Blue Archive -Document GUYS feat.LXXX- 作:LN58
――――――もし世界がピンチになったら、あなたがウルトラマンになって助けに来てくれる?
世界が闇に覆われた時、人類の希望だったウルトラマンが石となって海に沈んだ時、大人たちが絶望に暮れた時、僕は、幼い頃の僕は、希望を持ち続けた子供たちの一人だった僕はあきらめなかった。
あきらめなかった時、僕たちは輝いて“光”となって“世界”となって“一つ”となって、みんなが“ウルトラマンティガ”となって闇に覆われた地球に青空を取り戻すことができた。
それから8年後*1、人類が宇宙へと進出を果たしたネオフロンティア時代、僕たちは再び“光”となった――――――。
「ダイナが、負けた……」
「俺たち、このまま死ぬのか……」
「人間の敵う相手じゃない……」
目隠れの女の子「………………」ガタガタ・・・
奇跡の少年「……大丈夫だから」ギュッ
目隠れの女の子「……怖い。怖いよぉ」ガタガタ・・・
奇跡の少年「……大丈夫! 怖くなんかない! 僕が側にいるから!」
奇跡の少年「それに、もしものことがあったら、僕が“ティガ”になって守ってあげるから」
目隠れの女の子「――――――『ティガ』?」
奇跡の少年「そうだよ。前にもこんなことがあった」
奇跡の少年「人類の希望であるウルトラマンが負けて世界が闇に覆われて世界中の大人があきらめた時、僕たち子供があきらめなかったから、僕たちが“ウルトラマン”になって最凶の怪獣をやっつけることができたんだ!」
奇跡の少年「だから、僕はあきらめない! きっと、今にみんなが立ち上がって もう一度 奇跡を起こすんだ!」
目隠れの女の子「――――――『奇跡』」
少年は8年前に“光”となって“世界”となって“一つ”となって“ウルトラマンティガ”になった時のことを今も憶え続けていた。
そして、あの日から何度もまた“ティガ”になろうと自分と同じく“一つ”となった子供たちを探して“世界”と向き合い続けてきた。
けれども、ウルトラマンが取り戻した平和だった歳月が皮肉にも 一生に一度の奇跡だった ウルトラマンになれたことの感動さえも風化させ、少年と同じく“光”になった子供たちの輝きが平凡な生活の中で失われていくことで、今も“光”を追い求めていた少年は孤独になっていった。
それでも、少年はあの日“ウルトラマンティガ”になった時のことを忘れるわけにはいかなかったのだ。
――――――なぜなら、“光”となる時、少年は変わった天使の輪っかをした年上の女の子と誓いを交わしていたからだ。
あの時、弱虫だった幼い自分の手を引いて“光”へと導いてくれた年上の女の子の幻影を追い続けた少年は、宇宙時代を迎えて再開した怪獣災害の中で――――――、
逃げ惑う人々の中、自分も家族と離れ離れになって不安でいっぱいになっていた時、親とはぐれて一人泣きじゃくる目隠れの女の子の手を取っていた。
そのことが8年前のことを強く意識させることになった。あの時、僕の手を引いて“光”に導いてくれた年上の女の子は今の僕と同じくらいで、泣きじゃくる女の子も僕と同じぐらいの年齢に見えた――――――。
だからこそ、少年は今か今かと待ち続けていた。もう一度“光”となって“ウルトラマンティガ”になれる瞬間が来ることを。
けれども、いくら待っていても人々は立ち上がろうとしない。この避難所だけじゃない。世界中から一斉に“光”が集まって“一つ”になろうとする流れが何も感じられないのだ。
どうして何も起きる気配がないのか、幼い女の子を勇気づけながらも内心では相当に焦っていた少年だったが、もしかしたら今回の怪獣災害が世界を闇に覆うほどでもない
「昔、僕のお兄ちゃんは“光”になったんだ」
「そして、“ティガ”と一緒に悪い怪獣をやっつけたんだ」
「お兄ちゃんが言ったんだ! 僕もきっとなれるって!」
「最後まであきらめなければ、みんなが“光”になれるって!」
――――――私もなれるかな? 私も“光”になれるかな?
そうか、『
そして、避難所に押し込められて俯いていた人々が顔を上げて『まだきっとできることがあるはず』だと言われて希望が満ち始める。
そこから続々と少年にとっては見知った顔の少年少女たちがついに立ち上がり、“光”が集まっていっていることを強く感じ始め、再び“一つ”となっていくことを告げる鼓動が鳴り響いた。
「私も。私も“光”となって戦えた。“ティガ”と一緒に」
「思い出した。あれは夢じゃなかった」
「私も“光”に!」
「がんばれ、ウルトラマン!」
――――――立って! もう一度 立って! ウルトラマン!
