Blue Archive -Document GUYS feat.LXXX-   作:LN58

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app16 開け放たれた扉 - いつも心に太陽を-

 

 

――――――移動遊園地(funfair):リトルプラネット 二度目の開園を迎える前のこと。

 

 

小鳥遊 ホシノを代表とする【アビドス高等学校廃校対策委員会】は【キヴォトス防衛軍】がアビドス遠征における前線拠点となるベースキャンプを設営する許可を与えると同時に、その庇護下に入るために【アビドス高等学校廃校対策委員会】の部室となる会議室以外の施設や設備を全て貸し出す契約を交わし、

 

借金漬けにされた挙げ句に【カイザーコーポレーション】に買い叩かれた【アビドス】の土地の権利を校舎周辺地域に限定して“シャーレの先生”であり“GUYSの先生”である【キヴォトス防衛軍】軍事顧問:北条 アキラが取り戻してきたことで新アビドス自治区として【アビドス高等学校】が新生してしばらく――――――。

 

いよいよキヴォトス全土のハザードマップを完成させるためのアビドス遠征も調査が半分を過ぎ、それまでの数多くの資金や資材を投じたゴールドラッシュの好景気と徹底した美化活動に支えられて【アビドス高等学校】は安定した秩序と発展の恩恵を享受していた。

 

そのため、【キヴォトス防衛軍】が最初に借り受けた【アビドス高等学校】の校舎の使用権も返還することが検討され、独立支援はこれからも続けるが、独立自尊の準備に取りかかる合意が内々で決まっていたのだった。

 

正直なことを言えば、誰もが信じ崇めている キヴォトスの頂点に立つ存在である 地球人:北条 アキラの庇護下でずっと恩恵に預かりたいところなのだが、他にもまだまだ謎の超巨大学園都市:キヴォトスには膨大な未調査領域があるため、怪獣退治の専門家:北条 アキラとしてはいつまでも【アビドス】で道草を食っているわけにはいかなかったのである。

 

そんな中、蝗害の発生源である“枯れた森”を制圧するついでに様々な検証実験を兼ねたオーブン作戦:ゼットン式灌漑によって、オアシスが完全に涸れた不毛の大地:アビドス砂漠で日の光を照り返す涸れ川を創り出すという奇跡を目の当たりにした【アビドス対策委員会】委員長:小鳥遊 ホシノが突如としてマイナスエネルギーを放出した末に記憶喪失になる事件が起きていた。

 

それは忘却の砂漠の性質によって不都合な真実から目を逸らすために必要な処理であったらしく、次に目醒めた時には【アビドス対策委員会】のみんなと過ごした2年間の記憶が失われ、当時【風紀委員会 情報部】に所属していた空崎 ヒナが目にした 言葉遣いは丁寧でも アビドス砂漠で神域に達していた武力を誇っていた 鋭い眼差しの少女へと小鳥遊 ホシノの時間が巻き戻っていたのである。

 

そのため、【アビドス生徒会】生徒会長:梔子 ユメがキヴォトスを去ってから、まるでコールドスリープで 2年間 眠り続けていたかのように、ユメ先輩の後を継いだ時の絶望的な状況から一気に希望に満ちた世界に【アビドス】が様変わりしていたことに【アビドス生徒会】副生徒会長:小鳥遊 ホシノは驚くばかりだった。

 

そして、2年前に知り合っていた顔馴染の戦場カメラマン:姫矢 ジュンに支えられながら状況把握に努めていく中でも時間は待ってはくれないため、こうして【アビドス】を救ってくれた地球人:北条 アキラは今後のことについても考えるようにも教え諭していた。

 

そうして過去と現在と未来のことを同時に考えなくてはならないために頭がパンクしそうになりながらも、小鳥遊 ホシノが()()()()で真っ先に疑問に思ったことで閉ざされた扉を開くことになった。

 

 

――――――そう言えば、どうして学園祭事務局の部屋を【アビドス廃校対策委員会】の部室にしているのでしょうか?

 

 

その疑問に答えられる者は他ならぬ発起人である【アビドス対策委員会】委員長:小鳥遊 ホシノ以外いないわけであり、過去の自分が一人で決めたことなのに何も憶えていないことに対する周囲の反応に、今は2年前の過去の存在に戻っていた【アビドス生徒会】副生徒会長:小鳥遊 ホシノは驚きと戸惑いを一番隠せていなかった。

 

そのため、思わず【対策委員会】の部室を飛び出した小鳥遊 ホシノは慣れた足取りで過たず 1階に施錠された開かずの間となっていた かつての生徒会室にしていた部屋の前に足を運ぶものの、記憶喪失で鍵をどこにやったのかを思い出せずに扉の前で立ち尽くすことになってしまった。

 

そんな時に、()()()()()()()()()()()()()と生徒会長:梔子 ユメから託されていた鍵を使って姫矢 ジュンが閉ざされていた扉に鍵を差したのである。突然【アビドス】に現れて 突然【アビドス】を去ることになったためにずっと返せずにいたが、大切な思い出と約束の証として肌見放さず持ち続けていたのだ。

 

だから、【アビドス】を去ってから最後のアビドス生だった2人の身に何が起きてしまったのかを言葉にせずとも理解しているからこそ、鍵を回して扉を開け放つのは生徒会長:梔子 ユメの後を継いだ副生徒会長:小鳥遊 ホシノの役目だと任せたのだが、小学生にしか見えない小柄な身体から伸ばされた手は 小刻みに震えながら すでに汗ばんでいた。

 

記憶喪失になったせいで、なぜかはわからないが、無意識の内にこの開かずの間を開け放つことを極度に恐れていることは自分でもわかっていた――――――。

 

だから、なおのこと、苦しい。決して忘れてはならないことを忘れてしまったことを苛むように――――――。

 

その苦しみをすぐに見て取った姫矢 ジュンはそっと少女の小さな手を取り、一緒に鍵を回す――――――。

 

 

――――――その瞬間、小鳥遊 ホシノは幻視する。

 

 

開かずの間の扉が謎の石碑に変わっており、開かずの間を開け放つための鍵を掴んでいた手は汗ばんでいた自分の手でもなく、自分の手を取って一緒に鍵を回してくれた頼れる人のものでもなく、いつも一所懸命で傷だらけで絆創膏が目立つ笑顔を絶やさなかった大切な人のものに変わっていて――――――。

 

一瞬 何が見えたのか、理解できないままに一緒に鍵を回して、誰にも打ち明けることができなかった苦しみを解き放つかのように、これまで閉ざされていた開かずの間の扉を息を合わせて開け放った――――――。

