Blue Archive -Document GUYS feat.LXXX-   作:LN58

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EP08 蘇る愛だけを信じる歌 -前編-

 

――――――公開授業:愛と勇気と正義についての講義

 

北条先生「いいですか。世の中には人それぞれ大切なものがいろいろあります」

 

北条先生「けれども、何が大切であるか、どれだけ大切であるか、その理由でさえも定かではありません」

 

北条先生「ただ、僕から言えることはそれが大切であると認識するためにはそのように()()()()()()()必要があるんです」

 

北条先生「それが教育の重要性であり、社会の一員になるために必要な義務教育や家庭教育の意義なのです」

 

北条先生「と言っても、大切なのはわかるけれど具体的にはよくわからないことも多いでしょうから、」

 

北条先生「ここでは簡単に“愛”と“勇気”と“正義”について講義しましょうか」カキカキ

 

北条先生「これがウルトラマンを理解することの助けになるはずです」

 

 

北条先生「まず、“愛”とは何か?」

 

北条先生「難しいですよね。試しにこの辞書を引くと『そのものの価値を認め、強く引きつけられる気持ち』なんて書いてありますし、別のものだと第一義は『かわいがる。いとしく思う。いつくしむ。いたわる』、第二義は『男女が思いあう。親しみの心でよりかかる』とあります」

 

北条先生「なるほど。これで『“愛”を実践してみせろ』と言われても、わかったようでわからないですね」

 

北条先生「そこで手掛かりとなるのが、言葉の成り立ちを探ることですね」

 

北条先生「それなら、“(アイ)”という漢字の成り立ちを調べるというのも有効ですが、」

 

北条先生「ここでは“アイ”という音から推測するということをやってみましょう。同音異義語を挙げていきましょう」

 

北条先生「そう、“会い(アイ)”“合い(アイ)”“(アイ)”がありましたね」

 

北条先生「つまり、これなんですよ。“アイ”という日本語はいずれも『2人の人間がいないとできない行動や状態』を意味しているんです」

 

北条先生「この中でももっともわかりやすいのは“合い(アイ)”でしょう。愛する2人がまずすることは結婚式で愛を誓い合う、そこから力を合わせて互いに支え合い、幸せな人生を掴んでいくわけです」

 

北条先生「なので、“愛”とは何かと訊かれたら“合い(アイ)”と解釈すれば間違いないでしょう」

 

北条先生「つまり、“愛”の始まりは“相手に合わせる”ことからなのです。『合い(アイ)の手』=『(アイ)の手』ってわけですよ」

 

北条先生「だって、そうでしょう? 嫌いな相手に自分を合わせたいと思いますか? 好きな相手だからこそ、仲間とか友達だから、自分を相手に合わせることが苦ではないとすれば、それを大きな意味で“(合い)している”と言えるわけですよ」

 

北条先生「つまり、『痘痕も靨』になったら、まず“(合い)”が実っているのは間違いないでしょう。醜い人の側にいても苦じゃないんですから、相手に合わせて自分の価値観や感情を変えられたら、それは“(合い)”ですね」

 

北条先生「だから、“恋”とはちがうんですよ、“愛”は」

 

北条先生「英語ではみんな“LOVE”で“恋愛”と一括りにして表現しますが、“恋”も同じように他の“コイ”を探してみましょうか?」

 

北条先生「はい、ありました。“濃い”“鯉”“故意”――――――、ちょっとちょっと! それはちがうかな?」カキカキ

 

北条先生「そうそう。“来い(コイ)”“乞い(コイ)”“請い(コイ)”ってことなんですよ、“(コイ)”っていうのは」

 

北条先生「想像してみて。恋に落ちた少女はまず思い浮かべるか――――――」

 

 

あの人はどこの誰なんだろう? 名前は? 好きなものは? どこに住んでいるの? 自分のことをどう思っているのかな?

 

 

もっと会いたい。話がしたい。一緒()の時間がずっと続けばいい――――――。

 

 

北条先生「恋に落ちるとこんな内面になりませんか? それを同音異義語で考えると“乞い(コイ)”の字が一番わかりやすいですよね」

 

北条先生「つまり、“(コイ)”とは“乞い(コイ)”であり、相手に来い来いと願う心、“相手のことを求める”心だと考えれば、『恋に恋する』ことの失敗の原因がどこにあるのかがわかるはずです」

 

北条先生「ほら、これで“恋愛(LOVE)”という言葉で一括りにされているけれども、“(コイ)”と“(アイ)”のちがいがよくわかりましたね」

 

北条先生「相手のことが気になったからと言って、自分のことばかりを押し付けたら、それは“(アイ)”ではないんですよ」

 

北条先生「この言葉の響きが日本語の妙というやつですよ、みなさん」

 

 

恋 = 相手のことを求める心

 

愛 = 相手に自分を合わせる心

 

 

北条先生「じゃあ、これで“愛”が何なのかがわかった上で、ウルトラマンの心を理解してみましょう」

 

北条先生「それを端的に表現しているのが、“ウルトラマン先生”ことキヴォトスで絶賛活躍中のウルトラマン80の歌;TALIZMANの地球防衛チーム認定曲の一節となります」

 

北条先生「では、一度 歌を聴いてみましょう」

 

 

君は誰かを愛しているか それは生きてることなんだ

 

君は勇気を持っているか どんなことにも負けない心を

 

 

北条先生「わかりましたか?」

 

北条先生「先程の“(合い)”の解釈でいくと、『生きていることは必然と誰かと合わせることなんだ』『生きるということは一人では絶対にできないことなんだ』『みんなが生きている世界はみんなが協力し合ってできている』という意味になると僕は思うな」

 

北条先生「そして、“勇気”は“(合い)”を貫くために必要なんだ」

 

北条先生「どんなに相手への“(合い)”があったとしても、嫌な気持ちだとか怖い気持ち、やりたくないという気持ちが湧き上がって長続きしなかったら、その“(合い)”は本物とは到底言えないですよね?」

 

北条先生「たとえば、赤ちゃんのお世話がそれだ。赤ちゃんはとても可愛らしいけれども、いつも目を光らせて安全に気を配らないといけないし、夜泣きはするし、おしめの交換をしなくちゃいけないから、赤ちゃんのお世話はとにかく大変だよ」

 

北条先生「でも、子供を育てるのなら、そんな辛い現実に怯んじゃいけない。どこまでもどこまでも我が子に合わせて忍耐を重ねて、そこに喜びを見出して健やかなる成長へと導くのが赤ちゃんへの“(合い)”でしょう」

 

北条先生「本当に“(合い)”がなかったら赤ちゃんのお世話なんて重労働はやり遂げることなんてできないですよ」

 

北条先生「それこそが“勇気”! 『どんなことにも負けない心』! “(合い)”を貫くための力なんです!」

 

北条先生「この2つをもってウルトラマンの心はTALIZMANの歌で理解することができるんです!」ドン!

