アウトローを目指した少女はヴィラネスになるのか?   作:古魚

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後編

 しかし、それを再び立ち上がったヒナが制止する。口と鼻から血を流し、真っ白でふわふわの髪も、埃と血で赤黒く染まる。服はあちこちが破け、誰が見ても、もう戦える状態にない。

 

「貴女、ヘイローが」

 

 それに、本来意識があるうちはずっと頭上で輝き続けるヘイローが、消えている。だと言うのに、ヒナは立っている。

 

「まさか、意識はないのに、本能だけで体を動かしているとでも言うの?」

「先生の頼みは……絶対に果たして、みせる……」

 

 再び銃を構えるヒナ。しかし。

 

「っつ、あぁ」

 

 一発も弾丸を放つことなく、跪く。

 

「やっぱり、限界なんじゃない」

 

 彼女は、跪いたヒナへと銃口を向ける。

 

「でも、追って来られても厄介だし。貴女は、ここで終わりにするわ」

 

 トリガーへと指をかける。

 

「さようなら」

 

 彼女が引き金を引くその一瞬、一発の弾丸がアルの足元へと着弾した。

 

「まだ誰か――」

 

 動ける者が居るのか確認しようと彼女は、この弾丸を放った主へと視線を向ける。

 

「……私の生徒を、それ以上傷つけないで」

「先生……」

 

 先生は震える手で、ニューナンブM60を構え、彼女へと歩み寄って行く。一応警戒したのか、彼女は跪くヒナから離れ、銃を構える。

 

「ヒナ!」

 

 それを確認すると、先生はヒナへと駆け寄る。

 

「せん……せい、ごめんな、さい……」

「いいんだ、ありがとう」

 

 そっと先生の手がヒナの頭を撫でると、ヒナは目を閉じ、ぐったりと倒れ込んだ。

 そっと地面へとヒナの身体を寝かせると、先生は再び両手で銃を構える。銃口が向かう先は、彼女の足元だ。

 

「……どうしたの、先生。私を止めたいなら、ちゃんとここを狙わないと。それとも、先生には撃つ覚悟がないの?」

 

 彼女はトントンと自身の頭を指でつつきながら訪ねる。

 

「ああ、私は……生徒に銃口なんて向けられない。それは、先生がするべきことではないから」

 

 その言葉を聞いて、彼女は目を見開く。

 

「はは……本当に、先生は、先生なのね……」

 

 銃口を下ろし、そう呟く彼女。

 

「……聞かせてくれないか? アル」

 

 彼女の動きを見て、先生も拳銃をしまった。

 

「君の世界で、何があったの?」

「……いつも通り、便利屋として仕事をする。そのはずだった」

 

 しばしの沈黙の後、彼女は、別世界のアルは、語りだした。

 

「仕事の内容は、ミレニアム郊外の廃墟に出入りしていたカイザー社の企みを暴くこと。とんでもない額の報酬金を提示されて、私はすぐにその依頼を引き受けた。カヨコは、最後まで私に危険かもしれないと忠告してくれていたけど、先生も協力してくれることになって、気が大きくなっていた私は、カヨコを宥めて、仕事へと挑んだ」

 

 天を仰ぐ彼女。その眼には、水滴が光る。

 

「順調に侵入して、何を企んでいるのかを確認するまでは上手く行ったわ。でも、問題はその企みだった……カイザーは、ヘイローを破壊する爆弾の設計を流用して、キヴォトス人に甚大な被害を与える兵器の開発を行っていたの」

「まさか、ゲマトリアが? いやしかし、あいつらは別に生徒の神秘の破壊は望んでいないはず……」

 

 ヘイローを破壊する爆弾は、ゲマトリアの内の一人、デカルコマニーが設計したものだ。そこから、先生はカイザーとゲマトリアの繋がりを疑った。

 

「そこまでは分からなかったわ。でも、その兵器は試作品がすでに出来ている状態だった。これは依頼どうこうというレベルのものではないと判断して、連邦生徒会に報告しようとしたのだけど……」

「だけど?」

 

 悔しそうに表情を歪めて、彼女は言葉を絞り出す。

 

「私たちが撤退しようとした時、データで見た、ヘイローを破壊できる兵器群の試作品が、私たちに牙を剥いたわ」

 

 息を飲む先生。すでにここまで話を聞けば、大まかな結末を察することが出来てしまった。

 

