Blue Archive -Document GUYS feat.LXXX-   作:LN58

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EP03 霧の中の明日を輝かす光

 

 

北条先生「ですので、【キヴォトス防衛軍】の軍事顧問に就いた怪獣退治の専門家として、怪獣出現時に一般市民を収容可能な避難シェルターの整備に加えて、全生徒ならびに全市民の安否確認サービスへの登録ならびに避難訓練の参加を徹底してください」

 

 

北条先生「残念ながら、キヴォトス三大学園(BIG3)の中で【トリニティ総合学園】はもっとも怪獣対策を怠っているとしか言いようがないデータが示されています。危機意識が足りていません。怪獣災害を甘く見ている」

 

 

北条先生「Xデーに地底怪獣:クレッセントによって首都:D.U.とサンクトゥムタワーがあれだけの被害を受けたのですよ? 【キヴォトス防衛軍】の初出撃で宇宙怪獣:ギコギラーを取り逃していたら、今度はどこに現れていたことか――――――」

 

 

北条先生「戦闘における民間人被害(コラテラル・ダメージ)を避けるためにも徹底してください。街を踏み潰す怪獣の脅威に立ち向かうためには、決して人に向けてはならない超大型火器の使用も必要となるのですから」

 

 

北条先生「怪獣退治の専門家として【キヴォトス防衛軍】に最大のパフォーマンスを発揮させるためにも、作戦区域からの不確定要素の排除に協力してください。でないと、防衛チームというものは戦えなくなるのです。気にしながら戦える余裕なんてないです。それはそちらにとっても大変不都合のはずです」

 

 

北条先生「いいですか。怪獣退治とは怪獣を倒すことだけが目的ではありません。それは前提であって、本質は人々の平和な暮らしを守るためにやっていることですから、そのために使命感を帯びて過酷な任務に自ら志願しているのです」

 

 

北条先生「優先順位を間違えてはいけないんです。でないと、怪獣を倒すためなら政治的にやむを得ない犠牲(コラテラル・ダメージ)を容認して、本来 守るべきものを切り捨てることになり、気付いた時には『何も残っていない』というような地獄絵図になります」

 

 

北条先生「――――――ウルトラマンの存在は最後の保険でしかないんですよ」

 

 

北条先生「そもそも、保険なんてものは何か悪いことがあった時に補償を受けられる備えなのであって、何か悪いことが起きたから受け取れるものなんですから、それで大金を受け取れたとしても、果たして素直に喜べる状況であるかどうかなんて言わなくてもわかるはずです」

 

 

北条先生「ですから、最初からウルトラマンの力を当てにしてはいけないんです。ウルトラマンだって全知全能の存在ではないのだから、必ずしも怪獣を倒せるとは限らないんです」

 

 

北条先生「……おや、大丈夫ですか、百合園さん? さすがにキツイ言葉を浴びせ過ぎましたか?」

 

 

北条先生「ですが、もう少しだけ聞いてください。これはみんなの命が懸かっている真剣な話です」

 

 

北条先生「それでも、百合園さんは【ティーパーティー】のホスト(生徒会長)なんです。きみが生徒を代表して【トリニティ総合学園】のみんなに情報を届けないと助かるものも助からないんです」

 

 

北条先生「いいですね。しっかり対策を取らなければキヴォトス三大学園(BIG3)から【トリニティ総合学園】が脱落することになりますから、そのつもりでいてください。現実を見てください」

 

 

北条先生「では、指摘事項と改善点をまとめた資料はこちらになりますので、次回までに改善をよろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

北条先生「………………」スタスタ・・・

 

仲正 イチカ「先生!」

 

北条先生「ああ、仲正さん。おつかれさまです」

 

仲正 イチカ「先生もおつかれさまっす」

 

仲正 イチカ「どうでしたか、うちの生徒会長は?」

 

北条先生「……明るく言った方がいい?」

 

仲正 イチカ「……いえ、怪獣退治の専門家としてのまじめな意見を聞きたいっす」

 

北条先生「包み隠さず公表するように言いつけたランキングを見てご覧」

 

仲正 イチカ「では、拝見するっす」パラッ

 

仲正 イチカ「うわぁ……」

 

仲正 イチカ「なるほど。そういうことっすか。これは【トリニティ】にとっては死ぬほど悔しい結果っすね」

 

北条先生「僕が怪獣退治の専門家として十全のパフォーマンスで任務を遂行するにあたって、まず地球と同じ条件を整えてもらわないといけません」

 

北条先生「そうじゃないと、守るべき民間人を戦闘に巻き込んで取り返しがつかないことになります。それを思ったら、僕も みんなも 怖くて戦えません」

 

仲正 イチカ「……そうっすね。たしかにこの前のキヴォトス一斉避難訓練の様子はまったく良くなかったっす」

 

北条先生「校風や地域性が如実に現れたと思って、『まだ初回だから これから慣れていけばいい』と思っていましたけど、避難シェルターの整備や安否確認サービスへの登録がここまで進んでいないのが数字になると話は別です」

 

北条先生「これは訓練でもリハーサルでもない! 怪獣災害は突如として街を呑み込むんだ! それで尊い命が奪われてきたからこそ、少しでも助かる可能性を上げるためにやっていることなのに!」

 

仲正 イチカ「……言い訳みたいになるんですけど、【トリニティ】は見ての通りのミッション系のお嬢様学校であると同時に、昔から続く古い派閥がいくつも残り続けているんですよね。もちろん、大半の生徒には関係ないんですけど」

 

仲正 イチカ「今の【トリニティ総合学園】になるまでに散発していた学校間での紛争を避けるべく 各校代表が会談を行うために設けられた場を【ティーパーティー】と呼んで そのまま生徒会の名前になるぐらいには派閥の影響力は大きいっす」

 

北条先生「……【ティーパーティー】もまた()()()()()()()()()()()()に過ぎないわけですか」

 

仲正 イチカ「……そうっすね。昔からのしきたりで【トリニティ】の統合を司るのが持ち回りで【ティーパーティー】のホストを務めることになる【パテル(聖園 ミカ)】【フィリウス(桐藤 ナギサ)】【サンクトゥス(百合園 セイア)】それぞれの派閥の代表の3人なんですが、正直に言って実際の指導力よりも派閥での影響力が重視されているっすね」

 

仲正 イチカ「だから、伝統もさることながら、派閥への影響やら何やらで揉みくちゃになって、簡単には体制を変えることができないんだと思うっす」

 

仲正 イチカ「いや、本当はみんなわかっているんですよ、先生の言っていることは。だから、先生が軍事顧問を務めることになった【キヴォトス防衛軍】にこの【トリニティ】からもたくさんの生徒が自分から参加しているんですから」

 

仲正 イチカ「正直に言って、【ミレニアム】はともかく、【ゲヘナ】よりもやることが遅い【トリニティ】の在り方にはみんな不満を持っているっすよ」

 

仲正 イチカ「だから、先生は気にしないでくださいよ」

 

 

――――――それで、もし今の状態で怪獣が現れたのなら、その時はみんなで仲良く地獄に落ちればいいっすから。

 

 

北条 アキラは長年に渡って怪獣と戦い続けてきた歴史を持つ地球からやってきた異邦人である。

 

軍事顧問として【キヴォトス防衛軍】を率いた初実戦の宇宙怪獣:ギコギラーとの戦いで功績が認められ、本格的な怪獣対策を講じてキヴォトスに安寧をもたらすべく、“連邦生徒会長”不在で閉校せざるを得なかった【SRT特殊学園】を再編して【キヴォトス防衛学園】が開校することが決定した。

 

文字通り【キヴォトス防衛軍】の拠点となるべく再編されたわけなのだが、地球の優れた防災知識をキヴォトス中に普及させるため、【キヴォトス防衛軍】に志願した各学園の生徒たちは留学生という扱いで一般教科と特別な単位が認められた。

 

そのため、首都:D.U.にある“連邦生徒会長”直属のトップエリートの学園に留学できるだけでも、弱小校出身の生徒たちには夢のような出来事であり、【キヴォトス防衛学園】はキヴォトス中から生徒が留学の志望が殺到し、運営側はその準備に大忙しである。

 

事実、数千もの学園が存在するキヴォトスからの留学志望者の全員を受け容れるのは難しいため、短期間の留学コースを設けて留学志望者を大量に捌き、才能や実力が認められた生徒に適性のあるコースへ次回から参加できる資格制度が検討されていた。

 

もちろん、短期留学コースで選考から漏れた生徒たちは次から次へと母校へ帰されることになるが、【キヴォトス防衛軍】での作戦行動や怪獣対策に必要な基礎を叩き込ませて帰らせるので、母校で学んできたばかりの最新の知識を使って防災活動に従事したことが認められれば、より長期の留学コースに参加できる段取りとなっていた。

 

それに先立ってキヴォトスに来訪した唯一の怪獣退治の専門家である“GUYSの先生”北条 アキラは教材作りを兼ねた授業を各学園から派遣された生徒たちに行うことになり、久々にちゃんとした場所でちゃんとした教壇に立ってちゃんとした授業を行ったのだ。

 

本職が小学校の先生である北条 アキラのビデオ学習用の収録を意識した丁寧なレイアウトの授業は大変好評であり、早速 収録した授業内容を編集してコピーしたものを各学園に持ち帰ってもらい、防災活動の展開へと役立てられていた。

 

その一方で、学校施設を管理する職員はいても教師が存在しないキヴォトスにおいてはほとんどがビデオ学習となっている中で行われた黒板やスライドを活用した授業は新鮮なものがあり、

 

それ以上に1日中ぶっ続けで教壇に立ち続けても平然な様子で全ての授業をやり通した北条先生のバイタリティに身体的には地球人を凌駕しているはずのキヴォトス中の生徒たちが感嘆の声を上げることになった。

 

そして、北条先生の最初の授業を受けた生徒たちが持ち帰った知識が役立てられ、【連邦生徒会】が新たに定めた怪獣対策の進捗具合を確認するため、キヴォトス一斉避難訓練が実施されたのであった。

 

これは各学園の生徒のみならず、自治区の一般市民も対象に行なっており、怪獣が出現したと想定して安否確認サービスや避難シェルターがちゃんと利用できているかをデータ集計するのだ。

 

結果、自治区を管轄する学園別に集計データが集められたわけであり、怪獣退治の専門家である北条先生が自ら出向いて避難訓練の総評と指導を行うことになっていた。

 

もちろん、キヴォトスには大小様々の数千もの学園が犇めいているので、その全てに出向くことは不可能のため、学園の規模や重要度に応じて区別することになり、最大勢力である【キヴォトス三大学園(BIG3)】にはそれぞれ出向くことになった。

 

 

さて、今回のキヴォトス一斉避難訓練の結果を【キヴォトス三大学園(BIG3)】についてのみ総評しよう。

 

 

★第1位:ミレニアムサイエンススクール★

安否確認サービスの登録率および避難シェルターの稼働率が共に9割5分であり、さすがは【セミナー】が誇る“ビッグシスター”調月 リオが生徒会長をしているだけのことはあると言ったところ。

【連邦生徒会】が施行を要求する怪獣対策を迅速に履行するため、一斉避難訓練に参加しなかった生徒が所属する部活動に罰金を科して部費を没収することでほぼ全ての生徒を有無を言わさず従わせることに成功。

元々、【ミレニアム】には理性的な生徒たちが多い上に専門家の意見に従いながら協力し合うことを常とする開放的な校風のため、生徒たち自身も怪獣が学園を襲ってきた時のことを想定した上で、有能で信用に足る生徒会長が準備してくれた避難シェルターの使い心地を率先して確かめているぐらいであった。

特に、各部活動の研究成果が失われないようにわざわざバックアップセンターを避難シェルターに用意しているぐらいには“ビッグシスター”の配慮が行き届いていた。

避難シェルターは機能性と快適性を両立したカプセルホテルのような居住空間が設けられており、基本的に学園内の避難シェルターを利用するのは生徒ぐらいとは言え、熱心な研究者は床で寝るものだと言うことで寝心地のいいマットが敷き詰められた大広間すらあった。

 

もう言うことはない。いつ怪獣が襲来してもいいように準備ができており、指導者が優秀で、生徒も市民も理解が行き届いているなら、【ミレニアム】での怪獣退治は迅速に遂行されることだろう。

 

 

 

★第2位:ゲヘナ学園★

あれだけデカデカと生徒会長の顔の校旗が掲げられているのに生徒会長の顔も名前も知らない生徒が多すぎるぐらいに自分の興味のあることしか考えていないはずの【ゲヘナ学園】がまさかの安否確認サービスの登録率が7割超え、避難シェルターの稼働率が5割超えという予想外の優等生ぶりで心底驚く。

だが、【万魔殿】つまりはゲヘナの生徒会長:羽沼 マコトは意外にも仕事熱心で行政処理や外交などはきちんと熟しており、変な感じはするが生徒会長の存在感はなくとも【万魔殿】の名と威厳はきちんと学園中に行き渡っていたのだ。

とは言え、その方法も“ミレニアムのビッグシスター”調月 リオも採った罰金であり、それで安否確認サービスの登録を推し進め、単純ながら的を射たやり方を採っていた。

また、キヴォトスでも一二を争うマンモス校ともなると本当に在籍しているのか怪しい生徒もいるわけなので、【ゲヘナ学園】の治安の悪さを考えると それで7割を超えていたら なかなか立派と言える結果だろう。

一方で、さすがに【ゲヘナ学園】の治安の悪さから避難シェルターの整備には手間取っているらしく、【万魔殿】の懐を痛めないように それぞれの部活動に避難シェルターを造らせるように命令した結果、避難シェルターの設置を大義名分に縄張り争いが激化して それどころではなくなったようなのだ。

