Blue Archive -Document GUYS feat.LXXX-   作:LN58

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app16 アビドス砂祭りの夢の跡

 

 

――――――移動遊園地(funfair):リトルプラネット 二度目の開園は大盛況!

 

 

ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!

 

 

北条先生「さあ、みんなぁ! 釣ったー!?」

 

一同「釣ったー!」

 

北条先生「コップいっぱいにジュースは注いだー?」

 

一同「注いだー!」

 

北条先生「よーし!」バサッ ――――――サーフィン用のラッシュガードにうっすらと浮かぶ逞しい胸板!

 

北条先生「かつての“アビドス砂祭り”の貴重な記録映像を観ながらノスタルジック(郷愁)スペクタクル(壮大)ワンダフル(仰天)にかつては海だった場所で海の幸を堪能しましょう!」

 

一同「おおおおおおおおおおお!」

 

羽沼 マコト「いいぞー、先生ー!」キキキッ!

 

橘 ノゾミ「そうだー! どんどんやれー!」パヒャヒャヒャ!

 

橘 ヒカリ「盛り上がっていこー」

 

 

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

 

 

二度目の開園を迎えた移動遊園地(funfair):リトルプラネットのメインアトラクションは【Ⅱ.アミューズメントパーク(娯楽施設)】のウォーターパークの一部を超巨大な生け簀に大量の海水魚を放った巨大な釣り堀での釣り大会となっていた。

 

参加費無料でタックル(釣り道具)の無料貸出もありで、自前のタックル(釣り道具)を持ち込んで良し、

 

釣り初心者のための専用釣り堀も用意し、そこから中級者向けや上級者向けの難易度別の様々な釣り堀が所狭しと四次元移動技術で産地直送されており、

 

釣った魚は【Ⅰ.ショッピングモール(商業施設)】のキッチンで無料で捌いてもらえる他、魚が苦手な子のために【Ⅰ.ショッピングモール(商業施設)】で使える様々な商品の引換券が釣れるようにもなっていた。

 

とにかく釣りが初めての人たちも、魚が嫌いな人たちも、釣りが大好きでしかたがない人たちもみんな大満足の釣り天国をオアシスが枯れたアビドス砂漠に現出させたのである。

 

釣り大会は午前の部と午後の部に分けられており、すでに午前の部の 部門別に上位入賞者となった たくさんの生徒たちの表彰が終わり、参加者に無料で配布しているドリンク券で引き換えたジュースが満たされたコップを持ってみんなで和気藹々と乾杯をするのであった。

 

食べ物に関しては各々好きなように。参加費無料で、タックル(釣り道具)も無料貸出して、釣った魚を無料で捌いてもらえるのだから、それ以上の贅沢はいけない。

 

そして、最初の乾杯の後に壇上からフィッシングウェアを脱ぎ捨てて逞しい胸板がうっすらと浮かぶラッシュガード姿の北条先生が降りてきて、テーブル席に着いた一人一人とコップをぶつけ合うファンサービスを行い、夏の日差しで汗が迸る会場はますます熱気を帯びた。

 

しかし、北条先生が持っているコップはプラスチックやグラスどころではないゴツさのビールジョッキであり、それに満たされているのが自身が監修したビールテイスト飲料:バービカン(Barbican)だった。それは生徒の飲酒厳禁の学園都市:キヴォトスにおいては大人の階段を昇る飲み物として巷で有名になっていたものであった。

 

大々的に試飲会が開かれたプレオープンイベント以来、ビールテイスト飲料:バービカン(Barbican)が流行している【ゲヘナ学園】の生徒たちは当然のようになみなみと注がれた先生とお揃いのビールジョッキで出迎えていた。

 

女の子が持つにはゴツいとしか言いようがないジョッキをゲヘナ生の全員が手にしている一体感は他校の生徒たちには驚愕の光景となっており、本当に【ゲヘナ学園】は地球人:北条 アキラによって大きく変わったことを内外に知らしめる一幕となったのだ。

 

また、マスコットである丹花 イブキと一緒に水遊びをするためにツーピースにパレオ(巻きスカート)を着ていた【万魔殿】議長:羽沼 マコトだったが、ラッシュガード姿の北条先生とお揃いになるコーディネートになっており、遠慮のない距離感で互いのジョッキがふれあう瞬間の様子は周囲が息を呑むほどの画になったと言う。

 

そのため、長年の宿敵として張り合い続けてきた【トリニティ総合学園】の代表として 今回 居合わせた【ティーパーティー】副々ホスト:聖園 ミカにとってはあまりにも気まずい展開であり、