「依頼主もカイザーの回し者で、最初から試作品を試す対象を求めていただけだったみたい。まんまとはめられた私たちは、誰からの助けも得られない廃工場で、簡単に包囲されたわ。そして、便利屋は一人ずつ減って行った。私を逃がそうとして……」

 

 彼女は空間の歪へと手を入れる。

 

「最初はハルカ。「私が時間を稼ぎますから、その間に少しでも離れてください」って意気込んでいた」

 

 ブローアウェイを取り出す。

 

「次にムツキ。「逃げるの飽きちゃった、少し戦ってから追いかけるね」なんて、笑っていた」

 

 トリックオアトリックを取り出す。

 

「そしてカヨコ。「ここは任せて、私がなんとかしてみるから」って、余裕ぶっていた」

 

 デモンズロアを取り出す。

 

「三人の時間稼ぎで、敵の数はだいぶ減った。おかげでなんとか先生を守りながら私は撤退した……けど、最後の最後、敵の攻撃ヘリに、先生の身体は吹き飛ばされた。なんとか病院に駆け込んだけど、先生の回復は絶望的だと、医者に言われた……」

 

 彼女は愛銃を手放し、自身の顔を覆いながら、膝から崩れ落ちる。

 

「その時、私の頭に誰かの声が聞こえたの。その声は、私をベリアルと呼んで、破壊することを推奨した……便利屋を、先生を既に失っていた私は、その声に抗えなかった。抗おうとすらしなかった」

 

 ぶるぶると体を震わせる彼女。彼女の顔は、真っ黒に塗りつぶされ、目だけが白く浮かび上がっている。

 

「そのまま、私は各地で破壊と殺戮を繰り返したわ。いつのまにか私のポケットに入っていた不思議な銃弾を使ってね……」

 

 その銃弾は、アルを一撃で瀕死に追い込み、ヒナへと重傷を負わせた、逆五芒星の刻まれた弾。色彩の力によって創られた、神秘を破壊することができる、悪魔の銃弾。

 

「そうして、世界を壊して回っている私の前に、先生、貴方は再び現れたの」

「……私が?」

「そう、もうすでに回復の見込みはなかったはずの先生が、なぜか私の前に立って、銃を抜いていた。さっきの先生みたいに、私の足元を狙ってね」

 

「そうだね。さっきも言ったけど、先生は、生徒に銃を向けるようなことは、あってはいけないから。そっちの私も、同じようにしたんだろうね」

 

 彼女は、顔を上げ、改めて銃を構える。

 

「私は、そんな先生を撃った。最後まで私に寄り添おうとしてくれた先生を撃った! 撃ってしまった! 頭の中に響く不快の声を消すために! 殺せという指示を実行してしまった!」

 

 再度歪へと手を入れる彼女。今度は、弾痕の残るタブレットと、一枚のカードを取り出した。

 

「まずはシッテムの箱を無力化して! 大人のカードを奪って! その心臓に悪魔の銃弾を叩きこんだ!」

 

 表情はないはずの、真っ黒な顔面の彼女。しかし先生には、確かに苦しみ、涙するアルの表情が見えていた。

 

「そしたら、先生はなんて言ったと思う!? 先生は最期に――」

「ごめんね、アル。助けられなくて」

 

 彼女が続きを言う前に、もういない先生が言った最期の言葉を、先生が代弁する。

 

「ッ―――!」

「ごめんね、アル。助けられなくて。私の力不足で、君を不幸にしてしまった……その責任は私が取るからね」

 

 一語一句、先生の最期のセリフを、先生は再現して見せた。

 

 ♦

 

「ごめんね、アル。助けられなくて。私の力不足で、君を不幸にしてしまった……その責任は私が取るから」

 

 私の腕の中で、浅い呼吸を繰り返す先生は、そう絞り出すように言った後、私のポケットにしまった大人のカードを取り出した。

 

「アル……君は、本当はこんなこと望んではいないんだよね。大丈夫、私がアルの罪を背負うから」

 

 苦しそうな表情を誤魔化しながら、先生は大人のカードを握りしめた。

 

「代価は今ここで、私が払う。アルの背負ったものを、私に。そして、アルにやりたいことをやらせてあげられる時間、を―――」

 

 言い切ると同時に、大人のカードは光を放った。その光は、私の心へと差し込み。頭の中に響き渡っていた不快なノイズを消し去った。

 

