ガメラ×エイト 神話の復活   作:ほろろぎ

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第七話 暴走

『ギャオスと思われる多数の飛翔体は、富士の樹海より発生したものと思われます』

 

 ここしばらく止まっていた怪獣の再出現が告げられる。

 

 (しら)せを聞いた日比野カフカと亜白ミナは、急ぎ外出先から帰投。

 今は戦闘用のスーツに着替え、第三部隊の面々と共に出動前の情報を聞き入れていた。

 

『また、ギャオス出現と共に樹海内部から、強力なフォルト波動を感知しました。フォルティチュードの値は、8.5』

「怪獣9号、か」

 

 オペレーターの報告に、ミナがつぶやく。

 ここまでの高濃度のフォルト・ウエーブを放つ存在は限られている。ギャオスらしき怪獣の出現も、9号が裏で糸を引いていることの裏付けだろう。

 

『第三部隊は至急出動し、街の防衛に(つと)めてください。亜白隊長には、樹海へ向かい9号の討伐を』

「ちょっと待ってくれ!」

 

 オペレーターの伝える作戦に、カフカはつい口を挟んでしまった。

 

「ミナ一人で9号と戦えっていうのか!?」

『本部より、そう指示を受けています』

 

 多数のギャオスから街への被害を抑えるためには、隊員の数は最大限を要する。しかし9号という、目下の最大の敵を見過ごすことも出来ない。

 ゆえに上層部は、防衛隊最高戦力である亜白ミナに単独での9号討伐を命じたのだ。

 

 下された指令内容を伝えるオペレーターの声も、浮かない顔をしているのが(うかが)えるトーンである。

 すでに隊員の一人として、カフカもこの判断はなんら間違っていないことも理解していた。

 それでも彼女の友人としては、ミナへの任務が危険極まりないものであることも無視できない。

 

 苦悩するカフカに、ミナは

 

「私は大丈夫だ」

「ミナ。けどよ……」

「お前の目指す目標は、そんなに頼りないのか?」

「!」

 

 断じて違う。

 

 亜白ミナは、怪獣を許さない。

 幼い時に味わった悲しみを後の世に残さない、そう決めた彼女の努力の結果が、()()()()()に敗れるはずがない。

 

 ミナの一言で、カフカも心を決めた。

 

「気を付けろよ」

「お互いにな」

 

 無事を祈って、今は送り出す。

 それが二人の絆の証明のように、これ以上の余計な言葉は両者の間にはなかった。

 

 他の隊員らは、続々と専用車両に乗って出動を待ち構える。

 最後にミナは、カフカの背中に向けて

 

「上官を呼び捨てにしてタメグチを聞いた罰の腕立ては、帰ってからちゃんとやっておけよ」

 

 と投げかけた。カフカも苦笑を残して、車両に乗り込むのだった。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 第三部隊は基地を出て、街へと展開していく。

 空は陽の光をさえぎる程に、飛行怪獣に埋め尽くされていた。

 

 隊員たちは即座に、武器を空に向けて放つ。

 飛行怪獣は数の多さで、移動のためのスペースが思うように確保できないのか、何体かが銃撃を受け墜落した。

 

「ん? この個体、前に出現したギャオスとなんか違う……?」

 

 落下したギャオスらしき怪獣の死骸を見て、カフカは疑問符を浮かべた。

 すぐに死体に近付くと、隊の装備品であるナイフを使い、器用にその骸の解体を始める。

 

 カフカの作業を横目に、上空への攻撃を続けながらレノが問う。

 

「先輩、なにか分かりましたか?」

「……うっ、こいつは」

 

 怪獣の体を(さば)いたカフカは顔をしかめた。

 開いた胃袋の中身は、大量の腐った肉片。人間のものではない。が、カフカには見覚えのありすぎるモノ。

 

「こいつは、怪獣の肉片だ! やっぱりギャオスは、他の怪獣を食ってたんだ!」

 

 以前言ったカフカの何気ない一言は、当たっていたのだ。

 近頃の野生怪獣が、出現直後に活動を停止していた理由……。

 

 ギャオスが同じ怪獣を共食いすることで、摂取(せっしゅ)したユニ器官のエネルギーを得て、さらなる進化を果たしていた。

 それが、現在の異常増殖の種明かし。

 

 情報は即座に立川基地に伝えられ、隊員たちの間に共有される。

 

『飛翔怪獣を、怪獣11号に認定。進化体のギャオスを、「ギャオスハイパー」と呼称します』

「ギャオスハイパーは、手足のカギヅメに毒を持ってる! みんな、爪での攻撃に気を付けろ!」

 

 カフカの注意もまた、全隊員に通信された。

 隊員たちは遠距離からの超音波メス、さらに接近しての毒爪による襲撃を防ぎつつ、重火器を使用しての応戦を続ける。

 

