セミダイブ!   作:小沼高希

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10MB以内で答えて 13

アキさんは21位に終わったわけであるが、これは本人が意識していないだけでとてつもない快挙である。

 

「私より上の順位に大学生はおろか高校生だっているし、日本国内で見ても3位だし……」

 

いつもの火曜日の食堂で不貞腐れて言うアキさん。どうやら先程学科長から呼び出されて表彰を受けることが決まったらしい。学内新聞の取材もされるのだとか。大変だな。

 

「嫌なら断ればいいのに」

 

さらっと言うユミナさん。

 

「自動車を借りた分の対価を要求されて……」

 

「そりゃ断れないか」

 

同情する。一応これでも浮世の義理っていうのをそれなり程度には理解しているつもりなのだ。

 

「あれ、学科長って偉い人じゃないの?」

 

「基本的に学科の中で若手から中堅の範囲で、上の方に対して色々意見言える人が選ばれるって話を聞いたよ」

 

アキさんの言葉にユミナさんは納得したようだ。

 

「というかアキさんってなんでその人と知り合いになったの?」

 

「ゼミの先生だから」

 

「そういえば出てるんだったね……」

 

寝顔を見ていると普通の女性に見えるが、改めて考えればこのアキさんは相当なことをしている人だ。少なくとも僕の知る限り、一年生で事実上の研究室配属を勝ち取っている人は見たことはおろか噂でも聞いたことがない。

 

「ところでアキさんがゼミに出て学ぶことってあるの?」

 

「山ほどある」

 

僕の質問にアキさんが返したのは、正直意外な言葉だった。別にアキさんが傍若無人だとは思わないけど、やっぱり世間体的なもののために今からゼミに出ているのかなとか僕が考えていたためだ。

 

「ねえ、具体的には?」

 

「えーと文献の引用スタイル、議論の際の約束事、数式の書き方、発表の時の手順、学会の時の予算申請の裏技……」

 

「なんか凄い実務的だね」

 

「才能というか勉学とか専門分野の能力だけでやっていける時期は短いから」

 

ユミナさんの質問に返すアキさんの言葉はなんともごもっともと言うしかない。でもその中に量子プログラミングの話が出てこないあたり、専門知識はゼミに参加しているような三年生や四年生より上なんだろうな。

 

「量子プログラミングの方は?」

 

「自分の頭の中の概念をコードじゃなくて言葉に起こすのがやっぱり難しい。練習不足を毎回感じている」

 

僕に帰ってきたのは上位からの言葉だった。いや、もちろんある程度まで行けば狭い範囲で自分より詳しい人がいなくなるようにはなるのだろうが、それでもこの言い方ができるほどの知識を身につけられるとは思えない。

 

もしこれが実力があまり伴っていなければ、ああ無知からくる自分の能力の過大評価だろうなと少し微笑ましくなるところだ。しかし週末にその実力を見せつけられたので自分の能力を正しく評価した上でこう言っているのだろうと判断する。

 

「それじゃあさ、アキさんにとって今回の問題ってどうだったの?ウチは色々調べたけど全然わからなくて」

 

「基本方針はあってた。想定していたのとは別のアルゴリズム使ってたけど、別に私以外の人も使っていたし」

 

「へぇ、それがわかるってことは終わったら提出結果って出るんだ」

 

「そう。あとは参加者が解説配信とかするから」

 

ああ、確かにそういう動画が検索候補に出てきたな。最近そういう内容ばっか検索していたからサジェストされたのだ。

 

「それでそれで、他の人はどうやって解いてたの?」

 

ユミナさんがアキさんに迫っているが、正直理解できる解説がされるとは思えない。しかし大事なのは内容よりもコミュニケーションをしたという事実なのだ、とユミナさんは言うのだろうな。直接そうは表現しないかもしれないけど。

 

「面白い解き方……と言えばハッキングして上書きする、みたいなものがあった」

 

首をかしげる僕とユミナさん。説明の前にちょっと喉を潤すアキさん。

 

「つまりね、あのモデルは自己書き換え式だから観測というか入力で無茶なものを入れるとハックできるの」

 

それ以降のアキさんの説明はちょっと難しすぎたので噛み砕いて説明すると、相互作用するシステムには弱点があるみたいな複雑系の法則を使ってその弱点を攻撃する手法のようだ。

 

例えばあれが世界だとしよう。地球温暖化を引き起こすみたいに世界に影響を与えて、スコアになる部分以外を無茶苦茶にして、でもスコアは高くする。アキさんたちが取っていた戦略は計算を狂わせないために全体の均衡を維持しながら介入するものだった。

 

「だから別に邪道ってわけじゃない。私も最初は考えたし、その方向で挑戦した人もいる。でも成功した、というよりその方法でトップ50に入っていたのは一人だけだった」

 

「なるほどね……」

 

頷くユミナさん。本当にわかっているのだろうか。僕はかろうじてってぐらいです。というか上位50人の解答全部見たって凄いな。10MBってそれなりに量あるでしょ。文章とかなら数百万字になるってことは数十冊の本に相当するのか。その上圧縮されていると考えると人間が目をまともに通せるものじゃない。

 

プログラムには多くの場合人間にもAIにも助けとなるコメントがついているものだが、これは実行時には不要だから消されるだろうし、そうするとたとえ色々なシステムの助けを借りても全体の構造を知るのは至難の業だ。

 

大雑把なイメージとしてはVRのワールドで撮ったビジョンショットを一枚見せられて、これと同じものを作れと言われているのに近い。どういうコンセプトで作られたか、内部構造はどうなっているか、素材はなにか、誰が来ることを想定しているかなんかの情報が断片的かそもそもない状態なわけだ。

 

「それって知ってる人?」

 

「私の同級生。北朝鮮の人」

 

あれ、とちょっと指を折って考える。アキさんと同級生とすると2030年生まれで、北朝鮮の政治方針の変換って2040年ぐらいだっけ?つまり国外と接触を持った子どもとしての最初の世代とかになるのかな。下手すれば国家の未来を背負っていたわけだ。

 

「すごいね、ってことは海外から授業受けてたの?」

 

「そうなるはず。話した限りでは日本語も……かなり上手だったし」

 

微妙な間があった。なんだよ。

 

「どういう感じなの?」

 

僕の言葉に、ユミナさんは少し目を伏せた。

 

「そうね……流石に私も社会性があるからここでは具体的に言及しないけど、ミドリさんなら聞いて笑うか嫌な顔をすると思う。ユミナさんは何もわからないと思う」

 

「ああ、そういう」

 

日本が東アジア全域に輸出した負の文化遺産みたいなものだろうな。確かに日本語の教材になるかもしれないが、あれを教材にするのはどう考えても問題がある。ユミナさんはわかっていないようだったが、ずっとそのままでいてほしい。

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