 

あそこまで【ゲヘナ学園】が“シャーレの先生”との関係の深さを見せつけてきたとなったら、【トリニティ総合学園】としても負けてられないとトリニティ生からの期待の眼差し(プレッシャー)を一斉に向けられてしまったのだから、途端に息苦しさが張り上げてきたのである。

 

別に、聖園 ミカは“シャーレの先生”のことが嫌いなわけではない。むしろ、心から尊敬している大人の一人なので、快く出迎えてグラスを重ねるつもりではいたのだ――――――。

 

しかし、元々が失われた“アビドス砂祭り”の記憶を蘇らせるために南国リゾート風の開放的な雰囲気の中、多くの生徒たちが気合を入れた水着姿で歩き回っているのが移動遊園地(funfair):リトルプラネットの風景であり、ここで各学園の代表の身に備わった品格というものが服装となって現れたのである。

 

というのも、ミッション系のお嬢様学校【トリニティ総合学園】の上位層である高嶺の花である高貴なる淑女たちの集い――――――、【ティーパーティー】の奥ゆかしいお嬢様方が開放的な気分に乗せられてあられもない姿を公衆の面前に晒すわけにはいかなかったのである。

 

そのため、ミッション系のお嬢様学校の頂点に君臨する【ティーパーティー】副々ホスト:聖園 ミカが着る水着は 必然と肌の露出が少ない 品位を落とさないものに限定され、それは普段の制服姿と変わり映えが少ないリゾートワンピースであった。ツーピースの水着など庶民のものであり、淑女にとっては以ての外の身形である。

 

ところが、その肌の露出が多いツーピースの水着を整った体形(スタイル)で着こなして この場の誰よりも威風堂々としていたのが【万魔殿】議長:羽沼 マコトであり、

 

外部の人間からは悪巧みを隠そうともしない凶相から傲岸不遜な悪の首魁として恐れられ、身内からは突拍子もないことを考えついては阿呆面をいつも晒しているトラブルメーカーでしかなかったはずが、

 

この瞬間においては、すらりとした体形に長い銀髪や鋭い目など男装の麗人を思わせる美形であることが顕になり、黙っていれば羽沼 マコトは美人であることをこの場に居合わせた多くの生徒たちが初めて知ることになったのだ。

 

そう、いつもは悪巧みが口から漏れ出ている騒がしさが鳴りを潜め、一瞬の静寂の中で目と目で言葉を交わして一拍置いて響いたビールジョッキの音が遠くまで聞こえるかのようだった――――――。

 

それがあまりにも一枚の絵画のようであり、思わず誰もが息を呑んでしまった直後、黙っていれば美人だった彼女のいつもの騒がしさがたちまちのうちに息を吹き返すのだった。

 

しかし、それが逆に一瞬の静寂の中に人々の記憶に刻まれた一枚の絵画の印象を更に強めることになり、【万魔殿】議長:羽沼 マコトのことを不覚にも綺麗だと思ってしまい、その幻影を振り払うためにトリニティ生の大半が負けじと【ティーパーティー】副々ホスト:聖園 ミカの方を向いたのはそういうことなのである。

 

それはミッション系のお嬢様学校の淑女である以前に自分のことをよく見せたい年頃の乙女であったことを赤裸々に告白するものであり、憧れの人にならともかく、下に見ていた相手に女の魅力で負けていることを素直に認めることが耐え難い屈辱であった。何かあるとすぐに愛銃を手にして自分のやりたいことを押し通そうとする我の強いキヴォトス人なら尚更である。

 

それは基本的に他人に対して無関心である聖園 ミカも同様であったからこそ、『羽沼 マコトに負けている』とは微塵も思っていなかったところに思わず見惚れてしまったのだから、今の自分の身形が淑女としてあるべき姿の妥協の産物であることに息が詰まらされてしまったのである。

 

 

認めよう。私は あの一瞬 先生と見つめ合った羽沼 マコト(169cm)のことを綺麗だと思ったし、正直に言って似合っている。あの色は私には合わないし、大人である先生(173cm)と並んでも違和感がない大人の色気というものを強く感じた。

 

残念だけど、大人の色気で勝負したら、私たちは間違いなく惨敗。『セクシーセイアですまない』と冗談を言ったとしても、セイアちゃんもナギちゃんもまだまだお子様でしかない。

 