 

 

北条先生「けれども、“愛”も“勇気”も倫理的に間違っていたら意味がないので、この2つを底支えするのが“正義”なわけですよ」

 

北条先生「でも、ウルトラマンが“正義”が何たるかを語ったことはないんですね。もちろん、ウルトラマン自身が正しいと思うことや信念があるからウルトラの星から遠く離れて怪獣退治の使命に生きるわけですが、それを声高に主張したことは半世紀に渡る地球での怪獣退治のの歴史の中ではないんです」

 

北条先生「なぜなら、ここからがウルトラマンの心を理解する上で一番重要なポイントですよ」

 

北条先生「ウルトラマンは基本的に人類のために怪獣退治をしていますが、それでも『本当は戦いたくない』『無駄な争いは避けたい』『怪獣の命を奪いたくない』と思って、しかたなく最後に必殺光線を放って怪獣にとどめを刺している事実をまず理解してください。罪状がはっきりしている場合は除く」

 

北条先生「怪獣だったら問答無用で倒せばいいわけじゃないんです。倒すべきは倒し、生かすべきは生かす;少なくとも【アーカイブドキュメント】に記録されていたウルトラマン80の戦いはそうでした」

 

北条先生「なので、“愛”と“勇気”と“正義”という人として大事なものがあるわけですけど、この3要素を華道の(しん)(そえ)(ひかえ)に当て嵌めると、」

 

北条先生「ウルトラマンの心においては“愛”が(しん)、“勇気”が(そえ)、“正義”が(ひかえ)という順序が成り立っているわけなんです」

 

北条先生「つまり、まずは『相手に合わせること(わかりあうこと)』がウルトラマンは一番最初に来るんです」

 

北条先生「もしこの順序が逆になっていると、最初に『(自分にとって)正しいかどうか』で判断して相手への理解を切り捨てる恐れがあるんです」

 

北条先生「災害の化身である怪獣と真っ向から戦えるだけの強大な力を持っているからこそ強い自制心を求められ、相手を理解しようという気持ちが一番最初にあるから人類の味方になってくれているところがあるのだから、ウルトラマンを見習ってより良い世界を築き上げたいですね」

 

北条先生「仲良くするんだったら、同じ価値観や考えを持っている人としたいじゃないですか」

 

 

――――――そのためのウルトラマンの心の実践というわけなのです。

 

 

―――

――――――

―――――――――

――――――――――――

 

 

羽沼 マコト「先生、もう間もなく後夜祭のパーティーが始まるな」キキキッ

 

北条先生「ええ。頼まれていたスイーツの納入も無事に終わりましたから、楽しみにしていてください」

 

羽沼 マコト「そういう話がしたいんじゃない。“連邦生徒会長”の実質的な後継者になってキヴォトスを導くことを己の実力で認めさせた“GUYSの先生”と真正面から戦争がしたいやつはもう存在しない」

 

北条先生「音楽フェスティバルの表彰式は終わってますよ?」

 

羽沼 マコト「たしかに。あれで機龍丸を保有する我が【万魔殿】の軍事力と功績をキヴォトス中に広めることができたし、実戦配備がいつまで経っても進まない【トリニティ】との差もつけられて愉快でしかたがない」

 

羽沼 マコト「いやはや、本当に。先生、あなたが来てから実に愉快なことばかりだよ」

 

北条先生「………………」

 

 

羽沼 マコト「先生、あなたはこのキヴォトスで誰よりも自由と混沌を体現している存在だ。このキヴォトスを意のままに変えていく力がある。そして、それは示された」

 

 

北条先生「――――――失踪した“連邦生徒会長”に怪獣退治の専門家としてキヴォトスの平和を託された身ではありますが、不本意なことではありますね」

 

羽沼 マコト「だが、それは時代の流れだ。Xデーを迎えて怪獣頻出期に突入した状況に適応できない者は須く滅ぶのは自然の摂理であろう」

 

羽沼 マコト「そのことは誰に憚る必要もないのだぞ、先生よ」

 

羽沼 マコト「――――――【トリニティ総合学園】には怪獣頻出期を乗り切るだけの力はない」

 

羽沼 マコト「――――――【ミレニアムサイエンススクール】には怪獣頻出期を戦い抜くだけの数がない」

 

羽沼 マコト「もはや趨勢は決した。キヴォトス三大学園(BIG3)の主導権は我が【ゲヘナ学園】のものとなった!」

 

 

――――――さあ、先生よ! この羽沼 マコト様の手を取れ! もし私の味方になれば世界の半分を先生にやろう!

 

 

“GUYSの先生”北条 アキラの呼びかけで自発的にキヴォトス中がお祭り騒ぎとなった 土日の2日間で行われた 音楽フェスティバルの総評とその裏で起きていた怪獣災害の対処の報告を兼ねて、毎週【ゲヘナ学園】第一校舎で行われる公開授業は音楽フェスティバル後夜祭となっていた。

 

特設サイトのタイムテーブルに埋め込んだ動画を同時視聴しながら怪獣退治の専門家として2日間の音楽フェスティバルの裏で起きていた怪獣災害の解説を行い、1日目の宇宙怪獣:ノイズラーを歌だけで追い払ったことや、2日目のロボット怪獣:ガラモン3体の対処の仕方について誤解がないように言及するのであった。

 

現地会場となる【ゲヘナ学園】第一校舎の教室は選ばれた生徒しか入れず、入れなかった生徒は好きな場所で公開授業のネット配信に参加する形式となっており、今回は2日目のロボット怪獣:ガラモンの撃退に対怪獣特殊空挺機甲(特空機):機龍丸を駆って貢献した機長:棗 イロハの表彰式も行われていた。

 

それと同時にバム星人の侵略兵器(四次元ロボ獣:メカギラス)を我が物にしたことを自慢せずにはいられない【万魔殿】議長:羽沼 マコトによるプロパガンダも挟まれ、対怪獣兵器を保有することになった【ゲヘナ学園】の優位性を内外に知らしめることに成功して有頂天となっていた。

 

本来ならば戦闘記録は軍事機密なのだが、音楽フェスティバルの開催の意義はいつ怪獣災害が起きるかもわからない情勢における危機管理体制の証明なので、包み隠さずに北条 アキラがノイズラー相手に最高にロックを極めていた秘密の屋外ステージや、機龍丸とガラモンのロボット怪獣同士の対決などを再生して同時視聴して大盛り上がりとなったのであった。

 

該当シーンになると途中からバンドマンの姿に着替えてくるファンサービスもしており、キヴォトスの歴史には存在し得ない音楽性であるハードロックの名曲の解説も挟み、

 

この時のノイズラーへの対応で駆けつけた【キヴォトス防衛軍】の面々しか見ることができなかった秘蔵映像も惜しげもなく公開すると、あらためてキヴォトスでの定番ナンバーのハードロックアレンジをみんなで歌うことにもなった。この瞬間だけは再びキヴォトスは銃声ではなく歌声が響き渡った。

 

一方で、2日目のロボット怪獣:ガラモンの出現の裏には侵略宇宙人:チルソニア遊星人の暗躍があったことは伏せられており、その目眩まし(カバーストーリー)として回収された未知の金属:チルソナイトの分析と利用についての研究報告がなされていた。

 

こうして食事休憩で現地の【ゲヘナ学園】ではいつものように北条 アキラ監修のスペシャルメニューの取り合いになりながらも、各地から集められた音楽フェスティバル当日の様子や感想を聴いて、最後に開催を呼びかけた発起人として北条 アキラの総評をもって音楽フェスティバル後夜祭は幕を閉じたのだった。

 

そこから現地では続けてパーティーとなり、対怪獣兵器:機龍丸の健闘を称えた祝勝会の開催で、ここまで度重なる怪獣退治の実績によって【ゲヘナ学園】の国威発揚で全体的にイケイケムードが漂うになっていた。

 

実際、【キヴォトス防衛軍】での活躍具合や保有戦力では【ゲヘナ学園】が今のところ飛び抜けており、【ミレニアムサイエンススクール】も兵器開発で多大な貢献をしてきているものの、今回のガラモン戦の戦闘記録が公開されたことで怪獣と同等の対怪獣兵器を保有する【ゲヘナ学園】の軍事力をキヴォトス中に印象付けることになったのだ。

 

そのため、現在、【ゲヘナ学園】生徒会長:羽沼 マコトは その優位性を決定づけるために ここで畳み掛けることにしたのだった。

 

 

北条先生「その手は、社交ダンスのお誘いですか?」

 

羽沼 マコト「……そ、そうとも言う」

 

羽沼 マコト「だが、『世界の半分をやる』というのは嘘ではない」

 

羽沼 マコト「そもそも、私以上にキヴォトスの未来を考えている生徒はいないはずだ」

 

北条先生「キヴォトス征服も管理のためには間違いではないと?」

 

羽沼 マコト「その通りだ。【連邦生徒会】による支配と管理が行き渡らなくなった以上、誰かが再びキヴォトスを統一しなければ平和など訪れるはずもない」

 

