勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。 作:かませ犬S
(*`・ω・´)
───前世のように舗装されていない道を馬車で走ると振動が直にくる為乗り心地は良くない。車とか舗装された道路の存在を失ってから実感する。インフラが進んでいない訳ではないが、前世に比べると魔法の比重が重たいのか道の整備だったりは後回しにされている感じがある。
さて、現在俺たちはタングマリンを出発してテルマに向かっている道中である。移動手段は俺たちが普段使わない馬車だ。セシルが教会に行ったと思ったら荷物と一緒に馬車を引き連れて俺たちの前に来た。しっかり御者も手配してくれている為俺たちは乗っているだけでいい。
オマケに馬車を護衛する騎士まで連れてきていた。どうしたのか聞いたらノエルとセシルの連名で教会に働きかけたらしい。教会の重鎮である2人からの要望に迅速に対応した結果らしい。
この場にノエルはいないが、クレマトラスを出る時に渡された手紙が効力を発揮したとドヤ顔をしていた。これでもかってくらいの権力を見せつけられたな。
旅の準備なんかは普段俺がしているが、セシルの方が手際が良い気がする。もう全部彼女に任せようかな? それをしたらセシルに冷めた目で見られそうだ。出来ることは自分でしよう。
テルマに向かっているメンバーだが、実は勇者パーティー全員で行っている訳ではない。トラさんは義手がまだ完成していない為、引き続きマクスウェルの所に顔を出さないといけないのでタングマリンから離れる事が出来ない。
同様にサーシャもマクスウェルの手伝いをしないといけないらしく、同行はしないようだ。
『ジジイ1人でも作れるでしょ』っとかなりブツブツ言っていた。聞いた話によるとトラさんの魔力の移動スピードだったり、筋力だったりがマクスウェルの想定より上で思ったより進捗が良くないようだ。そこで弟子のサーシャに声をかけて魔道具の制作に力を入れるようだ。
そんな訳でトラさんとサーシャの2人がタングマリンに残りエクレアとダル、セシルと俺の4人でテルマに向かう事になった。
セシル曰く別にダルは来なくていいとの事だが、話の内容が気になるから絶対ついて行くと同行が決定した。
エクレアはどうも俺の加護の解除に関わるようでセシルの方から同行をお願いしていた。俺からも頼むよ、と一声かけると即決で同行が決まった。助かると思いいつつ彼女からの視線が熱く、対応に困る所ではある。
狭い場所に俺たち4人。3人が女性だと思うと非常に肩身が狭い。セシルは同性ではあるが、その可愛らしい容貌から同じ性別だと認識するのは難しい所だ。
エルフの国であるテルマには勇者パーティーとして2回程入国した事があるが世界樹のある王都に行った事は実はない。選民思想が強くエルフ自体に難があるのもあるが、魔族によって女王が殺された頃で国全体が緊張感に包まれているのが大きいか。特に他国からの入国を厳しく制限しているようだった。
今回は教会の権力をこれでもか使っているので気にしなくていいそうだ。セシルとノエルもそうだが、その父親も法皇候補だ。テルマにおいても無視出来る存在ではないようだ。
「セシル1ついいか」
「なんですか義兄さん?」
「加護を解除すると言っていたが、いったいどうするんだ? 世界樹の力を借りるとも言っていたが」
「そうですね。テルマに着く前に説明して方がいいですね。全く理解出来ていない凡人もいるようですので」
急に動向が決まったエクレアは当然どういう経緯でテルマ行きが決まったか知らない。だが加護、そしてミラベルが関わる話なら彼女も当人だ。俺と同じミラベルが関わった転生者である以上他人事ではないと思う。
俺の隣を陣取って首を傾げているダルは、完全に話の流れで着いてきた感じだな。セシルが説明しないから俺に対してしつこく聞いてきたので簡単に説明はした。
後はセシルに補足して貰った方が話は早いと判断した。
「義兄さんは既に知っていると思いますが、初代法皇ルドガー・キリストフをご存知ですか?」
「名は聞いた事があるぞ。詳しくは知らないのじゃ!」
「最初に教会を設立したテルマの元大臣だった人だ。神との在り方を確立する為に教会を作ったとされている。ファミリーネームから分かると思うがノエルやセシルのご先祖さまだよ」
「ご先祖さまが成した功績は語り出したら止まらないので、一先ず置いておきますね」
そういう割にドヤ顔だな。ご先祖さまの話が出来て嬉しいのだろうか? 聞いてる感じだと尊敬しているのは分かる。初代法皇であり、テルマの大臣だった男だ。非常に優れて人物だったのだろう。本当に俺と同じ転生者か?
