Blue Archive -Document GUYS feat.LXXX- 作:LN58
フランスの数学者:ピエール=シモン・ラプラスは『確率の解析的理論』において次のような主張を行った。
もしも ある瞬間における全ての物質の力学的状態と力を知ることができ――――――、
かつ、もしも それらのデータを解析できるだけの能力の“
この“
近世・近代における学問の発達により、自然界の様々な現象が
しかし、自然現象のメカニズムが知られることにより、それらは確率によって発生が予測できるものへと変貌したことで、
究極的に『原因によって結果は一義的に導かれる』という因果律、『全ての出来事はそれ以前の出来事のみによって決定される』といった決定論の考えを抱く研究者も現れるようになったのである。
その一人が、前述の『因果律に基づいて未来の決定性を論じる時に仮想された超越的存在』を自著で“知性”と呼んだフランスの数学者:ピエール=シモン・ラプラスであり、『あらゆる事象が原因と結果の因果律で結ばれるなら、
提唱者のラプラス自身はこの架空の超越的な存在の概念をただ“知性”と呼んでいたのだが、後にそれをドイツの生理学者:エミール・デュ・ボア=レーモンが“
というのも、一般に“ラプラスの悪魔”と呼ばれるようになった『全てを知っており、未来も予見している』という“知性”をもつ超越的な存在については遙か昔から人類は意識しており、通常それは“神”と呼び、もしくは“全知の神”と形容される存在のことであり、そのような存在については西洋に限らず古今東西の哲学や宗教において考察されてきた歴史がある。
つまり、“ラプラスの悪魔”自体は近代の学問的立場から『“神”とは何か?』を探究したものに過ぎず、西洋の学問の伝統においては、特にキリスト教神学やスコラ学が行っていたため、まったくもって画期的な発見というわけでもなかったのだ。
ドイツの生理学者:エミール・デュ・ボワ=レーモンはそのような西洋の学問の伝統を意識しつつ、“神”という語を宗教者に配慮して“霊”という言葉に置き換えて表現したわけだが、それがいつの間にか“悪魔”となってしまっている点が人類の業の深さと言えよう。
実際、レーモンは『
一方、あくまで古典物理学の時代に提唱された超越的な存在“ラプラスの悪魔”への反論は実に簡単なものである。
何しろ、誰が聞いても全知全能であることがその性質として定義される“神”に等しい“知性”なのだから、“神”の存在証明が未だに果たされないように“ラプラスの悪魔”の存在証明も果たされていない。
更に“ラプラスの悪魔”を宇宙の一部とし、ある種のコンピューターと考えた場合、『未来を予測するには全ての情報をもつコンピューターを必要とし、更ににそのコンピューターの状態を含めて未来を予測するには別のコンピューターを必要とし、更にそれら全てを予測するには別のコンピューターが必要となる』という無限後退を起こす。事実なら、すでに宇宙は“ラプラスの悪魔”で満たされていることになってしまうわけである。
そもそも、“ラプラスの悪魔”は
この『究極的に』という理想条件が現実世界で実在したかを考えれば、いかに現実世界は決定論的力学系に従って生み出される全ての可能性が予測できたとしても 実際に訪れる無数にある中の1つの未来を的中させるには無限の精度の情報が必要とする 決定論的カオスに支配されているかを直感で理解できるだろう。
仮に全ての未来の可能性を予測できる法則を見つけたとしても現実的に未来が予測不可能であることを説明する“カオス理論”に対し、“ラプラスの悪魔”は全ての条件が無限の精度で知られていることを前提としているので初期条件の不確かさは存在しない。
その意味ではこの両者の論は対立しているようにも見えるが、どちらも因果や法則から未来は完璧に予測できるはずだという決定論に基づいていることは学者の論理として見落としてはならないことである。彼らの言い分としては『物理的な証明ができないだけで理屈としては間違っていない』ということになるのだから。
ただ、自然のメカニズムの多くを解き明かした古典物理学の論理で取り扱っていながら物理的な限界を無視して展開された究極論なのだから、どちらも非現実的に思えてしまうのは正しい感覚である。空理空論なのだ。
では、キヴォトスが迎えた破滅の未来を変えるために16年前の過去に機械の身体で送り込まれた存在ならば、これから起こることに備えて全ての状況を意のままに操ることができるのだろうか――――――?