羽沼 マコト「その王に相応しいのは先生、あなただ。いや、すでにあなたこそがキヴォトスの頂点だ」

 

 

北条先生「――――――敵はキヴォトスの中だけなのか?」

 

 

羽沼 マコト「…………!」

 

北条先生「僕はちがうと思う。怪獣や侵略者は常に生活圏の外から現れて僕たちの暮らしを脅かしてくる」

 

北条先生「それと同じように、【連邦生徒会】の中枢に【カイザーコーポレーション】といった学園外の勢力の介入があった――――――」

 

北条先生「キヴォトスを統一しても学園外の勢力の介入は避けられない以上、キヴォトスは彼らのパイの奪い合いの標的でしかない。パイカッターで切り刻まれる一方だよ」

 

羽沼 マコト「……なるほどな。さすがは先生だ。すでに先生の目はキヴォトスの外にも向けられているか」

 

羽沼 マコト「だからこそ、あなたが王になるべきだ」

 

 

――――――あるいはキヴォトス人の新たな神に。

 

 

北条先生「酔っているのですか? そこまで強い料理酒は使ってないはずですが?」

 

羽沼 マコト「至って真剣だよ、私は」キキキッ

 

羽沼 マコト「もし先生が一生をキヴォトスのために尽くしたのなら、人々は王と称えるだろう」

 

羽沼 マコト「もし先生が怪獣頻出期の終焉を見届けてキヴォトスを去るのなら、人々は神と崇めることだろう」

 

北条先生「………………」

 

羽沼 マコト「その時、聖廟を祀るに相応しいのがどこかを問われれば、満場一致で【ゲヘナ学園】になるだろう」

 

羽沼 マコト「それだけ多くの足跡を【ゲヘナ学園】で残していっているのだからな、今こうして」

 

羽沼 マコト「わかるだろう、先生? 今更、【ミレニアム】や【トリニティ】で同じ施しをしたところで、後世に禍根を残すことにしかならないことはわかるな?」

 

羽沼 マコト「だったら、今この場で私の手を取れ、先生! そうすれば現在のキヴォトスは先生のもの、未来のキヴォトスは【万魔殿】のもので、キヴォトスは公平に分け与えられる!」

 

 

百合園 セイア「そんな話が受け入れられると本気で思っているのかい、羽沼 マコト?」

 

 

北条先生「……百合園さん」

 

羽沼 マコト「ほう、【トリニティ】のホストが単身でこの場に現れるとはな。ご苦労なことだ」キキキッ

 

百合園 セイア「私の手を取れとは言わない、先生。でも、それなら公平にどこにも手を貸さないで欲しい」

 

羽沼 マコト「先生。それだけ【トリニティ】が追い込まれていることを自覚しているからこそ、ホストが恥を忍んで【ゲヘナ学園】にまで来ているんだ」

 

羽沼 マコト「珍しい客人だ。もてなしてやろうじゃないか、先生と一緒にな」

 

百合園 セイア「……なんとでも言うがいいさ」

 

羽沼 マコト「話が長くなってしまったな。あとは仲良く歓談でもしてくれ。私は主催者として忙しいからな」クルッ

 

羽沼 マコト「そうだ、先生。キヴォトス三大学園(BIG3)力の均衡(パワーバランス)のことなんて考える必要なんてないからな」

 

羽沼 マコト「最初にそれを破ってキヴォトスで一二を争うマンモス校同士の軍事同盟【エデン条約機構】なんてものを打ち立てたのは他ならぬ“連邦生徒会長”なのだから、“連邦生徒会長”のものだった過去のキヴォトスのことなんて忘れてしまってかまわんぞ」

 

 

――――――現在のキヴォトスは“シャーレの先生”であり“GUYSの先生”である北条 アキラ(あなた)のものなのだからな。

 

 

北条先生「どうして護衛もなしに現れたのですか?」

 

百合園 セイア「……先生、怪獣が現れる。この【ゲヘナ】に」

 

北条先生「それを僕に伝えるために?」

 

百合園 セイア「現れた2体の怪獣は“大地を揺るがす怪獣”ゴルザと“空を切り裂く怪獣”メルバと言った。憶えている限りだと、ゴルザはクレッセントのような感じで、メルバはギコギラーのような外見だった」

 

北条先生「なるほど。それがわかっているだけでもありがたいです。対策ができます」

 

百合園 セイア「ただ、不可解なんだ」

 

百合園 セイア「その2体の怪獣が現れるのはヒノム火山が見えるどこかということで【ゲヘナ】なのはわかったんだが……」

 

北条先生「?」

 

 

百合園 セイア「光のピラミッドを目掛けてゴルザとメルバが迫っていたんだ」

 

 

北条先生「――――――『光のピラミッド』?」

 

百合園 セイア「ああ。そんな目立つものが本当に【ゲヘナ】にあるのかと思ってね」

 

北条先生「最初の怪獣:クレッセントが引き起こした異常現象の調査であの辺りの文献や伝承の調査もしてきましたが、『光のピラミッド』というのは初めて聞きますね」

 

百合園 セイア「とにかく、何かがあるように思うんだ」

 

北条先生「わかった。情報ありがとう、百合園さん」

 

百合園 セイア「いや、これぐらいはお安い御用さ」

 

 

百合園 セイア「ただ、いよいよ【トリニティ】はダメかもしれない」

 

 

北条先生「………………」

 

百合園 セイア「エデン条約を巡って推進派と反対派の対立があったところに、怪獣災害対策を巡って今度は改革派と守旧派の対立までも起きて、【ティーパーティー】による統率が行き渡らなくなってきた」

 

百合園 セイア「だから、先生の助言に従って緊急時の指揮権の整理はつけておいたけど、軍事力と実績に差をつけられたまま【ゲヘナ学園】とエデン条約を結ぼうものなら、【エデン条約機構】は羽沼 マコトのものになってしまうことをわかってくれないんだ」

 

百合園 セイア「いや、そうなるのだったらエデン条約を止めればいいと言う声すら上がって、ますます世論が混沌と化している。本当に気軽に言ってくれるよ」

 

百合園 セイア「そういう意味では【万魔殿】の一強体制を築き上げるきっかけになった先生には恨み言の1つや2つ言いたいところだけど、先生でなければ怪獣災害に対処することができなかったんだ」

 

百合園 セイア「だから、これは時代の変化なんだね」

 

百合園 セイア「かつてキヴォトス最大勢力だった【アビドス高等学校】が砂漠に呑まれてしまったように、誰もが認める超人だった“連邦生徒会長”が失踪して腑抜けてしまった【連邦生徒会】のように、【トリニティ総合学園】もまた変わらなくては滅びてしまうところまで――――――」

 

 

百合園 セイア「私を助けて欲しいんだ、先生」

 

 

北条先生「……百合園さん」

 

百合園 セイア「ナギサは緊張している時に紅茶を運ぶ手が止まらない悪癖を羽沼 マコトに見抜かれているし、ミカはこういった政治に関しては完全に論外だ」

 

百合園 セイア「かと言って、病弱の私では長丁場に耐えられるはずもない。本当は2人に託しておきたかったんだがね……」

 

北条先生「しっかりしてください。僕は支配者になることもないし、雇われの身なんだ」

 

百合園 セイア「ああ、わかっているさ。だからこそ、先生は信頼できる。そんな先生に私は憧れたんだ」

 

百合園 セイア「きっと、先生は誰かのものになった瞬間に“先生”じゃなくなるんだろうな……」

 

百合園 セイア「それでも、今だけは私のお願い(ワガママ)を聞いて欲しいんだ」

 

百合園 セイア「――――――」クラッ

 

北条先生「大丈夫ですか!?」バッ

 

百合園 セイア「いや、大丈夫じゃないさ」ギュッ

 

 

――――――さあ、このまま私を胸に抱いて運んでくれ、先生。あの時のように、今度は見せつけるように。

 

 

