セミダイブ!   作:小沼高希

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10MB以内で答えて 12

「微妙だ……」

 

アキさんが呟くように、最終結果は21位。一応優勝者とか上位の人にはちょっとした粗品が出たりするのだが、特にそういうのもないので順位はただの数字以上のものにはならない。

 

とはいえアキさんの順位は具体的にどれぐらいなのか、と22位になっていた人を確認するとメキシコの投資信託企業のチーフプログラマーをしている人だった。へぇ、そういう人も出てくるんだ。いや社会人でその分野で働いている人に大学一年生が普通に勝っているのは怖いよ。

 

「でも凄いじゃんアキさん!今までこんな高い順位取ったことないんでしょ?」

 

「そう……だね」

 

ユミナさんの励ましにもアキさんの言葉は重い。わからなくはないけど。一位を目指せるはずがないと思っていてもそこで戦うには一位を目指す心構えが必要で、でもそれは必ず失敗する挑戦をしないといけないわけで、心が削られていく工程だ。試験で満点を取ろうとして取れないことがいっぱいあった経験があるので、少しだけはわかる。

 

「じゃあ、一緒に寝よ?」

 

アキさんを後ろから抱きしめたユミナさんが、身体をディスプレイの前から引き剥がすように動かしていく。構図的にはロマンチックなのかもしれないが、やっていることは子供をゲーム機から遠ざける親みたいなものだ。

 

「あっちょっと待って、問題の解説見たい……」

 

「それって、今見なくちゃいけないもの?」

 

「そこまでじゃない、けど……」

 

「ウチと一緒にいるのと、どっちが大事?」

 

「それだったら普通に解説見たいかな……」

 

ちょっとふくれっ面をしているユミナさん。何だこの会話。

 

「でも早く寝たいって言ってましたよね」

 

「うっ」

 

僕の言葉にはちゃんとダメージを受けるんだ。よかったな。

 

「明日の朝、片付けをするのは僕たちなんです。お願い、聞いてくれますよね?」

 

ちなみに僕がこういう風に言っているのは純粋に眠いからです。だって結構見ていて緊張していましたし、そもそももう日付変わっているんですよ。それに布団の敷いてある和室を使うためにはアキさんがディスプレイの前から離れる必要もあります。

 

「あー、はいはいわかったわかった。かっこいい二人に挟まれて寝てあげますよ」

 

なんかちょっと悔しくなるような言われ方をしたな。別にいいけど。

 

そうしてパソコンをシャットダウンさせて、僕たちは布団に入る。この時点であれアキさんと朝のときと別の布団使っているなと気がついたが小さく頭を振って意識の外に追いやる。アキさんの匂いが枕からするのは気のせいです。

 

部屋が暗くなって、真っ先に寝息を立てたのはアキさんだった。本当にすぐ、と言ってもいい。相当疲れていたのだろう。アドレナリンとかが出ていて眠れない可能性も考えたが杞憂ですんだようだ。

 

「……起きてる?」

 

目を閉じてぼんやりしていると声がした。

 

「僕は、起きてるよ」

 

アキさんを挟んだユミナさんとの会話。少しだけ心がドキリとする。よくあるじゃないですか、友達とかが寝ている横でみたいなやつ。そんなに詳しくないけど。

 

「アキさんって、これをしばらく引きずるのかな」

 

「頑張った後遺症みたいなものだよ、友達としては支えたいところだけど」

 

「……そうだね」

 

アキさんがちょっとだけ動いたので、僕たちは会話を止めた。

 

「……寝てるかな?」

 

そう聞いてくる声。

 

「たぶん」

 

「そっか」

 

そうして声がしなくなる。三人分の寝息があると、どれが自分のものかわからなくなってしまう。

 

さっきまでは何も考えないことができていたのに、意識し始めると頭が回ってどうでもいいことを考えてしまう。どうせ考えるならもっと有意義なことをやりたいような。なら明日の予定を頭の中で組み立てておこう。

 

借りている布団は箱に詰めて大学構内の配送所に持っていけばいいか。機材については今日の夕方に車をまたアキさんが借りてくるらしい。そういえば洗濯はできなかったな。事実上の二泊だけどあまり動いていないしクーラーの効いた部屋にいたから大丈夫だと思いたい。

 

冷蔵庫の中身は明日の朝にカレーを食べれば一通りは空になるはず。もし余ったら持ってかえればいいけど、今はもう食中毒とか怖くなってくる頃だ。カレーは冷蔵庫に入れてあるよな、大丈夫。

 

あとはなんだろう。大学の宿題とかは確かにあるけど、提出が先のレポートとかだから大丈夫。締切をそれなりに先においておくってことはそれだけの難易度があってそれだけの内容を求めているんじゃないかということは考えないでおこう。

 

それと、久々な気がするVRのほうに潜りに行こう。VRに触れなかった週末というのはかなり久しぶりかもしれない。別に何かが良くなった気も悪くなった気もしないが。もしそういうのを絶ちたいなら端末を全部置いてインターネットから切り離された時間を過ごすみたいなものもあるけど、正直興味がない。

 

そんな事を考えていると動く雰囲気があった。寝返りかな。僕も少し身体を倒して、目を開けようとしたけど面倒なのでそのままで、ゆるやかに手を伸ばして宙をまさぐるようにする。涼しい空気の中で、二人分の熱をなんとなく感じていく。

 

あまり変なところを触らないようにとゆっくり降ろされた腕は、たぶん二人分の腰というか脇腹に触れた。もう少し下側は危なかったし、上側でもあまり良くない感じになっていたかもしれない。

 

というかこの感じだとかなりユミナさんとアキさんが近づいているらしい。そこまでこの部屋も狭いわけじゃないのに。

 

なんだろうなこの感情。眠気で脳が回らないけど、嫉妬とかは近いのだろうか。でもたぶんこれは仲間はずれにされたことへの悲しさみたいなものも混じっているよな。間に入るのって一般的にはよくないのでしませんけど。

 

アキさんは僕じゃなくてもいいんだ、と明日ちょっと言ってみようかなとか考える。問題はアキさんがここを出るまでに起きれるかだ。でも夕方にも多分また会うだろうしゆっくり寝てもいいか。なにせ今日はあのアキさんが世界21位というすごい数字を叩き出した日なのだ。ちょっとぐらい寝坊しても許されると思う。誰が許してくれるのかは知らないけど。

 

腕から伝わる二人分の温かさにちょっとだけうまく説明できない罪悪感を持ちながら、やっと考えるのが止まってきたなと思うことができた。

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