Blue Archive -Document GUYS feat.LXXX- 作:LN58
砂狼 シロコ「ん! だったら、イーリス様、あなたに私たちの力を見せて情報を引き出す!」ジャキ!
ロボット職員「シロコ!?」
地帝大王母「いいでしょう。お相手いたします。楽しい時間にしましょう」
宮藤 セルマ「なに?! こちらの要求を聞き入れただと!?」
地帝大王母「ただし、7対7にしますので、残りの方は特等席で私と一緒に観戦しましょう」スッ
山高 カムロ「――――――『7対7』?」
地帝大王母「さあ!」フワァ・・・ ――――――特等席送り!
山高 カムロ「うわああああああああああ!?」フワァ・・・ ――――――特等席送り!
宮藤 セルマ「なあああああああああああああ!?」フワァ・・・ ――――――特等席送り!
秤 アツコ「きゃああああ?!」フワァ・・・ ――――――特等席送り!
ロボット職員「あ、アツコぉおおお!? サーベラス様あああああああああああ!?」フワァ・・・ ――――――特等席送り!
神代キヴォトス人「さあ、戦いの準備をせよ!」フワァ・・・ ――――――特等席送り!
――――――挑め、神話に! 己が手で未来を掴み取れ、キヴォトスの子らよ!
――――――
錠前 サオリ「姫ええ! コーイチ!」
剣先 ツルギ「サーベラス様のお達しだ! いーひひひひひひ! 戦いだぁ!」
聖園 ミカ「ええ!? 本当に戦うの!? けど、やるしかないのなら、やるしかないじゃん!」
御稜 ナグサ「――――――“地帝大王母”イーリス。相手は神に等しい存在ですか」
空崎 ヒナ「だとしても、先生のアビドス遠征を成功させるために私に出来ることをするだけ!」
砂狼 シロコ「行くよ、ホシノ先輩! 私たちに今できることを!」
小鳥遊 ホシノ「わかりました、シロコさん! この戦い、絶対に負けられないです!」
――――――
宮藤 セルマ「……分身した!?」
山高 カムロ「けど、見た感じ、分身にもいろいろと差異があるみたいだ」
ロボット職員「そうか、これは【戦術対抗戦】ということか!」
神代キヴォトス人「さて、どうであろうな。だが、我の目に狂いがなければ、輝きを取り戻せると信じているがな」
――――――こうして選ばれた生徒たちが神話に挑む7対7の【戦術対抗戦】が開幕となった!
相手は“シャーレの研究員”として圧倒的存在感を放って 学園都市:キヴォトスの謎を次々と解明してきた 現代に復活した光の眷属:サーベラスを超える 上級眷属:イーリスであり、それが7体に分身して生徒たちに勝負を仕掛けてきたのである。
そして、結果として光の眷属:サーベラスが連れて来ることができた生徒たちというのがキヴォトスでも上位に君臨する戦闘能力を持つ精鋭たちであり、山一つが入るかもしれないほどの巨大な遺跡の中に存在する地底湖での撃ち合いは白熱していく。
ただ、わざわざ戦いやすいように決戦の舞台を用意してきたのは向こうであり、あくまでもこちら側が叩きつけた挑戦を受けるために合わせてきたという余裕が見え隠れしており、実際にここにいるキヴォトスでも上位に君臨する生徒たちであっても気を抜けばすぐに圧倒されるものを感じ続けていたのである。
しかし、生徒たちが神のごとき存在である“地帝大王母”イーリスの分身体に対して面食らったのは、超古代文明が生み出したオーパーツ武器:サークルアームズを得物としていた“地獄の釜の門番”サーベラスとは打って変わって、7体の分身体の得物というのが現代基準で言えば見るからに骨董品レベルの珍妙揃いの銃器ばかりだったからなのだ。
なにしろ、地球の歴史において“現代的なアサルトライフルの始祖”とみなされている
デジタルネイティブ世代の洗練された現代兵器を扱う生徒たちにすれば見たこともない変な銃ばかりなのだが、さすがは地球人:北条 アキラが来るまでは
事実、銃弾を撃たれても平気なキヴォトス人が率先して回避を選ぶ危険な攻撃ばかりであり、結果として【キヴォトス防衛軍】はバランス良く前衛・中衛・後衛が割り振りされたオーソドックスな編成になっていたのに対し、
【地帝大王母の分身】は前衛:3人、中衛:1人、後衛:3人という編成となっており、【キヴォトス防衛軍】にはない“
◯【キヴォトス防衛軍】……前衛:3人、中衛:2人、後衛:2人
錠前 サオリ STRIKER/MIDDLE/AR
剣先 ツルギ STRIKER/FRONT/SG
聖園 ミカ STRIKER/FRONT/SMG
御稜 ナグサ STRIKER/BACK/SR
空崎 ヒナ STRIKER/BACK/MG
砂狼 シロコ STRIKER/MIDDLE/AR
小鳥遊 ホシノ STRIKER/FRONT/SG
◯【地帝大王母の分身】……前衛:3人、中衛:1人、後衛:3人
そのため、“
となれば、歴戦の猛者揃いの【キヴォトス防衛軍】の全員が考えるのは一緒であり、ポジションや隊列などかなぐり捨てて全員突撃あるのみである。一箇所に留まってはいけないのだ。
こうなると被弾上等の乱戦となり、そこから
しかし、装備や練度の面では【キヴォトス防衛軍】の方が洗練されているのは確かだったが、浴びせられる銃弾の一発一発の重さは圧倒的に【地帝大王母の分身】が上であり、真正面からのぶつかり合いでは明らかに不利となっていた。
なにより、装備や練度に劣る以上に【地帝大王母の分身】の分身体同士の連携は完璧であり、
しかし、直前に空崎 ヒナが撃ち落として 小鳥遊 ホシノが盾で正面から防いだおかげで、全体への必殺の一撃は回避されており、戦いは乱戦から仕切り直して両軍が再び向き合う形に戻った。
それを踏まえて、そこから味方への誤爆の恐れを分身体同士の完璧な連携で排除して容赦なく
味方同士の連携が完璧であることを前提として ロケットランチャーの脅威をちらつかせる砲兵を守る 防御陣に敵が突撃したところをまとめて吹き飛ばす戦術というのは完全に奇想天外であり、
砲兵を無視してその場で銃撃戦をしているとロケットランチャーが撃ち込まれる恐怖が常に戦場を支配しているわけであるため、敵陣に切り込んで乱戦に持ち込むことで敵の砲撃を阻止できると思い込んでいたところに遠慮なく叩き込まれる一撃は戦場で生まれるはずだった膠着状態の安心感を奪い去る所業であった。
かと言って、ロケットランチャーの恐怖から砲兵へ肉薄しようと突出すれば、その勇み足から各個撃破に繋がることを戦場のセオリーとして理解しているからこそ、わかっていても乱戦状態から抜け出すことが難しいのだ。とにかく、銃弾を浴びた時の痛さがジワジワとくるものであり、ダメージによる不調を疑わせるものであったのだ。
つまり、編成の時点で戦術的優位を【地帝大王母の分身】に取られており、完璧な連携から繰り出される 誤爆の可能性を排除した 容赦ないロケットランチャーの砲撃がここまで脅威になるとはキヴォトス人の常識からは想像もつかなかったのだ。
そのため、これまでは圧倒的な戦闘能力で相手を蹂躙してきただけで 本当の意味で強者しかいない戦場というものを体験したことがない 精神的に軟弱な生徒から順に疲弊することになったのである。
もっとも、ここに集まっているのはキヴォトスでも上位に君臨する戦闘能力を持っていると自負している負けず嫌いの生徒たちであるため、先に疲れを見せるだなんて だらしのない姿を見せることは 死んでもごめんであった。
なにより、北条先生が率いる【キヴォトス防衛軍】のアビドス遠征の成功がかかった一戦であるため、大恩ある先生のためにも、守りたいと思う誰かや学園のみんなのためにも、怪獣無法地帯を制した希望に満ちた明日のためにも、何が何でもこの一戦は勝つ必要があるのだ。
それはそれとして、ここまで追い詰められることもなかったとして かつてないほどの強大な敵が目の前に現れてくれたことに神に感謝している者も密かにいたのも事実である。
宮藤 セルマ「くそっ! 何をやっている! これでは完全に掌の上ではないか! なんて無様な戦いだ!」
山高 カムロ「とは言っても、これまで各学園の治安維持組織が相手にしてきているのは格下の生徒ばかりで、戦車を持ち出されたとしても最強戦力と目されている生徒たちが放つ銃撃で十分に対処可能だったからこそ、部隊編成で砲兵が必要なかったわけで……」
山高 カムロ「しかも、ロケットランチャーの脅威を十二分に活用したシンプルながら理に適った完璧な連携行動はおそらくキヴォトスには存在しなかったものだ」
山高 カムロ「――――――まさに神懸かった戦術だ」
宮藤 セルマ「くぅ! 各学園が誇る最強戦力が集まっているんだぞ! それがこんなやつらに負けるのか!?」
神代キヴォトス人「何だかんだ言って、実力は認めているのだな、セルマよ」
宮藤 セルマ「当たり前だ! どっちの味方のつもりだ!?」
ロボット職員「みんな……」
秤 アツコ「サッちゃん……」
ロボット職員「あ」
秤 アツコ「また みんなの動きが止まった!」
神代キヴォトス人「いや、
山高 カムロ「――――――『
宮藤 セルマ「つまり、私たちの視点だと1秒で1
ロボット職員「こんなことが意のままにできるわけなのか」
・・・ポタ! ポタ! ポタ!