「……先生」

 

 私が名前を呼ぶと、先生は優しい笑みを浮かべて、息を引き取った。すると、それに呼応して、大人のカードも色を失い、錆びついていく。全体が錆びで覆わると、力尽きる様に、先生の手から滑り落ちた。

 

「私の、やりたいこと……」

 

 もうこの世界は終わってしまう。既に何の未練もない。でも、他の世界で、同じ道をたどっては欲しくない。

 

「先生、最期に私のやりたいこと、見つかったわ」

 

 もう涙も流れない。流すことなど許されない。だって私は、もう陸八魔アルではないから。最悪の王であるベリアルになってしまったから……。

 私は、ベリアルとしての力を使って、空間を捻じ曲げ、歪を作った。アトラ・ハシースの箱舟など必要ない。だって私は、別に世界を滅ぼしに行くわけでは無いから。

 

「理解できぬ。我らの干渉が、色彩の干渉が消えたと言うのに、なぜお前はベリアルを名乗る」

「そもそもあの者の行為も理解できぬ。あの者は「崇高」も「恐怖」も「神秘」のいずれも有していない。色彩が無価値な存在に接触する理由などないと言うのに」

「そして、なぜそのまま消滅することが出来たのだ。理解できぬ」「理解できぬ」「理解できぬ」

「貴方達の理解なんて要らない。私はただ、先生に貰ったこの時間を、有効に使いたいだけ」

「驕るな―――!」

「お前は色彩の嚮導者に過ぎないはずだったと言うのに」

「その力を私欲のために―――」

「あら、知らないの? 悪党って言うのは、つかえるものならなんだって使うのよ、それが例え他人の力でもね」

 

 そう言って、頭の中からノイズを削除した私は、最後の仕事に取り掛かる。

 

 ♦

 

「ね、だから先生。私は先生がくれたこの時間を無駄にはしたくないの。邪魔、しないでくれる?」

 

 一歩、一歩、ゆっくり前へ進む彼女。

 

「違う」

「何が違うの?」

「違うよ「アル」。私が君に時間を上げたのは、こんなことをさせるためじゃなかったはずだ。少なくとも、私だったら、そんなことは望まない」

 

 真っすぐ「アル」の瞳を見て、先生は告げる。

 

「だってそれじゃあ、君はアウトローじゃなくなってしまう。今君がしようとしていることは、ヴィラネスがすることだよ」

 

 悪は悪でも、「アル」の目指した悪の姿ではないはずだと、先生はそう「アル」へと呼びかけた。

 

「何を―――!」

「あら、そんなことも分からないの?」

 

 先生の言葉に反発しようとする彼女に対して、背後から声をかける人物が一人。

 

「アル! 目が覚めたの!?」

 

 陸八魔アル。この世界の彼女だ。

 

「ええ、大まかに事情は把握したわ。後ろで倒れていたゲヘナ風紀委員から、色々聞いた」

 

 彼女と先生の間に割って入り、腕を組むアル。

 

「アウトローとヴィラネスは全然違うわ!」

「一体どう違うって言うのよ、どっちも結局、悪党に変わりないじゃない」

 

 彼女の問に、アルは沈黙する。

 余裕そうな笑みを浮かべているが、内心は忙しそうだ。

 

(確かに、この二つの明確な違いはなに!? そんなの分からないわよ! とゆうかヴィラネスって何!? 確か悪役ってヴィランって言うんじゃないの!?)

 

「ふっ、そんなの決まってるじゃない。かっこいいかどうかよ!」

 

 きめっきめの表情で、とんでもなく中身のないセリフを放つアル。先生は何も言わないが、内心では苦笑いしていた。

 

「そう……そうかもしれないわね」

 

 しかし、向こうも結局は「アル」だ。どうやら今の言葉で納得したみたいだった。

 

「そうよ……でも、したいことを思うがままにするのはアウトローらしいわ。だから、それに免じて、チャンスを上げるわ」

「チャンス?」

「ええそうよ、私と、一対一で戦うチャンスよ」

「何言ってるんだアル!?」

 

(何言ってるのよ私いいいい!?!?!?)

 

 強敵だと理解していると言うのに、アルはなぜかそのような提案をしていた。もはや病気と言ってもいいほどのポンコツかっこつけだ。

 

(あの風紀委員長をボコった相手よ!? 私が勝てる訳ないじゃない! お願い先生止めて! もしくはそっちの私、断って~!)

