勇者パーティーの仲間に魔王が混ざってるらしい。   作:かませ犬S

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Episode4. コバヤシの追憶 後編

 無くなっていた体の感覚が戻ってきた。まず感じたのは地面を踏みしめる足の感覚。かつての肉体で感じた脱力感や胸の痛みは存在しない。視界はまだ真っ白で何も見えない。手を握りしめた指の感覚もある。触覚は正常。

 体の中を巡る魔力の流れも確認出来た。魔力量に変化はない。魔力も正常。

 木と土の匂いがした。嗅覚も正常。鳥の囀りと木々が風でざわめく音が聞こえた。聴覚も正常。

 真っ白な光景が徐々に消えていく。世界が広がるように白一色の光景から、視界いっぱいに鬱蒼と生い茂る木々が映る。視覚も正常。

 味覚まで確認する必要はないかな?体に異常は感じない。クロノスを信用するなら全盛期の肉体でこの世界に再び転生した事になる。同じ肉体だし蘇ったとか転移したとかの方法が表現としては正しいかな? さて、改めて確認しよううか。

 

「ここは何処だろうか?」

 

 軽く辺りを見渡してみた結果、現在僕がいる場所は森の中だという事が分かった。流石にこれだけの情報では大陸のどの位置かまでは分からない。町や村ではなく森の中か。恐らく、転生する瞬間を人に見られないように人目につかない所を選んだ事は予想出来る。

 それならせめて一言欲しいかな。いきなり森の中に放り出されるのは想定外もいい所だよ。

さて、どうしたものか…。

 

「ん?」

 

 顎に手を当てて思案していると、微かに人の声が聞こえた。会話をしている事から2人以上かな?声と一緒に足音が少しずつこっちに近付いて来ている。近付いて来る者たちは『テレパス』の対象では無い。同胞では無いのなら遠慮はいらないかな。

 魔力を流して魔法の発動に備える。

「こっちの方だな」

「警戒は怠るな。この地を縄張りにしていたダイアウルフが一目散に逃げていた。災害級指定の魔物かも知れない」

「了解。先程見えた光はこの辺だったか?何か見えるか」

「あそこにいるのは人か!?」

 

 木々の間を縫うようにして姿を見せたのは鎧を纏った3人の男。外見的特徴から判断するに種族は人間。装備の質が一目で分かるくらい上がっている。1000年の月日が流れていると言うのはどうやら嘘ではないようど。

 

「やぁ、こんにちは」

「あ、はい。こんにちは」

「バカか!警戒しろ!明らかに人間じゃないぞ!」

 

 気が抜けるようなやり取りを見ながら準備していた魔法を彼らに向けて放つ。黒い魔法陣がが僕の目の前に現れた瞬間に臨戦態勢に入ったけど、対応が遅い。僕の放った見えない斬撃が2人の男を真っ二つに両断する。昔から使っている魔法だけに発動までの流れが我ながらスムーズだった。

 装備の質は上がっていたけど魔法耐性はそれほどだね。どちらかと言うと物理耐性の方が高いのかな?対魔族を想定しているなら物理耐性より魔法耐性を重視すると思うのだけど…。

 

「え?」

「『ダークネスバインド』」

 

 いきなりの出来事に硬直していた最後の生き残りを魔法で拘束し、安心させるように笑みを浮かべて歩みを進める。引き攣った顔だ。困惑から恐怖へと感情が切り替わったのか、体が面白いくらいに震えている。

 

「エルフや獣人じゃない…。角や尻尾、翼…外見的特徴は…そんな……ま、魔族なのか?」

「正解だよ。君の目の前にいるのは魔族の1人だ」

「嘘だろ…勇者様が魔王を封印した時に魔族も一緒に消えたって…魔族…なんてもう、この世に存在しないって…」

 

 面白くない話をしている。視線を向けるとカチカチと歯が震える音が耳に入る。ここまで怯えているなら魔法を使わなくても情報を聞き出せけど、命欲しさに嘘偽りを言う可能性もある。しっかり魔法を使って聞き出そう。

 体に魔力を流して魔法を発動させる。黒い魔族陣が魔法で拘束された男の足元に現れるとヒッと怯えるように声を漏らした。

 

「安心していいよ、痛くはないから」 

「嫌だ…死にたくない…この仕事が終わったら恋人に…」

「『服従(オビディエンス)』」

「ああぁあぁあああぁああぁああぁあぁあぁああぁぁああぁあぁあ!!!!!」

 

 魔族陣から真っ黒なおぞましい手が這い出る光景に恐怖が極限まで達したのか男が叫ぶ。直ぐに終わる事とはいえ耳障りな事には変わりは無い。叫び声を抑える為に手で口を塞げば両目から涙を流しながら、男が失禁した。

 

「汚いなぁ…もう」

「……ぅ……ぁ……」

 

 黒い手が男の体をゆっくりと登っていき、後頭部から吸い込まれるよう頭の中へと入っていく。1度だけ体がビクリと跳ねた後、男の体から力が抜けるのを確認し口を塞いでいた手を離す。手に涎が付いたのが不快だった為男の衣服で拭き取り、改めて視線を向けると男は虚ろ目で空を見つめていた。

 しっかりと服従の魔法にかかっているようだ。

 

「用が済んだら殺してあげるから僕の質問に答えて貰うよ、いいね」

「はい」

 

 ───幾つかの質問を投げかけて魔族の現状についておおよそ把握した。今から300年程前に魔王が勇者ハロルドによってその身を封印され、同時に魔族も表舞台から姿を消した。

 この男の知識では魔王が消えた事で魔族もこの世から消えたとされ、勇者ハロルドによって世界に平和が訪れたと伝えられたようだ。

 魔王が封印されたとしても魔族が消える訳ではないのだけど、恐らく誰かが意図的に情報を流し魔族に対する畏怖の消えない多くの者たちがその情報を信じ広めた結果だと予想される。