美甘 ネル「いろいろあったけど、先生と会えて楽しかったぜ、本当に」
美甘 ネル「16年前の過去にこれから先生は行くことになるけど、次もあたしと組めよな! 先生のこと、ずっと待っているからよ!」
美甘 ネル「忘れんなよ! “コールサイン:ダブルオー”は『約束された勝利の象徴』なんだ! この戦いはあたしがいれば最後には必ず勝てるんだからな!」ニカッ
早瀬 ユウカ「先生、私のこと、忘れないで……」ポタポタ・・・
早瀬 ユウカ「私、先生のことが好きです。大好きです」
早瀬 ユウカ「初めて会った時から、私……、ううん、今度は生まれた時から先生のことを愛していますから。忘れないでください」
生塩 ノア「さよならは言いませんよ、先生」
生塩 ノア「ただ、今までありがとうございました……」
生塩 ノア「あとのことは、【
神代キヴォトス人「コーイチよ、お主、『前回』は随分と年頃の乙女たちから好かれておったな」
ロボット職員「は」
神代キヴォトス人「なに、我には恋の糸が見えるからな、それを伝えておこうと思ってな」
神代キヴォトス人「お主に結ばれている恋の糸が かなりの数 途中で切れているように見えたが、とんでもない、『前回』深い絆を結んだ生徒たちとの縁が切れていないだけだった。時空を超えているから糸の先が途中から見えなくなっていたのだ」
ロボット職員「え」
神代キヴォトス人「人間の一生は生まれた瞬間に死ぬまでの人生が8割はすでに決まっており、その変えることができないものを“宿命”と言い、残りの2割を人の意志で変えることができるのが“運命”と呼ぶ」
神代キヴォトス人「そして、“天命”とは人生の8割が定められている“宿命”に対して、残りの2割の“運命”でいかに人生を輝かせられるかで計るものである」
神代キヴォトス人「この薬指には恋の糸が1本や2本どころではなく、まとめると親指よりも太い束となって時空の彼方に消えていたから見落としていたが、お主はとんだスケコマシよな」
神代キヴォトス人「――――――“宿命の相手”は限られているが、“運命の相手”は選び放題とはさすがは“光を継ぐ者”と言うべきか」
ロボット職員「い、いや、僕はただ一生懸命に問題解決に取り組んでいただけだし……」
神代キヴォトス人「そうだろう そうだろう。お主には女難の相が出ているから、お主の人生はとかく女性絡みの問題で死ぬほど苦労していただろうよ」
ロボット職員「………………」
神代キヴォトス人「ちなみに、『今回』と『前回』とで結ばれている恋の糸は断然『前回』のが多いから安心したまえ」
ロボット職員「それのどこが安心できるんですか……」
神代キヴォトス人「だが、油断するな」
神代キヴォトス人「因果からは絶対に逃れられん。今のお主が存在するということは『前回』が必要不可欠である以上、時間逆行に至った『前回』が雛形となって高確率で『今回』に因果が反映されることも多々あるからな」
ロボット職員「え」
神代キヴォトス人「つまり、『前回』深い絆を結んだ生徒たちがふとしたきっかけで重なり合って『今回』もお主のことを強く意識するやもしれぬから、思い入れがある生徒なら深く用心するのだぞ」
神代キヴォトス人「そういう内的宇宙をお主は持ち続けていて、それに接する生徒たちにも集合的無意識から影響を与えられるのが“光”が持つ長所にも短所にもなる特性の一つと言うわけだ」
――――――つまり、“光あるところに影あり”ということさ。それで『今回』16年間でキヴォトスが『前回』から様変わりしたのであろう。
その言葉が事実であったと深く実感することになったのはすぐのことだった――――――。
『前回』は地球から火星まで数十分から1時間ほどで移動が出来、わずか数時間で太陽系から飛び出すことさえ可能とするネオマキシマ・オーバードライブ航法でさえも不可能な世界の壁を超える――――――、
GUTSウイングの飛行訓練の最中にいきなり火星から謎の超巨大学園都市:キヴォトスへとワープしたことで【廃墟】に不時着することになり、
再び目を覚ますまで“連邦生徒会長”と青く透き通った夢の世界で
【シャーレ・オフィス】奪還作戦の日に首都:D.U.の高級ホテルの一室で残り香に包まれて目覚めると、夢のお告げに従って【連邦生徒会】へと向かい、そこから“シャーレの先生”としての日々が始まることになった――――――。
けれども、“連邦生徒会長”との約束で“シャーレの先生”になった僕だったけど、あの頃の僕はヒーロー願望しか持っていなかった実戦経験無しの口だけは達者な訓練生でしかなく、
人類の宇宙進出が著しいネオフロンティア時代とは何もかもが違いすぎる学園都市:キヴォトスでの銃声と爆発音の絶えない社会生活に四苦八苦することになり、
“連邦生徒会長”が僕の“夢”のために残していってくれた【連邦捜査部
その最初の当番の生徒というのが【シャーレ・オフィス】奪還作戦で知り合った4人の生徒たちの一人:【ミレニアムサイエンススクール】早瀬 ユウカであり、最初の頃はユウカが【ミレニアム】の生徒会役員であることの重大さを理解しないまま、頻繁に当番に呼んで確定申告などの書類仕事のやり方を頭を下げて懇切丁寧に教わっていた。
僕だってネオフロンティア時代の地球人だから、宇宙人との対話も防衛チームの一員として必須科目だったけど、実戦経験無しの訓練生の僕にいきなり地球人と似て非なる凶暴なキヴォトス人との対話という責任重大な役目は荷が重かったので――――――、
だって、キヴォトスだよ? 『銃を持っていない生徒より裸で歩いている生徒の方が統計的にも実際にも多い』と言われているような【連邦生徒会】の統治が行き届いていない犯罪都市の住人にいきなり撃たれたら地球人の僕は一発で死ぬんだよ!?