それと同時に、お嬢様学校でお姫様と持て囃されている 普段とあまり変わらないリゾートワンピースの私と、肌を晒すことを躊躇せずに 堂々と己を見せつけるツーピースの彼女との間にあるちがい;私にはできなくて 彼女にはできていることが何なのかを開放的な雰囲気の中で着るものでわからされたことに敗北感を覚えた。

 

でも、本当はもっと自分に合った可愛い水着を着こなせるのだと沸き上がった気持ちは喉に出かかっていたのに声にならない。

 

 

――――――それが聖園 ミカを縛る鎖であった。水辺に佇む麗しの令嬢として憧れの的である彼女にとって自分らしさを表現できないリゾートワンピースは拘束服であったのだ。

 

 

わかっている。普段と変わらないお淑やかさと気品を求められた格好なんかでは勝つことはできない。映画や小説のように恋愛というのは大胆にならないといけない。襟を開く以上に自分のことを曝け出して身も心も一つにならなくちゃいけない。

 

しかし、それ以上のこととなると、【ティーパーティー】正ホスト:百合園 セイアが学園の内外で北条先生にお姫抱っこされていることは周知の事実であったため、その名代としてアビドスに参加している自分がそこまでのことをしていいのかで思い悩むことになったのだ。

 

そう、セイアちゃんの気持ちを知って大胆に殿方に迫るなんてできっこないし、そんなことをしたってみすぼらしくて恥をかくだけ。そんなのは道化でしかない。

 

でも、それだから、Xデーを迎えてからお行儀の良い【トリニティ総合学園】は恥も外聞もない【ゲヘナ学園】に遅れを取り続けている――――――。

 

 

――――――息が苦しい。誰か、助けて。助けてよ、お願いだから。

 

 

その願いが天に届いたのか、そこにすかさず現れたのが、“シャーレの職員”ロボット職員:マウンテンガリバーであり、聖園 ミカにとっての一番の“教父(せんせい)”であった。

 

今回の移動遊園地(funfair):リトルプラネットの開園には現地に残り続けていた【トリニティ総合学園】とアビドス遠征に再度赴いた【ゲヘナ学園】の面々が一堂に会するということで、そう遠くないエデン条約の調印式で火種になることがないように細心の注意と最大限の配慮がなされており、

 

今や【ゲヘナ学園】の天下とまで言われている情勢で肩身が狭い思いをしている【トリニティ総合学園】のテーブルを可能な限り離しながら、壇上の前に広がるテーブル席には百人以上の生徒たちが待っているため、それだけに待ち時間も途方もない――――――。

 

だから、エデン条約を前にして【ゲヘナ学園】と【トリニティ総合学園】で一触即発の雰囲気にならないように、機を見計らって“シャーレの職員”ロボット職員:マウンテンガリバーが先生とは反対の方から姿を見せたのである。

 

そう、十数年前に始まった【トリニティ総合学園】の学制改革運動の影の立役者であり、現在の高等部3年のトリニティ生が最後の教え子たちであったため、今をときめく時の人である“シャーレの先生”とグラスが重なる音を楽しむのも光栄なことなのだが、“教父(せんせい)”のことを憶えていた生徒たちにとってはその価値は計り知れないものであった。

 

そして、ロボットなので飲み食いができない“教父(せんせい)”が手にしたグラスというのがなんと黄金のゴブレットであり、それは聖杯を思わせる荘厳な宝飾が輝きを放っており、見る者を圧倒する神々しさがあった。これもジュエリーデザイナー:サーベラスの渾身の作である。

 

そのため、“シャーレの先生”と“シャーレの職員”の両方からの記憶に残る壮絶なタッチを味わうことになり、それだけで生徒たちは腰砕けになりそうだったのだが、

 

最後は壇上でキヴォトスの歴史に名を残す偉大なる二人が手にしたグラスを重ねて音を響かせ、互いの杯の中身(ビール(テイスト飲料))を掛け合い、暑い日射しに照らされて泡立つ黄金の輝きの熱い抱擁を見せつけ、改めて観客席を向いて杯を掲げてみせたのである。

 

場は絶叫の渦に包まれ、大興奮である。そんな中で羽沼 マコトは全てわかっていたと言わんばかりにうんうんと頷きながら再びジョッキを傾け、聖園 ミカは“シャーレの先生”と“シャーレの職員”の心遣いに深く感謝するのであった。

 

そして、助手として現れたフードを被った生徒:秤 アツコからタオルを受け取って“シャーレの先生”と“シャーレの職員”が降壇すると、壇上の巨大な銀幕で“アビドス砂祭り”の記録映像の上映が始まる。

 

