「──なるほど。かくしてトリニティを包み込んでいた紅い霧は消え、異変は解決したのだな」
トリニティ総合学園、ティーパーティのテラス。
そこで上品に椅子に座る桐藤ナギサと白い鳥を手の上に乗せている百合園セイアが紅茶を飲みながら、事の顛末について話し合っていた。
「ええ。かなりの強敵揃いだったと聞いているわ。シャーレに支援を頼まなかったことを悔やんでしまいそうなほどに」
「その選択を否定するつもりは私にはないよ、ナギサ。トリニティの権威を……誇りを、これ以上損なうわけにはいけなかっただろうからね」
「セイア……」
「むしろ私に謝らせてくれ、ナギサ。現ホストである私が大事な決断をするべき場面でまた体調が悪化してしまったことを。君にまた、厳しい判断を担わせてしまった」
「無理はしないでください、セイア。いくら体調が快復してきているからと言っても、まだ無理はできないのですから」
紅い霧の発生源である紅魔館を確認した報告が届いた時、ティーパーティはナギサしかいなかった。
本来ならばセイアと意見を交わし、慎重な判断をするべきだったのだろうが──
セイアは病弱で、病み上がりの身だった。
しょっちゅうの頻度で悪化させてしまう体調によって、当日のティーパーティに……ナギサとの相談ができなかった。
「そう言ってくれて助かるよ、ナギサ。──それで、聞きたいことはもう一つある」
「ええ、紅魔館への処罰、ですね」
「聞くところによると、正義実現委員会のみではなく、救護騎士団、果てにはシスターフッドまで弁護をしたいと申し出ているようじゃないか」
「どうやら彼女たちの思考に変化が生じたようでして……正直、困っています」
トリニティはティーパーティの独裁ではない。
正義実現委員会、シスターフッド、救護騎士団等々のトリニティにとって大きな力を持つ組織との会議の末、最終的な判決が出される。
ティーパーティはその中でも生徒会として学園の運営、外交などを執り行っている。
そんなトリニティの会議において有力な組織が3つともに吸血鬼の弁護を取り持ちたいと主張してきたのだ。
これでは碌な判決が出せたものではなかった。
「ミネからある程度の話を聞いているよ。……彼女たちは常識の範疇でなら、ある程度の処罰は通してくれるだろうから、それで妥協するべきじゃないかな?」
「ですが……吸血鬼なのですよ? 前回の異変で猛威を振るった、あの……」
「偏見はよろしくないぞ、ナギサ。いくら相手が同族だからって忌み嫌うのは上に立つ者としてあまり褒められる態度ではない。──信じてみようじゃないか」
セイアはあまり人を信じ切れないナギサを励ます。
いくら吸血鬼異変で大きな被害を起こしかけたあの吸血鬼と同族だとしても、それを原因にして迫害することは正義でも救護でも何でもない。
今回の戦いで頑張ってくれたみんなの想いを無碍にしてしまう。
そうして話を進めていると、扉からコンコンとノックの音が聞こえた。
「はい」
「レミリア・スカーレットを連れてきました」
「わかりました。通してください」
ナギサが言葉を返し、扉が開かれる。
「あなたが──」
「わたしが今回の異変の主犯。レミリア・スカーレットよ。私をこの場に招待してくれて、本当にありがとう」
「──えっ、ああ、はい。ようこそ、ティーパーティへ」
「(……直感通りの顔だ。垢ぬけた、見た目相応の影のない少女の顔。吸血鬼異変で報告された吸血鬼の風貌とは打って変わって、ここの生徒だと言っても信じられそうな無垢な顔だ)」
まるで、憑き物が落ちたかのようなさっぱりとした表情だとセイアはレミリアの顔を見ながら感じて、ナギサの戸惑い様に苦笑した。
「失礼。ナギサは君の吸血鬼らしからぬ雰囲気にびっくりしてしまったんだ」
「セ、セイアさん!」
「吸血鬼らしくない……そうかもしれないわね。私もびっくりしているわ。こんな顔を、私ができたんだって思えるぐらい」
「──ずいぶんな心境の変化があったんだね。トリニティの生徒たちのおかげかな?」
「ええ。優秀な生徒を多数抱えているのね。素晴らしいわ」
「だそうだ。よかったじゃないか、ナギサ」
「え、ええ。ありがとうございます……?」
ナギサはまだ混乱しているようだ。
仕方ないと思いながらも、セイアはレミリアへの事情聴取を内心ワクワクしながら、執り行うことにした。