 

 アデルが倒れた時に僕は『テレパス』で次の魔王が決まるまでは『擬態』の魔法を使って隠れ潜むようにと伝えた。魔族を束ね先導する者がいなくなった以上、これ以上の交戦は危険と判断したからだ。

 無理な戦いはせず体制を立て直して次に備えればいいと。数人の魔族は我慢出来ずに戦い命を落としたようだったけど、それでも耐える事の大切さを理解していた魔族は一度その身を潜めた。

 

 『擬態』の魔法を全ての魔族が使える事が出来て良かったと思う。そうでなければ森や山といった人の寄り付かない地で隠れ、人間やエルフに怯えながら生活しなければならなかった。

 『擬態』の魔法でその姿を敵である人間やエルフ、あるいは協力関係にあるドワーフや獣人に変えてしまえば潜む事は容易い。

 デメリットとして発動している間は常に微力とはいえ魔力を消費し、魔法を使用しているので寝ても魔力が回復しないという点がある。魔法を解除しても大丈夫だと思える安全な場所以外では『擬態』を解く事は出来ず、魔法を解いている間は人目を気にして睡眠を取らないといけない。

 人やエルフの中に潜む事は容易いけど、そこで待っているのは逃亡者の生活だ。常に人目を気にする必要がある。その状況から抜け出るにはやはりエルフや人間を滅ぼさないといけない。自分たちの驚異となる存在を滅ぼして漸く僕たちは自由を得ることが出来る。

 

 話を戻そう。今回も僕たちの時と同様に魔王が封印された事で魔族は潜む事を選んだようだ。ある程度魔族についての知識がある者はこの男のように魔族がおとぎ話のような存在とは思わず、この世に存在する魔族を警戒しているだろう。

 300年間、平和が続いた事で気が抜けた者も多くいるようだ。その方が僕たちにとっては都合がいい。

 

「『ゼロス』」

 

 魔法で拘束された状態の男を見えない斬撃が両断する。必要な情報は聞き出せたから用済みとなった男は始末した。正直生かす人間を間違えた感はあるかな。最初に殺した人間の一人が隊長だったようで魔族についての知識もその男の方がしっかり持っていたと思う。

 過ぎた話ではあるから後悔しても仕方ない。

 

「『擬態(ミミック)』」

 

 より多くの情報を入手する為に付近にあるエルド伯爵と呼ばれる貴族が統治する村へ向かう事にした。その為に魔法で魔族の特徴を隠す。僕の容姿を覚えている者がいるかも知れないので念には念を入れて外見も変化させた。

 僕が現在いる場所は人間が治める『アルカディア』と呼ばれる国の領内らしい。大陸の北東に位置しており、ガラティア・フィンガーランドと呼ばれる稀代の名君が国を治めているそうだ。

 大陸の勢力図は僕の死後から少し変化した程度だった。大きな変化がないのは僕たち魔族の存在が大きいようだ。

 エルフとドワーフ、人間と獣人、エルフと人間といった感じで種族間で何度か小競り合いは起きたようだけどそれでも大きな争いには発展していない。魔族が種族間で争っている間に再び襲って来る事を恐れたようだ。

 

「村のあっちの方角だったかな」

 

 殺した男から入手した知識を頼りに村に向かって歩き出す。その道中で『テレパス』を使って状況を確認する。随分と魔族の数が減っているのと、知らない魔族も増えていることに気付く。世界各地に散らばるように魔族の反応があり、その中の1人はかつての僕の部下だった。魔族の現状については彼に会って話を聞いた方が早いと判断して『テレパス』で連絡を入れる。

 クロヴィカスが僕の言葉を信じ合流場所に来てくれる事を祈りながら、歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは何も変わらないね」

 

 久しぶりに見るレグ遺跡は最後に訪れた時と何も変わっていなかった。1000年近い時が経過したにも関わらず劣化した様子もない。壊れた形跡もないのが不思議なくらいだ。前回と同じようにレグ遺跡に入ろうとしたけど、見えない壁のようなモノに阻まれて中へと入る事は出来ない。

 目的地はレグ遺跡の中ではなく外にある壁画ではあるけど、レグ遺跡全体をドーム状に覆う結界が僕の侵入を阻んでいるようだ。

 誰が張ったものかは分からないけど、かなり強力なものだね。普通に張るだけではここまで強力な結界は張れない。魔晶石か何かを結界の核にした可能性が高い。エルフが守護する世界樹は結界によって護られているとされ、その核となっているのが100を超える魔晶石。

 その多くはかつてエルフと人間が滅ぼしたとされる竜人から得たものだ。

 

「強力ではあるけど壊せない訳ではない」

 

 体に魔力を流しながら詠唱を始める。僕が使える魔法の中でも最も威力が高い魔法。強力ではあるけど決して壊す事が出来ない強度ではない。黒い魔法陣から放たれた魔法が結界に当たり、一瞬の拮抗の後僕が放った魔法が結界をぶち抜いた。ガラスが割れるような音を立てて結果が崩壊していくのを後目に目的地である壁画へと向かう。

 前回見た時と何も変わっていない。その事に安堵しながら壁画に魔力を流すと、僕の体を光が包み気付けば先程とは違う白一面の空間に移動していた。

 

「無事で良かったよ」

 

 言葉を投げかけても返事はない。綺麗に装飾された台座の上に置かれた緑色の水晶は不気味な程に美しかった。魔力を流せばティエラの肉体を取り出す事が出来るけど、外に出せばその分肉体を蝕む毒の進行が進む。

 万が一を考えれば取り出すのはエルフの毒の解毒剤を入手してからの方がいいだろう。

 

「1000年の間に随分と変わったね」

 

 この世界に再び戻って来て、早い事に2年の月日が経過した。予定ではもう少し早く確認の為にレグ遺跡に足を運ぶつもりだったけど、情報収集や同胞たちと接触していると思っていた以上に時を要した。

 幸先がいい事に最初に『テレパス』で連絡を送ったクロヴィカスと再開する事が出来た為、魔族の現状を凡そ把握する事が出来た、僕に直接会うまではかなり警戒している様子ではあったけどね。

 

 現在魔族を率いる魔王は今代で5代目になるらしい。一度会って話をしたい所ではあるけど、クロヴィカスも何処に居るかは知らないと答えていた。潜伏している場所どころか名前すら知らないと言っていたかな?