自由と混沌を校風とするために学級崩壊して犯罪率が屈指の危険地帯となっている【ゲヘナ学園】であったが、現在では【万魔殿】の号令の下で怪獣退治で大活躍をし、北条 アキラの存在もあって犯罪率も改善傾向にあった。

 

一方で、ミッション系のお嬢様学校として楚々として威厳に満ちた【トリニティ総合学園】の学び舎は外面は立派であっても内情は謀略や悪意に満ちており、人心は分断され、成すべきことを果たすこともできずに停滞していたのだった。

 

ここまで来るとキヴォトス三大学園(BIG3)として長年に渡って【ゲヘナ学園】に対抗してきた【トリニティ総合学園】の凋落がキヴォトス中に知れ渡ることになり、北条 アキラが最初に危惧していた通りに落ち目になっていた。

 

しかし、劇的な変化は 犠牲を生み出し 恨みを残していくため、変わらざるを得ないのが時代の声だとしても、できるだけ犠牲が少なくなるように助言をするしか北条 アキラにできることはなかったのだ。

 

正直に言って、政治の質は国民の質ということなので、ミッション系のお嬢様学校なのに 何かあればすぐに銃を取り出して武力で訴えてくるキヴォトス人らしからぬ 地球とあまり変わらない陰湿さを浄化できない 硬直した派閥政治では未来はないのは当然としか言いようがない。

 

それでも、怪獣退治の専門家として怪獣頻出期を乗り切るだけの最低限の仕事をこなすまでは、怪獣退治のために滅びる学園が出てはならないとも考えており、最初から 徹頭徹尾 一筋縄ではいかない日々を送っていた。

 

 

――――――いや、これは感傷だ。矛盾だ。欺瞞だ。

 

 

北条 アキラにとってはキヴォトス人がどれだけ地球人よりも優れた頭脳や戦闘力を幼くして持っていようが、自分たちが暮らしている世界を円満に運営していくための知恵や制度、学問、慣習、文化を一から築くことができていないのだから、怪獣災害に因らずともキヴォトス人が自滅の道を辿ることはわかっていた。

 

というより、北条 アキラが生まれ育った歴代のウルトラマンが守り抜いた地球は人類同士の戦争が終結してから半世紀に渡って怪獣災害に見舞われたことで一致団結して人類平和を達成した世界であるため、その成り立ちや足跡と照らし合わせることで、いかに謎の超巨大学園都市:キヴォトスでの人類平和の達成が前途多難であるかは言うまでもなく。

 

つまり、地球人:北条 アキラは怪獣退治の専門家としてキヴォトスに赴任することになったわけなので、人々の生命・財産・権利・衣食住・尊厳を保障する使命が課せられているのだが、その前提条件として怪獣退治に適した防衛体制の構築が必要不可欠であり、キヴォトス人が初めて経験する怪獣頻出期に適応した新体制への移行を暗に強制するものであったのだ。

 

そう、過渡期の苦しみ;怪獣退治のためにキヴォトスは変わらざるを得ないことを北条 アキラは最初に直感的に理解して後から冷静に理論づけているわけであり、【万魔殿】羽沼 マコトが言うように時代の変化に適応できない学園は滅びるしかない。

 

今まさに【トリニティ総合学園】は時代の変化に適応できずに滅ぶべくして滅ぶしかないのだ。生き延びたくば、昨日までの【トリニティ総合学園】の在り方を捨てて、まだ見ぬ【トリニティ総合学園】へと脱皮しなくてはならない。

 

しかし、変化には犠牲がつきものであり、それが自然の摂理だからと言って黙って見過ごすのは人としてどうかという話であり、これが怪獣退治の専門家にとってあまり考えたくない戦後処理の中でも一番苦しい敗戦処理である。

 

できるだけ傷が浅いうちに店を畳めるようにする後ろ向きな努力を酸いも甘いも知らない未来への淡い希望を抱く思春期の子供たちに強いることになるわけであり、『かつてはキヴォトス最大を誇ったが今は見る影もない【アビドス高等学校】のようになりたくなければ――――――』と脅かすことにもなるだろう。

 

本業が小学校の先生である人間としては想像するだけでもしんどい話であり、過渡期に直面して責任を負わされることになる小さな大人たち(子供たち)に降り掛かる災難のことを思うと、先を見通せずに自分たちが積み重ねてきたツケを払わされる正当かつ必要な犠牲だと無慈悲に突き放すわけにはいかない。

 

なにより、怪獣退治の使命を全うすることを最優先してキヴォトスを地球の防衛体制と同じように創り変えるように急かすことも軍国主義のようで嫌だった。戦時下の日本で銃後であるはずの女子中学生が射撃訓練をしている写真を見て嫌悪したことの真似をしたくない。

 

結局、キヴォトスを意のままに創り変える権限などないのだから、怪獣退治に最適な防衛体制を成立させるために必要な犠牲を容認しながらも、そのために犠牲になる一人一人の苦しみや悲しみのことも頭の隅に追いやることもできず――――――、

 

北条 アキラはかつて突如発生した硫酸ミストから逃れるために百合園 セイアを抱きかかえて一目散に【トリニティ総合学園】を駆け込んだ時のように、今度は少し窶れた顔の百合園 セイアを抱きかかえて【ゲヘナ学園】を練り歩くことになり、迎えの者に引き渡すことになった。

 

 

――――――小学校の先生なら 助けを求める生徒に対して かけるべき言葉がある。

 

 

――――――怪獣退治の専門家なら 為政者の求めに応じて 促すべき判断がある。

 

 

――――――では、小学校の先生でもあり 怪獣退治の専門家でもある 北条 アキラにとって正しい選択とは何になるのか?

 

 

 

 

 

棗 イロハ「敵地に乗り込んできて先生にお姫様抱っこされて帰っていくとは【ティーパーティー】のホストも大したものですね」

 

羽沼 マコト「あれにはさすがに驚いたが、そんな奇策に打って出なくてはならないぐらいに【ティーパーティー】の求心力が落ちている証拠だ。正攻法ではすでに【万魔殿】に勝てないと認めたようなものだ」キキキッ

 

棗 イロハ「それでも、いくらバム星人の遺産をそのまま使って運用できるようになっていても、搭乗員の確保や修理の時間には手間がかかっていますよ」

 

棗 イロハ「それに、機龍丸の弱点は頭部に集中していることも情報共有されていますから、【トリニティ】が保有している航空戦力に畳み掛けられたら、一瞬で追い込まれることはお忘れなく」

 

羽沼 マコト「だから、隕石怪獣から得た新素材:チルソナイトで補強するのだ!」

 

棗 イロハ「簡単に言ってくれますけど、機龍丸の装甲をいとも容易く貫通させる金属を怪獣サイズで精密加工するだなんて、現状の技術力では途方も無いことですよ」

 

棗 イロハ「ひとまずは機龍丸のアイカメラ保護、光線反射板、徹甲弾の3つの実現を目指して研究させてますけど」

 

羽沼 マコト「理論実証のために試作した人間サイズのチルソナイトの防御兵装の確保も抜かりなくな」キキキッ

 

羽沼 マコト「さあ、堂々としろ。今日の主役はお前だ、イロハ」

 

羽沼 マコト「百合園 セイアが公衆の面前で見せつけてくれたのだ。先生が【万魔殿】のものであると記憶の上書きをしてくるのだ」

 

棗 イロハ「わかりましたよ、マコト議長」

 

羽沼 マコト「自由と混沌を校風とする我が【ゲヘナ学園】の前に貞淑さを投げ出すことがいかに無意味であるかをこれで徹底的にわからせてやる」キキキッ

 

 

羽沼 マコト「しかし、あの錠前 サオリが【アリウス】を捨てて堂々と【ゲヘナ】で姿を見せるようになるとはな。計画をあきらめたか」

 

 

羽沼 マコト「まあ、それも致し方あるまい。昔ならいざ知らず、先生の指導の下に怪獣災害に備えてどこもかしこも防衛体制が強化されたのだからな。賢明な判断だ」キキキッ

 