「まず、第一に伝えるべきは──君たち紅魔館の処罰についてだね」
「勘違いしないでほしいのは、各組織が君たちを擁護しようとしている以上、あまり重たい処罰は私たちにはできないし、するつもりもないということだ」
「本当?」
「本当だとも。だから──異変で被害を大きく被った農業地区への損害の補填とある程度の技術・知識の供与ぐらいかな。君たちにはそれぐらいの処罰が課せられることになる」
「補填は分かったけど……技術と知識の供与、というのは?」
「言葉通りさ。私たちは君たち妖怪について何も知らな過ぎたことが、今回の一件ではっきりとわかったんだ。だから、君たちが知る限りの妖怪についての情報と──魔法の使い方。それについての技術的な支援をすることを取り決めようと考えている」
セイアの提案はレミリアには破格のものだった。
無論、処罰であるから重たくはあるのだが、それでも悪い結果にはなる気配がひとかけらも存在していなかった。
「そんなものでいいのかしら? もっとこう……十字架に磔にされて、槍で貫かれるぐらいはされるんじゃないかと思っていたのだけれど」
「そんなことするわけないでしょう……!?」
「そんな血なまぐさいことをする気は毛頭ないよ。──そんなバッドエンドの結末なんて、見たくないからね」
セイアの言葉は、まるでバッドエンドを見てきたかのような口ぶりだった。
ナギサの顔を見てみれば、彼女もまた、あまり浮かばない顔をしていた。
「──悪い運命が、あったのかしら?」
「……まあ、ギリギリ逆転できた、という感じだったけどね」
「そう、あなたたちもまた、運命と戦う戦士だったのね」
レミリアはそんな彼女たちの表情を、様子を見て心の中でとあることに納得していた。
「だから、私はここにやってきたのね」
「それはどういう意味だい?」
「このキヴォトスに来る際に、どこの自治区に館を引っ越させるか悩んでいた時に最も興味をそそられたのがこのトリニティだったわ。ただの興味本位だと思っていたけど──どうやら、あなたたちの運命と私たちの運命に重なる箇所があったようね。だから、私はここを選んだのでしょうね」
かつて、アリウスというトリニティへの恨みを植え付けられた者たち。
紅い悪魔という、一族の未練と執着心の呪詛を植え付けられた姉妹。
レミリアは、自らを解き放ってくれるにふさわしい場所を、無意識のうちに選び出したのだろう。
トリニティは、似た運命を招き入れたのだろう。
もう、同じ結末を作らないでくれと、そう願って。
だから自分はここにいるのだと、レミリアは理解した。
「そうか。君はアリウスの影であり、私たちに二度目を行わせない戒めでもあったのか。合点がいったよ」
「……なるほど。そうであるならば、私たちも同じ過ちを繰り返すことは避けるべきなのでしょうね」
「ナギサ」
「私も、ティーパーティ、フィリウス派閥の長として、あなた達の処罰の減刑を嘆願させていただきます」
「あら……さすがにこれ以上の減刑は、ちょっとやりすぎじゃないかしら」
「いいんだ。同じ運命を辿らせないためなのだから」
ナギサはこうしてはいられないと、自らの所属する派閥に紅魔館への減刑嘆願を執り行う旨を伝えようと議員たちを呼ぶ。
同じ過ちをしたくない。
過去の二度目は御免だ。
その思いが、ナギサを大きく突き動かしたのだった。
その姿を見たレミリアは、自分の罪が消えてなくならないか、ちょっぴり不安になるのだった。
「いってー! 怪我したー!」
「大丈夫なのかー?」
「お、救護騎士団! 助かったよ……って、お前、見ない顔だけど……」
「私はルーミアだぞ。救護騎士団の新入りなのだー」
トリニティの市街地区で、ちょっとした抗争の事後処理中。
一人の正義実現委員会の生徒を救護したのは、妖怪のルーミアだった。
救護騎士団の制服に身を包んだルーミアは、肩から救護用の医薬品などを入れたバッグをかけていて、その装いはナースそのものだった。
ルーミアはたどたどしくも救護騎士団の人々が教えたとおりの手順で診察と治療を行っていき、患者を治していく。
「──はい、治ったのだ!」
「おお、礼を言うぞ、ルーミアちゃん!」
「えへへーありがとうなのだー」
「妖怪を、救護騎士団に?」
「はい」