 命令だったりは手紙、あるいは今代の魔王が生み出した『念話(テレパシー)』と呼ばれる魔法で伝達される。僕の能力に近いモノのようだけど、使用する魔力が膨大らしく多用は出来ないらしい。

 そこまで用心する理由も、まぁ分からないでもない。先代魔王であるロンダルギアは同胞の裏切りにあって勇者パーティーに討ち取られた。それも四天王と一人に数えられた重鎮の裏切りだ。その事を重く見ているようで、居場所所か名前すら打ち明けない事を考えると今代の魔王はかなり用心深い性格をしているようだ。

 同胞の前に姿を見せる事は少なく、見せたとしても『擬態』によって容姿を変えている。本当の姿を知っているのは極一部の魔族だけだろうと。5代目魔王として判明している事は女性である事と、ハーフである事。そして現存する魔族の誰よりも強い事。

 姿もまともに見せない魔王を主君として認めているのは他を寄せつけない圧倒的な強さがあるからだ。今代の魔王の強さは初代魔王にも匹敵するだろうと。

 

 その言葉に偽りがないのなら魔族が5代目魔王を主君として敬い従う理由は分かる。ティエラという存在を知っているからこそ、絶対的強者と呼ばれる存在に惹かれる。彼女についていけばいいと思わされる。クロヴィカスも5代目魔王に心服している様子だった。

 今代の魔王様なら魔族の世を作り出す事が出来ると意気揚々と語っていたね。

 そんな5代目魔王についてだけど、同胞と接触する為に世界各地を回っていた際に聞いた情報と異なり魔王は勇者によって封印されていなかった。

 

 戦いの始まりは今から300年前で5代目魔王が魔族を率いて人間やエルフに戦いを挑んだ事から始まる。これまでと同様にドワーフと獣人は傍観を決め込み積極的に魔族と争う事はなく、主な敵は人間とエルフの2つの勢力だった。

 戦いが始まった当初は魔族の優位で戦況は進んでいたけど、勇者パーティーを始めとした英傑たちの登場により魔族は徐々に押され始めた。話を聞いた感じだと、どうもミラベルが送り込んだ転生者の姿もあったようだ。

 劣勢を覆そうと5代目魔王も奮闘したけど、数的不利や勇者パーティーによって四天王の一人が討ち取られ、このままだとジリ貧だと判断し5代目魔王の命で魔族は再び潜む事を選択した。

 他の魔族と同様に5代目魔王も潜む予定であったけどその最中に件の勇者パーティーと遭遇し戦闘となった。激闘の末に勇者を除くパーティーメンバーはその戦いで戦死、互いの魔力もあと僅かとなり勇者が苦し紛れで放った魔法で封印された体を装いその場から逃走。その後は体制を立て直す為に人間やエルフ達に紛れて隠れ潜んだ。

 

 魔王が封印されたとされるタイミングで全ての魔族が表舞台から姿を消した事で、300年前の戦いは終戦を迎えた。人やエルフの間に広まっている噂はどうやら魔族が意図的に流したもので、それを信じたい者たちが更に広げて今に至っている。

 300年経った現在、次の戦いに備えクロヴィカスを始めとする魔族は魔物を育成したりあるいは服従させ戦いの道具としている。王族や貴族の有力者の傍に近寄っている者もいる。皆が皆戦いの火蓋が切って落とされるのを今か今かと待っている。既に準備は万端であり何時でも戦いを始める事が可能。しかし肝心の魔王の命が下されない。

 

 戦いに臆した等の意見も飛び交っていたけど、その真偽は僕自身が5代目魔王と会えていないから分からない。何か狙いがあるんだろうけど、僕としては魔族に動いて貰った方が都合がいい。動かない魔王に催促をかけるようにとある噂を世界各地で流した。

 

『勇者によって封印されていた魔王が復活した!このままでは世界が滅びてしまう』

『姿を消していた魔族の姿を見たぞ。魔王が復活して魔族も復活したに違いない』

『魔物が凶暴化して被害が増えている。魔王が復活したのは嘘ではなく真実だ』

 

 隠れ潜む生活というのはストレスが溜まるものだ。準備出来ていなければ仕方ないと思えるだろうけど、何時でも動ける万全の状態で何年も待たされれば当然不満は溜まる。

 僕が動けば不満を持つ者たちも動いた。世界各地に散らばっている魔族によって流された噂は物凄いスピードで世界に広がっていく。噂に信憑性を持たせる為に動き出した者もいる。魔王の意図しない始まりであっただろうけど、戦争のきっかけというものはこのような些細な事から始まる。

 不本意かも知れないけど5代目魔王として魔族を率いて戦って貰おう。

 

「僕は天界へと向かう為に精霊の魂を集める。並行してエルフ国にある解毒剤を手に入れる。もう少しだけ待っていて欲しい」

 

 『世界の記憶(アカシックレコード)』の在処を知る唯一の存在である神に会うための手段はクロノスから聞いている。ティエラの体を蝕む毒の解毒剤の在処も。

 