とは言え、生徒会長の顔や名前さえも憶えていないぐらいに他人に興味がない分、自分のこととなると目の色を変えるのが【ゲヘナ】であるため、【万魔殿】や【風紀委員会】が主導して造らせた避難シェルターの完成を妨害することはほぼないようである。

 

良い意味でも悪い意味でも自分のことを優先する自分勝手な性質が怪獣出現時に安全第一に繋がってはいるので、あまり信頼はできないが、【ゲヘナ】での戦闘はそこまで逃げ遅れた民間人のことで頭を悩ませることはないだろう。

 

 

 

★第3位:トリニティ総合学園★

まさかのキヴォトス三大学園(BIG3)の中で最下位どころか、割合で見れば一斉避難訓練に参加した全体の中でもかなり低い。

合理主義を極めた【ミレニアム】が第1位になるのはわかりきっていたことだが、長年の宿敵である【ゲヘナ】に完全に負けているのはどういうことか――――――。

それは一言で言えば、生徒会である【ティーパーティー】の権限が絶対ではなく、歴史と伝統のあるミッション系のお嬢様学園【トリニティ総合学園】には古来からの因習と派閥抗争が渦を巻いているからなのだ。

事実、生徒会の実働部隊【正義実現委員会】以外にも歴史と伝統と兵力を誇る【救護騎士団】や【シスターフッド】が存在しており、それらは【ティーパーティー】を構成する派閥とは別の由緒ある派閥が組織の母体になっているのだから、生徒会が学園全体に意思伝達するのも一苦労なのは目に浮かぶ。

そのせいで、派閥ごとの決まり事や秘密事項があるために 何をするにしても根回しが必要という 極めて風通しの悪い学園組織となっており、それが今回の怪獣対策の履行に対して大きな足枷となってしまっていたのである。

特に、自分たちの縄張りに一般市民も利用できる避難シェルターを設置するのはかなり抵抗があるらしく、進捗は3割程度なのを考えると、派閥ごとに無届けの避難シェルターを有しているからこその余裕とも考えられた。

そして、場所を取らないはずの安否確認サービスの登録にしても5割しか達成できていないことを考えるに、全体的に【トリニティ総合学園】では2人に一人は怪獣災害をどこか遠くの世界の出来事と考えているにちがいない。Xデーでキヴォトス中の都市機能を一手に担うサンクトゥムタワーが崩壊しかけたのにも関わらずである。

 

なので、もしも【トリニティ】で怪獣災害が起きた時は狭い世界での派閥争いに明け暮れて身動きが取れなくなった時に報いを受けることになるだろう。絶対に必要なことだとわかっているはずなのに極めて不見識で非協力的で自堕落なことであろうか。

 

 


 

 

キヴォトス一斉避難訓練の結果が北条先生の言いつけ通りに張り出され、【キヴォトス防衛軍】の特番でもランキングがテレビ放送されたため、キヴォトス三大学園(BIG3)の一角としてのプライドを傷つけられた【トリニティ総合学園】は紛糾することになった。

 

まず、締結を待たずして失踪した“連邦生徒会長”が仲介することで進められていた【ゲヘナ学園】とのエデン条約の是非をめぐって親ゲヘナの条約推進派と反ゲヘナの条約反対派の対立があったのだが、

 

今回のキヴォトス一斉避難訓練のランキング発表の結果、【トリニティ総合学園】が【ゲヘナ学園】にランキングで負けているどころか、キヴォトス全体から見てもランキングが低いことを受けて、旧態依然とした風通しの悪い学園を変えようという改革運動が盛り上がり、改革派と守旧派の対立が勃発したのだ。

 

つまり、現在の【トリニティ総合学園】は条約推進派と条約反対派、改革派と守旧派の思いが交錯して世論が四分される状況へとなってしまっていたのだ。

 

更に事態をややこしくさせているのが、エデン条約締結よりも先に【トリニティ】と【ゲヘナ】の共同戦線を実現させた【キヴォトス防衛軍】の存在であり、『エデン条約で結成される【エデン条約機構】なんて必要ない』という見当違いな意見から条約反対派に回る生徒も出ているのだ。

 

間違えてはいけない。【キヴォトス防衛軍】はキヴォトス中が一丸となって怪獣災害に対処することが目的の超党派の組織であるため、両自治区の紛争解決を行うことで両学園間の全面戦争を回避することが目的の【エデン条約機構】とは比較できるものではないのだ。

 

特に、人知を超えた“災害の化身”と評される巨大な怪獣と戦うために求められる能力や才能が人間同士の戦いとはまったく異なるため、キヴォトス三大学園(BIG3)で最高戦力に数えられる生徒は【キヴォトス防衛軍】に喚ばれていないことが何よりの証拠である。

 

よって、【C&C】美甘 ネル、【風紀委員会】空崎 ヒナ、【正義実現委員会】剣先 ツルギは他ならぬ怪獣退治の専門家である北条 アキラが直々に戦力外通告をしており、戦闘能力に優れているだけでは怪獣退治は務まらないことを丁寧に説明していたのである。これからも普段の業務に励んで【キヴォトス防衛軍】に参加する生徒たちの帰る場所を守ってくれるように声を大にして頼み込んだのである。

 

その代わりに【C&C】飛鳥馬 トキ、【風紀委員会】銀鏡 イオリ、【正義実現委員会】仲正 イチカが派遣されることになり、直接の戦闘能力以外の様々な面から【キヴォトス防衛軍】の中核を担うキヴォトス三大学園(BIG3)の代表生徒になった。

 

実際、北条先生の怪獣退治に協力してきた最古参にして実績多数ということで【キヴォトス防衛軍】でもっとも幅を利かせている【温泉開発部】鬼怒川 カスミの専横を抑えられる逸材であるため、北条 アキラがもっとも信頼している3人の生徒ということになる。

 

 

さて、その【キヴォトス防衛軍】でキヴォトス三大学園(BIG3)の代表として活躍中の【正義実現委員会】仲正 イチカだが、“GUYSの先生”の許でキヴォトス中の生徒たちを大勢集めて盛り上がる怪獣退治の最前線で見聞を広めているだけに、母校である【トリニティ総合学園】の旧態依然とした能天気さに呆れ果てていた。

 

 

かつてはトリニティ自治区を荒らす長年の仇敵であるゲヘナ生徒への嫌悪を隠さない【正義実現委員会】であり、体制側として自分たちの生徒会の方針には従うが、エデン条約に対しては個人的には反対の生徒が数多くいた。

 

一方で、【エデン条約機構】を立ち上げる約束をしていたのにも関わらず失踪した“連邦生徒会長”が呼び寄せた人物でありながら【キヴォトス防衛軍】を独自に立ち上げた“シャーレの先生”こと“GUYSの先生”への評価は極めて高かった。

 

学園の中では“連邦生徒会長”の政策を受け継がずに【トリニティ】の世論を四分させた悪い大人という見方もあり、実際にエデン条約締結前に【トリニティ】と【ゲヘナ】の共同戦線を実現させた【キヴォトス防衛軍】なんてものを来てすぐに立ち上げて世論をひっくり返してしまったのだから、条約締結のためにまじめに取り組んできた条約推進派からの受けはよくなかった。

 

逆に、旧態依然とした派閥が力を持ち続ける学園の在り方に反感を持っていた生徒たちはこぞって【キヴォトス防衛軍】を支持したため、改革派が支持しているから【キヴォトス防衛軍】に敵意を向ける守旧派も少なくない。

 

そんな風に対人関係の好き嫌いが学園やキヴォトスの未来を左右する大切な世論にまで反映され始めたことで【トリニティ】に風穴を開けた北条先生は変化を嫌う守旧派からも忌み嫌われることになった。

 

ならば、保守派の筆頭とも言える【正義実現委員会】はどのように北条先生を評価したのかと言えば、一言で言えば『こちらの領分を奪わずに先生にしかできないことを立派にやっているから』に尽きる。実はまったく利害関係がないから、素直にその活動を称賛しているのだ。

 

そもそもとして、条約反対派の多くは【エデン条約機構】へゲヘナ生徒とトリニティ生徒から構成員を供出し合うのは条約の趣旨としてそこまで問題視していないのだが、同機構によって両自治区の紛争解決を行う点を問題視してきたのである。

 

たとえば【正義実現委員会】の立場なら、【エデン条約機構】に真っ先に人員を取られるだけじゃなく、協力して紛争解決する名目で【エデン条約機構】の裁量を許すために【正義実現委員会】の権限が縮小することは想像に難くないことだろう。

 

それで力を失った【正義実現委員会】が【エデン条約機構】とは別に動いて従来通りに人々を守る盾になれるのかを考え、表向きは反対はしないものの、【正義実現委員会】からの派遣はない条件でなら消極的賛成を表明していたのだ。それはこれまで学園の安全保障を担ってきた実績と責任と誇りからの忠言であった。

 

一方で、そこに学内の派閥争いが絡んでくると たちまちのうちに【エデン条約機構】が政争の道具と成り果てるわけであり、その悪影響を締結前から予測されていたからこそ、積極的な反対の声が絶えないわけである。それは平和主義の理想よりも学内での自派閥の存続や派閥内での自身の栄達に関わってくることなのだから。

 

それぐらい華やかで清楚で貞淑なミッション系のお嬢様学園の表舞台に出てくることがない裏事情が蠢いていたわけであり、しっかりとした安全保障上の理由から【正義実現委員会】は条件付きの消極的賛成の立場を貫く一方で、単純に【ゲヘナ】が嫌いだから反対という声がかわいくなるほどの、自己中心的なエゴが渦巻く派閥争いが天秤を揺るがせたのだ。

 

しかし、キヴォトス中の生徒を集めて怪獣退治をする【キヴォトス防衛軍】の参加の是非については【正義実現委員会】としては反対する理由はなかった。【エデン条約機構】とちがって学内の問題に干渉してくるわけでもなく、志願制のために徴兵して組織の力を削ぐようなものには成り得ない上、そこで勇名を馳せることで派閥の強化にも使えるのだ。特に、対怪獣兵器の研究開発と称して新兵器の試験運用も潤沢な予算と資材でやれるのだから、戦力強化のために利用しない手はない。

 

また、“GUYSの先生”北条 アキラの戦闘技術が洗練されていたこともあり、本職は小学校の先生だと言うのに強さと優しさを兼ね備えた誠実な人柄に好感を覚えたため、北条先生が軍事顧問を務める【キヴォトス防衛軍】の活動を【正義実現委員会】は憚ることなく応援していた。

 

だからこそ、地球から来たという キヴォトスを超える先進性を持った ウルトラマンの心を伝える異邦人の存在は戦いの虚しさが身に沁みた平和を愛する武闘派の生徒たちの心を鷲掴みにすることになり、各学園の生徒会が警戒するほどの影響力を発揮していた。

 

最初から“GUYSの先生”と生徒会長:調月 リオが手を組んでいた【ミレニアム】は潤沢な予算と資材もあって対怪獣兵器のロマンを爆発させるために積極的に【キヴォトス防衛軍】に参加していたことだし、

 

最初の怪獣:クレッセントによって地熱発電所や温泉地が被害を受けた時に原因を突き止めてくれた恩義がある【ゲヘナ学園】にしても、Xデーの後に逸早く“GUYSの先生”の影響力を我がものとするべく生徒会長:羽沼 マコトがツーショット写真を撮って政治利用したぐらいである。ポスターにして自治区に貼り出したら、なぜか存在感のない扱いの生徒会長の部分が数々のイタズラを受けることにはなったのだが。

 

しかし、キヴォトス三大学園(BIG3)の中で【トリニティ総合学園】だけは自分から“GUYSの先生”に接触することがなかったため、こういう面からも【ゲヘナ学園】に遅れを取っていることに、仲正 イチカは苛立ちを隠せずにいた。それは所属する【正義実現委員会】の面々にしてもそうだった。いつもいつも対応が遅いのだ。

 

そのことがついに具体的な数字になってランキングになって先生からお叱りを受けたのだから、いよいよ正義の実現に一歩近づくだろうという期待感を此度の改革運動を抱くようになったのだ。

 

そして――――――。

 

 

 

百合園 セイア「この前はすまなかったね、先生」

 

百合園 セイア「ただ、怪獣退治の専門家の“GUYSの先生”だからこそ、誰にも聞かれない場所でじっくり話がしたくて、あらためて場を用意させてもらったよ」

 

北条先生「……もしや、怪獣出現の予兆になる怪奇現象の情報が上がっているとか?」

 

百合園 セイア「――――――『怪奇現象』か。たしかに『怪奇現象』かもしれないね」

 

百合園 セイア「実はね、先生。私はそう遠くない未来に起こる出来事を夢で見ることができるんだ。いわゆる予知夢というやつだね」

 

北条先生「……それで?」

 

百合園 セイア「自分から言うのもなんだけど、疑わないのかい、先生は?」

 

北条先生「人間、1つや2つぐらい人には言えないような秘密を抱えながら生きていてもおかしくないだけだよ

 

北条先生「前にも言ったように、ウルトラマンは全知全能の存在じゃないから人の世をどうにかするだなんてことはできないんだし、予知夢を見たぐらいで世の中の全てを意のままに操れるわけでもないよね」

 

百合園 セイア「それは、たしかに……」

 

百合園 セイア「それでも、私はたしかに見たんだ。今なら あれはウルトラマンなんだとわかるけど、全身光に包まれた巨人の影に【トリニティ総合学園】が沈む光景をね」

 

北条先生「……ちょっと待ってて」カキカキ ――――――チョークを取り出してカチンコにデッサンする。

 