 

その時から【アビドス生徒会】副生徒会長:小鳥遊 ホシノは自分を慕って集まったという【アビドス対策委員会】の可愛い後輩たちとの引き継ぎに躍起になった――――――。

 

 

奥空 アヤネ「整理整頓が進んでだいぶ綺麗になりましたね、この生徒会室も」

 

黒見 セリカ「そうね。まあ、ほとんどが段ボールやロッカーに綺麗に仕舞ってあったわけだから、中身を取り出して確認するのが手間だっただけね」

 

砂狼 シロコ「どうする? 部室の引っ越しをする?」

 

十六夜 ノノミ「それはまだですよ。ここも【キヴォトス防衛軍】に貸し出されている場所ですから、使えるようになるのは賃貸契約の見直しをしてからです」

 

黒見 セリカ「あの頃は追い詰められていたから【対策委員会】の部室以外の全ての部屋を貸し出したのは 今になると ちょっとやり過ぎだったと思うけど、いざ不労所得のおかげで安定した収入が入るとなると本当に大助かりだったわ」

 

奥空 アヤネ「そうですね。使うことのない教室を貸し出して賃貸料を受け取った時、ずっとこの賃貸契約を続けてもらいたいと心から願ったぐらいです」

 

砂狼 シロコ「でも、いつまでも先生に甘えることは許されない」

 

十六夜 ノノミ「はい。先生への恩返しを、心ばかりのお礼を、感謝の気持ちを贈りたい願っても、【カイザーコーポレーション】を相手取って私たちの暮らす場所を取り戻してきてしまえるぐらいには、人も、物も、金も、地位も、才能も、先生は全てお持ちですから……」

 

黒見 セリカ「本当よね。【カイザーコーポレーション】からは返しても返しきれないぐらいの借金を背負わされて、先生からは返しても返しきれない恩があるけど、借金を返す以上にとんでもなく難しい話よね……」

 

奥空 アヤネ「そして、あくまでも【キヴォトス防衛軍】軍事顧問として怪獣退治を遂行するための必要経費や仕事での付き合いという建前で接しているので、先生としては見返りは何も期待していないそうです」

 

 

――――――ただ、本職が小学校の先生だから、生徒たちの健やかな成長だけを願っているのだと。

 

 

十六夜 ノノミ「先生は、私たちのことは一人前だとは絶対に思っていないわけなんですよね……」

 

奥空 アヤネ「だったら、せめてお礼の手紙や季節のお便りぐらいは出せるように先生の住所を控えておこうと調べていたのですが――――――」

 

砂狼 シロコ「どうしたの、アヤネ?」

 

黒見 セリカ「ああ、そうだった、シロコ先輩。先生の住所のことなんだけど――――――、先生ってもしかして家がないのかもしれないわ」

 

砂狼 シロコ「え」

 

十六夜 ノノミ「どういう意味ですか、それって!?」

 

奥空 アヤネ「どこを調べても【シャーレ・オフィス】宛の住所しか載っていないんですよ」

 

黒見 セリカ「それで他校の生徒にも聞いて回ったんだけど、本当に誰も知らないみたいなのよ」

 

十六夜 ノノミ「それじゃあ、先生はいったいどこで寝泊まりをしているんですか!? 先生のプライベートは!?」

 

砂狼 シロコ「ノノミ。先生はキヴォトスの頂点に立つ存在だから、住所を特定されるのは危ないことかもしれない。押し掛けてくる人や先生を襲おうとする奴らがいっぱいやって来ることになる」

 

十六夜 ノノミ「ああ…………」

 

奥空 アヤネ「そういうことなら、それもしかたがないことかもしれませんね」

 

黒見 セリカ「じゃあ、どうするのよ!? 実質的に私たちの代わりに借金を返してくれた先生に恩を返さないままでいいの? 借金の心配をしなくて良くなったのに、これじゃあ 全然 スッキリしないじゃない!」

 

 

小鳥遊 ホシノ「おつかれさまです、みなさん」

 

 

奥空 アヤネ「あ、おつかれさまです、ホシノ先輩」

 

小鳥遊 ホシノ「そろそろ考えがまとまりましたか? 次期アビドス生徒会長になってくれるのは誰になりますか?」

 

黒見 セリカ「ホシノ先輩、それは……」

 

砂狼 シロコ「この生徒会室は【キヴォトス防衛軍】に貸し出されているから、まだ時期尚早だと思う」

 

小鳥遊 ホシノ「そうですか。でも、早めに決めておいた方がいいと思いますよ。これから新しく生まれ変わる【アビドス】の将来を決めるのはみなさんなんですから」

 

砂狼 シロコ「…………ホシノ先輩」

 

小鳥遊 ホシノ「うへ~、そんなに難しい話じゃないと思いますよ。他に人がいなかったから会長職に就いていただけの私やユメ先輩のようにやりたいようにやればいいんですよ」

 

小鳥遊 ホシノ「あ、ちがいました。これからは生徒会長になる人にはなんと先生から格別に目をかけてもらえる特典があるんですよ、ほら」

 

十六夜 ノノミ「こ、これは……!」

 

小鳥遊 ホシノ「おお、お目が高いですね、ノノミさん!」

 

 

――――――これはなんと“先生の家の鍵”なんです!

 

 

―――

――――――

―――――――――

――――――――――――

 

 

――――――そして、移動遊園地(funfair):リトルプラネット 二度目の開園!

 

 

黒見 セリカ「結局、どうするんですか、それ?」

 

十六夜 ノノミ「……どうしましょうね?」スッ ――――――先生の家の鍵!