そこからは各々がワイワイと楽しみながら驚きと感動の豪勢なランチタイムとなり、釣り大会の午後の部に向けて英気を養う者や、十分な量を捌いてもらったら再び移動遊園地(funfair):リトルプラネットに集まったキヴォトス中の強者たちとの戦いに胸を躍らせる者などもおり、それぞれの楽しみ方がこの場所で編み出されていたのだった。

 

そんな中で人々の交流や出会いというものがあり、それが遠くない未来で大きなものを生み出そうとしていた――――――。

 

 

空崎 ヒナ「これが“アビドス砂祭り”の光景。数十年前に始まった砂漠化で荒廃する前の栄華を誇っていた頃の【アビドス高等学校】の姿なのね」

 

小鳥遊 ホシノ「そうらしいですね。【トリニティ総合学園】の古書館にあった 100年ぐらい前の貴重な映像資料と聞いています」

 

空崎 ヒナ「たしか、大オアシス駅にその名残が残っているのよね」

 

小鳥遊 ホシノ「はい。ここから物凄く遠くにあって、もう廃線になっているんですけど、ユメ先輩のまた根拠のない噂話に乗せられて『宝探しだー!』って掘りに行って……、結局、徒労に終わったんですよね……」

 

空崎 ヒナ「そう」

 

 

空崎 ヒナ「……2年前に見た時の眼差しに戻ったのね、小鳥遊 ホシノ」

 

 

朝霧 スオウ「隣、いいか?」

 

小鳥遊 ホシノ「あ、どうぞ」

 

朝霧 スオウ「なに?」

 

小鳥遊 ホシノ「え?」

 

朝霧 スオウ「……本当に記憶を失ったと言うのか、小鳥遊 ホシノ?」

 

空崎 ヒナ「ホシノ、この人は【ハイランダー監理室】管理監督官:朝霧 スオウよ。アビドス遠征で何度も会っているはずよ」

 

小鳥遊 ホシノ「あ、そうでした。ああ、あなたが。写真でしか確認してませんでしたから、すぐに気付けませんでした」

 

朝霧 スオウ「気にしなくていい。私もこういうものを着るのには慣れていないからな」 ←競泳用ハーフスーツ

 

空崎 ヒナ「さすがは傭兵バイトの出世頭なだけはあるわね。管理監督官の地位を掴めたのも頷けるわ、その覇気」

 

朝霧 スオウ「そちらも【風紀委員会 情報部】からトップに昇り詰めただけのことはある」

 

朝霧 スオウ「しかし、これが往年の【アビドス】と言う訳か。【セイント・ネフティス】にも昔の写真や街並みの模型が飾ってあったが、ここまで状態がいいものは初めて見る」

 

小鳥遊 ホシノ「あ、次は『総天然色』ですって? 『総天然色』って何ですか?」

 

空崎 ヒナ「さあ、何かしらね?」

 

朝霧 スオウ「いや、わからん」

 

 

清澄 アキラ「最先端の映像デジタル技術を使ってモノクロ作品を着色する技術のことですよ」 ←【連邦矯正局】を脱走した“七囚人”が何食わぬ顔で鑑賞中!

 

 

小鳥遊 ホシノ「そうなんですか。詳しいですね」

 

清澄 アキラ「ええ。先生の催しには必ず芸術的・史料的価値に優れるお宝がたくさんお披露目になるので、先生が開く展覧会のパンフレットやカタログには必ず目を通してから来てます。そして、必ず観賞用と保存用と布教用を取っておきます」

 

清澄 アキラ「いやはや、先生は誠に素晴らしいお方です。美術品は人の目に触れてこそ価値があるのですから、先生の文化財保存活動の集大成となる【Ⅲ.ワールド・エクスポ(展示施設)】もこの上なく素晴らしいものですが、」

 

清澄 アキラ「今回のように【トリニティ総合学園】の古書館に眠っている貴重な映像資料の公開に漕ぎ着けただけじゃなく、最先端技術で色鮮やかに蘇らせた衝撃と感動は至上のものですよ」

 

朝霧 スオウ「なるほどな、たしかに今度は色が着いた映像だな」

 

空崎 ヒナ「色が着くと、さっきまでの印象とはまったくちがってくるわね」

 

小鳥遊 ホシノ「凄いですね、これ!」

 

清澄 アキラ「そうでしょう。今の世の中は美術品の持つ価値を真に理解しようとしない投機目的の人間ばかりでしたが、さすがは人類同士の戦争が終結しているという遠くの星(地球)の出身です。文化格差の解消のために私たち生徒のためにここまでのことをしてくださった方は先生だけです」

 

小鳥遊 ホシノ「へえ! 先生って怪獣退治の専門家という評判でしたけど、本当に何でも出来る人なんですね! 尊敬しちゃいます!」

 

朝霧 スオウ「……これが本当に“小鳥遊 ホシノ”なのか?」

 

空崎 ヒナ「ねえ、あなた? どこかで見たことがあるような気がするのだけれど……?」

 

清澄 アキラ「さあ、解説はここまで。後はお静かに。芸術には敬意を払いましょう」シー!

