ガメラ×エイト 神話の復活   作:ほろろぎ

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第八話 夢の終わり

「……先輩ッ! あれ……?」

 

 ギャオスハイパーの攻撃を食らい毒に倒れた市川レノ。

 再び目を覚ました時、そこは戦場ではなく、周囲を白に囲まれた病室であった。

 

「ここは」

 

 立川基地内にある、隊員の治療のための一室。そこのベッドの上で、レノは寝かされている。

 力の入らない体を無理に起こすと、同時に部屋の扉が開き、同僚である四ノ宮キコルが顔を見せた。

 

「レノ! よかった、気がついたのね」

「四ノ宮……そうだ、先輩は!?」

 

 自分の体よりカフカのことを第一に心配するレノを、キコルは「らしいな」と思いつつ、手で制して横にさせる。

 レノが静かにベッドに収まったのを見届けて、キコルは備えてあったイスに腰を下ろした。

 

「まず、日比野カフカ……いえ、怪獣8号は、あの場にいたギャオスハイパーをすべて殲滅したわ」

 

 ガメラの援護もあってだけど、と添える。

 

「8号は暴走したままガメラにも向かって行ったけれど、二体の間で交信があったのか……日比野カフカは元の姿に戻って、ガメラは帰っていった」

「そうか……ガメラが先輩を」

「……あんた、知ってたのよね? 日比野カフカが8号だってことを」

 

 キコルの言葉にレノは、うなずくことしかできなかった。

 

 仲間に対してこんな重要なことを隠していた。

 それにうしろめたさはあるが、しかし漏らしてしまえばカフカは……。

 

「ごめん」

「ハァ……。いいわよ、簡単に誰かに話せる問題でもないし」

「ありがとう。それで、先輩は今……」

 

 少女は難しい顔をした。今のレノに伝えていいのか判断するように。

 そして、黙っていても仕方がない、とキコルは口を開く。

 

「日比野カフカは、防衛隊の本部がある『有明りんかい基地』に移送されたわ」

「本部に……?」

「変身が解けた直後に、保科副隊長の手で捕縛されたのよ。抵抗はしなかったから、手荒な扱いもされていない」

「ちょっと待って! なんで先輩が」

「アイツは怪獣だった! それも、史上最大の大怪獣に分類される8号なのよ? 野放しに出来るわけないでしょ」

「それは、そうだけど……」

 

 レノが恐れていた事態が、ついに来てしまった。

 カフカは怪獣として防衛隊に捕まり、その総本山へと連れられて行った。

 

 このあとカフカはどうなる?

 よくて殺処分。最悪の場合、五体をバラバラに切り刻まれ、防衛隊の装備へと転生なんてことに……。

 レノの頭をマイナスな想像だけが埋め尽くしていく。

 

 そんな彼の心情を察して、キコルはできる限りのフォローの言葉をかける。

 

「大丈夫、とは言えないけど……長官なら、公正な判断を下してくれるわ」

「長官……って、それは」

「ええ。私のパパ、四ノ宮功。パパは確かに怪獣に対しては冷徹だけれど……日比野カフカが本当に人間なら、あるいは」

 

 母親を怪獣との戦いで失ってから、キコルは父の手一つで育てられてきた。

 父の功は少女にひたすらに強くあることを要求し、親子の交流はぎこちないものへと変わっていった。

 

 が、それでも彼女は父を信じている。今でも四ノ宮功の心は、人間に寄り添い続けていることを。

 その心のあり方が、きっと日比野カフカの存在を承認するものであることを。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「あぁー……」

 

 聞き覚えのあるセリフがもれた。が、怪獣9号のものではない。

 日比野カフカの溜め息である。

 

 カフカは今、立川基地を大きく離れた防衛隊本部──その地下深くに作られた堅牢(けんろう)な檻の中で、厳重に動きを封じられた状態で拘束されていた。

 

 9号に(さら)われた可能性が高いミナ、ギャオスの毒に倒れたレノ。

 二人のことは気にかかるが、あの場は大人しく保科に捕まるしかなかった。それから数日が経っていた。

 

 自分はこのあとどうなるのか。8号である事実を知った他の隊員らは、再び仲間として受け入れてくれるだろうか。

 それ以前に、無事に生きて帰ることができるのか。ミナやレノに再会できるか。様々な不安が、カフカの頭の中をグルグルと廻っていた。

 

「落ち込んでてもしょうがねえ。今はとにかく、俺がちゃんと、まだ人間だってことを証明しないと」

 

 その時、正面の扉が音を立てて開いた。

 鋼鉄製のゲートは数十センチの厚みがあり、この地下施設が対怪獣用に特別にこしらえられたものであることが(うかが)える。

 

