この作品は私の処女作です。まだまだ至らぬことも多いと思いますが、温かい目で見ていただければ幸いです。
Vol,3「エデン条約篇」が終わったしばらく後のこと……。
「あのバカは一体何回失敗すれば気が済むんだ……! 失敗から学ぼうとする姿勢はないのか!」
パンデモニウムソサエティの一室で、私は机を力いっぱい叩く。
「あの……お気持ちはわかりますが、そのように取り乱すようなことでも……」
「逆になんでお前はそんなに落ち着いてるんだ! ヒナがすぐそこまで来てるんだぞ!」
「いや~、その。こんなこと、半ば日常みたいなものですから」
部下とそんなやり取りをしている間にも、部屋の外からは銃声とバカの叫び声が聞こえてくる。しかも、だんだんこっちに近づいてきている気がする。
「まさかあのバカ、私に助けを求めようとか考えてるわけじゃないだろうな……?」
「マコト議長がそこまで考えられるとは思いませんけど、もしそうだとしたら早めに退散したほうがいいですね」
「そうするか……。またお詫びのお菓子持っていかなきゃな……」
「次何持っていきます?」
「そんな話はあとでだ!」
窓を開け、最低限の重要書類と銃だけをもって、飛び降りようとしたその時……。
「ユウキぃぃぃぃ! 助けてくれぇぇぇぇぇぇ!」
奴が、来た。ヒナを連れて。
「だぁぁぁぁもぉぉぉぉぉ! こっち来んなこのバカ!」
「もうちょっと早めに行動するべきでしたね」
……どうする? 逃げるといってももうヒナがすぐそこまで来ている。ドアは1つしかないし、ここから飛び降りて逃げたとしても撃ち抜かれて救急医学部送りになるだろう。もっとも、目が覚めた時に救急医学部の部室にいればラッキーといったところだが。戦っても勝ち目などない。できたとしても一瞬の足止めぐらいで役に立たないだろう。
どうすると悩んだその瞬間、ユウキの虹色の脳細胞は今この状況における最善策を思いついた!
「この度は我々が大変なご迷惑をおかけしましたこと、心より謝罪いたします!」
そう、謝罪と土下座である! こちらの陰に隠れようとする威厳の欠片もないバカの頭を地面に叩きつけ、そのまま自らも土下座することで、事態の収束を図ろうとしたのである!
「な、なにをするんだユウk」
ヒナはバカの頭に数発の鉛球をお見舞いし、口を開いた。
「今回のことは、あなたの誠意に免じて大目に見てあげる」
「ありがとうございます!」
「でも、こいつの躾はしっかりしておいて」
「わかりました」
「お菓子、楽しみにしてるわね」
彼女はそういうとスタスタと去っていった。
「はぁ、よかった……大事にはならずに済んだぞ……」
「良かったですね」
「他人事のように話すんじゃない!」
「まあいいじゃないですか。それより、今回のお菓子どうします? 相当いいものを送らないと満足してくれそうにないですけど」
「ゲヘナのものはもうほとんど送り切ったしな……仕方ない。学区外に手を出すとするか」
「学区外でスイーツって言ったら、トリニティですかね?」
「トリニティもいいが、あそこには私たちは入れないだろう。あそこはまだゲヘナ嫌いがうじゃうじゃいるからな」
「やっぱダメですか」
「トリニティ以外の全ての学区を見て回って良さそうなものを探そう。今回私はミレニアムサイエンススクールに行こうと思う」
「ミレニアムになんかありましたっけ?」
「いや、知らない。だから探しに行くんだよ」
「今からですか?」
「もちろん」
かくして、私たちはミレニアムに行く運びとなった。
ミレニアムの最寄り駅に降り立った私たちは、 ゲヘナとは全く異なる風景に圧倒された。
「おおここがミレニアムか。さすが科学技術の最先端って感じだな」
「そうですね」
「とりあえずミレニアムに行っていろいろ聞いて回ろう」
「部外者が入っていいんですかね」
「敵意はないし、ちゃんと許可とれば別にいいだろ。温泉開発部じゃあるまいし」
「それもそうですね」
温泉開発部はゲヘナの中でもかなり規模が大きく、そして厄介な部活。「温泉開発」と称してあちこちを破壊して回る、美食研究会とならむテロリスト集団だ。本来なら生徒会である私たちが処理すべき問題なのだが、バカが風紀員会に丸投げしているのが現状である。
ミレニアムの中にはすんなりと入ることができた。が、やはり部外者である私たちは結構目立つらしく、廊下を徘徊していたタレットに派手な挨拶をされた。
「おいおいこの学校最っ高だなぁ!?」
「あーやばいですねここ」
他学校の備品なので壊すわけにもいかず、仕方なく近くにあったゲーム開発部とかいう部屋に逃げ込んだ。
「うわっ! 何々!?」
「緊急クエストが発生しました!」
ゲーム開発部の部室は、部室というよりかはゲーム好きのたまり場といった雰囲気だった。部屋のあちこちに新旧様々なゲームが散乱しており、それを囲むように四人の少女がソファに座っていた。
「あー、驚かせて済まない。その、廊下にいたタレット達の歓迎が過激でね」
「技術開発部のものなんで仕方がないですね」
緑の少女が答える。そういえば、いつの間にか一人減っているが、どこに行ったのだろうか?