宮藤 セルマ「うっ!」ヒヤッ
山高 カムロ「宮藤?」
宮藤 セルマ「……水滴が落ちてきた?」
秤 アツコ「へえ」
ヒュウウウウウウウウウウウウウウ!
秤 アツコ「あ、暖かい風がどこからともなく吹いてきた」
ロボット職員「――――――風!? どうして!? センサーで感じるんじゃなくて今のを肌で感じた!?」
神代キヴォトス人「なるほどな、そういうことか。だから、イーリスは身動きが取れないわけか」
ロボット職員「どういうことなんです?」
神代キヴォトス人「まあ、聞け。砂漠化の原理を理解できたぞ、コーイチよ」
ロボット職員「本当ですか!?」
神代キヴォトス人「手を出してみよ」スッ
サァアアアアア・・・
神代キヴォトス人「ほら」パッ ――――――指先からひとつまみの砂が注がれた。
秤 アツコ「わあ」
ロボット職員「これは――――――」
神代キヴォトス人「わかるな。原因不明と言われていた砂漠化の原因はこれだ」
神代キヴォトス人「要は、念力で砂漠の砂が生産されているということだ。だから、“地帝大王母”イーリスが造り出した帯水層の地下水と同じく無尽蔵なのだ」
秤 アツコ「おお」
ロボット職員「――――――ビブーティか!?」
神代キヴォトス人「うん?」
秤 アツコ「コーイチ、『ビブーティ』って?」
ロボット職員「たしか、インドの超能力者が手から砂を出すなんてことをしているのをオカルト雑誌で読んだ憶えがある。
ロボット職員「それと同じことか!」
秤 アツコ「そんなことができるんだ」
ロボット職員「他にも、明治時代の日本の霊能者が何もないところから霊水なんてものを出していたっけ」
神代キヴォトス人「ああ、その通りだ、コーイチ。我ら光の眷属からしてみれば 砂粒や水滴を出すくらい いとも容易いことよ。まあ、我の場合はゲヘナの豊穣の大地を生み出すのに過不足なかったから積極的に使うこともなかったが」
ロボット職員「おお、そういうことだったのか。子供の頃に読んでおいてよかった、オカルト雑誌」
神代キヴォトス人「となると、コーイチよ。お主も似たようなことができたのではないか」
神代キヴォトス人「思い出すのだ。それを見せてもらえぬか」
ロボット職員「あ」
ロボット職員「そうだ。そうだよ。僕にだってできていたじゃないか」
ロボット職員「どうして忘れていたんだろう。子供の頃に何度も試してきたじゃないか」
ロボット職員「できるかな? いや、光の眷属が当たり前のようにできているんだから、光の巨人だった僕にだってできることなんだ!」
――――――両手でその輪郭をなぞるように光の玉を現実に思い描く!
ロボット職員「ほぉおおおおおおおおお……!」フワァ・・・
秤 アツコ「スゴい! コーイチもできるんだ! しかも、大きな光の玉だよ!」
神代キヴォトス人「おお、この温かさは……」
ロボット職員「ほら、この“光”の温かさを
ロボット職員「でも、オカルトにのめり込み過ぎて無茶苦茶やってたから、それで家族に死ぬほど心配させちゃってさ……」
ロボット職員「だから、こんなことはもう二度とやらないことを誓った瞬間にできるようになったんだ……」
ロボット職員「それで気づいたんだ。僕が“光”となり“世界”となり“一つ”になったのは巷の超能力者のように見せびらかすものじゃなくて、身近な人や大切な人たちを守るためにあるのだと……」
ロボット職員「この時の感覚は絶対に忘れてはならないのだと、“
――――――光よ、光よ、光よ。光よ。光よ。
山高 カムロ「なあ、宮藤!? なんか隣で スゴいこと やり始めているんですけどぉ!? あの光を見ていると、こう、身体の芯がジーンと熱くなってくるよな!?」
宮藤 セルマ「く、くぅううううううううううううう! こんなのはまやかしだ! オカルトだ!」
山高 カムロ「でも、これが全て幻覚だとするなら、宮藤が信じているものの正しさは何で保証されるんだい?」
宮藤 セルマ「だとしたら、何もないところから水滴と言い、砂粒と言い――――――!」
宮藤 セルマ「なんだと!? そんな馬鹿なことがあるか!? 質量保存の法則はどうした?!」
山高 カムロ「いや、水滴や砂粒だけじゃなく、風や光を生み出すことができるのだから、これはエネルギー保存の法則で考える必要があるかもしれないぞ、宮藤」
山高 カムロ「ほら、“現代の錬金術”と呼ばれている
山高 カムロ「その中でも原子炉錬金術;核融合反応で水素のような軽い原子核同士が融合してヘリウムなどのより重い原子核に変わることは知っているだろう、当然?」
宮藤 セルマ「つまり、予想よりも遥かに少ない質量で形成されている宇宙の大規模構造の
山高 カムロ「ああ。僕たち人間に知覚できていないだけで、蝶々には紫外線が視えているように、鯨が超音波の反射音で位置を把握できるように、ある種の超能力者ならば常人には認識できない領域の物質の操作ができているんじゃないかな?」
山高 カムロ「これは凄いことになるぞ。物質の状態変化は固体・液体・気体・
宮藤 セルマ「この加速膨張する宇宙を構成しているのは原子等の
宮藤 セルマ「これが科学的に立証されたら、たった4.9%しか存在しない
宮藤 セルマ「となると、数十年前から始まった原因不明の砂漠化の真相というのは『
山高 カムロ「サーベラス様が利用している光ネットワーク上で言えば『秘密保管庫の機能の暴走』ってことだったね」
山高 カムロ「だから、地上全土に文明をもたらす地下水の生産を担う帯水層;そこに沈む遺跡は文明開発会社の事業部門ってことで、そうした文明開発の機能を集約した
山高 カムロ「目的地には辿り着けなかったけれど、これは本当に大きな前進と歴史的発見だよ」
宮藤 セルマ「ああ、そうだな……」
アビドス砂漠の奥へと進んで“枯れた森”と“怪獣釣り堀”を経由して辿り着く“クジラの谷”は 発見者である地球人:北条 アキラがエジプトの世界遺産:
古鯨類:バシロサウルスは約4,000万~約3,400万年前の温暖な浅海で繁栄しており、推定3000万年前の光と闇の最終戦争で滅亡した超古代文明より以前の光の勢力が降臨した神代では、まさに“クジラの谷”周辺はバシロサウルスの楽園であった。
バシロサウルスの楽園である温暖な浅海の海辺に降臨してきた光の勢力の第一陣に“地帝大王母”イーリスが居り、地上全土に文明を生み出すために地下深くの遺跡に鎮まって帯水層を生み出し、悠久の時の中で尽きることなく地上全土に生命の水をもたらす役割を果たしてきた――――――。
ここまでが今回の調査で判明した内容であり、バシロサウルスの楽園の跡地“クジラの谷”にとてつもないスケールの役割と働きを担う光の上級眷属:イーリスが太古の昔から鎮まっていたのも納得であり、
バシロサウルスの化石が示相化石でかつ示準化石であることを熟知していたからこそ、化石を見ただけで“クジラの谷”が約4,000万~約3,400万年前の温暖な浅海だった場所の地層であることを確信を持って言えた地球人:北条 アキラの博覧強記ぶりに誰もが舌を巻くばかりである。
実際、この解説がなかったら、アビドス砂漠で“クジラの谷”となる場所に神代に第一陣として“地帝大王母”イーリスが降臨した時の情景が誰一人として結びつかなかったことだろう。考古学・地質学的資料をはじめとして数々の文献が長きに渡る砂漠化の混乱で喪失してしまった【アビドス】のことともなれば、もう誰にもわからないことだったにちがいないのだから。
こうして、死海に沈む遺跡はアビドス遠征の裏の目的である『暴走した秘密保管庫』の在り処ではなかったものの、文明の成り立ちにおいて極めて重要な聖域であることの裏付けがとれたため、今後も聖域が荒らされることがないように“クジラの谷”を厳重に封鎖し続けることが決まったのである――――――。
一方で、
