セミダイブ!   作:小沼高希

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金曜日のお昼休みすぎ最初の授業「人工知能の技術と倫理」の最中、かけていたXR端末から骨伝導で通知音が来るとともに右手につけていたリストバンド型の端末が震える。

 

スライドが投影されるスクリーンからすっと視線を動かしてメッセージを確認する。視線読み取りだけでかなり精度よく操作ができるので、慣れれば手を使うより早い。

 

「……アキさんが?」

 

明日から始まる今週末にちょっと手伝いをしないかみたいな話。それとは別にユミナさんとは話があるらしい。なんか先週もそんな事していませんでしたっけ。掃除は大変だったな。

 

── 何があるの?

 

文字入力の方法はいくつかあるが、僕はハンドフリックが一番慣れている。スマートフォン時代の入力にフリック入力というのがあるのだが、それを手の上でやる感じだと言えば古い世代の方々にもわかりやすいだろうか。音声モードを補助として入れているので、多少乱暴な入力であっても拾った僕の小声と照合していい感じのものにしてくれる。

 

── Algoritmi-Q World Game

 

一瞬でやってくる返信。Algoritmi(アルゴリトミ)は世界指折りの競技プログラミング大会の名前だ。競技プログラミングについて説明すると、文字通り競技となったプログラミングである。問題が出されて、それをできるだけ早く解くようなプログラムを作ったり、あるいはもっとも効率的に解けるプログラムを制限時間内に作ったり、というものだ。

 

シンプルなものなら数十分や数時間で終わるが、長いものだと数日かかる。ここまでくるとマラソン以上に大変だ。全体のスケジュールを見ながら、いつまでにどの程度作るかというバランスも重要になってくる。

 

先生から隠れながら少し調べたところによると、特に量子プログラミングを扱うAlgoritmi-Qが年に一回やる大きな大会らしい。期間は基本的に土曜と日曜の36時間。2日間ずっとじゃないのかと思ったが時差の影響を考慮してくれているらしい。やさしいね。

 

── アキさんこれやるの?

 

ユミナの返信にはこれまた一瞬で同意を意味する絵文字が返される。

 

なるほど、それでその間の自分の面倒を見てくれう人が必要なようだ。だいたいわかってきましたよ。知っている人はあまりいないのですが、実はなにかに集中したいけど人間って生きるためには食事とか睡眠が必要なんです。でもそれをやると時間が足りないし脳をフル活動させられない。

 

だから僕とユミナさんに助けてほしいのね。いいよ。それぐらいはします。あとはちょっと早めの夏合宿みたいなものですからね。週末が楽しみだ。今は眼の前のスライドの方に集中したほうが良いかもしれないけど。

 


 

タイムスケジュールは日本時間の土曜日の昼13時から、日付の変わった月曜日の午前1時まで。ロンドンなら土曜日の早朝5時からから日曜日の夕方17時まで。世界中で休日の範囲になるように調整されているというわけだ。ちなみに日本とイギリスの時差が8時間になっているのは夏時間というものがあるせいです。

 

つまり土曜日の朝から準備して、一回の睡眠を挟んで日曜日は徹夜して、と言う感じになるわけだ。オンライン参加だが、今回会場となるのは梶本さんの部屋。ええ、先週掃除したあそこです。

 

「というか梶本さんも良く許可したね」

 

僕が話しかけるユミナさんが運転してきたバンから運んでいるのはディスプレイだ。梱包材でぐるぐる巻きにしているが、ぶつけないように注意して運ぶ。ユミナさんは僕より体力あるのでなんとかなった。

 

「それがさ、ウチを買うより安いとか言ってて」

 

「……ふーん」

 

頭の中で女子大生を一晩うにょうにょあれこれする金額を算出するが、数日分の光熱費よりは安いだろうなとなってしまう。酔いつぶれたところを介抱してもらったというから、それぐらいの恩はあるのだろうと思考を切り替えることにしよう。

 

梶本さんの部屋はそれなりに広く、掃除した結果思った以上に過ごしやすい場所であった。1LDKである。なので和室をアキさんのスペースに、LDKのエリアを僕とユミナさんがわちゃわちゃする用のエリアにと切り分けることにした。ちょっとした旅館みたいだが南側の窓際に広縁はないです。

 

「それで、アキさんは?」

 

僕はケーブルを繋いで接続を確認しながらユミナさんに聞く。ユミナさんはこの手の作業があまり得意ではないらしい。XR系SNSはやるのに、と思うが物理世界の配線とはまた別だよな。

 

「車を返しに行ってる」

 

「あれって誰のなの?」

 

そこそこの大きさのバンだったが、ちらりと見た時に変なステッカーが張ってあったのを覚えている。少なくともアキさんの趣味ではないだろう。

 

「大学のセンセイのだって」

 

「どういう繋がりで借りてきてるのやら」

 

そういうことを言いながら、僕の方もディスプレイがついたことをメッセージでアキさんに送っておく。問題なさそうだ。

 

今は土曜日の朝。このあとアキさんはしばらく寝て、そしてご飯を食べてAlgoritmi-Q World Gameに挑むことになる。スケジュールは一応組まれてはいるが、問題の難易度や進捗によって変化する。

 

なので、それに合わせてご飯を作ったりタイムキープをしたり布団に突っ込んだりということをする必要がある。ちなみに夏用の布団は追加で二つレンタル済みだ。一つはここの主が使っていたものをそのまま流用する。これはユミナさん用だ。

 

それと同時に、今週末は三人で一泊二日の楽しいお泊り会でもある。僕も泊まらせられることになった。いやその、興味ないとは言いませんが色々微妙な身なので引こうと思ったらがっしりとユミナさんとアキさんに捕まえられてしまった。アキさんも乗ってくるとは意外だった。

 

「ただいま」

 

「おかえり、布団は敷いてあるよ」

 

入ってきたアキさんにユミナさんが言う。こういうお婿さんがいたらと思ってしまう。顔がいいのもずるい。

 

「ありがと」

 

アキさんは靴下とシャツををサクッと脱いで投げて(ふすま)の向こうに行ってしまった。既にもうここに馴染んでいるな。

 

そういうわけで、帰ってきたアキさんは就寝。僕とユミナさんはお昼ご飯づくり。アキさんが軽くお腹を満たして、脳にエネルギーを回したところで問題開始というわけだ。

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