「レミリア、お前は紅の王になるのだ……」
そうなの?
私は、そんな風に生きるの?
……とても、生きづらくないかな?
吸血鬼だからって、人間だからとか、悪魔とか……そういうしがらみに生きるの、私?
そんなの、嫌よ。
私の生き方は、私が決める。
人間と一緒に生きる。
誰かに命じられる生き方なんて……御免よ。
そうよ。わかってくれるわよ。
人間どもと一緒にお茶会でもやれば、私たち吸血鬼でも一緒にやれる道が見えるでしょ。
「きゃーっ!」
「騎士が、一捻りで……っ!」
「吸血鬼だ! もう10人はアイツの餌食に……クソぉっ!」
「もうこの街は終わりだー!」
「逃げろ! 命だけでも助かるんだ!」
嘘。
そんなことするつもりなかったのに。
ただ握手をしたかっただけなのに。
ただ挨拶をしようとしただけなのに。
「レミリア。お前は吸血鬼だ。紅の王に相応しき覇気を生まれ持つ、悪魔たちの王として生まれた者だ」
私の細腕は人間を引きちぎれる。
私の言葉は人間を怯えさせる。
「お前は人間と共に生きる存在に非ず。お前は悪魔を統べ、人間を喰らう王なのだ……」
……私は、人間とは…………
「違う、違う違う! 私は、人間と仲良くなりたかったわけじゃ──」
「あなたの過去は解りませんが……その心の奥深くに、閉ざしていた本心があったのですね」
「あの姿をみていると、不思議とミカさんを思い重ねてしまいます」
どんな形であれ、トリニティをより良くしようと行動するも、結果トリニティを危機に晒してしまった元ティーパーティの一員。
「自分がやろうとした行いを、周りという環境が否定した……聴聞会の際に、先生はそう言ってミカさんの弁護を行っていました」
「『悪いのは環境を作り上げた大人たちであって、ミカはそれに巻き込まれただけ』ともおっしゃっていましたね。……彼女も、そうなのでしょうか」
サクラコは激しい弾幕の中で葛藤を見せるレミリアのことをみる。
もはやその目には怒りを含ませることはできなかった。
胸に宿した覚悟が覚めることは無いにせよ、その瞳は嫌悪や畏怖よりも、慈愛を伝えようとする慈しみの心を表面に見せていた。
「ミネ団長、あなたが感じたものはこれだったのですね」
ミネは人一倍『救護』という感情のままに突っ走る激情家ではあるからこそ、人一倍悲しみへの感受性が高く、鉄の顔の裏に隠す悲しみを理解できてしまう。
だからこそ、今しがたもこうして無茶な特攻をしてしまったのだろう。
過ちを引き起こし、天罰のような呪詛により、冥府の王であることを決定づけられてしまった紅き少女という……
あまりにも、見て見ぬふりのできない『
「……行きましょう。あの紅い魔法を打ち破り、この異変に終止符を打ちます」
「ええ、ハスミさん──行きます!」
二人は愛銃を構え、弾幕の波の中に飛び込んでいった。
「──っ、まだ生きているのか!!?」
レミリアはその姿を捉え、弾幕を放つ。
しかしその弾幕は一つ一つ丁寧に迎撃され、破壊される。
あり得ない、とレミリアは歯を食いしばる。
自分の吸血鬼としての有り余る妖力を練り込んだ弾幕、それを何故この者たちは撃ち壊せる?
なぜ──吸血鬼である私が、こんな青二才共に後れを取る?
これでは……これでは、まるで。
「私の、私の五百年は、一体っ……一体、何のための物だったというんだ──!」
まるで、私は道化ではないか。
幼き頃に人間と手を結ぼうと奮起しながらも、この血の運命がそれを正面から否定して。
砕かれた幼心をプライドなんかで繕って、吸血鬼であらんと、誇り高き紅の悪魔たらんと活動をしてきた。
見たくないモノを見ようとしないまま。
外部から聞こえる数々の犠牲と、内側から響く数々の悲鳴が己が身を燃やしていく中でも、私はそれでも、守りたいものができたからこそプライドを保ち続けられたというのに……
私の十分の一も生きていない者が、その人生を真っ向から否定し、打ち砕こうとしている。
止めなくては。
これ以上、私を砕こうとするものを止めなくてはならない。
私が私であり続けるためには、目の前の弾幕を掻い潜りながらこちらに向かってくる二人を仕留めなくてはならない。
「私を──私は、レミリア・スカーレットだ! 誇り高きスカーレット家の末裔……紅の、悪魔…………」
紅の槍に力を加え、形状を変化させる。
刃はより鋭く鋭利に。
万物の力を効率よく受け、効率よく宙を斬るように変形させ。
魔法陣を幾重にも仕込み、相手がどんな神秘だろうが、もろともに穿ち貫く深紅の魔槍に変貌させた。
「喰らえ──グングニ」
────私、そんなの望んでないよ! ────
「え?」
目の前にいるのは誰だ?