百合園 セイア「……私はその光景を見て『【トリニティ】が巨人からも背を向けられる』事態になると考えて、これでも必死の思いで進捗を急がせていたんだ。それこそ、最初の怪獣:クレッセントが現れるずっと前から」

 

百合園 セイア「けれども、結果は知っての通り、あれだけ時間があったのにキヴォトス中の笑い者にされるような有り様さ。ホストだと言うのに今更になって【トリニティ】が抱えている問題の大きさを直視させられたよ」

 

北条先生「それはそうだね。今 気づいてよかったね」

 

百合園 セイア「……そういうものなのかい?」

 

北条先生「そうだよ、百合園さん。『訓練は本番のつもりで、本番は訓練と同じように』と言うけれど、まだその本番を迎えていないんだから、改善に取り組む余裕がまだまだあるよ」

 

北条先生「言ったでしょう。怪獣を倒すのは前提であって、それ以上に人々の平和な暮らしを守るのが第一なんだから、訓練通りにやれなくても精一杯やって犠牲がより少ない結果になったのなら、それが僕たちにとっての一番の勝利だよ」

 

百合園 セイア「……先生がそう言うなら、そうなんだろうね。ありがとうございます。そう言ってもらえて少し気が楽になりました」

 

北条先生「どういたしまして」

 

百合園 セイア「ただ、先生。実は最近になって夢の続きを見ることになったのだけれど――――――」

 

北条先生「うんうん」

 

 

百合園 セイア「全身が光っているウルトラマンが【トリニティ】を背にした後、深い霧に包まれて おそらく怪獣の影が浮かび上がってきた――――――、そういう光景を私は見てしまったんだ」

 

 

北条先生「つまり、【トリニティ】に怪獣が現れると?」

 

百合園 セイア「……おそらく。私が見た夢は良いものも悪いものもよく当たるんだ」

 

百合園 セイア「だから、先生にしか話せないことだったんだ。下手に怪獣が現れることを広めたら、パニックになって収拾がつかなくなるだろうから」

 

北条先生「それは……、よく決心してくれたね、百合園さん」

 

百合園 セイア「ただ、霧の中に影が浮かび上がるだけだったから、怪獣の姿を直接見たわけじゃないんだ」

 

北条先生「いやいや、怪獣にもいろんな姿形があるから、人型だとか、太っちょだとか、尻尾があるとか、手がムチになっているとかがわかるだけでも凄く助かるよ」

 

百合園 セイア「そうかい。なら、たしか こんな感じの輪郭が見えたのだけれど……」カキカキ ――――――チョークを手に取ってカチンコに描く。

 

百合園 セイア「うん。こんな感じだったよ、先生」

 

北条先生「……全体的に長身でピンと張った長い耳が特徴か。何だろう、知っている気がする。思い出せ」

 

百合園 セイア「……先生」

 

北条先生「ああ、ダメだ。すぐには思い出せそうにないな。こう、頭に出かかっているんだけど……」

 

北条先生「でも、1つ気付いたことがあるんじゃないかな、百合園さん?」

 

百合園 セイア「え?」

 

北条先生「ほら、【トリニティ】を背にしたウルトラマンは実は霧の向こうの怪獣と対峙していることにならない、この構図?」カチン ――――――カチンコに描かれた学校と巨人と怪獣。

 

百合園 セイア「あ」

 

百合園 セイア「ああ!?」

 

 

百合園 セイア「――――――『ウルトラマンに見捨てられた』のではなく『怪獣から守ってもらえていた』!?」

 

 

北条先生「ほら、全体の流れがわかると意味が変わることもあったでしょう?」

 

北条先生「だから、未来なんてものは――――――、いや、過去もそうだから――――――、そう、時間が持つ価値なんてのは自分で自由に決められることを忘れないで欲しい」

 

北条先生「たとえば、生前は売れない作家だったけど現在だと誰もが知っている国民的作家がいるようにさ、未来がこうなるとわかっていたとしても、それが現在をがんばらない理由にはならないんだよ」

 

百合園 セイア「先生」

 

北条先生「たぶん、きっと最悪の予知夢は続いていくと思う。僕はその辛さを肩代わりすることはきっとできないけれど、こうして百合園さんを喜ばせる発見をすることができるから、安心して欲しいんだ」

 

北条先生「だからね、僕の子供の頃の一番怖かった体験を聞いて欲しいんだ。それと比べたら全然大したことないって笑い飛ばせるようにね」

 

百合園 セイア「うん。わかった、先生。ぜひ聞かせて欲しいな」

 

北条先生「それはね――――――」

 

 

――――――地球に暗黒宇宙大皇帝:エンペラ星人が来襲して、その絶大なる闇の力によって太陽の黒点を異常発生させて、地球が完全に闇に閉ざされた時だよ。

 

 

百合園 セイア「へ…………」

 

北条先生「そう、あの太陽が日食でもないのに闇に覆われて、光さえ通さない暗雲に包まれた地球は昼も夜もない闇の世界になったんだ」

 

北条先生「想像してごらん。太陽の光のない完全な暗黒世界を。太陽光発電は完全に停止するし、太陽の光を照り返す月の光もない。生物の営みにも影響を与えるし、寒冷化だって始まってしまうんだ。程なくして死の星となる」

 

北条先生「そんな絶望的な世界を知ったら、並大抵のことには驚かなくなるんじゃないかな?」

 

百合園 セイア「う、うん…………」

 

 

北条先生「でもね、だからこそ、人は闇に屈することなく 光を求めるようになるんだよ」

 

 

百合園 セイア「……どんなに絶望的な状況であっても?」

 

北条先生「うん。たしかに絶望的な状況だったけれども、闇に屈することを選んだ人よりも闇を乗り越えて光を求めた人たちの方が多数派だって証明された時でもあったんだ」

 

北条先生「それはきっと地球とよく似たキヴォトスでも同じだと思うんだ。地球人の僕とキヴォトスのみんなの間には通じ合えるものがあるから」

 

北条先生「だから、僕は不出来な生徒たちであろうと先生として応援するよ。そこに優劣なんてない。ただ みんなが手を取り合って笑い合える世界であった方が生きやすいと思うから」

 

百合園 セイア「先生」

 

北条先生「さあ、一緒に乗り越えて行こう。大丈夫、キヴォトスにもウルトラマンが来てくれたから」

 

 

――――――見えない時でもどこかにいるウルトラマン80は優しく僕らを見ているよ。

 

 

日をあらためた【トリニティ総合学園】の生徒会長であるホスト:百合園 セイアとの秘密会談はこうして非常に有意義なものとなった。

 

想像を絶する地球の歴史に慄きながらも、闇を乗り越えて心に太陽を宿した地球人の生き方に感化されて、百合園 セイアも最悪の未来に抗うことを考えるようになれたのだ。

 

それを間近に見て感じ取ると、小学校の先生である北条 アキラはやはり生徒には精神的支柱として導ける『先生』が必要なんだと深く実感することになった。

 

そもそもとして、キヴォトスには見た目もさることながら様々な種族の人々が暮らしていて共生社会を築いているのだが、どうも教え導く必要がある生徒たちと密接な関係にはないらしく、学園に勤務している大人は全て職員でしかないのだ。教員ではない。人間の基礎を形作る教職の場さえも完全にビジネス化された労働現場なのだ。

 

また、【トリニティ総合学園】はミッション系のお嬢様学園として教会も構えているのだが、長年に渡る修行と豊富な人生経験で若者を導き諭す宗教的指導者がいないのも非常に危ういものであり、社会経験も人間理解も何も無く学園を卒業してしまう青二才に道に迷える人たちの心を本当に救えるのかは甚だ疑問である。

 

だから、超巨大学園都市:キヴォトスは数千もの学園が存在しながら早熟の才能に全てを委ねる子供の帝国となっており、成長期や反抗期が重なる多感な時期に銃なんて簡単にもたせたら毎日のように銃声が鳴り響くのも当然の道理ではないか。

 

けれども、不思議なことに銃声を産声にしていつでも銃撃戦となる社会に身を置いて明らかに倫理観が狂って育つキヴォトス人でも地球人とそう変わらない共通の価値観や文明文化を継承しているため、決してわかりあえない異次元の怪物だと思わずに最終的に手と手を繋ぐことができる人間讃歌の普遍性を信じることができるのだ。

 

かつてウルトラマンが地球人の絆を信じて最後まで戦い抜いてくれたように、キヴォトスにおいては異邦人である地球人:北条 アキラもまたキヴォトス人の絆を信じ抜いて己の使命を全うするのだ。

 

その決意を胸に“GUYSの先生”北条 アキラがホスト:百合園 セイアに見送られて【トリニティ総合学園】を後にしようとした時である――――――。

 

 

 

北条先生「――――――霧? 濃霧警報は無かったはずだよね?」

 

百合園 セイア「先生! こんなに視界が悪いとなると何かの弾みで撃ち合いが起きかねない! 一人で帰るのは危ないから、ここは 一旦 施設に避難して欲しい!」

 

北条先生「やむを得ない。交通事故も怖い。ここは一旦退避しようか」

 

北条先生「――――――うん?」

 

百合園 セイア「……先生?」

 

北条先生「この霧、何かしっとりとし過ぎているような……」

 

北条先生「!!?!」ビクッ

 

北条先生「うおわああああああああああああああああああああ!?」ガタッ

 

百合園 セイア「先生!?」ビクッ

 

北条先生「緊急避難! いや、まずは多量の水で洗い流すんだ! ちがう、目と口を塞げ!」ウワアアアアアアアアアアアアアア!

 

百合園 セイア「な、何をするんだい、先生!?」バサッ ――――――上着で顔を隠される!

 

百合園 セイア「きゃっ!?」ガシッ ――――――視界が塞がれた中で急に抱きかかえられる!

 

北条先生「みんなあああああ! 硫酸ミストだああああああああああああああああああああ! 今すぐに避難しろおおおおおおおおお!」ダダダダ!

 

 

 

ダダダダ! バチャアアアアアアアアアアアン! ジャバジャバジャバー!

 

 

 

北条先生「――――――【救護騎士団】ッ!」ドン! 

 

蒼森 ミネ「ん、先生!? それに――――――?」

 

鷲見 セリナ「どうしたんですか!? ズブ濡れじゃないですか!?」

 

北条先生「今すぐに外出禁止令を出せ! あれはただの霧じゃない! 硫酸ミストだ!」ゼエゼエ

 

蒼森 ミネ「なんですって!?」

 

鷲見 セリナ「――――――『硫酸ミスト』!?」

 

北条先生「硫酸ミストを多量に吸入する前にホストを保護した! そのために噴水に飛び込んだから、シャワーで洗い流しながら着替えさせて温かいものを頼む! それに目や喉の検査も!」ビチャビチャ・・・

 

百合園 セイア「せ、先生……」ビチャビチャ・・・

 

蒼森 ミネ「せ、セイア様!?」

 

蒼森 ミネ「わかりました! 感謝します、先生!」

 

蒼森 ミネ「セリナ、セイア様と先生を急いでシャワールームへ! 炭酸水素ナトリウム水溶液(中和剤)も忘れないように!」

 

鷲見 セリナ「わかりました!」

 

蒼森 ミネ「ハナエ、防護服の用意を! 硫酸ミストを浴びた皆様の救護が今すぐに必要です!」

 

朝顔 ハナエ「わーん! 防護服を着て硫酸ミストの中に突っ込むことになるなんてぇ!?」

 

蒼森 ミネ「――――――【救護騎士団】、緊急出動!」

 

 

 

ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーー!

 

 

 

鷲見 セリナ「セイア様、湯加減は大丈夫ですか? 熱くないですか?」

 

百合園 セイア「ああ、大丈夫だよ」

 

百合園 セイア「それより、先生の方は?」

 

――――――

北条先生「……大丈夫だ、百合園さん。亜硫酸が蒸発して濃硫酸になる前に対処できたみたいだ。噴水に飛び込んで正解だった」 ――――――壁一枚隔てて服を完全に脱いだ状態!

