「ちょっと待ってもらおうか」
突然、空から黒い服を纏い杖を持った少年が降りてきた。
その雰囲気から、カノンは少年が相応の実力を持っていると推察する。
(年齢に見合うとは思えない程の落ち着きようだ……)
「僕は時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。話を聞かせてもらいたい」
時空管理局という言葉にカノンは少しだけ顔をしかめる。
実は、カノンは今の場所に落ち着くまで様々な世界を放浪してきた。
その中でも管理局が介入してくる事案などを見てきていたのだが……いかんせん、実力行使が多すぎたのである。
犯罪組織がいれば一応の警告はするが、相手がそれを断ったら強引に突入。捕縛といった感じだ。
それ故に、カノンは少し管理局という組織を毛嫌いしているのである。
『こら、クロノ。もう少し言葉を選びなさい。すいませんね、クロノが無愛想で』
と、空中にモニターが表示される。そこに映し出されたのは緑色の髪の女性だった。
「艦長。変な事を言わないでください」
『でも、あなたが無愛想なのは』
「もういいですから母さん!」
どうやらあの緑色の髪の女性は黒服の少年の母親らしい。しかし、母親とは思えない程の若さだ。
『わかったわ。とにかく、そちらの方々をアースラにお連れして』
「わかりました、艦長。済まないがそういう事だ。話を聞かせてもらえるか?」
カノン達の反応は様々だ。
「ふむ……」
カノンは顎に手を置き何かを思案中。
「えっと、えっと……」
なのははレイジングハートを手におろおろしている。
「な、なのは落ち着いて」
「そういうフェイトこそ落ち着こうよ」
フェイトはなのはを落ち着かせようとしているがフェイト自身もおろおろしているため、アリシアがそこを注意する。
「疲れたねぇ……」
「はい、結構……」
アルフとユーノは互いに疲れたのかだらけてしまっちている。
「はぁ……」
その面々を見てため息を漏らす立夏。
「みんな、同行という形でいい?」
いつもならカノンが指揮を取るのだがカノンは考え事をしているため、立夏が代わりに仕切る。
「あ、うんなの!」
「「うん」」
「いいよ、私は」
「僕も構いません」
「……………」
カノンは未だに考え事をしている。
「カノン?」
「ん?ああ、いいぞ」
カノンからも了承が出た。
「協力感謝する。エイミィ、転送を」
『りょうか~い!転送開始するね~』
そうして、カノン達は時空管理局の次元航行艦アースラに転送された。
「ふわぁ~何だかすごいの」
「ええ、近未来的って言えばわかりやすいわね」
なのはと立夏はアースラ内部に転送され、中を案内される。
その間にも見たこともないような機械などがあったため、二人共興味津々だ。
「ようこそ、アースラへ。これから艦長のところに案内するから……ああ、そうそう。君も元の姿に戻ったらどうだ?」
「あ、そういえばそうでしたね」
そう言ってユーノが光に包まれるとその光がどんどん人の姿を象っていき、その場には金髪の少年が立っていた。
「なのはにこの姿を見せるのは久しぶりになるのかな」
「ふ……ふえ……ふええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!??ゆゆゆゆ、ユーノ君って男の子だったのぉぉぉぉぉ!!?」
「あ、あれ……?この姿って見せた事なかったっけ?」
なのはがユーノが人間になったことに驚き、ユーノは伝えていなかったっけ?とおろおろする。
「ええ、見せた事ないわよ。私も初めてみたし」
「え~っと……ああ!そうだった、そうだった!ごめんごめん」
「…………………」
ここに来てもずっと思案しているカノン。一体何を考えているのであろうか。
「見解の相違も解けたようだし、君たちもバリアジャケットを解除しても大丈夫だぞ」
「あ、はい。わかりました」
「わかりました」
「わかった」
そう言ってなのは、フェイト、アリシアはバリアジャケットを解除する。
「君も解除してもいいんだよ?」
唯一解除していない立夏にクロノはそう言うが
「ごめんなさい、ちょっとね……」
と、立夏は解除するのを拒んだ。
「まあ構わないが……それじゃ、向かうよ」