羽沼 マコト「となると、エデン条約締結を狙って【トリニティ】を一網打尽にする襲撃計画を誰が引き継いでいるかだ。もっとも、錠前 サオリの後任が務まる精鋭がいるかは疑問だがな」

 

羽沼 マコト「あの“マダム”と呼ばれて恐れられている【アリウス】の生徒会長が肩書だけの無能だったら、先がどうなるかは少しわからないが、【アリウス】も征服の対象であることには変わりない」

 

羽沼 マコト「さて、百の分派を生み出してまで語り継いできたお前たちが待望する救世主はこの期に及んでまだ眠っているのか?」キキキッ

 

羽沼 マコト「それとも、それを信仰していながら、それだと気づいていないのか?」

 

 

――――――ならば、花婿を花嫁の家の門の内に迎えるために燈火を与えられた10人の乙女の中で油を絶やさなかった賢き者としてお前たちに注がれるはずだった祝福は一つ残らず私のものだ!*1

 

 

今宵のパーティーの主催者である【万魔殿】羽沼 マコトはパーティードレスに着替えて眼下のパーティーホールを見下ろす。

 

今回のパーティーは対怪獣兵器:機龍丸の初出撃と初勝利を記念する祝勝会であり、基本的には【万魔殿】と【キヴォトス防衛軍】の関係者しか参加できないものになっていたが、【キヴォトス防衛軍】に参加している生徒とその友人なら誰でも入り込めるため、

 

実際、キヴォトス中に悪名を轟かせるテロリストグループ【美食研究会】すらも一応は【キヴォトス防衛軍】に参加しているのでパーティーへの参加資格を持っていると言えば、参加者の限定は有名無実と化していることを実感できることだろう。元から情報網構築のために参加資格をバラ撒いていたのだから当然ではある。

 

その中で【トリニティ】憎しで【万魔殿】と裏でつながっていた【アリウススクワッド】の面々がパーティードレスを着て明るい表情で談笑している様子が目に留まり、羽沼 マコトはそのことがキヴォトス全体が北条 アキラの指導の下で大きく変わっていっていることを感じられる具体例に思えたのだった。

 

だからこそ、羽沼 マコトは【ゲヘナ】に未来のキヴォトスの継承権の揺るぎない根拠として 遠くの星から愛と勇気を教えてくれた北条 アキラの聖廟を建てることを画策しており、ゆくゆくは神殿か王宮となる場所の既成事実化を企てていたのだった。遙か未来を見据えたプロパガンダである。

 

そのために贅を凝らした玉座を壇上に用意していたわけであり、その玉座に就いた者に万人が平伏す画を撮ろうとして今宵のパーティーの参加資格を【キヴォトス防衛軍】の関係者まで含めてみせたのだ。

 

そのため、パーティーの余興で北条 アキラを玉座に就かせるように場を誘導させる仕込みもしており、パーティー会場にいる全員が平伏すことはなくても、歴史的瞬間の写真の中だけ全員が平伏していることにできる人数も確保していた。

 

全ては抜かりなし。本人がどう思っているのかではない。周りがどう思っているのかが重要なのだ。当事者がいなくなった後世の人間が下す評価で歴史の勝者と敗者が決まる――――――。

 

 

――――――王様、だ~れだ!

 

 

北条先生「どうして余興に王様ゲームなんですかね?」

 

棗 イロハ「しかも、そのためだけにあんな豪華な玉座まで用意して使わせるだなんて、本当に何を考えているのやら」

 

羽沼 マコト「さあ、先生。いつまでもこんなところにいないで、次からは先生も王様ゲームに参加してもらおうか」

 

北条先生「イヤです」

 

羽沼 マコト「な、なにぃいいいいいいい!?」ガビーーーーーーン!

 

棗 イロハ「あ、即答」

 

羽沼 マコト「な、なぜだ!? なぜ参加しない!? 主催者であるこのマコト様からの要請だぞ!?」

 

北条先生「僕以外がパーティードレスを着た女の子で、それで玉座の前で跪かせるのは紳士的ではないので、イヤです」

 

棗 イロハ「たしかに。直に脚をつけることになるし、結構痛そう。せっかくのドレスも汚れるしね」

 

北条先生「そういうわけだから、絶対にイヤです」

 

羽沼 マコト「な、なあああ…………!?」

 

 

秤 アツコ「じゃあ、王様として命令。みんなが痛くないようにマットを敷いてね」

 

錠前 サオリ「さあ、姫からの命令だ。マットをもってこい」

 

秤 アツコ「ちがうよ、サッちゃん。今は“姫”じゃなくて“王様”」

 

 

棗 イロハ「お、いい子ですね。さすがはアリウスの姫。よくわかってます」

 

棗 イロハ「でも、もう少し場の雰囲気に合ったマットはなかったんですかね、あれ」

 

北条先生「うん。せっかく玉座まで用意した超本格派の王様ゲームだったのにね」

 

羽沼 マコト「うぐあああ…………」

 

北条先生「ところで、あの後ろの垂れ幕は丸めたままなんですか?」

 

羽沼 マコト「あ、いや、あれは――――――」

 

 

槌永 ヒヨリ「あの、王様の後ろに丸められているものって、垂れ幕なんじゃないんですかねぇ」

 

黒舘 ハルナ「まあ、そうですわね。何か違和感があると思っていたら、垂れ幕が丸まったままなんですわ」

 

戒野 ミサキ「じゃあ、さっさと垂れ幕を開いてよ。あれも王様ゲームのために用意されていたものなんでしょう」

 

氷室 セナ「そうですね。すでに王様ゲームを始めてしまいましたが、マコト議長がわざわざ用意したものなのですから、垂れ幕を開いてください」

 

 

羽沼 マコト「あ、止めろ! 勝手なことをするな! 順序というものが――――――!」

 

棗 イロハ「何を狼狽えているんですか? どうせ【万魔殿】の紋章なのに、見られて困るようなものじゃないでしょう?」

 

羽沼 マコト「いや、あれはそんなものなんかじゃ――――――」

 

 

バサッ

 

 

羽沼 マコト「ああ!?」カアアアア!

 

北条先生「あれは……」

 

棗 イロハ「ああ、そういうことだったんですか、マコト議長。だから、今晩は私に先生の相手をさせようとしつこく――――――」

 

棗 イロハ「ホント、いつもいつも面倒なんだから……」

 

棗 イロハ「まったくもって、マコト議長って意外と意気地なしですよね」ボソッ

 

羽沼 マコト「なっ!? イロハ、何か勘違いをしていないか、お前――――――?」ヒソヒソ

 

棗 イロハ「そこまで先生のことを慕っているのなら、こんな回りくどいことなんてしないで、ご自分で思いの丈を伝えた方が早いですよ」ヒソヒソ

 

羽沼 マコト「な、何を言っている、イロハ!?」ヒソヒソ

 

棗 イロハ「本当にわからないんですか? じゃあ、今 顔を真赤にしているのはなんでなんです?」ヒソヒソ

 

羽沼 マコト「な、なに?!」カアアアア!

 

羽沼 マコト「いや、そんなはずはない。このマコト様がそんな“恥ずかしがっている”だなどと……」ブツブツ・・・

 

北条先生「あの、羽沼さん――――――」

 

羽沼 マコト「いや、あれは、先生、その、なんだ――――――」アセアセ

 

北条先生「まあ、落ち着いて。時間はいっぱいあるから」

 

羽沼 マコト「…………あうぅ」カアアアアア!