――――――

 

鷲見 セリナ「すみません、先生。本当はお手伝いするべきなんですが、その――――――」

 

――――――

北条先生「気にしないで、鷲見さん。替えの服が無いんでしょう。僕が立派な成人男子だから」

――――――

 

鷲見 セリナ「は、はい。学外の市民病院になら先生の身体にも合う病衣もあるんですが、次からは先生の分も用意しておきますね」

 

鷲見 セリナ「ですので、有り合わせで申し訳ないのですが、先生? 紙オムツとジャージを着てもらえますか?」

 

百合園 セイア「なに!? 紙オムツ!?」ドキッ

 

――――――

北条先生「…………もしかして、そのジャージって生徒の?」←173cmのスポーツ万能の選抜隊員(予備役)

――――――

 

鷲見 セリナ「そ、そうなんです! 先生に何も着させないわけにもいかず、すぐに用意できたものがこれしかなかったんです!」

 

――――――

北条先生「それならしかたがない。何も恥じることはないよ。これは人助けをした結果の名誉の負傷だから」

――――――

 

百合園 セイア「……先生」

 

 

羽川 ハスミ「せ、先生! あの、着替えをお持ちしました!」ドキドキ ←179cmの爆乳(まだまだ成長中)

 

 

鷲見 セリナ「あ、ハスミ副委員長。着替えは隣のカーテンがかかっているところの前に置いてください」

 

鷲見 セリナ「その、先生が中におりますので……」

 

羽川 ハスミ「は、はい!」

 

羽川 ハスミ「あの、先生、どうぞお召しになってください。私のジャージなんですけど。それと紙オムツ……」ドクンドクン・・・

 

――――――

北条先生「うん。ありがとう、羽川さん。大切に着させてもらうね」

――――――

 

羽川 ハスミ「あ、はい! お手柔らかにお願いします!」

 

羽川 ハスミ「そ、それでは失礼しますッ!」サササッ

 

百合園 セイア「………………」トクン・・・

 

鷲見 セリナ「それではセイア様もお召し物を」

 

百合園 セイア「うん」

 

百合園 セイア「先生、上手く着られそう?」

 

――――――

北条先生「うんとね。早くクリーニングに出した服が戻ってくるといいなぁ……」ビローン・・・

――――――

 

鷲見 セリナ「あははは、そうですね……」

 

百合園 セイア「先生」

 

――――――

北条先生「はい、百合園さん」

――――――

 

百合園 セイア「助けてくれてありがとう、先生」

 

――――――

北条先生「どういたしまして――――――、と言いたいところだけど、僕はきみしか助けられなかった。ただ単に一番近くにいたきみだけを僕は助けた」

――――――

 

百合園 セイア「うん。きっと この後 大変な結果が待っている」

 

百合園 セイア「それでも、目を逸らさずに乗り越えていく勇気を私に与えてくれた」

 

――――――

北条先生「僕にも手伝えることがあったら言って欲しい」

――――――

 

百合園 セイア「いや、先生はのんびりしていて欲しい。さすがに今の服装のままで出歩かれたら別の意味で大変になるんじゃないかい」

 

――――――

北条先生「それもそうだね」

――――――

 

百合園 セイア「でも、見ていて欲しいんだ。これから変わる【トリニティ】の未来を」

 

――――――

北条先生「うん、わかった」

――――――

 

鷲見 セリナ「それでは大丈夫ですね、先生。セイア様、先生を案内しましょう――――――」

 

 

北条先生「よし、行こう!」ドン! ←179cmの爆乳(まだまだ成長中)で伸び切ったジャージを着こなせない173cmの湯上がり成人男子

 

 

鷲見 セリナ「プッ」

 

百合園 セイア「せ、先生、予想はしていたけど、これは想像以上だね……」プルプル・・・

 

北条先生「……よかった。笑ってくれた」

 

 

こうして北条 アキラは突然の硫酸ミストによって【トリニティ総合学園】に滞在せざるを得なくなり、成人男性用の病衣が届くか、衣服に付着した硫酸ミストのクリーニングが済むまで、検査の後は温かい紅茶と味わいながら【正義実現委員会】副委員長:羽川 ハスミが貸してくれたジャージと紙オムツで過ごす羽目になってしまった。

 

その間、硫酸ミストに覆われてしまった【トリニティ総合学園】だが、正式に外出禁止令が出され、防護服を着た【救護騎士団】が患者の治療を行い、【正義実現委員会】が手分けして生徒たちに物資を配給する事態となっていた。

 

ただの濃霧ではなく硫酸ミストという異常事態に対して内外から原因を追求することになったのだが、どうやら硫酸ミストは【トリニティ総合学園】の中心を完全に覆っており、学外でも健康被害が報告された。

 

しかし、その発生源がまったくわからないのだ。学園1つを飲み込むほどの大量の硫酸ミストが散布されている以上は化学兵器を利用したテロリズムだと即座に断定できるはずなのに。

 

そして、学外の市民病院の様子を確認するついでに成人男性用の病衣を手に入れた【救護騎士団】の救急車が戻ってきた頃に事態が動き出すのだった――――――。

 

 

百合園 セイア「先生!」

 

北条先生「百合園さん、霧の中に怪獣が!?」 ←成人男性用の病衣に着替えることができた。

 

百合園 セイア「ああ、夢で見たのと同じ影が!」

 

北条先生「…………特徴は描いてもらった通り。やっぱり、どこか見た覚えがあるけど、ダメだ、思い出せない。頭の中に本当に霧がかかったみたいだ」

 

百合園 セイア「どうすればいい、先生?」

 

北条先生「正体がわからないうちに無闇に攻撃するのは得策じゃない。ここは偵察機を飛ばして実態の把握に努めよう」

 

北条先生「いいですか。もし怪獣が口から破壊光線を撃てるタイプだった時、民間人の避難が完了していないのに怪獣に攻撃を開始したらどうなるかですよ」

 

北条先生「とにかく、怪獣を刺激する前に避難シェルターへの誘導を。あるいは、学園からの脱出も同時に進めてください」

 

百合園 セイア「…………『脱出』!? 『避難』じゃなくて!?」

 

北条先生「避難シェルターの整備が不十分で生徒全員を収容できない以上、硫酸ミストでまともに外を出歩けないとなると、今のうちに生徒たちを脱出させないと避難シェルターから人が溢れて硫酸ミストの餌食になる」

 

百合園 セイア「――――――学園が戦場になると言うのかい!?」

 

北条先生「急いで! 中州に建てられた【トリニティ総合学園】で橋を壊されたら脱出ができなくなる! まさか、泳いで向こう岸に行かせようってわけじゃないよね?」

 

百合園 セイア「わかった。すぐに生徒たちを学園から脱出させるように手配するよ」

 

北条先生「……あとは、硫酸ミストの濃霧で視界が悪い状況で【キヴォトス防衛軍】を出動させて、まともに作戦行動ができるかだ。アクロバットチーム【FLYING ANGELS】でも霧の中に隠れた怪獣を狙うのは難しいぞ」

 

 

北条 アキラは百合園 セイアが夢に見た霧の向こうに聳え立つ怪獣の影を見つめた。その巨影の正体に心当たりがあることを感覚が告げているが、どうしても思い出すことができずにいた。

 

いや、あれが硫酸ミストを発生させる怪獣だと考えるなら、実はすでに答えが出ていたのだ。

 

なぜなら今の自分はウルトラマン80であり、これまで戦ってきた地底怪獣:クレッセント、宇宙怪獣:ギコギラーの次に【ドキュメントUGM】に登録されている怪獣の情報がすぐに頭に過っていたからだ。

 

そう、北条 アキラ自身も疑問に思っているのだ。なぜウルトラマン80に変身できるのか。なぜキヴォトスにウルトラマン80が倒した怪獣が現れるのか。順番通りにクレッセント、ギコギラー、ホーが出現している状況をただの偶然と片付けるわけにもいかない。

 

それでも、自分がウルトラマンとなって戦うにしても今は民間人の避難が最優先であり、こうして避難シェルターの整備をきちんとやらなかったことで学園を脱出せざるを得ない状況に【トリニティ総合学園】が追い込まれた以上は、変わらざるを得ないのだろうと他人事のように思った。

 

今、眼下には【正義実現委員会】が施設の接続口として急いで建てた集会用テントに大型バスが入っていき、硫酸ミストがかからないように細心の注意を払って生徒たちがバスに乗り込んでいる様子が見えるが、キヴォトス三大学園(BIG3)の一角である【トリニティ総合学園】の生徒たちを完全に避難させるには時間が掛かりすぎる。

 

それまで大人しく怪獣が霧の向こうで突っ立っている保証はないが、長丁場になることを期して監視しやすい場所に椅子とテーブルを持ってきて張り込んで、【キヴォトス防衛軍】の軍事顧問として硫酸ミストの中和剤と除染作業の手配を指示していた。こういう状況で輝くのが歴代最強の防衛チーム【ZAT】のスカイホエールであり、中和剤を機内で生成して散布することができたら どれだけ心強いことか――――――。

 

しかし、ないものねだりをしてもしかたがないのだ。どうしてか霧の向こうに浮かぶ影の正体を完全に思い出せなくても、硫酸ミストを作り出せる怪獣であることは確定しているので、【ドキュメントUGM】に収録されたウルトラマン80の戦いを思い出して、今はどんな風に戦うべきなのかに意識を向けていればいい――――――。

 

 

北条先生「……うん?」

 

北条先生「――――――霧が薄くなった?」

 

北条先生「――――――いや、あれは霧を吸って!?」

 

北条先生「――――――まさか、()()()()だとッ!?」

 

北条先生「――――――思い出した! そうか、【ドキュメント・フォビドゥン】の怪獣だから()()()()()()()()()()()()だったか!」

 

北条先生「――――――ということは、あれはもう発射寸前なのか!?」ガタッ

 

 

 

バッ        

 

        バッ

 

エイティ!

 

 

 

 

 

 

蒼森 ミネ「セイア様、後のことは任せて早く脱出を」

 

百合園 セイア「それはできない。私はホストなんだ。【救護騎士団】や【正義実現委員会】の大多数が残るのに、責任をとれる立場の人間がいなくなったら何かあった時に支障が出る」

 

百合園 セイア「だから、脱出先でのまとめ役としてホスト代行に“桐藤 ナギサ”を指名する」

 

桐藤 ナギサ「え」

 

聖園 ミカ「セイアちゃん!?」

 

百合園 セイア「次のホストは【フィリウス】なんだから、妥当な判断だろう?」

 

桐藤 ナギサ「それはそうですけど……」

 

聖園 ミカ「いや、でも、セイアちゃん!?」

 

百合園 セイア「いいかい、ミカ。私が残るのは霧の向こうの怪獣を倒すために【キヴォトス防衛軍】に協力するからなんだ」

 

百合園 セイア「その一番の協力というのは民間人の避難が完了していることを伝えること。そうしないと民間人を巻き込んだ時に責任問題に発展することを恐れて【キヴォトス防衛軍】が動けなくなるから、ホストである私が責任を持たないと先生の怪獣退治の足を引っ張ることになるんだ」

 

百合園 セイア「だから、怪獣が動き出す前に一刻も早く離れて欲しい。“GUYSの先生”にきちんと仕事をさせてあげるためにも」

 

百合園 セイア「これはきみたちが次のホストになった時に絶対に忘れないで欲しいことだ」

 

桐藤 ナギサ「……わかりました、セイアさん」

 

百合園 セイア「……頼んだよ」

 

聖園 ミカ「……ナギちゃん、セイアちゃん」

 

蒼森 ミネ「それでは、ナギサ様、ミカ様。急いで脱出を。硫酸ミストが掛からないようにお車にお乗りください」

 

 

 

百合園 セイア「……結局、避難シェルターを使うよりも学園から脱出する方を希望する生徒の方が大半だったね」

 

百合園 セイア「クレッセントが現れる前から準備していたのに、この体たらくだよ」

 

蒼森 ミネ「しかたがありません。硫酸ミストを浴びた生徒たちを安静にするために避難シェルターを使い切りましたから。硫酸ミストの発生は完全に想定外です」

 

百合園 セイア「そうだね。想定外だね。こうして学園から生徒たちを脱出させる事態になるのもね」

 

百合園 セイア「今回の一件で怪獣災害の恐ろしさが身に沁みてわかったね、私も、みんなも」

 

蒼森 ミネ「はい……」

 

百合園 セイア「ともかく、避難が完了しないことには【キヴォトス防衛軍】も作戦行動に移れないから、どんどん生徒たちを学園の外に送り出さないと――――――」

 

百合園 セイア「…………?」

 

百合園 セイア「……少し霧が晴れたかい?」

 

蒼森 ミネ「そう言えば そうですね。ですが、硫酸ミストである以上は外に出るのはまだ危険です――――――」

 

 

 

トゥア!

 

 

 

蒼森 ミネ「なっ」

 

百合園 セイア「――――――ウルトラマン!」

 

蒼森 ミネ「いけない! 伏せてください、セイア様!」ガバッ

 

百合園 セイア「あ」ドサッ

 

 

学外へ生徒たちを脱出させるバスが次々と発進するのを生徒会長:百合園 セイアが蒼森 ミネと共に見守る中、硫酸ミストの霧が少し晴れたことで重責が果たされつつあることを実感したのも束の間、突如としてウルトラマンが予知夢通りに【トリニティ総合学園】に降り立った。

 

しかし、次の瞬間には【救護騎士団】団長:蒼森 ミネには怪獣が放つ七色の光線が霧の向こうから飛んできたのが見え、両手を頭上で交差させたウルトラマンの背中に目が行っていた百合園 セイアを抱きかかえて急いで床に伏せたのだった。

 

どれくらいの時間が経ったのか、【トリニティ総合学園】に直撃コースに思えた七色の光線がどうなったのか、蒼森 ミネが恐る恐る目を見開くと仰向けの百合園 セイアはずっと見ていたのだ。

 

そう、ウルトラマンが【トリニティ総合学園】を守る巨大な光の壁:リバウンド光線を張って霧の向こうから放たれた七色の光線を防いでくれていたのだ。

 

そして、その力強い背中を見せたウルトラマンはこちらの方をたしかに振り向くと、七色の光線が放たれた霧の向こうへと一飛びしたのである。その跳躍力は700mはあり、怪獣との間合いを一気に詰めたのであった。

 

 

 

タアァ!