「義兄さんにお聞きしたい事があります」
「なんだ?」
「義兄さんは転生者ですか?」
セシルの問いかけに直ぐ答えず、彼女の隣に座るエクレアを一目見る。反応はないな。真っ直ぐにこちらを見つめ返すだけだ。
この類の質問にエクレアは答えれないだろう。だが、エクレアが俺と同じ転生者である事は既に分かっている。それで十分だ。
「その様子だと確信があるようだな」
「ミラベルという名前が出ましたからね。その名前の神が関わっているのは基本的に転生者と呼ばれる者たちのようですから」
「その通りだ。俺は転生者だよ。セシルのご先祖さまであるルドガーと一緒のな」
「本を読んだくらいで分かったのですか? 僕たちはご先祖さまの日記や子孫宛に書かれた手紙のお陰で知っていますけど」
「彼が行った功績で分かった感じだ。それについて話すと長くなるだろうし、また今度話すよ。
セシルにも知っておいて欲しいから言っておく。転生者は俺だけじゃなくて、勇者であるエクレアも俺と同じ転生者なんだ」
当事者であるエクレアの反応はない。前と同じだ。転生者や前世、神についての話題には一切反応出来ないようだ。隣にいるセシルは驚いた表情をしている。エクレアも俺と同じ転生者とまでは想定していなかったようだ。
ちなみにダルは話が始まった頃からずっと首を傾げている。彼女からしたらよく分からない話をされている感じだからな。申し訳ない気持ちになるな。
「先程から気になってるのじゃが、転生者とは何なのじゃ?」
「なんて説明したらいいだろうか?
簡潔に言ってしまえば、先程から話に出ているミラベルと呼ばれる神によってこの世界に送り出された者。
前世の知識を持ったまま生まれた、言ってしまえば異物だよ」
「む!カイルは異物等ではないぞ!我が保証する!」
「ありがとう、ダル」
エクレアはこの手の話はダメだな。全く反応出来ないらしくこっちを見つめるだけだ。セシルの様子から見ると転生者については知識として知っているようだ。
ご先祖であるルドガーが残した日記や、手紙に書いてあったのか?
「大事なのはそこではなくて、義兄さん達を送り出した者が元凶なんですよ」
「ミラベルと呼ばれる神か?我も今まで聞いた事がなかったぞ」
「教会の神のように皆に存在感を放つ存在ではないからな。自分が送り出した転生者の前にしか基本的に姿を現さないらしい。関係ない人からすれば会うこともない知らない神だよ」
「教会にとってはミラベルは邪神として扱っているので、神官の中では周知されています。中にはミラベルを真の神と崇めて追放された者もいますが」
神という意味では間違ってないだろうな。生憎と俺は既にミラベルを信じる事は出来なくなっている。セシルが彼女を邪神と断言しても納得していた。
加護と呼ばれる力で転生者の人生を歪め、壮絶な人生を無理やり送らせているそうだ。真実を知って尚、信じる事は流石に出来そうにない。
「図書館でも話しましたがミラベルは転生者に対して加護と呼ばれるモノを与えています」
「言葉の通りなら有難いモノのように聞こえるぞ!」
「その性質は加護という名の呪いに近いらしい。俺も詳しくは知らないが転生者の運命やその者の意思すら歪める力があるらしい」
「カイルが抵抗出来なかったのは加護が原因だと言っておったな」
「僕たちのご先祖さまもミラベルから加護を与えられていました。ご先祖さまも義兄さんと同じだったみたいです」
「同じ?」
「はい!女性から迫られるとどんなに強く意志を持っていても抵抗出来なかったと日記に書いてありました。まるで好みじゃないブスにも体を許すのは腹立たしいとも」
聞いてる感じだと俺と同じようだが、なんと言うか凄い苦労したのが少ない情報で分かる。この様子だとルドガーさんは結構細かく日記に記して残した人のようだな。
俺は日記を書くようなマメなタイプではないから続かないな。