「クソッ、厄介な進化しやがって!」

「俺らだって、お前らに負けないよう必死に訓練してきたんだ!」

 

 隊員らは怒りを込めた叫びと共に、怪獣11号の群れを相手にする。

 しかしギャオスは個体での進化に加えて、群体での数も以前より増しており、訓練を積んだ部隊の面々も手を焼く始末。

 

 戦闘部隊を総動員しても対処が追いつかない現状に、次第に隊員たちの精神的な疲労が増えていく。

 

「チクショウ、俺たちの訓練は無駄だったのか……?」

「バカ野郎!!」

 

 つい弱音が漏れてしまった一人に対し、古橋イハルが(かつ)を飛ばした。

 

「亜白隊長の居ない今が、俺たちの活躍をアピールするチャンスだろうが!? もっと根性出せッ」

 

 気力を振り絞って戦いを続けるイハルに感化され、他のメンバーもまた死力を尽くす。

 そして、そんな人間たちの頑張りを手助けするために、()も駆けつけた。

 

「見ろ! ガメラも来てくれたぞ!!」

 

 円盤状態で飛来したガメラは四肢からのジェット噴射の威力を増大させ、自らを一つの「回転する火の玉」と化して、空を埋め尽くすギャオスハイパーに突っ込んでいく。

 円盤ガメラの突撃を受けたギャオスは次々と炎に包まれ、蚊やハエを落とすように面白いように数を減らしていった。

 

 地上からガメラの支援を見守るカフカ。

 不意に、横にいた保科に飛ばされてきた通信が彼の耳にも届く。

 

『副隊長、大変です!』

「なんや? どうしたんや、小此木ちゃん」

『亜白隊長がっ』

「……隊長がどうした」

『樹海で9号と遭遇、戦闘に入ったのち……通信が、途絶えました』

「なんだって!?」

 

 保科とオペレーターとのやり取りが聞こえていたカフカが叫んだ。回線に割り込む。

 

「ミナは、どうなったんです!?」

『スーツの反応もなく、現場に隊長の姿もありませんでした。おそらく、9号に拉致された可能性が高いと思われます』

「そんな……」

『なんらかのジャミングでスーツの追跡機能も動作せず、行方も追えませんでした……』

「ミナ……ッ」

 

 思いもしない事態に、カフカを強い衝撃が襲った。

 行動の目的が不明な9号の手に堕ちた彼女が、このままでどんな目に合わされるか……。

 

 呆然とするカフカに向けて、スキを突いたギャオスハイパーの一体が強襲をしかけてきた。

 側にいた保科ですら、ミナの拉致という事実にとっさの反応が遅れる。

 

「先輩! 危ないッ」

 

 動けたのはレノだけだった。怪獣の前に自分の体を盾として晒し、カフカを助ける。

 かつて清掃業に就いていた頃、野生怪獣に襲われたレノをカフカが庇った時と真逆の光景だ。

 

「ッ! 市川!!」

 

 ギャオスの爪を受けたレノは、そのまま地面の上へと倒れる。怪獣は即座に保科の刀の錆となった。

 カフカはレノを助け起こす。スーツの表面が裂けて、痛々しい爪傷が覗いていた。

 

「ぅっ、ぐ……!」

「市川! しっかりしろ!!」

 

 傷跡は紫に変色し、レノの肌が土気色に褪せていく。明らかに毒を受けている証拠だった。

 

 友を傷つけられ、奪われた怒り、憎しみ……。

 カフカの中に、怪獣に対する憎悪が急激に膨れ上がる。それは同時に、彼の肉体にも変化をもたらした。

 

「ぐ、ッガァァアアアアアアアアア!!!!」

 

 日比野カフカとしての肉体が、意識と共にガラスのように砕け、怪獣の姿へと変身する。

 これまで隠してきた彼の秘密が、白日の下にさらけ出された。

 

 保科も、イハルも、他の隊員らも、全員がギャオスと戦うという任務を忘れて、カフカであった怪獣に視線を向けていた。

 

『か、怪獣8号、出現!』

 

 オペレーターの声が、全員を我に返らせる。

 8号は討伐対象に数えられている。しかしカフカは……。みな、いきなり目の前に現れることとなった8号に対して、どうすべきか判断がつかない。

 

「せ……せんぱい……」

『GAAAAAAAAAAAA!!』

 

 レノの声にもカフカの反応はない。

 8号の瞳からは正気の色が失せ、文字通りの「怪獣」としての咆哮が、あたりに衝撃波をまき散らす。

 その雄叫びは、上空を飛び交う多数のギャオスハイパーも、一瞬で消し飛ばす威力だった。

 

 レノは意識を失い、周囲はカフカの正体に騒然としたまま。

 そんな中、8号は自我を喪失した暴走状態で、未だ残る飛翔怪獣のただ中へ飛び込んでいくのだった。

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