綺麗な青髪を伸ばしたこの子は……誰だ?
────もう、終わりにしようよ────
誰なんだ、お前は。
私の道を邪魔するな。
吸血鬼の理想郷は目と鼻の先なんだぞ。
────悪い夢は、もう終わりだよ────
そう言って、少女は笑う。
……ああ。そういうことか。
────ほら、見て────
今になって、ようやく目を覚ましたのか……?
幼き日の、在りし理想の日の私よ……
「撃ち貫くっ!」
「この弾丸に祝福を──」
二人は神秘の解放により、極限まで威力の高まった弾丸を用いて弾幕を一掃。
そしてそのまま第二射に移ろうとしたとき──
────あなたを迎えに来たんだよ。蒼い鳥が悪夢に囚われたあなたを助けに────
蒼い翼が、また空を飛び、こちらへと向かってきていた。
「──あははっ」
「救……護ぉっ!」
そして至近距離で放たれた弾丸により、私の紅色の怨念は──打ち砕かれたのだった……
「…………!?」
「ど、どうしたの……?」
「お姉さまの、妖力が……減少していく……これって、まさか」
「みんなが、勝った……!?」
……嘘。
信じられない。お姉さまが負けるだなんて。
お姉さまは無敵なんだ。
吸血鬼として誇り高く、誉れ高い、唯一無二の存在なんだ。
どうして……?
「…………ううん。考えるのはそれじゃない」
「フランドール、さん?」
「行ってくるね」
「ど、どこに……」
「決まってるよ。お姉さまを、守りに行くの」
「え!?」
「お姉さまがピンチなら──私が何とかするしかないよ。もう、戦えるのは私だけなんだから」
「そ、そんなこと……させません!」
そう言って、思いっきり椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がったレイサはカラフルな銃を私の方に向ける。
「あなたは私を倒せると……思ってるの?」
「倒せるかどうかじゃありません。止めるんです! トリニティ自警団のスーパースターとして──」
「どかーん」
私が掌を握る。
さっきまで仲良く紅茶を飲んでいたテーブルが、粉々に破壊された。
「……え?」
「これが、私の力。『ありとあらゆるものを破壊する力』……どんなものでも、破壊する力」
椅子も、タンスも、綺麗な洋服も、よく眠れるベッドも……命も、肉体諸共破壊できる。
破壊される瞬間を見ていたレイサは、あまりにも一瞬の出来事に、よく頭が回ってないみたいだった。
「わかっていたことだったのにね。こんな力がある以上、人間とは仲良くできないんだって」
「そんな、こと……ありえません! あなたと私はさっきから仲良しでした! さっきまでのお茶会は嘘だったなんて、私はそうとは思えません!」
「……痛々しいよ。そんなに足を震えさせてさ」
レイサの身体は恐怖に支配されてしまっていた。
腰は引け、脚は震え、呼吸は荒くなり、冷や汗はさっきよりもずっと増えていた。
それでも、震えようとする瞳を無理やり抑えて、銃口を私に向けてレイサは私を説得してくる。
「それに、なにか勘違いしているようですけどっ、正義実現委員会は別に異変の実行犯を処刑するような権限は持っていません! きちんとした聴聞会の後に、然るべき処罰が下されます。あなたが思っているような、ぞんざいな処刑なんてものはありません!」
「……分からないかなあ。私は、あなたたちの裁量でお姉さまを裁いてほしくないのよ」
「──っ」
「お姉さまは吸血鬼なのよ。あなた達人間の勝手な判決で裁いていい存在じゃないの」
もし、仮に。
仮にお姉さまを裁ける存在がいたとするならば……
「お姉さまを裁けるのは……同じ吸血鬼。同じ紅の悪魔である私だけなのよ」
「──っ!」
「中途半端な私だけど……それでも、お姉さまに処罰を下せるのは私だけなのよ」
「……」
「わかったならどいて。……私はあなたまで傷つけたくないから」
「……ど、どけません! 私はあなたを──」
何時までも同じことしか言わなそうなレイサを、私は吹き飛ばした。
彼女の手に持っていた銃を破壊して、その衝撃波で部屋の壁にぶつかって。
「レイサっ!」
「レイサさん!」
「あ……フラン…………待って……」
「……バカな人」
私は目の前の大きな鉄扉に目を向け、それを破壊する。
この扉はある種の境界線。
私という出来損ないを、緊急時以外封印するという約束に基づいた境界線。
でも、そんなもの。
あっという間に破壊できる。
掌を握りしめただけで、扉はあっという間にただの鉄の粉へと砕かれていく。
私は石畳の階段を魔法で飛ぶ。
もう時間がない。お姉さまの誇りが危ない。
全速力で私は守りに向かう。
待ってて、お姉さま。
すぐ助けに行くから。
私たちの『誇り』は──誰にも、傷つけさせないから。