 

「発掘調査とかをする民間企業らしい。今は博物館とかどんどん無くなってるから、そういうところで働くしかないんだって」

 

僕の質問にユミナはわかりやすく話してくれる。教育とか文化とかに予算を回さない政府が悪いと簡単に言えればいいのだが、それ以外にもやらなくちゃいけないことが多くて、なくとも困らない博物館や図書館の予算を削るしかないと言われれば納得するしかないのも難しいところだ。本がなくたってすぐ死ぬわけじゃないけど、命に関わる部分のお金は削ると大変ですからね。

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