 

 

――――――開かれた2つの垂れ幕に描かれていたのは【連邦捜査部 S.C.H.A.L.E(シャーレ)】と【CREW GUYS JAPAN】の紋章だったのだ。

 

 

羽沼 マコトが赤面した次の瞬間、玉座と垂れ幕の意味を理解した全員が主催者である羽沼 マコトの方を一斉に振り向いた。羽沼 マコトの隣には北条 アキラと棗 イロハがいた――――――。

 

この場にいるのは【万魔殿】と【キヴォトス防衛軍】の関係者だけであり、誰のために用意された玉座であるかが明白だ。“シャーレの先生”であり“GUYSの先生”でもある地球人:北条 アキラに向けた感情があまりにも赤裸々であった。

 

おかしい。こんなはずではなかった。本当は未来のキヴォトスの支配権の正統性をでっち上げる遠大な計画のために 失踪した“連邦生徒会”の後継者と誰もが認めている地球人:北条 アキラの王権に人々が平伏している画を撮ろうと完璧な仕込みをして その瞬間を心待ちにしていたのだが、

 

そもそもとして、大の大人である北条 アキラが玉座に就いてパーティードレスの生徒たちを平伏させる姿はとんでもなく大人気ないという理由で断られることを想定できていなかった時点で最初から破綻していた。

 

普段から自分の立居振舞がキヴォトスに大きな影響を与えることを自覚して世間体を気にしている模範的な大人相手に何も知らない第三者に誤解されるような問題行為(スキャンダル)を軽はずみにするはずもなかった。

 

その辺り、恥の概念をかなぐり捨てて不屈の精神で何事にも積極的に挑む羽沼 マコトでは思慮が及ばなかった点であり、それと同時にパーティーの余興として用意したにしても明らかに自己顕示欲の塊である羽沼 マコトの悪趣味とはかけ離れた荘厳な玉座の間のセットは良い意味で異彩を放っていた。

 

そして、唯我独尊の羽沼 マコトがXデー以前から北条 アキラの活動を手厚く保護してきたことは数々のプロパガンダで積極的に政治利用しようとしてきたことからも明らかであり、北条 アキラの活動の場には必ずと言っていいほど居合わせているのは【ゲヘナ学園】の生徒じゃなくてもよく知っていることであった。

 

むしろ、北条 アキラの活躍によって生徒会長なのにまともに認識してもらえていなかった羽沼 マコトの存在感が増していったのだから、一般生徒の目線からすると羽沼 マコトは北条 アキラの恩恵に与って影響力を強めることができていた――――――。

 

そんなわけで、本当は今日の主役である棗 イロハを使って北条 アキラを籠絡するのが狙いであったのに、同じ日に自分たちが追い込まれていることを自覚していた【トリニティ】の生徒会長(ホスト):百合園 セイアが先生にお姫様抱っこされて【ゲヘナ学園】から退場する様を見せつけていたのだ。

 

先生にお姫様抱っこされるのが今回が初めてではないことは巷で噂になっており、それを長年の宿敵【ゲヘナ学園】の学内で再犯したことに【トリニティ総合学園】への対抗心が生徒たちの間に密かに燃え広がることになり、【トリニティ】の生徒会長があそこまで大胆に迫ったのだから、我らが【ゲヘナ学園】の生徒会長にも期待するようになっていたのだ。

 

結果、周りが密かに期待していた通りに【万魔殿】議長:羽沼 マコトはどこからどう見ても北条 アキラを意識しているとしか思えない玉座と垂れ幕を用意して王様ゲームをパーティーの余興として行わせ、赤面した羽沼 マコトの隣には北条 アキラと棗 イロハがいた――――――。

 

そして、想定とはまったくちがう展開となってしまった中で、他者からの評判を人一倍気にしているくせに自分がやらかしたことに関しては全くの無頓着だが、はたと今回のことをしでかした自分の内面にあるものに気付かされることになって、自分の中から吹き出た感情の昂りに羽沼 マコトは呂律が回らなくなっていた。

 

そう、らしくない。羽沼 マコトらしからぬ感情が、羽沼 マコトにとっては無縁だと思っていた感情が、羽沼 マコトのこれまでの自分を中心にして回る世界の中からは生まれてくるはずがない感情が羽沼 マコトらしさを惑わせるのだ。

 

だが、こうした『これまでの自分らしくないものが自分の中で生まれてくる』という変化は悪なのだろうかと、小学校の先生をやっている北条 アキラは素知らぬ顔で見て見ぬ振りをしていた。

 

ただ、キヴォトス人の精神年齢を小学生レベルに想定して【ゲヘナ学園】での公開授業やフードイベントを毎週こなしてキヴォトス中から信頼を勝ち取ってきた北条 アキラは一人の教育者として異なる価値観を持つ者同士の交流から生まれる変化のことを“人間的な成長”と呼んで優しく肯定してきた実績があったのだ。

 

 

――――――まったく、しかたがないな。

 

 

北条先生「ハハハハハハハ!」

 

羽沼 マコト「え」

 

棗 イロハ「先生」

 

北条先生「おやおや、羽沼さん。今日の祝勝会の主役は棗 イロハさんだと聞いていましたが、まさか先生への日頃の感謝を伝える場を設けていたなんて知りませんでしたよ。驚きましたよ」

 

北条先生「感謝状ぐらいはもらえると思ってましたけど、まさか玉座とは思いもしませんでした」

 

北条先生「こんなサプライズを用意してもらえるだなんて、今日までみんなと一緒に怪獣災害に立ち向かってきた甲斐がありました」

 

北条先生「ありがとう、羽沼さん。気持ちはよく伝わりました」

 

棗 イロハ「……あーあ、マコト議長がグズグズしているから」ハア・・・

 

棗 イロハ「ほら、しゃんとしてください、マコト議長」

 

羽沼 マコト「あ、ああ……」

 

 

羽沼 マコト「先生、【ゲヘナ学園】を代表して、改めて礼を言おうではないか」

 

 

羽沼 マコト「怪獣災害の始まりであるクレッセントによる異常現象の被害を一番に受けていた【ゲヘナ】のために惜しみない支援と指導をしてくれた他に、毎週の公開授業とフードイベントで自由と混沌を誰よりも【ゲヘナ学園】で実践してみせたのだ」

 

羽沼 マコト「そして、先生は見事【ゲヘナ学園】を名実共にキヴォトスでNo.1の学園にまで押し上げてくれたのだ」

 

羽沼 マコト「――――――そのことを歴史に刻みつけたい」

 

羽沼 マコト「そう思って玉座を用意したわけだが、どうだろうか、先生? 玉座に就いてもらえるだろうか?」

 

 

北条先生「それじゃ、みなさん、道を開けてください」

 

 

北条先生「お手を」

 

羽沼 マコト「せ、先生……?」

 

棗 イロハ「何しているんですか? エスコートされているんですから、堂々と歩いてくださいよ?」

 

羽沼 マコト「ああ……」

 

北条先生「――――――」

 

 

こういうのを紳士と言うのだろう。地球人:北条 アキラは 相手の想いを汲み取って恥をかかせない 本当に優しい人だと棗 イロハは側にいて感じていた。

 

同じ【万魔殿】の面々ですら理解不能なハチャメチャな振る舞いをする羽沼 マコトのことを敬遠しているところがあり、そんな彼女のことを真正面から見据えて対話をする存在は今までいなかったのだから、先生の存在が彼女の中でどれだけ大きいものになっているのかなんて――――――。

 

だから、日頃から先生と手を組むことを声高に叫び、いろいろな策を練っていたわけなのだが、いきなり向こうの方から差し出された先生の手を恐る恐る掴んだ彼女の顔は紅潮が隠しきれていなかった。いつも的外れなほどに自信満々の表情もこの時は誰もが思わず息を呑むほどに期待と不安の眼差しで可愛らしく視えたほどだ。

 

けれども、先生の立居振舞は常に完璧だ。大人としての節度を貫いて今日までキヴォトスを生き抜いてきた小学校の先生なのだ。思春期を迎えた少女の相手も手慣れているのだろう。

 

自分から大声を出して大袈裟に笑ってみせたのもプライドの高い羽沼 マコトの恥ずかしがる様を庇って観衆の視線や関心を自分に集中させるためであり、この場面をどう切り抜けるのが全方位に角が立たないかを考え抜いた上での行動なのだ。

 

 

――――――つまり、先生は終始一貫して彼女の思惑通りに動く存在などではなかったのだ。それこそが自由と混沌を制する者の証なのだ。

 

 

秤 アツコ「先生、どうぞ」

 

北条先生「ありがとう」

 

北条先生「はい、羽沼さん」

 

羽沼 マコト「うん? どういうことだ、先生? その玉座は先生のために――――――」

 

北条先生「ほらほら、座って座って」

 

羽沼 マコト「あ、おい……」

 

北条先生「はい、記念撮影! 早く撮って!」

 

 

パシャパシャパシャ!