 

空崎 ヒナ「……ええ、そうね。そうするわ」

 

小鳥遊 ホシノ「わあ! ユメ先輩に見せてあげたかったなぁ!」

 

朝霧 スオウ「………………」

 

 

ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!

 

 

棗 イロハ「ほら~、イブキ!」

 

丹花 イブキ「えーい!」

 

元宮 チアキ「あ、いいですね! いいですよー! 最高に可愛いです!」パシャパシャ!

 

京極 サツキ「マコトちゃん? マコトちゃん、どこ~? あ、そうだった、マコトちゃんは今、先生のところ――――――」

 

 

羽沼 マコト「いよいよ、アビドス遠征も終わりが見えてきたな、先生よ」

 

羽沼 マコト「大詰めだ。我が【ゲヘナ学園】の総力を上げよう」

 

北条先生「まだ油断はできませんよ。“枯れた森”と“クジラの谷”の中間地点である この場所に“怪獣釣り堀”ができたように、砂漠の真ん中のどこかで新手の古代怪獣が復活してくるかもしれませんし」

 

羽沼 マコト「だが、調査が済んだ場所には監視所が建てられているのだから、発見は迅速に行われるのであろう?」

 

北条先生「同時発生したら、さすがに人手が足りなくなるでしょうね」

 

羽沼 マコト「それもそうだな」

 

羽沼 マコト「だが、ここまで調査が進めば、【“雷帝”の遺産】の在り処も自ずと見つかるだろうな」

 

北条先生「少なくとも、超古代文明の遺跡に隠されているということはなさそうではあるが……」

 

 

――――――ここまで探して見つからないような場所に【“雷帝”の遺産】というのが存在するのか?

 

 

ダダダダダ・・・!

 

 

羽沼 マコト「ん」

 

北条先生「おや、あなたは――――――」

 

ネフティス幹部「ああ、先生! 先生! 先生! どうか、どうかお願いします!」

 

羽沼 マコト「誰だ、こいつは?」ギロッ

 

北条先生「こちらの方は【セイント・ネフティス】の経営者一族のご令嬢である十六夜 ノノミさんの執事を務めていた方です」

 

羽沼 マコト「ああ、【キヴォトス防衛軍】の手によって【アビドス高等学校】が救済されるのに待ったをかけて先生に惨めに論破された【セイント・ネフティス】の――――――」

 

ネフティス幹部「…………くっ」

 

羽沼 マコト「どうした? 【アビドス】から【ハイランダー】に鞍替えした鉄道事業で【ネフティス】の復権を目指していたんじゃないのか?」

 

羽沼 マコト「大方、先生が世に送り出した波動鉄道(バイブレール)で砂漠横断鉄道が御破算になったから、運営権を強請りに来たか? お情けに縋りに来たか?」キキキッ!

 

羽沼 マコト「どうやら、【アビドス】育ちの人間というのは死ぬまで金満体質が変わらないようだな? 一度は捨てた失われた黄金郷のことなど忘れて身の丈に合った生き方を心掛けていれば、そんなふうに頭を下げることもなかったのにな?」

 

羽沼 マコト「アビドス砂漠が怪獣無法地帯になって【カイザーコーポレーション】がいよいよ売りに出した債権を買い占めたようだが、一度は破綻したはずの砂漠横断鉄道の全権利を買い戻すために相当な無茶をしたらしいじゃないか?」

 

ネフティス幹部「……どうか、先生! 先生を頼る他ないのです!」

 

 

北条先生「――――――宿()()()()()()()()()?」

 

 

ネフティス幹部「……うっ」

 

北条先生「その様子だと、できていないみたいですね。事業計画書の見直し」ハア・・・

 

北条先生「それどころか、止すようにあれだけ言っておいたのに、売りに出された債権に手を出して【カイザーコーポレーション】に見事に釣られましたか」

 

羽沼 マコト「――――――ここが“怪獣釣り堀”だけに?」キキキッ!