 

 

 

ところが、霧の向こうから【トリニティ総合学園】目掛けて七色の光線を放ってきた いかにも悪そうな面構えの【ドキュメント・フォビドゥン】にも記録された硫酸怪獣:ホーはウルトラマンが繰り出した急降下キックを意外なまでの身軽さで躱し、間髪入れずにウルトラマンの着地を狩る。

 

いかに自分よりも体格に勝る怪獣相手に鋭い一撃を与えられるウルトラマンとて 怪獣と真正面からの殴り合いとなると 体格差で押し負けることになり、一発一発の重みのちがいに加えて、ウルトラマンとそう変わらない機敏さでピンと張った耳ごと頭突きをかましてくると防御が追いつかないのだ。

 

頭突きで怯んだところに硫酸怪獣が抜け目なく光線を放ち、ウルトラマンは【トリニティ】市街の高層ビルを押し倒して吹き飛ばされることになり、平和だった【トリニティ】に破壊をもたらす地響きが起こる。更にホーは攻撃の手を緩めることなくウルトラマンを蹴り上げ、ウルトラマンの身体が 一瞬 宙に浮く度に耳を思わず塞ぎたくなるような巨大な地響きが繰り返された。

 

そう、この硫酸怪獣:ホーは過去に 二度 地球に現れたマイナスエネルギーから誕生した怪獣であり、一度目は本物のウルトラマン80が、二度目はウルトラマンメビウスが対峙することになったが、いずれの場合も一筋縄で撃破できなかった強豪怪獣であり、硫酸怪獣の名の通り目から硫酸の涙を流すのは特徴の一つに過ぎなかった。

 

特に、【ドキュメントUGM】に記録されているものはマイナスエネルギーの発生源として硫酸怪獣を生み出してしまった重要参考人の情報保護のために【ドキュメント・フォビドゥン】に最重要情報が隠蔽されており、大山キャップの意志を受け継いで平和な時代でマイナスエネルギーの抑止を志して【ドキュメント・フォビドゥン】の機密情報を閲覧した北条 アキラは真実を知って対処の困難さに頭を抱えることになった。なお、見終わったら守秘義務と知識活用の両立のために『見たら思い出せる』記憶操作を受けている。

 

まさしく硫酸怪獣:ホーは人間の負の感情が発生源となるマイナスエネルギーの化身そのものであり、人間社会が自ら育んで積み重ねてきた不誠実さや不寛容さ、理不尽さを体現した悪因悪果の怪獣であり、たとえ力尽くで倒せたとしても第2第3のホーの出現を覚悟しなければならない不滅の怪獣であった。

 

だからと言って、外見からは想像できない肉弾戦の強さ以上にこの攻撃性の高さは異常とも言えるものであり、同じマイナスエネルギーから誕生した地底怪獣:クレッセントでもここまで凶暴ではなく、蹴り上げられては勢いよく転がっていくウルトラマンを執拗に追いかけて何度も踏みつけようとする様は鬼気迫るものがあった。

 

ここに来て初めての強敵であり、地球防衛軍が集積した事前知識があって ある程度の対策や予測ができていたと言うのに、ファンタジーものでもまずお目にかかれない異形の怪物の凶暴さに一方的に打ちのめされており、ウルトラマンに変身した北条 アキラは初めて憧れだけで怪獣に立ち向かうことの痛さと怖さを味わっていた。

 

しかし、同時にウルトラマンが味わってきた体験を今まさに自分の身で味わえたことで、ウルトラマンの心を実践する“ウルトラマン先生”としての完成度が高まったことに狂喜せずにはいられなかった。その痛さと怖ささえも我がものとする勇気が輝き出す。奮い立つ闘志。ウルトラマンになっていく喜び。

 

何より、北条 アキラが“ウルトラマン先生”を目指すきっかけになったのも、廃校となった地元の桜ヶ岡中学校のマイナスエネルギーから再誕した硫酸怪獣:ホーであり、ホーに手こずるウルトラマンメビウスの救援にマイナスエネルギーを察知して再び地球にやってきた“思い出の先生”ウルトラマン80が戦った足跡を後から追いかけて調べ上げたことで、恩師:大山キャップとめぐりあうことができたのだ。

 

だからこそ、北条 アキラは痛さと怖さを超越して自分にとって因縁(はじまり)の怪獣との戦いに感極まっており、さんざん踏みつけられて赤と銀の巨人の身体が悲鳴を上げていても、悲しみと怒りを硫酸の涙に変えた怪獣に立ち向かう闘志は揺らがない。

 

 

 

百合園 セイア「――――――やっぱり、勝てない!?」

 

百合園 セイア「ダメだ! 逃げてくれ、ウルトラマン! ウルトラマンッ!」

 

仲正 イチカ「いや、一番先に逃げるのはホストであるあなたっすよ、セイア様! 見てないで早く安全な場所へ!」

 

蒼森 ミネ「セイア様! いったいどうしたと言うのです!?」

 

百合園 セイア「わ、私は先生に何も言わなかった!」

 

百合園 セイア「仮眠していた時、ウルトラマンが怪獣の光線から【トリニティ】を守ってくれた()()()まで見ていたのに、私は忙しさにかまけて そのことを先生に伝えてなかった!」

 

 

――――――ああ、運命を変えるなんて無理だったんだよ!

 

 

百合園 セイア「あの“連邦生徒会長”にだってできなかったことを()()()()()()()()の私なんかにできるはずもなかったんだ……」

 

仲正 イチカ「……な、何を言ってるんですか、セイア様?!」

 

蒼森 ミネ「…………セイア様」

 

百合園 セイア「いいんだ。あのランキングも持ち回りでホストをやっていただけの私の実力のなさを反映させたものなんだ。私は【ミレニアム】の調月 リオや【ゲヘナ】の羽沼 マコトには遠く及ばない。だから、この結果を招いてしまった――――――」

 

蒼森 ミネ「セイア様、それはちがいます」

 

百合園 セイア「え」

 

蒼森 ミネ「たしかに、【トリニティ総合学園】はその歴史と伝統を誇りとし、同時に甘えとしてきたことで時代の流れに取り残されていることは否めません」

 

蒼森 ミネ「ですが、まだ全てが終わったわけではありません! 変わりたいと願ったのなら『始めるのが遅すぎる』だなんてことはないのです!」

 

仲正 イチカ「そうっすよ! あきらめるには早すぎます!」

 

仲正 イチカ「北条先生は“シャーレの先生”もやって“GUYSの先生”もやって 時間の余裕なんてどこにもないはずなのに、ツルギ先輩の映画鑑賞に付き合ったり、ハスミ先輩とも読書会をしたり、私にもギターを教えてくれたりしてますから」

 

仲正 イチカ「先生がそんなことをしているだなんて、セイア様、知らなかったでしょう?」

 

百合園 セイア「あ、ああ……」

 

蒼森 ミネ「そうですね。他にも、怪獣災害に備えて学外の市民病院でも地球の最新の医療技術やアイデアを広めてくださり、それで新開発された医療品の逸早い手配もしてくださっております」

 

蒼森 ミネ「ですので、それと同じです、セイア様。いきなり全てを変えることは難しいですが、変わろうと思って行動を始めていけば、着実に世界は変わっていけるのです。それは私たちが一人一人に行う救護や救助活動にしても同じです」

 

 

歌住 サクラコ「そのとおりです、みなさん! 今こそ【トリニティ】を変えていく覚悟を示す時です!」ドン!

 

 

蒼森 ミネ「サクラコ様?!」

 

百合園 セイア「!」

 

仲正 イチカ「……いったいどういうことっすか? 怪獣対策の集まりでも不干渉を貫いてきた【シスターフッド】のリーダーが今になって?」

 

歌住 サクラコ「聴いてください! 私も、私たちも変わろうと思います! “災害の化身”である怪獣を前に何もしないでいるのは遠くの星から来てくださった素晴らしき隣人であるウルトラマン様に対して失礼だと思いましたから!」

 

歌住 サクラコ「ですので、【シスターフッド】を代表して、歌住 サクラコ、ウルトラマン様と一緒に怪獣と戦う覚悟です!」

 

仲正 イチカ「……もうちょっと早くに言って欲しかったっすね、それ」

 

百合園 セイア「……サクラコ。そうかい。ありがとう」フフッ

 

蒼森 ミネ「セイア様」

 

百合園 セイア「なあ、サクラコ? ウルトラマンの話の出所はやっぱり先生かい?」

 

歌住 サクラコ「はい。Xデーに怪獣の魔の手からキヴォトスを破滅からお救いしてくださったウルトラマン様とは何なのか、そのことについて先生とお話をさせていただきました」

 

歌住 サクラコ「その時に得た答えと言うのが、遠くの星から困っている人を助けに来てくださった素晴らしき隣人であると、先生が教えてくださったのです」

 

歌住 サクラコ「そして、今まさに私たちを助けに来てくださった隣人が追い詰められているというのに、隣人愛を説く私たちが助け合いの精神を実践せずして、何が信仰の道ですか!」

 

歌住 サクラコ「ウルトラマン様を援護するべく、すでに戦闘機(クフィル)による空対地ミサイル(マーベリック)の発射準備が済んでいます」

 

百合園 セイア「わかった。援護を頼む」

 

仲正 イチカ「ここでまさかの【シスターフッド】の航空支援っすか! 【SRT特殊学園】のアクロバットチーム【FLYING ANGELS】の到着が間に合わない今の状況でなら――――――!」

 

百合園 セイア「ああ! きっと運命は変えられる!」

 

 

――――――だから、負けないでくれ、ウルトラマン!

 

 

 

タアァ!

 

 

 

カラータイマーの点滅が始まる中、硫酸怪獣:ホーの踏みつけ攻撃をやっと両腕で防いだウルトラマンは点滅するカラータイマーから電撃光線:スパーク光線を放ち、電撃に怯んだホーをカンガルーキックで押し退けた。

 

そして、すかさず最初の怪獣:クレッセントを仕留めたウルトラコンボ:側転→背負投→サクシウム光線が炸裂。硫酸怪獣:ホーは跡形もなく消えた。マイナスエネルギーによって誕生した硫酸怪獣:ホーはこれにて撃退されたかに見えた。

 

しかし、硫酸怪獣が散布した硫酸ミストは完全には晴れておらず、放っておけば 風に流されたり 雨水に混ざったりして【トリニティ】の健康被害が拡大するため、ウルトラマンはその場で高速回転を始めて硫酸ミストを一身に集め出したのだ。

 

残留した硫酸ミストをウルトラ念力:ウルトラウインドで巻き上げて一身に集めながら、ローリングウォッシュで遠心力を利用して体に付着した硫酸ミストを竜巻に分離させ、両手先を合わせて放射する超低温ガス:フリージィングレーザーで硫酸ミストの竜巻を固体化させた。

 

冬場でもないのに現れた氷の塔が【トリニティ】の倒壊したビル街に幻想的な冷気を放ち、ウルトラマンは最後の仕上げに凍った硫酸ミストを爆破処理するべくサクシウムエネルギーを調整しながらLの字に両腕を突き出した――――――。

 

 

――――――その時、ウルトラマンのサクシウム光線で霧散したと思われた硫酸怪獣:ホーが再び実体化したのだ!

 

 

蒼森 ミネ「なっ」

 

仲正 イチカ「まずいっす! あの怪獣、死んでなかったっすか!?」

 

百合園 セイア「――――――そんな!? これは予知夢通りの光景ッ!?」

 

歌住 サクラコ「う、後ろです、ウルトラマン様! 避けてください!」

 

蒼森 ミネ「いえ、セイア様! サクラコ様! ダメです! 避難してください! 【トリニティ総合学園】を背にしないようにウルトラマンは戦ってくれましたが、今、怪獣の射線がこちらに向いています!」

 

歌住 サクラコ「あ」

 

仲正 イチカ「いや、もう間に合わないっす! あの怪獣、首から霧を吸収して、口から光線の光がもう――――――!?」

 

 

チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!

 

 

ヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!

 

 

百合園 セイア「あ……」

 

仲正 イチカ「か、間一髪ぅ……」ホッ

 

歌住 サクラコ「せ、戦闘機部隊が……、空対地ミサイル(マーベリック)が間に合ったんですね……」ホッ

 

仲正 イチカ「あ、見てください! ウルトラマンがバックルビームで今度こそ怪獣をやったっす!」グッ

 

蒼森 ミネ「これで決着ですね」ホッ

 

百合園 セイア「――――――運命が変わった」

 

 

硫酸怪獣:ホーによる【トリニティ総合学園】直撃コースのウルトラマンの背後を狙った七色の光線は緊急発進した【シスターフッド】の戦闘機(クフィル)部隊の空対地ミサイル(マーベリック)のヘタクソな対地攻撃によって足元に着弾した爆風が射線を仰向きに押し上げた。

 

それと同時に七色の光線が【トリニティ】の空に放たれる前からすでに振り返っていたウルトラマンが硫酸怪獣:ホーを撃退した実績のある超必殺のバックルビームを放ったのだ。

 

光のシャワーを浴びせられた硫酸怪獣:ホーは爆散することなく、けれども毒々しい濃霧となって霧散するわけでもなく、透き通るような光の粒へと浄化されて散った。同時にホーから生み出された硫酸ミストを固めた氷の塔も光となって散ったことにより、硫酸怪獣の脅威が完全に消え去ったことをこの戦いを見ていた者に理解させることになった。

 

そして、隣で冷気を放っていた氷漬けの硫酸ミストが一緒に光になったことを感慨深そうにウルトラマンが見ていたが、最後に硫酸ミストで汚染された一帯の樹木や河川を浄化するべく、光に含まれた放射線によって生命活動を活性化させる光線:メディカルパワーを放ち、役目を終えたウルトラマンは空高く飛び上がったのだった。

 

しかし、飛び去る前にウルトラマンの何万kmも離れた場所から発する音を聴き分けることができる耳が硫酸ミストを浴びて苦しんでいる誰かの声を受け取った、その結果――――――。

 

 

仲正 イチカ「とりあえず、これで硫酸ミストも消えたし、【トリニティ】を襲った怪獣の脅威は完全に去ったってことでいいんですかね?」

 

蒼森 ミネ「いえ、ウルトラマンが一帯に発生した硫酸ミストを掻き集めて処理してくれましたが、油断は禁物です。すでに体内に吸入された硫酸ミストによる症状がなくなったわけではないのですから」

 

百合園 セイア「そうだね。今度こそ怪獣は倒れてくれたと思うけど、しばらくは様子見で、霧に覆われていた地域の重点的な調査をやらないとだよ」

 

仲正 イチカ「そうっすね。硫酸ミストで劣化した箇所の点検もやんないといけないっすね」

 

歌住 サクラコ「ですが、何はともあれ、ウルトラマン様の助けになれたことを嬉しく思います」

 

百合園 セイア「そうだね。あの援護がなかったら、本当にどうなっていたことか。【シスターフッド】の協力に深く感謝する――――――」

 

 

北条先生「おーい!」ダダダダ!