だから、できるだけ話が通じやすそうな子を考えたら、あの4人の中だと早瀬 ユウカって子が見た目が一番に地球人にそっくりだからイケそうな気がして、他の学園がどういったところなのかもユウカから聞いていくうちに【ミレニアム】一択になっていたのが最初の頃だった。
他の【ゲヘナ学園】はキヴォトス屈指の犯罪発生率の魔窟で 話が通じない雰囲気が充満しているし、【トリニティ総合学園】に至っては ミッション系のお嬢様学校なのに キヴォトスだから当たり前のように武装している点がかえってヤバさを強調させている。
その点、まだ【ミレニアムサイエンススクール】は叡智を探求する新進気鋭の研究機関ということで、まともな学園らしさと地球人そっくりな種族が多いこともあって、自分たちの研究テーマの達成には手段を選ばない一方で、他の分野に関しては素直に専門家に頼ることで協調性と規律があり、一番親しみを感じることができていた。
とにかく、銃犯罪が日常茶飯事で年端もいかない生徒たちのほとんどが犯罪者であることが当たり前のキヴォトスであっても、防衛チームの隊員の矜持として自分からは子供たちに向けて銃を抜かないように立ち回っていくことになった一方で、
さすがにネオフロンティア時代の対怪獣兵器となる【スーパーGUTS】の装備ともなると、キヴォトスで整備なんてできそうもなかったため、ここは思い切って【ミレニアム】の生徒たちに協力を依頼することになったのだ。
そして、軽い気持ちでキヴォトスでは存在しない光線銃:ガッツ・ブラスター(訓練用)の整備を依頼したところ、【ミレニアム】では大事になって、表向きは存在しないことになっている裏の部活動【特異現象捜査部】【C&C】の生徒たちが僕の監視のために【シャーレ】の当番に就くようになったのだ。
そう、僕自身は“連邦生徒会長”が僕の“夢”のために残していってくれた超法規的機関【連邦捜査部
なので、【ミレニアム】史上三人しかいないという学位“全知”を獲得したという“超天才清楚系病弱美少女ハッカー”を自称する【特異現象捜査部】明星 ヒマリや、表向きは【メイド部】裏の顔は超凄腕武闘派メイド集団【C&C】の最高戦力:美甘 ネルと言った生徒たちが当番として【シャーレ】に送り込まれてきたことに何の疑問も抱かなかったのは大変おめでたい頭をしているとキヴォトス人から呆れられていたことだろう。
その実態は、失踪した“連邦生徒会長”が残していった【連邦捜査部
けれども、当番の生徒として“シャーレの先生”のひととなりとその活動を逸早く報告していた早瀬 ユウカとその親友:生塩 ノアから話を聞いていたヒマリとネルはキヴォトス人と比べたらあまりにも脆弱な地球人ぶりとキヴォトスではありえないほどの迂闊さを間近で見て『“シャーレの先生は【ミレニアム】に仇なす者ではない』と判断を下したことで『不確定要素の排除』を完遂したと悪びれもせずにリオ会長に報告して、知らないところで狙われていた僕の命は助かっていた。
結果として、光のピラミッドが出現してキヴォトスに怪獣が現れたXデーから程無くして【アビドス対策委員会】からの支援要請が来ることで激動を迎える【ブルーアーカイブ】の物語が始まるまで、僕は【ミレニアム】の生徒たちに守られながら“シャーレの先生”としてキヴォトス中の事件の解決に明け暮れることになった。
とにかく、ネオフロンティア時代の地球からやってきた異邦人の話は聞くだけでも価値があるということでヒマリやノアは楽しそうに話を聞き、ユウカがいつまでも片付かない事務仕事を呆れながらもいつも手伝ってくれて、ネルはアロナバリアに守られながらも一緒に戦場に突撃する“シャーレの先生”の無鉄砲さを気に入った――――――。
――――――だからこそ、“名もなき神々の王女”を巡る【ミレニアムサイエンススクール】の内紛で行き違いから完全に敵対することになって表舞台から姿を消すことになった“ビッグシスター”調月 リオのことはよくわからないままだった。
調月 リオ「どうかなさいましたか、“
調月 リオ「現在、GUTSガルーダの最終調整に入っています。今回は通信障害が全域で発生している【アビドス】での運用に向けた調整が施されています」