「……お前が、怪獣8号か」

「あ、貴方は……!」

 

 椅子の上に拘束されているカフカの目の前には、防衛隊の長官である男──四ノ宮功が、数名の部下を引き連れて立っている。

 

(この人がキコルの親父さんか)

 

 他のベテラン隊員たちと比べても、功の肉体は他を抜きんでた屈強さを見せ、年齢を感じさせない力強さを誇っていた。

 さすがに全防衛隊のトップに立つ人物だとカフカは、功の無言の迫力に思わず息をのむ。

 

「奴の拘束を外せ」

 

 功はカフカを威圧するように睨むこと数秒、後ろの職員に一言そう命じた。

 

「し、しかし! 危険すぎます!」

「誰に言っている」

 

 カフカをただの怪獣と見なす職員は異を唱えたが、功はこれを長官としての圧で黙らせる。

 職員はプレッシャーから冷や汗を浮かべつつ、震える手で機械を操作してカフカを(いまし)めていた束縛を外した。

 

 開放されたカフカは立ち上がると、一も二もなく長官である功に、自信の潔白を訴える。

 

「四ノ宮長官! 俺は怪獣じゃありません! まだ人間です!!」

「…………」

 

 功はカフカの訴えに耳を貸すことなく……無言で取りだした拳銃をカフカへと放った。

 

「ガッ!?」

 

 銃弾を受けたカフカは胸を押さえ膝をつく。しかし倒れ込む前に、よろよろと立ち上がる。

 

「ち、長官……なにを」

「心臓に銃弾を受けて死なない者を、人間とは呼ばんのだ」

 

 カフカの体内で、心臓に受けた致命傷の傷は、ガメラから与えられた勾玉の力で修復されていった。

 それはつまり、功の言うようにカフカがもはや人間ではない証明なのか……。

 

「違う……例えこの体が怪獣になっても……俺の心はまだ、人間だッ」

「詭弁だな。貴様の危険性は、先の11号との戦闘で証明されている」

 

 怪獣11号、ギャオスハイパー。

 確かにカフカは一度、ミナとレノのことがあって自我を失い、怪獣としての力に飲まれてしまった。

 その事実に言い訳は聞かない。

 

 歯噛みするカフカに四ノ宮長官は淡々と、感情を乗せない声で彼の最期を通達する。

 

「日比野カフカ。これより貴様を怪獣8号として、この場で討伐する」

 

 長官の横には、見るからに特別製の箱型ケースが置かれていた。中には四ノ宮功のためだけに造られた、専用装備が収められている。

 開放されたケースの中身は、両腕を覆う機械製の籠手(こて)

 

「これは一九七二年に札幌を壊滅寸前にまで追いやった大怪獣……怪獣2号の体を利用して防衛隊が生み出した『怪獣兵器』だ」

「怪獣兵器……それが」

「貴様も直に、この様な姿に作り替えられる」

 

 功はカフカの正面、数メートル離れた位置に立っている。その場所から、右腕を凄まじい速さで突き出した。

 

「!? ガフッ……!」

 

 衝撃波。四ノ宮功の腕力と怪獣兵器の性能が合わさり、発生したソニックブームはカフカの体をいともたやすく吹き飛ばす。

 カフカは鉄製の壁にぶつかり、余りの速度で体はめり込み鉄の壁には亀裂が発生した。

 

 新幹線にはね飛ばされるよりも、もっと凄まじい衝撃だった。カフカの内臓も骨も、パンチ一発でぐちゃぐちゃに破壊されていた。

 口からの大量の吐血は、カフカがただの人間であれば致命傷の証明である。

 

 しかしカフカは死んでいない。怪獣の体が、このレベルのダメージでも活動を停止することを許さなかった。

 

「怪獣になるがいい。それとも、最期は人間の姿で終わりたいか?」

「グ……ッ」

 

 勾玉が自動で傷を修復していく。それだけでなく、主の危機を感じとった勾玉は、彼の体を意に反して8号の物へと変えようとする。

 カフカは必死に体の変化を押さえつけながら、ヨロヨロと起き上がり功に叫んだ。

 

「長官、やめてください……! 俺には、貴方と戦う気はない!」

「ならば、そのまま無抵抗で死ぬまでだ」

「ガッ! ぐあぁッ!?」

 

 功は聞く耳持たず、鋼鉄の拳でカフカを殴打する。

 プロボクサーのようなフットワークは、カフカの全身を余すところなく痛めつけ、破壊した。

 

 カフカの意識が遠のく。その顔が、鬼のような髑髏(ドクロ)に浸食されていく。

 

「ぅ……おぉッ!!」

 

 薄れる意識を無理矢理に奮い起こす。カフカは功の攻撃によって折れた右腕で、自分の顔面を殴りつけた。

 鬼面が割れて、人間日比野カフカの素顔に戻っていく。

 

「……なんのつもりだ」

「言ったはずです……俺に戦う意志はない……。怪獣には、ならない」

「ならば、どうする」

「……話し合う」

 

 カフカの言葉に、功は一瞬だが思考を止められた。

 この男は、自分の命が危ないというこの状況で、なんと言った?