 

 

歌住 サクラコ「先生!」

 

百合園 セイア「ああ、先生。【トリニティ】を覆っていた霧は晴れたよ」

 

北条先生「ああ。どんなに霧が濃くても太陽はずっと輝いていただろう」

 

歌住 サクラコ「そのとおりです、先生!」

 

仲正 イチカ「……ちょっと待つっすよ? 先生、誰すか、背負っているの?」

 

蒼森 ミネ「……硫酸ミストの被害を受けた方ですね、先生。では、今すぐに診ましょう」

 

北条先生「……ありがとう。すぐに診てもらえると信じていたよ」

 

蒼森 ミネ「それが【救護騎士団】の務めですから」

 

仲正 イチカ「………………」ジー ――――――不審者を見る目。

 

蒼森 ミネ「応急処置が済んでいるので大丈夫そうですね。さすが先生です」

 

蒼森 ミネ「ですが、先生?」

 

北条先生「あ、はい、蒼森さん」

 

蒼森 ミネ「今はどこで患者を見つけてきたかは訊きませんが、硫酸ミストの中を病衣で駆け回った以上は先生は立派な救護の対象ですよ。もう一度 検査を受けてください」

 

北条先生「あ、うん、そうだね。あはは……」

 

仲正 イチカ「先生、霧が少しでも晴れたからと言って救難信号を拾って一人で助けに行ってたんすか? いくら先生が怪獣退治の専門家でも安全な場所から勝手に抜け出すのはやめて欲しいっすよ?」

 

北条先生「……一刻を争う事態だった。すまない」

 

蒼森 ミネ「それでは、みなさん、後のことはよろしくお願いします。私はこちらの患者と先生を連れて行きますので」

 

百合園 セイア「ああ。まかせてくれ」

 

歌住 サクラコ「はい、【シスターフッド】も全面的に協力しますので、先生! 今はお大事に!」

 

北条先生「ありがとう、みんな。まさか、【ティーパーティー】【救護騎士団】【シスターフッド】のリーダーがここに集まっているなんて思わなかったけど、同じ場所で 同じものを見て 同じ思いを抱いたのなら、【トリニティ】の未来は明るいはずだ」

 

百合園 セイア「うん。こちらこそ、ありがとう、先生。本当に」

 

 

――――――だから、これからみんなで変えていく未来をウルトラマンと一緒に見ていてくれ。

 

 

こうして突如【トリニティ総合学園】を襲った第3の怪獣:ホーによる怪獣災害は終結した。

 

【キヴォトス防衛軍】の出番こそはなかったものの、キヴォトス一斉避難訓練の結果に示されていたキヴォトス三大学園(BIG3)の一角である【トリニティ総合学園】の怪獣災害に対する無関心はこれで払拭されることになり、

 

更には、【トリニティ総合学園】創設以来の古き因習であった派閥争いによって学園全体の改革が遅々として進まなかった現状が、対岸の火事に思えた怪獣災害に実際に直面したことによって滅亡への危機感を覚え、大きく変わらざるを得なくなった。

 

事実、怪獣災害に対して学園が運営する各部署を管轄する派閥の連携が取れていなければ立ち行かないことが身に沁みてわかり、

 

本当に今を生きる人々にとって必要なことのために【ティーパーティー】を構成する【パテル分派】【フィリウス分派】【サンクトゥス分派】、【救護騎士団】の前身となる【ヨハネ分派】、【シスターフッド】の母体となる【ユスティナ分派】の代表たちが手を取り合って協調路線を歩むことを誓い合ったのである。

 

そうして派閥ごとの決まり事や秘密事項は以前として残ったままであったものの、歩み寄れるところは歩み寄って開放政策を少しずつ推し進めていった結果、

 

“GUYSの先生”に課題として突きつけられた自治区内の一般市民を完全に収容できる避難シェルターの整備や安否確認サービスへの登録は順調に進み、次回の【キヴォトス防衛軍】の特番のランキング発表で【ゲヘナ学園】を上回って名誉挽回を果たすこととなる。

 

やはり、最後に物を言うのは団結力であり、【ゲヘナ学園】はどこまでいっても生徒たちが自己中心的で自分の利益のためだけに他人と手を組む傾向があるため、最後の詰めを徹底させることが難しくて最終的に伸び悩んでしまうのだ。

 

それに対して、宿敵である【ゲヘナ学園】はおろか、キヴォトス全体から見てもランキングが低いことに衝撃を受けて反省したこともあり、直後の怪獣災害もあって【トリニティ総合学園】の風紀は引き締まりながらも開放的で新たな体制を受け入れる協調性が息づくものとなったのだ。

 

しかし、その結果発表の前から【トリニティ総合学園】の空気が良くなっていることを肌で感じていた北条 アキラであったが、第3の怪獣:ホーを撃退した直後の検査入院での思わぬ見舞客とのことで自分とキヴォトスの関係について考え込んでいたのだった。

 

――――――――――――

―――――――――

――――――

―――

 

コンコン、ガチャ・・・

 

北条先生「おや、面会の時間はもう過ぎて――――――」

 

北条先生「何者だ、貴様ッ!?」ガタッ

 

錠前 サオリ「――――――先生ッ!?」ビクッ ――――――目に包帯が巻かれているため、何者かの気配に怯える。

 

ゴルコンダ「こうしてお会いするのは初めてでしょうか」

 

ゴルコンダ「わたくしの名前は“ゴルコンダ”と申します」

 

北条先生「……これはご丁寧にどうも」ジャキ ――――――生徒の盾となるべくトライガーショットで狙いを定めるが、

 

北条先生「――――――頭がない? どういう存在なんだ?」ゾクッ ――――――相手は頭がない異形であり、代わりに後頭部の写真を抱えていた!

 

ゴルコンダ「おっと、そうでしたね、ここはキヴォトスですから突然の面会ともなると警戒されて当然です。これは失礼をしました」

 

ゴルコンダ「少々故あって、このような形で貴下に挨拶することとなりましたが、背を向けた状態での挨拶となるご無礼、どうかお許しくださいませ。わたくしにはこれ以外の方法がありませんもので」

 

北条先生「――――――『背を向けた状態』?」

 

デカルコマニー「まあ そういうこった!」

 

錠前 サオリ「せ、先生!? こいつらはいったい……?!」

 

ゴルコンダ「ああ、そうでした。ちなみにこちらは、わたくしの身体の代行をしてくれる“デカルコマニー”です」

 

ゴルコンダ「わたくしたちは言うなれば、お互いにお互いが『虚像』と『非実在』を象徴する相棒であり、()()なのです」

 

デカルコマニー「そういうこった!」

 

ゴルコンダ「全ての()()がそうであるように、デカルコマニーとわたくしもまた、自らによってのみ存在することは叶いません。いつ何時も()()というものは、その中に解釈によって導き出される『テクスト』を含んでいるのです」

 

ゴルコンダ「ですが、これはわたくしたちだけの問題というわけではございません。なにせ、存在するものはことごとく()()なのですから。それこそが、わたくしとデカルコマニーが見ている『世界』の在り方です」

 

ゴルコンダ「云わば()()と象徴の地獄、実存主義者たちの辺獄とでも申しましょうか」

 

錠前 サオリ「せ、先生……、こいつ、いや、こいつらはさっきからいったい何を言っているんだ?」

 

北条先生「……面会時間を無視して押しかけてやることが哲学の講義か?」

 

ゴルコンダ「いえ、これは失礼を。要件そのものは単純明快なものです」

 

 

ゴルコンダ「そちらの生徒:錠前 サオリの迎えに来ました。これはマダムからの要請です」

 

デカルコマニー「そういうこった!」

 

 

錠前 サオリ「なに、マダムの?」

 

北条先生「……キヴォトスにはいろんな種族の大人がいるから、今更あなたの見た目だけで判断するつもりはない」

 

北条先生「けど、そのマダムとやらはあなたの目から見て教育者としてふさわしいかを聞かせてもらえないか?」

 

北条先生「あなたの言う()()とやらに則するなら――――――、あなたは面会時間を無視して押しかけてきた。それも錠前さんを迎えに来たことをすぐ言えばいいのに自分の興味のある分野を開口一番に聞かせて本題を後回しにしてきた。あなたは学者としては弁が立つのかもしれないけど、教育者としては非常識で優秀とは思えない」

 

北条先生「そして、そんなあなたに錠前さんの迎えを任せて自分から連絡を取ろうともしないマダムのことを僕は信用できない」

 

ゴルコンダ「おお、素晴らしいです、先生。早速、『テクスト』を解釈して()()を読み解いてくれました」

 

ゴルコンダ「しかし、なるほど、さすがは先生です。あなたが介入することで全ての概念が変わってしまいます。元々この物語のあらすじはこうではなかったはずなのです」

 

北条先生「…………何を言っているんだ?」

 

 

ゴルコンダ「元々この物語に登場する怪獣は『ユザレの予言』では大地を揺るがす怪獣:ゴルザと空を切り裂く怪獣:メルバであり、更に【トリニティ】を襲う怪獣はもっと別のものになっていたはずなのです」

 

 

ゴルコンダ「それが月の輪怪獣:クレッセント、羽根怪獣:ギコギラーへと置き換わり、ここでは硫酸怪獣:ホー? 最新の発表ではそんな名前でしたか? それへと置き変わったのです」

 

ゴルコンダ「となれば、今やキヴォトスの救世主として『崇高』にもっとも近いウルトラマン80でさえも、()()()()から置き換わったとするのなら、その『テクスト』を解釈してキヴォトスに現れた巨人と怪獣の()()に別の意味をもたせられるのは、先生、地球人であるあなたしかいないわけなのです」

 

デカルコマニー「そういうこった!」

 

北条先生「――――――!」

 

ゴルコンダ「ですから、わたくしは是非とも先生にお会いしたかったというわけなのです。これからもあなたが作り出す作品を応援していますよ」

 

デカルコマニー「そういうこった!」

 

北条先生「……錠前さんの迎えはそのついでか」

 

北条先生「保護者との確認電話――――――、なんてのはキヴォトスにはないか。キヴォトスそのものが孤児院か、もしくは全寮制なのか、親と子の関係のみならず、先生と生徒が切り離された不可解な社会構造になっている以上は」

 

ゴルコンダ「そうです。どうしてキヴォトスはこのような()()なのか、先生もそのように疑問にお思いなのですね」

 

北条先生「……錠前さん? どうやら迎えが来たみたいだけど、このゴルコンダさんのことを信用できるかな?」

 

錠前 サオリ「……マダムがわざわざ迎えを用意してくれたのなら、私はそれに従うだけだ。ありがとう、先生」

 

北条先生「マスクをしていたおかげで軽症だったとは言え、硫酸ミストの後遺症が治るまでは無理はしないようにね。この袋の中に治療薬と治療方法が書かれているから、そのマダムという人によく読ませてね」

 

北条先生「あと、そうだ。これは退院祝い。これで硫酸ミストでボロボロになった服を買い替えなさい」

 

錠前 サオリ「本当に何から何まですまない、先生。包帯が外れるまでは何も視えないが、先生のことは絶対に忘れない」

 

北条先生「僕は“シャーレの先生”で“GUYSの先生”ってことで有名だから、もし助けがいる時は一緒に入れた手帳に連絡先が書いてあるからね」

 

北条先生「では、錠前さんをちゃんとマダムのところに連れて行ってください、ゴルコンダさん、デカルコマニーさん」

 

―――

――――――

―――――――――

――――――――――――

 

 

北条先生「………………」パラッ ――――――【トリニティ総合学園】の成り立ちについての歴史書を読む。

 

北条先生「――――――【アリウス分派】。唯一 学園の統合に反対したことで迫害を受けるようになり、本来の自治区からも追放されて消滅した」

 

北条先生「――――――【ユスティナ分派】。学園の統合は【パテル分派】【フィリウス分派】【サンクトゥス分派】が中心となって行われたが、当初は信仰を第一にしていたことで後の【シスターフッド】の母体となる【ユスティナ聖徒会】が生徒会だった」

 

北条先生「――――――【パテル分派】【フィリウス分派】【サンクトゥス分派】による生徒会【ティーパーティー】への権力移行は運営力や政治力に長ける三派に委ね、政治から離れて【シスターフッド】が信仰の本分を全うするためとされる」

 

北条先生「――――――異説では、信仰第一の運営を行った【ユスティナ聖徒会】の政治が苛烈であったことで学園が分裂の危機を迎えたためであるとされ、その反省で【シスターフッド】は信仰第一で政治には不干渉の立場を貫くことになった」

 

北条先生「うん。あらためて読み返すと、やはり【トリニティ総合学園】はマイナスエネルギーの発生源として要注意だ」

 

北条先生「【ドキュメント・フォビドゥン】に記録されていた、ウルトラマンメビウスが戦った硫酸怪獣:ホーが廃校になった桜ヶ岡中学校の校舎から発せられたマイナスエネルギーによって誕生した事実があるように、」

 

北条先生「数千あるキヴォトスの学園の統廃合の歴史から怪獣の出現地候補を探るとなると、キヴォトス三大学園(BIG3)の中で【トリニティ総合学園】が一番危険だ。マイナスエネルギーがまだ渦巻いている」