「シルヴィが裏切ったと聞いてマナクリスタルが無くなっていないか心配したけど杞憂で良かった」

 

 レグ遺跡に訪れた理由はマナクリスタルの有無を確認する為。4代目魔王を裏切った魔族というのはどうやら僕の娘のシルヴィだったらしく、クロヴィカスから聞かされた時は驚いたものだ。彼が僕を警戒していたのは死んでいた僕が現れた事と、裏切り者のシルヴィの父親だからだろう。

 ティエラの肉体を保管したマナクリスタルの在処を知っているのは僕以外ではシルヴィだけ。魔族を裏切ったシルヴィがマナクリスタルを破壊するという最悪の事態も想像したけど、杞憂に終わった。

 

「それにしてもシルヴィが裏切るとは思わなかった」

 

 裏切るという行為に出るための感情をシルヴィは持っていない。僕がお願いした事もあり、義務的に魔族として戦っていた。そんな彼女が魔族を裏切ったのは1人の人間の為だ。

 どうやら心から愛する者が出来たようで、愛する者の為に魔族を裏切ったと言われている。バカな話だと思う。親心としても複雑な感情だ。

 魔族を裏切った事に対する憤りは当然あるけど、それ以上にシルヴィに感情が芽生えた事を嬉しく思う。人を愛する事は感情がなければ出来ない。感情が芽生えて始めて自分自身の意思を持つ。魂の抜けた娘の体を動かす為だけに生まれた人格が、自分の意思で動いた事が嬉しくて仕方ない。

 

 シルヴィに会いたい所だけど生憎と彼女には『テレパス』を使用する事は出来ない。僕の能力が対象としているのは魔族の肉体ではなく、魔族の魂らしい。魂を持たないシルヴィに『テレパス』を使う事は出来ない。魂を剣に移したティエラに『テレパス』を使う事が出来た。肉体ではなく魂で同胞を判別しているようだ。

 これ程歯痒いと思った事はない。不死であるから今もシルヴィは生きていると思うけど、何処にいるんだろうね。

 

「さて、バージェスJrを待たせているし僕もそろそろ行くよ」

 

 マナクリスタルの無事は確認出来た。その事を嬉しく思いながら足元の魔法陣に魔力を流し、その場を後にした。

 次に来る時は解毒剤を入手した時だ。その時は君に『テレパス』で連絡する。今そう決めた。

 女々しい話ではあるけど死ぬ直前で彼女に想いを伝えた事もあり、ティエラに連絡する事が気恥しい。それに彼女に託されたアデルを死なせてしまった。肉体を蝕む毒も解毒出来ていない。

 何も出来ない無能のままで彼女の隣に立つ事は出来ない。僕が成すべき事を達成出来た時にティエラに連絡を入れよう。

 

 

 

 

 

 

 ───時が経つのは僕が思っていた以上に早いもので、既に5年の月日が経過している。クロヴィカスを始めとする魔族(どうほう)たちが動き出した事で、5代目魔王も重い腰を上げたらしく3年ほど前に全ての魔族に命が下った。

 魔王の命を今か今かと待ちわびていた魔族たちがその命に従い一斉に動き出した事で、世界は面白いくらいに混沌とした。平和ボケした人間やエルフに苦戦する訳もなくも魔族優位で戦況を進めていたけど、必ずというように僕たちの前に立ち塞がる存在がいる、

 

 ───勇者パーティー。

 僕たち魔族が動き出したのとほぼ同じタイミングで世界各地から実力者を集めて結成された。勇者の血筋として知られるフェルグラント家の神童にして歴代最高の勇者と称えられるエクレア・フェルグラントが率いる6代目勇者パーティー。

 彼らの手によって多くの同胞たちが亡くなった。決して侮ってはいけない相手だろう。

 本来なら僕も魔族の1人として勇者パーティーの相手をするべきなんだけど、残念ながら手を出す事が出来ない理由が存在する。

 

 勇者パーティーにいるからだ。クロノスが執着する転生者が。例に漏れずミラベルが送り出した転生者らしく運命を歪める呪いを与えられている。最も与えられた本人は気付いてすらいないだろうけどね。

 クロノスからはミラベルへの対処が終わるまでは彼に手を出さないで欲しいと言われた。今死んでしまうとその魂はミラベルの好きなように差配されてしまう。クロノスの元にその魂が訪れないのは許せないそうだ。

 神という存在はどこまでも自分勝手だと思う。とはいえ彼の協力がなければミラベルに僕たちの手は届かない。今は従おう。

 

 クロノス曰く、ミラベルは世界全体を見ている訳ではなく送り出した転生者を中心に世界を覗き込んでいるらしい。余程の騒ぎを起こさなければミラベルに気付かれる事はないと言っていた。

 その言葉の通りここ数年は魔族に紛れて僕も動いてはいるけど、今の所ミラベルが気付いた様子はない。天界に行くための鍵である五体の精霊のうち半分の『火の精霊』『土の精霊』『風の精霊』の魂をバレずに確保出来たのは非常に大きい。

 残り二体の精霊の居場所を探している最中にクレマトラスで『不死の女王(アンデットクイーン)』シルヴィ・エンパイアの姿を見かけたという情報を耳にした。

 精霊探しを一時中断してレグ遺跡に向かっている道中で偶然彼らを見つけた。

 

 件の転生者───カイル・グラフェムとその仲間である勇者パーティーだ。クロノスや同胞達から話を聞いてはいた。実際に会うのはこれが始めてだったけど、転生者の彼が持つ剣を見て思わず足を止めてしまった。

 見間違える訳がない。彼が持っている剣はティエラの魂が宿った剣だ。人間が持つことは何よりも許せない筈。それなのに人間として知られる彼が持つことに不思議と不快感を感じなかった。

