ガメラ×エイト 神話の復活   作:ほろろぎ

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第六話 余暇

 この所、立川基地をはじめとした防衛隊を悩ませている、不思議な出来事が頻発していた。

 それは

 

「こちら第三部隊の保科。やはり今回も、出現した怪獣はすでに死亡しとるみたいや」

 

 怪獣出現の報告を受けて出動した第三部隊だったが、現場に到着した一同が見たのは、すでに(しかばね)と化した動かぬ怪獣の残骸。

 

 9号の操作した怪獣10号、ギャオスによる立川基地の襲撃以降、この状況は続いている。

 フォルティチュードの発生を確認して現場に向かえば、その発生源である怪獣は……とうに死亡したあとなのだ。

 

 はじめはなんらかの要因による自然死──寿命のようなものではないか、と考えられていた。

 しかし、不自然な点が一つ。それは怪獣の死骸が、原形をとどめないほどにバラバラになっている、ということにあった。

 

 怪獣のエネルギー源であるフォルト・ウェーブの波動が、ユニ器官の制御を越えて暴走した結果、内部から破裂──つまり自爆したのでは……というのが研究員の推測だ。

 

 が、日比野カフカの目にはそう映らなかった。

 もっともっと単純な……原始的な動機があるのではないか。カフカにはそう思えてならない。

 

「もしかして、怪獣同士が共食いでもしてるんじゃないか?」

「怪獣は怪獣を食いませんよ。トキだって人を食わないでしょう?」

 

 カフカの言葉に異を唱えたレノの例えはよく分からないものだったが、なんにしても人々への被害が抑えられることになっているのは、彼らにとってありがたい話だった。

 

 

 

 

 

 そんな不可解な事件、とも呼べない事例が相次ぐなかで、今日も今日とてカフカら隊員たちは訓練に励む。

 最近は基礎体力の向上に加えて、保科副隊長じきじきに、対怪獣用の格闘術まで叩きこまれていた。

 

 この技は怪獣が発生するようになった昔から、代を重ねて研究、研鑽(けんさん)され続けてきた闘法であり、現代においてようやく完成に至った代物である。

 それを成したのはキコルの父親であり、防衛隊の長官でもある傑物、四ノ宮功。

 

「ほれ、そこぉー! しっかり腰に力入れて、ヨタつくんやないでー!!」

 

 保科の檄が飛ぶ。

 

 この技は下半身や足の運びにその(かなめ)があり、独特の歩調によって生み出される力を拳に乗せる、といった理論でつくられてるのだ。

 

「カフカお前、そんなんまるで酔っぱらったオッサンの千鳥足やないか!」

「んなこと言ったって、この歩き方特徴的過ぎて、逆にマネしずらいっす!!」

「ナハハ! 腹、腹がプヨプヨ揺れとる!!」

 

 まるで酔歩を演じるカフカの動作がツボにはまったのか、保科はお腹をかかえて爆笑する。

 

 近年大型化する傾向の怪獣を相手に、接近戦など意味があるのか?と疑問視する声も多い。それは防衛隊の中にあってもそうだ。

 事実、保科も代々怪獣を相手にした剣術を指南する家に生まれながら、その技法はすで時代遅れと言われているのを、幼い頃から耳にし続けた。

 

 だが9号やギャオスといった想定外の大怪獣まで現れるようになっては、出来ることはなんでもするべきだという意見も大きくなる。

 カフカも内心で、武器を扱えない自分=8号において、この授業はとても大きな糧になる感じていた。見事覚えられれば、の話しだが。

 

「お前そんなんやったら、いつまで経っても免許皆伝にならんで」

 

 ひとしきり笑い終えた保科が、しょうがないといった風にカフカに歩み寄る。

 

「こうなったら、お前には特別コーチをしたる」

「特別コーチ?」

「隊式格闘術とは別の、僕の持つ『保科流刀伐術』を教えたるわ」

「え? それこの流れと違反しません?」

「でもお前、腹が邪魔して歩行術覚えられんやん」

 