 

北条先生「【ミレニアム】が台頭する以前にキヴォトス最大を誇っていたと言う 今は砂漠に呑まれた【アビドス高等学校】もいずれは調査に行かないとだけど、まずはこの【アリウス分校】跡地の調査を進めたいな」

 

北条先生「ああ、マイナスエネルギー由来じゃなくても、ムチ腕怪獣:ズラスイマーのような古代怪獣が封印されている可能性も考えないとな……」

 

北条先生「しかし、ゴルコンダが言っていた『ユザレの予言』とはいったい……?」

 

 

【トリニティ総合学園】にある中央図書館とは別に存在する【図書委員会】の本部となる古書館で北条 アキラは【アリウス学園】の生徒だと名乗った“錠前 サオリ”とそれを迎えに来た異形“ゴルコンダ”と“デカルコマニー”のことを思い出し、あらためて【トリニティ総合学園】の歴史を振り返っていた。

 

人間の負の感情がマイナスエネルギーとなり、マイナスエネルギーが怪獣を生み出す現象は、怪獣頻出期が終わった平和な時代においては脅威となり得るものであり、軍縮を迫られた防衛チームがその平和な時代に成すべきことはマイナスエネルギーの抑止にあるのだと“ウルトラマン先生”の戦友である恩師:大山キャップは語った。

 

その教えを受けた北条 アキラはだからこそ【CREW GUYS JAPAN】の候補生止まりの予備役となり、小学校の先生へと転向した。大山キャップから与えられた最重要任務を遂行するために。

 

実際には中学校の先生が防衛チームの隊員をやっていた“ウルトラマン先生”とは逆の、防衛チームの隊員が秘密の任務のために小学校の先生をやっている格好であり、

 

予備役とは言え、防衛チームの天才的な操縦技術を持つ戦闘機のテストパイロットとして宇宙から地球を眺めるぐらいには過酷な二重生活を“ウルトラマン先生”に成りきって満喫していた。

 

しかし、謎の怪人:ゴルコンダが言う『ユザレの予言』とは異なる怪獣と巨人の出現に自分が関わっていると確信を持って言われると不安になるものがあり、更に【アリウス分校】の錠前 サオリと関係があるらしいことから、あらためて整備された避難シェルターや重要施設の位置情報を書き加えながら一から情報を集め直すことにしていた。

 

やはり、【トリニティ総合学園】に対して【アリウス分校】と統一して表記されているのが【アリウス学園】であり、かつての自治区に辛うじて名を残すだけとなって歴史から消滅したはずの学園の生徒が本当に存在するのかを考えなくてはならない。

 

一人でそう名乗っているのなら特に気に留める必要もないのだが、キヴォトスでもまず見ない異形:ゴルコンダと繋がりを持つマダムという存在や、錠前 サオリのただの不良にはないギラついた心や練度の高さに反する無知さと無垢さは小学校の先生としては見過ごしてはならないものを感じさせた。

 

実際、硫酸怪獣:ホーが拡散させた【トリニティ総合学園】を覆った硫酸ミストの中で【アリウス学園】の生徒を名乗る錠前 サオリが行き倒れている時点で怪しく、少なくとも市民も生徒も登録を義務付けた安否確認サービスを利用できていれば硫酸ミストの中を居続けるはずがないのだ。登録率が急上昇したのは硫酸ミストという身に迫る危険を生徒たちが実感したあの日なのだから。

 

陰謀の臭いを感じ取っていた。いや、キヴォトスに来たばかりで実情もよく把握していない北条 アキラには具体的なことはまったくわからないが、学園を取り巻くマイナスエネルギーから硫酸怪獣:ホーが誕生したことを踏まえて、目に見えないはずの悪意の存在に敏感になっていた。

 

それは北条 アキラが生まれた地球では人類同士の戦争が完全に過去のものとなり、エンペラ星人の侵略も乗り越え、怪獣頻出期も収まった真の平和な時代を生きていたからこそ、その裏に潜むわずかな歪みに平和の防人として目を光らせていたからなのかもしれない。

 

北条 アキラにとって怪獣との戦いは始まりもなければ終わりもないものであり、平和の中から人類を脅かす次の怪獣が生まれることを何よりも危惧していたからこそ、マイナスエネルギーを生み出す人間の負の感情の存在が直感的にわかるようになったのかもしれなかった。

 

それが地球とは何もかもがちがいすぎる敵意に塗れたキヴォトスでは 尚更 鋭敏に働き出したようである。

 

 

聖園 ミカ「わあ、先生だ! 何してるの? あれ、これって【トリニティ】の歴史書に全体地図? 何かいろいろ貼ってるね?」

 

北条先生「ああ、聖園さん。怪獣退治の専門家として、避難シェルターや重要施設の位置を明確化した上で、怪獣が現れそうな場所を探っているんですよ」

 

聖園 ミカ「そうなんだ」

 

聖園 ミカ「ねえ、この前 出てきた怪獣って 結局 何だったのかな、先生?」

 

北条先生「……僕が軍事顧問を務めている【キヴォトス防衛軍】の正式発表の通りですが。公式サイトでいつでも確認できますよ」

 

聖園 ミカ「それはそうなんだけど、『目から硫酸の涙を流して、口からは破壊光線に、尻尾からは毒ガス』って、生きるの大変そうだなって……」

 

北条先生「それが“怪獣(KAIJU)”という摩訶不思議な存在なんですよ。自然界の法則ではありえないような巨大な“何か”がそこに現れる恐怖をよく知っているからこそ、地球によく似たキヴォトスに生きるみんなに同じ思いを味わわせたくないから、僕もウルトラマンに負けないように頑張っているんです」

 

聖園 ミカ「ふーん、それじゃあ、怪獣退治の専門家としては次はどうするのかな?」

 

 

北条先生「――――――【アリウス分校】跡地を調査しようかなって」

 

 

聖園 ミカ「え」

 

北条先生「聖園さんも歴史と伝統ある【トリニティ総合学園】の派閥の代表なら、統合に反対して迫害の末に追放されたという【アリウス分派】のこともよく知っているだろうけど、」

 

北条先生「実は、怪獣災害の時に自分の所属をその【アリウス学園】だと名乗る生徒のことを硫酸ミストの中で行き倒れていたところを救助することになりました」

 

北条先生「その生徒は“錠前 サオリ”と名乗っていました」

 

聖園 ミカ「そ、そうなんだ? それって本当の話……?」

 

北条先生「それはわからないです。公的には【アリウス学園】は【連邦生徒会】のデータベースには存在しないし、この通り歴史書の中でしか見ることがない名前ですから」

 

北条先生「それでも、キヴォトスには経営不振や統廃合によって母校を失って学籍を失った浪人生たちが無数に存在していて、安否確認サービスの登録数よりも明らかに日常的に使われている携帯端末のアクセス数が多いことを考えるに、【トリニティ】のどこかに迫害の末に追放された【アリウス分派】がいてもおかしくないと思います」

 

聖園 ミカ「……もし本当に【アリウス分派】がいたとして、先生はどうしたいのかな?」

 

北条先生「もちろん、僕は怪獣退治が仕事ですから、連絡が取れるようにして怪獣災害から守られるようにしたいです」

 

聖園 ミカ「……優しいね、先生って」

 

北条先生「怪獣災害は人類全体の問題なんです。怪獣災害にもいろんな形態がありますが、想像を絶する狡猾さと能力を持った宇宙怪獣:ギマイラに島ごと支配された最悪のケースがあったので、そういった危険性を人類全体に共有して対抗しなくてはいけないんです」

 

聖園 ミカ「それってつまり、『世界のため』ってことだよね。【トリニティ】のためじゃなく、【ゲヘナ】のためでもなく、先生は本当に『人類の平和のため』に頑張っているんだ。なんか本当にドラマや映画に出てくる人みたいなことを言うね」

 

北条先生「そうですね。実際、僕たちはドラマや映画を超えた現実を生きてきたから」

 

北条先生「映画の製作費よりも遥かに金がかかった精巧なセットの中で先人たちは怪獣の脅威から僕たちのことを守ってくれた」

 

北条先生「今度は僕がみんなを守る番なんだ」

 

 

聖園 ミカ「…………なんか いいじゃんね、そういうのって」

 

 

北条先生「……聖園さん?」

 

聖園 ミカ「先生が生まれた地球って怪獣災害でいつも大変みたいだけれど、学園だとか派閥だとか そういった枠組みを超えて みんなが一丸となって平和を守り続けているんだよね? キヴォトスとは大違いだよね」

 

聖園 ミカ「でも、それって怪獣の脅威があるから、みんなが手を取り合っているだけなんじゃないかな?」

 

北条先生「それはそう。必ずしも僕たち防衛チームの在り方が受け容れられているわけじゃないんです。時には解散を求められたり、時には全滅したり、時には対立したり、時には世間の憧れとしてチヤホヤされたりした世代もありました」

 

北条先生「けど、いろいろと言われてきた防衛チームでも最後までウルトラマンと一緒に平和を信じて戦い抜いた誇りと歴史と実績を誰もが知っているから、僕はその次の世代として今の防衛チーム【GUYS】に志願したんです」

 

北条先生「もっとも、今はなぜか僕はたった一人の怪獣退治の専門家として一から怪獣対策を地球によく似たキヴォトスでやる羽目になっているんですけどね」

 

北条先生「怪獣頻出期が終わった平和な時代で予備役だった僕が軍事顧問で【キヴォトス防衛軍】を組織して指揮する立場になるだなんて、世の中、何があるか本当にわからないですよ」

 

聖園 ミカ「先生……」

 

 

聖園 ミカ「先生、ごめん。私ね、先生のことをずっと疑ってた」

 

 

北条先生「え」

 

聖園 ミカ「だって、先生は失踪した“連邦生徒会長”がキヴォトスの外から喚んだ“シャーレの先生”だから、きっとエデン条約を推進していた“連邦生徒会長”と同じ立場なんだってずっと思ってた」

 

聖園 ミカ「でも、実際は【エデン条約機構】なんかよりもずっと強大な【キヴォトス防衛軍】なんてのを作って、別な意味でエデン条約不要論を後押ししたわけだから、まじめに条約締結を頑張っていたナギちゃんやセイアちゃんは本当は結構“GUYSの先生”のことをよく思ってなかったんだよ」

 

聖園 ミカ「先生は本当にXデーを迎えて怪獣災害に見舞われるようになったキヴォトスで学園の垣根を超えて 今 必要なことを誰よりも率先してやり続けているから本当に偉いよね」

 

聖園 ミカ「セイアちゃんが言っていたことがようやくわかった」

 

 

聖園 ミカ「先生はね、あの赤と銀の巨人:ウルトラマンと同じ 遠くの星から来た 愛と勇気を教えてくれる大人なんだって、セイアちゃんが言ってたの」

 

 

北条先生「それは光栄ですね。僕は地球の歴史の中で 唯一人 学校の先生をやってウルトラマンの心を伝えようと頑張った“ウルトラマン先生”に憧れて、今“GUYSの先生”をやらせてもらってますから」

 

聖園 ミカ「……それって、先生がウルトラマンってこと?

 

北条先生「そうとも言えるし、そうとも言えないかな。地球だとウルトラマンは永遠のヒーローだから、ウルトラマンのような人のこともそう言うようになってきているから、そういう意味でキヴォトスでは僕はウルトラマンかもしれない」

 

北条先生「でも、少なくとも、僕は生粋の地球人で、銀河系から300万光年離れたところに存在すると言われるM78星雲のウルトラの星の出身じゃないですよ」

 

北条先生「ああ、地球を宇宙から眺めることはできたから、今度はウルトラの星まで行ってみたいな」

 

聖園 ミカ「………………」

 

聖園 ミカ「じゃあ、今日はこんなところかな。先生とまたこうしてお話ができて、楽しかったよ」

 

北条先生「うん。それじゃあね、聖園さん」

 

聖園 ミカ「あ、最後にちょっといいかな、先生?」

 

北条先生「……はい、聖園さん」

 

 

聖園 ミカ「先生って【ゲヘナ】の生徒たちとも手を取り合っているけど、内心では気持ち悪いとか思ってない?」

 

 

北条先生「……それはどうしても訊きたいこと?」

 

聖園 ミカ「うん。どうしても訊きたい。あ、別にこれは私だけが思っていることじゃないよ。条約反対派っていっぱいいるし、【正義実現委員会】だって日常的にちょっかいを出してくる【ゲヘナ】のことを快く思ってないしね」

 

聖園 ミカ「どうかな? 私はあの角が生えたやつらが一緒の【エデン条約機構】に私たちの自治区の問題を任せたくないし、踏み入らせたが最後、絶対に裏切られるに決まってるじゃんね? 平和条約なのに、それがきっかけで戦争になると思うよ?」

 

聖園 ミカ「実際、先生も【ゲヘナ学園】まで行ってきて【万魔殿】のやつらを見てきたのなら、そんなの絶対に無理だって思わない?」

 

 

北条先生「気持ち悪いかどうかで言うと、僕は【ゲヘナ】だけじゃなく【トリニティ】も【ミレニアム】も、キヴォトス人の在り方そのものが気持ち悪いと思っているけどね」

 

 

聖園 ミカ「え」

 

北条先生「ごめんね。これは文化の違いなんだけど、銃弾一発で致命傷になる地球人の僕からすると日常的に本物の銃を撃ち合っているキヴォトス人の在り方が冗談じゃないって毎回思うほどゾッとしている」

 

北条先生「年端もいかない子供たちが軽々しく戦争だの復讐だの騒いで本物の銃を手放せない世界は 到底 受け容れられないものだから」

 