そして、それはまた“地帝大王母”イーリスの分身たちと戦うことになった
――――――運命を決するカードはすでに配られていた。それがどういう意味であれ。全ては捻れて歪んだ終着点を越えた奇跡の始発点に辿り着くため。
――――――
錠前 サオリ「ま、まだだ……」ゼエゼエ・・・
剣先 ツルギ「ぅぁぁぁぁぁぁ……」ゼエゼエ・・・
聖園 ミカ「ねえ! この程度で音を上げる子なんていないよね! ねえ!?」ゼエゼエ・・・
御稜 ナグサ「当然です! さあ、ここからが正念場ですよ!」ゼエゼエ・・・
空崎 ヒナ「ええ! 決して勝てない相手じゃないわ!」ゼエゼエ・・・
砂狼 シロコ「うん! さすがに手強いけど、神様みたいな存在が本当に弱かったら、この世のどこにも救いなんてものはないから……!」ゼエゼエ・・・
小鳥遊 ホシノ「みんな……!」ゼエゼエ・・・
――――――しかし、このままでは勝ち目がないことは心のなかでは誰もがわかりきっていたことだった。
きっと、特等席と呼ばれている場所でこの戦いを観ているだろうコーイチや地上で帰りを待っている先生から、なんて無様な戦いをしているのだと呆れられてしまう――――――。
敵の戦術は至ってシンプルで、部隊に配備されたロケットランチャーで常に圧力を掛けることで、こちら側に対応を迫り、砲撃させないために敵陣に向かって否が応でも突撃して乱戦に持ち込ませることにあった。
そして、真っ先に排除しなければならない砲兵へと敵中突破をしようとして隙を見せたが最後、各個撃破の目標にされて、そこから一気に全滅させられてしまうわけであり、ロケットランチャーの脅威を最優先で対応しなければならないのに誰一人として敵中突破して乱戦から抜け出せないのだった。
そうこうしているうちに敵は誤爆を恐れることなく 味方諸共 砲撃してくるわけであり、気付いた瞬間には敵はこちらに気取らせることなく抜群の連携で乱戦の外側に回り込んで私たちを内側に固めながら一斉に離脱を図っているのだ。
そう、気付いた時には相手の術中に嵌まっていたわけであり、何回やってもロケットランチャーの砲弾をギリギリで撃ち落としては最悪の状況を回避するのに精一杯になっており、いつの間にか乱戦の中で一塊にされた私たちを尻目に敵は陣形を立て直すことで、戦闘開始前の両軍が睨み合った状況を再構築して悠然と構えられることが幾度となく繰り返されていた。
敵の能力はどれだけ少なく見積もって神に等しい存在だけに一人一人がキヴォトスでも上位に君臨する精鋭たち【キヴォトス防衛軍】と互角以上であり、装備と練度に関してはこちら側が上ではあったものの、まるで一つの生き物であるかのような抜群の連携によって個を圧倒する集団戦闘能力を発揮しているのが【地帝大王母の分身】だったのだ。
そう、ここまで何度も乱戦を繰り広げてみてわかったことだが、1対1になれば個々の能力で分身体に勝ると思えるぐらいの力関係であり、それがわかっているからこそ、繰り返される乱戦の中でどうにか自分の強みを押し付けて打ち勝とうとしていた。そうすることがこの戦いを勝利に導く最善の行動だと誰もが信じていた。
しかし、相手側は挑戦を受けた防衛側のため、私たちを何が何でも打ち倒す必要がないらしく、この戦いの前提条件として常にロケットランチャーの脅威が向けられていることに対する緊張感による消耗を狙っており、
それでいて個々人の装備や練度に関してはこちら側が上であろうと、私たちに劣る装備や練度の中で受けることになった銃弾の痛さは明らかに重く、徹底的にこちらに戦いの主導権を握らせることのない完璧な連携に裏付けされた隙のなさであった。
そうなのだ。私たちの能力は決して【地帝大王母の分身】に劣っているわけではないが、同時に圧倒できるほどではなく、逆にこちらの能力が上であると認識させられていることから、膠着した状況を打破して勝利を求めて強敵撃破への渇望と敗北へと転落していく深追いへの警戒心が戦場の中の私たちの心の中でせめぎ合っていたのだ。
だから、私たちは各学園から集められた精鋭たちによる即席の調査隊ということで個々の能力は高くとも、敵が見せつけてきている連携能力はなく、かと言ってバラバラに戦っている者同士を結びつける指揮を振るえる者もいない。
更には、各人が猛者として戦場のセオリーを理解しているが故に、心の裡でも勝利に逸る気持ちと敗北を恐れる気持ちに一人一人が揺さぶられた状態になっており、外に向ける気持ちと同じように内に向ける気持ちですらバラバラになって二進も三進もいかなくなっていたのだ。
おそらく、この場に先生か、それ以上にコーイチが居てくれたら、少なくとも内も外もバラバラなこんな状態になんて絶対にならない――――――。
――――――その時、私たちの世界が停まり、どこからともなく現れた光の玉が全てを黄金色に染めた。
いったい何が起きたのか、不意に投げ込まれた
そのため、ロケットランチャーで常に揺さぶりをかけて疲弊させたところに投げ込まれる
しかし、どれくらいの時間が経っていたのだろう、我に返って恐る恐る目を開くと、辺り一面を黄金色に染め上げた光の中で誰かが立っていたのだ。私と同じように黄金色の光の中で仲間たちが顔を見合わせながら戸惑っていた。
――――――すると、聖園 ミカが何かに気づいて呟いたのだ。それはたしかに“
聖園 ミカが呟いた“
そして、ロボット職員:マウンテンガリバーの正体が 機械の身体に意識を移されて過去の世界に送り出されたという 北条先生と同じ地球人:コーイチ先生であり、本来はそのコーイチ先生こそが“シャーレの先生”であり、“光の巨人”になることができていたらしいことは何度も言われていたことだった。その力の片鱗は今までに何度も目の当たりにしている。
だからこそ、私もコーイチが人間だった時の
いざ、コーイチがヒトの身体に戻ったとして、今までずっと見てきたロボット職員:マウンテンガリバーとしての姿や活躍ばかりが思い浮かび、本当にそれがコーイチなのかどうかを判断することは私には難しいことに思えた。私には“ユザレの末裔”と呼ばれている
そもそもとして『今のこの状況はいったい何なのだ?』と問いかける間もなく、聖園 ミカが必死に“
その様子に唖然とする中、目の錯覚などではなく、聖園 ミカが“
そこにひとり泣きじゃくっている子供の手を取って“光”へと導く女性の姿があった。それには聖園 ミカが猛烈に反応することになり、かと言って近づくことができないことを理解したため、このまま地団駄を踏み続けるのかと思った瞬間だった。
――――――“光”は 黄金の輝きに包まれた まだキヴォトスでは誰も見たことがない“
もはや、言葉で説明などできない摩訶不思議なことだったのだが、瞬間的に私には泣いていた子供と手を繋いだ女性が共に“光”となり“世界”となり“一つ”となって“
そう、
その感覚を姫以外で誰よりも身近に求めて感じて記憶していた聖園 ミカだからこそ、この空間がコーイチの“光”であり“中”であり“そのもの”であることを心の奥深いところで真っ先に理解していたのだ。
そこから“
グングン背が伸びたことで私たちと同じぐらいの年頃になったコーイチは今度は座り込んでいる女の子の手を取って再び“
その感動の余韻に浸りながら次のシーンになると、おそらくコーイチと同じように“
そこから両手で胸を押さえた後、私たちと同じように息を呑んで固まっていたコーイチの影に重なろうとし、聖園 ミカが絶叫した――――――。
しかし、その瞬間に“光”と“闇”が反発し、2つの影は重なることはなく、服を脱ぎ捨ててコーイチに迫った生徒はコーイチに背を向けて“闇”を撒き散らしながら走り去っていったのだ。それに対して清々した様子を見せたのがコーイチの影であり、“光”の輝きが一層強くなるのを見て、それには私たちも同じようにホッとしてしまった。