そう言ってクロノは先導して歩き、なのは達もそれに続く。
そして到着したのか扉の前でクロノは立ち止まった。
「艦長、クロノです」
『どうぞ、入ってきて』
「失礼します、ほら君たちも」
「「「「「「失礼します」」」」」」
「…………………」
まだ思案しているカノン。
そんななのは達の目の前に広がっていたのは……色々と間違った和風の部屋だった。
「ようこそ。いらっしゃいました」
「これはなんというか」
「いろいろごちゃ混ぜなの」
「あまり見ないでくれ。僕も恥ずかしい」
「?遠慮しないで座って頂戴」
「では、遠慮なく」
「え、遠慮しようよ姉さん」
そう言いながらもフェイトも座る。それに倣って立夏達も座る。
「では、私が時空管理局提督、巡航艦アースラの艦長、リンディ・ハラオウンよ」
「あれ?ハラオウンって……」
「なのは……さっき、クロノがこの人の事を母さんって言ってたでしょ?」
「あ、そういえばそうだったの」
「なのははもうちょっと周りを見ましょう、ね?」
「立夏ちゃん、その生温かい眼差しはちょっとひどいの!」
「なのは、大丈夫だよ。私でもちゃんと周りを見れるんだからなのはにんだって出きるよ」
「フェイトちゃんがトドメさしに来たの!?」
「あ、あれ?」
「そしてこの天然なんだからすごいわよね……」
「えっと、話を進めてもいいかしら?」
「あ、はい。すいません」
色々とカオスになってきたので何とか取りやめる。
「それじゃ、そちらの状況を説明してもらえるかしら」
「わかりました、それじゃあ代表して私が……」
そして立夏は話始めた。
事の始まりとこれまでの戦いの数々を。
そして話終わった。
「なるほど、ジュエルシードはあなたが発掘したんですね」
リンディはユーノを見る。
「はい、だから僕が責任持って回収しないと」
「立派だわ」
「でも、無謀でもある。何故管理局を待てなかった?」
「管理局にも要請しましたが、人手が足りないので直ぐには無理とのことだったので……ジュエルシードを放って置いたら大変なことになると思い……」
「そうだったのか、すまない。それについては管理局を代表して謝罪する」
「い、いえいえ!大丈夫ですから!」
ユーノはまだ少し恐縮しているらしい。
「だけど、さっきも言ったが無謀だ。一人で回収するなんて」
「それはそうですけど……」
「あ、あの……そもそも、ロストロギアって何ですか?」
「ああ、その説明もしないといけないわね」
そして、リンディはロストロギアの説明を始めた。
ロストロギアと言うのは進化しすぎた文明の遺産。使用法によっては次元空間さえ滅ぼしかねない危険な技術がある。
そう言った危険物を封印と保管するのが管理局の仕事の一つである。
「これよりロストロギア、ジュエルシードの回収については管理局が全権を持ちます」
「君たちは今回の事を忘れて、元の世界で平和に過ごすといい」
そう、最終的に締めくくられた。
まあ、こうなるのも仕方ないだろう。なのは達はまだ子供。
子供にこんな危険な仕事をさせるのは危険だからだ。
「で、でも!」
立夏は何とかしようと声をあげるが
「次元干渉に関わる事件なんだ。民間人がしゃしゃり出てこれる問題じゃない」
そう言ってはねのけられる。
そして、リンディが次の言葉を言い放った。
「まあ、急に言われても気持ちの整理がつかないでしょう。一度家に帰って今晩ゆっくりと考えてくれるといいわ。その上でもう一度話し合いをしましょう」
この言葉を聞いた瞬間────────カノンは瞬時にバリアジャケットを展開し、腰に差していた小太刀を抜き放つ。その小太刀の切っ先を、リンディの首元に置いていた。
「「「「「「「「っ!!!???」」」」」」」」
あまりの早業に誰も反応出来なかった。
「少し、質問がしたい」
「お前!一体何を考えている!」
クロノが怒り、デバイスを取り出そうとするが
「動くな」
その一言で、その場が静寂に包まれる。
カノンはこの部屋全体に殺気をまき散らしているのだ。
ここまで、感情を表に出しているカノンを見たことはないので誰も反応出来なかったのだ。
「質問に答えてほしい」
「え、ええ。わかったわ」
「まず……何で今まで介入してこなかった」
