セミダイブ!   作:小沼高希

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One flapping of swallow makes summer. 10

水中では体にかかる重力がある程度浮力と相殺されるおかげで普段と違う筋肉を思いの外使うことがある。そして、わたしはあまり普段から動く方ではない。

 

「何で昼間からベッドにいるのさ」

 

そう言ってBar Panopticaの仮眠室で横たわっている僕に跳華さんが聞いてくる。いえ、確かにベッドの上から寝たままほとんど動かなくともVR体験はできるのですが、痛さとだるさのせいで手を動かすのも面倒になってしまっているんです。

 

「……年甲斐もなくはしゃぎました」

 

「いつ?」

 

「昨日です……」

 

「ならまだ若いよ、大丈夫」

 

跳華さんが優しく微笑んで言うが、そういえばこの人は何歳ぐらいなのだろう。少なくとも僕が最初にあったときから絵を仕事にしている感じがしていたし、話す内容がたまに古くなることからするとそれなりの年齢ではありそうだが。

 

「あ、年齢は秘密だよ」

 

「はい」

 

2048年にもなっているが、やはり他人の年齢というのはインターネット上では伏せたり隠すべき個人情報に含まれるというのが一般的見解である。ちなみにわたしが年齢を伏しているのは成人前からです。どういう意味かは察してもらえると幸いです。

 

というわけで、事情をある程度隠した状態で昨日の話を共有する。しかしこの時期に一緒に遊びに行く友達の存在からわたしが大学生だってことはある程度察されそうだが、その程度はもともと知られているだろうからいいやと割り切ってしまう。

 

どこの大学のどこの学科かまで知られないと個人にまではたどり着けないだろうし、そしてもし跳華さんに僕の個人情報を知られてもそこから生まれる問題を想像できないというものある。例えばわたしの本名と住所をアキさんやユミナさんは知っているが、それを別に悪用することはしないだろう。

 

そういう真っ当な人間への信用を築けたのも、危ない界隈では念入りに自分の情報を出さないようにしていたからかもしれない。当時からうすうすわかってはいたが、改めて考えると本当に昔は変なところにいたんだな。

 

「友達かぁ、前に高校の同級生から連絡があって遊びに行ったけど面白かったな」

 

「何しに行ったんですか?」

 

オンラインの噂でしか知らないが、古い知り合いからいきなり会いたいなどと声をかけられたらまずは警戒するべきらしい。普通の人はそんなに昔の縁を頼らないらしいので、何らかの政治的思想とか、宗教とか、あるいは売り込みとか詐欺とかそういう可能性を想定すべきだというわけだ。

 

「博物館の企画展でね、ちょっと友達が推してる作品関連のものがあって」

 

「なるほど」

 

聞けば僕でも名前は聞いたことのあるアニメだった。というかそういうのも展示とかに使うのね。博物館は中学校の授業か何かで行った以来の気がするが、やっぱり面白そうだ。というかやはり高校時代に深いつながりを作っているとそれを活かせるのね。僕にはありませんでしたが。

 

「そういえばソニドリさんは東京の人だったっけ」

 

「……そうですね」

 

「こんど概念同化機構さんがそっち行くっていうからさ、オフ会でもしない?」

 

「良いんですか?というかその口ぶりだと跳華さんって」

 

「関西の方だよ、まあでも東京にいかなくちゃいけない用事があってさ、それに合わせるなら問題ないよ」

 

「……本当に?」

 

「ここだけの話、ちょっとした企業の案件でね。顔を出さなくちゃいけなくて向こうも交通費出してくれるからリニアでびゃーって行こうかと」

 

「すごいですね、普通は新幹線なのに」

 

戦争とか色々あってのびのびになった結果僕が中学生の頃に開通した中央新幹線は、一応新幹線なのであるが一般的にはリニア呼びされて料金も高く設定されている。超特急料金とかそんな感じのやつ。

 

たしかに速いし関東圏と関西圏を一時間ちょっとで繋ぐのは凄いのだが、どうせ乗り換えとか待ち時間とかあるんだからそんな急ぐ必要もないだろうということでリニアじゃない方のいわゆる新幹線が使われることも多い。

 

「いい会社さんだよ、今どき対面でやろうっていうのも下見とか接待を兼ねているんだろうし、ここは乗ってあげて経済を回そうかとね」

 

「とすると、かせくり氏も呼びたいところですが」

 

「あいつは……大丈夫かな、予定聞いておくか」

 

「僕については九月頭まで大丈夫ですけど、概念同化機構さんのほうが……って、なんで概念同化機構はこっちに?」

 

「オープンキャンパス」

 

「ああ……」

 

そういえば世代的には大学受験を考える頃か。話していて聡明さは伝わってくるし、東京の大学に進学するのを考えてもいいのかもしれない。あるいは、今の人間関係を一旦切って新しく構築できるという意味でも。

 

学ぶだけなら通信だろうが何だろうができるけど、やはり今なお大卒の肩書の重さはあるし、学士であっても高卒に比べれば圧倒的に有利だ。もちろん業界によっては学歴よりも実力だってところもあるし、どうせ取るなら修士かできれば博士ってところもある。

 

情報系はかなり極端で、そういう意味では学部卒が一番厳しいのかもしれない、なんてことを話している人を見たことがある。ちなみにその人は学部卒でブラックなところに勤めてしまって心壊した後に地元の小さな企業に入って情報系の知識で無双して便利屋としての枠を確保できたそうです。よかったね。

 

「それで、どこの大学に行くんですか?」

 

「東京総合大」

 

「えっ」

 

東京総合大学は工業、医学、外国語、社会科学という実学よりの分野にルーツを持つ四つの大学が統合してできた大学で、いわゆる旧帝大の次に並ぶ名門である。もとになった大学に比べれば歴史は短いし、統合前の大学の色があまり消えていなくて結局人件費削減とかのあれじゃないのかとか言われているけどさ。

 

「どの類に進むかは聞いてないけど、ソニドリくんならアドバイスできるんじゃない?」

 

「……わたしにできることはあまりないですよ」

 

そして、僕が進学を諦めた大学でもある。

 

「そう。なら、純粋にオフ会だけ考えればいいかな……」

 

そう言って跳華さんが渡してくるエンティティには東京総合大学のオープンキャンパスの予定とかがまとめて入っていた。よく整理されているあたり、跳華さんの社会人としてのスキルを感じる。こんなダメお姉さんみたいな雰囲気があるけど業界でもしっかりしていることで有名な念写師さんなんです、信じてください。

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