奇跡の少年「キタキタキタキタ……!」
目隠れの女の子「え?」
奇跡の少年「さあ、立って! 奇跡が今! 始まるよ!」
目隠れの女の子「あ」
奇跡の少年「行くぞおおお!」
――――――人は“光”になれる。
それから再び“光”となれた少年はひとりぼっちになっていた女の子の許を何度も訪れ、ウルトラマンの何たるかを熱く語って励まし続けていた。
目隠れの女の子の方も親とはぐれて一人泣きじゃくっていたところを強く握りしめてくれた少年のことを嫌ってはおらず、何度も顔を見に来てくれた少年に対して幼心に特別な感情を抱くのは自然な流れであった。
一方で、それはまた何年かすれば“一つ”になった時の感動をみんな忘れてしまうことに少年が危機感を覚えて、決して忘れることのない生きた証を女の子の身体に刻みつけるかのようであった。
――――――実は、少年は この頃 人生で初めての告白を受けていた。だからである。
相手は自分と同じく幼い頃に“光”になっていた同級生であったが、あの時にもう一度“光”になることがなかった一人であった。
それが再び“ティガ”が現れたことを知り、そのことが思春期になって特別な繋がりを強く意識するようになったきっかけとなって、いつまでも幼い頃の感動を忘れないでいた少年の純情にホッとするものを感じて“一つ”になろうとしていた。
しかし、あの日あの時あの場所で名前も知らない変な形の天使の輪っかをした年上の女の子から“光”を受け取っていた少年はあまりにも純情であり過ぎたのだ――――――。
とてもじゃないが、許せなかった。受け容れられなかった。あの時“一つ”になれた人たちの中にその同級生の女の子がいなかった事実がとてつもない裏切りに感じられたのだ。
なので、少年はその同級生の女の子に対しては、“一つ”になった時の感動の記憶が薄らいでいたとしても『かけがえのないものを共有していた』という一点において 特別な仲間意識を持ち続けていても、それ以上の興味の対象には成り得なかった。
だから、相手が別の意味で“一つ”になろうと邪な感情を抱いて迫ってきたことで、少年が抱いていた“世界”が穢されそうになって、少年は弱虫だった幼い頃のように絶叫して その場から全速力で逃げ出していたのだ。
結果、女に恥をかかせたということで、その同級生の女の子が抱いていた それまでの愛情が裏返って憎悪となり、学校で次々と悪い噂を流されて少年は孤立するようになり、少年に残されたものは“光”しかなくなっていたのだ。
そうして傷ついた心とひとりぼっちの心が互いを呼び合うように“光”が導いた深い結び付きを創り上げていたのである――――――。
奇跡の少年「あ、そんなことをしちゃいけないよ!」
奇跡の少年「どうしたんだい? 他の子を泣かせるだなんて……」
目隠れの女の子「だ、だって、悪いのはあっちだよ……!?」
奇跡の少年「ダメダメダメダメ。そんなのはウルトラマンがすることじゃない」
奇跡の少年「弱虫だった僕はウルトラマンになって“勇気”をもらった」
奇跡の少年「きみは最初から“勇気”も“正義”もあるけれど、こう、もっと“愛”が必要だよ」
目隠れの女の子「で、でも、私、悪くないもん……」ムスー
奇跡の少年「…………どうしたものか、これは」
奇跡の少年「あ、そうだ。周りの子がきみのことを怖がるのはそんな顔をしているせいなんだから、笑って笑って。笑顔の練習をしよう」
目隠れの女の子「………………」プイッ
奇跡の少年「えっと……」
奇跡の少年「スマイルスマイル~!」ニコーーーーーー!
目隠れの女の子「――――――ッ」プッ
目隠れの女の子「な、何それ? お、おかしい……」クフフ・・・
奇跡の少年「あ、今のいいな。可愛かったよ」
目隠れの女の子「へ」ドキッ
奇跡の少年「可愛い! 本当に可愛い!」
目隠れの女の子「えと……」
奇跡の少年「はい、もう一度!」
目隠れの女の子「こ、こう……?」ニコー
奇跡の少年「そうそう! それそれ!」
奇跡の少年「スマイルスマイル~!」ニッコリ
目隠れの女の子「――――――」ニコッ
奇跡の少年「うわああああああ! 最高に可愛い!」
目隠れの女の子「も、もう褒め過ぎだよ……!」ドキドキ
奇跡の少年「よし! その笑顔さえあれば、今度こそいけるよ!」
目隠れの女の子「う、うん……」
奇跡の少年「みんな~! 見てみて~!」
目隠れの女の子「………………」ドクン!
奇跡の少年「せ~の!」
――――――スマイルスマイル~!
それから目隠れの女の子はひとりぼっちじゃなくなった――――――。
元々、同じ年齢の子たちとは比べ物にならないほどの頭の良さを持っており、名門小学校のお受験生の子だったとしか思えないほどの――――――、いや、それ以上の天才ぶりを発揮していたのだ。
なので、人との効率的な付き合い方を覚えてコツを掴むと、たちまちのうちに可愛い笑顔を振りまいて相手を言い包めていく魔性ぶりを発揮し、明るく朗らかな人懐っこい性格を見せるようになっていったのだ。
それどころか、その知能の高さは大きく歳の離れた少年の学校の宿題を解説を一度読めばスラスラ解けるほどであり、パターンさえ掴んでしまえば推理漫画で真犯人を探偵が推理を披露する前に特定することができ、まさしく正真正銘の天才であったのだ。
それぐらい学べば学ぶほど人の心を容易く弄ぶことができる化け物が生まれてしまう予感がしてきた少年に対してのみ、目隠れの女の子は年相応の可愛らしい幼い女の子として抱っこやおんぶをせがんで年上の男の子に甘えに甘えまくってきたのである。
それは少年にとっては拒むことができない甘美な至福の時間であり、同じ“光”を抱いていた仲間だと思っていた同級生の女の子は“
もう苦しくて苦しくて苦しくて、誰もわかってくれないのが苦しくて、現実を生きていくのが苦しくて、凡俗に塗れて生きていくのが苦しくて、少年は目隠れの女の子がいる施設をいつものように後にすると、そう遠くない場所にあるベンチでへたり込んでずっと涙を流していた。
そんなことを繰り返していたら、ついに笑顔を武器に変えて自分の居場所を創り上げてしまった目隠れの女の子が目の前に立って笑っていたのだ。
そして――――――。
――――――スマイルスマイル~!