 

 

羽沼 マコト「!?!?」

 

秤 アツコ「ええ? てっきり先生が座るものだと思ってたのに……?」

 

錠前 サオリ「ああ、これはいったいどういうことなんだ、先生?」

 

北条先生「いいですか。僕は怪獣退治に使命を懸けているんです」

 

北条先生「なので、僕の願いはキヴォトスのみんなが怪獣退治の専門家になって自分たちの手で平和を掴み取れるようになることなのです」

 

北条先生「この度、【ゲヘナ学園】は対怪獣兵器:機龍丸の初出撃と初勝利を掴み取ったことにより、怪獣災害に対する防衛体制が一定の水準に達したものと見做し、合格証を出すことにしました」

 

北条先生「この玉座はそんな“シャーレの先生”であり“GUYSの先生”でもある地球人:北条 アキラの精神を受け継ぐ場所と思ってください」

 

北条先生「つまりは『王冠への共通の忠誠』というやつですよ。王冠を授ける法官であると同時に総督への任命状を携えた存在です」

 

北条先生「それでは、羽沼 マコトさん。あらためてお手を」

 

羽沼 マコト「こ、こうか?」

 

北条先生「では――――――」スッ

 

 

チュッ

 

 

羽沼 マコト「!?!?!!!?!?!!?!?!!!?!!」カアアアアアアアアアア! ――――――手の甲にキス!

 

北条先生「頑張ってくださいね、これからも」ニッコリ

 

秤 アツコ「わーお!」

 

錠前 サオリ「おお……」

 

槌永 ヒヨリ「こ、これが本物のキスですか!?」ドキドキ

 

黒舘 ハルナ「これはたしかに、女の子なら誰もが憧れるものですわね!」ドキドキ

 

棗 イロハ「ああ、誰も見たこともないような表情になって、まあ……」ドキドキ

 

 

羽沼 マコト「」プシュー・・・

 

 

丹花 イブキ「先生! ねえ、イブキも! イブキにもマコト先輩にしたのをして欲しい!」ブンブン!

 

北条先生「ごめんね。手の甲へのキスは尊敬や敬愛を意味するものだから、こういった儀式や式典でしかやっちゃいけない決まりがあるんだ」

 

丹花 イブキ「じゃあ、イブキもマコト先輩のように頑張るから!」

 

北条先生「そっか。まずは自己の防衛体制の確立。ここまでできたから、次は近隣の防衛体制の確立までいったらね。今よりもっと人に優しくしてね」

 

丹花 イブキ「うん!」

 

戒野 ミサキ「なんていうか、先生ってズルい人だよね。上手く言い包められているというか……」

 

氷室 セナ「正直に言って羨ましいですが、マコト議長が怪獣頻出期における学園の舵取りを上手くやってみせているのは事実ですから、代表者に対する報酬はあってしかるべきでしょうね」

 

 

それからパーティーは仕切り直しとなり、手の甲をぽーっと何度も見つめてしまう主催者:羽沼 マコトのことなんてみんな忘れて、パーティーの余興で盛り上がることになった。

 

今日は音楽フェスティバル後夜祭ということで毎週の公開授業を朝からやって、夜のパーティーでもみんなが楽しめるように北条 アキラが主催者に代わって司会者となった棗 イロハと共に司会進行役となったのだ。

 

準備されていたパーティーの余興の1つである【風紀委員会】空崎 ヒナのピアノ演奏に盛大な拍手を送ると、あらためて【キヴォトス防衛軍】に参加している生徒たちの帰る場所を守っている【風紀委員会】の働きを称賛するのであった。

 

そして、北条 アキラの活動を最初に支えてきた【給食部】【救急医学部】のことも表彰し、【万魔殿】丹花 イブキを通じて『ありがとう』の声を一斉にパーティーホールに響かせると、愛清 フウカと氷室 セナの両名の頬に温かい雫が伝うのだった。ここでも北条 アキラはピアノの伴奏をしている。

 

そう、こういうのでいいのだ。小学校でやるレベルの拙いものでいいのだ。超巨大学園都市:キヴォトスの学校教育で足りていないのは『総合的な学習の時間』だと考えているのが、ウルトラマンの心を教育現場で実践してマイナスエネルギーの発生抑制を志した北条 アキラである。

 

超巨大学園都市:キヴォトスの生徒たちの戦闘能力を含む職能力の高さは専門教育のレベルの高さに裏付けされているが、逆に言うと『総合的な学習の時間』で掲げられている体験学習や問題解決学習の重視、学校・家庭・地域の連携についてはからっきしなのが、自分たちの主義主張ややりたいことばかり押し付け合って銃声と爆発音が絶えない魔境と化してしまったキヴォトスにおける教育の敗北の歴史なのだとしみじみ思う。

 

本当ならば太古の歴史よりも学問が発展しているというのに人心が荒廃して理想的な社会から逆に遠ざかってしまっているように感じられるのは、まさに社会よりも個人が優先され、個人の生活が社会に還元する視点が大半の人民から失われてしまっているからなのだとも。

 

だから、北条 アキラは【ゲヘナ学園】での毎週の公開授業をしていく中でキヴォトスの教育制度の問題点を踏まえて『総合的な学習の時間』を意識するようになり、その基本概念である『国際化や情報化をはじめとする社会の変化をふまえ、子供の自ら学び自ら考える力などの全人的な生きる力の育成をめざし、教科などの枠を越えた横断的・総合的な学習』の導入も始めるようになったのだ。

 

それが音楽フェスティバルであり、ケーキフェスティバルのような【シャーレ】の依頼として多くの参加者を募って開催された数々のアクティビティにも繋がっていたのだ。

 

そして、その極意とは褒めることにあった。表彰することであった。評価することであった。自分の間違っているところを自覚させることであった。成功体験を積ませることであった。苦楽を共にする仲間を作ることであった。同じ場所での体験を共有することであった――――――。

 

だからこそ、会場を包みこんだ温かな熱気に圧倒されたのが虚無と復讐だけを教え込まれた【アリウススクワッド】であり、自分たちの人生の中でこんなにも胸が温かくなる光景はなかったと思い返すのだった。

 

 

錠前 サオリ「これが先生が私たちに見せたかったものなんだな……」

 

秤 アツコ「心が温かくなるような場所。これが地球では当たり前の学校風景なんだろうね」

 

槌永 ヒヨリ「本当に先生は本に書いてあるような素敵なことを私たちに見せてくれますねぇ」

 

戒野 ミサキ「…………もう【アリウス】には帰れないね、私たち」

 

錠前 サオリ「そうだな、ミサキ。ここまで差を見せつけられたら、マダムのやり方が間違っているかどうかなんて誰でも理解できる」

 

槌永 ヒヨリ「そうですよねぇ。外の世界にはこんなにも美味しいものや楽しいものがいっぱいあるのに、もったいないですよねぇ」

 

錠前 サオリ「ああ。復讐のための銃器を買う金があるのに、【アリウス】で飢えている子や苦しんでいる子たちを救うための金がないというのはやっぱりおかしい」

 

秤 アツコ「サッちゃんもそう思うよね。【アリウス】で教官をやって、たくさんの子たちの面倒を見ていたわけだし」

 

秤 アツコ「――――――最初からマダムは【アリウス】を救う気なんてないんだよ」

 

