「おっ、なんだスタンク。お前わざわざ飛んできたのかよ」
光の中から現れた旧知の友を前に、ゼルはニヤニヤしながらつぶやいた。
「ゼル。そりゃお前、こんな体験もう2度とないだろ? せっかくなら、飛ばなきゃ損に決まってるよな」
笑って握手を交わすゼルとスタンクを前に、シュタルクは「すごいな、余裕すぎる」と感心し、ライオスは「そ、そうだな」と視線をそらした。
「ところでライオスは、どうして罠を踏んだんだ?」
シュタルクの何気ない一言がライオスを傷つけた。
というより自業自得。自分の欲を優先して他人まかせで罠を踏んだ側として、スタンクのように悪びれる様子もなく過ごすつもりでもないなら、ちゃんと理由を述べるべき。
それなのにシレッと叱られないように黙っていていいわけがない。ライオスはちゃんと答えるべきだった。
(それでもフリーレンやフェルンがいたら、空気を読んで何も聞かないであげていただろう。そして無頓着なシュタルクを叱っていただろう)
「俺は・・・そっちの世界の魔物について知りたかったんだ。何かこう、カッコいいのとかいないか?」
目を輝かせるライオスに、スタンクは冷めた目で「いや、そんなのどこの世界も同じじゃねぇの?」と答え、シュタルクは「カッコいい魔物なんているのか?」と上の空。ゼルも「魔物とか面倒なやつばかりだからな」と即答した。
まさに無駄打ち。人に迷惑かけてまで得ようとした対価はゼロのまま終わった。
トーンの落ちたライオスをさておき、スタンクはフゥと一息ついた。
欲を言えば女子の一人でもいてくれればよかったが、彼も人に迷惑かけてまで得ようとした対価がゼロになりそうで少し残念だった。
「にしても男ばっかりか。色気のねぇパーティーが出来上がっちまったな」
「そうか? 俺はこのほうが落ち着くけど」
シュタルクの何気ない一言に「え…」と一歩引くスタンクとゼル。
「いや、女の子ばっかりだと居心地悪い時とかあるだろ」
シュタルクの何気ない一言に「ほぉ」と顎に手を当てるスタンクとゼル。
「そうか。お前らずっと3人組で行動してるって言ってたもんな」
「ああ」
「えっちな店に行く暇もないか、行く必要もないか」
シュタルクをグイと引き寄せ、スタンクはゼルと共に彼を挟んだ。
「ん? 店とかよく分からないけど。そういえばフリーレンがすごくえっちなことするな。たまに」
シュタルクの何気ない一言に「ほぉ」と関心を示すスタンクと、「うげぇ」と露骨に嫌な顔をするゼル。
「そうかぁフリーレン、そんな子だったのか。惜しい事をしたぜ。せっかくなら相手してほしかったな」
「やめといたほうがいいぞ。勇者ヒンメルもイチコロだったって聞くし」
「確かお前んとこの魔王を倒したって勇者か。それはそれですげぇな」
ゼルは「んー」と唸りながらも「やっぱ無理だな」と遠い目をした。
「ちなみにだが、フリーレンってのは“そっち方面”で、どのくらいの手練れなんだ?」
「そりゃ1000年を生きてる魔法使いだから」
「じゃなくて」
スタンクの即否定にシュタルクは「そっち方面って、そっちか」と意図を察した。
「聞かれてすぐに『男が喜ぶ物』をドヤ顔で教えてくれる、くらいかな。でもってフェルンに叱られる」
この答えにスタンクは「ほぉ、男が喜ぶ物」と食指をピクンとさせ、ゼルは半ば興味があるような、それでいて肩透かしを食らいそうな気配を感じながら「どんなんだ?」と尋ねた。
「えっと、何だったっけか。服だけを溶かす薬・・・とかだったような」
シュタルクの答えにスタンクとゼルはサムズアップした。
「ちなみにソイツを今持ってるか?」
「俺への誕生日プレゼントにするつもりだったらしいけど、フェルンが怒って全部フリーレンにぶっかけたらしい」
スタンクとゼルはこの答えに「お前らにサキュバス店のレビュー書かせたら面白そうだな」と口をそろえた。
その後、各世界でゼル・フリーレン・マルシルは解析した魔法陣により、それぞれの正しい世界で正しいパーティーと合流。
彼らが再び互いに出会うことは無かった。
余談だが、それからしばらくして大陸魔法協会にとある風の噂が届いた。
周辺の町を犯していた魔物の大軍を忽然と消滅させ、数多の人々の命を救った2人の英雄が風のように現れた。妙な若いエルフと人間の男だというその2人。
後に伝説として語られるであろう2人の英雄は、その功績によって得た多額の報酬を全て拒否し、『服が透けて見える魔法』の魔導書だけを所望して忽然と姿を消したのだと。
それを聞いた長は「そんな無駄をやらかすエルフは1人しかいるまい。だが2人組なのか? フェルンは風邪でも引いて休んでいたのか?」とつぶやいたそうな。
~完~