勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。 作:かませ犬S
「バージェスJr、お前はここで勇者パーティーを足止めしておけ。その間に俺が国を落とす」
───背中の赤い翼を大きく広げドレイクが飛翔する。その動きを止めようと咄嗟に『飛燕』を放ったが、無造作に払われた翼によって飛散した。
切れ味はあるが耐久力が皆無だから、ただ放つだけでは『飛燕』は強い相手には効かないか。とはいえ空を飛ぶ相手に対する手段が他にないからな。
こちらの事などまるで眼中に無いと言いたげに飛び去っていくドレイクを見送る事しか出来なかった。サーシャがいればドレイクを止めれたと思うが、こればかりは仕方ないな。
残されたバージェスJrを見れば額に青筋が浮かび上がっている。怒りの沸点が随分と低いなこいつ。
「ドレイクぅぅぅぅ!!!どこまでも俺様を下に見やがって!!俺様は配下などではないぞ!」
怒りに任せて怒鳴り地団駄を踏む。ただそれだけの動作だが、少し離れた俺の位置まで振動が襲ってきた。
怒りが治まらないのか何度も地団駄を踏んでいる。バージェスJrが踏みつけた大地が蜘蛛の巣のように割れ、その足が大地に着く度に亀裂が広がっていく。
立ち振る舞いから四天王とは思えないが、強さという1点のみで見るのならそれに相応しい強さはあるかも知れない。そう思わせるだけの威圧感を纏っていた。
「どうするカイル?」
「ドレイクを追いたい所だが、こいつを放置する訳にもいかないだろう。手早く倒して救援に向かおう」
俺とダルのやり取りを聞いていたのだろう。地団駄を止めたバージェスJrが怒りに染った赤い顔で射抜くような視線を向けてきた。
「この俺様!お前達ごときが手早く倒すだと!!どこまで俺様を舐めているんだ!!」
「倒すさ。そうしないと誰も救えないだろう?」
「一瞬でケリをつけてやるのじゃ!」
「ふざけやがってぇぇぇぇ!」
怒りに任せてバージェスJrが突っ込んできた。それに合わせてダルが俺から距離を取った。魔法の詠唱を行うようだ。詠唱時間を稼がないといけないか。
その肉体の筋肉は飾りではないらしい。大地を力強く踏みしめ一気に俺との距離を詰めてきた。
いくら何でも単細胞にも程があるだろう。ちょっと挑発するだけでこうも乗ってこられると、それはそれで対応に困る。
バージェスJrが怒りに任せて振るった拳を避ける。顔の横を通る拳と風きり音にヒヤッとする。単調な攻撃ではあるが当たれば死ぬかも知れないな。トラさんと違いキレはないが威力はバージェスJrの方が上か?
ブンブンと振り回す拳を避けてデュランダルを振るう。岩でも斬ったような感触だ。魔力で強化した筋肉ダルマを切り裂くのは簡単ではないな。
「どうした!その程度の攻撃では俺を傷付ける事は出来んぞ!!」
「お前の右肩を切ったのは俺の剣だよ」
視界の端でダルの詠唱が終わったのを確認してバージェスJrの巨体を蹴って距離を取る。
「『フラッシュボム』」
赤い魔法陣が浮かび上がり耳を劈く爆音と共に眩い光が辺りを包み込む。
「2度も同じ手が効くかぁぁぁぁ!」
1度食らって痛い目を見た魔法だ。2度目となるとしっかり対応してきた。爆音に備えて両耳を手で抑え、魔法陣に背を向けてしゃがみ込む事で回避したらしい。
フラッシュボムを対処したのは見事だが、間抜けにも程があるだろ。敵に背を向けてしゃがみ込むとかバカとしか言いようがない。
「ん?…ぐわあああ!!!」
エクレアが放ったであろうビームがバージェスJrを飲み込んだ。敵に背を向けてしゃがみ込んでたら回避なんて出来る訳がない。その隙を見逃すほどうちのパーティーは甘くない。
ビームが飛んできた方向を見ると、崩れた外壁付近にいたエクレアがこちらに駆け寄ってくるのが見えた。王都の中に入ろうとしていたサイクロプスを1人で倒していたらしい。
彼女がいた付近にサイクロプスの死体が散乱している。聖剣から放つビームで跡形もなく消し飛んだサイクロプスもいるだろう。エクレアがこちらに向かって来るという事はサイクロプスが片付いたという事だ。
数を減らしていたとはいえ、短時間で30体近いサイクロプスを掃討したのか。相変わらず化け物みたいな強さだな。勇者パーティーの中でも1人だけ強さが抜きん出ている。
───ザッと地面を踏みしめる音がして、思わず振り返る。
「おのれぇ」
驚いた。あのビームを食らって生きている奴を見るのは初めてだ。無傷ではない。体の至る所から出血はしているが、ふらつくこと無く立ち上がりこちらを睨み付けている姿を見るとまだ戦う余力はありそうだ。
「聖剣の一撃を耐えたのか」
「あの程度の攻撃、俺様に効く訳がないだろうが!」
バージェスJrが威勢よく叫んだが、外だけではなく内側も傷付いていたらしく叫んだ拍子に口から血が溢れ出た。ダメージは少なくない。
それでも表情一つ変えずにこちらを睨み付けている。先程と少し様子が違う。血が流れて冷静になったのか? 威圧感が増しているのが分かる。
待て!気の所為か? 体格が少し大きくなっている気がするぞ。筋肉が膨れ上がっている?