目隠れの女の子「笑ってください。あなたが教えてくれた笑顔で」ニッコリ
奇跡の少年「無理だよ、もう。僕は疲れたよ。学校では誰も僕の味方をしてくれない」
奇跡の少年「でも、僕が“ウルトラマン”なんだ。僕以外の誰に頼ることができるんだ……」
奇跡の少年「それでも、僕は生き続けないとダメなんだ。僕が死んだら次に怪獣が現れた時に“ウルトラマン”になれたことを憶えている人たちはみんないなくなっている――――――」
奇跡の少年「でも! でも! でも! こんな気持ちを抱いたまま、僕は誰かのために“ウルトラマン”として戦えるのかな!? 誰かを救いたいとも思わない! 嫌な奴らなんて、みんな怪獣にやられてしまえばいいとすら思っている!」
奇跡の少年「……こんなの、辛いよ! 湧き上がるほどに相手をグチャメチャにしたくなる怖い自分を抑えつけるために! それじゃダメだって何も感じないように学校では死体のように過ごすようになった今が!」
奇跡の少年「だから、もう笑えない。貼り付けたような笑顔しか作れなくなってきているよ、最近は」
奇跡の少年「まあ、頭の良いきみのことだから、とっくに見抜いているよね。だから、僕の前に姿を現した――――――」
目隠れの女の子「わかりました」
――――――あげます。ぜんぶあげます。
奇跡の少年「は」
目隠れの女の子「今のあなたは幸せの栄養が足りない時だから、何度でも何度でも、あなたが教えてくれた“愛”をあげます」
目隠れの女の子「私の代わり映えのない日々を今へと彩った笑顔を与えてくれたあなたに“愛”をあげます」
目隠れの女の子「幸せは透明で見えない時もあるから、こうやって優しさをギュッとして“愛”をあげます」
奇跡の少年「………………」
目隠れの女の子「あの時のように手を強く握ってください。あの時の“光”のように温かくて大きな手で私を包みこんでください」
――――――そうしたら、私はあなたに“夢”をあげます。これから
少年の目にはもう“光”しか視えなかった。自分より一回りも年下の目隠れの女の子の“愛”に包み返されて、ずっと追いかけていた年上の女の子の幻影に抱きしめられて満ち足りた“夢”に陥っていた。
だから、“夢”を掴んだ少年はもう負けることはなかった。生きながらにして“ウルトラマン”と自己を同一視するようになった少年の自己陶酔は“光”の輝きを常に放っていたのだ。
故に、弱虫だった幼い頃と同じように 絶望に打ちのめされた自分を変えてくれた 崇高なる“光”を裏切った者たちには二度と負けなかったのだ。
もう遅い。今更、謝ってきたところで、“光”の輝きを失った者たちはもう浮き上がることはない。自分からかけがえのない人生を“闇”に沈めていったのだ。
そうして、闇に屈することなく悪が滅んだことを嬉々として目隠れの女の子に報告すると――――――。
目隠れの女の子「めっ」
奇跡の少年「え」
目隠れの女の子「ダメですよ、ダメダメダメダメ。そんなのはウルトラマンがすることじゃないです」
目隠れの女の子「今のあなたには“勇気”と“正義”が漲っていたとしても、ウルトラマンならもっともっと“愛”が必要なんです」
奇跡の少年「…………そうだった」
目隠れの女の子「ですので、今からみんなの笑顔を取り戻してください」
奇跡の少年「うん。わかったよ」
目隠れの女の子「そういうわけですので!」
目隠れの女の子「せーの!」
――――――スマイルスマイル~!
目隠れの女の子「はい、新しい世界が動きました~!」
奇跡の少年「ありがとう、ありがとう……」
目隠れの女の子「だから、今も同じ気持ちを重ねることができたら、もう悲しみなんてないですよね?」ジワ・・・
奇跡の少年「?」
奇跡の少年「……あ!」
目隠れの女の子「お別れの時が来ちゃったみたいです」ポタポタ・・・
――――――目隠れの女の子の頭上に変な天使の輪っかが見えたと思ったら、自分と同じぐらいの年頃の女子生徒の姿となっており、光に包まれて今にもどこかへと消えてしまいそうな気配がしていた!
奇跡の少年「その頭の輪っか――――――!?」
目隠れの女子生徒「だから、この絆を、私たちとの思い出、過ごしてきたその全ての日々を、どうか憶えていてください」
目隠れの女子生徒「大切なものは決して消えることはありません」
目隠れの女子生徒「だから、いつでも“光”の中を歩いて帰りましょう、“先生”」
――――――私たちの全ての“愛”が在る場所へ。
奇跡の少年「ああ、今の君の愛と僕の勇気がきっとみんなを守る“夢”は叶えられるから!」
奇跡の少年「だから、ずっと僕は、僕は、僕は――――――!」ガバッ
目隠れの女子生徒「うん! うん!」ギュッ
奇跡の少年「あ、言葉が出ない……、こんな時に…………」フゴフゴ・・・
目隠れの女子生徒「うん。じゃあ、最後に訊かせて」
――――――もし世界がピンチになったら、あなたがウルトラマンになって助けに来てくれる?
夜空を駆ける流星が瞳に浮かんだ月夜、少年はこれからも思い返すことになるだろう。そう願い続けてきたように、“ウルトラマン”で在り続ける永遠の約束を絆に刻みつけたのだ。
だから、ウルトラマンダイナとして世界を救って消息を絶った伝説の英雄:アスカ・シンと同じようにネオフロンティア時代の人類の未来をいつかまた“ウルトラマン”となって守るべく、特捜チーム【スーパーGUTS】への入隊を志して、その訓練生として意気揚々と宇宙に繰り出していた。
一方で、少年は闇に堕ちたかつて“一つ”だった者たちに手を差し伸べることを続けており、自分のことを貶めて“光”を穢そうとしてきて死にたくなるまでに追いやった憎むべき“闇”とも言える相手とも和解を果たしていた。
それで もう一度 告白をされるものの、自分が“光”で居続けることができたのは克服すべき“闇”がいたからであり、この場では罪を許すことにはしたが、傷が癒えたわけではないことを少年が正直に伝えると、本当に大切なものが何なのかを平和な日常の中で見失っていた者たちは深い後悔と共に教訓を得ることになったのである。
これでいい。一度は“光”になった感動の記憶をあらためて強く刻みつけることができたのなら、“光”になることすらできなかった圧倒的多数の人類よりも何歩も先に前進した存在になることができるのだから。
なので、これから宇宙に旅立つ少年はそうした“光”だった者たちの手を強く握りしめて、自分が今も強く宿し続けている“光”の温かさを刻み込ませると、地球の平和を一人一人の中に宿る“光”に託して母なる星を後にしたのであった。
――――――そう、それは“光”を受け継ぐ者たちが宇宙中に広まることを願って。
