青き虹色に心惹かれた幻想   作:プレシアンスグレム

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明治十七年の上海アリス

「きひゃひゃひゃははは!!」

「なんて荒々しい……!」

 

 まるで妹様みたいだと思いながら、美鈴はツルギの猛攻を凌いでいく。

 ショットガンの弾丸だけではなく、銃をの者を鈍器のように振り回したり、蹴りを浴びせたりするその身体能力はまさにトリニティの最高戦力だと言える。

 

 だからこそ、美鈴はこれで良かったと考える。

 

 この最高戦力を自分がまかせられているこの状況こそがベストだと言える。

 もし仮にツルギが紅魔館内に入ってしまっていたら。それを想うだけでゾッとする。

 パチュリーはあっという間に倒されるだろう。あの魔法使いは中距離戦が得意だが、近接格闘なんてからっきしだめだ。

 咲夜なら、ある程度は持ちこたえるだろうが……この気を知らなくては対応しきれなくなるという確信があった。咲夜は見てくれだけで人を判別しがちだからこそ、この気が語るツルギの性格を理解できず、最終的にツルギに翻弄されて終わりかねない。

 

「驚きますよ。妹様のように暴れているように見せておきながら、その内心はいたって真面目なんですから!」

「黙って壊れろおおおっ!!」

 

 美鈴は気を操る力を持つ。

 気とはキヴォトスの外の世界における大陸での力の一般名称であるが、ならば、力とは何か。

 実のところ、美鈴は特に考えたことがない。

 

 力が何かなんて別にどうだっていいだろう。

 強いから力があるのだから、と美鈴は考える。

 

 どんな形であろうとも、気を多く放つ者は強い。

 だから、目の前のツルギは強いのだ。

 

 まるで激しい炎の嵐のような気を放ちながら、その気と実際に触れてみて驚いたのだ。

 ツルギの気は熱くないのだ。

 だからと言って冷たいわけではない。熱いお風呂ぐらいの温度なのだ。

 

「激昂しているようで激情ではない。狂乱しているようで平常心に近い……正直、あなたの方が妖怪だと思えますよ私」

「ぎひゃひゃひゃぁっ!!」

「……伝わっているんでしょうか、これ」

 

 まあ伝える意義はないでしょうけど。

 

 左から来る銃の振り下ろしを気で固めた左腕で耐えれば、その隙を見越していたかのように右手に構えていたもう一丁のショットガンが火を噴く。

 

 胴にも気を巡らせて耐えたが、気をこうも身体を行ったり来たりさせてると集中力が乱れていく。

 正直息も上がり始めてきていて、このままだとツルギの粘り勝ちは確実だろうか。

 足止めをしてくれていた妖怪もあっという間に倒され、増援はすぐに駆けつけてくる。

 

 だが、だからといってこのままツルギを通させるわけにはいかないのだ。

 

 このままこの最高戦力を紅魔館に通してしまったら、紅魔館の敗北は濃厚になってしまう。

 そうなる前に、一撃でも強い攻撃をツルギに加え、ツルギを再起不能にさせるべきだと、美鈴は把握していた。

 

 長期戦は自分に不利になる。

 もうこれ以上の余裕はない。

 

 だから、ここで自分の気を技に総動員して負傷覚悟の上で迎撃を行う。

 

「はぁー…………っ」

「は……?」

 

 気を鎧のように、武器のように身に纏う。

 美鈴の気は虹色の輝きを放ち、手足を光のベールが包み込む。

 

「――これで、決めます」

「――きひっ」

 

 両足を前後に大きく開き、左手を前に突き出し、右手を胸前に引き締める。

 この構えになったとき、気は効率よく身体を巡る。

 武術への長い研鑽が作り出した気の操り方、その伝承。

 

 妖怪の手に渡ってしまってもなお輝くその力。

 

 強く、強く大地を蹴り、地を跳ねるように駆ける。

 

 その速度はまるで雷。

 

 ツルギはその突進を見切り、避けるために横に飛び退く――が、その行動を見越していた美鈴はツルギの真横で横方向へと跳び、ツルギを追う。

 その跳躍にツルギは驚くと同時に理解した。

 

 この攻撃に、全てを賭ける気なのだと。

 

