ガメラ×エイト 神話の復活   作:ほろろぎ

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アニメ開始を記念して


第一話 怪獣、目覚める

 地球には昔から、「怪獣」がいた。怪獣は時に人の住む街に出現し、その日常を破壊する。

 世界中でも特に、日本は怪獣が出現する頻度の高い、危険な国であった。

 

 その日本の、とある街の夜道を、また一体の怪獣が闊歩(かっぽ)──否、全力疾走していた。

 

「うわぁあああああああ、ヤバいよこのままじゃ討伐されちゃうよぉおおおおお!!」

 

 怪獣は本来、人の言葉など話さないし、理解もしない。しかし、この個体は違う。

 

 筋肉質な肉体と、角の生えたドクロを思わせる顔面。背中には、()()()()を思わせる独特の外殻を持つ、一体の異形。

 

 人型怪獣と化した元人間──日比野カフカは、人通りのない夜の住宅街を逃げ回っていた。

 並走するのは、カフカの職場の後輩である市川レノ。共に怪獣に襲われたが生き延び、病院に収容されていたのだが……。

 

「どうしよう市川!? オレ怪獣ニナッチャッタヨー」

「パニくりすぎて棒読みになってる!? 先輩が変な物拾うからですよ!!」

 

 二人は足を止めず、叫ぶように言い合う。

 

 日本を怪獣の破壊行動から守る、独自の治安維持機構がある。通称、「防衛隊」。

 二人は、その防衛隊が討伐した怪獣の死骸を処理する仕事についているのだが、カフカは日中の作業中に怪獣の(むくろ)から、とある物体を拾っていた。

 

 それは、古代の日本で装飾品として使われていた「勾玉(まがたま)」によく似た代物。

 この勾玉状の物体は、カフカが解体した怪獣の体内から、彼が発見したものだった。

 

 本来ならこういった収容物品は防衛隊に提出しなければならないのだが、なぜかカフカは、これを無意識に手元に残していた。

 そして事件は起きる。

 

 

 

 

 

「先輩、やっぱ目指すべきっすよ、防衛隊」

 

 収容された病院でレノは、怪獣に襲われそうになっていた自分を身を(てい)して救ってくれた先輩、カフカに礼を言うと共にそう伝えた。

 

 特殊清掃業者にバイトとして入ったレノは、そこで仕事上の先輩にあたるカフカと出会った。

 

「お前、防衛隊目指してるんだって? こいつも昔、目指してたことあんだよ」

 

 別の上司に紹介されたカフカは、どこかバツの悪そうな顔をレノに向ける。

 

「なんで諦めちゃったんすか?」

 

 レノは初対面であるカフカに対して、なぜかそう尋ねずにはいられなかった。

 

「まあ俺なりに頑張ってはみたんだけどサ、上には上がいるというか……自分の才能の壁にブチ当たったっての? お前もその時が来れば分かるさ」

「そうすか……でも、俺は諦めないんで」

 

 皮肉めいた、失礼極まりない言葉をブツけてしまったレノ。どうしてそんな風に言ったのか、自分でも分からなかった。

 もしかしたら、夢を諦めたカフカのようにはなりたくない、という反抗心からかもしれない。

 

 そんなレノに対してカフカは、それでも先輩として、人として、右も左も分かっていない後輩を丁寧に指導した。

 仕事上の注意点から、休憩中の食事の心配まで。おかげでレノは、すぐに日比野カフカという人間への印象を改めた。

 

 その人となりに接することで、彼のような人間こそ誰かを守るために生きるべきだと、そう感じたのだ。

 

「先輩……?」

 

 カフカからの返事はない。寝てしまったのだろうか? ベッドを仕切っていたカーテンを開ける。

 

 カフカはベッドの上で、胸を押さえて苦しんでいた。体中に異常に汗をかき、呼吸もままならない様子だ。

 

「せ、先輩!? どうしたんすか!?」

「ま、勾玉が……」

「まがたま? 今日の作業中に、先輩が怪獣の体内から見つけたヤツですか!?」

「急に熱をもって……俺の口の中に、飛び込んできやがった……」

「え、あれ食ったんですか!?」

「好きで口にしたんじゃねえ……!」

 

 カフカは体を丸め、苦しみにもだえる。全身が、ドクンドクンと脈打つように膨れ上がった。

 筋肉が膨張し、皮膚は黒く変色する。窓から差し込む月明かりで、カフカのシルエットが徐々に人のソレを外れていく。

 

「せ、せんぱ……」

 

 レノは絶句する。目の前で変質していくカフカの異常な有様に。

 やがて……そこには日比野カフカの面影の欠片もない、人型の怪獣が横たわっていた。

 

 

 

 

 

「ねえ市川ぁ、俺こんな姿でも防衛隊に入れるかなぁー!?」

「無理無理無理無理。どう見ても討伐される側です、即殺処分です」

「だよなー!!」

 

 カフカ自身、レノと出会い彼の言葉を聞いたことで、久しぶりに防衛隊員になるという夢を意識し始めていた。

 その矢先にこの変化である。

 

 これでは、防衛隊に入るどうこうも言っていられない。

 今の(いか)つい見た目からは分からないが、夢をくじかれたカフカは思いっきり落ち込んでいた。

 

 不用意に拾ってしまった勾玉の影響で、人ならざるモノへと変貌(へんぼう)を遂げた男。

 勢いで入院していた病室から飛び出てしまった二人は今、夜の街を人目を避けて逃走中である。

 

 今頃、異変を察した病院側で、防衛隊にも出動要請が届いていることだろう。

 

「! 規制線だ……先輩。ここを抜ければ、先は無人になってて誰も追って来ませんよ」

 

 レノはそう言って横を向く。

 カフカはすでに足を止め、背後に顔を向けていた。その視線は、とうに過ぎ去った住宅街に向けられている。

 

