ガメラ×エイト 神話の復活   作:ほろろぎ

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第二話 怪獣、迫る

 日比野カフカが怪獣の遺骸から拾った勾玉状の物体の影響で、人型怪獣へと変態してしまってから三ヶ月が過ぎた。

 幸いにも怪獣状態のカフカは誰にも目撃されず、病院に現れた謎の怪獣は名も無き一体として、防衛隊の記録に収まることとなった。

 

 そして、今──カフカと後輩の市川レノの二名は、防衛隊「立川基地」において、新規隊員の選別試験を受けている真っ最中だった。

 

「はぁ……! はぁ……!」

 

 一次試験。

 体力検査で、入隊希望者はどの程度の基礎体力があるかを計るため、持久走でグラウンドを延々と走らされている。

 

「せ、先輩……大丈夫ですか……ッ?」

 

 レノは息を切らせながら、隣を走るカフカに問いかける。

 十八歳の若手のレノでも、走り続けて三十分以上が経ち、さすがに疲労が隠せなくなってきた。

 

 しかし並走するカフカはというと

 

「あ、全然平気」

「マジか」

 

 この三十二歳、恐るべき体力の持ち主である。

 レノは、さすが先輩だ、と秘かに(あなど)っていた自分の認識を改めた。

 

 しかし、当のカフカの表情は明るくない。

 

「多分これ、あの勾玉の影響だわ」

「怪獣化したことで、素の身体能力も上がったってことですか?」

「多分な……怪獣の力は使うつもりないんだが、意識して抑えることがまだできん」

 

 これってズルだよなぁー。と、誰でもないカフカ自身が、他の受験者に対して申し訳なさを感じていた。

 とはいっても、手を抜くことなど不可能。カフカだって、隊員になりたいという思いは、誰にも負けるつもりはないのだから。

 

 結局カフカは、怪獣としての力のおかげで一次試験の体力検査を、二位という好成績でパスしてしまった。

 レノもどうにか合格ラインに食い込んで、一息ついた二人の元に、一位で試験を突破した少女──四ノ宮キコルがやって来る。

 

「中々やるわね、日比野カフカ。でも、次の二次試験じゃこうはいかないわよ! 覚えておきなさい!」

 

 言うだけ言うと、返事を待たずキコルは去っていく。

 

 若干十六歳の若さで、国外の討伐大学を飛び級で卒業した超エリートのこの少女。

 試験開始の朝にカフカと出会い一悶着あってから、一方的に彼に対抗心を燃やしているようだった。

 

「そんなスゲー奴だったんか、あいつ……」

 

 キコルについての説明をレノから聞いたカフカは、ますます自分の意図せぬ不正に後ろめたさを感じるのだった。

 

 

 

 

 

『最終審査、終了します』

 

 舞台となった演習場に、オペレーターの声が響く。最終試験は、試験参加者による「怪獣の討伐」が行われた。

 試験は、期待のルーキーであるキコルが目標の怪獣を単独で討伐したことで、彼女が一位の成績で完了となる。

 

「ま、私にかかれば完璧(パーフェクト)も当り前よね」

 

 大立ち回りを終えても、なお余裕のキコル。その表情が、不意に変わる。

 

「にしても、日比野カフカ……あいつ、スーツの解放戦力0パーセントのくせに、なんで私の次にいい成績出してんのよ」

 

 彼女の視線は、直接は見えないはるか後方に注がれていた。

 

 カフカはキコルが言うように、防衛隊員が身に着ける特殊スーツの力を、まったく引き出せなかった。

 だというのにカフカはスーツの補助なしに、それを使える他の隊員とそん色ない、むしろそれ以上の戦果を残したのだ。

 

 カフカと一緒にいた青年──市川レノは

 

「先輩は前職のおかげで体力がゴリラ並みだから」

 

 と言い訳のような言葉をのべていたが、キコルはどうにも納得しかねた。

 あとで直接理由を聞き出してやろう、と帰りかけた所で、不意に背後に何者かの気配を感じた。

 

「ッ!?」

 

 怪獣の撃ちもらしがあったか……と思ったが、そうではなかった。

 

「え、なによコイツ……」

 