調月 リオ「基本的には高速接近から長距離砲撃して一撃離脱する運用は変わりませんが、これまで数々の侵略宇宙人のUFOの技術も取り入れて浮遊砲台として空中停止できるようにもしましたので、砲塔を上下に可動させることで対空攻撃や対地攻撃も可能になっています」
調月 リオ「他にも垂直離着陸もでき、コンテナを牽引して輸送機としても運用可能ですので、“
調月 リオ「もちろん、コクピットはありますが、GUTSファルコン同様に計器確認のために用意しただけで、居住性は劣悪です。正規パイロットも見つからなかったこともあって、私としては戦闘機ドローンとして遠隔操縦することを強くおすすめします」
調月 リオ「本当は北条先生が聴かせてくれた【ZAT】の大型戦闘機:スカイホエールを用意したかったです。【ZAT】が交戦したという大怪獣がアビドス砂漠に現れたのなら尚更……」
調月 リオ「――――――【アビドス】の問題が片付いた後に来る【廃墟】の“名もなき神々の王女”の件ですか?」
調月 リオ「安心してください。未来の私自身がその詳細な経緯を報告してくれていますので、AL-1S、いえ、我が校の生徒“天童 アリス”に危害を加えるつもりはありません」
調月 リオ「ただ、AL-1Sが“名もなき神々の王女”ではなく“天童 アリス”となる状況再現のために、“シャーレの先生”ならご存知の茶番を演じることにはなりますね。テロ対策訓練という名目で計画は組まれています、すでに」
調月 リオ「それに、未来の私は自分が正しいと信じる道を進んだ結果、失踪した“連邦生徒会長”と同じように【ミレニアム】から姿を消して大勢の人たちに迷惑をかけてしまったのだから、その二の舞を演じるつもりはないですから」
調月 リオ「ただ、わからなくなったのは“名もなき神々の王女”を司令官とする不可解なロボット兵団【Divi:Sion】の存在――――――」
調月 リオ「これがどう出てくるか――――――、もし怪獣という存在に触れて どんな進化を遂げるのか――――――」
調月 リオ「ともかく、【廃墟】という未調査領域の完全踏破はキヴォトスの滅亡を回避する上で絶対に避けられない目標となります」
調月 リオ「そうです。北条先生が常日頃から仰るように人類同士で争っている場合ではないのです。だからこそ、数千ある学園の全ての生徒たちの団結を力強く北条先生は呼びかけ続けているのです」
調月 リオ「北条先生は未来の私たちが真に求め続けていた怪獣退治の専門家です。私はそれに全てを賭けて 今こうしてGUTSガルーダの最終調整を行っているというわけです」
調月 リオ「いえ、私は“
調月 リオ「この要塞都市:エリドゥの建造資金を調達するために公金横領をする必要も“
調月 リオ「ただ、未来の私が犯してしまった過ち、私自身がそうなるのも納得してしまったような過ちを繰り返さないためにも、ただ事実をありのままに受け入れて最善を尽くしているつもりです」
調月 リオ「それがキヴォトスを救うための合理的な判断というものです。明日のことも杳として知れない人間にはその時々の与えられたものの中から最善を尽くすことしかできないのですから」
――――――ですから、その、今の調整が終わったら“
キヴォトス史上最大の軍事組織【キヴォトス防衛軍】の中核を担う【キヴォトス
その一方で、【連邦捜査部
今回のアビドス遠征では最初の【アビドス生徒会】との交渉とベースキャンプの設営で【シャーレ】に帰還する予定だったロボット職員:マウンテンガリバーが現地に残り続けることになったため、【連邦捜査部
しかし、【連邦捜査部
それでも、信頼と実績からロボット職員:マウンテンガリバーが【ミレニアム】の特定の生徒を当番に呼びつける回数が多いのは誰の目から見ても明らかであり、
噂の的となった早瀬 ユウカと生塩 ノアの二人は“ビッグシスター”調月 リオと“全知”明星 ヒマリの【ミレニアム】の2トップが普段の激務とは別に【キヴォトス防衛軍】で対怪獣兵器の開発に懸命になっていることを知っているため、これぐらいは普通だと思いながら気分転換や息抜きに当番の業務を全うしていた。2人もまた十分に天才であった。
