セミダイブ!   作:小沼高希

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Who stole the fire? 11

議論も一通り終わって眠くなったので仮眠室に入ると、少し違和感があった。

 

「……寝てるの?」

 

「……起きてます」

 

白髪赤目の細い少年が、眠そうな目で言う。概念同化機構さんが、いつものわたしの寝る定位置にいた。

 

正直、このアバターのことはあまり好きになれない。人外系というか人の形を外れたアバターの利用者は少ないのだ。寝る際に実際の身体と違いの少ないものを使ったほうがいいとは言ったが、それはこう、なんていうかあくまで一般論でさ。

 

別に人外好きとかそういうのではありませんよ。確かにサイバーパンクな感じにインプラントが入ったアバターを使うこともありますがそこらへんはドレスコードに合わせますし、普段使いにしているのはこの翡髪翠眼の少女ですし。

 

いや、デザインとしては好きな方です。中性的でありがながらも少年としてのかっこよさみたいなものをしっかり出して、それでいて男性的にはなりすぎない難しいバランスを実現している。気になったので調べたことがあるが、このアバターの作者はこういう微妙な調整が必要なものについては随一の腕前だった。

 

「……じゃあ、わたしは上で寝るから」

 

仮眠室のベッドは二段になっている。なので別に、一緒に寝る必要はない。たとえ仮想空間であっても同じベッドというのはやはり特別な意味を持つし、性別とか関係性とかが多少薄れたとしても一番無防備な状態を誰かと過ごすということが無意味な理由はなくて。

 

「……そう、ですよね」

 

あの、そういう悲しい目で見てくるのはちょっと心に来るので程々にしてほしいのですが。いえ別にそれがただの画像というか、三次元のデータでしかないこともわかっていますよ。でもそれを言い出したら根本的に人間の表情なんて筋肉の動き以上のものではなくなってしまうじゃないですか。

 

そういう表情を使って相手を騙すというか相手にいい体験をしてもらうようなことをしてきた過去がある人間なのでそれがある種の演技だとは読めるのですよ。それでも、読めたところで心が傷まないわけじゃないです。

 

「寝たいの?」

 

わたしは声をかける。できるだけ責めるようなものにならないように。柔らかく、ただ尋ねるように。

 

「あっ、いえ、その……」

 

わかりやすい。ええわかっていますよ、相手の年齢と世代と背景とかを勘案すると、誰かがそばにいてほしいのでしょう。それも自分に対して変な勘定を持たないというか、持たれても良いなと思えるような相手と。

 

一瞬だけミュートにしてリップシンクを切り、わたしはチーフとの回線をつなぐ。

 

「最近、概念同化機構さんはこっちで寝てるのか?」

 

「週に一、二日ぐらいのものだよ」

 

「どうも」

 

通信終わり。あまりこれをやりすぎると口を開かないで黙った状態になるから相手に違和感を持たれてしまうのよね。ほどほどにしておかないといけない。

 

ただ、見当はつく。精神的に辛いことが起こっているのかもしれない。高校生というのは、その精神に比べて受ける可能性のある外部からの影響が大きい。恋愛とか、部活とか、受験とか。わたしは帰宅部だったし、受験は頑張りはしたけどそこまで辛くはなかった。でも、それは人それぞれだ。

 

「……いいよ、寝てあげようか?」

 

Euphilia(ユーフィリア)仕込みの声色で言う。相手はボイスチェンジャーのSirene(ジレーネ)を使って誘っているようだが、こちとら地声でこれができるんだよ。別にそう可愛いものではないが、少し低くしたような、落ち着かせるようなものに調整。

 

わたしがそう言うと、表情が一気に明るくなる。表情から感情を読み取って、そこから感情を再生成しているのか、あるいは表情を直接キャプチャしているのか。たぶん後者メインで補助を入れている程度だろうが、そんなに嬉しいものなのか。

 

「はいっ……」

 

概念同化機構さんはそう言って、わたしの寝るスペースを作るべく少し動いた。別に重なり判定とかを調整すればどうとでもなるんだけどね。

 

「寝れないの?」

 

「……気がついたら寝ていますけど、時々目を覚まします」

 

「辛いこととか、あるよね」

 

「……ええ」

 

否定されなかった。少なくとも概念同化機構さんは悩みごとがあって、それのせいもあって眠れないのだろう。単純な体力回復という意味では頭につけている変なものを外せと言いたいのだが、それ以上に心が辛いならそばにいるぐらいしかできない。

 

「自分を知っている人を、信じられないんですよ」

 

ぽつりと、概念同化機構が言う。

 

「……そう」

 

「同級生も、先生も……だから、ひどいと思いますけど、何も見せていないソニドリさんと、一緒にいたんです」

 

「わかるよ、わたしだって名前を隠していろいろなところにいたから」

 

前にSWARMで遊んだ時に見せたもののように、私はそれなりの数のアカウントを持っている。けっこう鳥の名前にちなんだものであるというのは置いておくとして、一応はそれぞれのアカウントは今のわたし、ソニドリという名義とは切り離されているはずだ。

 

なんでそんなことをするかと言えば、繋がりを意識されたくないからとしか言えない。信頼した人にしか話せない内容もあれば、初対面の、もう二度と合わないような、そして互いの素性も知らないような人とだけ話したい内容もある。

 

そういう意味で、概念同化機構さんにとってわたしはちょうどいいのだろう。年上の存在で、やりたいことの先を行っていて、現実世界の自分を知らなくて、そして信頼するに足るだけの関係があるような。

 

「……甘えたいんです。頼りたいんです。でも、そういうことをさせてもらえなくて」

 

信頼されているのだろう。きっと学校では真面目な高校生なのだろう。場合によっては、家庭でも信頼されているのかもしれない。詳しいことはわからないけど、話していて楽しい相手だ。

 

だから、それを全部抱え込んでしまう。そういうストレスの解消方法は色々あるけど、それは踏み出して試してみないとわからない。行動にはリスクがあるし、一度見つけた方法に頼るのも悪くない選択だ。

 

「いいよ、わたしなら」

 

「……はい」

 

胸の上に何かが乗っているような感覚がある。ハプト(触覚)デバイスもないのに、ヘッドセットの内側のディスプレイが見せるわたしの胸の上に概念同化機構さんの細い腕が乗っている映像から、慣れた脳がその感覚を作り出す。

 

願わくば、相手の方にもわたしに触れているという感覚が、幻でもいいからありますように。

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