 少女の目の前には、討伐リストにない──見たこともない()()()()()が立っていた。

 白い細身の体に、頭部はキノコのような、帽子のような、独特すぎる形状をしている。

 

 怪獣は、まるで()()()()()()()()()、といった雰囲気で周囲をゆっくりと見回す。

 辺りには、キコルが討伐した怪獣の死骸が何体も転がっていた。

 

「あー……これ、君ガやったの……?」

「なっ……怪獣が、喋った……!?」

 

 人型怪獣が人間の言葉まで発したことに、キコルは驚愕する。過去に人語を話す怪獣など、例を見ないからだ。

 目の前の怪獣に不気味なものを感じたキコルは、とっさに手にした銃を向ける。

 

「そっか、そっか。人間は……僕たち怪獣ノ敵、だったね」

 

 そう言って怪獣は、少女に人差し指を向けた。手の形も人間そっくりだ。

 怪獣の指が破裂した様に弾ける。その先から放たれた()()が、キコルのスーツに穴を空けた。

 

「がッ……!?」

 

 さらに中指、薬指が破裂して、彼女の体に次々と銃弾を受けたような傷を与える。

 

「ああああああ!!」

 

 少女は痛みで武器をとり落し、地面に膝をついた。

 怪獣の小指が、キコルの頭部に狙いをつける。

 

 死ぬ……、痛みの中で彼女は、ただその事実だけを感じた。

 

「じゃーね」

 

 怪獣はそう言って、トドメの一撃を放つ。その一発はしかし、キコルに届くことは無かった。

 

「そこまでだ、怪獣(クソ)野郎」

「な……もう一体の、怪獣……?」

 

 息も絶え絶えの少女を守るように、謎の怪獣の前に立ちふさがったのは、これも怪獣へと姿を変えた日比野カフカだった。

 キコルへの攻撃は、怪獣カフカの胸部──腹甲の外皮に弾かれ、彼自身も無傷である。

 

 対峙する怪獣と怪獣。

 カフカは目の前の奴を、問答無用で敵だと判断した。仲間(キコル)を傷つけたのだ、それ以上の理由はない。

 

 謎の白い怪獣はカフカの姿をしげしげと見つめ、口を開く。

 

「……お前、()()()の仲間か……?」

「? アイツって誰だよ」

「あー……奴の相手はしたくない。面倒だから」

 

 よく分からないことを口にしたあと、怪獣は白い煙のように形を変え、この場から姿を消した。

 あとに残ったのは怪獣の姿をしたカフカと、傷を負ったキコルの二人だけ。

 

「なんだったんだ、あの怪獣……」

 

 カフカの疑問の声。その後ろでキコルは、ついに限界を向かえ意識を失い、倒れてしまうのだった。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「入隊証書、授与。合格者代表、首席、四ノ宮キコル」

「はい!」

 

 二ヶ月後。試験合格者を集めての、防衛隊の入隊式。

 

 あのあと人の姿に戻ったカフカに抱えられ帰投したキコルは、治療を終え怪我も全回復。

 今は、晴れやかな入隊式を迎えていた。

 

 この場に集った()()()()も、共に厳粛な気持ちで授与式を見守っている。

 

 日比野カフカと市川レノの姿も、二十八人の新入隊員に含まれていた。

 

 カフカは試験中、終始スーツの能力を引き出す値──解放戦力が0パーセントのままだった。

 隊員になるには致命的過ぎる欠点だが、なにゆえそんなカフカまで合格できたのか?

 

 それは、彼らが所属することになる防衛隊、第三部隊の副隊長──保科宗四郎の推薦によるところが大きい。

 いわく

 

『なんかオモロそうな人材やん?』

 

 実際、カフカはスーツの力に頼らず試験を突破しているため、他の隊員たちからの注目も過分に集めていた。

 

 そして、試験の演習場に現れた二体の怪獣は、測定されたフォルティチュードの値により「8号」、「9号」の番号を振られることとなった。

 カフカの変身した黒い人型怪獣が8号で、もう一体の白い謎の人型が「怪獣9号」である。

 

 

 

 

 

 防衛隊に入って本格的な訓練が始まり、今日の日課を終えた新規隊員たちも、件の怪獣たちについては興味が尽きない。

 

「一体なんだったんだろうな、アイツら?」

 