 

奥空 アヤネ「私はノノミ先輩が次期生徒会長になっても問題ないと思っています」

 

砂狼 シロコ「同感。ホシノ先輩の次にアビドス生になったノノミが次期生徒会長に相応しい」

 

砂狼 シロコ「そして、ホシノ先輩に実力で打ち勝って副生徒会長の座を私が受け継ぐ」

 

十六夜 ノノミ「シロコちゃん」

 

黒見 セリカ「ええ、それが一番ね!」

 

砂狼 シロコ「それに、ノノミは先生に興味津々」

 

奥空 アヤネ「はい。ノノミ先輩は先生の大ファンですからね」

 

黒見 セリカ「そうよね。誰よりも美化活動に一所懸命だったから」

 

十六夜 ノノミ「み、みんな……」

 

 

砂狼 シロコ「だから、空いた生徒会長の座にノノミが就いて、私が勝つまでホシノ先輩には引き続き副生徒会長でいてもらおう」

 

 

砂狼 シロコ「でないと、今すぐにでもホシノ先輩はどこかへ消えてしまいそうだから……」

 

黒見 セリカ「うん。ホシノ先輩、開かずの間だった生徒会室を開けた時から明らかに変わったわ。何と言うか、涸れ川を見て記憶喪失になった時と同じぐらい思い詰めていた感じに戻った気がする……」

 

奥空 アヤネ「ええ。記憶喪失になったホシノ先輩の元々の性格を知った今だと、本当にホシノ先輩は【アビドス】を変えることができなかった自分の非力さをずっと心の中で責め続けていたのだとわかります」

 

十六夜 ノノミ「本当は義務感だけで、【アビドス】が復興されるだなんて信じていなかったからって、『私たちに合わせる顔がない』だなんて思わないでくださいよ、ホシノ先輩……」

 

 

釣り大会の午後の部が終わり、釣り上げた魚を【Ⅰ.ショッピングモール(商業施設)】のレンタルキッチンで捌いてもらい、【アビドス】では絶対に味わえない海の幸を満喫している中、

 

【アビドス対策委員会】十六夜 ノノミは【アビドス生徒会】副生徒会長:小鳥遊 ホシノから 無理矢理 手渡された“先生の家の鍵”をずっと眺めていた。

 

釣り大会の午前の部の後、テーブル席でビールジョッキを持った北条先生とコップを重ね合わせた時の衝撃を忘れられず、釣り大会の午後の部も豪華景品の引換券が釣れるということもあって引き続き張り切って釣り堀に向かうものの、自分たちの窮状を救ってくれた偉大なる人との一歩踏み出せば肌と肌がふれあうほどの距離感に胸の高鳴りは収まりそうになかった。

 

しかし、自分たちを引き合わせてくれたアビドス遠征は半分を過ぎ、その進捗も【アビドス】における防衛体制の確立に伴って加速度的に進行することになったため、終わりの時は近い。

 

終わりを迎えてしまえば、当然ながら【キヴォトス防衛軍】軍事顧問:北条 アキラは次の未調査領域の調査に向かうわけであり、地球人:北条 アキラによって直接統治されていたことで到来した空前絶後の【アビドス】中興の黄金の時はもう二度と訪れないのだ。ゴールドラッシュ景気もいつまで保つことか――――――。

 

となれば、怪獣頻出期に突入したキヴォトスを救う偉大なる指導者である地球人:北条 アキラに気軽に会うだなんてことがもうできなくなるのも時間の問題であり、未調査領域の調査が順調に進んでいく毎に【アビドス対策委員会】の面々は別れの時が迫るのを日に日に感じていたのだった。

 

中でも、故郷を見捨てた【セイント・ネフティス】の贖罪のために【アビドス高等学校】への入学を選んだ十六夜 ノノミにとっては自分たちでは決して成し得なかった正攻法で【アビドス】が抱える諸問題を解決してしまった大恩人のことを想わずにはいられなかった。

 

もしも親の言いつけ通りに【ハイランダー鉄道学園】に入学していたら、今頃は【キヴォトス防衛軍】軍事顧問:北条 アキラに扱き使われている立場になっていたわけであり、その縁でもっと先生の側に居ることができたのではないか――――――、そんな未来を一度は考えてしまったぐらいには心が揺れていたのだ。

 

だからこそ、そんな心の裡を見透かされてか、開かずの間の生徒会室が開け放たれてからは今すぐにでも【アビドス生徒会】の全てを譲り渡そうとする副生徒会長:小鳥遊 ホシノが引き継ぎのために見せてきた“先生の家の鍵”に反応してしまった――――――。

 

 

十六夜 ノノミ「本当にどんなところなんでしょうね、“先生の家”って?」

 

砂狼 シロコ「記憶喪失になって改めて連れて行ってもらえたホシノ先輩が言うには、とんでもなく豪華な場所らしいね。超高級マンションで備え付けのものが食べ放題で飲み放題なんだとか――――――」

 

朱城 ルミ「え」ガタッ

 

砂狼 シロコ「ん?」

 

十六夜 ノノミ「あ、あなたは朱城 ルミさんですよね、【玄武商会】商会長の。今回もお世話になっています」

 

朱城 ルミ「あ、うん。こちらこそ、また移動遊園地(funfair):リトルプラネットで儲けさせてもらっています」

 

朱城 ルミ「それで、あの……、“先生の家の鍵”なんですか、それって……?」

 

十六夜 ノノミ「は、はい。先日、ホシノ先輩から譲ってもらえたのですが、まだ行ったことがないんですよ」

 

朱城 ルミ「へ、へえ……、そうなんだ……」

 

砂狼 シロコ「もしかして、先生から“鍵”をもらっていないの?」

 

朱城 ルミ「……うん」

 

砂狼 シロコ「え、そんなことってあるの? だって、朱城 ルミって【山海経】の改革派のトップだよね?」

 

十六夜 ノノミ「これはどういうことなんでしょうか?」

 

鹿山 レイジョ「あ、こちらにいましたか、ルミ会長」

 

鹿山 レイジョ「おや、そちらにいらっしゃるのは【アビドス対策委員会】の――――――」

 

朱城 ルミ「あ、レイジョ。これはね――――――」

 

鹿山 レイジョ「そういうことですか。今日は【アビドス対策委員会】の方とお話するご予定でしたか」

 

鹿山 レイジョ「では、後のことは私の方でやっておきますので、ごゆっくり」

 

十六夜 ノノミ「ルミさん、こちらの席にどうぞ」

 

砂狼 シロコ「いっぱい話そう、ルミ。情報交換は大事」

 

朱城 ルミ「レイジョ……、そう、じゃあ、後はお願い……」

 

朱城 ルミ「それじゃあ、よろしくね」アハハ・・・

 

朱城 ルミ「えと、あらためて、そう、自己紹介しようか。今更って感じかもしれないけど」

 

十六夜 ノノミ「ああ、いいですね、自己紹介。しましょう、自己紹介」

 

砂狼 シロコ「うん、自己紹介をするべき」

 

朱城 ルミ「わかったよ」

 

朱城 ルミ「あたしの名前は朱城 ルミ。【山海経高級中学校】でね、【玄武商会】の会長をやっているんだ。気軽に“ルミ”って呼んでね」

 

砂狼 シロコ「私は【アビドス対策委員会】2年生:砂狼 シロコ。よろしく、ルミ」

 

十六夜 ノノミ「同じく【アビドス対策委員会】2年生:十六夜 ノノミです。よろしくお願いします、ルミさん」

 

朱城 ルミ「うん、こちらこそよろしくね、シロコ、ノノミ」

 

十六夜 ノノミ「じゃあ、ルミさんも先生のことで一緒に盛り上がろうね!」

 

 

ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!