「それが何度も続いたので流石にご先祖さまも違和感を感じたそうです。それでも原因が分からず困っていた時に助けてくれたのが僕たちが信仰を捧げる神様です」
「教会の神か」
「はい!ご先祖さまは長い歴史の中で唯一神様と会話する事が出来たと聞いています!ご先祖さまは神に助けて貰ったご恩を返すために教会を設立したそうです」
「教会の神のお陰で加護を解く事が出来たのか?」
「はい。神様は僕たち神官に寄り添ってくれる存在でしたから」
満面の笑みを浮かべるセシルを見ると複雑な気持ちになる。ミラベルに限った話ではないが神という存在を信じていいのかがそもそもの問題だ。
教会の神は人間やエルフに寄り添って導きてきた存在である事は分かるが、その反面魔族に意図的に魔法を教えなかったり彼らが抑圧されるように仕向けた可能性がある。
魔族の歴史から見ても善良な神とは断言出来ないだろう。
「神様はご先祖さまに告げたそうです。聖剣と世界樹の力があれば魂に刻まれた加護を外す事が出来ると」
「世界樹と聖剣」
それでエクレアが同行する事になったのか。あ、今気付いた。エクレアが反応出来ない話題だから身動ぎしないのかと思ったら、よく見ると寝ている。うつらうつらと船を漕いでいる。
エクレアにも関係ある話ではあるが、あまり興味がなかったか?
「詳しいやり方はまた現地で説明しますね。ただ日記に書いてある内容だとかなり痛みを伴う様なので予め覚悟しておいてください」
「痛いのか?」
「日記にももう二度としたくないと力強い字で書かれていました。言葉として表現出来ないような不快感と痛みだったそうです」
「その話を聞くと受けたくないんだが…」
「受けてください。ご先祖さまは加護を解くまでに女性関係で8回程死にかけていますので。義兄さんも恐らく同じ加護を与えられていると推測出来るので義兄さんが死なないように早めに解除しまょう!」
グッと握り拳を見せるセシルに頷いて応える。俺としたら割とヒヤッとする話ではあるのだが。俺が知ってる転生者で女性関係にだらしなかったタケシさんも大乱闘を起こしたり、腹を刺されたり女性関係で危ない目に合っている。彼の最後は嫉妬による処刑だった。
俺と同じ加護を与えられたであろうルドガーは8回も死にかけているらしい。なら俺は?
実際に抵抗出来なかった事を思い出し、これはマズいと覚悟を決めた。
「俺の為にわざわざすまない」
「気にしないでください。ご先祖さまが僕たちに残した手紙の指示に従ってるだけですから」
「手紙の指示?」
「はい。ご先祖さまはミラベルの存在を許せなかったみたいです。だから教会を設立してミラベルの存在を全否定しようとしたそうです。ご先祖さまと同じ転生者が現れたら、加護を解いてあげるようにと書かれていました」
ルドガーの死には分かりやすくミラベルが関わっていた。それだけルドガーの存在はミラベルにとって脅威だったのだろう。大司教の女を操ったのはミラベルか。転生者以外にも関与出来るのなら俺も注意しないといけないな。
彼女が何のために俺たちに加護を与えているのかが分からないが、転生者を思っての行為ではないだろう。
「僕にとって大切な人だから、ご先祖さまの命を奪った邪神の加護のせいで傷付いて欲しくないので」
「ありがとうセシル」
「我もカイルに傷付いて欲しくないぞ!カイルを愛しておるからな!」
「好意は嬉しく思うよ」
「ならば我の愛を受け取るのじゃ!」
「今の義兄さんは抵抗出来ないのでダメです!離れてくださいダルさん!」
俺に抱き着いたダルをセシルが必死に引き剥がそうとしている。馬車はそんなに広くないから暴れないで欲しい。この騒がしさの中で寝てるエクレアは凄いな。
俺の場合は当事者だから寝れる気がしないぞ。それでも悪い気はしない。俺の為を思って行動してくれたセシルに感謝しかない。
2人のやり取りを見て、気付いたら微笑んでいた。
───煩いと御者の人に怒られ直ぐに真顔になった。