その状況を、病院に併設されたカフェでサクラコがミネから聞いていた。
サクラコとミネは異変による大怪我で入院を余儀なくされ、お互いに全治二週間の休養をしている。
サクラコはその話を聞いて驚愕した。
妖怪に救護騎士団が務まるのだろうか、と。
「私は紅魔館に赴く数日ほど前に、先生に相談をしていました」
「シャーレの先生と?」
「ええ。妖怪と人間の在り方について……私は哀しかったのです」
ミネは話す。
なぜ、妖怪は人間を喰らうのか。
どうして、妖怪は人間を脅かすのか。
ミネはそれを『『幻想』にいたころに染みついてしまった風習を捨てきれていないから』と判断した。
「郷に入っては郷に従え、という言葉の言う通りに彼ら妖怪はキヴォトスに立ち入ったのならキヴォトスの法に則るべきだったのです。それを怠るのは変わる環境への適応に対する怠惰に他ならず──私は哀しかったのです」
「だから、『救護』を?」
「ええ。例え妖怪でも、私は救護が必要な場所に救護を届けます。それが、私の覚悟ですから」
サクラコは目を丸くして、ミネを見ていた。
ミネは吸血鬼異変により悪くなった妖怪への風評に対しても、救護の手を伸ばそうとしていたのだ。
否、成し遂げてみせたのだ。
現に一人の妖怪がミネの手腕で救護騎士団として活動しており、レミリアの紅い悪魔の呪詛を引きはがした。
ミネの覚悟は、留まるところを知らなかった。
それに驚愕を隠せないサクラコは、何よりもまず、ミネに礼を告げた。
「……あなたのその勇敢な行いに、私は敬意を表します。蒼森ミネ救護騎士団団長」
「そんな畏まらないでください。私は私が望む『救護』を誇りと信念のままに行っただけなのですから」
「その『救護』を行うのに、いったいどれほどの覚悟が必要なことか。私は感服を隠せません」
怪我をした人間を助けることはできる。
だが、それが妖怪に変わるだけで自分たちはしようとは考えなかった。
手を出したら襲われるかもしれない。
下手に助けたらみんなから指を刺されるかもしれない。
自分含め、誰もがそう考える。
それが普通の価値観なのだ。
人間を襲う妖怪を助けようとするだなんて、本来考えられないことなのだ。
「差別なく、公平な目で『救護』を人間妖怪関係なく執り行えるあなたのその誉れ高き精神に、敬意を表します。──ありがとう、ミネ団長。あなたの覚悟がなければ、私たちは第一回公会議と同じことを行っていたかもしれません」
「……待ってください」
「どうしました?」
「考えてみると……妖怪への蔑視もまた、『救護』すべき事案なのではないでしょうか?」
「えっ」
「そうではないですか。妖怪が人を喰らうことが別世界の風習で、捨てきれない悪習だった。ならば私たちはそれを指摘し、彼らからそれを撤廃させ、新たな暮らし方を教えてあげるべきではないでしょうか?」
「それはそうでしょうけど……全ての人が妖怪と共に生きることに賛成できるわけではありませんので──」
「なぜ無理だと決めつけるのですか?」
「いや、それは」
「こうしてはいられません、今にも後ろ指をさされる妖怪が現れ続けているのであれば! 私はその後ろ指を破壊し、差し伸ばす掌として治します! それが私の『救護』です!」
「お、落ち着いてください、ミネ団長!」
「なぜ止めるのです、サクラコさん!」
「えーっと、大丈夫かい? ミネ、サクラコ」
「先生!?」
今すぐにも飛び出しそうなミネの動きを止めたのは、キヴォトスでも珍しい『外の人間』にして、連邦生徒会長が指名した『先生』だった。
シャーレに所属している先生は、日夜生徒からの依頼に応え続けている。
「お元気そうで何よりです、先生」
「大怪我をしたって聞いてたけど……元気そうでよかったよ」
「心配させてしまって申し訳ありません。私もまだまだ鍛錬不足だと実感させられました。──ところで、先生がこちらにいらしたのはお見舞い以外に何か理由があるのですか?」
「うん。──これ」
先生が見せたのは、赤黒い色をした果実だった。
「これは……?」
「ザクロだよ。神主が送ってきてくれたんだ。これがミネが望んだ『人間の代わりになる食べ物』──これを少量、飲み物か食べ物に混ぜれば、妖怪は人間を食べたくなる衝動を打ち消すことができる」
「こんな果物で──?」