かと思うと、コーイチの影を取り囲むようにいくつもの影が集まり出し、コーイチの影はその場で縮み込んでしまったのだ。見るとコーイチの“光”を覆い隠すように“闇”が迫っており、裏で糸を引いているのが“闇”に完全に染まった生徒であった。これが意味するところは世事に疎い私でもわかることであり、これを見た誰もがコーイチが受けた仕打ちに対して憤りを覚えた。
コーイチの影は背中越しでわかるように肩を震わせて泣いていた。世界の全てが“闇”に覆われたかのように、その時の“光”の輝きは弱々しいものとなっており、小さい頃と同じように縮みこんだコーイチの内面が痛いほどに伝わり、私たちはそれを黙って観ているしかできなかった。聖園 ミカがそれに釣られて啜り泣く音だけが薄暗くなった空間に響く。
すると、そこにコーイチに手を引かれて“
私以外の全員がほぼ同じタイミングで思わず声を漏らした。ベアトリーチェにありもしない虚無と憎悪を植え付けられてエデン条約でテロ行為を敢行しようと全精力を傾けていた私にとっては馴染がない存在なのだが、コーイチの目の前で成長した女の子の影があまりにも
――――――いや、考えてみれば 当たり前のことだったのだ。“シャーレの先生”をキヴォトスに喚んだのは他ならぬ“連邦生徒会長”だったのだから。
そして、意外な繋がりを見せた“連邦生徒会長”の影がコーイチの目の前から消えると、コーイチの影もまた一段と大きくなって左腕に見覚えがある部隊章が輝き出した。あれは【キヴォトス防衛軍
そうか、コーイチは小さい頃に“
ヘルメットを被ったコーイチの影が戦闘機に変わって私たちの目の前を飛び回った。その機影は一瞬だけカラーとなり、それではっきりと【ミレニアムサイエンススクール】が開発した対怪獣兵器:GUTSファルコンに酷似しており、GUTSファルコンの開発にコーイチが深く関わっていることを理解するには十分であった。
やがて、コーイチを乗せた戦闘機が突如として目の前に現れた黒い渦に飲み込まれた次の瞬間、キヴォトス人なら一目でサンクトゥムタワーとわかる聳え立つ影を横切り、そのまま機影は落下して不時着したらしいことはわかった。
サンクトゥムタワーから
もちろん、聖園 ミカの『ズルい!』という声は黄金色の空間に響き渡ったのだが、それと同時に“連邦生徒会長”が“シャーレの先生”にどれだけの想いを寄せて学園都市:キヴォトスに招いていたのかも理解することになり、それによって印象がガラリと変わることになって空崎 ヒナをはじめとして誰もが神妙な面持ちになっていた。
そう、“シャーレの先生”が現れるまでの学園都市:キヴォトスの惨状を変えることができず、“シャーレの先生”に全てを押し付けて姿をくらましたことで著しく評価を下げた“連邦生徒会長”は今となっては無能な統治者の烙印を押されていたのだが、
この後に何があって失踪することになったのかはわからないが、こうして“シャーレの先生”を喚んでいたことは“連邦生徒会長”の最大の功績と言っても過言ではないと、聖園 ミカですらも認めざるを得ないものとなっていた。
もっとも、今現在“シャーレの職員”ロボット職員:マウンテンガリバーとなって今度こそ世界を救うために16年前の過去に送り込まれて人生のやり直しをさせられているという真相を知っているのは一握りの人間だけである。
そうでなくても、冷静に時系列を考えることができれば気づくことだが、生身の身体でキヴォトスに戦闘機に乗ってやってきて“連邦生徒会長”に迎えられたのに今は機械の身体になっている経緯など些細なこととして、
――――――ここからが学園都市:キヴォトスにおける“シャーレの先生”コーイチ先生の物語の始まりであった。
サンクトゥムタワーを背にスパークレンスを掲げてコーイチ先生がキヴォトスの地で三度“
地を駆け、空を舞い、海を征く。北条先生がそうであるように、コーイチ先生は本当に強かった。どれだけ手強い相手であろうと、どれだけ傷つけられても、どれだけ孤独に苛まれようと、コーイチ先生は勝って勝って勝って勝ち続けたのだ。その雄大なる力強さに計り知れない頼もしさを誰もが感じている。
しかし、私は この先 どうなるのかを知っている。どこかでコーイチ先生が負けてしまったからこそ、ロボット職員:マウンテンガリバーとなってしまっているのだから。取り返しのつかない敗北が刻一刻と迫る。
事実、快進撃は終わりを告げる。突如としてコーイチ先生の周りに“
――――――この結末に聖園 ミカが悲痛な叫びが轟いたのは無理ないことだった。
私の場合は真相を知らされていたから 次の展開はこうなるだろうことを覚悟できていたが、それでも見ていて胸が痛まないわけがない。全身から汗が吹き出しているのに身体の震えが止まらないぐらいだ。
いや、聖園 ミカだけじゃない。小鳥遊 ホシノも堪えきれず必死に泣き叫んでいた。空崎 ヒナも泣き叫びたいのを必死に堪えて肩を震わせ、御稜 ナグサに至っては完全に泣き崩れていた。剣先 ツルギと砂狼 シロコは涙を流していなかったが、私と同じように表情を強張らせていた。
黄金色の空間に映し出された影絵芝居の内容がコーイチが言う『前回』の出来事であることを知る由もないが、これが現実に起こった出来事だと納得させ、理解させ、実感させるものがあったのは言うまでもない。
しかし、時間は無情にも流れていく。悲しみに暮れるだけの私たちを待つことなく、悲しみさえも置き去りにする展開が次々ともたらされていく。
十字架に磔にされて怪光線に貫かれて“光”を失ったコーイチ先生を“大いなる闇”が完全に呑み込もうとした瞬間、コーイチ先生の中に残されていた“光”が間一髪で飛び出していき、世界中を照らすような輝きを放っていたのに今となっては豆電球のような“光”が辿り着いた先にあったのが、私たちにとってはもっとも見慣れた姿であった――――――。
――――――ロボット職員:マウンテンガリバーの影に“光”が宿った。
ようやく私の中でコーイチ先生とマウンテンガリバーが重なると同時に涙が流れていた。紆余曲折を経て見慣れた姿になったことにホッとしたのか、ここまで来るまでのあまりにも過酷な運命に聖園 ミカのように耐えきれなくなったのか、いろんな感情が溢れ出ていた。
今なら“
あまりにも重たすぎる願いを託されてきたと言うのに、これでは 時間を遡ってまで やり直す意味がないではないか――――――。
すると、ようやく見慣れた機械の身体の登場に気を取られて見落としていたのだろうか、銃声が 二度 鳴り響いて全員が一斉に身構えると、実は その隣で小さなコーイチの影が座り込んでいて、そこにコーイチのものとは異なる“光”が降りてきていたのだ。
――――――小さなコーイチの影が【CREW GUYS】の翼の紋章を背負う地球人:北条 アキラの影となって眩い“光”を照り返していたのだ。
――――――
――――――作戦完了。おつかれさま、アロナ。
ロボット職員「か、勝ったか……」フゥ・・・
山高 カムロ「おお、やったぞ、宮藤!」
宮藤 セルマ「ああ、やったな、カムロ」
秤 アツコ「やったね、コーイチ。サッちゃんもよく頑張ったね」
神代キヴォトス人「ああ、よくやってくれた、みんな」
ロボット職員「……最初から全てを与えるつもりでしたか」
神代キヴォトス人「ああ。そうでないと、貯まるところに貯まっていく一方だからな。もったいないし、役立ててもらいたいと常々思っておるぞ、我らは」
――――――【シッテムの箱】に隠された機能:プロセス『ペレツ・ウザ』か。
ロボット職員「まるで僕自身が生徒一人一人と“一つ”になったかのようだった」
神代キヴォトス人「実際、その通りだ。時間と空間を超越することで意のままに全てに同時に存在することは可能となるのだ」