 カフカ、レノの同僚となる青年──古橋イハルは、訓練でかいた汗を風呂で洗い流しながら言った。

 共に湯につかりながら、カフカは突然の話題に動揺を隠せない。

 

「ん? どしたオッサン、また汗かいてるぞ」

「い、いやー、風呂が熱くて……」

「そりゃ熱いだろ、風呂なんだから」

 

 まさか話題の怪獣の正体が自分だなどと、口が裂けても言えないし、バレてはならない。

 カフカは無理矢理にでも話しの方向を変えざるを得なかった。

 

「と、ところでみんなは、なんで防衛隊を目指したんだ?」

「お、その手の話なら事欠かねーぜ」

 

 目を泳がせながら口火を切ったカフカの言に乗って来たのも、またイハルだった。

 

「オレァなんたって亜白隊長! 中坊ン時に助けられてから、ずーっと俺の憧れだ。オメーらは?」

「家の事情もあるけど、似たところかな。目標は亜白隊長さ」

「同じく」

 

 イハルの問いに、同期のハルイチやアオイが答える。

 

「……やっぱスゲーんだな、ミナって」

 

 他人の口から聞かされたことで、カフカは改めて幼馴染の偉大さを思い知った。

 同時に、そんな風にみんなの尊敬を集める彼女のことを一人の友人として、とても誇らしい気持ちになる。

 

「で、オッサンは?」

「俺は……」

「てか、オッサンて入隊式の時も、亜白隊長のこと名前で呼び捨ててたよな。あれなんなん?」

「あー、それは……。実は俺とミナって、子供の頃からの幼馴染なんだよね」

 

 てへっ、と打ち明けられた衝撃の事実に、レノ以外の男たちが上げる驚愕の叫びが風呂中にこだました。

 

「お、幼馴染ぃー!?」

「どういうことだ!?」

「ちょっと詳しく聞かせてもらおうか!?」

「あ、俺そろそろ上がるね──」

 

 怪獣の話から話題を逸らすことには成功したが、結果的にカフカは墓穴を掘り、ミナとの関係や子供の頃の彼女との思い出など、のぼせて倒れるまで根掘り葉掘り聞かれ続けるのだった。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 ミナの話に熱中して湯あたりを起こしたカフカらが、寝室に運ばれダウンしてから時間は経ち、今は深夜。

 

 第三部隊の副隊長である保科は、一人自室で今年度の新入隊員のデータに目を通していた。

 

「ちゃんと訓練積んどるおかげで、みんな順調に解放戦力を上昇させとるな」

 

 感心感心、と満足げな表情を浮かべる保科。

 この新人たちが成長していけば、いずれ自分やミナの跡を継ぐ、次世代の英雄も誕生してくるかもしれない。

 

 そんな保科が感じているのは、期待ばかりでは無かった。続けてパソコンの画面に、怪獣8号と9号のデータを映す。

 

「こいつらについては、防衛隊の総力を挙げて調べ尽くしても、さっぱりわからん。ほんま、何者なんや……」

 

 直接遭遇したキコルの証言によれば、二体は対立している様子が見え、8号に関してはキコルを庇う行動をとっていたと言う。

 保科はさらに、カフカのデータが記された端末を手にする。

 

「日比野カフカ……スーツの力に頼らず、試験をクリアした男。前職は怪獣清掃業者、年齢は既定のギリギリ三十二歳……」

 

 カフカの情報に目を通すも、不審な点は見当たらない。

 しかし彼には、一つ気になることがあった。

 

「演習場に二体の人型怪獣が現れた時……カフカのスーツのバイタルが、不自然に消失しとった。単なる機械の故障かと思っとったが……」

 

 保科の薄い目が鋭く開かれ、データ上のカフカの顔を射抜くように見つめる。

 

「単なるおもろいオッサン、ってだけならええんやけどなぁ」

 

 カフカのことは、隊を明るくするムードメーカーとして個人的に気にいっている保科。

 特定の一人に肩入れするのはあってはならないことだが、一人の人間としてついそう思ってしまうのも、カフカの人徳か。

 

 その時である。

 

 

 

 

 

 立川基地全体に、()()()()を告げる緊急警報が、夜の静寂を破って鳴り響いた。

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