ただ、完全に【シャーレ】の業務を任されるぐらいに信頼されているだけに、ロボット職員:マウンテンガリバーに“シャーレの当番”として一番に接している聡明な2人は、身近にいる凄いんだけど未だに実態がよくわからないロボット職員:マウンテンガリバーのことが気になり始めていた。
というのも、秘密にしていることが多い【ミレニアム】の2トップ:調月 リオと明星 ヒマリが“
そのため、これまでは【トリニティ総合学園】の職員だったことは知られていたものの、実はほとんどの生徒が生まれる前から【ミレニアム】とも縁が深い人物だったことを知り、【ミレニアム】では予算確保や実績獲得のために【キヴォトス防衛軍】に積極的に参加する生徒が多かったが、【連邦捜査部
結果、【キヴォトス防衛軍】では【ミレニアム】の2トップ:調月 リオと明星 ヒマリが、【連邦捜査部
怪獣災害に対して指導力を発揮できていない【トリニティ総合学園】に大差をつけた【ゲヘナ学園】の天下と言われ始めてきた中で【ミレニアムサイエンススクール】は着実に要所要所で影響力を強めていったのである。
ついでに、これまた【ミレニアム】の2人の生徒:猫塚 ヒビキと角楯 カリンが溢れ出る恋愛感情からロボット職員:マウンテンガリバーの機械の身体をメンテナンスするご奉仕を受け持っていることも有名となっており、公私共に【ミレニアム】寄りの人物であったことは実は公表以前から明らかな事実だったのだ。
しかし、【ミレニアム】との繋がりは職歴に書くような内容ではないとは言え、公表される以前から【ミレニアム】寄りなのは明白であったのに、長年に渡って【トリニティ総合学園】の職員をしていた事実と肩書からそうだとしか大抵の人間が思わなかった辺り、いかにキヴォトス人の意識に学園の壁が立ち塞がっていることか――――――。
当然ながら、面倒見が非常に良いことで母校で広く親しまれている【セミナー】会計:早瀬 ユウカは身近な人物の変貌に戸惑いながらも安否を気遣うわけなのだが、
瞬間記憶能力を持つ イタズラ好きの【セミナー】書記:生塩 ノアにとっては非常に興味を刺激する存在となっており、どうやら ただ単に記憶を失ったわけではない特異な反応の正体が何なのかを追求することが最近の関心事となっていたようだ。
その答えを最初から【セミナー】生徒会長:リオ会長は知っているわけなのだが、人間の常識が通用しない超常の存在の総称を“
頭の回転は早いものの常識や計算に拘って頭が固い早瀬 ユウカと瞬間記憶能力を有する生塩 ノアはそうしたものに遭遇した時に
たとえ、優れた情報処理能力を買われて【キヴォトス防衛軍】作戦司令部に喚ばれることはあっても、それ以上の機密事項を教えられずに【ミレニアム】の普段の業務に戻るように言われ続けた2人としては、いくら【キヴォトス防衛軍】において【ミレニアム】が重要な立場を担うようになって称賛を受けるようになっていたとしても、中途半端な立ち位置にいる当事者としては疎外感ばかりが募っていた。
だから、“シャーレの先生”“シャーレの職員”に続き、“シャーレの研究員”として【シャーレ・オフィス】に姿を見せるようになった絶世の美人と評判の犬の獣人である神代キヴォトス人:サーベラスと話をする機会を得て、ふと疎外感から生まれた小さな不満と秘密にされて高まっていた好奇心から生塩 ノアが疑問を口にした時だった――――――。
神代キヴォトス人「――――――その疑問の正体、薄々感じ取っているのではないか、ノアよ?」
生塩 ノア「え」
神代キヴォトス人「ノアよ。その優れた記憶力を活かした貴重な記録の数々を提供してくれた礼をしようではないか」
神代キヴォトス人「して、ノアよ。この写真の男に見覚えがあるか?」ピラッ
生塩 ノア「この方は――――――?」
神代キヴォトス人「よく観てみろ。ただ見るのではない。心の眼でしかと観るがいい」
生塩 ノア「………………」ジー
早瀬 ユウカ「あれ、ノアにサーベラス様? どうしたんですか、そんなところで?」
神代キヴォトス人「ああ、ユウカか。ちょうどいい。お前もこの写真の男を観ろ」
早瀬 ユウカ「……何ですか、それって?」
早瀬 ユウカ「えっと」チラッ
――――――差し出された写真に写っている男性に2人は強烈なデジャヴュを覚えた。
早瀬 ユウカ「あれ、この人、どこかで見覚えがあるような、ないような……」