 文句言うなや!と半ば無理矢理、カフカに対して保科宗四郎によるマンツーマンのスペシャルな授業が課されるのであった。

 

 

 

 

 

 それから数時間が経過した。

 カフカは保科からみっちり刀を使った戦い方を教え込まれ、どうにかこうにか基礎中の基礎の段階を終了することができた。

 

「まあ辛うじて、ギリギリ合格にしといたる」

「あ、ありがと……ござます……」

 

 妥協のない保科の鬼コーチで、カフカはもはや死に体だった。

 ちょうどお昼ということもあり、午前の訓練を終えた他の面々も、昼食をとろうと食堂へと向かおうとする。

 

 カフカも休憩をとろうと移動しようとした時、前を行く保科の端末が鳴った。

 

「内線? 誰や?」

 

 保科が端末を耳に当てる。

 

「僕です。はい、はい……えっ」

「どうしたんです?」

 

 普段表情を変えることのない保科が、ギョッとしたようにカフカを見やる。

 食堂へ移動中の隊員たちも、その様子になにごとかと歩みを止め、二人に視線を送った。

 

 保科は端末をカフカに差し出す。

 

「お前にやと」

「誰からですか?」

「……亜白隊長や」

「ミナから……!?」

 

 亜白ミナ。第三部隊のトップで、その力も防衛隊内において上位に位置する実力者。そして日比野カフカの幼馴染でもある。

 その彼女が内線を使って、私的にカフカにコンタクトをとってきた。

 

 隊員たちが小さくざわめきだす。

 

「……もしもし?」

『今から、指定の場所へ来い』

 

 端的に告げると、ミナは早々に通話を切った。

 保科やレノ、キコルらはカフカの様子をじっと見つめている。

 

「えっと……なんか、呼び出されたんで俺行きますね?」

 

 そそくさとその場を後にしたカフカ。

 残された面々は、一体彼の身になにが起きたのか、これから起こるのか……そのゴシップをはやし立てるのだった。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 突然の呼び出しにカフカは、急ぎ私服に着替えて目的の場所へと向かった。

 そこは立川基地を出て、基地からもっとも離れた場所に建つ、一軒の喫茶店。

 

 なんの変哲もないこの店に、ミナはいかなる用があってカフカを呼び出したのか……。

 

「もしかして、俺の正体がばれたのか……? それとも、とうとうクビとか……!?」

 

 店の正面まで来て、カフカは急に心配になってしまった。

 そうなったらどうしよう……と頭を抱えるも、それで答えが分かるはずもない。

 

「しゃあねえ、腹くくるか」

 

 意を決して店のドアを開ける。扉に付けられた鈴が、入店者の存在を知らせるために鳴った。

 いらっしゃい、とオーナーである初老の男性が言った。

 

 カフカは店をぐるりと見まわし……一番奥の席に、すでに亜白ミナが到着しているのを発見した。

 

「遅いぞ」

「悪い。あ、いや、申し訳ありません!」

 

 幼馴染である彼女を前に、ついタメグチを聞いてしまうカフカだったが、隊ではその(たび)に罰の腕立てを命じられている。

 慌てて口調を正したが、ミナはそれに対して特になにか言う訳でもなかった。

 

 カフカはおずおずと、彼女の対面のイスに腰を下ろす。

 

「あの、亜白隊長」

「…………」

「亜白隊長?」

「………」

「あのー……」

 

 空気が重い。ミナはわずかに、体から不機嫌なオーラを発散していた。

 しかしそれは、カフカが約束の時間に遅れたせいではない。彼女はそのくらいのことを気にする人物ではない。

 

「なんで」

「へっ」

「なんで名前で呼ばないの」

 

 予想外の一言。

 今のミナはカフカに、上司と部下ではなく昔のように、幼馴染として接することを望んでいる様子。

 確かに彼女の服装は、普段の隊服ではなく私用のものだった。

 

「いやだって、私語するといつも腕立て命じるじゃん!」

「それは部隊の中でだから。今はプライベート」

「あっ、そうなの……?」

 

 プライベートという言葉にカフカは、どうやらクビを宣告されるといった(たぐい)の状況ではないことを察し、ほっと息をはく。

 