 

 

小鳥遊 ホシノ「……楽しかったなぁ、今日は本当に」バチャバチャ ――――――プールサイドで軽く足をバタつかせる。

 

小鳥遊 ホシノ「ヒナさんとスオウさんと一緒にメカワニやメカシャークを釣り上げて午後の部で総合優勝しちゃったしさ」

 

小鳥遊 ホシノ「まさかのまさか、こんな形で先生に表彰してもらえるだなんてビックリです」

 

神代キヴォトス人「ホシノよ」

 

小鳥遊 ホシノ「サーベラス様」

 

 

神代キヴォトス人「今まで音沙汰なしだった“クジラの谷”の死海の遺跡の主が声を届けてきた」

 

 

小鳥遊 ホシノ「え」

 

神代キヴォトス人「どうやら、アビドス砂漠の真ん中で往年の“アビドス砂祭り”を思い起こす催しを大々的に開いたことで奥の奥の奥で『岩戸が開いた』と、先生は言っていた」

 

小鳥遊 ホシノ「本当ですか、それ?」

 

神代キヴォトス人「後日、挨拶に向かうから【アビドス】の代表として一緒について参れ。砂漠化の解決への大きな前進を果たすことであろう」

 

小鳥遊 ホシノ「私が?」

 

神代キヴォトス人「他に誰がいる? シロコは行動班長、ノノミは一般委員、セリカは会計、アヤネは書記なのだぞ? 代表権を持つのは【アビドス生徒会】副生徒会長であるホシノだけなのだぞ?」

 

小鳥遊 ホシノ「でも、私は もう直 引退するつもりですよ? それなら、私じゃなくて――――――」

 

神代キヴォトス人「そうか。引退するなら 率先垂範 しっかりとその時まで手を抜かずに役目を果たせ。それで可愛い後輩たちのために有終の美を飾れ。互いに悔いのないように気持ちよく送り出されることだな」

 

小鳥遊 ホシノ「あ……」

 

小鳥遊 ホシノ「はい。わかりました、サーベラス様」

 

 

ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!

 

 

棗 イロハ「どういうことですか、マコト先輩!? いや、マコト議長!?」ブンブン!

 

羽沼 マコト「い、いや、知らない! 誤解だ、イロハ! 知らないんだ、本当に!」グラグラ・・・

 

棗 イロハ「そんなはずがないでしょう!? 曲がりなりにも、天下の【ゲヘナ学園】の生徒会長であるマコト議長が“先生の家”に招待されてないはずがない!」

 

砂狼 シロコ「その通り。本当のことを言うべき。今すぐに白状して」

 

丹花 イブキ「イブキも“先生の家”に遊びに行きたーい!」

 

羽沼 マコト「だ、だから、“先生の家”はこのマコト様でも知ることができなかった最高機密なのだ!」

 

棗 イロハ「え?」ピタッ

 

十六夜 ノノミ「そうなんですか?」

 

羽沼 マコト「常識で考えろ! 今やキヴォトスの頂点に立つ存在である先生の住所が割れていたら、今頃どうなっているかぐらいわかるだろう?!」ゼエゼエ・・・

 

朱城 ルミ「そ、それはたしかに……」

 

羽沼 マコト「と言うより、本当に小鳥遊 ホシノは“先生の家”に行ったのか!? このマコト様でも上がったことがない場所に!?」

 

十六夜 ノノミ「で、でも、ホシノ先輩は“先生の家の鍵”を私に――――――」スッ

 

羽沼 マコト「馬鹿者! 無闇にその“鍵”を出すな! 次期生徒会長になるつもりなら二度とそんな隙を見せるな!」

 

十六夜 ノノミ「え!?」

 

砂狼 シロコ「……ん、んん?」

 

朱城 ルミ「ちょっと待って? これって“先生の家の鍵”じゃないの?」

 

羽沼 マコト「いや、お前たちこそ待て! お前たちが想像している“先生の家”とは何だ? まさか、一軒屋だとでも思っていたのか?」

 

棗 イロハ「……どういう意味ですか、それ?」

 

羽沼 マコト「そうか、そういうことか。たしかに、小鳥遊 ホシノがあの様子ならば、()()()()を“先生の家”だと勘違いしていてもおかしくはないな」

 

羽沼 マコト「――――――揃いも揃って田舎者め」

 

羽沼 マコト「いや、待てよ。この様子だと調月 リオも百合園 セイアも()()()()に行ったことがないのか。知る人ぞ知る 選ばれた人間だけしか入れない場所として 少しは噂になっていてもおかしくないと思っていたがな……」

 

丹花 イブキ「ねえねえ、マコト先輩も“鍵”を持っているの?」

 

羽沼 マコト「ああ、持っているぞ、イブキ」ウヘヘ・・・ ――――――色違いのルームキーホルダーの鍵。

 

十六夜 ノノミ「あ、色違いのルームキーホルダー……」

 

棗 イロハ「やっぱり、持っていたじゃないですか、マコト議長……」

 

砂狼 シロコ「ん、ちょっと見せて」スッ

 

羽沼 マコト「やめろ、馬鹿者! 触るな! これはマコト様のものだ!」バッ

 

砂狼 シロコ「チッ」

 

十六夜 ノノミ「たしかに、これは迂闊に人前で見せるわけにはいかないですね……」

 

羽沼 マコト「いいか、お前たち。あまり騒ぐなよ。今、説明してやるから」

 

 

――――――この“鍵”は先生が主宰しているロータリークラブに加盟している超高級マンションの【生徒会長ラウンジ】に入室できるという()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。

 

 

宇宙格闘士の帝王「ほう、【ライオネスクラブ(Lionesses Club)】と言うのか、このロータリークラブの名は」

 

北条先生「ええ。日常生活の中で 会員がクラブ活動を楽しみつつ 地域社会に奉仕することを目的に活動する社会奉仕団体(Lions Club)の名に因みました」

 

北条先生「本物はオスライオン(Lion)の像を玄関に置いているんですが、ここは女子生徒が支配階級となっている学園都市:キヴォトスですので、メスライオン(Lioness)の像を象徴にしていますけどね」

 

聖園 ミカ「こんな場所が移動遊園地(funfair):リトルプラネットをはじめキヴォトス各地に用意されているだなんて知らなかった……」

 