 

 ふざけている、訳ではない。カフカの瞳は真剣だ。

 真剣に、武装した四ノ宮功(最強の男)を相手に話し合いで事を収めようとしている。

 

「言葉での説得など、怪獣との戦いでは無意味だ」

「確かに、そうかもしれない……。怪獣に人の言葉は通じないし」

「ならば」

「けどッ!」

 

 確かな意思を込めた瞳で、カフカは正面から功を見据える。

 その目には、四ノ宮功という男を、彼の理性を信じているという強さがあった。

 

「貴方は怪獣じゃない、人間だ! 同じ人間なら、人間同士なら……きっと分かり合えるはずだ。それが、怪獣と人間の違いだ!!」

 

 怪獣は、自分のためなら他の個体を食らい糧とすることにも、なんら抵抗を感じない。

 だが人間は、他者を利用するだけの存在とせず、共に並ぶ仲間と認識することができる。

 

 カフカの思いのこもった言葉を聞いた功は、しばし瞑目し

 

「甘いな。だが……貴様の言う通りかもしれん」

 

 兵器の武装を解いて、カフカに向けていた拳を収めた。

 

 カフカは、ふぅーと長い溜息をついた。

 長官は、最初から自分を殺す気などなかったのではないか、そう彼は感じていたのだ。

 

 それは強大な怪獣兵器を振るいながら、8号となっていない自分の五体が消し飛ばされていない事実に気づいたから。

 四ノ宮功は始めから、カフカを試すために手加減して相手をしていたのだ。

 

(なんにしても、死なずに済んでよかったぁ~)

 

 内心で涙を流しながら、命が助かったことを喜んでいるカフカ。

 あとは第三部隊のみんなの所に戻るだけだ。と、その時……

 

「長官、大変です!」

 

 拘束室の外に退避していた職員の一人が、大慌てで駆けこんできた。

 

「どうした」

「立川基地より緊急通信がありました。樹海に亜白ミナを捜索に向かった第三部隊が……()()()()の襲撃を受け、壊滅状態だそうです!!」

 

 カフカの脳裏に、地に倒れ伏した保科やキコルらのビジョンが過ぎる。

 

「副隊長たちはどうなったんです!?」

「バイタルの状態から、まだ命を落とした者はいません。ですが、非常に危険な状況です」

「クッ……!」

 

 急いで仲間の元へ向かおうとするカフカを、功が制止した。

 

「待て。お前にはまだ、処分を下していない」

「今はそんなことを言ってる場合じゃないでしょう!?」

「我々は防衛部隊だ。強大な怪獣の力を持っているお前に、好き勝手に動かれる訳にはいかん」

 

 ルールにがんじがらめにされ、肝心な所で動きを制限される。

 組織の行動の遅さが、この状況でカフカの活動をも限定してしまうことに。

 

 防衛隊員の一人としての日比野カフカは、長官の命令に逆らうことは出来ない。

 上層部からの正式な指示を待って、怪獣の運用を認定してもらう。

 

 それを待っていては、部隊のみんなの無事はどうあっても……。

 ならば、どうするか? カフカは居住まいを正して、四ノ宮功に向き合う。

 

「どうするつもりだ」

「……四ノ宮長官。日比野カフカは、本実現時刻をもって……防衛隊を、除隊いたします!!」

 

 敬礼をもって、カフカは長官に自らの進退を伝えた。

 功の返事を待たず、拘束室から飛び出て、りんかい基地を脱出する。

 

 隊員として仲間の助けになれないのなら、一人の人間として友人らの窮地(きゅうち)を救うことを彼は選んだのだ。

 除隊からの再入隊は、いかなる理由をもってしても認められない。これでカフカは二度と、防衛隊員にはなれなくなった。

 

 唐突に、なんの前触れもなく日比野カフカの人生をかけた夢は、終わりを告げた。

 一世一代の大決心だった。しかし彼の心には、微塵の後悔もない。

 

「待ってろよキコル、副隊長に他の皆も……すぐに助けに行くからな!」

 

 怪獣8号が空を駆ける。友の元へ向けて。




執筆にもたついてる間にアニメに展開が追いつかれてしまった…
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