生塩 ノア「おかしいですね。間違いなく会った憶えがないはずなのに、既視感があるだけじゃなく、なんだか懐かしい気持ちが湧き上がってきます……」
早瀬 ユウカ「これって、デジャヴュってやつよね、ノア?」
生塩 ノア「そうですね。初めて経験することのはずなのに親しみや懐かしさを感じることが定義でしたが、2人同時にデジャヴュを感じるのは奇妙に思えますね」
早瀬 ユウカ「誰なんですか、この男の人は?」
神代キヴォトス人「一言で言うなら、“非実在青少年”と言ったところだ」
生塩 ノア「……初めて聞く専門用語ですね。一般的ではないと思いますが、説明をいただけますか?」
神代キヴォトス人「年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの――――――、これを“非実在青少年”と定義する」
早瀬 ユウカ「要するに、外見や会話などから18歳未満の青少年と容易に判断ができるキャラクターってことですよね? “非実在青少年”だなんてわざわざ定義する意味ありますか、それ?」
神代キヴォトス人「どういった法律で定義されたものかを言うぞ」
――――――非実在青少年を相手方とする又は非実在青少年による性交類似行為に係る非実在青少年の姿態を視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるものとして、不健全指定図書類に指定して罰則が加えることができる。
神代キヴォトス人「先生から教わった。表現の自由を規制する法案に対して教育者としてどのように豊かな感性や情緒を育てるかで頭を悩ませたそうだ」
生塩 ノア「なるほど。青少年の健全教育を名目に性的な出版物とみなされたものを発禁処分にできる基準を定義したものだったんですね」
早瀬 ユウカ「語感からしてそうなんだろうとは思いましたけど、この写真の男性が“非実在青少年”というのは少しちがうんじゃありませんか?」
神代キヴォトス人「我もそう思うが、時代や環境がちがえば状況も異なってくる。そこで培われた常識や倫理がどのような法制度を確立させるかを予測するのは我でも困難なことだ」
神代キヴォトス人「だが、たとえば、女性しか生徒がいないキヴォトスにおいて“シャーレの先生”が唯一の男性として君臨するようになったら、同年代の異性がいないのにも関わらず恋愛に強い興味を持っている小娘共の乙女心はどうなると思う?」
早瀬 ユウカ「え」
生塩 ノア「………………」
神代キヴォトス人「素直に答えてみよ」
早瀬 ユウカ「あの、たしかに北条先生は尊敬に値する大人の方で、憧れを抱く生徒たちもたくさんいて、私もその一人ですけど、」
早瀬 ユウカ「何と言うのか、北条先生があまりにも完璧すぎて自分じゃ釣り合いがとれないと言いますか、リオ会長ぐらいじゃないと先生のパートナーには絶対になれない気がして、そういうのは考えたことないですね」
早瀬 ユウカ「そう、北条先生の方からはいくらでも私たちに歩み寄ってくれるんですけど、私たちの方からは踏み込めないぐらいに先生の隣には距離感というか壁みたいなのを感じてはいますね……」
神代キヴォトス人「ノアはどうか?」
生塩 ノア「もしかして、この写真の男性は――――――」
生塩 ノア「………………」
早瀬 ユウカ「どうしたの、ノア?」
神代キヴォトス人「どうした? 言ってみよ、生塩 ノア?」
生塩 ノア「サーベラス様はこの写真をこれまでの情報提供の礼として見せてくれました」
生塩 ノア「とすると、この写真の男性の正体は私が興味を持った身近な男性なのではありませんか? でも、現実にはそうではない――――――」
早瀬 ユウカ「え」
生塩 ノア「どうなんですか? この男性の方を“非実在青少年”と称したのもそれが理由なのではありませんか?」
神代キヴォトス人「彼の者にとっては昨日の出来事だが、お前たちにとっては明日の出来事になるだろう」
生塩 ノア「?」
神代キヴォトス人「この写真、猫塚 ヒビキが調月 リオから渡されたものと同じだと言ったら――――――?」
早瀬 ユウカ「……どういう意味ですか、それって?」
生塩 ノア「もう十分です。ありがとうございます、サーベラス様」
