セミダイブ!   作:小沼高希

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One flapping of swallow makes summer. 3

概念同化機構さんは別の用事があるということで去ってしまったが、なんとか作りたいものは完成した。

 

「えっもう十一時!?」

 

ちょっと全体のデザイン整理しただけでこんな時間がかかってしまった。ちょうどいいので最後に全体を通しで見て確認するか。

 

手探りでコードを外して脳計測デバイスから頭を抜き、ヘッドマウントディスプレイのこめかみ部分を叩いて透過モードに切り替える。現れるのは暗い室内。電気つけてなかったか。

 

「照明オン」

 

そう言えば電気がつく。便利なものだ。この手の家電は今どきはだいたいインターネットにつながってしまっているので、たまにパスワードを破られて大変なことになるとかみたいな噂はある。

 

「……いや、先ご飯食べちゃうか」

 

実際にほとんどの人がそうするように立った状態でVR空間を確認するつもりだったが、よく考えてみると空腹だった。睡眠と食事がいい加減な状態で作った作品であったり、あるいはその状態で行った評価というのはだいたい碌なことにならない。

 

昔のVR端末は歪みとかのせいでつけたまま食事をするのが難しかったらしいが、今のやつなら特に問題はない。

 

というわけで今日の晩御飯であるきのこのクリームパスタはレンジで温めるだけ。この手のご飯は調理もできるけど温めただけでも最低限おいしいってところがいいですよね。今回みたいにそもそも調理の余地がないものもあるけどそれは調味料でなんとかしよう。というわけでチーズを投下。胡椒もたっぷりと。

 

食べながら見るのはニュース。あまりおもしろいものはない。政治だと与党である四党連合に綻びが出ているとか、国連での戦後処理についての議決がなかなか通らないとか。別に芸能人の結婚には興味がないしな、と一応表示されるものは飛ばしていく。

 

もちろん、今どきのニュースサイトの多くはそういう見たいものだけを見せてくれる。ただ、あまりそういうことばかりやりすぎるのも不健全だ。一方で腹が立つというか感情を逆なですることを狙っているニュースばかり見るのも良くないし、そうやって身を壊す人は今でも多い。

 

というわけで適度に調整がかかっていると評判のニュース選択アルゴリズムを使っています。設定としては少し革新よりとかなんかあったけどどうだったかな。

 

食べて落ち着いたところで、机を片付けてまたVR空間に戻る。目を閉じて、開けると立っているのは交差点の中心。人も車のいない、午後四時ぐらいの日は傾いているが夕焼けの赤にはなっていないぐらいの街並み。

 

飛んでいく鳥。風を感じさせるいくつかのオブジェクト。

 

もとの小説に出てくる、語り手の過ごしている街。夢で無人のこの街を何度も見て、そして何かを追いかけているような体験をしている。そのシーンだけは読んだ。

 

人影が映る。前に進んでみる。視線を向けたタイミングでちょうどこっそり映るように、そして認識されていないようならヒントとして音を出すように。

 

わざと意識しない限り一本道になるようなルート。分かれ道でも障害物を置いたり、あるいは誘導を張ったりしておく。なおもし無理に別のルートに進んだ場合にはワールドを組み替えてそちら側を正規ルートにします。このあたりはTRPGとかで使われるシステムが参考になった。

 

プレイヤーに多くの選択肢を与えたように見せかけながら、結局は一つの結論へと誘導していく。それは良い悪いの問題じゃなくて、目的を達成するためにいろいろな手段を用意しておくっていう発想というか心がけ。

 

「さて、じゃあこっちっと」

 

小走りで影を追いかけて、作品にも登場する建物の中に入る。ゆっくりと周囲が黒に包まれていって、眼の前に現れるのは雑に作ったエンディングクレジット。うん、だいたいよさそうだ。

 

「ええと、位相切り替えっと」

 

わたしがBar Panopticaのメインの部屋に戻ると、かせくり氏と跳華さんがなにやら議論をしていた。

 

「チーフ、できたのは置いてあるので見ておいてください」

 

「あいよ」

 

わたしがどんな作業をしていたかのログは全部取られているだろうが、一応作る過程の思考メモとか情報まとめみたいなものをエンティティとして渡しておく。報酬についてはPayの時もあれば、実物払いの時もある。

 

今使っているパソコンも高校時代に少し大きな仕事をした時に報酬としてもらったものだ。スペックから考えられる価格は高校生のバイト代にしてはちょっと多いぐらいの額で、これがあるのでチーフには頭が上がらないというのもある。

 

「二人は何を?」

 

「今度やるDominium Terraeの打ち合わせ」

 

思い出せない名前なのでかせくり氏の言葉に首をひねっていると、跳華さんがゲームプラットフォームの販売画面をこちらに投げてきた。

 

「ああ、これですか」

 

VRでやるMMORPGみたいなジャンルでそれなりに成功していると言われているやつ。かつて多くの小説で語られたような大規模多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲームは一応試みられた歴史はあるものの、ほとんど成功しなかった。いや実際万単位で接続者がいるものはありますけど、それは成功と言っていいのか怪しいじゃないですか。

 

理由の一つは忙しすぎることだろう。VRというのは何かをしながらやるには向いていないものだし、MMORPGはそれなりの時間を操作に注ぎ込むことを前提にしている。結果として生き残ったのは古くからある経営系とかストラテジーとかの操作とか表示をVR対応にさせたやつとか、あるいは時間を区切ったものとかだ。

 

Dominium Terraeはその中でも成功した方に入るだろう。プレイは一週間につき5ドル。目標はほぼゼロの段階から文明を作ること。よくある拡大再生産要素のあるサバイバル系サンドボックスゲームのマルチ版だと思ってくれれば大体あっている。

 

ただし、一週間で世界がすべてリセットされる。持ち越せるのは知識だけ。そして初期状態にもランダム性が多いので、完全なチャートを作るのは難しい。

 

特定の時期、例えば年末年始に人を集めて大きなことをやるっていうのが定番らしく、前に見たニュースではゲーム史上初の宇宙飛行が時間ギリギリで達成されていた。

 

「ソニドリもやる?」

 

「予定にもよります、お二人の盆休みに合わせる形になるんですか?」

 

「俺は閑散期なら在宅できるし、跳華さんはそもそもかなり自由な仕事しているだろ」

 

「けっこう大変なんだよ?一週間開けるとなるとちょっと予定整理したいところだね」

 

「考えておきます。ところでなぜこの時期に?」

 

「夏休みだからだよ、8月の頭の二週間は多くの学生が暇になるから面白くなるんだ」

 

かせくり氏に頷きながら、わたしはそうか別に夏休みって日本だけのものじゃなかったな、なんてことを考えていた。

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