「それで……ミナ、なんの用でわざわざこんな所まで、俺を呼びつけたんだ?」

「待ってても、君が一向に私に話しかけてきてくれないから」

「えっ、だって罰の腕立て……」

「それはそれ」

「えぇ……」

 

 上司と部下の間柄に私用を挟むなんて、大人としてどうなのと思いつつ、同時に女心ってよくわからん……と頭を悩ませるカフカ。

 ミナはフッと小さく笑みを浮かべ、一言。

 

「そんなところもカフカくんらしいね」

「褒められてるの俺?」

 

 久しぶりに素で対面した幼馴染は、昔とすっかり様変わりしているようで、そんな彼女にカフカはいいようにからかわれている。

 

 二人の前に、注文を済ませておいたコーヒーが運ばれてきた。ミナはブラックで、カフカはミルクと砂糖をたっぷりと入れる。

 

「昔と変わらず、甘いものが好きなんだね」

「お前は大人になったなぁ」

「君が昔、私にいたずらでブラックコーヒーを飲ませたことがあったでしょ? それで耐性がついたみたい」

 

 カフカの脳裏に、子供の頃の思い出がよみがえる。懐かしい、無邪気に日々を楽しんでいた時代の記憶。

 

「あぁ。それでお前は、ミィコのお墓にも缶コーヒーを供えてやったんだよな」

「そうそう。カフカくんは、グラモンのゲームだったっけ」

 

 そこから昔話に花が咲いて、話題は今の防衛隊でのことに。

 

「訓練にはついていけてる?」

「まあ、なんとかな。でも、鍛錬(たんれん)は続けてたんだが、やっぱプロのレベルは違うわぁ~」

「現に、こうしてクビになってないなら大したものだよ。その歳でならなおさらね」

「歳のことは言わんでくれ……。この間も副隊長から、腹回りのこと説教されたんだから」

 

 対面から見るカフカのお腹は、ちょっとプヨっているのがミナにも認識できた。

 なにげなく、ミナはカフカの手に触れる。その行動に、カフカはつい彼女を意識してしまう。

 

「み、ミナ?」

「……肌も荒れてる」

「!」

 

 ミナが触れた箇所は、言うようにカサカサだ。が、それは単なる肌荒れではない。

 カフカ自身にしか分からないことだがその部位の様相は、怪獣化した際の状態と一致する。

 

 カフカはとっさに、重ねられた彼女の手から腕を引いた。

 

「あ、あぁ~。最近夜更かしが続いてるからかなぁ? この年だとお肌のケアもしなきゃなぁ~」

 

 目を泳がせながらの誤魔化しの言葉。

 別に、体が怪獣になって戻らない、などといった深刻な状態ではない。単に気が(ゆる)んで、体の制御が効かなかっただけだ。

 片方の手でさすっている内に、変化は治まりつつある。

 

 カフカも初めて8号に変身して以降、いずれ元に戻れなくなる……なんて展開を不安視したこともあった。

 しかしガメラと共闘した時に、その不安は取り除かれた。

 

 ギャオスと対峙した際、0号の意識が流れ込んだ時の一瞬のつながりで、カフカは勾玉を託したガメラがそんな危険な物体を人に預けない、とすでに理解している。

 だからミナに対するこの誤魔化しも、自分が8号だと感づかれないようにするためのものでしかなかった。

 

「あとで私の使ってるクリーム、貸そうか?」

「い、いや、どっかで買うよ。男性用のやつをさ」

「そう?」

 

 突如、喫茶店内にけたたましい警報音が鳴り響いた。

 怪獣の出現を知らせるものであり、これを聞いた市民は即座に避難を開始しなければならない。

 

 同時にカフカとミナの端末にも、立川第三基地からの通信が届く。

 

「こちら亜白だ」

『大変です、亜白隊長!』

「おちつけ。状況を報告しろ」

『立川を中心とする近郊、各都市の上空に……ギャオスと思わしき飛翔体が、多数接近中です!』

 

 二人は顔を見合わせた。怪獣との戦いが、再開される。

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