「どうしたんですか、先輩?」

「……昼間、俺らを襲った怪獣がいたよな」

「はい。あとから来てくれた防衛隊が討伐したはずですが」

「同じ種類の怪獣が今、街に現れたぞ。気配で分かる」

「なんですって……!?」

 

 怪獣と化したカフカの耳には、新たに出現した怪獣の活動音が届いていた。

 

「けど、先輩の騒ぎで街にはすでに、避難警報が出ています。もう誰もいませんよ。……それより、先輩もすぐに逃げないと防衛隊に見つかります!」

 

 防衛隊は、怪獣絶対にぶっ殺すマン&ウーマンの集まりだ。

 怪獣自身にも破壊衝動しかないので、その被害を(こうむ)った彼らがそうなるのも至極当然。

 

 そんな防衛隊員たちに、元が人間といえ怪獣の見た目をしたカフカが出会ってしまえばどうなるか……。

 レノも言っていたように、よくて殺されるだけで済むが、最悪の場合、研究材料として生きたまま解剖……なんてパターンも十分にあり得る。

 実際、防衛隊には怪獣の生態パーツを利用した、特殊な装備があるという話も聞いたことのあるカフカである。

 

 レノの言葉で、カフカは走り出した。

 ……ただし、規制線の先ではなく、街に戻るために。

 

「せ、先輩!?」

 

 日比野カフカはそういう男だ。いざという時には、自分のことより他人を優先する。

 万一にも逃げ遅れた人間がいたら……カフカの不安は、残念ながら的中してしまうことになる。

 

 

 

 

 

「ママ! ママ!」

 

 倒壊した家屋の中で、まだ小学生くらいの少女が泣いていた。

 少女の前には、崩れた家の屋根につぶされ身動きのできない母親が。

 

 そして少女の背後には、日中カフカとレノを襲った怪獣と同種の個体が忍び寄っていた。

 

「に、逃げて……早く……」

「やだ! ママのそばにいるー!」

 

 母親は、自分を置いて避難するよう必死に伝えるが、少女は拒んだ。

 自分の命が危なくとも、最愛の者を捨てて逃げるなど、簡単にできるものではない。

 

「GUAAAA……」

 

 怪獣は、人一人平気で丸呑みできるほどの大口を開けて、少女の背に迫る。

 

「だ、誰か……たすけて」

 

 助けを求める少女の声は、何者にも届かないのだろうか。

 

 いや、声は届かずとも、それを感じた者はいた。

 

退()けぇええええええ!!」

「GA!?」

 

 危機にある親子の元へ全速力で到着したカフカは、異形の力を発揮して少女を食らわんとする怪獣を、拳一つで殴り飛ばしたのだった。

 

 突然の救援者。しかしそれは人ではなく、人に仇成す危険生物──怪獣。

 親子は目の前でカフカに殴られ、跡形もなく消し飛んだ化け物を呆然と見ていた。

 

「だ、大丈夫か!?」

 

 カフカは今の自分の姿を忘れ、親子に駆け寄る。そして即座に怪力で瓦礫の山をどけて、潰されていた少女の母親を救出する。

 

「よかった……命に係わる怪我はしてない」

 

 二人の無事を確認して、怪獣の顔でカフカはホッと胸をなでおろした。

 

 親子は(おび)えたような表情でカフカを見ている。

 そこでようやく、彼は自分の姿が怪獣の形のままだったことを思い出した。

 

「あ、わ、悪い! 俺は危険な怪獣じゃない! いや、そうじゃない! すぐに防衛隊が助けに来てくれるから!」

 

 カフカはあたふたと、弁解するようにそう言う。

 そして、自分にはこれ以上できることはなさそうだと立ち上がった。

 

「怖がらせて悪かったな、お嬢ちゃん」

 

 最後に少女に謝ると、二人に背を向けて、置いてきたレノの元へ足を向ける。

 

 去っていく人型怪獣──カフカの背中が少女の目にはとても悲しそうに見えた。

 だから彼女は、これだけは伝えなければならないと、声を上げる。

 

「あ……ありがとう、怪獣さん!!」

 

 少女の感謝を伝える言葉が、カフカの脳裏に一人の幼馴染の女の子の姿を思い出させた。

 

 

 

 

 

「ミィコが死んじゃった……」

 

 それはまだ小学生時代のカフカが、幼馴染の少女──亜白ミナと世話をしていた子猫の名前。

 

 二人の住む街は、当時出現した怪獣によって壊滅的被害を受けた。その際にミィコと名づけた猫も死んでしまった。

 涙を浮かべその死を(いた)む幼いミナの横顔は、今でもカフカの脳裏に強く残っている。

 

 カフカとミナはその時に、共に決めたのだ。

 

「俺は」

「私は」

「「防衛隊に入って、怪獣をやっつける!!」」

 

 しかし現実は、隊員になれたのはミナ一人だけ。置いて行かれたカフカは、鬱屈とした日々を過ごすことになる。

 

 けれど、それも今日までだ。

 今、カフカは確かに一組の親子を、自らの決断で救い出したのだ。

 

 謎の勾玉、それによって与えられてしまった怪獣の力。

 自分はこれからどうなるのか……わからないことだらけだが、一つだけハッキリしたことがある。

 

「俺……もう一度、防衛隊を目指す。そんで、ミナの隣に行ってやる……!!」

 

 自らが怪獣になってしまったことで図らずも、人に仇なす怪獣をたおすという明確な意識に目覚めた。

 日比野カフカは、かつて抱いた夢をハッキリと思い出させてくれた少女に、自然な笑顔を返して夜の闇の向こうへと去っていくのだった。




ゴジラとのクロスは誰かやるだろ、と思ったのでガメラです
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