北条先生「ロータリークラブと言うのは例会場所を輪番(ローテーション)で提供しあったことに由来しますからね。そういう意味では代表権を持ち回り制(ローテーション)にしている【ティーパーティー】もロータリークラブの一種になりますね」

 

北条先生「ですから、【生徒会長ラウンジ】は1箇所だけじゃないんですね。ただ、移動遊園地(funfair):リトルプラネット内に設けたのは今回が初めてとなりますが」

 

宇宙格闘士の帝王「ミカ、お前も【ティーパーティー】の副々ホストと言うことは副々生徒会長なのだから、“鍵”ぐらい持っているだろう?」

 

聖園 ミカ「ううん。持ってないよ。今日 初めて聞いた」

 

北条先生「でしたら、百合園さんに訊いてみてください。おそらく、利用する余裕がないんだと思います」

 

聖園 ミカ「うん。帰ったら訊いてみるね、セイアちゃんに」

 

北条先生「ここは完全会員制で、利用できるのは各学園の生徒会長と副生徒会長、もしくはそれに相当する代表者である生徒だけになっています」

 

聖園 ミカ「つまり、生徒会長になれば 誰にも邪魔されない場所で 先生と二人きりになることができるってことなんだ」

 

北条先生「僕だけじゃなくて、各学園のトップ同士で腹を割って話し合う場所にも使えますよ」

 

宇宙格闘士の帝王「あるいは、誰にも会わずに一人で過ごしたい時に活用できそうだな。ここに置いてあるものは好きに飲み食いしてもいいのだろう。景観もいい」

 

北条先生「そうです。そういう契約を結んでますので、キヴォトス各地にある【ライオネスクラブ(Lionesses Club)】を拠点にして休暇を楽しむのもいいでしょう」

 

北条先生「僕はこの【ライオネスクラブ(Lionesses Club)】に各学園に訪問する際に必要な物を置いていってますから、公式な訪問の前に生徒会長格の生徒なら事前に会うことが出来るようにはしてます」

 

聖園 ミカ「それはいいことを聞いちゃった」

 

宇宙格闘士の帝王「だが、そもそもとして、生徒会長格の生徒には同じようにホットライン通話(生徒会長/副会長限定)が使えるわけなのだから、あえて【生徒会長ラウンジ】を利用することの意味の重さを考えるといい」

 

聖園 ミカ「え、それも知らない。『ホットライン通話(生徒会長/副会長限定)』なんてのがあるのも知らない……」

 

北条先生「あまり有効活用されている気がしないですが、運用は始まったばかりです。誰にも相談することができない重圧から解放される憩いの空間をあらかじめ用意しておく必要があるので、【生徒会長ラウンジ】はこうして存在するわけです」

 

 

ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!

 

 

宇宙格闘士の帝王「おい、先生。玄関の方が騒がしいようだが……」

 

北条先生「おや、移動遊園地(funfair):リトルプラネットを隅から隅まで探検したい団体ツアー御一行様かな? まあ、前回はなかった場所ですし、気になった方も大勢いたことでしょう」

 

聖園 ミカ「いや、ちょっとまって! あれって【ゲヘナ】の羽沼 マコトじゃん!」

 

 

――――――生徒会長ラウンジの鍵を使って お一人様 ご案内!

 

 

宇宙格闘士の帝王「よく来たな、羽沼 マコト」

 

羽沼 マコト「おお、先生ではないか! こんなところに居たか!」

 

北条先生「やあ、羽沼さん。みんなに【生徒会長ラウンジ】の案内をしていましたか」

 

羽沼 マコト「まあ、そんなところだ」

 

羽沼 マコト「お、そうだ、先生。小鳥遊 ホシノがこれを“先生の家の鍵”だと言い触らして誤解が広まっているから、良い機会だから説明してやってくれないか」

 

北条先生「……よくわからないですね、言っていることが」

 

北条先生「それなら、ここに入れるのは羽沼さんぐらいですから、外に出ましょうか」

 

聖園 ミカ「うん」

 

宇宙格闘士の帝王「ああ、オレとしても満足だ。これがサービス精神(hospitality)というものか。なかなかに勉強になったぞ、先生」

 

 

ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!

 

 

十六夜 ノノミ「つまり、先生はキヴォトスに『移住(emigration)』してきたわけではないんですね」

 

北条先生「そうです。僕の場合、キヴォトスに宿泊先(accommodation)となる『住居(residence)』はあっても『住所(home address)』はないんです。当然、僕の戸籍は地球のもののままです」

 

北条先生「でも、そうなると郵便物や配達物の受取ができないので、便宜上の住所(accommodation address)として出向先の事務所である【シャーレ・オフィス】で受け取れるようにしているんですよ」

 

北条先生「そして、僕の本職は小学校の先生なので、【連邦捜査部 S.C.H.A.L.E(シャーレ)】と【キヴォトス防衛軍】の両顧問に就任しているのは 組織の外に向かって行われる異動『出向(secondment)』という扱いです。そういう労働契約だということにしました」

 

砂狼 シロコ「じゃあ、そういう意味だと“先生の(住所)”って本当に存在しないんだ」

 

北条先生「そうですよ。怪獣退治の専門家としては受け取り窓口は1つにした方が効率がいいので」

 

朱城 ルミ「そうだったんだ……」

 

十六夜 ノノミ「じゃあ、いつもどこで寝泊まりをしているんですか?」

 

北条先生「どこでも。決まってないです」

 

十六夜 ノノミ「え」

 

北条先生「ベッドや布団があったら上等ですが、何もなくても床の上で寝転がったり 椅子の背もたれに身を預けたりして睡眠時間を確保しています」

 

 

北条先生「――――――廃墟や裏路地で寝ることも何回かあったかな。公園で夜を明かすのも慣れたものです。小鳥遊さんに起こされたこともありましたっけ」

 

 

砂狼 シロコ「は」

 

十六夜 ノノミ「え」

 

朱城 ルミ「せ、先生……?」

 

棗 イロハ「じょ、冗談ですよね? だって、先生はキヴォトスの頂点に立つ存在なんですよ?」

 

羽沼 マコト「……さすがだな、先生」キキキッ

 

丹花 イブキ「??」ウトウト・・・ ――――――良い子は寝る時間に差し掛かる。

 

棗 イロハ「あのですね。先生が超高級マンションに宿泊していても それは分相応ということで 文句は一切ありませんけど、野宿者(ホームレス)の振舞いだけは止めてくれませんか、イブキの教育に悪いんで」

 

聖園 ミカ「うん。そればかりは本当にやめて、先生。お願いだから。そのことを知っていて何もしていないってことになったら、私が周りからいろいろ言われることになるから、私を助けると思って、お願い……」