神代キヴォトス人「やはり賢いな、ノアは」
神代キヴォトス人「それで、欲しいか、この写真? 今ならAIが画像生成した年齢別の写真もあるぞ~?」
生塩 ノア「ください、サーベラス様。全部」
早瀬 ユウカ「え、ノア!?」
生塩 ノア「せっかくだから、ユウカちゃんの分もください」
神代キヴォトス人「なら、それに見合う対価をもらおうか」
生塩 ノア「わかりました」
早瀬 ユウカ「の、ノア!? ねえ、さっきからどうしたのよ!?」
神代キヴォトス人「どうしたも何も、ずっと気になってしかたがないのだろう、デジャヴュの正体が」
生塩 ノア「はい。その秘密をリオ会長たちが独占していることが少し妬ましくて」
神代キヴォトス人「だが、言ったはずだ。これは“非実在青少年”だと」
神代キヴォトス人「猫塚 ヒビキと角楯 カリンがこの写真の男性を想ってナニをしているのかを考えれば、これは十分にキヴォトスの女子生徒たちにとっては甘美な毒となろう。実に有害であるな」
神代キヴォトス人「そのことがわかっていながら、これを欲するとは……」
神代キヴォトス人「ノアよ。だから、お前のことは【キヴォトス防衛軍】の最前線に連れては行けないのだ」
神代キヴォトス人「時として人は忘れることも癒やしとなるが、それができないともなれば 忘れることのできない情動に身を焦がすのはひたすら己を卑しくするだけだぞ、小娘」
神代キヴォトス人「なあ、小娘? お前は公衆の面前でヒビキとカリンにご奉仕されて情けない喘ぎ声を出して悶えていた“シャーレの職員”を目の当たりにして何を考えていた? 何を考えて壇上に上がった?」
生塩 ノア「……それは秘密です」
早瀬 ユウカ「さっきから本当に何を言っているんですか、ノアも、サーベラス様も?」
神代キヴォトス人「わからんのか。
早瀬 ユウカ「はああああああああ!? どこからどう見ても 何の変哲もない この写真が、ですか!?」
生塩 ノア「はい。とんでもなくエッな写真なんです、これは」
生塩 ノア「それをこれからユウカちゃんももらうんですよ」
早瀬 ユウカ「い、いったい何がしたいのよ、ノアは!?」
早瀬 ユウカ「というか、良識ある大人なら止めてくださいよ、サーベラス様!?」
神代キヴォトス人「それはできない。個人で愉しむ分には法的処置はできんからな。しかも、この世には存在しない“非実在青少年”の偽写真ということになるし、そもそも18歳未満でもないからな」
神代キヴォトス人「いやはや、これまで抱いていたモヤモヤがパズルが当て嵌まってムラムラに変わって大変だったようだが、これで謎は解けたな? 無事に発散できるな? 仕事に集中できるな?」
生塩 ノア「はい。これでスッキリできるはずです。ありがとうございました」
早瀬 ユウカ「ちょっと、ノアぁ……」
早瀬 ユウカ「サーベラス様も何をやりきったような顔をしているんですか?!」
神代キヴォトス人「我は【ゲヘナ】の豊穣の大地を司る者であると同時に『誕生』『成長』『繁殖』『永眠』を司る者だ」
神代キヴォトス人「ムラムラが抑えきれなくなって困っているのなら、それを発散させる手伝いをするのも我の務め。それが豊穣の秘訣。繁栄の法則」
神代キヴォトス人「我慢は身体に良くないし、その原因がこの写真の“非実在青少年”にあると言うのなら、これに関しては一生解決しない問題だから、今ここで助けてやらないと小娘の頭が募り募ったムラムラでピンク色に染まって使い物にならなくなるところだったぞ」
神代キヴォトス人「だから、よくぞ打ち明けてくれた、ノアよ」
生塩 ノア「いえいえ。私もサーベラス様のような理解者を得られて嬉しいですよ」
早瀬 ユウカ「……そんなに深刻な問題だったの、ノア?」
神代キヴォトス人「他人事ではないぞ、ユウカよ。この写真の“非実在青少年”にデジャヴュを覚えた上に好印象を持っているということは、だ」
神代キヴォトス人「この“非実在青少年”が『普段は頼りないけど やる時はやる かっこいい人物』だったとしたら、どっぷりと嵌まるのはユウカの方なのだからな」
早瀬 ユウカ「は、はあああああああああああああ?! そんなことがあるわけないじゃないですか!?」カアアアアアア!