「なるほど、後で文句を言っておくよ。ああ、自己紹介がまだだったね。私は巳蛇ユウキ。ゲヘナ学園の2年生だ」
「私は才羽モモイ! よろしくね!」
「私は才羽ミドリです。よろしくお願いします」
「天童アリスです」
「あと、今はロッカーに入っちゃったけど、部長のユズがいるよ」
ユズはいつの間にロッカーに入ったのだろうか。ロッカーが開く音も聞こえなかったし、入る様子も見えなかった。
……彼女の隠密行動のノウハウを学べば、より長い時間サボれるし、先生に会える時間も長くなるかもしれない。後で本人に聞いてみるとするか。
「ユウキ先輩はここに何をしに来たんですか?」
「ああ、ここらで贈答用のおいしいスイーツを探していてね。何か、おすすめはあるかい?」
「知ってるよ!」
「本当か! ぜひ教えてくれ!」
「ん-そうだね。私たちとのゲームに勝ったら教えてあげる。」
「なるほど。受けて立とうじゃないか」
「パンパカパーン! ユウキがパーティに加わりました!」
「ユズ、出ておいで」
「うん、わかった……」
ゲームの腕前には自信がある。この子たちの腕前がどのくらいかは知らないが、よほどのことがなければ私が勝てるだろう。
……この勝負、もらったな。
勝負の内容はレーシングゲーム、格ゲー、音ゲー、の三本勝負。先に二勝したほうが勝ちのシンプルなルールだ。一戦目はモモイとレーシングゲームで勝負だ。
スタート直後はほぼ互角。先に動き出したのは私だ。
「あーもう! 甲羅当ててこないでよ!」
「そういうゲームなんでね。悪く思わないでよ~」
と、調子に乗ってよそ見をしていたら、堂々と置いてあったバナナを踏んでしまった。
「おい誰だよここにバナナ置いたやつ!」
「よそ見してたユウキが悪いんじゃない?」
レースは2ラップ目に差し掛かる。現在の順位は私が1位。モモイが2位についている。
「そろそろ誰かモモイに赤甲羅投げてくれないかな~」
「そっちこそ、青甲羅でも飛んでくればいいのに」
と言っていると、青甲羅が飛んできた。
「お、君の望み通り青甲羅が来たぞ」
「やった!これで逆転だ!」
「それはどうかな?」
私は一瞬アクセルから手を放す。カートは減速し、モモイのカートの目の前についた。そして、青甲羅が起爆。両方のカートがスタンした。
「ねぇ~!こっちにも当ててこないでよ!」
「私の目的はあくまでモモイに勝つことだからね」
それからは特にこれといったことは起きず、私の勝利で終わった。
「対ありGG。ありがとうございまーす」
「ねぇ~強いよ~!」
「お姉ちゃんが負けた!?」
まずは一勝。次は格ゲーでアリスと勝負だ。
……この感じさてはそこまで実力高くないな? この調子なら次の試合で勝ち越せそう。
「へぇ、アリスそのキャラ選ぶんだ。なんか意外」
「アリスはこのキャラが一番得意なんです」
「ふーん、まあいいや。対戦よろしくお願いしまーす」
まずは慎重に相手の出方を伺う。アリスから手を出してくるのを待つのだ。
「二人とも何もしないね」
「多分、お互い相手が行動するのを待ってるんだと思う……」
先に行動したのはアリスだった。技は飛び道具。後隙の長い、私からすればカモのような技だ。攻撃をジャンプでかわし、飛び蹴りを決める。
「かかった!」
「当たりません!」
が、まさかの回避。
……嘘!? あの技の全体Fは56F、常人ならあの蹴りは回避できないはず……! まさかアリス、プロゲーマー!? いや、ここはミレニアムだ、超高性能なアンドロイドという可能性もある。どちらにせよ、アリスに勝てる気がしない!
