セミダイブ!   作:小沼高希

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いつも栄養食品を食べているようなアキさんであるが、美味しいものが好きだ。たまに僕たち三人で食べに行く時にはそれなりに食べるし、おいしい時には頬が緩んでいる。

 

「……緊張してるの?」

 

ただ、今の表情は真面目なものだった。僕の隣のユミナさんの質問に、向かいでお肉の多い野菜炒めを食べていたアキさんが頷く。おいしいのは間違いないので、純粋にこれから始まるもののせいだろう。

 

「今日の調子はいい。今までで一番ぐらい」

 

「実際のところ、高得点は狙えそう?」

 

僕の言葉には、アキさんは小さく首を振った。

 

「かなり難しいと思う。特に今年のAlgoritmi-Q World Gameには、QのつかないAlgoritmiの強豪が多く参加する」

 

「どうしてそうなると難しくなるの?」

 

そう聞くユミナさんにアキさんが説明しようとしたので僕は制止する。こう言っては何だが、アキさんがちゃんと説明できるかわからないし、なにより今から集中するのにユミナさんのペースに飲まれると面倒じゃないかと思うし。

 

「まず量子プログラミングっていうのが、基本的に量子コンピューターで動かすものだっていうのはいい?」

 

頷くユミナさん。アキさんは黙々と食べながら話したそうにこちらを見ている。

 

「でも、基礎にあるのは量子コンピューターもそうじゃない古典的なものも同じ。どっちで計算しても足し算の答えは変わらないし」

 

「でも、量子コンピューターのほうが使うのが難しいんでしょ?なら他の古いコンピューター使ってる人が来たってアキさんが不利になるわけじゃないんじゃないの?」

 

「Algoritmiの上位陣は、量子プログラミング()できた上で普通のコンピューターを専門にしてる、って言えばいいかな……」

 

上位陣の得意分野は、どれだけ計算を減らせるかということを聞いたことがある。量子コンピューターを動かすコストは、普通のコンピューターと比べてとても高い。なら、そもそも量子コンピューターでなくとも動くようにしてしまえばいいという発想だ。そしてそれができる人たちが、Algoritmiで上位を取っている。

 

「……いい方が悪いけど、格が違う、とか?」

 

「そう」

 

アキさんが口を開いた。いつのまにかお皿は空になっていた。おかわりがいるかと目線を合わせると、何も言わずに大皿から追加で取っていた。

 

「国際情報学オリンピックラトビア元代表にして三連覇のVanagsとか、Algoritmi二位のVisiteurとか、私の同級生とか、やばいやつらが名を連ねている」

 

「アキさんの同級生……?」

 

ユミナさんの言葉に、そういえばアキさんはもともと通信制の高校にいたっけ、と思い出す。今どきの通信制高校は本当にレベルが様々なのであまり参考にならない。

 

「そう。あいつは数学が得意で、そっち系の発想が求められるパズルなら勝ち目は私にもない」

 

「すごいんだね……」

 

ユミナさんは感心して言う。それだけの人なら検索したら名前出てきたりしないかな。

 

「アキさんは、実際どれぐらいの実力があるの?」

 

「Algoritmi-Q、世界ランキング63位。先月の成績が良かったから浮上しているけど、3桁のときも珍しくないよ」

 

謙遜するように言っているが、逆に言えば世界最大級の量子プログラミングコンテストでアキさんより上にいられる人は百人いるかいないかということである。参加していない人を含めて十倍いたとしても世界で千人しかいない技能持ちということになる。大学生やる意味あるのかな、と思ってしまう。

 

「でも今の順位って、問題に関係あるの?」

 

「ないよ。別に誰だって参加できるから。ただ、一部の問題は解くのにそれなりの量子ビットを使うから参加者に制限かかることがあるけどね。今回はそうじゃない」

 

量子コンピューターの根幹にあるのは量子ビットという0と1を「重ねわせた」状態だが、これを作るのはとても大変だ。超伝導体とかカーボンナノチューブ電界効果トランジスタとか、その量子ビットを支えるだけの技術のせいで、量子情報学科にはいくつもの実験授業が存在するぐらいだ。

 

「つまり、スタート地点は同じわけ?」

 

「そう」

 

「なら、問題ないね」

 

ユミナさんのある意味能天気な言葉に、僕とアキさんはちょっと吹き出してしまった。確かにそうだけどさ。

 

「……そうね、全員倒せばいいだけだもの」

 

「いや個人戦だろ」

 

思わずツッコミを入れてしまう。

 

「そうとも限らない。Algoritmi-Qではまだだけど、Algoritmi World Gameでは対戦型の問題もあった」

 

「どういう問題だったの?」

 

ユミナさんの言葉に、アキさんは少しだけ悩んだ。

 

「そうね……TCG、トレーディングカードゲーム、と言ってわかる?」

 

「ちょっとだけやったことある」

 

意外だ。ユミナさんがそういう趣味をやっていたなんて。僕はデジタルで少しやったことがある。ゲーム始める時点で運が入るというか、強いカードを使えば勝てるので強いカードを手に入れるためにお金を積んでくださいというスタンスがあまり好きではないのでやめてしまったが。

 

「それをモチーフにした問題。バトルをする人工知能を作って、それを戦わせるの」

 

「なにそれ面白そう!」

 

「ただしルールがとても複雑。人間がプレイすることが不可能なぐらいに入り組んだテキストと、108枚ぐらいのカードを使う」

 

一億って言えよ、と思ったがユミナさんでもそれぐらいはすぐ出せるだろう。

 

「ちょっとおもしろくなさそうになってきた」

 

わかりやすいユミナさんに、アキさんはちょっと微笑んだ。

 

「最適解を求めるものじゃなくて、強いソフトを作るのが目的。中には相手をすることになる全てのプログラムの出す手を分析してその裏をかく、みたいなのを繰り返したのもあったけど」

 

「すごいね……」

 

「今回はそうじゃないことを祈るしかない。その手の問題のプログラムを作るのはあまり得意じゃないから」

 

僕からすれば汎用のAIを使わないとなるとどこから手を付けたらいいかわからないほどの難易度だが、アキさんにとってはあまり得意じゃないという程度になるらしい。恐ろしいことだ。

 

「ところで、時間はいいの?」

 

僕が言うと、アキさんは静かに立ち上がった。さらっとユミナさんがお皿を回収している。

 

「大丈夫。任せて。手伝ってもらう分ぐらいの結果は残す」

 

そう言ってアキさんは和室へと進み、「見るな」と書かれているコピー用紙の貼られた襖を閉じた。

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