ロボット職員「そのことを7対7の今回の【戦術対抗戦】で教えたわけですか」
ロボット職員「……何ですって?」
ロボット職員「……僕にはもう“先生”と呼ばれる資格はない。ないんだよ」
ロボット職員「なら、北条先生は何なんですか? 僕の代わりに【連邦生徒会】に姿を現したのは誰なんですか?」
ロボット職員「だったら、僕なんか もう要らないじゃないか。北条先生のような知恵も知識もない僕なんか……」
ロボット職員「え」
神代キヴォトス人「そうであろうな。『前回』お主が果たせなかったことを代わりに実現できる能力の持ち主を求めた結果が北条先生というわけだが、それがそう振る舞えるのもコーイチが『前回』“シャーレの先生”だった経験を活かして普段の業務を代わりにこなして『今回』“シャーレの先生”である北条先生が自由に出歩けるように支えているのが大きいぞ」
神代キヴォトス人「つまり、お主の能力の上にお主に足りない能力が積み重なった結果が今日までのキヴォトスのまだ見ぬ未来なのだ」
神代キヴォトス人「さすがの北条先生であろうと、毎日の事務処理を寝ずにしているお主の力抜きではここまでのことは絶対にできなかったと思うぞ」
秤 アツコ「そうだよ、コーイチ。そもそも、北条先生は光の最深部に途中までしか入ってこれないじゃない。みんなを連れて来れたのは北条先生じゃなくてコーイチなんだよ」
秤 アツコ「コーイチじゃなかったら、こうしてサーベラス様やイーリス様に出会うこともなければ、超古代文明の遺跡での大きな発見もなかったわけだし、北条先生の性格からして生徒たちだけで調査に送り出すことなんて危険なことは絶対しないはずだよ」
ロボット職員「あ……」
ロボット職員「僕が……?」
神代キヴォトス人「あれだな、想いだけでも、力だけでもいけないが、想いと力のどちらの方がより大切なのかと問えば『それは想いである』と先生は断言していたな」
秤 アツコ「力のベクトルのことだよね。働く方向と大きさという2つの性質を持った量を物理学では“力”と呼んで、その量が“ベクトル”だったよね」
神代キヴォトス人「そう、力のベクトルだ。どれだけ大きな力のベクトルであったとしても間違った向きを向いていては永久に目的を果たすことができないからこそ、正しい向きを持った力のベクトルであることが第一というわけだ」
神代キヴォトス人「つまり、たしかにお主は北条先生と比べたら見劣りするところが多分にあることだろう。それは当然だ。そういう人物がやってきて代わりにキヴォトスを救うようにお主が願い、その通りの人物が来たわけなのだから」
神代キヴォトス人「肝腎なのはまさにそこで、お主はお主に足りていない能力を補なわれることを天に願ったわけで、『キヴォトスを救う』という目的は変わらぬままであろう。その正しき
ロボット職員「………………」
秤 アツコ「じゃあ、イーリス様? 約束通り、砂漠化の原因となっている場所を教えてくれる?」
秤 アツコ「え?」
神代キヴォトス人「ああ、これでもう二度と会うことはないだろう、イーリスよ」
ロボット職員「ええ?」
神代キヴォトス人「コーイチよ、ここにはもう二度と来ることはできない。イーリスが封印を解いた場所から現れる魔物にこの聖域が荒らされることがないように再び封印されることになる」
神代キヴォトス人「だが、ここには我らが光の星雲からの天の通い路となる“神池”があり、他の“神池”を通じて繋がることができるのだ」
神代キヴォトス人「つまりは失われたアビドス砂漠の“神池”を復活させることがアビドス遠征の終着点となる」
ロボット職員「…………!」
神代キヴォトス人「だが、忘れるな。忘却の砂漠は秘密を隠そうとする者の味方であり、秘密を暴こうとする者に牙を剥く。それが暴走状態となって境界さえも侵食して無秩序に拡大を続けているのだ」
神代キヴォトス人「イーリスが人々の意識から隠し通していたものが世に解き放たれたことで、そこに眠っていた魔物もまた目覚めることになる」
――――――この先は覚悟せよ。ここからが本当の戦いの始まりなのだ。
こうして7対7の【戦術対抗戦】はロボット職員:マウンテンガリバーあらためコーイチ先生の“光”を込めて【シッテムの箱】に隠された機能:プロセス『ペレツ・ウザ』を制約解除することで、【シッテムの箱】を通じて指揮する生徒たちに“光”を宿らせ、生徒たち一人一人になっているかのような一体感による連携能力を獲得して逆転勝利へと至った。
そう、光の眷属:サーベラスに先導されて光の聖域に辿り着いた生徒たちは“光”になれる素質がある者が選別されており、更には光の聖域であることからコーイチ先生の中に宿り続けている“光”は自然と強まっているのだ。
そして、これまで【シッテムの箱】を通じて“シャーレの先生”の指揮下に入った生徒たちの戦闘を最大限支援するものとなっていたのだが、
制約解除で発現することになった【シッテムの箱】の隠された機能プロセス『ペレツ・ウザ』を介して“光”を生徒たちに宿らせて同調させることにより、“個”として存在しながら“世界”となって“一つ”となり、【地帝大王母の分身】の集団戦闘能力に初めて対抗できるようになったのである。
個々の装備や練度においては【キヴォトス防衛軍】に集まった各学園の最強戦力が有利であったものの、即席の寄せ集め部隊のために統率が取れずに個々人が最適な行動をとるだけに留まっていたのが打って変わり、
途中から“シャーレの職員”ロボット職員:マウンテンガリバーが指揮を執ることにより、【地帝大王母の分身】の基本戦術であるロケットランチャーによる揺さぶりからの迎撃体制を突き崩す力を与えたのである。例えて言うなら、兵科も行動もバラバラだった寄せ集め部隊が相互に欠けている能力を補完するために高度な連携能力の下に組まれる
要は、【シッテムの箱】を通じて“光を継ぐ者”コーイチ先生の“
それは『前回』“シャーレの先生”であり『今回』“シャーレの職員”として別働隊の指揮を執ってきた歴戦の指揮官:コーイチ先生による完全なる部隊の掌握であり、各人の能力の限界を見極めながら、時として各人の性質や性格からは自発的に繰り出されることのない妙手を引き出すことにあった。
その結果、単純だからこそ堅実で付け入る隙がないように見えた【地帝大王母の分身】のロケットランチャーを主軸にした戦術に穴を開けることになったのである。
なぜなら、この時点では知るはずもない各人の本当の限界というものを『前回』“シャーレの先生”だったコーイチ先生は知り尽くしているからこそ、コーイチ先生が
そうすると、敵の戦術の要であるロケットランチャー兵に辿り着く前に6人の敵に袋叩きに遭ってしまうように思えた。事実、それによる各個撃破を恐れて示し合わせたかのように全員で突撃して乱戦状態に持ち込んで、そこから誰かが抜け出してロケットランチャー兵を叩くことに拘泥していたわけなのだが、逆に想像を絶する【地帝大王母の分身】の連携能力で一網打尽にされそうになることを何度も繰り返してしまっていたのだ。
だが、次は決定的にちがうのだ。奥のロケットランチャー兵を守るべく壁となった6人に対して、2人が突っ込むのを後ろから5人が追いかける形になったわけなのだが、鉄砲玉を任された聖園 ミカと錠前 サオリは神に等しい存在である6人の分身体の壁に対して仲間を信じて銃弾の雨を浴びながらも勢いを殺さなかったのである。
すると、突入してきた聖園 ミカと錠前 サオリの2人に【地帝大王母の分身】の攻撃が集中することになる一方で、その後に続く5人の攻撃が【地帝大王母の分身】を一方的に滅多打ちすることになったのである。
それには【地帝大王母の分身】は動揺を隠せない。と言うより、どうしたらいいのか、誰を撃てばいいのかがを瞬時に判断できないのである。秒間に刻一刻と激しく移り変わる状況の変化に対応しきれていないのだ。
