防衛隊、立川基地全体に、静寂を引き裂くようにけたたましいアラームが鳴り響く。
眠りについていたカフカらは、異常を告げる警報に飛び起きた。
「先輩、これって……!?」
「ああ、怪獣出現の警報だが……このパターンは……!!」
アラームの種類は、
『こちら、保科。総員、ただちに戦闘準備を整えて、正面に集合や』
副隊長の号令を聞き、隊員たちは大急ぎでスーツをまとう。
それぞれが各自の武器を手にすると、速足で基地の正面へと向かった。
基地正面では保科副隊長がすでに準備を終え、全員がそろうのを待っていた。
「副隊長!」
「みなまで言わんでもわかっとる。怪獣が今、この上におる」
カフカの言葉をさえぎって、現状を伝える保科。
「敵怪獣の推定フォルティチュードは、6.0以上」
「それって……本獣クラスじゃないですか!?」
「しかも、そんな奴が複数体おる」
フォルティチュードとは怪獣のパワーを計る値であり、6.0以上という数値は、防衛隊の隊長クラスの人間が1人で討伐できるレベルである。
そんな強力な個体が、今基地の上空に何体も飛び交っているという……。カフカたち一般の隊員は、その事実に全員が大きく戦慄した。
そんな隊員たちに、保科は気合を入れるようにげきを飛ばす。
「わかっとるやろうが、僕らの仕事は怪獣を討伐すること。相手がどんなに強大でも、逃げることは許されん。それは、無力な市民の死を意味する」
その言葉で、隊員たちの自覚がよみがえった。
そうだ、自分たちは人々を守るため、苦しい訓練を乗り越えて防衛隊に入ったのだ、と。
「僕らでやるで。街への被害を出さず、怪獣を一匹残らず倒し、ほんで……全員生き残って祝勝会や!」
『了!!』
みんなの気持ちが一つとなり、戦いの準備が整う。そして、闇夜から──怪獣が降り立った。
飛行怪獣は、「鳥型」に分類される姿をしている。名前の通り、その姿は鳥類に近い形態をとっている。
しかし、降り立つ複数の鳥型怪獣を見て、カフカは違和感を覚えた。
怪獣の姿を慎重に観察し、推測して、その違和感は確信となる。
「副隊長! この怪獣、まったくの新型です!!」
「なんやて? どういうことや?」
「俺は前職で、過去に現れた怪獣のデータはほとんど記憶しています。でも、この怪獣に似た姿をした奴は、過去にも例がない!」
目の前の怪獣には羽毛が無く、足はおろか翼にまで「手」のような器官を有し、共に鋭いカギヅメを持っていた。口には牙まで生えている。
一番近いのは「翼竜型」だろうか。しかしカフカの経験では、翼竜型ともまた違う種に思えてならない。
鳥類にも翼竜型にも分類されないであろうこの怪獣を、ゆえにカフカは新種だと判断した。
『GYAOOOOOOOOS!!』
新種の鳥型怪獣が鳴いた。耳障りなその声に、みな顔をしかめる。
「『ギャオス』って鳴いとるな。ほんなら、こいつらは新型怪獣のギャオスってことか?」
「悠長に名前つけてる場合じゃないですよ!!」
レノが言って、持っていた銃を構える。ギャオスが向かってきて、発砲。戦闘がそこかしこで始まった。
ギャオスのサイズは翼長数メートル。怪獣としてはかなり小型だが、その分機動力が高い模様。
隊員たちは銃で狙いをつけるが、軽快に飛び回るギャオスをなかなか撃つことができない。
「コイツら……ちょこまかと鬱陶しい!!」
直前でキコルにもたらされた専用装備である「大斧」も、破壊力を高めるためかなり重く作られており、そのせいで素早いギャオスにどうしても一撃与えられないでいる。
ギャオスはカギヅメと牙を使って隊員たちを襲い、いいように
新人ということと、慣れない夜間戦闘でのこともあり、隊員たちは苦戦を強いられるばかり。
「不味いなぁ……僕一人では、全員のフォローは難しいで」
保科はそうもらした。
彼は愛用の武器である二振りの短刀を使用し、器用にギャオスの攻撃をさばき、また反撃を加えていた。
しかしギャオスは生命力も高いのか、保科の斬撃を食らってもなかなか致命傷にいたらず、しぶとく数を減らさないでいる。
「アカンな……亜白隊長は、用事で基地を出とるし」
第三部隊の最強戦力である亜白ミナは、残念なことに今、基地にいない。
急ぎ呼び出されてはいるだろうが、彼女の到着を待つだけの余裕が、果たしてこの場にあるのか……。
そこでまた、カフカがある点に気づき、声を上げる。
「みんな! こいつらは……ギャオスは、本獣じゃない可能性が高い!」
「本獣じゃないって、どういうことです!?」
