「やっと戻ってきたか」
2つの光の柱の中から現れたライオスとセンシを目の前に、チルチャックは腰に手を当て呆れ顔でつぶやいた。
「ん? マルシルはいないのか?」
チルチャックの問いに、何故かセンシは自らの手を見つめて「そのようだ」と静かに答えた。
「手を繋いで転移すれば上手くいくのではと言われたが、やはりそう都合よくいかぬものだな」
センシの答えにライオスは「手?」と首を傾げたが、チルチャックは腕を組んで天井を見上げた。
「あぁ、シュタルクとフェルンもやってたな。あれ無駄だったのか」
センシは「彼らも無事だと良いが」と息を吐き、ライオスも「そうだな」と指を組んで祈った。
「さて、俺たちも次の魔法陣を探すことにしよう」
ライオスが先導し、一行は再びダンジョンの探索を始めた。
「だな。マルシルさえ戻って来れていればよかったのにな」
頭の後ろで手を組んだチルチャックに、センシは「それは違うぞ」と反論した。
「我々が再集結できたとしても、残る2組が集合できていなければ意味が無い。その話は彼らの再集合を見届けてからだ」
「そうだぞチルチャック。彼らには俺たちもお世話になったんだ。このシャッフルの罠攻略には最後まで付き合うべきだ」
ライオスとセンシの言い分ももっとも。自分たちのパーティーだけがよくても、残るパーティーが困ってしまう状況は後味が悪い。
「だが・・・俺たち以外の組が集まれたかどうかは、どうやって調べるんだ?」
「ゼルが魔法陣の解析するってよ」
「各パーティーに魔法使いが居て助かったな」
サラッと答えたチルチャックとセンシに、ライオスは「凄い魔法使いがいるんだな」と唸った。
「凄いと言えば」
「そうだな」
ライオスの言葉にセンシが続く。チルチャックとしても「凄い剣士と魔法使いいるんだな」と同感しようとしていた。
だが
「「天使がいた」」
口をそろえたライオスとセンシに、チルチャックは「・・・はぁ?」とぼやいた。
「天使だよ天使。クリムって天使がいたんだよ」
興奮気味に訴えるライオスに、チルチャックは話半分に聞き流しかけた。
『スタンクとゼルが言ってたやつか。天使みたいに可愛い女の子とかそういう話か? だがライオスが女の子を可愛いと呼ぶ姿が想像できん』
そう思った矢先にセンシまでもが「天使がいたぞ」と言う始末。
「・・・マジ?」
「勿論だ。天使という種族があちらの世界にはいるんだ」
「羽が生えておったぞ」
「頭の上に輪っかが浮かんでた」
「女子か男児かは分からんが」
「男らしいぞ。フェルンがそう言っていた」
どうやら幻覚とか狂言とかのレベルではないようだ。熱量的に。チルチャックは目の前の2人を見てそう思った。
「そういやぁフェルンが天使を見たとか言ってたな。シュタルクも信じてなかった感じだったが」
「やはり自分の目で確かめることが大事なんだ」
「そうとも。チルチャックも次の転移に参加するといい。他の世界を見て回ることで知見が広がる」
センシの提案に賛同するライオス。
だがチルチャックの口から出た言葉は「・・・はぁ?」だった。
「いやいやいや! 何が悲しくてわざわざ罠にかからなきゃいけないんだよ!」
「だが誰かが転移されなければ、他の2組にも転移が発動しないんだぞ?」
「左様。ワシらも転移したくて山々なところを、お前に譲ってやろうと言っているのだ」
そう言ってチルチャックの肩に手を置くライオスとセンシ。
珍しい魔物や食材に目が無い2人からすれば、異世界への移動は魅力的な現象なのだろう。
だがチルチャックにその価値観は無い。
「俺は・・・遠慮しておくよ」
「まぁまぁ、そう固い事を言わずに」
「人生若いうちに何事も経験すべきだ」
「さぁ」「さぁ」と迫られる圧力。更には肩を押さえつけられる力に勝てる予感がしない。
チルチャックは息を飲んだ。
『…マルシル、なんで戻って来てくれなかったんだよ』