セミダイブ!   作:小沼高希

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One flapping of swallow makes summer. 4

Dominium Terraeの参加費用である5ドルについては、なぜかかせくり氏が奢ってくれることになった。

 

「いいんですか?」

 

「課金みたいなもんだ。ユニットの購入だと思ってくれればいい」

 

「……料金分ぐらいは楽しみます」

 

「まあゲームは楽しんでなんぼだからな」

 

そう言ってかせくり氏はVR空間の机をたたき、軽く議事録を要約するプロンプトを打った。

 

「三月に提唱された理論が実際に行けるかどうかを試すのが一回目の目的、そして二回目は一回目のミスを踏まえたものだ」

 

跳華さんに対して改めて全体の内容を整理するという形で話しつつ、僕が横目で資料を追いかけるペースも勘案してくれている。こういう事をさらりとできる人なので、さぞ仕事も良くできるのだろうと思うがそこまででもないらしい。

 

理由の一つは補助AIの欠如だ。特に現場では業務用のセキュリティがガチガチに効いた端末しか使えなくて、ここまでの事ができないようで。自宅ではローカルのAIをこっそり回してなんとかやっている人と前に言っていたが、他ならぬ本人がそういうことをやっていそうだなと思っている。

 

「んー、具体的にできることあるの?もちろん序盤では採掘とか加工とかに人手はいるだろうけど、ある程度まで行ったら自動化でしょ?」

 

「自動化がやりにくい部分があるのが一つ。あとは中盤でボトルネックになっている部分を人海戦術で突破するチャートが提唱されているからそれを用いる」

 

「逆に言えば、それ以外は観光してもいいわけ?」

 

「そうなるな」

 

「わかった」

 

跳華さんがそう言うと、かせくり氏は頷いた。

 

「ところで、なんで跳華さんはDominium Terraeやるんですか?」

 

「仕事のネタ集めだよ、私の場合はモノ見ないと始まらないから」

 

念写師、つまり脳計測デバイスで描くような跳華さんにとって、違和感を見抜く力は不可欠なものだ。そのためには色々なものを見ていく必要がある。

 

「そうすると、やっぱりいつも色々見ているんですか?」

 

「ゲームとまではいかないけど映画とかはできるだけ週に二、三本は古いのを見るようにしてるね」

 

「なんでわざわざ?」

 

「わっかんないかなぁかせくり君は」

 

そう言って跳華さんはにやりと笑う。

 

「CG以前のテクニックは、CGに慣れた人でも見破りにくいからって言えばいいかな」

 

「そういや跳華さんは特撮好きだったな」

 

「特撮以外にも色々好きなものはあるけどね」

 

「……特撮って、何ですか?」

 

「知らないの!?」

 

驚いたように言われる。いや、一応特撮って言葉自体は聞いたことがありますよ。ヒーロー物とかのことでしょう。でもそれぐらいの知識なんです。

 

「今どきは基本的にCGだからな」

 

「かせくりくんは古い、今どきはそっちも高いから。AI生成が手っ取り早いとか言われているが物理演算とかまでしっかりやるとほとんどCGみたいなもので、むしろAI側の分だけコストがかかることも多い」

 

というかんじで説明が始まったので、通訳にかせくり氏を挟んで話を聞く。オタクというかその分野に愛着のある人の説明って面白いことも多いけど基礎知識がないとそもそも理解できないこともあったりしますからね。

 

特撮の歴史は今から一世紀近く前に遡る。もともと映画などで合成や早回し、そしてミニチュアが活用されていたが日本では特撮の神様と言われた人物──漫画の神様と同じようにそれまでの系譜をもとにして一段高めたような人──によってテレビにもそのような技術が広まった。

 

長寿番組シリーズに支えられながらも、そもそも特撮という媒体に強く依存する手法はフィルムからデジタル媒体に変化するにつれて多様化していった。跳華さんが生まれた時代にはCGと特撮を組み合わせる手法が一般化していて、世界各地の映画でもいろいろな試行錯誤が行われていたそうだ。

 

「でも、そういう処理はかなりAIで自動化されていると聞きましたが」

 

僕の質問に跳華さんは頷いた。CGとAI処理の何が違うのかというとかなり難しいし、厳密なラインを引くことができないみたいな形で議論が終わることも多いがそれでもあえて一線を引くのであればブラックボックスの有無と言えると思っている。

 

ただ今どきのCGのエフェクトとかも古典的な機械学習モデルを使っているものがある以上、どちらも十分ブラックボックスだと言われたらその通りですねという他ない。

 

「そう。だから今となっては特撮はジャンルとしての側面が強いね。いわゆる怪獣物とかヒーロー物とか、ミニチュアとか爆薬とかを今でも使う監督さんはいるけど……」

 

「話がずれてきているぞ、戻れ」

 

かせくり氏はちょっと辛辣な言い方をした。まあ本題とは別のことを長々と、それも夜に話されるのはあまりいい気しないだろうしね。

 

「ええと何だっけ、ああそうだ私がドミテやる理由だよね」

 

Dominium Terrae、ラテン語で「地を統べよ」であってもこういう風に略して呼ばれると可愛くなってしまうな。

 

「ドテラじゃないのか」

 

「えっその略称ダサくない?」

 

かせくり氏と跳華さんがちょっと言い争っていたので背伸びをしておく。立った状態じゃないから身体への負荷がそれなりにあるな。

 

「ともかく!やっぱり見たことないものっていうのは違和感の有無を掴めないし、上手な嘘をつくためには細かいディティールを把握している必要があると思ってて。だから、変な経験とか行ったことのない場所とか、色々やってみるのがいいと思うよ」

 

「その過程でやりたかったことが固まることもあるかもしれないし、な」

 

「いや私はそこらへんの悩みなかったな、元から絵がほしいってイメージが先行していて手書きも生成も手段に過ぎないし、なら組み合わせれば最強だって思って……」

 

かせくり氏がうまい具合にまとめようとしたが跳華さんのパワーで押し切られてしまっていた。しかしやりたいこと、ね。VRとかは得意だって言えるだろうし、時間があればやりたいけど、たぶんそういうことじゃないんだろうな。

 

「考え事かな、ソニドリくん?」

 

「ええ、跳華さんのその自信とかパワーみたいなものってどこから来ているのかなと思いまして」

 

「かけた時間」

 

「なるほど」

 

反論できないな。

 

「私の人生はまだ……にゃにょ年ぐらいしかないけど、そのかなりの割合を絵のインプットとアウトプットに割いている」

 

年齢のところはあまりうまく聞き取れなかった。オンラインの関係で個人情報をどこまで明かすかとか色々ありますからね。

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