 然るべきところに然るべきものが収まったような、そこにあるのが当然のように思えてしまった。何故そう思ったのか解明したかった。彼と接触して話をすれば理由が分かる気がした。

 

「ここでもミラベルが邪魔なんだね」

 

 それが出来ない理由も存在する。彼を見ている者がいる以上、不用意に彼に接触する事は出来ない。あらかじめクロノスに何時どこで彼と接触すると伝えてさえいれば、短時間ではあるけど彼と接触は可能だ。

 クロノスがミラベルに仕事を振ったり、話しかけたりして世界を見る余裕を与えないようにすると言っていた。

 今回の出会いは偶発的なものである以上、クロノスに伝えてはいない。今、接触すればミラベルに気付かれるリスクがある。当初の予定通り彼らを無視してレグ遺跡に向かうべきだ。

 

「生きていたらまた会おう、クロヴィカス」

 

 勇者パーティーが入っていった村にはクロヴィカスが居る。彼の目的は勇者パーティーをクレマトラス引き付け、可能ならばその戦力を削ぐ事だ。クロヴィカスが引き付けている間にバージェスJrが『聖地エデン』を襲う手筈になっている。

 個人的にバージェスJrに任せて大丈夫だろうかという不安はある。共に背を任せあったバージェスの息子ではあるけど、些か脳筋すぎる気もする。まぁ失敗しても構わないかな。今回の『聖地エデン』への襲撃はあくまでも布石だ。エルフが今回の襲撃を重要視するなら、次の作戦の成功率は格段と上がるだろう。

 作戦の成功を祈りつつレグ遺跡へ向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう暫く思い出に浸ってからタケシの元へ向かうつもりだ」

「不躾だが聞きたい。不死のシルヴィに死ぬことは出来るのか?」

「この肉体は既に死んでおる。動かしているの妾の人格よ。その人格を消す」

 

 ───僕は現在、魔法を使って文字通り影に潜りシルヴィと件の転生者カイル・グラフェムのやり取りを盗み聞きしていた。まさか僕より先に彼らがレグ遺跡に着くとは思っていなかった。僕が徒歩で彼らの移動手段が馬車だったからかな? いや、1番大きな原因はバージェスJrだろう。

 何を血迷ったのかあのバカは作戦通りに『聖地エデン』を襲撃せず、のこのこと僕の前に姿を現した。何かあったのかと問えば『作戦を忘れたからもう一度教えてくれ』との事。あまりにふざけた返答に思わず頭を抱えてしまった。

 テスラが教育していた記憶はあったけどここまで脳筋になっているとは思わなかった。今からでも遅くないからと作戦内容を改めて伝えて、バージェスJrを送り出していた。

 

 そんな感じで僕が手間取っている間に勇者パーティーがレグ遺跡に到着した。彼らがやってきた理由はシルヴィが勇者パーティーと対話する事を望んだからだ。シルヴィを牽制する為の派遣されたクレマトラスの騎士団をアンデットで逆に包囲して、脅迫する形でこの地に招いたらしい。

 勇者パーティーが来たことで出ていくタイミングを失った僕は一先ず様子見しようと魔法で影に潜り彼らの後を付けた。シルヴィが対話を望んだカイル・グラフェムとのやり取りが気になったのも大きいかな。

 

「すまぬが1人にしてくれぬか? 」

 

 ───シルヴィの言葉にカイル・グラフェムが踵を返して去っていく。抑揚のない娘の声に心が酷く傷んだ。僕の位置からではシルヴィの表情は見えない。泣いてはいないだろう。その為の感情が抜け落ちている。

 心を持たないアンデット。そんな彼女が1人の人間の名前を呼ぶ時だけ心が弾んでいた。その人物こそが娘が愛した人間なのだろう。

 タケシ。聞き覚えのある名前の響きと、シルヴィたちの会話からミラベルが送り込んだ転生者である事が分かった。『動けるデブ』の異名で知られる4代目勇者パーティーの一人だったかな。1人だけ浮いていたから記憶に残っている。タケシは500年ほど前にエルフの王女を傷付けた罪で処刑されている。つまり、シルヴィに感情を芽生えさせた彼女の想い人は既にこの世にいない。

 

「タケシ…妾も今いく」

 

 話しかけるタイミングを伺っていたけど、それどころではなくなった。魔法を使って自害しようとしているシルヴィの姿に、思わず魔法を解いて彼女の前に立つ。

 娘にとってタケシという男は何よりも大切な存在だったようだ。タケシのいないこの世界に生きる意味を見出せない。想い人を追ってその命を断とうとしているのが分かった。 

 僕が唐突に現れたというのに驚いた様子はない。こちらに一瞥を向けただけでそのまま魔法を使おうとしている。止めないといけない。

 

「少し待ってくれないかな、シルヴィ」

「待たぬ。妾はタケシの元へ向かう」

「今死んでも君の想い人と再会出来ないと言ってもかな」

「なに!?」

 

 僅かではあるけどシルヴィから怒りの感情が見えた。こちらを見つめる瞳から感情を読み取る事は出来ない。相も変わらず生気を感じない瞳。彼女がほんの僅かでも感情を向けたのは僕に対してではないだろう。

 想い人に会えないという言葉に対してだ。本当に好きなんだねタケシという男が。複雑な気分だ。

 

「少しだけでいいから僕の話を聞いてくれないかな? 親心からの助言なんだ」

「分かった。話すがよい」

「ありがとう。大切な話だからしっかり聞いて欲しい」

 

 シルヴィが仮に想い人を追って自害したとしてもその先に待ってるのはミラベルによる魂の差配だ。まず間違いなく想い人とは別の世界に送られる事になる。幾多の世界の中から同じ世界に送られる事は稀だとクロノスが言っていた。定められた魂の流れに従って転生させるなら2人が再開する事はほぼ不可能と言える。