その頃、テラフォーミングが進んだ火星以外の惑星にも人類は順調に進出を果たしており、更なる人類の進出や発展を阻むように現れる宇宙怪獣や侵略宇宙人との戦いに太陽系にいくつもの支部を置くようになった【スーパーGUTS】が対応するようになっていた。
そのため、かつて“光”となって“ウルトラマン”に二度もなった体験をいつまでも忘れることのない少年は活躍の機会をずっと子供のような心で思い描きながら、テラフォーミングが進んだ火星で訓練の日々を送っていた。
どうやら、ネオフロンティア時代が次の段階に進んだこともあり、太陽系に各支部を置くほどまでになった特捜チーム【スーパーGUTS】の膨れ上がった組織体制を整理するべく、地球本国では【ネオスーパーGUTS】を設立し、従来の【スーパーGUTS】は本格的に火星防衛担当として人員拡充に努めていた時期のようだった。
ここはいい。ウルトラマンダイナと共に世界を救った【スーパーGUTS】の隊員たちが未だに現役で、少年が女の子と手を握って再び“ティガ”になることができたクリオモス島事件のことを誰も忘れてはいないのだから。*2
そこで今も人類のために現役で戦い続けている英雄たち【スーパーGUTS】の諸先輩たちのありがたい教えを受け、ウルトラマンダイナの正体である伝説の英雄:アスカ・シンのひととなりを聞くことができ、自分なりに“人”であること、“光”であること、“闇”であることのちがいを深く考えることになった。
思い出話の中で語られた伝説の英雄:アスカ・シンには聖人君子といった要素はまったくなく、血気盛んなお調子者のとても勇敢な防衛チームの若者といった印象しかなく、一方で正体を隠し続けていたのも『そんな自分がどうして“ウルトラマン”なのか?』と当人なりに思い悩んでいたからだと聞かされて腑に落ちるものがあった。
そう、それこそ、少年の青春時代である地球での日々で目の当たりしてきた、“光”から“人”へ、“人”から“闇”へと堕ちていった者たちのように、どれだけ素晴らしい素質を持っていたとしても いくらでも素質を腐らせることができる一方で、どれだけ素晴らしい能力があったとしても素質がなかったら 危急存亡の秋に“ウルトラマン”になることすらできなかった人間が大多数だったことを実体験から学んでいたのだ。
しかし、クリオモス島事件の最終局面で再び子供たちが“光”になった時、一緒にいた大人たちもまた“光”になることができたことも実体験していることから、その素質は体験を通して広めていくことができるという確信があり、自分の力の正体に思い悩みながらも本当に大切なもののために戦い抜いた
事実、ウルトラマンだって正体が“人”だとわかった以上、心のない兵器ではないのだから、日常生活のイライラからヘソを曲げられたら世界の滅亡に歯止めをかけることがいずれできなくなる時が来るので、やっぱり人間関係は日頃から大切にするべきだとしみじみ思ったのだ。
また、素質がなくても戦うべき時に勇敢に戦うことも大切なのだと【スーパーGUTS】の隊員たちの今も衰えることのない熱意に心を打たれることになり、ウルトラマンがいなくても自分たちで戦えるように準備しておくことを決して無駄なことだと思わなくなったのも大きい。
少年はこれまでずっと“光”しか見ていなかっただけに、ウルトラマンさえいれば防衛チームはおまけに過ぎないと軽く考えていたが、防衛チームが立派に機能していることで社会の秩序が維持されているのだと理解することにもなった。
一方で、『ウルトラマンダイナが“人”であった以上、それ以前に地球で人類のために戦ったウルトラマンティガの正体もまた“人”だったのではないか?』という憶測が自然と成り立つわけなのだが、こちらの方は未だに最重要機密事項となっており、少年としてはいずれは自分自身が“ティガ”になる時がくると信じていたので 興味はあったものの すぐに忘れることになった。
そんな中で火星における第一世代の
そのため、将来的に火星防衛を主任務とする【スーパーGUTSマーズ】への組織改編が予定されていることから、いずれは“ティガ”になって人類のために戦うことを幼心に思い描いて火星に来た少年の思いとは裏腹に、組織拡充のための将来の柱として戦闘員としてよりも教官や広報官として欲しがられる人材となっていたのである。
事実、そこにはTPC警務局隊員、訓練学校ZEROの教官、スーパーGUTS隊長を歴任しているヒビキ・ゴウスケからの推薦もあり、少年が何の目的でスターチャイルドのことを熱心に観察しているのかを地球での経歴や人間関係から見抜いている節があり、誰もが真っ先に聴きたがる伝説の英雄:アスカ・シンの思い出話を聞かせた時の反応が明らかに他とちがったことも隊員たちの目を引いていたようだった。
そして、ついに火星のスターチャイルドの中にとんでもない素質を持った
だからなのだろう、地球本国では後継組織【ネオスーパーGUTS】が発足することが人類圏全体に共有されて各惑星の【スーパーGUTS】の支部の組織改編が進む中、前身となる【GUTS】の隊長だったという情報部の偉い人の許に招かれることになり、『地球本国の【ネオスーパーGUTS】への転属について考えてみないか?』と打診されたのであった。
訓練生に過ぎない自分が何の功績もなく地球本国に出戻りになることに意味がわからない様子でいると、入念な人払いと盗聴防止の処置をした上でこれから話す内容について守秘義務を課して、人類にとっては忌まわしい言葉と共に衝撃的な事実を告げられることとなる。
これは栄転などではない。将来的にTPC総監に就任して地球本国に帰還することになっているスーパーGUTS隊長:ヒビキ・ゴウスケの下の新体制で人類平和を保つために暗闘する特務機関への誘いであったのだ――――――。
奇跡の少年「――――――『F計画』?」
奇跡の少年「――――――『人造ウルトラマン計画』!?」
奇跡の少年「――――――『人類がウルトラマンそのものを製造し、人類が自在に扱える『防衛兵器』としてそれを保有する』だなんてこと、無理に決まってますよ!」
奇跡の少年「…………え? いや、だって、未だにウルトラマンを模したロボット兵器なんて造ろうともしていないじゃないですか! 防衛戦力もガッツイーグルで十分ですよ!」
奇跡の少年「…………『惑星一つにウルトラマンという防衛兵器を保有させる』という魅力的な提案の下に、非人道的な研究が秘密裏に進められているというのですか?」
――――――そのために『かつて“ティガ”となった子供たち、その家族や友人たちの拉致事件が地球で起きている』だと!?
