「つまり、再婚相手だった斎藤道三との間に生まれた娘が、秀千代ってこと?」
鈴鹿(セイバーに戻った)の話に、立香は「また隠された歴史が暴かれたかー」と内心でしみじみしていた。
その一方、驚いたのはノッブと茶々である。
「ひ、秀千代! お主、儂の義姉じゃったのか!? なぜそれを生前に話さなんだ!!」
「えーと、茶々から見て母上の義姉上の姉上……義叔母ってこと? ややこしいなー」
困惑する織田家の関係者二人。まさかサーヴァントになってから家臣の出生を知るとは思わなかったに違いない。
「というか鈴鹿御前、生きてる時代が違いすぎないかな? 鬼種的には寿命の範囲内なのかい?」
ダ・ヴィンチちゃんからの疑問に、黙りこくっていた鈴鹿御前が沈痛な面持ちで口を開いた。
「まあ、その、その時期までは普通に生きてたんだよね、アタシ。ただちょっと、記憶を失くしてたりして、道三様とは再婚って形になるんだけど……」
「…………」
喋れないらしい秀千代は、静かに鈴鹿御前を見つめる。向ける視線は生暖かく、優しかった。JKムーブが板に付いた若作りな母親に対して、実に寛容な理解を示している。
もっとも、この鈴鹿は『立烏帽子』時代の精神性と人格が再現されている霊基なので、若作りではなく本当に若いのだが。
「まあ、今のスズカは娘のセーラー服を着ているところを目撃されたにも等しい状況だ。私達もなるべく触れないよう、生暖かく見守ってやろうじゃないか」
「ダ・ヴィンチ、結構エグいのう……」
フォローしているようで傷口に塩を塗るようなダ・ヴィンチに、ノッブもちょっと引いていた。
いつまでも召喚ルームにたむろしている訳にもいかない。茶々と大ダメージの鈴鹿をひとまず自室へ戻してから、各施設の案内を進めていく。
「で、ここがカルデア自慢の食堂じゃ。料理も酒も極上のもんが揃っとる。ぶっちゃけもう、あの戦国の世には戻れぬ美味さじゃからな。食うなら覚悟しておけよ」
「ヨモツヘグイじゃないんだけどな、カルデアの食堂は」
たまたまノッブの話を聞いていたブーディカが、苦笑いを浮かべた。だが、彼女やエミヤ、キャットなどのカルデア厨房スタッフの料理が極上なのは確かである。
「おや。その人は新ちいサーヴァントでちか。この気配、黄泉に近い存在のようでちね」
「おお、紅! 紹介するぞ、織田家家臣の秀千代だ」
注文を取りに来たらしい紅閻魔に、ノッブが秀千代を紹介する。
紅閻魔は秀千代の顔を見つめて、小さな眉根を寄せた。
「お前様、妖の血が混じってるようでちが、それ以上に……ひょっとしてちょくちょく奈落獄に入り込んでいた変態でちか? 牛頭馬頭やら大量の餓鬼どもを斬りまくってた」
秀千代は少し驚くも、紅閻魔の言葉に素直に頷いた。
立香が紅閻魔に訊ねる。
「奈落獄?」
「地獄の一種でち。修羅の道を極めんとする者が堕ちる戦いの坩堝……否、無数の妖と亡霊が相喰み合う様は、蠱毒の壺と呼べまち。秀千代殿、お前様はその踏破者でちね」
秀千代が大きく頷くも、紅閻魔は呆れた様子で溜め息を吐いた。
「まったく。あそこを戦い抜いてなお、まだ斬り足りないでちか。お前様、スカサハやマーリンと同じ、本体が生きてるタイプのサーヴァントでちね」
「なぬ!?」
立香も驚いたが、ノッブの驚愕はそれ以上だ。
実は生きてるのにサーヴァント化してカルデアにいる者は、確かに少数ながら存在しているが……。
秀千代はまた、バツが悪そうに頭を掻いた。
「あ〜……そういえばお主、死んだ人間を助人として呼び醒ましたり、もしくは迷ってる亡霊を叩き起こして殴り倒したり、フリーダムな異能まで持っておったの」
「義人塚、でちね。自らの力と肉体を分霊として残し、後の世に力添えをする。その在り方はサーヴァントに近いともいえまち。この場にいるのは、その力の応用でちょう」
ノッブと紅閻魔の話を総合すると、どうやら不死の存在であるらしい秀千代は、人理焼却の最中も普通に生き延びていたらしい。そして、何らかの異能を用いてカルデアにサーヴァントとして分霊を派遣したそうだ。
その事実に、かつての主君だったはずのノッブも慄いている。
「さ、さすが織田軍最強……ヤスケにタイマンで勝ってるだけあるの」
「そういう問題じゃないと思うけどな。けど、味方してくれるなら心強いよ」
「そ、そうじゃな……秀千代、当時の妖の世界についてはもう分からんが、しっかりマスターの力になるように!」
ノッブに肩を叩かれた秀千代は、ちょっと痛そうにしつつも力強く頷いた。
「ん? おっ、大殿とマスターじゃねえか!」
カルデア食堂での初めての食事に目を輝かせていた秀千代が、荒っぽくて大きな声に顔を上げた。
「あ、森くん」
「勝蔵……と謎の蘭丸Xではないか。お主らも昼飯か?」
典型的な狂戦士だけどたまに文化人な森長可と、サーヴァントユニヴァース出身の謎の蘭丸X。別に血縁でも何でもないが、なんとなく一緒にいることが多い二人だった。
「ほれ勝蔵! 猿じゃない方の秀吉がカルデアに来たぞ! 謎の蘭丸Xは知らんかも知れんが」
「猿じゃない方……あ、秀千代じゃねえか!」
森長可は秀千代を見て、すぐに満面の笑みを浮かべた。一方、謎の謎の蘭丸Xと、秀千代本人は凄まじい困惑顔である。
「懐かしいな、秀千代! 小牧・長久手の戦い以来じゃねえか?」
「その戦って、森くんが死んだ戦いだっけ?」
「おう。つーか、俺を討ち取ったのがこいつな。いやー、気持ちの良い負けっぷりだったぜ、あん時は!」
「まさかの死因かい!?」
ツッコミを入れたのはノッブだが、秀千代も喋れたのなら自分で殺した相手からフレンドリーに接されていることに、二言三言言いたかっただろう。
「……で、誰でありますか、この人?」
そして、地球の森蘭丸とは縁もゆかりも無い謎の蘭丸Xは、純粋に初対面の相手に対して困惑しているだけだった。
「な、なんであいつまでカルデアに……ガクガクブルブル」
なお、食堂の片隅では、森長可と同じく秀千代に討ち取られた雑賀孫市(蛍)が、真っ青な顔でおにぎりを頬張っていた。
雑賀衆の蛍、仁王2のサブミッションのボスとして本当に出てきます。名有モブ程度ですけども。