その動揺が【地帝大王母の分身】の完璧な連携から完全な隙を生むことになり、ついに防御陣を突破して聖園 ミカと錠前 サオリが敵の戦術の要であるロケットランチャー兵に肉薄したのである。
そこから2対1と5対6の戦いが始まり、敵陣は一気に崩された。個々の装備と練度では【キヴォトス防衛軍】が勝っており、個々の装備と練度で劣る【地帝大王母の分身】が圧倒できていた理由である完璧な連携が崩壊した以上、圧倒的銃社会の中で逞しく今を生きるキヴォトスの子らの精強さに屈する他なかったのである。
しかし、キヴォトスの子らだけではどうすることもできなかったのも事実であり、そこから勝利へと導いたものこそが敵の堅実な戦術と抜群の連携を上回る勇気と忍耐と統合だったことが示されたのである。
――――――なればこそ、そうして掴み取った勝利には栄光を授けねばなるまい。
・・・チャプン
錠前 サオリ「ハッ」
錠前 サオリ「――――――私たちは勝った。勝ったんだ」
錠前 サオリ「だが、これはいったいどういうことだ?」
聖園 ミカ「それ、私が一番知りたい」
聖園 ミカ「ねえ、どうして私たち湯浴みしているの? 勝手に脱がされているしさ」
聖園 ミカ「終わったんだから、早く“
聖園 ミカ「あ! 出たね! いったいどういうつもりなの!」
錠前 サオリ「……水の上を歩いている」
錠前 サオリ「道理で痛みや傷がなくなっているわけだ」
聖園 ミカ「あ、そうだったんだ。“
聖園 ミカ「わあ! ホントだ!」
錠前 サオリ「……ここにはいない生徒たちも同じように浸かっているのだろうか?」
聖園 ミカ「え、じゃあ、MVPの私たちにイーリス様が手ずから――――――?」
錠前 サオリ「……あ」
聖園 ミカ「え」
――――――私は この時 生まれて初めて“母親”というものを感じた。
私たちが気付いた時には装備も衣服も剥ぎ取られた状態で地底湖に浸かっていると、水の上を歩いてきた“地帝大王母”イーリスが労いの言葉を掛けた後、一瞬で2つに分身しながら私たちのことを温かく抱き寄せた。
その瞬間に私たちはバスローブのようなものを着せられて、水の上に立つイーリス様の腕の中に身体を傾けて抱き留められており、地底湖の天井を見上げる姿勢で私たちを見下ろすイーリス様の表情と身体を支える力強さにジーンと熱くなるものがあった。よくよく見ると、私たちを子供扱いできるほどの大きさにイーリス様がなっていたのだ。
そして、聖園 ミカが『聖母様?』と問いかけたのに対してイーリス様が『これが無償の愛の原点ですよ』と慈愛に満ちた表情で語り掛ける。
それから地底湖の向こうに見える天井から降り注ぐ光を見やると、イーリス様がこれまで目にしてきたであろう地上で誕生した文明が発達して繁栄して滅亡していく光景が蘇って繰り返されていくのであろう。そこにはたくさんの喜びと悲しみが生まれ、たくさんの死と生が繰り返されていた。
その中に“錠前 サオリ”がいた。“聖園 ミカ”がいた。“コーイチ”がいた。“みんな”がいた。姿や形、生まれや育ちはちがっていても、それらはたしかに“そのもの”であった。
時には家族や同胞として同じ時代を共に生き、時には憎しみ合う敵同士としてぶつかり、今世では“錠前 サオリ”として、“聖園 ミカ”として、“コーイチ”として生まれ変わり、その果てに“みんな”が同じ時代に集まることができていたのだ。
だからこそ、我が子を慈しむ母親のように私たちを抱き留めるイーリス様の表情は もう二度と戻ることはない3000万年以上もの昔から今日に至るまでの数え切れないほどの喜びと悲しみを呑み込んだ 超然としたものになっている一方で、私たちの存在を確かなものと感じて自然と手に力が入る感触から当たり前のような日々のことを奇跡のようなものだと思っていることを伝えていた。
言葉はなくても想いがはっきり伝わる以上に共有される不思議なようで当然のような感覚を自然と受け入れながら、人間なら誰しも経験したことがある赤ちゃんだった頃の感覚を呼び起こされて、私たちはイーリス様の腕の中で揺られながら 切なくも透き通った歌声の子守唄を聴きながら ウツラウツラと意識が遠退いていく――――――。
真昼の空の月のように
強く美しくいられたら
あの日の過ちも後悔も
全部 綺麗に許せたかな
大事なことはいつだって
過ぎ去ってから ようやく気が付くんだ
真昼の空の月に向かって
手を伸ばしたって触れないけれど
忘れはしない 愛しい日々よ
アビドス砂漠の不毛の大地の中で文明の興廃を司る“地帝大王母”イーリスは悠久の時の流れをずっと一人で見つめてきた。こうして何度も地底湖に一人佇んで過去を振り返りながら。
地上の“神池”で各地から地上の子らが集まって祭りをする日に限って化身となって地上の子らと交流を持つ日々が絶たれてしまうことは繰り返される文明の興廃の歴史で幾度となくあったことではあるけれども、無情にも去っていく歳月や月日のことを憶え続ける身としては これが今を生きるキヴォトスの子らに与えられる
だから、何食わぬ顔で“地帝大王母”は現在の文明が存続できるようにキヴォトスの子らに
そう、いかなる場合の可能性であっても絶対に生き残ることができるのは“錠前 サオリ”と“聖園 ミカ”の系譜を受け継ぐ者たちであり、『前回』“コーイチ先生”はそのことを知ってか知らずか“光”を受け継がせていたのである。
つまり、アビドス砂漠を司る光の眷属の一人ではあるものの、“地帝大王母”イーリスがもっとも加護や導きを与える相手は【アビドス】の神秘の継承者である小鳥遊 ホシノではなく、次の文明の担い手となる誰かであり、その重大な使命ゆえに現在の滅びかかっている文明の存続に力を貸すことの優先順位は著しく低い。
だから、どの道、『前回』“コーイチ先生”が救うことができなかった世界は“錠前 サオリ”と“聖園 ミカ”の系譜を受け継ぐ者たちが必ず生き残って、自分たちの起源となる 母の温もりを思い出して 人類発祥の地【アビドス】に存在する秘境へと導かれ、地上から“大いなる闇”が消え去った後に地上を楽園にする使命を与えて再出発させることになっている――――――。
そのため、“地底大王母”イーリスとしては現在の文明が滅ぼうが存続しようが本当にどっちでもかまわないわけではあったが、長生きできるのなら それを望むのが自然な思いであるからこそ、文明を救うために立ち上がった志ある者たちに慈愛を注ぐことを惜しみはしなかった。
とりあえず、光の領域の奥地に入り込むことができない『今回』の“シャーレの先生”である北条 アキラでは“錠前 サオリ”と“聖園 ミカ”の系譜受け継ぐ者たちを人類発祥の地【アビドス】へと導く“光”を与えられないため、この機に『前回』と同じように“シャーレの先生”だったコーイチ先生の“光”を宿らせたわけであった。これで次の文明の誕生は約束されたも同然である。
後は現在の文明の存続のため、途中までしか入ることができなかった『今回』の“シャーレの先生”であり“GUYSの先生”である 今やキヴォトスの頂点に立つ存在である 光の勢力とはまったく無関係の地球人:北条 アキラが何者であるかの見極めも最初に行っていたわけなのだが、その正体がわかった瞬間、“地帝大王母”イーリスは“光を継ぐ者”だったコーイチ先生の正体も同時にわかり、思わずクスリとしてしまっていた。
――――――
それは幾度となく繰り返されてきた“神池”での祭日、化身を許されて地上の子らと直接の交流を持てる日々のことであり、魁となって“光の巨人”に変身してから それから数千年が経過して その間に何度か生まれ変わった時の“