奇跡の少年「く、くぅうううううううううううううううう! うああああああああああああああ!」
奇跡の少年「ゆ、許せるものか! 地球が闇に覆われて、人類の希望であるウルトラマンが石に変えられて、大人たちがみんなあきらめた時、世界中の子供たちが希望をあきらめずに一斉に立ち上がって“光”になった あの時の奇跡を穢されてなるものか!」
奇跡の少年「だったら、あんたたち大人も一緒に“光”になればすむ話でしょうが!?」
奇跡の少年「僕はそのために火星に来た! 地球のことをかつて“一つ”になったことを思い出してくれた人たちに託して!」
奇跡の少年「……ということは、この提案は 転属命令として もう決定事項なんですね」
奇跡の少年「わかりました。他ならぬヒビキ隊長のたっての願いなら、僕も“
奇跡の少年「訓練生を卒業したら、地球本国の情報部の配属になるわけですね。火星での日々がこんなにも短いものになるだなんて、子供たちには悪いことをしたな……」
奇跡の少年「まあ、『F計画』を追跡する過程やスターチャイルドの調査で宇宙中を飛び回ることになるのは確定みたいですから、その辺は不満はないですけどね」
奇跡の少年「結局、僕は学生時代と変わらず、“光”で在り続けるために“人”の中の“闇”と戦い続ける運命にあるのか……」
――――――その後、特務機関に
ドッゴーーーーーーーン!
コツコツコツ・・・・・・
ガラッ・・・
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ・・・・・・
コーイチ先生?「」 ――――――生命維持管理装置に繋がれている
シロコ*テラー「先生……、先生……、先生……」ウウッ
シロコ*テラー「さようなら、先生……」ジャキ!
バン! バン!
ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
七神 リン「――――――話を整理すると、ガリバーさんは西暦2020年代のネオフロンティア時代の地球から“GUTSウイングで”未来世界に一度来て、16年前の過去に“今の機械の身体で”再び時空を超えたというわけなんですね?」
調月 リオ「ええ。未来の私たちが過去の私たちに宛てた記録データが全て真実ならばね」
明星 ヒマリ「そうでもなければ、この“天才清楚系病弱美少女ハッカー”明星 ヒマリでも対怪獣兵器:GUTSファルコンの開発設計なんて早々にできませんよ」
明星 ヒマリ「元となるGUTSウイングは言うなれば“航宙機”なんですから。キヴォトスでも類を見ないものを実機からデータ解析しても『キヴォトスの航空技術では開発ができない』という結論になっていました」
明星 ヒマリ「ですから、デチューンした遠隔操縦の無人機にして“全知”の称号を持つ私が専属操縦士になって、Xデーに向けて開発と習熟ができるようにと、16年前という時期に“
七神 リン「……正直に言って、複雑な気持ちですね」
七神 リン「今の私たちがこうして北条先生の指導の下で数々の対怪獣兵器を揃えて万全の防衛体制を整えることができた前提条件に、破滅を迎えた未来世界の“シャーレの先生”だったガリバーさんの過去への介入が必要不可欠だったというのが真相なんです」
七神 リン「時空を超えるためにヒトとしての肉体を捨てることになった上に世界の破滅を防ぐことができなかったことは先生と同じ防衛チームの隊員として無念でならないでしょうね」
七神 リン「でも、バム星人の侵略兵器を転用した対怪獣兵器:機龍丸がワンオフ機として四次元移動能力を駆使して各方面を立ち回らなくちゃならないのはしかたがないとして、」
七神 リン「せめて、GUTSファルコン並みとは言いませんが、数を揃えてもらわないと」
明星 ヒマリ「それができたら、ここまで苦労していませんよ!」
調月 リオ「GUTSファルコンが優れているのは可変戦闘機ドローンという点であり、攻撃力に関しては隕石怪獣の装甲材であるチルソナイトを削った徹甲弾ありきのもの――――――」
明星 ヒマリ「ですから、元が非武装の偵察機という話なのに対怪獣用高性能小型高速戦闘機に改造されたオリジナルの1号機の火力には到底敵わないのが現状なんです」
明星 ヒマリ「見てくださいよ、オリジナルの1号機を宇宙仕様にした訓練機だとしても基本設計はほとんど一緒で、ビーム砲、ナパーム弾、ミサイル、ブラスター、アルミジャマー、高周波ジェネレーター、消火弾、狭角ミサイル、水中機雷、三連装空対地機関砲ポッド、レーザー、液体窒素ビーム、液体窒素弾、スーパーウェーブ透視装置、探照灯、牽引ワイヤー、中和弾、徹甲弾とかとかとかとか、武装の選択肢がこんなにもあるんですよ!?」
調月 リオ「特に、怪獣と戦ってきた地球の防衛兵器だと標準装備になるのが既定路線になっているのか、戦闘機に改造された機体にビーム砲が標準でついている時点で攻撃性能が別次元よ」
調月 リオ「だから、光学兵器は未来の私たちでもついに開発することができなかったものとして、私たちが物心がつく前から【ミレニアム】で研究を引き継ぐように16年前の過去に送り込んだようね」
七神 リン「それで光学兵器の搭載は可能なのですか?」
調月 リオ「それについては、すでに2つの案が実施済みよ」
明星 ヒマリ「現状の目標である通信障害が全域で発生しているアビドス遠征での運用や四次元移動能力を使える機龍丸との展開力の差を埋めることも念頭にした初の光学兵器搭載機の運用試験が最終段階に入りました」
明星 ヒマリ「まず、私の方で開発を進めているのが、GUTSファルコンの僚機としてGUTSファルコンの足りないものを補いながら、GUTSファルコンとの合体機構による能力強化を可能とする<GUTSホーク>です」
明星 ヒマリ「搭載する光学兵器は純粋な高出力ビーム兵器として完成されたホークタロンビームとなります」
調月 リオ「私の方からはメーサー砲を応用したハイパワーメーサービームキャノンを搭載した<GUTSガルーダ>になるわ」
調月 リオ「GUTSホークよりも大型になった分、複雑な機構を排除して単体性能を追求したものになるわね」
調月 リオ「運用方法も基本に忠実な高速接近から長距離砲撃して一撃離脱するといったものね」
七神 リン「それでアビドス遠征には参加できますか?」
調月 リオ「GUTSガルーダなら問題ないわ。すでに四次元移動能力のメテオールを搭載して四次元都市:フォーサイトから発進可能。今回のアビドス砂漠に必須の妨害電波対策も完璧よ」
明星 ヒマリ「残念ながらGUTSホークは単機での運用を想定していませんから、GUTSファルコンの妨害電波対策も同時にしておかないといけません」