「それは、この辺りの次元が不安定になっていてこの間やっと安定したのよ。そのせいで到着が遅れてしまったの」
「なるほど。では次の質問だ。ロストロギア関連の事件には民間人がしゃしゃり出ても邪魔になる。それは本当だろう?」
「え、ええ。言い方は悪いけど確かにそうね。こういうのは私たちの仕事ですので」
一つ一つ質問していき、リンディもまたそれに答えていく。
「では、最後に質問です。あなたの本当の目的はなんですか?」
「ほ、本当の目的?」
「さっきから何を言っているんだ!君は今、何をしているのかわかっているのか!?」
「黙っていろクロノ・ハラオウン。私は今、リンディ・ハラオウン艦長と話をしているのだ」
目だけでクロノを止めると再度リンディに視線を向ける。
「では、質問を変えよう……なぜ、一晩ゆっくりと考えなければならない?」
「え?」
その質問の意図がわからずリンディは呆ける。
「なるほど、つまりは無意識でやっていたと……そうなってくると、管理局とは中々に非道な組織だというのがわかるな」
「貴様!管理局を侮辱するのか!?」
クロノがもう我慢が出来ないといわんばかりに杖を振り上げようとする。
「待ちなさいクロノ!」
しかし、そんなクロノをリンディは止める。
「どうして止めるんですか艦長!?」
「質問の意図がわからないのだけれど……」
「では説明しましょう」
「まず、これは私たち民間人の出ていい事件ではない。これは前提だ」
「しかし、貴女は今晩ゆっくりと考えて後日もう一度話し合おうと言った」
「それがどうしたというんだ!?」
クロノはまるでわからないみたいだが、そこまで言ったところでリンディは顔色を変えた。
「どうやら気づいたようだな」
「ええ、そうですね。まさか、こんな意味になってしまっているとは思いませんでした……」
「ど、どういう事ですか、艦長?」
クロノはリンディに質問する。
「つまり……私のあの言い方だと、なのはさん達に決意させて来てもらいたいと言っているような物なのよ」
「え……?」
クロノは呆けてしまう。
「やはり、管理局とはそういう組織だったのですね。いや、管理局側がそういう風に教育しているという事でしょうか」
「ね、ねぇ、どういう事なの?」
何とかカノンの殺気に慣れてきた立夏がカノンに問う。
「管理局とは魔法至上主義。魔法を扱える才能があれば子供であっても雇う。そして、私たちは子供ではあるが高い魔法の才能を持っている。こういう時にはこう言えと、マニュアルでもあるんでしょう」
「そうですね……今回は特殊な例でしたが、マニュアルに沿っていました」
「管理局とは子供を使い潰しの道具にする組織だという事でしょう?」
「ち、違う!管理局は正義の「正義とは、何だ?」何?」
クロノが反論しようとするがそれをカノンは遮る。
「正義とは、人の数だけ存在する。それだけ存在すれば相反する正義も存在する。光と闇、対極にあるこの二つのようにな」
そう言ってカノンは小太刀を引き、鞘に納め、殺気を解く。
「っ、はぁ…はぁ……」
「「はぁ……はぁ……」」
「や、ヤバかったね……」
「うぅ……」
なのは達はカノンの殺気に当てられて少し滅入っている。
「ああ、済まない。ちょっと抑えが効かなくなってね」
そう言って謝罪するカノン。
そしてもう一度カノンはリンディに向き直る。
「先ほどの事を一度よく考えてください……明日、もう一度だけ話し合いをしましょう。答えを出せたなら……私は協力します」
そう言ってカノンは自分が座っていた場所に戻っていく。
そして、今度はきちんと話を聞く態度になる。考え事は終わったからだ。
実は、カノンが先ほどから考え事をしていたのはこれからどうしようかと思案していたのだ。
これから、というのは管理局と協力関係になるのはどうかという事だ。
管理局の闇の部分も少しだけではあるが知っている身としてはあまり協力はしたくない。
しかし、なのは達の事を考えるとそうは行かなくなってくる。
そこで、先ほどの行動だ。これで、リンディ達は自分達の意見で考え答えを見出す事を期待しているのだ。
むろん、自分の意見を確率させずにいれば、カノンは協力を拒み、一人でジュエルシードを回収するつもりだった。
そして、そんな重苦しい中、話し合いは一旦お開きとなった。