「デカくなってないか?」
「うむ、筋肉が膨れて醜い姿なのじゃ!」
「この俺様の美しい体を醜いだと!?」
額に青筋が浮かんでいる。だが怒りに任せて突っ込んで来るような事はしない。口元がピクピクしているから本気でキレているのは分かるが。それでも怒りを抑え込むように大きく息を吐き、冷静にこちらを見据えている。バージェスJrの視線の先にいるのはエクレアか。
俺の横まで駆け寄ってきてエクレアが俺たちとバージェスJrの様子を見て首を傾げている。彼女も先の一撃で倒したと思っていたのだろう。聖剣を見た後に傷だらけではあるが立っているバージェスJrを見て驚いたような表情をしていた。
「貴様が勇者パーティーで1番厄介なのは理解した。今代の聖剣の担い手にして、歴代勇者でもなし得なかった聖剣の力を解放する事が出来た唯一の勇者だな」
急に知能が上がってないかこいつ。
「魔王様がお前を1番警戒していた。聖剣の一撃を耐える事が出来るからと今回のエルフの国のを襲撃を俺様が任されたからな。予想外の威力だった。見事な一撃だ」
そこにあるのは純粋な賞賛。自分の肉体に自信があったのだろうな。聖剣の一撃すら無傷で受け止められると。だが、結果から言えば無傷で受け止める事は出来ず大きなダメージを受けた。予想外の一撃を放ってきたエクレアを好敵手と見定めたのか笑みを浮かべている。
急に人が変わったみたいに冷静になったな。ドレイクとのやり取りや言葉一つでカッと怒りに染まって攻撃してきた姿が嘘みたいだぞ。
体の調子を確認するように腕を回している。素晴らしい一撃だ!と笑いながら血を吐いている。なんだこいつ。
「俺様の体にこれだけのダメージを与えたのはお前たちが初めてだ!見ろ!分かるか!俺様の筋肉が躍動している!久方ぶりの強敵に体全体が喜びの声を上げている!」
1人で興奮するバージェスJrを見てダルが『気持ち悪いのじゃ』と小さく呟いたのを近くにいた俺は聞き逃さなかった。気持ちは分からないでもない。
赤いモヒカン頭でパンツ一丁の筋肉ダルマがニヤァと嬉しそうに笑っている姿は人に見せられるものではない。まだ怒りで顔を赤く染めている方が良かった。なんだ、新手の精神攻撃か?
物理攻撃だけでなく気持ち悪さで俺たちを攻撃しているのか?嫌な四天王だな。
冗談はさておきバージェスJrのあの筋肉は見せ掛けではない。現に聖剣を解放したエクレアの一撃を耐えている。とんでもない硬度だと言える。『空牙一閃』で傷が付けられたのはダルの『フラッシュボム』で目を潰され魔力の強化を上手く行えなかったからだろう。
あの
王都の方は今どうなっている? 中へ入ろうとしたサイクロプスはエクレアがあらかた片付けていたが、何体かは崩れた外壁から中へ侵入しただろう。
外壁を意にも介さないドラゴンは王都を強襲している。それに対応出来る騎士がどれだけいる? 『聖地エデン』への救援に多くの騎士が出ているのは聞いている。
最高戦力である『薔薇の騎士』も常の半数しかいない筈だ。ドラゴンに加えてドレイクの相手を出来るのか? 少なくない被害が出ると思う。
サーシャかトラさんがいれば人を分けて対処したんだがな。ないものねだりか。
「俺様の名前はバージェスJr!!
『2代目豪鬼』バージェスJrだ!!」
両手を広げて喜びを体で表現するバージェスJrを放置する訳にもいかない。
外壁を壊していたあの魔法を街中で連発されたら被害はとんでもない事になる。先ずはこいつを倒さないといけないな。時間はかけたらダメだ。手早く倒さないも間に合わなくなる。
俺がデュランダルを構えるとエクレアとダルが武器を構えるのが見えた。それを見たバージェスJrが嬉しそうに笑う。
「歴代最強の勇者が率いる勇者パーティーか!全員が揃っていないのは残念ではあるが、血湧き肉躍り筋肉が喜ぶ闘いをしようではないか!!!」
───四天王の一人『2代目豪鬼』バージェスJr。
血が流れれば流れる程、冷静になり強くなる男。