 

「ダメだアル、わざわざ自分の命を危険に晒すようなことは―――」

「あら先生、心配してくれてるの? でもそれは杞憂ね。だって私が、負ける訳ないじゃない」

 

(嘘よぉオ!? 負けるに決まってるでしょ!?)

 

「そのチャンス。喜んで受けさせて貰うわ」

 

 アルの心境を他所に、彼女はその挑戦を受ける選択をした。

 

(いやああああああ! 死にたくないいいいい!)

 

「そうよね、私なら、断るわけがないわよね」

「アル!」

 

 先生の制止を、アルはきっぱりと断る。心の声とは裏腹に。

 

「これは『私』が決めた決断なの。先生は見守っていて」

 

 ゆっくりと先生の方へ向き直り、アルは笑って見せる。

 

「必ず私が勝利するから!」

「……アル。足震えてるぞ?」

 

 決め台詞もかっこが付かない。笑顔とは裏腹に、銃を持つ手も膝もガクガクと震えている。

 

「ルールはこうしましょう。お互い1マガジンのみ、最後に立っていた方の勝利よ」

 

 そう言って、彼女はアルに向かってマガジンを投げる。

 

「それは私が貴方に撃った弾丸。一発で、ギヴォトス人を瀕死まで追い詰められる特殊な弾よ」

 

 彼女とアルは、それぞれマガジンを差し込む。

 

「先生はそこで見ていて。この戦いの結末を、アウトローとヴィラネスの戦いを見届けていて」

 

 そう彼女が言うと、ぼんやりとした紫色の膜が先生を包む。

 

「これで、銃弾は先生には当たらない」

「止めるんだ二人とも!」

 

 先生が膜を破ろうとするが、バチバチと先生の手を弾く。

 

「それに、割って入られないよう、動けなくする効果もある」

「……助かるわ。これで、気兼ねなく戦えるわね」

 

 もう引き返せないと悟ったのか、アルの膝の震えは収まっていた。

 

「それじゃあ始めるわ」

 

 彼女の一声と同時に、「アル」とアルの戦いは始まった。

 初動は彼女だった。一声と同時に銃を構え、引き金を引いた。間一髪でアルはその弾丸を躱し、障害物へと身を隠した。

 

「まったく、勝手に始めるなんて、とんだ悪党ね!」

 

 そう悪態をつきながら、アルはスコープを覗き、彼女を狙い撃った。

 しかし感づかれていたのか、彼女は引き金を引く一瞬の間に体をずらし、弾丸を躱した。お返しと言わんばかりに、アルが身を隠していた障害物へと銃弾が突き刺さり、盛大な爆発が起きる。

 

「っく!」

 

 なんとか爆発の砂煙にまぎれてポジションを移動したアルは、再び彼女目掛けて一発撃ち込む。だが、急いで撃ったためか、着弾は若干それてしまう。

 それを確認した彼女は勢いよく地面を蹴り、アルへと肉薄する。

 

「なんて速さ!」

 

 まるでライフルを槍のように突き出しながらアルへと肉薄した彼女は、そのままトリガーに指をかける。しかしアルも負けていない。肉薄されることを察知した直後、銃を持ち替え、ヒナを地面に叩き落とした時のように、ストックで彼女の銃口を弾き、射線をずらした。結果、彼女の銃弾はアルの上着を撃ち抜くだけに終わる。

 

「貰ったわ!」

 

 そして、姿勢が崩れていることを利用して、アルは片手でライフルを持ち直し、彼女へと発砲する。だが、これも読まれていたのか、彼女はアルが構えたライフルの銃口を素手でつかみ、射線を無理やり変えさせる。

 互いに接近戦での行動が終わると、再び距離を取った。

 

「あと、二発……向こうは一発」

 

 弾薬数的にはアルが有利だが、アルは微塵も優勢だなんて思っていなかった。

 

「流石私ね、私が考えることを、全部当てて来る」

 

 互いに本人なため、ある程度行動の予測が可能なのだ。そのため、先手を打つ側は不利になる。だが、向こうは残り一発、絶対に向こうから攻めては来てくれない。かと言って、持久戦に持ち込んだら、アルの体力が持たない。

 いくら回復したとは言え、寝起きでこの緊張感を保ち続けるのは不可能だと、アルも分かっていた。

 

