セミダイブ!   作:小沼高希

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夕べが過ぎ、朝が来た
夕べが過ぎ、朝が来た 1


「お、来たか」

 

午前八時半。Bar Panopticaにはチーフを除いて三人が集まっていた。

 

一人はわたし、ソニドリ。黒いドレスを纏う、翡髪翠眼の少女のアバター。

 

一人は念写師、跳華さん。いつものセーラー服である。

 

一人は自動化ゲームの専門家、かせくり氏。グレーハウンドのくりくりとした眼が、わたしと跳華さんを見ている。

 

「問題ないかね、二人とも?」

 

「ええ」

 

「わたしも大丈夫です」

 

かせくり氏の質問に、跳華さんとわたしが答える。

 

「よろしい、というわけでブリーフィングを始めようか」

 

そう言ってかせくり氏が展開するのはこれから遊ぶゲーム「Dominium Terrae」のビジョンショット。過去のプレイヤーが集めた記録だ。

 

「我々はクラン『ツワモノ』の一員として参加する。目標は開始六時間以内にグリーン・エンジンに必要なレベルの加工精度に到達すること」

 

「はーい質問」

 

「何だね」

 

三次元のホログラムみたいな形でかなり複雑な部品のようなものを投影させながら、かせくり氏は問いかけてきた跳華さんに言った。Dvgrn421とラベルがついている。

 

「グリーン・エンジンって何ですか?」

 

「デイブ・グリーンというライフゲームで自己複製パターンを最初に作り出した人……と言っても色々前提不足でわからないだろうが、ともかくそういう先人の名前をつけた装置だ。ドテラにおいて今の時点で確立されている、もっとも高性能の自己複製装置……の一部分だ」

 

「部分なんですね」

 

「実際の組み立てはおそらく二日目か三日目になる。必要な部品は全体で三千万点ちょっと。この全てを手作業で作るわけではないが、加工装置の限界を考えるとそれなりの点数を気合でやらなくちゃいけない」

 

Dominium Terrae、通称ドテラのチュートリアルは終わらせてある。ゲームとしてはサバイバルみたいな感じで基本的な材料からより高度なものを作っていく感じのものだ。木と石から道具を作り、より多くの木と石を集め、そして鉱石を採掘し、加工し、より複雑で高度なものをへと進めていく。

 

「序盤の金属確保までは十五分ぐらいで行けるはずだから、二人には木で渡した図面通りのパーツを削り出して欲しい。この部分と、あとはグリーン・エンジンのパーツ製造に人手が必要なので、逆に言えばそれ以外は暇になるはずだ」

 

そう言って渡されたものを見る。奇妙な構造をしたパーツだ。一番知っているものの中で形が近いのはトロフィーだろうか。といっても小さな盃みたいなものじゃなくて、もっと大きな全国大会とかで貰うような細長くて柱とかがついているやつ。

 

「……これを一つの木材から削り出すの?」

 

「そうだ。チュートリアルを触っただろうからわかると思うが、ある程度の自動調整はあるし、回数制限はあるがやり直しは効く」

 

「こういうのって外部ツール使えばいいんじゃないですか?台無しになるのかもしれませんが」

 

VRでもプレイヤーの操作を模倣するシステム自体は普通にあるし、わたしも例えば作ったワールドの試験で複数名の参加者がいる状況を再現するときとかに使っている。基本的にはオンラインシステムとかで向こうのサーバーに送られるのは体勢情報なので、その情報自体を作ってしまえばいいという発想だ。

 

「一応違反行為だというのと、単純なパーツならそれでもいいが複雑なものだと未だ人間の目と手のほうが容易だというのもある。修正もしやすいしな」

 

「ああ、設計系ではよくある話ですね……」

 

わたしの言葉にかせくり氏は頷く。この人は工場とかを作っている人なので、わたし以上にそのあたりを理解しているだろう。

 

部品や製品を設計したり、あるいはデザインするということについては未だAIが人間を完全に代替できるとは言えない。それはもちろん法律とか責任の問題もあるが、それ以上に人間はかなり長い期間の進化の過程で生まれた、ものを扱うということに特化した認識と思考を持っているというのがある。

 

例えば鍵と鍵穴を見た時、人間は鍵を持って鍵穴に入れるという行動を比較的自然に取れる。それはそういうふうに設計されているとなんとなく理解できるからだし、二つの部品の構造を見るとそれがどうはまるかについて直感的に理解できるからだ。

 

人工知能もある程度はそれができるが、人間を大幅に上回るまでは行かない。それでもすでにあるアイデアを改良したり、あるいは既存の設計とよくある問題のリストを見比べて事前に警告したり、という作業は人間よりかなり得意だ。そのため、一般的な設計ではかなり人間と人工知能の二人三脚が進んでいる。

 

問題はそういうシステムをCADメーカーの一部が独占しているとか、利用者の作った製品のデザインの権利を侵害しているんじゃないかみたいな話が残っているところだ。芸術系についてと同じぐらい、そしてまた違った方向でこの分野も面倒なのである。それにこちらは動く金額も桁が違うし特許とか知的財産権のあたりは本気で絡んできますからね。

 

「大変だねぇ」

 

跳華さんがわかりあっているわたしとかせくり氏をちょっと引いて見ている。うん、そうなるようね。別にわたしもそこまで工作とかをやっているわけではないのですが、例えば小物を作ったりするあたりでCADっぽいことはするのでなんとなくは知っています。さらに現実だと強度計算とかしないと行けないので大変なのだ。

 

「というわけでひとまず昼まではこの作業をお願いすることになる。それ以降については俺じゃなくてクランの方に投げる形になるな。二人については初心者だと言ってあるから無理な仕事は振られないだろう」

 

「信じていいの?」

 

「プレイヤーたちは最高効率を目指しているが、その計算にはちゃんと習得速度であったり、あるいは不良品の発生率というものも含んでいる。何より楽しまないとゲームは意味がないからな、そこについてはあまり心配しないでいい」

 

不安そうな跳華さんに、かせくり氏は説明する。そこまで広いスケールで効率をちゃんと考えているなら、きっと大丈夫だろうなと言う安心感がある。

 

「それに、今回参加するプレイヤーのそれなりの割合が初心者だ。もともとプレイヤーの入れ替わりがあるものだから、きちんと対策はされているさ」

 

そんな事を話していると、まもなくゲームに入れる時間が近づいてきた。わたしも今日は寝た状態じゃなくて、手を動かしやすい立った状態での参加になる。さて、せっかく招待してもらったのだから楽しみますか。

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