神代キヴォトス人「北条先生のような完璧超人の隣に立つことに気後れするのなら、少しばかり隙のある性格の人物が好みであることは自分から言ったようなものではないか」
神代キヴォトス人「見よ、これがこの写真の“非実在青少年”との相性占いをした結果だ。ユウカはこの中だと特にベタ惚れではないか」
早瀬 ユウカ「ち、ちがいます! こんなのは絶対に! 私は面食いでも惚れ症でもないですから!」
生塩 ノア「それを世間では“運命の出逢い”と言うんですよ、ユウカちゃん」
早瀬 ユウカ「ノアああああああ!」
神代キヴォトス人「まあ、そういうわけだから、自分の性質を理解した上で上手に感情をコントロールすることだ」
――――――動物的な本能に支配されて発情したら所構わず盛るような自分ではないと思うのならばな。
神代キヴォトス人「やはり共振していたぞ、コーイチよ。基本的に2人とはそうなる運命だったらしい」
神代キヴォトス人「早瀬 ユウカは高確率で一目惚れするぐらい“シャーレの先生”が好みの顔であったようだ。本人は必死に否定していたが、顔が真っ赤になるぐらいには“運命の相手”の理想像を自覚したようだ」
神代キヴォトス人「一方で、忘れることができない分、その執着心も強いからか、生塩 ノアは共振したことで『前回』の自分が“シャーレの先生”に抱いた感情に染め上げられて頭がおかしくなる手前だったから、お主の
神代キヴォトス人「ユウカの方も口ではイヤイヤ言いながらも期待と不安が入り混じって小刻みに震える手で受け取ってくれたがな。やはり、好みの男性だったではないか」
ロボット職員「ああ、そうですか……」
神代キヴォトス人「――――――男冥利に尽きるか? それとも、決定的に運命が変わったことの確証が得られてホッとしたか?」
ロボット職員「まあ、キヴォトスが滅亡する運命が変わったのなら、僕としては不満はないですけど……」
神代キヴォトス人「頭では理解できても、自分に惜しみない愛情を注いでくれた相手に距離を置かれている現状に渇いたものを覚えているとは、難儀なものよな」
ロボット職員「そりゃあ、『前回』はユウカとノアには本当に助けられてきたし、こんな僕のことを好きになってくれたのだから、何も思わないわけないじゃないですか!」
ロボット職員「だから、『前回』のような関係性になっていないことを恨めしく思うのは筋違いだと思っていても、時々 思い出してしまうんです……」
ロボット職員「もうあの時に見せてくれた表情や感情を僕に向けてくれることはないってことが 本当にどうしようもなく もどかしい気持ちにさせられるんです……」
神代キヴォトス人「――――――裏切られた気分ということか」
ロボット職員「……そこまでは言ってないです」
神代キヴォトス人「大方、『前回』とはちがった関係性になったことへの不満を大いに募らせる原因になったのは最後の別れにあるのではないか? 期待させる言葉をかけられていたか?」
ロボット職員「…………機械の身体になって過去の世界に送り込まれたことで、初めて忘れることができない苦しみというものを味わっていますよ、今も」
神代キヴォトス人「だから、『前回』とほとんど変わらない距離感で接してくれる美甘 ネルのことを重用するわけだな」
神代キヴォトス人「――――――恋とはやはり劇薬だな」
神代キヴォトス人「同じであって同じじゃない存在よりも、同じで在り続ける存在といた方が気が楽か」
ロボット職員「……本当ですよ。ネルはずっと変わらないでいてくれたから、僕としては本当にネルに感謝しているんです」
神代キヴォトス人「お主も大概ワガママな性格よな」
神代キヴォトス人「お主のために変わろうと頑張る恋する乙女よりも、変わることのない安心感をもたらす相手の方を好いているのだから。新参者はもう入り込めんな、これは」
神代キヴォトス人「それがお主にとって“光”を追い求め続ける原点になっているのだから、こんなにも初恋をこじらせて、まあ……」
ロボット職員「わかってますよ。そういう頑固なところがあることや臆病な性格であることも」
――――――でも、それが僕なんだ。世界が闇に覆われた時に名前も知らない年上の女性に手を引かれて“光”になった感動をいつまでも忘れずにネオフロンティア時代を生きた“ウルトラマン”というのが僕なんだから。