「なんでも妖怪には人肉と同じ味がするらしいよ?」
「そ、そうなんですか……予想が付きませんね……」
サクラコがザクロをまじまじと観察する。
こんな果物のどこに人肉の味たり得る要素があるのだろうか。
「食べてみたけど美味しかったよ」
「食べたんですか!?」
「生徒に得体のしれない物は与えられないから……」
「ありがとうございます、先生。ルーミアもこれで、飢えの衝動を捨てることが叶うでしょう。──できることなら、これを栽培したいのですが」
「わかってる。ザクロの実が成る木も何本か貰ってきたんだ。トリニティに植えたいんだけど……いい場所ってあるかな?」
「それでしたら、私たちシスターフッドの管理する農園を一区画解放しますので、そちらをご利用ください」
「ありがとう、サクラコさん」
「いいんです。妖怪を助けたいという思いは一緒なのですから」
妖怪、それは人間を喰らうことで生きることを運命付けられた生命。
誰かを傷つけることを定められることなど、在ってはならないとミネは飛ぶ。
傷つけるものの悉くを破壊し、キヴォトスに在るべき姿へと救護する。
『救護』を妨げるものであるならば、たとえそれが運命だろうと、ミネは破壊することを決してあきらめないだろう。
今回の異変は、そんな彼女の公平な視野と思考を思い知ることができたとサクラコは深く感謝するのだった。
「それでは、行ってまいります、先生」
「どこに行くの? まだ入院中のはずじゃ──」
「これから妖怪を蔑視する者たちを『救護』して参りますので」
「忘れてなかったんですか!?」
そして、ミネの破天荒な性格も、再び実感するのだった。
トリニティ自治区の商店街。
たくさんのカフェが並ぶエリアの一角で、とある一団がパフェを楽しそうに食べていた。
「ウマい! ウマいぞレイサ、このパフェ!」
「チルノちゃん、パフェが口についてるよ。もう……」
「そうですか! と、よかったです。このスイーツショップは私のお気に入りのお店だったので……気に入ってもらえて何よりです!」
「よしよし、頑張ったねレイサちゃん」
「だ、ダメです、褒めないでください、フランさん! レイサは別にみんなの口に合うかどうか心配だったとか、そ、そういうことは一切ありませんでしたからね!」
レイサ、チルノ、大妖精、そしてフランの四人がトリニティのスイーツショップ巡りをしていたのだ。
レイサによる案内は時々たどたどしくなったりして、そのたびにフランが励ましていて、その姿はまるで妹を褒める姉のようだった。
背丈だけで言えば、レイサの方が大きいはずなのに、溢れる母性というか慈しさはフランの方が圧倒的だった。レイサは悔しくなった。
「どうしてそこまでフランさんはこの私を褒めるんですか!? そんなに褒めても何も出ませんよ!?」
「だって、レイサちゃん行く先々で必死に言葉を考えている姿が可愛くって、ついつい褒めたくなっちゃってさー?」
「そ、そんなことありません! きっちり台本を用意してきてますから!」
「その台本って、さっきのゲヘナの生徒の乱入でほぼほぼ台無しになってるでしょー?」
「ギクぅっ!?」
「言葉でいう人初めて──ううん、チルノちゃんもいたよね」
「だから私は褒めるよ。レイサは偉い。頑張ってる、すごいよレイサは」
「あ、えっと、~~~っ、と、当然、ですから!」
余りに眩しすぎる褒め言葉にレイサの顔は真っ赤に染まる。まるで紅魔館の外壁みたいだ。
そんな楽しい時間を過ごしていると、途端にフランがなにやら物寂しそうな雰囲気を出してきた。
フランの視線は空に向いている。
「フラン? はれの空を見るのはあぶないんじゃなかったのか?」
「太陽の光を浴びるのがダメなだけ。それも長時間浴びないとそこまで大変にならないわ。──異変の時は、だいぶボロボロだったから結構染みたけどね」
「どうしたんですか、フランさん……? 何やらとても、悲しそうな感じがしますけど……」
レイサの言葉に、フランはゆっくり応える。
「──なんていうか、やっぱり、寂しい感じはあるんだよね」
「フランさん……」
「495年の間……紅い悪魔に苦しめられたお姉さまを何とか支えたいと考えて日々を過ごしてきた。そんな日々が──突然終わりを迎えちゃってさ。……だいぶ、胸の奥がすっからかんなんだ」