 良心のある神なら手心を加えて同じ世界に送ってくれるだろうけど、ミラベルに期待するのは愚考だろう。その事を伝えれば、初めてシルヴィの表情が変わった。

 

「なら、妾はどうすればよい? 死んでもタケシに会えぬのなら…死ぬ意味も生きる意味もないではないか…」

 

 なんて言葉をかければ良いだろうか? シルヴィの悲痛な声を聞くのは初めてだ。悲しい。辛い。彼女の感情が流れ出てくるように僕に伝わる。胸が張り裂けそうな程の悲しみと、底なしの絶望。心の奥底から激流のように込み上げてくる感情に赤い瞳が揺れている。

 

「妾は……何のために生まれたのだ……」

 

 赤い瞳から涙が零れた。

 

 ───シルヴィは生まれた意味を知った。心から愛する者と出会い、心を得た。その心が今悲鳴を上げていた。

 僕が止めなければシルヴィは安らかに逝けただろうか? いや、彼女の事を真に思うならば止めるべきだ。自分基準で考えていたけど、シルヴィには魂が存在しない。その肉体を動かす為に生まれた人格に過ぎない。

 死ねば彼女はどこにいく? ミラベルが差配する? 魂がないのに?

 死ねばシルヴィという存在は跡形もなく消えて無くなってしまうんじゃないか? 想い人の後を追うことも出来ない。あまりに残酷な運命じゃないか。

 

「方法がない訳じゃない」

 

 一人の父親として娘には幸せになって欲しいと思う。言葉に出した通り方法がない訳ではない。その為にはシルヴィには生きて貰わないといけない。想い人のいない世界で悠久の時を過ごすのは拷問に等しいだろう。そう想い人がいなければ…。

 シルヴィに死後の世界はないだろう。けど彼女の想い人は違う。ミラベルによって次の世界へと導かれた筈だ。僕も同じように次の世界へと導かれ、クロノスが介入し再びこの世界に舞い戻る事が出来た。

 つまりクロノスならばシルヴィの想い人───タケシという男をこの世界に転生させることが出来る。

 僕の口から出る言葉は、シルヴィの希望となり得るだろうか?

 

「可能なのか、そのような事が?」

「現に僕がこうしてこの世界にいるじゃないか」

 

 神とは理不尽な存在であり、不可能を可能とする唯一の存在でもある。奇跡を起こす事が出来るのもまた神という存在だ。

 

「僕に協力してくれないかシルヴィ。君の想い人にもう一度会わせる。その為に僕に力を貸して欲しい」

「本当にタケシに会えるのだな?」

「確約は出来ない…いや、違うか。父親として必ず君をタケシ君に会わせるよ」

「信じて良いのだな?」

「娘には幸せになって欲しいからね」

 

 幸いな事に交渉材料はある。クロノスも話の分かる神ではあるから、カイル・グラフェムを引き合いに出せば何とかなると思う。

 今回の事で相談したいし、一度クロノスに連絡を入れようか。『テレパス』を使って一度話をしたいと連絡入れる。これまでと同様ならまた時間を作って夢の中に訪れるだろう。

 魔族ではないけどクロノスには何故か『テレパス』による連絡が出来る。神だから何でもアリなんだろうね。

 

「それで妾は何をしたらいい?」

「詳しい事は後で話すよ。とりあえずこの場を離れよう」

「うむ、了解した」

「ああ、そうだ。レグ遺跡を包囲しているアンデットは消しておこうか。勇者パーティーに勘繰られたくないからね」

「あい分かった」

 

 このタイミングでアンデットが消えればシルヴィが死んだから消えたと彼も判断するだろう。その方が僕としても都合がいい。

 彼を通してミラベルも同じように考えてくれると助かるかな。クロノスから聞いた話だと基本的には転生者以外にはあまり関心を持っていないようだし、気付く事はないだろう。

 今から行う計画には人手がいる。シルヴィに協力を頼めるならその成功率は格段に上がる。クロノスに対する交渉材料にもなる筈だ。

 シルヴィが抑揚のない声で解除したぞと告げてきたので行こうかと、一声かけてから魔法を使ってその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目眩がするような情報が耳に入ってきた。共に聞いていたシルヴィもどこか呆れているように思える

 

「何がどうなっているだ…」

「バージェスJrに期待するのがそもそもの間違いだと思うが」

 

 クレマトラスからドワーフの国『タングマリン』へと場所を移し、耳に入ってきた情報に思わず頭を抱える。クロヴィカスが勇者パーティーを引き付けている間に聖地エデンをバージェスJrが襲う手筈だった。

 結果から話せば聖地エデンへの襲撃は成功に終わった。大司教を始めとする教会の重鎮達に手傷を負わせた上、教会の最高権力者である『法皇』エドモンド・アームストロング2世の殺害。あまりに出来すぎた戦果と言える。この結果で間違いなく教会とエルフの国が揺れる。

 これでエルフの毒の解毒剤はほぼほぼ手に入ったと見ていい。

 

 ここまでは素晴らしいの一言だ。作戦以上とすら言える。問題なのはそれを成したのが作戦実行係のバージェスJrではなく、四天王の一人『赤竜』ドレイクという点。彼の強さを考えれば1000年経った今も生きている事は納得出来る。

 最初期の四天王であり戦友である彼が今も生きている事を嬉しく思いながら、『何しているんだバージェスJr!』と怒りたい気持ちがある。どうやら聖地エデンに着いてすらいないようで、申し訳なさそうな顔で戻ってきたバージェスJrから言い訳を聞けば道に迷ったと宣う。

 ドレイクが聖地エデンを襲撃していなければクロヴィカスの犠牲が無駄になる所だった。バージェスJrに関しては期待するのはやめた。一人にすると何を仕出かすのか分からないので共に行動する事で、上手く使おうと思う。

 戦友の息子とはいえこんなのが四天王の一人で大丈夫かい?