七神 リン「わかりました。別のウルトラマンが現地で確認されたとは言え、広大なアビドス砂漠での航空機の優位は揺るぎません」
七神 リン「先生の助けになってあげてください、二人共」
調月 リオ「ええ。そのつもりよ」
明星 ヒマリ「言われなくとも、未来の私たちが残してきてしまった宿題なんですから、自分たちの手で解決してみせますよ」
現在、【キヴォトス防衛軍】の中核を担う【ミレニアムサイエンススクール】を牽引している2トップ:調月 リオと明星 ヒマリはロボット職員:マウンテンガリバーを16年前の過去に送り込んできた未来の自分自身が残してきた宿題を解くことに全力を費やしていた。
対怪獣兵器という防衛戦力がなかったばかりにウルトラマンに完全に頼りきりだった未来世界のキヴォトスは結果としてウルトラマンを使い潰すことになり、ウルトラマンが倒されたことで一気に総崩れになって滅亡したとあるため、対怪獣兵器を事前に研究開発できる【ミレニアムサイエンススクール】が誇る天才たちの活躍に希望を託すことになったのだが、
同時に未来の自分自身から託された対怪獣兵器の開発研究のデータ以外にも託されてきたものがあり、それは機械の身体に押し込められることになった“シャーレの先生”への想いであり、
それもまた未来の自分自身が残してきた宿題の1つだと捉えるロマンチストの明星 ヒマリと、未来の自分自身は別人だと客観視するリアリストの調月 リオの意見の対立があった。
過去改変の結果、対怪獣兵器を開発研究する必然性から【ミレニアムサイエンススクール】と深く関わることになり、幼い日の明星 ヒマリと調月 リオとは“
幼い頃から明星 ヒマリは
そこから未来の自分自身から託された使命と想いを受け継ぐことでその差は更に顕著となり、元々が自己主張が激しい“天才清楚系病弱美少女ハッカー”明星 ヒマリと孤高で在り続けた“ビッグシスター”調月 リオとでは自分自身に向けたメッセージの内容も大きな差があることは想像に難くない。
よって、理解のある大人がずっと近くで見守り続けてきたため、明星 ヒマリと調月 リオの関係は“
明星 ヒマリ「いいですか、コーイチさん?」
明星 ヒマリ「あなたの手は“
明星 ヒマリ「これは“
明星 ヒマリ「ですので、これからも私の頭を思う存分に撫でてください。いいですね」
明星 ヒマリ「そして、重要なのはここからですよ」
明星 ヒマリ「コーイチさん、私のことを抱っこしてください。さあ、早く」
明星 ヒマリ「それで、どうして肩アーマーのワイヤーアンカーを使った四脚モードが実装されているのかと言えば――――――、」
明星 ヒマリ「ほら、こうやって広げた両脚の間に
明星 ヒマリ「はい。これでいつでもどこでも“コーイチ先生”のお膝の上に座ったことになるんです。未来の私が“コーイチ先生”のお膝の上に座った時の感触を完全再現しているんですよ、これ。スーツの質感や温かみも完璧に再現してます」
明星 ヒマリ「ほらほら。これでいつでもどこでも私のことを膝の上に乗せて後ろから抱きかかえることも、頭を撫で回すこともできるわけですから、最高の発明でしょう。堪能してくださいよ」
明星 ヒマリ「逆にこうやって、コーイチさんと対面になることもできるんです。こうやってコーイチさんの胸に頬を埋めたり、向き合って抱きしめたりすることができるんですよ」
明星 ヒマリ「――――――『どうして身体の不自由を解消しないのか』ですって?」
明星 ヒマリ「ええ、この身体の治療法についてもデータがありましたが、それでも、私はこのままの身体でいることを自分で選んだんです」
明星 ヒマリ「合理的な理由はいくつもありますよ。安楽椅子美少女である私の役割はGUTSファルコンの遠隔操縦ですから、わざわざ身体の不自由を治してまで得られるものがそこまでないんです。実際に乗って戦うとなると、その訓練や調整のために更に無駄な時間と労力がかかりますからね」
明星 ヒマリ「ですから、これでいいんです。未来の私自身も治療法のデータを残していたのは私自身の治療のためというよりは、同じ症状で身体が不自由な他の子のためですから」
明星 ヒマリ「そして、これは未来の私自身の罪滅ぼしでもあるんです」
明星 ヒマリ「コーイチさん、今の私たちにとってはあなたが体験してきたことは未来のことであっても、あなた自身にとっては決して取り戻すことができない人生の一部なんです」
明星 ヒマリ「私は私の才能が“全知”であることに何の疑いを持っていませんが、その私の才能を持ってしてもキヴォトスの破滅を防ぐことができずに、あなただけに罪の十字架である機械の身体に押し込んで過去を変えるように仕向けることしかできなかったことに腹が立ってしかたがないんです」
明星 ヒマリ「きっと、澄み切った純正のミネラルウォーターのような私とはちがって、浄化槽に浮かぶ腐った水の彼女は嬉々として未来の自分自身が送りつけてきたデータを使って己の利益を最大化することに邁進していることでしょうが、」
明星 ヒマリ「私は世界を救えなかった“
明星 ヒマリ「つまり、ここにいる私は未来の明星 ヒマリと一続きの存在なんですから、戦いの中で“シャーレの先生”が生身の身体を失ってしまったというのに、私だけが安穏と身体の不自由を治療するだなんて恥知らずなことはできないです」
明星 ヒマリ「それが人間の歴史というものでしょう? 文字や記録を通じて時間を超えて想いを繋げることができるのなら、未来の私自身が抱いていた想いもまた過去の私自身に引き継いで、同じ人を愛せるようになれるはずじゃありませんか? 私たちの戦いは時空を超えて今なお続いているのです!」
明星 ヒマリ「そして、もちろん、“
明星 ヒマリ「そのために私と同じようにあなたに好意を持つヒビキやカリンが協力してくれているのですから、本当は嫌なんですけど、過去改変が起きても あなたのことを好きになった2人に報いてあげないといけません。いいえ、もっとたくさんの――――――」
明星 ヒマリ「ただ、急かすつもりはありませんよ。戦いはまだまだこれからですし、何よりも勝たなければ意味がありませんから」
明星 ヒマリ「それに、未来の私自身が想いを託したと言っても、“
明星 ヒマリ「あと、“
明星 ヒマリ「わかりますよ。未来の私自身がずっと“
明星 ヒマリ「むしろ、それぐらい人一倍“光”に真剣に向き合ってきたからこそ、“
明星 ヒマリ「なので、それが“
明星 ヒマリ「ですので、私は、私だけでも“シャーレの先生”だった時のことをずっと憶え続けていますので、“
――――――そのためにも! この“全知”の私への惜しみのない称賛とご褒美をお与えになってください! さあ、今すぐに頭を撫でてください! さあさあ!
