セミダイブ!   作:小沼高希

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One flapping of swallow makes summer. 8

「ぷはー」

 

ずっと沈んでいた僕が水面に顔を出すと、アキさんとユミナさんから心配そうな視線を向けられていた。

 

「……大丈夫?二分ぐらい沈んでいたけど」

 

「アキさん、数えてたの?」

 

「あそこに時計があるから」

 

そうユミナさんに返しながらアキさんが見るのは分針と秒針だけの大きな時計。いやよく確認していたな。

 

今の僕たちがいるのは温水プールのフリーエリア。親子連れとかが水遊びをしたりしている。見た限り大学生らしい人はそこまでいない。でも僕の着ているのが高校の水着だし、実はそういう人もいるのではと思ったがそもそもスクール水着をつけている人がいなかった。悲しい。

 

「それじゃあ私も潜ってみるから、もし戻ってこなかったら引き上げて」

 

そう言ってアキさんがゴーグルをつけてたぽんと水音をさせて底に沈んでいく。

 

「……大丈夫かな」

 

ユミナさんが心配そうに僕に言う。

 

「泳げたの?ちょっと見てなかったけど」

 

「軽く水の中で動く程度は大丈夫そう。怖がったりとかもなかったし」

 

「ならいいけど」

 

三十秒経過。

 

「ユミナさんは潜れるの?」

 

「んー、ちょっと難しいかな」

 

「そっか」

 

僕は少しだけユミナさんの胸元に視線を向ける。谷間ができるぐらいの脂肪があるってことはそれだけ密度が低いわけで。アキさんはそれより一回り控えめなぐらい。僕ですか?外から見てわからないぐらいだと思ってください。そもそも水着が胸を潰すような形になっているけど。

 

「……そろそろ、危なくない?」

 

ユミナさんが水面の下で揺らぐアキさんを見て言う。

 

「ちょっと引き上げてくる」

 

「いってらっしゃーい」

 

息を吸い、ゆっくりと吐きながら水の中に潜り、目を閉じて力を抜いているアキさんの身体の下に手を入れて持ち上げるようにする。密度が水とほとんど同じぐらいのおかげか、特に無理せず水面まで持ち上げることができた。

 

「っ……に……」

 

水揚げされたアキさんは苦しそうな声を出して手で頭を押さえている。

 

「あっ水が鼻の奥入っちゃった?」

 

ユミナさんの声にアキさんがたぶん小さく頷く。苦しんで頭振ったのと区別がつきにくいが。

 

「じゃあこっち……」

 

ユミナさんは器用にプールの縁にアキさんを誘導している。

 

「そういえば、こういうのもあるんだった……」

 

アキさんがそう言うところを見ると、純粋に水に慣れていない事によるものだろうなと察しはつく。お風呂であまり潜るとかもしないのかな。僕は考え事があるときとかたまにしかしないけど。

 

「大丈夫?」

 

「うん、もう少しすれば痛みも治まると思う」

 

アキさんが深呼吸をして、なんとか平常を取り戻した。

 

「……こうやって見ると、アキさんって普通の人なんだよな」

 

「ミドリさんは私のこと何だと思っているのさ」

 

「……世界二十一位」

 

「泳ぐ能力とかは別だよ」

 

「でもアキちゃんってあまり頭良さそうなことしてないよね、むしろ変人……」

 

「水底に引きずり込むよ」

 

ちょっとアキさんが苛ついている。そっかいつもと違って慣れない環境下でストレスの閾値が下がっているのか。

 

「ごめん」

 

「……私も言い過ぎた」

 

素直にユミナさんとアキさんが互いに謝罪する。この軽さというか素直さがやはり付き合っていて楽だと思うところである。僕はちょっと言うタイミングを逃してしまったが。

 

「でもやっぱり大量の水の中にいるって独特な気分ね」

 

「VRでもそういうものあるからね」

 

僕はアキさんに言いながら、かなり高価な設備を思い浮かべる。モーションプラットフォームの亜種だが、水中に置くことで身体に掛かる力をかなり減らし、自由に回転とかができるようにしたシステムだ。

 

「それ、楽しいの?」

 

ユミナさんが聞いてくる。

 

「かなり重装備になるから、むしろ宇宙用の訓練とかのためかな」

 

宇宙飛行士用のやつとかで、超巨大なプールにロケットとか宇宙ステーションのものを沈めてダイバーに囲まれながら宇宙服を着て、なんていうのを昔の本で見たことがある。今ではもう少し簡略化されたりしているが、似たようなものはまだあるんじゃないかな。

 

そもそもまず呼吸用の装備が必要だし、浮力があったとしても血液にかかる重力がなくなるわけじゃない。場合によっては圧力ベストとかを着て頭に血が回るようにする、っていうのは重力がない宇宙の話か。逆立ちした時に頭に血が貯まるのは重力があるからだし。

 

「大変ね……」

 

アキさんがしみじみと言う。

 

「宇宙系の話なら桜盃大でもやってる人いなかったかな」

 

「確か知性機械工学科に自律開拓システムの開発の人と、食料生産学科に植物工場と宇宙農業をやっている人がいたはず。他はぱっと思い出せない。ごめん」

 

アキさんがサラリと言うが、僕は先生たちの専門なんて授業持ってもらった人でもろくに覚えていないぞ。

 

「アキさん、それ覚えてるの?」

 

「入学前に他の学科についてもある程度は調べてあっただけ……」

 

ユミナさんに謙遜するように言うアキさんだが、あまり謙遜になってはいないと思う。でもそうか、興味のある分野だったら大体覚えているとかあるからそれ自体はそう変なものではないのかもな。

 

「宇宙かぁ、行ってみたいな……」

 

「そう?」

 

「わざわざ行くもの?」

 

ユミナさんの言葉に、アキさんと僕が半ばかぶさるように言葉を返す形になった。

 

「なんで!二人とも興味ないの?」

 

「行っても得るものはないだろうし……。資源については地球で十分だろうし、新物質とかが合成できる可能性はあるけど正直可能性に過ぎないし、排熱の問題があるから計算機とかを置くのも難しいし……」

 

そう指を折って言っていくのはアキさん。

 

「なんだよ、ロマンがあるだろ」

 

「ロマンで予算を出せる時代じゃないから……」

 

僕がそう言って脳裏に思い浮かべるのは科学技術系の予算の着実な減少。確かに額面は微妙に減っているぐらいですがインフレを加味するとかなりのペースで減っているんですよ。

 

宇宙開発の主力はもう完全に民間企業に移ってしまったけど基本的には通信衛星がメインだし、先進国は安全保障上の観点から自前の衛星打ち上げ可能なロケットを持つようにしているけどそれができなくなっている国もあるし。我が国はまだギリギリ国内の民間も合わせて行けなくはない、というレベルだ。

 

「うぅ……」

 

現実に潰されたらしく、ユミナさんもまた逃げるように水中に潜ってしまった。

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