 ツルギにとって、最も最悪だったのは館に入る前にすでに消耗していることだった。

 門番の強さが計り知れない以上、門番に時間をかけてしまうこと自体が悪手。

 それにより、紅魔館内の戦力が門前に集結してしまったら……それこそ大失敗と言えるだろう。

 

 ツルギはその可能性を考え、自ら門番と戦うことを選択した。

 

 門を破壊する。

 それを自分の役目だと、理解して。

 

 だからこそ、目の前の門番が私を逃がそうとしなかったのだとツルギは分かっていた。

 もし私を通してしまったら、私が紅魔館を破壊してしまうから。

 

 ツルギは別に心が読めるわけでも、気を扱えるわけでもない。

 ただ、敵が強者だから分かるのだ。彼女は私を止めたいのだ、と。

 

「疾っ!」

 

 美鈴が跳びながら回し蹴りをツルギへと当てる。

 ツルギは銃を盾に防御するが、衝撃までは殺しきれずに館の外側、森の方向へと吹き飛んでしまった。

 それを逃すまいと、美鈴はツルギに追撃を噛ましていく。

 

 浮き上がったツルギの身体をさらに突き飛ばすためのサマーソルトキック。

 

 それにより木々を超えるほど高く撃ちあがったツルギの下へと跳び上がり、その跳躍力を推進力として気を纏った掌をツルギの背中へと押し付け叩く。

 

「ぎっ、ぐっ――舐める、なぁっ!」

 

 その掌の攻撃をツルギは即座に茨のような自身の翼によって防ぎ、ダメージを軽減させる。

 それでも受けたダメージはかなり大きい。

 先ほどとは段違いのインパクトだ。

 悠長に受け続けるわけにはいかなかった。

 

 空中で振り向き、美鈴の方を向いたツルギが見た。

 

「舐めてるつもりは毛頭ありませんよ。これが、私の全力――」

 

 そこには、虹色の気の台風があった。

 

「――彩光乱舞」

 

 

 

 

 

 なんと鋭い技の連打。

 一瞬のうちに叩き込まれる技の数は10にも至る、その速度と威力。

 ツルギは防御を受け入れるしかなかった。

 

 蹴りは上段、下段、中段から、荒波のようにとめどなく溢れてくる。

 まるで暴風のような掌底により防御を崩されそうになりながら。

 

 そんな無数の打撃に苦しみながらも、ツルギは来るであろう最後の一技を警戒していた。

 

「ぎ、ひひひ……」

「――何がおかしいんですか?」

「ぎはは、は。来い、よ。――終わらせて、やるぅっ……!」

 

 ツルギは今に至るまでの攻撃の中で、パンチを見ていなかったのだ。

 

 だからこそ、わかる。

 美鈴の最大の一撃はそのパンチにあるのだと。

 そしてそれを確実に自分に喰らわせるには、自分を少しでも大きく負傷させるには、頭か胸か……急所を的確に当てなくてはならない。

 

 背中からは無理だ。肋骨に衝撃が吸収されてしまう。

 無論それでも肋骨を折ることにはなるだろうが……足りないのだ。

 それではツルギは止められないのだ。

 

「いいでしょう。これで、決着です!」

 

 虹の幻影と化していた美鈴は再びツルギの目の前にその姿を現す。

 そして今まで放っていた虹の台風を引き絞った右手の拳にため込み――その拳を極光色に輝かせた。

 

「ぎひひひひっ!! きへはははははぁっ!!!」

 

 ツルギはそれに立ち向かうために、自身の中にある力を使う。

 それは知らず知らずのうちに扱えるようになっていた強化方法。

 先生がその正体に気付いてから、むやみに使ってはならないと教えられた非常事態用の戦闘行為。

 

 ――ツルギは自身の神秘を一文字、解放した。

 

 その様変わりに美鈴は困惑した。

一体どこにあそこまでの力を隠せていたのか――力という一点においてだけは、美鈴には隠し通せるものではないという自負があった。

 それでも美鈴がこれほどの強化を、力を見逃していた……どうして?