――――――先生、僕は先生に1つ大きな嘘を吐いていました。
本当は特捜チーム【スーパーGUTS】、後の【スーパーGUTSマーズ】となる防衛チームの新人隊員なんかじゃなかったんです。
訓練校を卒業したら地球本国の【ネオスーパーGUTS】へ配属になるように特命を受けた情報部の特務機関の人間になる予定だったんです。
けれども、僕はそれでも人間の醜いところを見続けて自分の中の“光”を失いたくなくて、幼い頃のあの時と同じように“ウルトラマン”として宇宙怪獣や侵略宇宙人と戦いたくて、キヴォトスのみんなの前では【スーパーGUTS】の新人隊員だって見栄を張っていたんです、ずっと。
それと比べて、並行世界の地球人:北条 アキラ先生はなんて凄い人なんでしょうか。
宇宙進出までは果たしていない並行世界の地球という話でしたが、ネオフロンティア時代に突入した僕が生まれ育った地球とは正反対に 半世紀に渡る地球の怪獣頻出期を終えて軍縮期に入っても、自分の意志で教師の道に進みながら予備役で戦闘機のテストパイロットを続けているだなんて――――――。
しかも、教師の道に進んだのも人間の負の感情から生まれるマイナスエネルギーを抑止することで平和な時代に怪獣が出現するのを阻止しようとした“ウルトラマン先生”の在り方を継いだ秘密の任務だなんて、かっこよすぎるでしょう。
それでいて、正真正銘の“先生”であると同時に、平和な時代で実戦経験の無い予備役とは思えないほどに【
僕は子供たちとのふれあいには自信がありましたけれど、やっぱり本職には敵いそうにありませんし、怪獣退治に関しても歴史がちがいます。
――――――こうして考えると、僕と先生はよく似ているように思えますね。僕が下位互換の方ですけど。
だから、先生には僕と同じ運命を辿って欲しくはない。滅亡の運命を覆して まだ見ぬ未来を掴み取って欲しい――――――。
先生は本当に優しい人だ。教職員が本職でかつ実務経験を重ねていること以上に、僕は『前回』あそこまで生徒たちに余裕をもって優しく接してあげられたのだろうか――――――。
でも、おかしい。本当なら、機械の身体に“光”を宿して16年前の過去に送り出されたロボット職員:マウンテンガリバーとは別に、GUTSウイングで【廃墟】に不時着して“彼女”と再会する運命にある“コーイチ先生”が現れるはずだったのに、これは根本から運命が変わった証だと喜べばいいのか――――――。
実際、ウルトラマン80に“光”が渡されたと同時に僕の中から失われた怪獣災害の記録だと、本来のXデーは光のピラミッドが現れた日となっているし、実際に出現した怪獣も僕がまったく知らない怪獣ばかりなのだ。
それに対して【
そう、『これは何かがある』と直感が告げている。それも、『決して僕も無関係ではない』そんな気がしていて――――――。
そうだ、僕は絶望の淵で願っていた。叶うのなら、僕より優れた“先生”にキヴォトスを救って欲しいと――――――。
そして、実際にその通りに怪獣退治の専門家である理想の“先生”が並行世界の地球から呼び出されることになり、僕にとっては始まりの場所である【アビドス高等学校】の問題を一番綺麗な形で丸く収めてしまったのだ。
かつてキヴォトス最大の版図を誇った【アビドス高等学校】をたった5人だけで依然として借金返済に追われながら治めていくだなんて本質的な問題の解決になっていないと思いながらも、次々と舞い込んでくる問題の対応のために放置してきたせいで、あんな結末からキヴォトスの滅亡を招いてしまったのだ――――――。
もちろん、キヴォトスで“ティガ”になってすぐに【アビドス】に向かうことになった『前回』とは何もかも前提条件がちがうにしても、【アビドス】の問題の根源にある砂漠化に関してもあっさりと解決の答えを出してしまっているのだから、これはもう“先生”として格がちがいすぎた。
北条先生はスラスラと黒板にこんな化学反応式を書いてみせると、
原料は砂とアルコールと触媒;これらを密閉容器に入れて加熱・冷却し、砂の化学結合を切断・再生することで建材として利用できる硬化体を製造するとのことで、加熱温度は240度程度で、1000度以上が必要な溶融などに比べて低いという利点もあるそうなのだ。触媒も
その製法から月の砂も建材として利用できるため、宇宙開発にも活用されていることを聞いて、ネオフロンティア時代の火星で訓練生をやっていた自分がいかに“光”しか視ていなかったかを大いに反省することになった。知は力であった。
北条先生は最初から生徒に集めさせた砂漠の砂を次から次へと建材にすることで、アビドス砂漠を消滅させる壮大な作戦を立てていたのだ。それを毎週恒例の【ゲヘナ学園】での公開授業で【アビドス対策委員会】の生徒たちに向けて初披露したことでキヴォトス中が再び震撼した。
これにより、アビドス砂漠が怪獣無法地帯になってしまったために停滞を余儀なくされたアビドス遠征は新たな展開を迎えることになり、【カイザーコーポレーション】から【アビドス対策委員会】が問題なく管理できる範囲まで土地を買い戻してスリム化させた新アビドス自治区で二度目のゴールドラッシュが始まったのだ。
一度目のゴールドラッシュは【カイザーコーポレーション】に買い占められていたアビドス自治区全域のハザードマップ作成のためにキヴォトス中の生徒たちに北条先生が協力を呼びかけた人海戦術によって、かつてないほどにアビドス砂漠にキヴォトス中から人がやってきた流れを指し、これによってアビドス遠征の拠点となる【アビドス高等学校】のある新アビドス自治区が発展していく機運が生まれたのである。