祭りというものは大体は日が暮れる頃から盛り上がっていくものであり、そうして人々が祭りの熱気と享楽で一心不乱に賑々しく交流を重ねている中に生まれるハレの気に満ちた空間でないと、塵一つない透き通った空間で生きている光の上級眷属では地上は穢すぎて息が詰まりそうになるからこそ、真昼の空の月というものを見たことがなかった――――――。
神代から死海に沈む遺跡に鎮まっていたからこそのそんな些細な願いを小さい頃に聞いてかわいそうだと思ってくれた“
使命のために長く孤独に生きてきて そんなことを無邪気に言ってくれた子供があまりにも可愛らしくて、その場の勢いで思わず指切りをしてしまったわけで、そこからはずっと“
――――――そんな風に満たされていた頃が文明の興廃を司る“地帝大王母”光の上級眷属:イーリスにもあったのである。
それから、死んで生まれ変わったら記憶がなくなることぐらい当然のことなのに、あれだけ熱心に口説いてきて、生涯の伴侶になって欲しいと求愛されて、彼との間に1男10女を設けて その子孫たちをずっと見守ってきたと言うのに、100年足らずの寿命で死んでしまったぐらいで何もかもを忘れて数百年後に別の人生を歩んで別の女と結ばれて別の家庭を築いていることに腹を立てていた時期もあったものだ――――――。
けれども、超古代文明の終焉の際も生まれ変わって最後まで“光”と共にある姿勢を崩さずに果てた時でさえも、死海に沈む遺跡の地底湖から一歩も動くことなく それを使命と称して傍観しているだけの自分に嫌悪感を抱いた時から、思い出が詰まった文明の崩壊と共に全てを許せるようになった――――――。
だから、かつて一人の女性として自分を愛してくれた“光を継ぐ者”が超古代文明が滅んでから悠久の時を経て地球人として生まれ変わり、この地で失われた“光”を身に宿して舞い戻り、そこで前世からの宿願である“
そんな“光を継ぐ者”が地球から持ち帰った“光”をキヴォトスが滅亡を迎える中で受け継ぐことになるのが“錠前 サオリ”と“聖園 ミカ”という二人の生徒であったからこそ、その系譜に連なる者たちに加護と導きを与えることに躊躇いはなかったのである。
それを身内贔屓と批判する者がいるかもしれないが、死んでも“光”を求め続ける真っ直ぐな意志は常に正しい力のベクトルを持ち続けているのだから誰に恥じることのない、間違った行いでも思想でもないのだ。
それは彼との間に設けた1男10女の末裔が超古代文明が崩壊した後も現在も
どういうカラクリで本来“連邦生徒会長”によって学園都市:キヴォトスに“シャーレの先生”として喚ばれるはずだったコーイチ先生に代わって
だからこそ、次の文明を生み出す使命のために持ち場を離れるわけにはいかない者としては3000万年前に滅亡した超古代の愛しい日々に思いを馳せながら、愛しき人の生まれ変わりである“光を継ぐ者”コーイチ先生と自分自身の子孫を格別な守護と導きを与えるために願いを託すのである。
神代キヴォトス人「――――――よしよし。これだけの物を受け取ることができたな」
神代キヴォトス人「贈り物は以上か? 忘れ物はないか?」
神代キヴォトス人「そうか。これで今生の別れとなるな、イーリスよ」
――――――この人類発祥の地【アビドス】に全てが秘め置かれていることを。そこから始まりの終わりと終わりの始まりがあるのです。
神代キヴォトス人「しかし、イーリスよ? なぜキヴォトスの子らにコーイチの過去を見せる必要があったのだ? コーイチの中の“光”を引き出して【シッテムの箱】に隠された機能を開放したまではわかるが?」
神代キヴォトス人「……『何が』だ?」
神代キヴォトス人「……そうか、そういう意味か。たしかに、
神代キヴォトス人「――――――『報い』か。そうだな、それもそうだが、それは次の未調査領域の調査のことを言っているのか?」
神代キヴォトス人「どういう意味だ、イーリス?」
神代キヴォトス人「……驚いたな。とんだ喰わせものではないか、イーリスよ。やはり、鬱憤が溜まっていたというわけか。いつ果てるとも知れない悠久の時の中で好きにやらせてもらう気になったか」
神代キヴォトス人「そうだな。1000万年周期で最終戦争が繰り返されると踏んでいたのに、何の音沙汰もなく3000万年が経っていたのだ。その微睡みの中で地上を去ってしまった同胞たちが無念でならないな」
神代キヴォトス人「いや、そうか。天の通い路となる“神池”に棲み続けているイーリスが1000万年経っても何も起きなかった地上を去らずにいた一番の理由はそれか」
神代キヴォトス人「――――――居るのだな。自身の血族が今も続いているのだな。そうだな」
神代キヴォトス人「そうだったのか」
神代キヴォトス人「今、とんでもない事実を聞いてしまったが、そう言うからには北条先生が率いる【キヴォトス防衛軍】が勝っても負けても次の文明が生み出せる準備が整っているというわけなのだな」
神代キヴォトス人「そうか。にしても、何と言う巡り合わせなのだろうな、イーリスよ」
神代キヴォトス人「よかろう。我が
神代キヴォトス人「そうだったな。コーイチが引き寄せた“光”である北条先生はそれを格式ある言葉で表現してくれていたな」
――――――*1死生有命、富貴在天。*2敬而無失、與人恭有禮、*3四海之内、皆兄弟也。
そして、“地帝大王母”イーリスは最愛の人の生まれ変わりである“光を継ぐ者”と自身の子孫を含むキヴォトスの子らを地上へと送り返すと、最後に同胞たる“地獄の釜の門番”サーベラスと言葉を交わし、分身体を集結させて巨大な玉の中から光の眷属たる光怪獣としての姿と威容を地底湖の巨大な空間で顕にするのであった。
その正体は日本神話のヤマタノオロチを思わせる100mを超える8本首の龍であり、本体となる頭とは別に7つの頭が尾となっており、この7つの尾がそれぞれ分身体に化身して交代番で活動することで文明の興廃を司るために隔離された空間で悠久の時を過ごすことが可能となっており、地上の原生生物に寄り添うために短命である下級眷属による介助を不要としているのである。
その力は絶大であり、嘘偽りなくアビドス砂漠の広大な帯水層の地下水だけで地上の文明を洗い流すことが可能だと認識させるほどであった。おそらく1対1で勝つことが不可能な領域の相手であろう。
それを目の当たりにしたことで 現代に蘇った光の眷属:サーベラスと言えども所詮は中級眷属でしかないという絶対的な差を思い知ることになると同時に、これだけ強大な力を持った上級眷属がまだ地上の文明を支えるために自分の意志で残り続けていることに感謝することとなった。
こうして長かったアビドス遠征の終着点が明かされた。“神池”を復活させるために“王家の谷”を目指す必要があり、
ねえ、聞こえてる? 私は 今 あなたであって あなたではない“あなた”に語りかけています。
ごめんなさい、引き止めてしまって。あなたのことを引き止めるべきではないとわかっていても、どうしてもあきらめることができなくて……。
そう、私は私を一人の女性として愛してくれた“あなた”、あなたであって あなたではない “あなた”に声を掛けているの。
だって、この時を逃したら、もう二度と“あなた”に会えない気がして……。
そうです。たとえ、現在の文明の滅亡を先延ばしにすることができてもいつかは滅びるのが定めであり、地上の“神池”がついに涸れた以上、私もこの惑星を去ることを視野に入れてました。
ですので、文明の最期を見届けた後、私の許に集めた地上の子らを連れて遥かなる故郷:光の星雲へと帰るつもりです。それが現在の文明か、はたまた次の文明の最期なのかはまだわかりませんが。
だから、3000万年間、“あなた”に会える日をずぅーっと待ち焦がれていたんですよ。
ねえ、憶えてる? 世界の始まりを祝う日、あの大きな生命の樹の下で クジラたちの遠い残響を二人で聴いていたよね?