 

 まるで――今の今まで、自分に存在していなかったような力の発揮の仕方に見えた。

 

 血の滴る緋色のヘイローが輝きを放ち始める。

 茨のように鋭い棘を生やした翼はさらに鋭さを増し、大きさを増す。

 ささやかにも見える変化だが――そんなことはなかった。

 

 これがツルギという正義実現委員会のトップの本当の実力なのだ。

 

「かか、かかがががぁっ……」

 

 まるで、鬼のようだと思った。いや、幽鬼か。あるいは魍魎か。

 余りにも人が抱けるような力の形をしていない。

 その力は、人ではない存在――妖怪か、妖精か、はたまた……それ以外の誰かか。

 そんな存在のみが抱ける、神秘の力。

 

「――すごいですね。まるで」

「いらねえ……そこから先は。……この力は、お前を倒すだけの力だ」

「そうですか。では――!」

 

 そして、緋色と虹色が激突を果たす。

 

 ツルギは二丁の銃をⅩの字の形になるように構え、勢い任せて突進という選択を取った。

 美鈴の拳を真っ向から受け止める。その意気が見て取れる、無謀とも言いとれる作戦だった。

 

「壊れろおおおおっ!!!」

 

 両者の勢いは止まらない。

 緋色のヘイローに照らされた漆黒の翼は広がり、まるで悪魔のようにも見える形相で美鈴の拳を破壊しようと勢いを止めない。

 

「まだ、まだ……届けえええっ!!!」

 

 美鈴の拳は少しずつだが、ツルギの防御を押し込めている。 

 あと一歩なのだ。

 あと一歩、踏み込めれば。

 あと一歩分、力を出せれば――ツルギを紅魔館に行かせることができなくなるのだ。

 

 だが、その拳は無情にも崩れた。

 

 ツルギの翼。

 大きく広がったその翼が、足元へと回り込み、激突を払い除ける。

 その結果、美鈴の姿勢は大きく崩れてしまった。

 

 それはもう、完璧な隙だった。

 

「――ああ、これは、もう……」

 

「私の負け、ですね……」

「ふひははははっ、私の、勝ちだぁっ!!!」

 

 そして、ツルギのショットガンが大きく鋭く、火を噴いたのだった。

 

 

 

 

 


 

「そう、美鈴はやられてしまったのね。でも門番として強者を食い止めたその役割は十分だったわ」

 

 中継映像も何もない、ただ紅いだけの部屋で、一人の少女が――紅魔館の主、レミリア・スカーレットが呟く。

 

 その言葉にはがっかりとした感情もあったが、同時に美鈴を褒める感情も混ざっていた。

 理由は単純、美鈴は自らと対峙した強者――ツルギを一定時間戦闘不能にさせることに成功したのだから。

 

「あの時行った神秘の解放――あれのデメリットね。なかなかリスキーなことをするのね」

 

 ツルギは今、生まれたてのアリクイのようにボロボロの状態になっていた。

 負傷自体はそこまで大したことはないのだが、疲労度合いが半端ではなかった。

 

 遅れてやって来たシスターフッドと救護騎士団はそんな仰向けに倒れたツルギを発見して即座に治療を始めた。

 

 さすがに前線復帰には数時間はかかるだろう。

 美鈴は確かに、役目を果たすことができたのだ。

 

「さて、他のみんなはどうかしら……」

 

 レミリアは呟く。

 もうすぐ昇る赤い月を待ちながら。

 

「――私が見た、あの運命は一体……どんな風に結ばれる運命なのかしらね」

 

 レミリアは笑いながら……月に思う。

 

 きっと、この月が昇って再び沈むとき、レミリアは皆と笑い合える運命なのだから。

 だから、レミリアは待つのだ。紅魔館の最果てで。

 どんな犠牲を受け入れても、運命を手に入れるために。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 そこは、紅魔館の中でもかなり特殊な部屋へと続く階段。

 周囲は不思議と石畳で作られており、紅魔館特有の紅いカーペットも、紅い壁紙も、紅い素材は少なく。

 

 使われている箇所はどこかと言えば、壁に設置された蝋燭の色と、石畳を彩る赤色の液体の滴った跡程度だった。

 

「……よいしょ…………うんしょ…………」

 