「こいつらのフォルティチュードは6.0越えてるんだぞ!? 本獣じゃないなら、なんなんだよ!?」
レノやイハルたちは、必死にギャオスのツメを防ぎながら聞き返してきた。
他の面々もカフカの答えに注意を向ける。
カフカも下手な腕でギャオスを狙いながら、叫ぶように持論を伝えようとする。
「飛行怪獣はプライドが高いせいで、それぞれが個別に行動するんだ。なのに、今ギャオスたちは──」
「集団で行動し、ここを襲っている……」
「つまり、どういうこったよ!?」
イハルの疑問に答えるように、保科がカフカの言葉を引き継ぐ。
「このギャオスたちは『余獣』で、コイツらを率いとる頭がおる……っちゅうことか」
「んなバカな……、本獣クラスのフォルティチュード値のコイツらが、ただの余獣だとぉ!?」
イハルの叫びは、みんなの絶望の気持ちそのものだった。
隊長クラスで対処可能なレベルの怪獣、それも複数体の敵が、すべてただの本獣の配下でしかないなど……まさに悪夢という他ない。
『GYAOOOOOOOOS!!』
その時、一際大きな鳴き声が辺りに響いた。
声は基地の上空より聞こえてきた。みんなの視線が、空へと向く。
立川基地上空、数百メートルの位置に──余獣ギャオスのリーダー格である本獣、仮に「スーパーギャオス」とでも呼ぶ個体が一匹、浮かんでいた。
「あ、あれがギャオスの本獣……」
「デカい……余獣の何十倍あるんだ、ありゃ……」
レノとカフカは、スーパーギャオスの放つ威圧感に圧倒されながら言った。
翼を広げたスーパーギャオスの体長は二百メートル近い。
その巨大さにともなってもたらされる脅威は、余獣など比にならないだろう。
『敵本獣のフォルティチュード……推定、大怪獣クラスです!!』
本部からオペレーターの通信が届く。
大怪獣とは、本獣よりさらに上の
本部から「怪獣10号」の識別コードを与えられたスーパーギャオス。
この圧倒的脅威の登場によって、新米隊員たちの中に隠し切れない恐怖心がわきあがってしまう。
もはや指揮はガタガタだ。保科も、思わず冷や汗を浮かべる。
そして──カフカは覚悟と共に、表情を引き締めた。
隣では、焦ったようにレノが彼を制止する。
「先輩!? ダメです!!」
カフカは、今こそ怪獣8号としての力で、隊の皆を守ろうとした。
しかしそれは、同時に正体を衆目に
そうなれば、日比野カフカは人ではなく、人に仇成す怪獣として討伐対象になる恐れが高い。
「けど、市川」
「ダメですッ! 先輩、自分があとでどうなるか考えてるんですか!?」
「でも……このままじゃ、みんなが!」
不意に、二人は違和感を覚えた。
姿を現したというのに、怪獣10号──スーパーギャオスは、一行に攻撃の姿勢を見せない。
二人が上を見上げると、スーパーギャオスもまた、視線をあらぬ方角へと向けているではないか。
まるで、眼下の人間たちなど脅威にならないと、他に脅威が迫っているとでもいうように。
そして、
「お、おい……なんだ、あれ!?」
「ゆ、ユーフォー……!?」
気づいた隊員たちが、口々に騒ぎはじめる。
闇夜の向こうから、立川基地に向けて──、一個の
円盤状の物体は、光を放ちながらコマのようにグルグルと回りつつ、真っすぐにスーパーギャオス目がけて飛び込んでくる。そして
『GYA!?』
回転円盤は凄まじい勢いでスーパーギャオスと激突、共に地上へと落下した。
「うおぉぉ!?」
怪獣たちが落ちた衝撃で地面は揺れ、カフカらは手をついて衝撃に耐える。
土砂が空高く舞い上がり、辺りにもうもうと土煙が立ち込める。
土煙を割って立ち上がったのは、スーパーギャオスではない。
そこには、もう一体の
「なっ、怪獣がもう一体増えた!?」
「いや、待て!」
驚くレノを、カフカが制する。カフカの声は、全隊員への攻撃を止めさせる要望でもあった。
「あれは……敵じゃない」
カフカは、回転円盤が姿を変えた新たなる怪獣を、そう判断した。
自分でも明確な理由はわからないが、感覚で味方だと思えたのだ。
そんなカフカの感覚を肯定するように、保科が口を開く。
「そうや、あれは人間の味方や」
「……副隊長、
カフカの疑問は、この場にいる者全員の代弁だった。
保科はうなづき、謎の怪獣の正体を告げる。
「あれは、遥か昔──神話と呼ばれる時代から存在する、世界で最初の怪獣。さしずめ、『怪獣0号』か。……その名は、『ガメラ』」
ガメラは自らの存在を示すように、大きく鳴き声を上げた。