セミダイブ!   作:小沼高希

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夕べが過ぎ、朝が来た 2

この手のゲームにはいわゆるお決まりのパターンというのがある。枝と石を集め、そこから簡単な道具を作るというもの。しかし熟練のプレイヤーの取る手段というのは不気味だ。

 

「シード解析完了、鉱石分布マップ出します」

 

「北北西のポイント41について東亜州(イースタシア)同盟から割り振りきました、我々のクランの管轄になります」

 

「自然炉となりうる地域が見つかりました。Mounanaチームが設営を開始。適切な資材提供があればD+2の1200(ヒトフタマルマル)までには稼働させるとのことです」

 

移動しながらかせくり氏がわたし達にも見えるように展開しているパブリック設定の画面には大量の文字が流れ、各地からの詳報が飛び込んでいる。

 

「はいこちら『ツワモノ』、参加ありがとう。というわけで素手でまずは崩落するまで穴掘りお願いね」

 

クランのほぼ全員が集合したタイミングでリーダーらしい人から声をかけられる。軍服と雰囲気が似ている古い探検隊が来ているような服を纏っている人だ。

 

「跳華さん、あれなんて言うんですか?」

 

「サファリジャケット」

 

「なるほど」

 

さすが跳華さん。そういう言語化は得意らしい。特に呪文、あるいはプロンプトを操って生成するような術師の場合にはどれだけ言葉を知っているかがどれだけものを作れるかに直結しますからね。新しい概念でもそれを分割すれば既知のものになるし、素材が蓄積されているものなら生成もしやすい。

 

そんな話をしているうちに、プレイヤーたちは散開して自分の足元を掘り始めた。余った土は自動的に穴の脇に寄せられるので、安心して地面に標的を定めてボタンを押していけばい。ずっと下を向いているのは退屈だが、それでも土の色が変わって硬くなっていく岩に変わるのは楽しい。

 

ゲームの舞台となる大陸というか島の形からシード値を割り出してそこからある程度の鉱物分布はわかるけど、具体的にどのあたりが一番濃度が高いかはわからないそうだ。そして初期装備でも地面を掘るのはそう難しくない。というわけで素手──ゲーム的には小さなスコップを持っているがプレイ時には見えない──で掘っていく。

 

「これって戻る時はどうすれば」

 

「埋まって死ねばいいよ、もうクラン登録は済んでいるから復活は地上だし」

 

通信を繋いでいるかせくり氏が説明してくれるが、やはりこの手のゲームのお約束として命が軽い。もちろんサバイバルゲームを遊ぶ人の中には緊張感を重視して一度死んだら終わりとか一度でもダメージを受けたら終わりとかいう設定でやっている人もいるけどね。

 

そんな感じで穴が崩落してわたしが死んで戻って来るまでの間にかせくり氏を含む他のプレイヤーは数本の竪穴と同じぐらいの墓標を作っていた。これからこのあたりを歩く時には落ちないように注意しないといけないな。

 

「んーじゃあ濃度的にここで。あとは……かせくり!ニュービー二人に木材加工させといて」

 

「あいよ」

 

というわけでかせくり氏に見てもらいながら木を削っていく。削ると言ってもミニゲームみたいなもので、ある程度の形になれば自動的に規格化されたパーツになる。そうじゃなくしたい場合はマニュアルモードになるし、最終的にわたし達が作らなくちゃいけない複雑なパーツはマニュアルモードでやることになるのだが。

 

「ひとまずは掘削と建築の道具に使う棒を片っ端からお願いしたい。こういう作業を君たちがやってくれると、他の人がもっと細かい作業に従事できるようになる」

 

言い方一つ間違えればわたしも跳華さんも不機嫌になりそうなものだが、向こうの穴で変な挙動をしながら瞬く間に仮設拠点を作っているクランの人達を見ると自分のできることを頑張っていこうという気になる。なんだあの奇妙な後ろ向きにジャンプしながらの建設は。

 

ちなみにかせくり氏はわたし達が作った棒からさらに道具を作っています。このゲームは物理演算でのリアリティとゲームとしての抽象性がいい具合のバランスになっていて、丁寧に作るとそれだけ効率のいい道具になる感じなのだ。

 

だからといってかせくり氏がやるレベル、つまりは土の種類とプレイヤーのアバターサイズに合わせて刃の角度を事前に計算しておくというのはちょっと狂気な気がしますね。これで数パーセントの効率改善があるらしいですが、その数パーセントのための手間としてちゃんと見合うのだろうか。

 

「それにしてもすごいね、少し気を抜くと本当に工作をしている気分になる」

 

跳華さんが言うように、確かにそういうモノづくりのエッセンスみたいなものが綺麗に抽出されている。そしてやはり自分が作ったものが他人の役に立っているのを見るのは良いものだ。

 

「ですね、切る時の感覚とかちょっと真似してみたくはあります」

 

というかこのゲームはかなり細かいところまで設定されていて、全てを演算しているように見せるのがとても上手なのだ。どうやって計算しているのかと思ったが、どうやらハッシュ関数を用いたメモ化をしているらしい。

 

よくわかってない跳華さんにかせくり氏が説明した時の例を使わせてもらう。こういうワールドには似たようなパターンが多く含まれる。そして、似たようなパターンを個別に計算するのではなく計算結果をどこかに記録しておいて、次に似たパターンが来たらその記録を参照するのだ。

 

この方法では使うことになる保存領域が大きくなるものの、高速なシミュレーションが可能になる。もちろん、これにも限界があるからある程度は悪く言えばごまかし、良く言えば演出でカバーしているのだけれども。

 

「銅ができたよ」

 

「最短記録か?」

 

「アプデ後ならそうなるね、今回は初期位置が近かったのが良かった」

 

そんな話が聞こえる方を見ると、既に簡易的な自動化が完了しているようだった。おかしい、まだゲームが始まってそんな時間経ってないはずだが。プレイ前に作られている無駄に膨大なWikiを見たいが、銅は序盤とはいえそれなりにいろいろな条件を揃えないと作れなかったはずだ。

 

「まああいつらは異常なプレイヤーだからな、あまり気にしないほうが良いぞ」

 

「かせくりくんがそう言うのはちょっと……」

 

「そうか?」

 

わたしは黙っておく。かせくり氏はこのあたりのゲームにかなりの慣れがある人だ。その人が異常というのだから、相当なのだろうな。

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