 そんな場所の壁の一部は、崩れかけていた。

 否、すでに崩れていたのだ。

 もともとぼろくなっていた部分に、『幻想』からの転移により強い衝撃が加わった結果、限界が来てしまった。

 

 そのうえ、キヴォトスとの地形の干渉によって、地下道の手つかずの区域に被さってしまった結果、その区域と壁が面するようになっていたのだ。

 

 それには誰も気が付いていなかった。

 正義実現委員会も紅魔館も、この異変の対応に追われてそれどころではなかったから。

 

 しかし、唯一気付いた妖精がいた。

 

「開いたー! どうだレイサ! 館にしんにゅう、成功だぞ!」

「しー、しーですよ、チルノちゃん!」

 

 チルノだった。

 度重なる紅魔館への侵入とその失敗を繰り返し、頭足らずながらも別の侵入経路を探し続けた結果、偶然この入口を見つけることに成功したのだった。

 

 そんなチルノと一緒に侵入したのは、宇沢レイサと大妖精。イチカに情報提供した妖精たちと、その友達が紅魔館に誰からも感づかれることなく侵入を果たしたのだった。

 

「どうだ! このしんにゅうけいろ、あたいだけが知っていたんだぞ!」

「そ、それはすごいですけど……やっぱりこれ、今からでも異変解決に向かっている人たちに連絡するべきでは……」

「だめだ! これはにしょおめん作戦なんだぞ!」

「二正面作戦だよ、イントネーションがおかしいよチルノちゃん」

 

 チルノはご機嫌だが、他の二人は困っている様子。

 

「あたいたちがここで騒いでいるうちに、イチカたちがここのボスを倒す! かんぺきな作戦だぞ!」

「あの……チルノちゃん?」

「なんだレイサ!」

「もう屋敷の中で戦いが始まっているけど……どうするの?」

「えっ!?」

「ほら、聞こえますよね。戦いの音。大分近いですよ」

 

 そう言ってチルノも耳を澄ましてみると、爆音銃声、弾幕の音が反響しながらも聞こえてきた。

 ここが屋敷のどこなのかは分からないが、聞こえるということは思っているよりも入口に近いのかもしれない。

 

「これじゃあ二正面作戦にはなりませんよ?」

「うぐっ、な、なら、挟み撃ちだ! あたいとイチカで敵を挟み撃ちにするぞ!」

「向こうは大勢いるけど、こっちはたったの3人だけだよチルノちゃん。これだと敵は私たちを倒して逃げようとするよ……?」

「うぐぐぐぐ……」

 

 チルノは頭を抱える。

 せっかく見つけたこの隠しルートを有効活用しようというチルノの考えが分からないわけではないのだが、せめてそれはやはり今異変解決に赴いている部隊に伝えるべきだったとレイサは思う。

 

「やっぱり戻ってみんなに伝えましょう、チルノちゃん?」

「レイサさんの言う通りだよ、チルノちゃん。私たちだけだと何もできないよ」

「ううう~」

 

「……誰?」

 

 その声は、突然そこに響いてきた。

 しかも響いてきたのは今まで様々な音が聞こえてきた上側からではなく、下側から。

 その声に一同はびっくりしてしまう。

 

「……誰か、いるの?」

 

「な、なんですか、この声……?」

「お、おおお、落ち着くんだぞ。ここはあたいに任せて先に行くんだぞっ」

「チ、チルノちゃんだけおいていくことなんてできないよ……っ」

 

 3人は震えあがが、チルノはそんな状態でありながらもその声のある下の階層へと足を進めていく。

 レイサと大妖精はチルノを引き留めようとするが、チルノはそれでも止まらなかった。

 

 声の出どころらしき場所にたどり着くと、そこには鉄の扉があった。

 それはまるで銀行の金庫のような、頑丈で厳重で、堅牢な鉄の扉が階段の向こう側を塞いでいた。

 

「お前はこの部屋にいるんだな! よし!」

「よしじゃないですよ!?」

「ここから先はダメですって!?」

 

 その鉄の扉は階段側から自由にカギをかけることのできる作りで、こちらから操作すれば向こう側にいる何かを解き放つことができるだろう。

 

 しかし、それでいいのだろうか。

 それはむしろ、今戦っているみんなに厄介なものを引き渡すことになるのではないか……

 