フランは気が付いていなかったが、自分自身もまた、紅い悪魔に毒されていた。
まるで伝染病のように、姉を信頼して心配してきたその心を狙い、静かに紅い悪魔はフランにも根付いていたのだと、異変の後にようやく気が付いたのだ。
確かにあの時、紅い悪魔を名乗ったとき、自分に強い人間への憎悪を抱いていたが……それは念入りに隠された、紅い悪魔の素質が芽生えた証だったのだろう。
その時、一族の周到な悪意にびっくりしたと同時に──自分もまた、レミリアと同じように空っぽになってしまったのだと理解した。
姉のように500年分がすっからかんとまではいかないが、それでも数百年分の時間が欠けてしまっていた。
「だったら、あたらしいものでつめこめばいいんだぞ!」
「チルノちゃん……」
「そ、そうですよ、フランさん! 空っぽになったなら、新しい日々のための余裕になったと考えればいいんです! 何も全部失ったわけじゃないんですからっ!」
「…………そうなんだよね」
分かってはいた。
欠けたなら、直せばいい。
新しいもので詰め込んで、新しくすればいい。
妖精たちの言葉は真っ当だ。
でも、だからこそ……ちょっと心が痛くなった。
「チルノたちは最初の頃、私を怖がっていたよね。──もう、怖くないの?」
「……しょうじき、こわい! でも──フランは友達を破壊するようなわるいやつじゃないって、あたいはしんじてるからな!」
「私もチルノちゃんと同意見です。フランさんは、とても優しい人ですから」
「優しい、か。お姉さまのためなら友達なんて見捨てるような人が、優しいのかな?」
「そ、それは……」
その言葉は、妖精には答えにくいものだった。
妖精にとって家族というものは縁が薄い。自然こそが自身の産みの親ではあるが、自然は同時に自分の子供であるとも妖精は認識している。
そのうえで、子供と親の区別がかなり薄い。
そんな大妖精には、フランの出した言葉に対して美味い返し方ができなかった──が、レイサがフランの手を取って、告げる。
「家族と友達なら、そりゃあ家族を選んでいいですよ! 私は許します!」
「──レイサちゃん」
「そりゃあ、見捨てられるのはつらいですけど、それでも、家族というかけがえのないものを守るためなら私は許しますよ! じゃんじゃん──は嫌ですけど、きちんと理由を言ってくれれば、何回でもやっていいんですよ!」
友達は作れるもの。
家族は最初から在ったもの。
どちらも唯一無二の存在ではあるが、家族は作れない。自身の姉は、後から作ることなんてできないのだ。
それなら、レイサは家族を優先してほしいと思う。
この世に二人もいない存在だからこそ、自分よりも優先してほしいと思う。
フランはそんなレイサの言葉に、胸の奥が少しだけあったかくなった。
「……ありがとね、レイサちゃん。そんな風に言ってくれて、ちょっと、嬉しい」
「そ、そうですか? えへへ、嬉しいです」
「でも、ちょっと減点。自分のことを見捨ててもいいだなんて。そんなことをレイサちゃんは言っちゃうんだ」
「え!? いやあの、それはですね、言葉の綾と言いますか──」
ふふふと笑う言葉がこぼれる。
焦りながら、どもりながら弁明の言葉を連ねるレイサ。
他の人が食べているクレープに目がいき、次はあれを食べようと提案するチルノ。
そんなチルノを抑えながらも、綺麗なファッションに目をとられていた大妖精。
──ここには、いろんな出会いが待っていそうだった。
「レイサちゃん」
「な、なんですか?」
「──友達になってくれて、ありがとう」
フランの唐突な言葉に、レイサはびっくりしたが──そのお返しの言葉は、思っているよりもはっきりすらりと口に出せた。
「──当然です!」
本当の幸福は、身内だけが幸せになっても成立しないのだろう。
それは周りのみんなの幸福を奪う行為だから。
みんなを傷つけることは、どうやっても幸せには結び付かないから。
なら、みんなで幸せになればいい。
家族も、友達も、友達じゃない人も。
みんなひっくるめて幸せになればいい。
それが、フランドール・スカーレットが新しく掴み取った496年目の春の兆し。
Next Aoharu...
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