「絶対に私がしないような先手で、決めるしかない……」

 

 アルはそう呟きながら、自身の懐に入っていた財布に手を掛ける。

 

「……そうね、私なら、絶対にこんなことは出来ない」

 

 葛藤。しかし、アルは決断した。

 

「ごめんなさい、皆」

 

 思い切ってアルは障害物から飛び出し、走り始める。走りながら放った一発は、彼女の頬を掠めるに終わる。

 

「血迷ったの?」

 

 彼女はアルの行動を理解できず、銃を構える。

 その動きを見て、アルは右手で財布を宙へと投げた。

 質の良い材質で作られた高級品だが、長く使用したせいで色あせ、あちこちに傷がついている。初めて便利屋を立ち上げた後、ハルカ、カヨコ、ムツキが一緒にお金を集めてプレゼントしてくれたもので、アルにとってはかけがえのない大切な財布が、宙を舞う。

 

「あっ!」

 

 彼女は、宙を舞う財布を見て、銃を投げ捨てた。

 

「ダメ!」

 

 その財布が地面に落ちる前に、手を伸ばした。

 

「チェックメイトね」

 

 しかし、財布が地面に付くことは無い。

 

「……やったわね、私」

 

 財布はアルの手に収まっている。

 

「ええ、貴女が私なら、絶対に反応すると思ったわ。まあ、だとしても、この財布を地面に落とすなんてことは、絶対にしないけど」

 

 銃口を彼女へ向けたまま、財布を自身のポケットへしまう。

 

「そうね……まんまとしてやられたわ……私の負けよ」

 

 「アル」対アルの戦いは、アルが制した。ヴィラネスは、敗れたのだ。

 

「……っ!? 貴女、体が」

 

 地面へと座り込む彼女の身体が、柔らかい光に包まれる。

 

「ああ、そろそろ時間なのね」

 

 悟ったような目で、そう呟く。

 

「先生がくれた時間も、もうすぐ終わる。私がベリアルでいられる時間ももう長くない。私がベリアルで無くなれば、この時空にいることも出来なくなる」

「そ、そんな……どうにかして、貴女がこの時空に留まることは出来ないの!?」

「……あるにはあるわよ」

「じゃあ!」

「でもその代わり、先生は消えるわ」

「……え?」

 

 彼女は、まだ紫色の膜の中にいる先生に笑いかける。

 

「大人のカードを使えば、確かに私はこの世界に居続けることが出来る。私の先生がしてくれたみたいに、自身の時間を代価としてね」

「まさか、それをさせないために……」

 

 膜の中から、先生は彼女の言葉に絶句する。

 

「ふふ、そうよ。先生だったら、躊躇いなく大人のカードを使ってしまいそうなんだもの」

「アルッ! クッソ、アロナ、プラナ! 何か、何か方法はないのか!?」

 

 シッテムの箱へとそう問いかけるが、二人は沈黙してしまう。

 

「彼女は、既に存在していません。今ここにいることすら奇跡だったのです」

 

 申し訳なさそうにプラナは告げる。

 

「なら、大人のカードで――」

「ダメです!」

 

 アロナが血相を変えて制止する。

 

「先生は、自分の命を軽く見過ぎです! アルさんを救いたい気持ちは理解できますが、だからと言って先生が消えて言い理由になんてなりません! 私は先生専用のOSです、アルさんと先生の命なら、先生の命を取ります!」

「アロナ!」

 

 膜の中でそうもみ合っている間にも、彼女の身体はドンドン薄くなっていく。

 

「……そんなわけだからさ、私。最期にお願いがあるの」

「……何かしら」

 

 彼女はアルの持つ銃を自分の心臓に付きつけ、告げる。

 

「私を、殺してくれない? 向こうに帰っても、誰もいないの。そんな世界に私は居たくない。貴女ならこの気持ち、わかってくれるでしょ? だって私だもの」

「分かるわ、分かるけど!」

「お願い、私を助けると思って、私を、殺して」

 

 アルの鼓動は早まって行く。

 

「アル、お願い、撃って。もう時間がないの……お願い」

 

 揺れる。揺れる。撃てば、きっと彼女は満足して皆の元へ行ける。だけど、本当にそれが正しいことなのか? 本当に撃った方が、彼女にとって幸せなのか?

 

 アルは葛藤の果てに―――選択した。

 

A=撃った B=撃てなかった

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