 

「ドレイクは5代目魔王の命で動いているのかな?」

 

 魔族ではないドレイクに『テレパス』で連絡を取る事は出来ない。それは昔から変わらない事だから置いておくとして。接触しようにもドレイクが何処にいるのか分からなかった。

 今回の作戦にはドレイクは関わっていない。秘中の作戦だった為、作戦内容を知っているのは手紙でやり取りしている5代目魔王とバージェスJrだけだ。今回のドレイクの襲撃は5代目魔王の指示と見ていいかな?

 

「ドレイクはティエラの命で動いている」

「どういう事だい?」

「妾はレグ遺跡に封印されていたのは道中話したな?その封印の結界の核にティエラの魂が宿った剣───魔剣デュランダルが使われておった。結界が父に壊された後、タケシの頼み事もあったからティエラと話をした」

「灯台もと暗しとはこの事だね。すぐ近くにいた事に気付かないなんて…」

 

 道中でレグ遺跡の結界の件は聞いた。探していたティエラの魂が宿った剣と、シルヴィがそんな近くにいるとは思いもしないだろう。

 マナクリスタルの有無を確認して直ぐに出たのも失敗だった。後悔しても仕方ないか。

 

「ティエラにドレイクへの伝言を頼まれてな。あの男が拠点としている場所は知っておったから、容易い事ではあった」

「それが聖地エデンの襲撃に繋がる訳だね」

「ティエラの狙いは世界樹だ。今回の襲撃で聖地エデンの防衛に兵を集中させて『テルマ』を狙うのが本命らしい」

「なるほどね。考える事は一緒か」

 

 僕の場合は世界樹が狙いではないけど、やろうとしている事はティエラと同じだ。聖地エデンとエルフの国は密接に繋がっている。聖地エデンを襲撃すれば防備を固める為にテルマが動くだろう。兵を聖地エデンに向ければそれだけ本国は手薄になる。

 ドレイクがテルマに襲撃を仕掛けるなら、それに合わせてバージェスJrを向かわせれば…。

 

「そういえば、勇者パーティーがこの国に訪れておったぞ」

「僕もこの目で確認しているよ」

 

 偶然か必然か知らないけど、クレマトラスからわざわざ反対側のタングマリンまで来るとは。僕の場合はマクスウェルに用があったからだけど…。一度彼と接触しようと考えていたから丁度いいと言えば丁度いい。

 当事者である彼も出来ればこちら側に引き込みたい。彼と会って話がしたいとクロノスには伝えてある。会って話すタイミングがハッキリしたら伝えて欲しいと言われた。以前言っていたようにミラベルに妨害を行うようだ。

 

 もう1つ、タケシ君の件はクロノスからミラベルの件が片付いたら僕と同じようにこの世界に送ると言っていた。今すぐ出来ないのは僕と違ってタケシ君の魂がミラベルの直轄の世界に送られており、干渉すると幾らミラベルがバカでも気付く可能性が高いと。

 シルヴィの幸せの為にもミラベルには消えて貰わないといけない。

 

 話を戻そう。クロノスが妨害してくれるとはいえ、万が一を考えると直接接触するのは不味いか。偶然を装う必要がある。

 あ、そういえば武術大会なんてものが開かれていたね。そこで戦う振りをしながら話すというのはアリか。

 問題となるのは彼が参加するかどうか…。マクスウェルを通して首長から勇者パーティーに伝えて貰うとしようか。

 そうと決まったら『テレパス』で彼と接触する日にちを伝えておこう。組み合わせ次第ではあるけど武術大会の日程は決まっている。クロノスが妨害してくれている間に、彼にミラベルの事を話しておかないといけない。

 

 最悪なのはミラベルに依存、あるいは狂信してる場合。その場合は彼が完全に敵になってしまう。ミラベルに対する不信感がもし少しでもあれば彼とは同じ転生者として協力出来る。

 ミラベルの本性を知らなければ彼も運命を弄ばれて終わりだ。そんな最後は彼も嫌だろう。

 僕の正体が勇者パーティーの敵である魔族とは伝えない方がいいかな?そうなると本名は名乗れないね。

 僕の名前は四天王だった事もあり悪名として知れ渡っているし、シルヴィが名前を彼に言っているからね。さて偽名を名乗るにしても何と名乗ろか…。ティエラも彼と一緒に居る事を考えるなら…、そうだね。ティエラにも僕が戻ってきたと分かるような名前にしよう。

 武術大会では君の名前を借りるよ。ティエラの前世の名前───東雲(しののめ)夏恵(なつめ)。この世界では僕しか知らないと言っていた。きっと僕だと気付いてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───僕の真横を極太の光線が通って行った。当たる位置ではないのは分かっていたけど、命の危機を感じて冷や汗が流れた。

 今代の勇者は化け物だね。脳筋とはいえバージェスJrは決して弱くない。それを一方的に倒してしまった。勇者が使う聖剣はあんな使い方が出来るものだったかな?

