セミダイブ!   作:小沼高希

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One flapping of swallow makes summer. 7

「今日は真夏日なんだって」

 

「三十五度超えないんだ」

 

ユミナさんとアキさんがそう話す後ろに座る僕。市営プールのバスの中には子供連れの人もいる。この人たちもプールかな。

 

「いや二十五度で夏日っておかしいよね」

 

「昔の話だから」

 

アキさんに反論しにくい言葉を投げられて僕は黙ってしまう。そんな僕を置いて仲良さそうに会話する二人を見て羨ましさというか変な気分になる。たぶん脳が熱くなっているのでよくない。アキさんはこういう時に孤独と仲良くできそうなのにな。

 

「そういえば、ユミナさんは一人のときってどうしてるの?」

 

「えぇと……普通にSNS見たりマンガ読んだり?」

 

「文化的ね……」

 

アキさんが感心したように言うが別に漫画はそう文化的なものではないと思うぞ。いやでもカルチャーではあるか。今どき紙で出るのは限られるし、電子ものはXRだと読みにくいからタブレット端末とかがあったほうがいいけど。

 

バスを降りると危ないタイプの熱気が僕たちを包む。真夏日とか嘘でしょ。緑が近くにあるからそのあたりの配慮もされているような地域なのだろうけど、それでこの暑さってことはもう少し上じゃないの?

 

「そういえば二人は泳げるの?」

 

「高校でやったぐらいには……」

 

僕が言ってアキさんを見ると、上半身がフリーズしていた。虚ろな目で前を見て口を少し開けている。

 

「アキさん、大丈夫?」

 

ユミナさんが彼女の前で手を振るが、一定のペースで歩き続けるだけで反応がない。

 

「ああ、小学校の時以来だと思う」

 

過去のデータをやっと読み込めたのか、アキさんが会話に戻ってきた。よかった暑さでやられたんじゃないかと結構真剣に心配したんですよ。しかし大丈夫かなこの調子だとこれ以降毎回フリーズ挟まるんじゃないか?

 

「小学校では行ってたんだ」

 

そう言ってそういえばあまり詳しいアキさんの過去を知らなかったな、と僕は思う。ユミナさんとは前に少し話したと言っていたはずだ。このあたりを僕も聞きたいが、僕の過去をまだ共有していないので聞けなくても仕方がないなと思うところはある。

 

「中学にはあまり行っていなかったし、高校は通信だったから」

 

「そういえば通信の高校って体育あるの?」

 

ユミナさんがアキさんに興味深そうに聞いてきている。

 

「あるわよ、画面の前で体操する」

 

よかった、ちゃんと最近の記憶はすぐロードできる場所にあるらしい。しかしオンラインでの体育の授業か、と少し想像してちょっと変な絵になるなと思ってしまった。アキさんは細めで身体動かすの辛そうだし。腕相撲は僕のほうがまだ強いんじゃないかな。ユミナさんは結構腕力ありそうなので勝てる気がしない。

 

「じゃあ、大学の体育はできた?」

 

「なんとか」

 

確かに僕と同じ先生に当たって身体運動科学実習をやっていたならアキさんにはわかりやすい授業だろうな。ちゃんと体系化して問題を解消するって方向で授業が組み立てられていたし、確かに精神論みたいな部分はあったけどそれはあくまで気持ち良く運動をすると続けやすいみたいな内容だった。

 

最近ゲームにおける経験設計、あるいはExperience Designについてちょっと触ったのでわかったのだけど、あの授業はかなりしっかり作られていたように思う。学んだことをすぐに試せて、自分がどう変化したかがよく分かる。

 

ゲームのチュートリアル部分を考えて欲しい。例えばあるアイテムを使う操作を覚えたら、そのアイテムを使わないと進めない場所があるといい。もちろんそこでアイテムを使わないという選択肢をとっても進めるルートがあってもいいけれど、わかりやすさとゲームから得る達成感とかを考えれば試せたほうがいいよね。

 

これはVR空間でも同じだ。どうしても現実のとおりに操作できるほどインターフェースが整っているわけでもない。例えば物を投げても指先で押し出すような感覚までを再現することはできないし、手を開く動作とトリガーにかけた指を離す操作を頭の中で一致させるような訓練をしないといけない。

 

「遅いよ」

 

そんな事を考えていたら、スクール水着を着てプールサイドにいたアキさんに声をかけられてしまった。

 

「ごめん、ちょっとトイレとか行ってた」

 

二人を待たせていたことについては特に弁解の余地がないので最低限の事実を言って謝るしかない。

 

「それならいいけど……」

 

「まってミドリくんそれ高校のやつ!?」

 

ユミナさんが笑い出しそうに、でもさすがに失礼だと思ってこらえながら言う。

 

「そうだよ、これ以外のやつあまりないし」

 

紺色の半ズボンに紺色の長袖といったジェンダーレスなやつ。こういうところの配慮がありがたくて僕は高校を選んだところが多少はある。そう考えると中学生の頃から拗らせすぎていたな。いや別に身体に合わせたほう着るのは嫌じゃないんですが必要もないのに選ばなくてもって思想なんです。

 

「ユミナさんのだって屋外じゃ着れないやつでしょ、焼けちゃって」

 

「ちゃんとそういうところ行くときは耐水性の日焼け止め塗りますぅ」

 

拗ねたように言われてしまった。ちなみにユミナさんの水着はトップは白に黒い縁、ボトムが黒のモノクロでシンプルだけどかっこいいやつ。アキさんは……茶色の、なんだろう地味なやつ。いえこういうふうに言うのはあまり良くないと思いますけどね。

 

結果として大学生三人揃ってあまり派手さはない形になった。別にいいんですけどね。誰かに見せるわけでもないし、僕にとってこの二人は水着を特に見せたい相手でもないし。

 

「で、どうするの?」

 

アキさんが飛び込みたそうにうずうずしながら言う。

 

「まずは準備体操じゃない?」

 

「確かに」

 

高校の頃もちゃんとやらされたなぁ。別に入ってから筋肉ほぐしてもいいと思うのですが、もし万が一でも水の中で足つったりとかしたら死んでしまいますからね。僕はまだそういう経験がない。寝ている時につったのはあるけど。

 

「というかアキさんは水大丈夫なの?ウチは行けるけど」

 

「泳げはするわよ、たぶん……」

 

準備体操をしながらアキさんの水泳歴を確認するが、さっき言っていたように本当にプールに来るのが小学生ぶりのようだ。泳ぎ方とかについての基礎知識は今朝調べておいたらしい。真面目なことで。

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