セミダイブ!   作:小沼高希

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One flapping of swallow makes summer. 5

起きたら昼だった。カーテンに遮られていても部屋を明るく照らす夏の日光にもかかわらず、僕はぐっすり眠っていたわけだ。

 

いや言い訳ぐらいさせてください。夏休みだということで目覚ましとかそういうのを全部止めていたんです。なので今起きたのは寝た時間から逆算して特におかしくない時間帯で、別に夜ふかししすぎで生活リズム崩したわけではないんです。むしろ無理に早起きして睡眠時間削るほうが良くないかもしれないですよ。

 

「……そういえば昨日お風呂入ってたっけ」

 

記憶をたぐるとかせくり氏の説明を立ったまま聞いているのが辛くなったのでベッドに行って、そのまま寝てしまったということになる。あまりいいことではないな。肌とか髪の手入れは一日怠ると戻すのにそれなりの時間がかかるので辛い。夜ふかしのほうが戻すのが大変だとか言ってはいけない。

 

今までの大学のお陰でできていた多少は人間らしい生活との落差がひどすぎるので、ちょっと汗ばんだシャツとかを洗濯機に突っ込んでシャワーを浴びる。微妙にぬるい。外の温度のせいで冷たいほどではないが、身体を温めて癒やしてくれるほどではない。むしろ体温より低いので微妙に気化熱とかで冷めそうだ。

 

でもしばらくしたら温かいお湯が出てきた。汗の溜まりやすい場所をしっかりと流して髪と身体もおまけで洗っておく。お風呂は沸くまで待っている時間の間に他のやることが入ったりしてそっちに集中している間に冷めてしまうことがあるけど、シャワーはそれに比べてすぐに浴びれていい。

 

もちろんお風呂に比べてゆったりするには限界があるから疲れた時こそお風呂に入るべきなのだけど、疲れた時はシャワーで済ませてしまいたくなるのだ。悲しい。

 

バスルームを出て、タオルで髪を拭きながら外出を控えるように言う町内放送を聞く。ここ数十年の温暖化のせいで、夏休みというのが暑いながらも子供が遊び回る時期から暑いので子供を外に出してはいけない時期になってしまった。プールとか行きたいけど行く前に死んでしまいますからね。

 

「……そっか、そういうのもあったか」

 

考えたことのなかった選択肢の存在に驚いて言葉が口から出る。そうすると高校の頃の水着を実家から送って貰う必要があるかもしれないな。一人でプールに行ったことはないけど、別に同伴者が必要ってルールもないから大丈夫でしょう。でもこのあたりって公営プールとかあるのかな。僕の地元のところは予算不足でなくなっちゃいました。

 

ドライヤーを取り出して丁寧に髪の間の湿気を取り除きながら、そろそろ美容院に行こうかなと鏡の中の自分をちらりと見て思う。このあたりは大学が多いので、ちゃんとそういうファッションに合わせた美容院もある。短くユニセックスな感じでとお願いすればあまり何も言わずにカットをしてくれるのはありがたい。

 

「あとは……」

 

桜盃情報工科大学の夏休みは九月の中頃まで。つまり二ヶ月まるまる予定がないわけだ。いやまだ提出しなくちゃいけないものが少しあるからそれは片付けなくちゃいけないけど。早く終わらせないと脳の片隅でずっと思考を圧迫するので急ごう。

 

それ以外のやることと言えば実家に戻ってそのタイミングで色々回収してきて、かせくり氏と跳華さんに合わせて「Dominium Terrae」をやって、あとはチーフからの仕事をしてもいい。時間がいっぱいあるから一人でコツコツ何かを作ってもいいよね。でも飽きるまでの間に作れるぐらいの規模にしておかないと後で困る。

 

あっそうだ、いつもの食堂の三人として遊びに行ってもいいかな。プールに一緒に行く相手としても彼女たち以外を誘うイメージがあまりないし。他に知り合いがいないわけじゃないけどネットの人とそういうところには行かないし同じ学科の人たちは違う気がする。

 

そういえば大学に入って友達ができたというのは、間違いなく人間性の進歩と言っていいだろう。中学の頃は微妙で、高校の頃は孤立していたし。というかアキさんはともかくユミナさんが僕たちと付き合っているのは少し不思議な気がする。あんなに明るくて、友達とか知り合いも多そうなのに。

 

「……ユミナさんはどうするのかな」

 

三人の中で夏休みを大学生らしく楽しむ方法を多分一番良く知っているのはユミナさんだろう。僕はVR空間にこもってしまうし、アキさんは数学をやっていそうだ。これかなり偏見混じってそうでよくないな。

 

髪がしっかりと乾いたのを確認してから、XR端末を充電器から外してかける。別に生活防水ぐらいの機能はあるけど、フレームの内側についている筋電位測定端子とかが出す誤差は微妙に気持ち悪くなるのでちゃんとした環境で使ったほうがいい。

 

── ユミナさんって夏休みどうするの?

 

送ってしばらく待ったが反応はない。まあいいか。ユミナさんはお昼まで寝ているとかはないだろうけど、映画とか見たり別のコミュニティの知り合いと遊んだりしていて忙しいのだろう。

 

ちょっと湧き上がってくる感情は嫉妬となんとなく似ているけど違うと思う。恋愛的なものじゃなくて、もう少し汚い独占欲というか。でも恋愛だって汚いじゃないですかというのは置いておこう。そのきれいな部分だけをつまみ食いするようなことばっかりやってきましたからね。

 

去年の夏休みに何をしていたかを思い出そうとするが、確か受験勉強をしていた。その前もそうだ。それ以前は……自堕落な生活を送っていた記憶がある。朝まで夜ふかしをしていて、そこから寝て、昼に起きるみたいな。今と同じようなものじゃないか。

 

では何かに手を出して見るか、となるとあまりそういう気分にはなれない。いやAI関連についてちゃんとした専門書を読んでおこうとか、最近ネットで見かけたモデリング100本トレーニングとか興味ないわけじゃないですけど、なんていうかそこまでやる気が出ないというか。

 

「あーっ、微妙に難しい!」

 

ベッドに倒れ込んで手足をジタバタとさせ、虚しくなったのでやめる。もしかしてこの焦燥感というか変な感覚は空腹だからではないだろうか。時計を確認するとまるまる十二時間何も食べていないことになる。ごはんをたべよう。外に行って何かを食べるのは暑すぎるので、ストックがそろそろ無くなるなと思いながら僕は冷凍庫を開けた。

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