 今まで対峙した勇者は剣からビームなんか出していなかった。どういう原理でビームが出ているのだろうか? 意味が分からない。

 クロノス曰くあの聖剣は世界の生命力を糧にしているそうだ。使い過ぎれば世界の生命が枯渇して世界崩壊の可能性もあるらしい。カイル君には忠告しておいたし、彼が抑止力になってくれたら魔族としても助かるかな。

 歴代最高の勇者と名高い彼女と戦えば僕でもタダでは済まないだろう。あのビーム連発されたらティエラでも危ないんじゃないか?本当に化け物じゃないか…。カイル君に上手く手綱を握って貰おう。

 

 今回の襲撃にドレイクが関わっていて本当に良かったと思う。バージェスJrだけではちょっとした騒ぎで終わっていたかも知れない。ドレイクが騒ぎの中心となり皆の視線を集めている間にテルマに潜入しているシルヴィが目的のモノを回収してくる手筈だ。

 

 崩れた外壁から王都へと入っていく彼らを見るに僕に気付いた様子はない。僕がやっていた事は『テレパス』でバージェスJrに指示を出していただけだ。仮に気付かれてもカイル君と一度顔を合わせているし、どうにかなるだろう。

 王都の中に入るという事はこれから彼は四天王最強の男と戦う事になるだろう。カイル君ならドレイクと闘っても死ぬことはないと思う。

 少しのやり取りだったけど彼の実力と人柄は凡そ測れた。それに神の加護もある。カイル君がミラベルを狂信していないようで良かった。僕が魔族だと気付かれなければ彼と協力出来るだろう。

 いや、仮に気付かれたとしても問題はないかな。全ての罪はミラベルに被って貰うつもりだ。それに彼は…。

 

「戻ったぞ」

「おかえりシルヴィ」

 

 抑揚のない特徴的な声に振り返れば、何時もと変わらないシルヴィの姿があった。怪我はない。交戦事態がなかったのかも知れない。

 

「どうだった?」

「解毒剤は父が言っていた場所に保管されていた。多少の警備はいたが、あの程度では妾の敵にはならぬ」

 

 『収納』の魔法で緑色の液体の入った瓶を取り出し僕に手渡してきた。ラベルを見ても分かりやすく解毒剤とは書いて居ないけど…、よく見れば小さく刻印が刻まれている。エルフの暗部が使う刻印だった筈だ。クロノスから確認と取れているし、まず間違いはないだろう。

 これでティエラの肉体を蝕む毒を解毒する事が出来る。随分と時間がかかってしまったね。シルヴィに瓶を渡すと再び『収納』の魔法で仕舞った。

 

「それで、もう1つの方はどうだった?」

「そっちも問題なく入手出来た。確認するか?」

「いや、それは急ぎのモノではないから構わないよ。それ単体では効力を発揮しないからね」

 

 カイル君と改めて話をする為にミラベルに聞かれない状況を作らないといけない。一方的に話す事は実は可能なんだけど、信頼関係が築けていない今はやめた方がいいだろう。

 シルヴィが盗ってきてくれたモノともう一つ、クレマトラスの国宝と合わせて使えば理論上はいける筈だ。

 世界樹を利用する事も考えたけど、ティエラの狙いは世界樹のようだし標的は被らない方が成功しやすいだろう。

 

「それにしても良いのか? 」

「何がだい?」

「カイル・グラフェムと協力関係を築くつもりのようだが、父が裏で糸を引いている事がバレたら全てお終いぞ」

「バレなければ良いだけの話だよ。それにミラベルへの対処もそうだけど、僕たち魔族の未来を考えるなら人間とエルフの勢力を削がないといけない」

「……………」

「同じ転生者とはいえ立場が違うからね。僕は魔族としてカイル君を騙すよ。同じ転生者の好で親身になって手を差し出すし、相談にも乗ってあげるつもりだ」

「やってる事がミラベルとやらと変わらん気がするが」

「ミラベルと同じ扱いは勘弁して欲しいな。詐欺師の常套句ではあるけど、騙される方が悪いのさ」

 

 同じ転生者と言っても立場は違う。僕は魔族で彼は勇者パーティーの一人。魔族の為に戦う僕と救世の為に戦う彼。

 ミラベルという共通の敵がいるから協力する事が出来るだけで、僕とカイル君は種族の価値観から分かり合える事はないだろう。そう考えていたんだけど武術大会で彼と直接会って、初めて彼を見た時に感じた違和感の正体に気付いてから考えを改めた。

 

「そこまで心配しなくても大丈夫だよ、シルヴィ。彼は確かに勇者パーティーの一人だけど、魔族(僕たち)と分かり合えるよ」

「ん?どういう事だ?」

 

 彼と直接面と向かって会わなければ気付かなかっただろう。剣を交え、言葉を交わしていくうちに気付けた。カイル君には会談の手段を見つけたらティエラを通して彼に伝えると言ったけど、今になって思えばその必要性すらなかった。彼には僕の『テレパス』が使える。つまり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイル君(かれ)は僕たちと同じ魔族だよ」

 




カイル君が生きている時代の魔族騒動は大体コバヤシが裏がいます。諸悪の根源ですね!

という事で長くなりましたが、コバヤシによる回想でした。

レグ遺跡の結界を破壊したのは彼ですね。
シルヴィが感じた懐かしい魔力の正体は実の父親という。

ティエラといいコバヤシといい2人揃ってエルフに対する殺意が高いです。最終的な狙いはミカ神になります。いやーモテモテで羨ましいですね!

コバヤシが対ミラベルの鍵を握るのですが、信用し過ぎてはダメという。
魔族として生きているのでコバヤシの考えに賛同し続けていたら…気付いたら人間とエルフの勢力が消えていたりなんて事もありえます。
主人公はあくまでも人間としての立場を貫く予定なので、しっかりとコバヤシの考えを見抜いて抗って欲しいですね。

カイル君が魔族?そんな事ある訳ないですよ。HAHAHA!

コバヤシ先生が勘違いしているだけです、はい。

誰の個人エピソードが読みたいかというアンケート2

  • 1.エクレア
  • 2.サーシャ
  • 3.ダル
  • 4.トラさん
  • 5.ノエル
  • 6.セシル
  • 7.デュランダル
  • 8.テスラ
  • 9.マクスウェル
  • 10.シルヴィ
  • 11.ディアボロ
  • 12.ドレイク
  • 13.タケシ(無投票)
  • 14.とある衛兵
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