 

ネフティス幹部「……その通りでございます」

 

北条先生「たしかに、おたくのご令嬢に【ハイランダー鉄道学園】の生徒会長になってもらうのが一番なのは間違いないですね」

 

ネフティス幹部「わかってくださいましたか!?」

 

羽沼 マコト「馬鹿か、貴様は? 今のは『【アビドス】を捨てて【ハイランダー】に寄生して宿主を次々と枯死させていく【ネフティス】に引導を渡す』という意味だぞ?」ジロッ

 

ネフティス幹部「な、なんですと!?」

 

北条先生「だって、あれだけ忠告しておいたのに見事に釣られちゃうし、そもそも【アビドス】を救う手立てがないくせに債権なんかを買い占める下心を隠しきれていないから、経営陣が無能であることを白日の下に晒してしまったのですから」

 

北条先生「この調子だと、今度こそ【セイント・ネフティス】は潰れるでしょうし、提携先の【ハイランダー鉄道学園】もタダじゃすまないというわけで、」

 

北条先生「困るんですよね、公共交通機関を扱っている【ハイランダー鉄道学園】に被害が出るのは」

 

北条先生「さて、【ハイランダー鉄道学園】の理事会とやらがまともならば、責任を擦り付ける提携部署のトカゲの尻尾切りを検討している頃合いじゃありませんかね?」

 

ネフティス幹部「そ、そんな……!? そんなはずが……!?」

 

北条先生「それよりも、僕が許せないのは()()()()()()()()()()()()()ですよ。自分のことですら」

 

北条先生「騙すなら騙し抜いてくださいよ。家族経営のダメなところですよ、それ」

 

 

――――――どっちつかずのあなたたちがやろうとしていることで誰が救われるというのですか!?

 

 

十六夜 ノノミ「どうやら、【セイント・ネフティス】は先生の言いつけを破って、誘惑に負けちゃったみたいです」

 

錠前 サオリ「そうか。それは残念なことだ」

 

砂狼 シロコ「ノノミ……」

 

十六夜 ノノミ「いいんです。手段こそ違いましたが、執事さんも【アビドス】の復興を願っていたんです」

 

十六夜 ノノミ「私から言えることは、何もありません」

 

服巻 クロモ「さすがは【カイザーコーポレーション】と言ったところですね。元から利用価値のない土地を安く買い叩いて、それを高く売りつけることができたんだから、最初から損なんてなかったんですよ」

 

宮藤 セルマ「そうだ。実にお間抜けなことだな。まさに斜陽族だな、【ネフティス】は」

 

山高 カムロ「宮藤!」

 

宮藤 セルマ「実際、そうだろう。【キヴォトス防衛軍】が【アビドス】のために土地を必要な分だけ取り戻すことができたのはキヴォトス史上最大の軍事力があったからこそ、【カイザーコーポレーション】もおとなしく引き下がるしかなかったというのを、何を勘違いしたのか、自分たちも売りに出された債権を買いに走ったわけだ」

 

錠前 サオリ「かつてはキヴォトス最大の勢力を誇っていたという【アビドス高等学校】だが、今となってはほとんどが砂漠に呑まれてしまったんだ。先生がそうしたように必要な土地だけを買い戻すのが現実的のはずだ」

 

御陵 ナグサ「プライベートファンドを立ち上げてまで債権を全て買い占めたのはひとえに故郷を取り戻したいという愛郷心がなした業と言えば聞こえはいいですが、【ハイランダー鉄道学園】と提携してまで一度は破綻した砂漠横断鉄道の全権利を買い戻そうとしていたところに何かがあることを嗅ぎつけられていますね」

 

服巻 クロモ「そうですよ! どこよりも金に汚い【カイザーコーポレーション】が金の匂いに気づかないはずがないじゃない!」

 

山高 カムロ「まったくもって、その通りだよ。今やキヴォトスのパワーバランスは【キヴォトス防衛軍】の完全無欠の一強体制で、これまでのような阿漕な商売が通用しなくなるのを見極めて逸早く損切りをしつつ、安く買い叩いたものを高く売りつけるのに成功したんだ」

 

宮藤 セルマ「それで? その後は? 故郷を取り戻したところで採算は取れるのか? 今、【セイント・ネフティス】の事業計画書を見て計算してみたが、償却期間がこれぐらいだとして年間にこれだけの額をどうやって不毛の大地で稼ぎ出すつもりなんだ?」

 

砂狼 シロコ「絶対に無理。私たちの借金の返済は月々800万円ぐらいだったから、体感として【アビドス】中から有り金を搾るだけ搾り取ったとしても足りるとは到底思えない額だよ」

 