錠前 サオリ「そして、キヴォトス屈指の治安の悪さを誇る【ゲヘナ学園】でこうしてみんなを笑顔にしてみせた先生からすれば、ハザードマップ作成の必要性から【アリウス】もまた区別なく救済の対象なんだ」

 

戒野 ミサキ「正直に言って、もう先生に【アリウス】を解放してもらった方がいいんじゃない、リーダー? そうすれば追手のことを気にしなくてすむし」

 

錠前 サオリ「そうだな。ハザードマップの作成と提出は【連邦生徒会】の命令だから、それで【アリウス】に強制捜査することは理論上は可能だと言っていた。順番待ちなだけなんだ」

 

錠前 サオリ「だが、あれでもマダムが生徒会長なんだ。正当な手続きがなければ、先生は侵略者になってしまう……」

 

戒野 ミサキ「そうは言っても、マダムだって【トリニティ】から迫害を受けてきた歴史の生き証人でも何でもないじゃん! 私たちが生まれるよりもずっと昔のことで誰のためでもない復讐に生きるのなんてもう嫌だ!」

 

錠前 サオリ「はっきり言うようになったじゃないか、ミサキ」

 

戒野 ミサキ「少しわかったような気がするよ、リーダー。先生がリーダーのことを内弟子として養っているのって」

 

錠前 サオリ「どういうことだ?」

 

戒野 ミサキ「だって、リーダーは私たちだけじゃなくて他に多くの子たちの教官役をやっているから、【アリウス】での知名度も信用も一番なわけじゃん」

 

戒野 ミサキ「だから、【アリウス】をマダムから解放した時の新たな生徒会長として、みんなに納得してもらえる人なんてのはリーダーだけなんだよ」

 

槌永 ヒヨリ「本当ですよねぇ。最初からサオリ姉さんは“サオリ姉さん”でしたけど、武器の使い方や戦い方を他の子にも教えられるようになったのは『サオリ姉さんだったから』なんだって、今ならそう思いますねぇ」

 

秤 アツコ「ほら、やっぱりサッちゃんが生徒会長になることをみんな望んでいるよ」

 

錠前 サオリ「今でも踏ん切りがつかない問題だな。ただただ復讐のためだけに【ゲヘナ】や【トリニティ】憎しで相手の事情なんて考えたこともなかったのに、その【ゲヘナ】や【トリニティ】のトップたちの苦悩や苦労を知った今となってはな……」

 

 

秤 アツコ「じゃあ、サッちゃんは先生にキスしてもらいたくないの?」

 

 

錠前 サオリ「は」

 

秤 アツコ「みんなはどう思う?」

 

戒野 ミサキ「まあ、キスとはいかなくても、これまで頑張ってきたリーダーがあんなふうに表彰される機会はあってもいいかなって思う」

 

槌永 ヒヨリ「私もサオリ姉さんには幸せになって欲しいですから」エヘヘ・・・

 

錠前 サオリ「お前たち……」

 

 

棗 イロハ「それでは、次の余興です。【アリウススクワッド】秤 アツコさん、あなたの番ですよ」

 

 

秤 アツコ「あ、私の番だ。行ってくるね」

 

錠前 サオリ「ああ」

 

錠前 サオリ「姫が歌うのか。本当に何も知らなかったんだな、私は」

 

槌永 ヒヨリ「でも、サオリ姉さんの威厳のおかげで、私たちは希望や幸福を望む者には厳罰を下す【アリウス】でも趣味と言えるものを持つことができていました」

 

戒野 ミサキ「だから、リーダーには 私たちを守るために犠牲にしてきた いろんなことを知る機会を先生の許で取り戻していって欲しい」

 

 

棗 イロハ「ええと、【トリニティ総合学園】が創設される前に統合に反対して歴史の闇に葬られたという【アリウス学園】の生徒だと聞いていますが?」

 

秤 アツコ「うん、それは本当」

 

秤 アツコ「今日はね、音楽フェスティバル2日目に出るはずだったんだけど、ライブ会場を隕石怪獣:ガラモンを送り込んできた悪の侵略宇宙人のUFOに爆破されちゃったから、先生が代わりにこのパーティーで歌うようにって」

 

棗 イロハ「そうでしたか。それは災難でしたね」

 

棗 イロハ「では、音楽フェスティバルのリベンジということで歌う曲を教えてください」

 

秤 アツコ「これはね、親代わりだったお義姉さんから教えてもらった歌で、キヴォトスの外で流行っていた歌なんだって」

 

秤 アツコ「だから、この歌について詳しい人がいたら教えて欲しい」

 

棗 イロハ「なるほど。思い出のメロディーというやつですね」

 

秤 アツコ「歌だけ教えてもらっていたから普段は歌だけなんだけど、今回は先生の伴奏つきでお願いします」

 

棗 イロハ「わかりました。では、先生、準備はいいですか。お願いします」

 

北条先生「はい。それではお聞きください。アカペラ版は特設サイトに上げていますので、情報提供をお願いします」

 


 

 

君だけを守りたい(仮称)

 

 

誰よりも 何よりも 君だけを守りたい

 

いつまでも どこまでも 君だけを守りたい

 

 

ラララララ…… 君だけを守りたい

 

ラララララ…… 君だけを守りたい

 

 

愛しい人の胸に 誰もが帰っていくよ

 

懐かしく暖かい 光に包まれながら……いつか

 

 


 

その歌声は透き通るように優しいピアノの音色と共にホールに響き渡る――――――。

 

キヴォトスの外で流行っていた歌ということで地球人:北条 アキラにも訊いてみたのだが、結局は手掛かりがなく、こうして歌い手である秤 アツコの声質に合った伴奏を提供するぐらいしかできなかった。

 

ただ、そのキヴォトスの外の歌はどう聞いてもキヴォトスで流行っているJ-POPより少し古臭い歌い方であり、そこまで年代が掛け離れているわけではなさそうだった。

 

こうして音楽フェスティバル後夜祭の一日は終わり、秤 アツコが北条 アキラの伴奏で歌い上げた『君だけを守りたい(仮称)』は 誰でも口遊むことができる ゆっくりとした曲調で シンプルに想いを伝えられる歌としてジワジワと口コミでキヴォトスでも流行していくことになるのである。

 

しかし、その翌朝、ホテルで眠りに就いていた時に新たな怪獣災害が起きたのである――――――。

 

 

プルルルル・・・

 

北条先生「どうしました、銀鏡さん? 怪獣災害ですか?」ガチャ

 

北条先生「――――――なに、『光のピラミッドが現れた』ぁ!?」ガバッ

 

北条先生「……それが50m級なら怪獣カプセルの可能性がある。ひとまず近辺に【キヴォトス防衛軍】の迅速な展開をお願いします」ピッ

 

北条先生「…………百合園さんの予言通りか」

 

 

百合園 セイア『現れた2体の怪獣は“大地を揺るがす怪獣”ゴルザと“空を切り裂く怪獣”メルバと言った。憶えている限りだと、ゴルザはクレッセントのような感じで、メルバはギコギラーのような外見だった』

 

 

錠前 サオリ「先生!」

 

北条先生「食事や身支度を終えたら、光のピラミッドに急行する」

 

錠前 サオリ「わかった」

 

北条先生「焦る必要はない。こういう時は落ち着いて対処するのが基本だ」

 

北条先生「調月さんも衛星から監視している。まずは戦力の集結を優先だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰よりも 何よりも 君だけを守りたい

 

いつまでも どこまでも 君だけを守りたい

 

Wow Wow Wow 叫ぼう 世界は終わらない

 

 

ロボット職員「…………アツコ」

 

ロボット職員「ああ、世界は終わらない。終わらせない」

 

ロボット職員「彼女と約束したんだ。彼女だけじゃない。そのために僕は――――――」

 

ロボット職員「先生、僕は 16年間 待ち望んでいました」

 

 

――――――ただの人間でしかない僕じゃなくて、あなたがキヴォトスを闇から救う光であることを。

 

 

*1
マタイによる福音書(25:1-13) 十人の乙女のたとえ

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