最初のゴールドラッシュだけでも砂漠化に呑まれて荒廃の末に消滅を待つしかないと思われた【アビドス】にかつての最盛期を思わせるような活気が溢れることになり、ハザードマップ作成に協力するだけでも十分な日銭と食糧と交通費が支払われる破格の条件に釣られて みんなやってきたのだから、その日暮らしや小遣い稼ぎに来ていた大勢の生徒たちはこのゴールドラッシュが再開されることを今か今かと心待ちにしていたのだ。
結果、ハザードマップ作成事業が再開されるまでの繋ぎとして始められた新アビドス自治区の美化作業で砂集めをすれば引き続き十分な日銭と食糧と交通費がもらえるとなったら、新アビドス自治区にある砂が金に換わるわけなので二度目のゴールドラッシュの始まりというわけである。
そのため、【アビドス高等学校】の本拠地である新アビドス自治区では早速だが砂の奪い合いが勃発し、派手な銃撃戦が繰り広げられることになるのだが、そこからは現地を治めている【アビドス対策委員会】の自治活動であり、生徒会活動として【連邦生徒会】から公認を受けられるように各方面に協力を仰ぎながら、今までとちがった希望に満ちた日々を送れるようになったのである。
こうして見ると、これまで廃校寸前の【アビドス高等学校】をたった5人で守り抜いてきただけあって、【アビドス対策委員会】の生徒たちの実力はキヴォトス全体から見て高水準であり、自分たちの自治区を自分たちで守り切るだけじゃなく、自分たちの存在をキヴォトス中に知らしめる絶好の機会としてノリノリで砂集めという名の美化活動に全力を出していたのだった。
もっとも、過酷な環境で自然と鍛えられて少数精鋭を誇る【アビドス対策委員会】に地の利がある他に、砂集めしても弾薬費は支給しないので無駄な争いをしない方が基本的に得になることが知れ渡ると連合を組んで堅実に砂集めした報酬を山分けする流れへと変わっていくことになったため、少しずつ新アビドス自治区から銃声が砂と共に消えていったのだった――――――。
ロボット職員「まだ防砂壁で囲い切れていないから一時的とは言え、本当に【アビドス】の街並みから砂が消えるだなんて……」
錠前 サオリ「私も驚いている。みんなで力を合わせれば、できないことなんて本当はないんだな……」
秤 アツコ「それだけじゃなく、砂と一緒に銃声も消えていったよね。タダ同然のものがお金に換わるから砂の奪い合いが起きたんだけど、交通費は出しても弾薬費は出さないおかげで、いつの間にか撃ち合いをしなくなったよね」
戦場カメラマン「ああ。とんでもないものを見せられた気分だよ、戦場カメラマンなだけに」
戦場カメラマン「こうやってしっかりと報酬を用意して、武器を使わないことの利点を覚えさせることで、【アビドス】から銃声をなくすことに成功したんだ」
戦場カメラマン「それを実行するためには財力も必要だが、【アビドス対策委員会】が今回の砂集めでしっかりと自分たちの能力と存在感を発揮したことで、自治能力を獲得したことが大きい」
ロボット職員「そこまで考えて、砂の奪い合いを起こさせたわけなんですか?」
戦場カメラマン「――――――結果的にそうなったとしか言えない」
戦場カメラマン「だが、独立自尊のためにあらゆる手段を用いることを約束して、その対策も事前に伝えていたからこそ、アビドス遠征の最大拠点となる新アビドス自治区が【アビドス高等学校】のものであることを内外に知らしめるには絶好の機会であったことにはちがいない」
錠前 サオリ「ああ。彼女たちの精強さは並大抵のものではないからな。ゴールドラッシュで出稼ぎに来た程度の連中では歯が立たない強さなのも相まって地の利も活かして圧倒していた」
秤 アツコ「先生にとっては【アビドス高等学校】が治める新アビドス自治区が【キヴォトス防衛軍】のアビドス遠征の前線拠点というわけだから、『何が何でも【アビドス対策委員会】に満足に自治してもらわないと困る』って言っていたしね」
ロボット職員「――――――僕にそんな選択はできただろうか? こんなふうに自分たちの存在価値を認めさせるために戦う機会を与えるだなんてこと」
戦場カメラマン「普通は無理だな。流れ弾1発で致命傷を負う地球人にはできない発想だ」
戦場カメラマン「だが、それだけ北条先生はキヴォトス人の性質や事情を理解してキヴォトスの問題に果断に取り組むことができているのだろう」
ロボット職員「やっぱり、半世紀に渡って怪獣と戦い続けてきた歴史を持つ地球の生まれにもなると、こんなにも差が生まれるんだな……」
戦場カメラマン「いや、ウルトラマンを圧倒した大怪獣と互角に戦う一般人がいたらしい魔境だぞ。本当に同じ太陽系第三惑星:地球の話なのか、俺も疑っているぐらいだ」
ロボット職員「うん……」
秤 アツコ「でも、これで良かったと思うな、私は。ほら」
錠前 サオリ「ああ。コーイチ、笑顔だ」
ロボット職員「うん、見えるよ、【アビドス】のみんなの心からの笑顔が」
――――――砂集めの報酬で打ち上げパーティーで盛り上がる【アビドス対策委員会】の笑顔が見える。そこには【便利屋68】の面々も居た。
目隠れの女の子『だから、今も同じ気持ちを重ねることができたら、もう悲しみなんてないですよね?』ジワ・・・
ロボット職員「ああ。もう悲しみなんてないよ、あの時の気持ちと何も変わらない」
ロボット職員「たとえ、元の肉体を失ったとしても、人は言葉や文字、記録で想いを繋げることができる」
ロボット職員「ずっと遠回りしてきたけれど、ようやく第一歩を踏めた気がするよ」
ロボット職員「僕は今も昔も“光”として在り続けた。僕こそが“ウルトラマン”なんだ」
――――――だから、今は“
ムニャ……カステラにはぁ……イチゴミルクよりバナナミルクのほうが……。
えへっ……まだたくさんありますよぉ……。
先生……、だっこぉ……。ああ、あったかい……。
――――――もし世界がピンチになったら、あなたがウルトラマンになって助けに来てくれる?