 

砂狼 シロコ「先生、【アビドス】には空き家がたくさんあるから。その辺で野宿するぐらいなら、いっそのこと、私の家に来て?」

 

十六夜 ノノミ「その通りですよ! 【アビドス】を救ってくださった大恩人に私たち以上に苦しい生活を送ってもらいたくはないです! しかも、『ホシノ先輩に起こされた』ってことはアビドス自治区でもやっていたんですか!?」

 

宇宙格闘士の帝王「言われているぞ、先生。まあ、オレ好みの回答ではあるがな」

 

北条先生「僕としてもできればベッドや布団の上で寝ていたいです。ですが、これも怪獣退治の訓練としては必要なことですので、外で張り込む訓練を怠るわけにはいかないんですよ」

 

朱城 ルミ「ええ……」

 

羽沼 マコト「わかったか。これが怪獣退治の専門家というものだぞ、イロハ」キキキッ

 

棗 イロハ「そうですね。これはますます先生の出番がなくなるように死ぬ気で頑張らないとですね……」

 

丹花 イブキ「……先生?」ウトウト・・・

 

 

北条先生「それとですね、【生徒会長ラウンジ】の裏の目的としては、各学園の代表として選出された【連邦生徒会】の役員に対してある程度の制限付きでの利用を認めることにあります」

 

 

砂狼 シロコ「どういう意味、先生?」

 

朱城 ルミ「あ、そっか。【生徒会長ラウンジ】とかの特典で少しでも【連邦生徒会】の活動の励みになるかもしれないし、出身校の生徒会長と落ち着いて連絡が取れる場所にもなるだろうし、それで【連邦生徒会】役員を目指す生徒が増えることになれば国政への関心も増えるよね。【山海経】からも役員を送り出すべきかな」

 

聖園 ミカ「やっぱり、先生は連邦主義者(federalist)たちの原点回帰運動を支持しているんだ」

 

北条先生「そうです。中央政府である【連邦生徒会】には特に頑張ってもらいたいし、地方政府である各学園との結びつきも強化しておきたいですから、【連邦生徒会】役員の方々には【生徒会長ラウンジ】を利用しやすいようにしてあるわけです」

 

棗 イロハ「まあ、【連邦生徒会】の役員方は【メトロポリス(首都:D.U.)】からあまり離れることはないでしょうから、そこまで利用が盛んになるとは思いませんが、母校に帰った時の打ち合わせスペースとしては最高級のものにはなるでしょうね」

 

朱城 ルミ「やっぱり、先生は【連邦生徒会】を一番に重要視しているわけだよね……」

 

十六夜 ノノミ「でも、あまり利用者がいない前提のようだし……、それなら、先生との距離を詰めることができる一番の方法になるかも……」

 

 

カチャカチャカチャ・・・

 

 

ロボット職員「メカワニはこれで全部ですか?」

 

白石 ウタハ「ああ。ありがとう、“教父(せんせい)”。先生が電脳接続(リンクアップ)してくれるおかげで回収がスムーズだよ」

 

白石 ウタハ「いやはや、本来は海洋レジャー用に制作していたものだったが、まさか釣り大会の対象魚になるとは思いもしなかったよ。メカシャークについても同様だ」

 

白石 ウタハ「けど、おかげで良いデータが取れたし、私たちとしても釣りをエキサイトに盛り上げることができて楽しむことができた」

 

ロボット職員「そうですか。本当にありがとうございます。【エンジニア部】をはじめとして【ミレニアムサイエンススクール】の皆さん方には大いに助けられています、ずっと」

 

ロボット職員「先生の活動を支える縁の下の力持ちとしてずっと扱き使われているようで申し訳ないです。ずっと舞台裏なんかに居ないで、ここに遊びに来ている生徒たちと同じように遊ばせてやりたいのですが……」

 

白石 ウタハ「いやいや、ご謙遜を。礼を言うのはこっちの方だよ、“教父(せんせい)”」

 

白石 ウタハ「今や【キヴォトス三大学園(BIG3)】の一角として【ミレニアムサイエンススクール】が不動の地位を得ることができたのは“教父(せんせい)”の長年の指導の賜物であるし、」

 

白石 ウタハ「むしろ、こうして伝説的な存在の“教父(せんせい)”と一緒に怪獣退治という途方もないスケールの大きな目標に向かって邁進していける日々が楽しくてしかたがない!」

 

白石 ウタハ「それが【エンジニア部】の総意でもあるし、ここにいる生徒たち全員がそう思っていることだよ。下半期の予算の大半を投じてレールガン<スーパーノヴァ>を開発した甲斐があったよ」

 

ロボット職員「ええ。僕自身もレールガン<スーパーノヴァ>の威力に助けられてきました」

 

ロボット職員「でも、アビドス遠征はまだ終わっていないのに、次の未調査領域への対応も同時並行でやっているわけですよね。今回のメカワニやメカシャークの試験運用もそのためのものですから」

 

白石 ウタハ「ああ。アビドス遠征と同時並行でキヴォトス中に存在する未調査領域に対応させたメカの開発で毎日がてんやわんやだよ。もちろん、対怪獣兵器の開発や整備もあるわけだからね」

 

白石 ウタハ「正直に言って、北条先生は天才だよ。技術者としては専門職の私たちの方が上だとしても、地球の先進的なテクノロジーや豊富な知識に みんながアッと驚くような発想の数々――――――」

 

白石 ウタハ「それだけでも凄いんだけど、北条先生が一番に凄いところは怪獣退治する毎に【キヴォトス防衛軍】の戦力増強に繋がるものを引き寄せる引力だと思うんだ」

 

ロボット職員「――――――『引力』ですか?」

 

白石 ウタハ「ああ。質量を持つ物体同士なら必ず存在する万有引力の働きが根源にあるのだとするなら、先生は次から次へと 怪獣由来の新素材だけじゃない ヒト・モノ・カネといった あらゆるものを手繰り寄せているんだ」

 

白石 ウタハ「いったい誰が四次元宇宙人の侵略兵器を鹵獲して開発した対怪獣兵器やら、3000万年以上前の超古代文明の神代キヴォトス人だの、暗黒宇宙を拳一つで渡り歩く宇宙格闘士の帝王とか、新しい巨人の登場を予想できたと思う? しかも、その全てが私たち人類の味方! どんな天文学的な確率なら現在という未来を過去に予測できたと思う?」

 

ロボット職員「たしかに、途方もないことですよ」

 