 

北条先生「憎んでいるかもしれない。軽蔑しているかもしれない。恨んでいるかもしれない。人類同士の争いが過去のものとなった地球で生を受けた身としてはね」

 

 

聖園 ミカ「………………」

 

聖園 ミカ「……そっか。先生にとっては本当に【トリニティ】も【ゲヘナ】もなくて【ミレニアム】でさえもそういう扱いなんだ」

 

聖園 ミカ「そうだよね。うん。先生は立派な大人だから、本当はこんなところに居るべき人間じゃないよね……」

 

聖園 ミカ「本当にごめんなさい……」

 

聖園 ミカ「あ」ポン ――――――大きな手が頭の上に乗せられる。

 

 

北条先生「でもね、聖園さん。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って思うと見放せないんだ、まだ」

 

 

北条先生「だって、みんな 同じだったから。【ゲヘナ】も【トリニティ】も【ミレニアム】も価値観はみんなバラバラで自分のやりたい放題ですれ違うこともたくさんあったけれど、同じ感情を共有し合える仲間であることは確認し合えましたよ」

 

聖園 ミカ「先生……」

 

北条先生「まあ、心配しないでください、聖園さん。いつの日か宇宙に誇る地球にするために 地球人代表として このキヴォトスでできる限りのことをやらせてもらいますから」

 

北条先生「つまりは“一所懸命”! “ウルトラマン先生”の座右の銘! 僕はキヴォトス防衛の任に就いた若きウルトラマンなのであった!」

 

聖園 ミカ「……わーお」

 

聖園 ミカ「あっさり認めちゃうんだ、先生がウルトラマンだってこと」アハッ

 

北条先生「あ、ちがうちがう。心構えの問題だから。そうやって僕自身を奮い立たせているってだけだからね」

 

聖園 ミカ「じゃあ、そういうことにしてあげる」ニコッ

 

聖園 ミカ「だから、さっきの話は――――――」

 

北条先生「誰にも言うつもりはないですよ。さっきの話は生徒のプライバシーに関わることですので」

 

聖園 ミカ「うん。なら、言うことはないね。それじゃあね、先生」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖園 ミカ「…………本当にすごかったな、先生って」

 

聖園 ミカ「硫酸ミストに気づいた瞬間にセイアちゃんを抱きかかえて全力疾走で噴水に飛び込んで【救護騎士団】の許に駆け込む姿で持ち切りだったしさ」

 

聖園 ミカ「それで一緒にびしょ濡れになったセイアちゃんと隣でシャワーを浴びて、替えの服がないからって【正義実現委員会】のあのおっきな副委員長のジャージを借りて過ごしていたんだって。セイアちゃんが思い出しただけで吹き出すぐらいなんだもん、私も見たかったな」

 

聖園 ミカ「それから、市民病院の病衣に着直して、今度は怪獣が現れて少し晴れた霧の中で行き倒れになっていた【アリウス】の生徒を助けていたんだって。すごいよね。でも、想像したら、服装のせいであんまりかっこよくないかなって思っちゃったけど」アハッ

 

聖園 ミカ「うん、ウルトラマンが怪獣を倒すまでのたった数時間でそれだけのことをやってのけたんだよね、先生は。私とナギちゃんはわけがわからないまま学園の外に連れ出されて気づいたら全てが終わっていて……」

 

 

聖園 ミカ「ホント、先生って遠くの星から来た愛と勇気を教えてくれるヒーローだよね」

 

 

聖園 ミカ「セイアちゃん、先生にお姫様抱っこされて一緒に噴水に飛び込んで隣でシャワーを浴びちゃったから、完全に先生のことが大好きになっちゃってたじゃんね」

 

聖園 ミカ「――――――夢にまで見た白馬の王子様の登場じゃん!」

 

聖園 ミカ「まさか、セイアちゃんがあんな風に耳まで真っ赤になるなんてビックリだったけど、それ以上にビックリなのは今まで見て見ぬ振りをしてきた【シスターフッド】が動いて、公会議みたいなのものまで開かれることになったんだから、【シスターフッド】まで動かした先生って本当に凄い」

 

聖園 ミカ「それにもしかしたらホントのホントに先生が怪獣をやっつけてくれていたのかも?」

 

 

――――――じゃないと、先生の見送りに出ていたところをずっと狙っていた【アリウス】の子の場所に気付けるはずないじゃんね。

 

 

聖園 ミカ「先生、黙っていたけど、あんな変なところに隠れていた どこの誰とも知らない他人を助けるために、ウルトラマンと怪獣が向こうで戦っていたのに、硫酸ミストがまだ漂っていたのに、病衣なんか着させられていたのに、怪獣がよく見える場所に詰めていたはずなのに――――――」

 

聖園 ミカ「あーあ、あのままひっそり硫酸ミストで死んでくれていたら、ずっとドキドキしっぱなしの人生ともおさらばだったのなぁ……」

 

聖園 ミカ「おかしいな。セイアちゃんのこと、ずっと嫌いだったはずなのに。だから、【アリウス】にあんなことをさせてきたんだけど――――――、」

 

聖園 ミカ「もうどうしたらいいの? 先生はセイアちゃんのヒーローだけど、セイアちゃんだけのヒーローじゃないんだよ?」

 

聖園 ミカ「先生は怪獣退治の専門家! 怪獣が現れたら、セイアちゃんを置いてそっちの方に向かうしかないじゃん!?」

 

 

聖園 ミカ「なんで、どうして!? どうして先生はセイアちゃんのことも、セイアちゃんのことを殺そうとしていたやつのことも、一緒に助けちゃったの!?」

 

 

聖園 ミカ「それに【エデン条約機構】なんて目じゃない【キヴォトス防衛軍】を率いて【トリニティ】も【ゲヘナ】も、それどころかキヴォトス中の生徒たちが みんな 先生の下で“怪獣”と戦って……!」

 

聖園 ミカ「みんな、先生が来てから前を向いて変わろうとしているのに、どうして私だけ怖くて震えてなくちゃいけないの!?」

 

聖園 ミカ「や、ヤダ、ヤダヤダヤダヤダ! ヤダヤダヤダヤダ! ヤダヤダヤダヤダ!」

 

 

――――――みんな、置いて行かないで! 私のことを置いて行かないで!

 

 

キヴォトスを覆う深い霧の中で光を見た者がいた。

 

そして、霧の向こうの光へと手を伸ばし、辿り着いた者が現れた。

 

しかし、自分の影ばかりを見つめる者には、たとえ霧が晴れたとしても光はどこにもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――ミカは魔女じゃないよ。

 

 

ロボット職員「…………ミカ

 

七神 リン「……どうしました、ガリバーさん?」

 

ロボット職員「あ、いえ、先生は今【トリニティ】に行っているじゃないですか」

 

七神 リン「ええ、そうですね。ガリバーさんが【シャーレ】に来てくれたおかげで、先生がするべきだった書類仕事が捗って、先生がこうしてキヴォトス中を見て回れるようになりました。本当に大助かりです」

 

七神 リン「たしか、ガリバーさんは【トリニティ】の職員でしたよね」

 

ロボット職員「はい。そこにしばらく勤めさせてもらいましたが、キヴォトス三大学園(BIG3)というだけあって生徒はピンからキリまでいましたけど、その中でも特にお転婆な子のことを思い出しまして」

 

ロボット職員「相変わらず元気でやっているのかなって。ほら、職員と生徒ってことで友達ってわけじゃないから、年に何回かだけ連絡していたんですけど、」

 

ロボット職員「この前、【トリニティ】で怪獣災害があったわけだから、心配になって連絡を入れてみたんですよ」

 

七神 リン「そうなんですか」

 

七神 リン「あ、なるほど、こうした横の繋がりで相手の無事を確認できるのは大きいですね。安否確認サービスやコミュニティサイトというのはたしかに有用ですね」

 

ロボット職員「そうなんですよ。こうやって個人間の繋がりで確認できない時に安否確認サービスへの登録を義務付けるのはなるほどと思いました」

 

ロボット職員「さすがはウルトラマンと一緒に長年に渡って怪獣と戦い続けてきたという地球出身の“GUYSの先生”です」

 

 

――――――で、その子、【ティーパーティー】の聖園 ミカって言うんですけどね。

 

 





-Document GUYS feat.LXXX No.03-

硫酸怪獣:ホー 登場作品『ウルトラマン80』第3話『泣くな初恋怪獣』登場
桜ヶ岡中学校1年の中野真一の失恋による悲しみと怒りによってマイナスエネルギーが発生し、
翌日、恋人のみどりを奪った柴田の姿を見た事でマイナスエネルギーが高まり、その日の夜に出現した怪獣。
真一の潜在意識に従って、自分をフッたみどりを殺そうと彼女の自宅の近くに迫る。
ホーを生み出してエネルギーを使い果たした真一は放心状態で、ホーを生み出した時の記憶を失っていたが、
真一自身は矢的 猛の説得で正気を取り戻したため、ホーは真一の心から離れたが、それでも まだ暴れ続けたため、ウルトラマン80と戦闘。
サクシウム光線には耐えたが、続けざまに放たれたバックルビームで倒された。

悲しげな鳴き声を上げ、目から出す硫酸の涙でなんでも溶かしてしまう他、口からはマイナスエネルギー波を吐き、尻尾から毒ガスを放つ。
大きな耳には自分から30km以内の音を聞き取る力があるとされる他、アクロバティックな戦闘を得意とするウルトラマン80と格闘戦で渡り合えるほどの意外なまでの格闘能力を持つ。
しかし、たとえこの怪獣を葬ったとしても、人間の潜在意識が怪獣になってしまう事がわかった以上、人類はさらに強力な第二・第三のホーの出現に対処しなければならなくなる運命にあり、それはおよそ19年後に現実のものとなった。


硫酸怪獣:ホー 登場作品『ウルトラマンメビウス』第41話『思い出の先生』登場
ドキュメントUGMに記録されている怪獣で、統廃合によってなくなってしまう桜ヶ岡中学校の校舎から発せられたマイナスエネルギーによって誕生した。
それを見て校舎の屋上で同窓会を開いていた元クラスメイトの一人であるスーパーは、出席していた真一に「お前また(アイツを呼んだのか)!?」と言っているシーンがある。
手の甲に付属した突起物が若干大きくなり、白目がちだった目に黒い瞳が追加されるなど、『80』の時と比べてやや可愛らしく親しみを持てるようなデザインになっている。
硫酸の涙は健在だが、新たに口からマイナスエネルギー波に変わって七色の光線を発射する能力を得た。
また、実態は存在するはずだが、なぜかガンフェニックスのビーム攻撃をすり抜けてしまう。
そのままウルトラマンメビウスと戦うも、その場に押し倒してまるで駄々をこねるかのように涙を流しながら殴り続けた。
しかし、ウルトラマン80が現れると、一転して彼が来るのを待ち望んでいたかのような嬉しそうな仕草を見せ、80が発したバックルビームを抵抗することなく受け止め、笑顔で昇天した。




キヴォトスで観測された第3の怪獣であり、“GUYSの先生”北条 アキラにとっては“ウルトラマン先生”を目指すきっかけとなった因縁の怪獣。
しかし、ウルトラマン80が交戦した個体、ウルトラマンメビウスが交戦した個体のいずれともちがう性質を持った凶悪怪獣と化しており、
外見や戦法は『メビウス』に登場した個体とほぼ同じだが、新たに口から七色の光線を放つ際に周囲の霧:マイナスエネルギーを首から吸い込むという演出が取られている。

トリニティ総合学園のティーパーティーのホストである予知夢を見る少女:百合園 セイアの夢の中で度々現れ、最初は霧の空間の中にシルエットのみが出現する。
次に見た予知夢では、街を破壊している最中にウルトラマン80が現れ、戦闘が始まるところで夢が終わる。
しかし、最後の予知夢ではウルトラマンの背後を取り、ついに人類の希望であるウルトラマンを撃破してしまう――――――。
そして、予知夢通りに突如としてトリニティ自治区に出現し、街を破壊し始める。
実は、ホーを出現させたのは『予知夢を見ても運命には逆らえない』という思いから絶望し悲しむ百合園 セイアのマイナスエネルギーであり、それに呼応するように暴走していたのだった。

夢と同様に出現したウルトラマン80と戦闘になるが、戦闘能力はセイアのマイナスエネルギーを大量に吸収して強化されており、意外なまでの格闘能力と体格差も相まって一方的にウルトラマンを追い詰める。
ウルトラマンの決死の攻撃を受けて一度は消滅したかに見えたが、周囲の霧が集まって再び実体化し、予知夢通りウルトラマンの背後を取るものの、過去に出現したホーを撃退したバックルビームでとどめを刺していないことからウルトラマンは奇襲を予測済みであった。
更に、トリニティ総合学園の代表たちと『運命を変える』ことをセイアが決意したことで、セイアのマイナスエネルギーを取り込んでいたホーは弱体化することになり、シスターフッドの戦闘機部隊の攻撃を受けて奇襲のチャンスを逃してしまう。
そこにすかさずウルトラマンがバックルビームを撃ち込むことでトリニティ自治区を震撼させた硫酸怪獣は消滅した。

これまで観測された個体の中ではまさしく凶悪であり、元々が人の思念という無から生まれたマイナスエネルギーの怪獣という得体の知れなさ故にドキュメントUGMでも有効な対策が記載されていなかった怪獣であり、
変身者である北条 アキラの実力が試された初めての強敵であり、何度でも復活する可能性があることから終わることのないマイナスエネルギーと人類の果てない戦いを予感させるものの、自身が教壇で実践しようとしたウルトラマンの心をもって運命を受け入れることになった。
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