 そんな気持ちが、レイサと大妖精にはあった。

 

「…………私、怖いの?」

 

 しかし、そんなレイサの心は、扉の向こう側の声により、一瞬で掻き消えることになった。

 レイサは扉の鍵を動かし始める。

 

「えっ……いや、そんなことありません!」

「レイサさん!?」

「大妖精さんは聞こえませんか!? 今の悲しそうな声を!」

「た、確かに聞こえましたけど、でも……!」

「大丈夫だぞ! どんなやつが出てきても、あたいが何とかしてやるからな!」

「チ、チルノちゃん……!」

「安心して、大妖精ちゃん。向こうの妖怪と、ちょっとお話するだけですから!」

「レイサさん……」

 

 大妖精は震える身体を2人に支えられて、覚悟を決める。

 深呼吸。

 

「……分かりました。危険になったら、必ず逃げましょうね?」

「おう!」

「はい!」

 

 そうして少したって、扉の鍵が解かれた。

 ぎいいと重い音を鳴らして、扉が開かれる。

 

 扉が開く音を聞きながら、向こうの景色を見ようとしながら、レイサは先ほどの自分を恥じた。

 自分はトリニティを守る閃光のスーパースター、宇沢レイサ。

 そんな存在でありながら、妖怪に怖気付くとは何たる失態か。

 確かに、この扉の向こう側にいるのは恐ろしい妖怪なのだろう。そんな気配がする。ひょっとしたら、吸血鬼なのかもしれない。

 

 でも、だからといって、それがトリニティ自警団である自分を止める理由に居はならない、レイサはそう考え、今ここに踏みとどまっていた。

 

「……来てくれたんだ……私のために……」

「おう、お前が吸血鬼だな? あたいは――」

「――私はトリニティを守る輝きのスーパースター! 宇沢レイサです! この地に眠る悪しきモンスターよ! 挑戦状を受け取ってください!」

 

 チルノの言葉を遮って、レイサは猛突した速度で扉の向こうに佇んでいた少女に向かい、懐で温めていた挑戦状をその少女に差し出した。

 

 少女は、その様子をポカンとした顔で見る。

 空気は少しの間、硬直した。

 

 なんともまあ、綺麗なお辞儀だろうか。

 角度は90度にも迫ろうかという礼儀正しいお辞儀で、挑戦状を仰々しい雰囲気で差し出している。

 そもそも挑戦状ってそんな風に差し出す物だったのだろうか。

 もっとこう、靴箱に入っているようなものではないだろうか。

 

 そんな疑問が妖精たちと少女に巡ったが、最終的に、少女の軽やかな笑い声がそれら全てを吹き飛ばしてくれた。

 

「あはは、面白いわね、あなた。レイサって言ってたわね」

「はい! ぜひともこの挑戦状を受け取ってください!」

「大丈夫よ、そんなものを受け取るつもりはないし、私があなたと戦うつもりもないから」

「そ、そうなんですか!? よかったあ……」

 

 少女の言葉にホッとして、レイサはようやく顔をあげた。

 その時初めて、レイサは腰の角度を戻し、少女の姿を見たのだった。

 

 赤色のワンピースに身を包みながらも、月光のようにきれいな金髪でありながらも、ひときわ目立ったのは特異な翼。

 左右それぞれに七色の宝石が吊り下げられた翼。

 その宝石はこの部屋の微かな明りによって照らされ、七色の光を周囲に生み落としていた。

 

「だって……お姉さまが勝ったら、あなたたちと戦う理由なんて無いんだもの」

 

 和み始めた空気は、再び硬直を始めた。

 少女が紅い瞳を向けて言ったその言葉は、まるで、まるでこの少女の姉が強すぎるようではないか。

 

「お姉……さま……って?」

「あっ、私、そういえば自分のことは何も言ってないじゃない」

 

 再び震え上がる内心を隠しながら、レイサは少女に尋ねる。

 少女は屈託のない笑顔で、この部屋へとやって来たレイサたちに言うのだった。

 

「――私はフラン、フランドール・スカーレット。この紅魔館の主、レミリアお姉さまの妹よ」

 

 

 

 

 

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