服巻 クロモ「言うまでもなく絶対に無理です。新生した【アビドス高等学校】の自治区の経済規模が今これぐらいですから、砂漠横断鉄道の経営で求められている額に達してないです。実現性は皆無ですよ、これ」

 

錠前 サオリ「そもそも、土地の所有権や鉄道の運営権を取り戻しても、企業は学園ではないから徴税権はないはずだ。この場合は税収を抜きにして企業活動の利益だけで全てを賄わなくてはならないのだぞ。始めてみるまでもなく最初から破綻しているではないか」

 

御陵 ナグサ「正気とは思えないぐらいに杜撰な計画ですね。先生が事業計画書の見直しを要求して納得するまで協力を見送っているのも当然のことだとわかります」

 

山高 カムロ「だいたい、だだっ広い砂漠で電気鉄道なんかがやっていけるわけがないだろう! 波動鉄道(バイブレール)ぐらい究極にエコな乗り物じゃないと! 送電線や軌道の設置費用や維持コストを考えるだけでも吐き気がしてくる!」

 

服巻 クロモ「だから、信用ならないよね、【セイント・ネフティス】の動きは」

 

十六夜 ノノミ「………一度、【アビドス】を見捨ててますからね」

 

宮藤 セルマ「ああ。一度あることは二度ある。『私たちは故郷を取り戻すために私財を擲って筋を通しました。私たちはなんと可哀相で、しかも立派なんだろう』と自画自賛しながら、自分たちが犠牲にならずに済むのならば、いくらでも嬉し涙が出るだろうさ」

 

御陵 ナグサ「わからないです。ノノミさんのご家族が大切にしているものが何なのかが」

 

服巻 クロモ「そうよ、とんでもなく意味不明です! 故郷を取り戻して錦を飾りに来たのなら、北条先生が今の【アビドス高等学校】に相応の土地を取り戻してきて再出発したわけなんだから、そこ以外に誰も住んでいない不毛の大地を買い戻してまでやることが砂漠横断鉄道って、あまりにも頭が悪すぎて目眩がしてきたわよ!」

 

山高 カムロ「これが正気ならば土地を転がして不動産バブルを引き起こして投資を呼び込むのが目的だと思いたいけど、そのためにプライベートファンドで資金調達をして全ての債権を買い取るだなんてことにはならないはず」

 

錠前 サオリ「となると、どうやってプライベートファンドにあれだけの賛同者を集めることができたのか――――――」

 

御陵 ナグサ「それに、今この状況で土地の所有権を得てしまえば、【キヴォトス防衛軍】が代行しているとは言え、怪獣無法地帯となったアビドス砂漠全域のハザードマップの提出義務が課せられることになります」

 

砂狼 シロコ「だからこそ、捨て値で買いだと思ったのかもしれないけれど、最初から【カイザーコーポレーション】は売りつけ先を【セイント・ネフティス】に絞っていたから……」

 

錠前 サオリ「何から何まで【アビドス】で一所懸命に生きているノノミたちの望みとは掛け離れたことばかりだな」

 

十六夜 ノノミ「だから、【セイント・ネフティス】は今ここで一所懸命に生きている私たち【アビドス】のことなんて最初から見えていないんです」

 

十六夜 ノノミ「私たちはもう十分に先生に与えられてきました。執事さんたちの記憶に刻まれた過去の栄光なんてものはもう関係ないんです、私たちにとっては」

 

 

――――――ですから、私たちはここに集まったわけです。今、こうして、学園の垣根を超えて。

 

 

砂狼 シロコ「今日来れなかったメンバーもいるけれど、2回目の開園でもっと賛同者を集めてくるから待ってて、ノノミ」

 

服巻 クロモ「そうよ! これも旧き良き時代への原点回帰なんだから! いつでも私たちを頼ってね!」

 

山高 カムロ「ああ。ここにいる宮藤も手伝ってくれるらしいから」

 

宮藤 セルマ「勘違いするな。私は 大量生産・大量消費・大量廃棄を是とする現代社会の在り方を改めようとしない連邦主義者(Federalist)の原点回帰運動に協力しているわけじゃない。再開発が進むことになる新アビドス自治区の発展が新たな環境汚染にならないかを厳しく監視するためにいる」フン!