白石 ウタハ「そして、半世紀に渡って怪獣や侵略者たちと戦ってきた地球の歴史に嘘偽りなく、あらゆる状況を想定して私たちの開発したものや整備したものの欠陥や不備を的確に見抜いて、そこからの仕様変更や丹念な調整によって完璧な結果をこれまでたくさんもたらしてきたわけだから、もう手繰り寄せているようにしか思えないんだ」

 

白石 ウタハ「統計をとっているわけじゃないけど、北条先生に任せていれば全てが上手くいくかのような万能感すらある」

 

 

白石 ウタハ「――――――本当に奇跡のような人だよ、北条先生は」

 

 

白石 ウタハ「だから、北条先生が見せてくれる未来が楽しみでならないんだ」

 

白石 ウタハ「要求される水準はとてつもなく高いけど、それだけに自分の限界にも向き合って最高の仕事になるから、やり甲斐がある日々だよ、本当に」

 

ロボット職員「そうですね」

 

ロボット職員「その差が僕の限界なんだろうな……

 

 

スタスタスタ・・・

 

 

ロボット職員「こうして移動遊園地(funfair):リトルプラネット 二度目の開園の初日も大好評で一日が終わった。新アビドス自治区を抜けたアビドス砂漠にこんなにも人が集まるだなんて想像もしなかった……」

 

ロボット職員「釣り大会は連日開催。広大な移動遊園地(funfair):リトルプラネットでのそれぞれの楽しみ方を確立してもらうためにメインアトラクションは1つに絞るようにして……」

 

ロボット職員「つまり、アビドス遠征が終わった後の次を見据えた開催目的でもあるんだ。行き付けとなる場所を用意して みんなについてきてもらえるように……」

 

ロボット職員「――――――だから、次は【廃墟】か」

 

 

みんなに出会ってゲームと友情を学びました。先生はアリスに何を教えてくれますか?

 

 

ロボット職員「……アリス

 

小鳥遊 ホシノ「あ、ガリバーさん……」

 

ロボット職員「ああ、ホシノさん。今日も夜回りですか」

 

小鳥遊 ホシノ「はい」

 

ロボット職員「何だか嬉しそうですね。今日は楽しめたみたいですね」

 

小鳥遊 ホシノ「はい。今日は本当に楽しかったです。記憶喪失になって1回目の開園の時の思い出を忘れてしまいましたが、今日のことを今度は忘れないようにしっかりと日記をつけておきます」

 

ロボット職員「釣り大会の午後の部でまさかの総合優勝ですからね。メカワニとメカシャークを釣り上げたのは見事でした」

 

ロボット職員「珍しい組み合わせでしたよね。【風紀委員会】委員長:空崎 ヒナさんに、【ハイランダー監理室】管理監督官:朝霧 スオウさん」

 

小鳥遊 ホシノ「はい。記憶喪失になったのを気遣ってか、ヒナさんとスオウさんには良くしてもらいました」

 

小鳥遊 ホシノ「その後、サーベラス様が『死海の遺跡の主に挨拶に行く』ってことで、これでまた砂漠化解決に大きく前進するって!」

 

ロボット職員「!」

 

ロボット職員「そうでしたか! 『死海の遺跡にはもう誰もいない』って聞いてましたけど、それは楽しみですね!」

 

小鳥遊 ホシノ「はい」

 

 

小鳥遊 ホシノ「だから、もう【アビドス】は大丈夫かなって……

 

 

ロボット職員「え」

 

小鳥遊 ホシノ「それじゃあ、おやすみなさい、ガリバーさん」

 

ロボット職員「――――――」パシッ

 

小鳥遊 ホシノ「ん」

 

ロボット職員「あ」

 

小鳥遊 ホシノ「……ガリバーさん?」

 

 

先生。最後にわがままを言って悪いんだけど、お願い。

 

シロコちゃんは良い子だけど、横で誰かが支えてないと、どうなっちゃうかわからない子で。悪い道に逸れちゃったりしないように、支えてあげて欲しい。

 

先生なら、きっと大丈夫だと思うから。

 

 

ロボット職員「――――――僕に頼み事をするぐらいなら、シロコの側から離れないでよ、ホシノ」

 

小鳥遊 ホシノ「……え、どうしたんですか、急に?」

 

ロボット職員「ホシノには記憶喪失のシロコを拾ってきた責任があるんだから、退学なんかしちゃダメだよ」

 

小鳥遊 ホシノ「――――――!」

 

小鳥遊 ホシノ「……何のことでしょうか?」

 

ロボット職員「目先の金のために自分を安売りしちゃいけない。本当に大切にしたかったものを深く傷つけるだけだよ、そんなの」

 

ロボット職員「金で買えるようなものじゃないからこそ、それを“かけがえのないもの”と言うんだ」

 

ロボット職員「いつもと変わらない日々の中からホシノがいなくなったら、【アビドス対策委員会】を太陽は明るく照らしてくれるのかい? ポッカリと空いた穴を埋められるものが何なのかを答えられるのかい?」

 

小鳥遊 ホシノ「……ガリバーさん」

 

ロボット職員「それに、考えてみてよ。それで借金を何とかしたところで『仲間を金で売った』という事実(こと)にしかならないじゃないか、ホシノ」

 

小鳥遊 ホシノ「――――――ッ!」

 

小鳥遊 ホシノ「……でも、私に出来ることなんて もうそれぐらいしかないじゃないですか」

 

小鳥遊 ホシノ「……戦うことしかできない私のことを高く買ってくれる人がいるのなら、それで仕送りをして【アビドス対策委員会】のみんなを支えてあげたいんです」

 

ロボット職員「ちがうんだよ、ホシノ。知見を広げるために自治区を離れる方法は『退学』以外にもあるんだよ」

 

小鳥遊 ホシノ「え」

 

ロボット職員「他校のカリキュラムを受けるのだったら『留学』になるし、お試しで働いてみたいのなら『職場体験』っていうのがあるから」

 

ロボット職員「それに、【アビドス高等学校】が抱えている借金は【キヴォトス三大学園(BIG3)】からの支援金で完済の目処が立ったわけだから、2年前と状況は完全に変わったんだ。今すぐに目先の金が要る状況じゃなくなっているんだ」

 

ロボット職員「しかも、先生の計らいでアヤネやセリカが卒業するまでは【キヴォトス防衛軍】が最後まで面倒を見る契約も結んでいるんだよ。ホシノが卒業した後のこともちゃんと先生は考えてくれているから」

 