動揺はすぐに操作に現れる。いつものようなコントロールはもうできず、そのままストレート負けしてしまった。
「やりました! アリスの勝利です!」
「強い、強すぎる……」
「次は私ですね……」
次はユズと音ゲーのスコアで勝負だ。使用するゲームはproject Future。私が一番得意なゲームのうちの1つであり、世界ランク上位で頑張れている数少ないゲームだ。この勝負、負けるわけにはいかない。
ルールはお互いがひとつづつ曲をセレクトし、その合計点数を競う。シンプルで公平なルールだ。
「選曲はユウキさんがお願いします……」
「良いのかい? なら、私の一番得意な曲で行かせてもらおうかな」
「良いですよ」
私が選んだ曲は、ジャックポットサッドネス。初めてマスターランクでAPをとれた、思い出深い曲だ。
「それじゃあ二人とも、開始!」
モモイの合図と同時に二人ともスタートボタンを押す。
焦らずに落ち着いて、ノーツをしっかりと叩く。安定のAPだ。
……さて、ユズはどうだ?
ユズのほうを一瞥すると、彼女もまたAPを取っていることが分かった。ゲーム開発部の看板は伊達じゃなかったらしい。
「ふむ、どうやら君も相当の腕前らしいね」
「あ、いえ、そんなことはないです……」
「ん、そうか? もっと誇ってもいいぞ?」
次はユズが曲を決める番だ。この感じだと、マスター34くらいの曲がセレクトされると思っていたが、彼女がセレクトしたものは意外なものだった。what’s up! rock!……つい昨日プレイできるようになった曲で、難易度は驚異のマスター38。APした人はまだ一人しかいない、正真正銘の最難関曲だ。私はまだやれていない。
「へ、へぇ~……ずいぶん強気じゃん?」
後ろに居るガヤたちがヤジを飛ばし始めた。
「ユズがブッコんだ!」
「どうなるんでしょうか。アリス、気になります!」
「UZQeenになった……!」
……UZQeen?聞いたことがあるな。確か……なんだっけ。忘れてしまった。
「では、よーい、スタートです!」
始まった、が、ノーツが恐ろしいほどに詰め込まれている。長音も細いものが多いし、いやらしい位置に配置された方向指定フリックや、片手トリルなんかもふんだんに使われている。はっきり言って人間にできるものじゃない。私でもGoodやGreatを出しまくって何とか食らいついていけているぐらいだ。
「はぁ~!? なんだこの配置!? バッカじゃないの!?」
一方ユズはというと、涼しい顔でコンボをつなげている。
……おいおいおかしくないか!? なんでこの譜面をつなげられるんだよ!
そして、曲が終わった。私の結果はperfect1275、Great375、Good52、Miss7。死ぬ気で頑張ってゲームオーバーは避けられたが、はっきり言ってボロボロだ。
そしてユズは……。
「え……APだってえぇえぇええぇえぇ!?」
……嘘だ、あり得ない。この曲のAP達成者はいまだ一人のはず……まさかたった今二人目の達成者が出たのか!?
慌ててツッタカターの運営公式アカウントをチェックするが、公式からの発表はない。もし新しいAP者が出れば、すぐに達成報告がされるはずなのに。
……まさか!?
「な、なぁユズ。もしかして君は、この曲唯一のAP達成者だったりするかい?」
「あ、多分……まだAP者が出てないのなら、そうなのかな?」
私はがっくりとうなだれる。どうやら私は、戦ってはいけない超人たちの隠れ家に来ていたらしい。
……ああ、ようやく思い出した。UZQeen。格ゲーや音ゲーで有名なプロゲーマー。私なんかよりよっぽど高いところにいる人物だ。
だが、勝ちたい。こいつらに負けたまま帰るなど虫唾が走る。
「くっそぉ……もう1回だ! もう1回勝負させろ!」
「いいね! 今日は楽しくなりそう!」
「おい萌生! お前もこっちにこいよ!」
「えぇ? 私もですか……。仕方ないですね」
こうして、私たちは夜が明けるまでゲームを楽しんだ。途中から参加してきたセミナーの会計の方や、C&Cのリーダーなんかとも仲良くなって、非常に楽しい時間を過ごすことができた。
「いやあ楽しかったよ。また来るね」
「こちらこそ、ありがとうございました」
「えぇ~もう帰っちゃうの? まだまだゲームはあるのに!」
「あ~済まない。私にも仕事があってね」
「こらお姉ちゃん。ユウキさんをあんまり困らせないで」
「うー」
「それじゃあまた」
帰りの電車に乗る途中、部下がこんなことを言ってきた。
「あの~ユウキさん? ここに来た目的ってなんでしたっけ?」
「あ」
……やっべぇお菓子買うの忘れてた!
「なんで早くいってくれなかったんだ! もう電車乗っちゃたぞ!」
「いや、ユウキさんなら覚えてるかなって」
「あああああぁぁぁぁぁ……」
こうして、私はミレニアムのお菓子を見事にスルーしてしまったのだった。