 

服巻 クロモ「はいはい、自然保護主義者(エコロジスト)も大変ね」

 

御陵 ナグサ「制度や体系に関しては【百鬼夜行】のものが参考になると思いましたので、これを」

 

十六夜 ノノミ「ありがとうございます、ナグサ先輩。大事にさせていただきますね」

 

御陵 ナグサ「いえいえ。ユカリが大変お世話になりましたし、企業による侵略は【百鬼夜行】にとっても脅威となりますので。【カイザーコーポレーション】に続いて【セイント・ネフティス】もそうなった以上は」

 

砂狼 シロコ「段々と形になってきたね、サオリ」

 

錠前 サオリ「ああ、賛同者も随分と集まったもんだ」

 

錠前 サオリ「もちろん、タダで首を振るわけではなかったが、そこはシロコが考えてくれたアイデアのおかげだな」

 

砂狼 シロコ「ううん。サオリとカスミのおかげ。私だけじゃ、ここまでは思いつかなかった」

 

砂狼 シロコ「でも、構想が始まった最初のきっかけも先生だったし、構想をまとめる最後の一押しも先生だった」

 

 

――――――【アビドス】ひいては【キヴォトス】を守る“白騎士団(ホワイトナイト)”を結成せよ。

 

 

ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!

 

 

戦場カメラマン「ユメ、見ているか? やっと、【アビドス】に新時代が訪れようとしているぞ?」

 

神代キヴォトス人「………………」

 

戦場カメラマン「……話があるようだな」

 

神代キヴォトス人「宇宙の神秘である“光”に選ばれし適能者(デュナミスト)よ、我は“地獄の釜の番人”としてお主に告げねばならぬことがある」

 

 

戦場カメラマン「――――――()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

神代キヴォトス人「……悟っていたか」

 

戦場カメラマン「……2年前もそうだった。何となく予感がしていて、そこから地球で“光”の意味を知る戦いが始まった」

 

戦場カメラマン「……そして、俺は命を燃やして宿敵との戦いに決着をつけて、再び【アビドス】に来ていた」

 

 

戦場カメラマン「――――――俺は死ぬのか?」

 

 

神代キヴォトス人「太鼓とは小さく打てば小さく響き、大きく打てば大きく響くものだぞ、お主」

 

神代キヴォトス人「あきらめるな。前を見よ。限界を超えよ」

 

戦場カメラマン「そうか。なら、俺の心臓の鼓動が今度こそ止まる瞬間まで生き抜いてみせるさ」

 

神代キヴォトス人「だが、その前にお主は 三度 ()()()と向き合う運命にあるようだな。すでに1回目は決着をつけてきたようではあるが、まだ2回目・3回目とある」

 

神代キヴォトス人「その2回目が来るのは近いぞ」

 

戦場カメラマン「まさか……」

 

神代キヴォトス人「まあ、だから、3回目が来るのだから、お主が恐れることは何もない」

 

戦場カメラマン「サーベラス様……」

 

戦場カメラマン「わざわざありがとうございます。それを聞いて安心しました」

 

戦場カメラマン「そうか。俺のここでの役割は終わったのか」

 

戦場カメラマン「あとは、先生に任せればいいんだな……」

 

 

――――――()()()()()()()()()()()と呼ばれている場所へ。

 

 

神代キヴォトス人「そこは9つの道が重なって新しい夜明けへと続く道になるそうだ」

 

神代キヴォトス人「再び長い旅に出ることになるであろう。それは世界が滅びる未来を変えるため」

 

神代キヴォトス人「それから()()()()()()であろうから言っておこうと思う」

 

 

神代キヴォトス人「個人的なことではあるが、我はお主に出会えて心から良かったと思っている。それは光の星雲で伝説と呼ばれていた神秘の巨人を目の当たりにできただけじゃなく」

 

 

神代キヴォトス人「共に過ごした時間は短くとも、その一瞬一瞬に思いを込めて発信するのがカメラマンの本懐なのであろう?」

 

神代キヴォトス人「レンズ越しに切り取った景色を超越して、本当の真実は心の目の中に写るものである」

 

神代キヴォトス人「我はお主のそれを美しいものだと思っている。たとえ、理想が絶望に変わり、暗雲に呑まれていた時が長くとも、それでも“光”はお主と共に在り続け、お主は“光”を超えていたのだ」

 

戦場カメラマン「……そうなのか?」

 

神代キヴォトス人「言ったであろう。太鼓とは小さく打てば小さく響き、大きく打てば大きく響くものだぞ、お主」

 

神代キヴォトス人「敬天愛人。我はそれを決して忘れぬ。未来へ、子供たちへ、生きとし生けるものへと語り継ごう」

 

 

――――――だから、旅立つ前に そのことを“暁のホルス”小鳥遊 ホシノに伝えてやってはくれぬか?

 

 

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