ロボット職員「だから、アヤネやセリカが卒業した後も【アビドス高等学校】の存続を願っているのなら、今この時に必要なことっていうのは、たった5人しかいない生徒の内の一人が退学することじゃなくて、後に続いてくれる まだ見ぬ後輩たちを増やす努力なんだよ、ホシノ」

 

ロボット職員「だから、約束してよ、ホシノ」ギュッ

 

小鳥遊 ホシノ「あ……」

 

 

――――――最後まであきらめないで。

 

 

ロボット職員「卒業の日を迎えたら、僕が卒業証書を手渡すから、【アビドス高等学校】の歴史に名を刻む“アビドス最強の副生徒会長”として胸を張って みんなに称えられながら 誇らしく母校を巣立っていこうよ」

 

ロボット職員「――――――“先生”との約束だよ」

 

小鳥遊 ホシノ「……うん」ギュッ

 

 

スタスタスタ・・・

 

 

小鳥遊 ホシノ「わあ! いつもの道のはずなのにガリバーさんの肩に乗せられて見える世界(もの)がこんなにもちがうだなんて!」

 

ロボット職員「そうでしょう? 見え方が変わるだけで 見えるものがこんなにも変わるんだよ、世界は」

 

小鳥遊 ホシノ「ねえ、どうしてガリバーさんは、私のことを――――――?」

 

ロボット職員「実は、僕もアビドス砂漠に来る前にメモリーを損傷して16年分の記憶喪失になっているんだよね……

 

小鳥遊 ホシノ「ええ?!」

 

ロボット職員「だから、ホシノの場合は2年間の記憶喪失だけど、少しは不安になる気持ちをわかってあげられる気がして……」

 

小鳥遊 ホシノ「――――――シロコさんもそうなんでしょうか?」

 

ロボット職員「たぶん。1年前の冬の時期に名前以外の全てを忘れて【アビドス】を彷徨っていたところをホシノが保護したとは聞いた」

 

ロボット職員「あの水色のマフラーもホシノが特売で買ってきたものらしいけれど、ずっと身に着けているわけだから、本当に大切にしていることがわかるよね」

 

小鳥遊 ホシノ「……うん」

 

ロボット職員「だから、シロコのことを見捨てちゃダメだからね。ホシノには責任があるから」

 

ロボット職員「関係を断ち切る必要はないんだ。その時が来ることを見越して それまで“一所懸命”に充実した日々を一緒に送ろうね」

 

小鳥遊 ホシノ「はい」

 

ロボット職員「たしか、そう――――――」

 

 

vanitas_vanitatum_et_omnia_vanitas

 

 

ロボット職員「全ては虚しい。どこまで行こうとも全ては虚しいものだ」

 

ロボット職員「でも、仲間と一緒に泣いたり笑ったりして過ごしてきた日々を 全ては虚しいものだと悪く言われたら 誰だって腹が立つとは思わない?」

 

小鳥遊 ホシノ「はい」

 

ロボット職員「それが“かけがえのないもの”ということだよ、ホシノ。普段はなんとも思っていないようなことであっても 他人からとやかく言われたくないようなものが“かけがえのないもの”なんだ」

 

小鳥遊 ホシノ「そう言われてみると、たしかに」

 

小鳥遊 ホシノ「とても勉強になります、ガリバーさん!」

 

ロボット職員「ごめん、ホシノ。これも北条先生の公開授業で学んだことなんだ」

 

小鳥遊 ホシノ「そうなんですか?」

 

ロボット職員「たしか、この"vanitas(虚無)"というのは地球の芸術史で重要なバロック期*1の精神を表す概念で、」

 

ロボット職員「大切なのは『全ては虚しい;だから、何だ?』という問題提起と心の持ち様だと先生は力説していたよ」

 

小鳥遊 ホシノ「へえ」

 

ロボット職員「その理解を助けるものとして、この"vanitas(虚無)"と一緒に語られる警句(もの)が"memento mori(死を想え)"と"Carpe diem(その日を摘め)"なんだ」

 

ロボット職員「"memento mori(死を想え)" 死とは必ず誰にでも訪れるものであり、それが いつ どこで どんなふうに訪れるかを予知することはできないから、」

 

ロボット職員「"Carpe diem(その日を摘め)" 人生は長いようで短くて 時間はただひたすら過ぎ去っていくものなのだから、今ある機会をできるだけ掴むことだ」

 

ロボット職員「――――――そうすることこそが全ては虚しいはずの人生を充実させることができる秘訣というわけなんだ」

 

小鳥遊 ホシノ「だから、卒業まで残された時間を有意義に使うようにガリバーさんが言ってきたんですね」

 

小鳥遊 ホシノ「あ、ということは、同じようにアビドス遠征が終わるまでの残された日々もただ過ぎ去っていくのを嘆くのではなく、前向きに次の準備に取り組むべきなんですね」

 

ロボット職員「そういうこと」

 

ロボット職員「先生の教えは太陽の光のように大地を遍く照らして、生きとし生ける人たちに生きる元気を与えてくれる!」

 

ロボット職員「でもね、なんかね、こういう警句は人の幸せを願っているからこそ後世に語り継がれてきているはずのものなのに、」

 

ロボット職員「表面的な理解で『全ては虚しい;だから、何をやっても無意味』という誤った理解を広めて 人のやる気を削いで不幸に陥れる 最低な人間が世の中にはいるらしくて……」

 

ロボット職員「……まあ、ベアトリーチェって言うんだけどね、そいつの名前

 

小鳥遊 ホシノ「そうだったんですか……」

 

ロボット職員「だから、たくさん見て学ぼう、先生の公開授業のアーカイブ! 誰でも見ることができるから!」

 

小鳥遊 ホシノ「そうですね。ガリバーさんと話していて、自分がいかに無知であることを知ることができましたから、先生の公開授業のアーカイブを見て いっぱい学ばせてもらいます」

 

ロボット職員「うん!」

 

小鳥遊 ホシノ「あの、ガリバーさん。私、正直に言うと、あまりロボット族の方には良い印象がなかったんですけど、ガリバーさんは違いますよね。機械の身体に抱きしめられた時に心が物凄く温かくなる感じがしましたから」

 

 

――――――ガリバーさんって、もしかして本当はロボットスーツを着込んでいるヒト族なんですか?

 

 

*1
16世紀末から17世紀初頭にかけてイタリアのローマ、マントヴァ、ヴェネツィア、フィレンツェで誕生し、ヨーロッパの大部分へと急速に広まった美術・文化の様式。バロック芸術は秩序と運動の矛盾を超越するための大胆な試みとしてルネサンスの芸術運動の後に始まり、18世紀後半には新古典主義へと移行した。

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