セミダイブ!   作:小沼高希

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10MB以内で答えて 6

誰かと一緒に寝るということはそれなりにやってきたと思っていた。ただ、実際は思った以上に入ってくる感覚が強い。

 

服と布団がずれる音。薄目を開けると動いている胸。オレンジ色の常夜灯。二人分のシャンプーの匂い。

 

「ん……」

 

寝ぼけているのか、ユミナさんの長い腕が僕の胸に当たる。温かい。触覚(ハプト)デバイスでは感じることのできない種類のもの。いや、確かに高いものだと色々とついてはきますけどこういう感覚を完全に再現するのは難しいんです。視覚と同調させるならまだしも。いや思考が止められなくなっているな。一旦戻らないと。

 

どうしてこうなっているのか。ちょっとだけ、前のことを思い出そう。

 

午後十時前に明日の朝食の仕込みを終えた僕が和室に行くと、ユミナさんによって三人分の布団が既に用意されていた。隙間無しで並べられた状態で。いや確かに六畳一間だとそうなるのかもしれないけど。

 

「で、私がここ」

 

ユミナさんが指すのは端に敷かれているもともとあった梶本さんの布団。残り二つはレンタルのやつ。ユミナさんが他人の布団を使うことに抵抗がないのか、それとも僕たちに梶本さんの布団を使わせたくないのかは気にしないでおく。

 

「じゃあミドリさん真ん中ね」

 

アキさんがさらりと言って、もう一方の端の布団に潜り込む。

 

「僕!?」

 

選択肢はいつの間にかなくなっていた。

 

「だってユミナさんの隣に寝るの、ちょっと怖いから……」

 

「ウチのこと何だと思ってるわけ?」

 

ユミナさんがそんなことを言うが、少なくとも社会人のお姉さんである梶本さんを誑かしてこの部屋を使っていることを知っているので僕から弁護はできない。いやどう言っても間違いないでしょ。まあユミナさんなら大丈夫かもしれないけど、そもそもの問題ですよ。

 

「ユミナさんは私とミドリさん、どっちがいい?」

 

「……二人の間ってダメ?」

 

悩んだ結果そういうことを少しだけ困ったように言うユミナさんはずるい。覚悟を決めてなかったら飲み込まれていた。普段はかっこいいのにたまにこういうところで隙みたいなものを見せてくるのって何かの法律で禁止されたりしていないんですか?されていないんだろうな。立法の不作為ってやつだっけ。

 

「優柔不断な人って嫌われるの、知らない?」

 

「ごめんなさい……」

 

アキさんが放った流れ弾が僕に直撃しました。かなしい。いえその、どっちかにつくのが嫌なんですって。信頼してもらっているのはありがたいですけど。

 

「あとアキちゃんのことをミドリのやつが襲うかもしれないのはいいのか?」

 

おい直接的すぎる言い方をやめろ、と視線を向けるがユミナさんはどこ吹く風だ。あと僕は一般的な倫理と常識を持った人間として同意なしにはしませんから。

 

「……ミドリさんなら、私は」

 

アキさんのその言葉に思わず心がどきりとしてしまう。

 

「逆に押し倒せると思う」

 

アキさんのその言葉に思わず心がどきりとしてしまう。さっきとは違う方向で。いやその、僕個人としては別に襲うって表現を使うなら襲うのも襲われるのもどちらもいけはするのですが。しかしいけるかどうかとするかどうかはまた別の問題なんですよ。アキさんにされるのは許容範囲……です。

 

「……二人共バカなこと言ってないで寝ましょう」

 

もうこうやって無理矢理話を終わらせるのが一番だな、と僕は判断する。これ以上やっていると女子大学生のノリにやられてしまう。

 

「えっ枕投げとか恋バナとかしないの?」

 

驚いたようなユミナさん。なんだその修学旅行みたいなラインナップは。昨年度というか数か月前まで高校生だったから仕方がないかもしれない。僕もアキさんもそうだよ。

 

「アキさんの明日からの問題解決に支障でますよね?」

 

「はい……」

 

僕の説得が成功したので、明かりを消して三人とも布団に入ることになった。布団と言ってもそろそろ暑くなってきたので薄手のやつだけど。床の硬さがちょっと伝わってくる。家のベッドは結構お金かかったやつですからね。

 

というわけで今の状況に戻ります。いつもより早く布団に入ったので寝付きは良くてもたぶん二時とか三時ぐらいに起きてしまったんですね。見える範囲にないので時計が外が暗くて眠気がある程度取れているところからの推測ですが。寝息が両側から聞こえている。

 

ユミナさんの手を目を閉じたまま手探りで払い除けて、息を吐く。

 

いやその、二人に挟まれて変な気分にならないとはいいませんよ?僕はそこらへんの切り分けはできるつもりですが、対象については結構許容範囲が広いらしくて。

 

またこのまま目を閉じて眠ってしまえればいいのだが、微妙に寝れる感じがしない。尿意とかでもないよな。

 

仮想空間での誰かが近くにいるという感覚よりも強い、その場にいる人間の雰囲気みたいなものを感じる。こういう形で認識することになるとは思っていなかったが、やっぱり物理世界でも誰かと寝るのはいいらしい。

 

「……起きてる?」

 

声帯を震わせない、かすかな僕の声。二人の少しずれた呼吸音。反応した感じはしない。そうか。

 

寝てしまおう。頭の中にある面倒な欲求も、どうにもしようがないとわかっているもどかしさも、妙な身体の冷たさも、全部、寝てしまえば、なくなるものだ。

 

身体を丸めて布団を被る。こういう姿勢はVR端末をつけているとできないので、少しだけ不思議な気分だ。頭になにもついていないのに、そばに人がいる感じがする。それが具体的に何に由来しているのかを特定するのは難しいけど、たぶんいろいろな感覚を総合して本能的なところでここは安全な場所だと感じているのだろう。

 

とりとめのない思考が頭の中を回っていく。相当前のEuphilia(ユーフィリア)で交わした嘘の言葉。その瞬間だけは信じていた関係。落ち着け、今は()()()でいるべき時間じゃない。ここは物理世界だ。

 

ぐるぐるとしていく思考。落ちていくような感覚。断片的になる頭の中の考え。それは掴もうとするたびに形を変えて、さっきまでとは別のものに一瞬で変わっていく。

 

それらが形として一瞬だけまとまる。熱。触れている。温かい。髪に触れるのは手。それがどういう意味なのかは考える余裕もなく、また僕はまどろみの中に落ちていった。

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