『武蔵ちゃんを助けたい』   作:みたらしうどん

2 / 10
プロローグ2:旅立ち

 

「……ずっと私を、待っていた?」

 

 私がそう問うと、彼女は肯定し……『より正確には漂流者(ストレンジャー)貴女(わたし)を待っていた』と続けた。

 

「前にも、亜米利加(アメリカ)で『ストレンジャー』って呼ばれてたことはあるけど……ソレ、どういう意味なの?」

 

 ……返ってきたのは、『言葉自体に隠された意味は無い』『貴女(わたし)が認識している通り、単に別世界から来た人を指す言葉』という端的な言葉。

 どうやら、何から何まで煙に巻くような言動をするワケではないらしい。

 ……それなら、

 

「…………単刀直入に聞きます。

 どうすれば、私は()()()()()()()に帰れるの?」

 

「……」

 

 少しだけ躊躇するような、短い沈黙。

 しかし彼女は、ハッキリと答えてくれた。

 

 

「結論から言うと、()()()よ」

 

 

 ……私が『どうして』と問うと、彼女は『()()()()()()』と……『貴女(わたし)が最初にいた世界は、もうどこにも存在しない』と返した。

 

「『視えない』ではなく、存在ごと『無い』と断言する理由は?」

 

「……あるべき場所は、『視えている』わ。だけど、『何もない』の。虚空という『名残』だけが、そこにある。

 ……貴女の世界は、もう『剪定』されているわ」

 

「剪定って……盆栽の、アレ?」

 

「……えぇ」

 

「…………私の『世界』は、『いらない枝』みたいに切り捨てられていて……だから、どこにもない……と?」

 

「……そうよ」

 

 短い肯定。

 …………薄々、察してはいた。だから、覚悟もしていた。

 最初は数え切れないほどあった、『別世界への入り口』は……気付けば数を減らしていて。……『一度訪れた世界には戻れない』のだと悟ったのは、いつだっただろうか。

 

 世界を渡るたびに減っていく『入り口』

 一所に留まれない、根無し草の私。

 

「…………なら、私が最後に行きつく場所も……見えたりするの?」

 

「……えぇ。大体、貴女が想像している通りよ」

 

「……そ」

 

 私はきっと、どこにも行けなくなって……。

 

 

「──でも今なら、私が()()()()()を用意できる」

 

 

「……え?」

 

「新免武蔵守藤原玄信、私は貴女に取り引きを持ちかけます」

 

 そう前置きして彼女は、『息子(すみれくん)貴女(わたし)の旅に同行させて欲しい』と告げた。

 対価は──。

 

 

「あらゆる世界が貴女を拒んでも、私が貴女を丑三村(ここ)に迎え入れ、その存在を根付かせる」

 

 

 『悪い話じゃないでしょう?』と、そう言って彼女は笑った。

 

 

 

 *

 

 

 

 昔から、ひとより多くのものがみえた。

 過去・未来・現在。その全てが……と言ったら、流石に誇張になるだろうけど。職業柄代々『眼がいい』村人達と比べても尚、私はとびきり優れた眼を持っていた。

 

 ……だから私は、人柱になった。

 

 『視る』ということは、一種の『存在証明』だ。それ自体が魔術的意味合いを持つ。

 だから私はここで、『間の裏』で、存在自体が曖昧な『村』を眺めている。彼らの存在を、外側から支えている。村の皆はそんな私を朧げながらも認知して、食事や本を送ってくれている。『一人は皆のために』『皆は一人のために』というやつだ。私はこの役割に満足している。

 

 ……たとえそれが、半分強がりだったとしても。

 

 だが息子は違う。自分の意志でここに来たワケじゃない。

 菫は、私の弱さのせいで……『寂しい』という我儘で、産み落とされてしまった子だ。

 

 未来を知っていたくせに、人柱になることが決まって……その日が近付くにつれて、怖くなって。

 ……私を好きでいてくれた人に、身体を委ねた。

 彼は私が『寂しいだけ』と理解した上で、何も言わず、優しく抱いてくれて……菫の魂が、私に宿った。

 

 私は(みごも)ったことを隠して、誰もいないこの『間の裏』へと送られた。

 

 ……あれから十五年。

 菫は多感な時期を、(わたし)の身勝手で浪費してしまった。これ以上を望むのは、いけない。

 ……なのに、

 

「…………一人で大丈夫なのかよ、母さん」

 

 思わず、引き止めたくなってしまう。

 私がやったことを知っても、菫は変わらず私を『母さん(はは)』と呼んでくれる。こうして私を、気にかけてくれる。……あの人に似て、優しい子だ。

 でも、

 

「大丈夫よ」

 

 母として、これ以上……この子を束縛できない。

 

「…………」

 

「永遠の別れじゃないんだもの。心配しないで」

 

「……母さんがそう言うなら、信じる」

 

「えぇ。気負うことなく、行ってらっしゃい」

 

「……おう。行ってきます」

 

 縁を結ぶ。二人が離別しないよう、強固に補強する。

 これで、菫は武蔵さんの漂流(ドリフト)に着いていける。そして武蔵さんは、全ての『入り口』が閉じても──菫と一緒に、ここへ帰ってくることができる。

 

「武蔵さん。息子をよろしくお願いするわ」

 

「……任されました」

 

 

 ────その言葉を最後に、二人は消えた。

 

 

「……やっぱり分かっていても、寂しいものは寂しいわね」

 

 

 だが、これでいい。

 我が子と、我が子の愛した女性(ひと)に──幸福と救いあれ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。