『武蔵ちゃんを助けたい』   作:みたらしうどん

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『導入部』
プロローグ1:あり得ざる出会い


 

 

 ── 一目惚れだった。

 

 

「仁王倶利伽羅……」

 

 気迫のみで諸悪を断ち、善なる者を奮起させるだろう──その存在感。

 彼女の得意とする、『小天衝(しょうてんしょう)』と名付けられた『威圧』の一種。

 

「剣轟抜刀」

 

 ──伊舎那大天象。

 

 上段から下段へ、刀が振り下ろされる。

 その単純な動作から──極限近くまで研ぎ澄まされた、濃密な神秘(魔力)が吐き出される。

 光線と見紛うほどのソレが、剣圧となり……目の前の魔猪を両断して、世界が静寂に包まれる。

 

 残心。神秘によって形作られた巨大な猪が、完全に塵と化すまで……張り詰めた空気が、周囲の行動を許さない。

 

「……よし、今回も生き残ったわね!」

 

 空気が弛緩し、先刻までとは別人のような……人懐っこい声が響く。

 

「怪我はない?」

 

 問いと共に彼女は振り返り、空色の眼がこの身を映した。

 

 ──瞬間、全身に雷が落ちたような衝撃が走り……『ドクン』『ドクン』と心臓が早鐘を打ち始める。

 

 

 一目惚れだった。

 

 

 見惚れていて、しばらく一言も発することができなかった。

 そのせいで彼女に、『……コレさては、()()日本語が通じない場所だな?』と勘違いをさせてしまったので……急いで訂正を入れる。

 

「あっ、すみません! 言葉は理解できてます!

 おかげさまで怪我はありません。助けて頂き、ありがとうございました!!」

 

「……ん。なら良かった。

 私は武蔵(むさし)新免(しんめん)武蔵守(むさしのかみ)藤原玄信(ふじわらのはるのぶ)。長いから『武蔵』でいいわ」

 

「……え? 男、性……?」

 

「いや見ての通り女ですが?? 確かに完全な男性名だけども!」

 

「で、ですよねすみません!!」

 

「まったく……それで、キミは?」

 

「……(すみれ)です。(はざま)菫」

 

「……男の子、よね?」

 

「? はい」

 

「あー……お互い名前では苦労してきたみたいね」

 

「…………いいえ。俺の場合、そんなことはありませんでしたよ」

 

「? そうなの?」

 

「えぇ。何せこの村には──」

 

 

 母以外、俺の名前を呼ぶ人はいないのだから。

 

 

 

 *

 

 

 

 ──丑三村。

 世界の『表』と『裏』の、『間』にある場所。表と裏を切り分けて、互いに影響を与えないように……棲み分けるための境界線。或いは『緩衝地』

 

()()は、そういう場所です」

 

「ふぅん……? ()()()()()()()()()()()なーとは思ってたんだけど、そういう感じか」

 

「……やはり、『神隠し』に慣れているのですね」

 

「お、分かるんだ?」

 

「えぇ。貴女のように迷い込んでしまった人を、元の居場所へ返す──それが俺の、『結界師』の役目ですから。いままでにも何度か、『外』の住人と顔を合わせたことはあります。

 ──しかし、貴女ほど『どこ』に送ればいいか迷った方はいません」

 

「……もしかして、キミも『別世界に通じる穴』が見えるクチ?」

 

「はい。でなければ、迷い人を送り返せませんから。結界師には必須の力です。

 ……とは言え、今回は俺だと力不足らしいので……久方ぶりに、母に頼ります」

 

「お母様は、キミより『眼がいい』の?」

 

「はい。俺なんかより、遥かに」

 

「……尊敬してるんだ、お母様のこと」

 

「勿論」

 

「……ん。いいね。仲良きことは美しきかな」

 

 ──俺達が出会った場所から、自宅までは……そこそこ距離があった。

 だから道中、互いにこうして身の上話もしたし……他愛もない雑談もした。

 

 ……新鮮な体験だった。

 ここは危険な場所だから、基本的に迷い人と呑気に『お話』をしている余裕はない。だからいままで、母以外の人と話した経験なんて……ほぼ皆無だった。

 彼女の語る『外の世界』は、鮮烈で……数多の『世界』を駆けてきた彼女は、泥臭くも快活で。……ずっと、彼女の話を聞いていたいと……そう思えた。

 

 しかし、楽しい時間は終わりを告げる。

 

「……ここです。着きました」

「……じゃあ、玄関先(あそこ)で待ってるのが──」

「はい。母です」

 

「──おかえり、菫。

 そしてはじめまして、()()()()()()()()()さん」

 

「……ホントに、名乗る前から把握してるのね」

 

「えぇ、勿論。

 何せ私は、ずっと……()()()()()()()()()()、貴女を待っていたんですから」

 

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