そう、私は祭りの日の賑わいのハレの気の中でしか出歩くことができないから、1年に一度の出会いの繰り返しでした。
最初に会った時の“あなた”はこんなにも小さかったのに 歳を重ねる毎にあっという間に大きくなって 随分と頼もしくなってくれましたね。
私は“あなた”のことをあなた自身よりもよく知っているつもりでした。あなたの前世が“光を継ぐ者”の魁となって、地上を去った“光の巨人”の石像と一体化して“闇”と戦う姿をずっと観ていました。
それが何の因果か、生まれ変わり死に変わりを繰り返す中でそんな“あなた”が光の上級眷属たる私に小さい頃に一目惚れして、それから1年に一度の逢瀬を楽しむことになるだなんて思いもしなかった……。
でも、ヒトにとっては山のように大きな存在であったとしても物怖じしない“あなた”だったからこそ“光を継ぐ者”になれたのです。
私はね、文明の始まりと終わりを司る存在として常に傍観者だった。地上の様子を“神池”に映してボウっと眺めながら夢見心地の日々を送っていた。
けれども、ずっと観客席でうつらうつらとしている私の手を引いて、“歴史”と言う、“世界”と言う、“人生”と言う、笑いあり 涙あり 感動ありの最高の物語の舞台に連れて行ってくれたのが“あなた”なのです。
だから、私は今も物語の続きを演じてみせているの。光と闇の最終戦争から3000万年経った後、私たちの思い出の舞台となる“神池”が涸れるまで。
そうよ、ずっと愛しているのですよ、“あなた”のことを。“あなた”と一緒に暮らした日々のことを。“あなた”との間に生まれた子供たちのことを。
本当はまだまだ1億と2千年後も愛している自信があって、“あなた”を知ったその日から私の人生、私の世界、私の歴史は愛が止まらないの。
たかだか100年足らずで“あなた”が私の許を去っていって、私のことを忘れて繰り返し大人になって、何度も何度も私以外の女と遠くに行って、“あなた”との間に生まれた子供たちを見守りながら“あなた”との思い出を想って私が泣き疲れたとしても……。
それでも、私は“歴史”と言う、“世界”と言う、“人生”と言う、最高の物語の舞台で次々と新しい役を演じる中でも決して変わらぬ輝きを放つ“あなた”にもう目を離すことなんてできない……。
だから、最後まで待つことができた。“あなた”を愛していなかったら、“神池”が涸れる前に地上を去ることだって選べた。
でも、最後の最後になって、失われた“光”を追い求めて旅立った“あなた”はついに帰ってきてくれたのですよ、3000万年ぶりに。
本当に“あなた”は最高の人です。“あなた”こそが最高のヒーローですよ、私にとって。私は 一生 私の手を引いて舞台に連れて行ってくれた“あなた”のファンなのです。
ここでの会話なんて 一言一句 憶えていなくてもいいんです。私は 今 あなたであって あなたではない “あなた”と心を通わせているのです。それは脳髄に記憶されるものではなく、魂の交流なのです。朧気ながら認識していればいいのです。大切なことは伝えましたから。
だから、ありがとう。あなたも本当に優しい人ですね。まあ、私を小さい頃から熱心に口説いて溶け合うぐらいに愛し合って1男10女を授けてくれた時の“あなた”と比べたら、ちょっと物足りない性格に思えるのだけれど、そこはまあ――――――。
本当に見つけられてよかったですね、地球で。北条先生が生まれた惑星も怪獣災害に悩まされてきたようですが、北条先生自身も前世で怪獣を観音様の加護で封印しているぐらいですから、大丈夫ですよ。
ほら、視えましたか。あれが北条先生の前世となる生き仏様ですよ。ここには途中までしか入れなかったとしても、北条先生のことを知るには十分でした。
ですので、コーイチ先生は私を愛してくれた時のように北条先生のことを信じ抜いてください。北条先生はあなたであって あなたではない “もうひとりのあなた”なのですから。
だからこそ、今度こそ救ってみせてください、“歴史”と言う、“世界”と言う、“人生”と言う、最高の物語の結末を。
――――――よみがえれ、永遠に涸れぬ光よッ!
真昼の空の月のように
いつも自分らしくいられたら
あの日の迷いも失敗も
初めからなかったのかな
どんなに時が過ぎたって
この気持ちは形容できないんだ
真昼の空の月はいつも
憧れるほどに美しいけれど
そろそろ行かなくちゃ
北条先生「……まるで
北条先生「でも、作者としては『この気持ちは
北条先生「難しいな。歌詞の内容からしてしんみりとした
ロボット職員「少しよろしいですか、先生?」
北条先生「どうしました? また何か思い出しましたか?」
ロボット職員「ええ。何か大切なことをいっぱいイーリス様と話していたはずなんですが、他の生徒たちと同じようにぼんやりとしたことしか憶えていなかったのですが……」
ロボット職員「先生、仏様の力で怪獣を封じたことはありませんか?」
北条先生「は?」
ロボット職員「あ、あれ?」
北条先生「いや、僕はメビウス世代の人間だけれど、怪獣退治の専門家としての実戦経験は“シャーレの先生”になってからだよ?」
北条先生「でも、たしかに仏様の力で怪獣を封印した事例というのは実際に記録にあるんだ」
ロボット職員「あるんですか!?」
北条先生「それもこれも、ウルトラマン80の活躍を記録した【ドキュメントUGM】にだ」
北条先生「ムチ腕怪獣:ズラスイマー。栃木県宇都宮市にある特別史跡および重要文化財に指定されている大谷磨崖仏とは別に、戦没者追悼のために採石場跡の凝灰岩層壁面に総手彫りで彫られた像高:
ロボット職員「――――――『ムチ腕』? グドンみたいな?」
北条先生「ああ、そうか。キヴォトスでも確認されたわけだから、名前だけ聞いたらグドンとどう違うかを想像しちゃうのか。たしか、こんな感じだったかな。頭に蛇のチョンマゲをしていたっけ」カキカキ
ロボット職員「おお」
北条先生「【ドキュメントUGM】の聴取によると、ズラスイマーは江戸時代の大泥棒が隠したという埋蔵金を狙ったコソ泥がダイナマイトの爆発で平和観音像が倒れてしまったことで地中から現れ、怪獣退治に現れたウルトラマン80が地元の人たちの信仰を受け入れて平和観音像からウルトラ観音光線を放ったことで再封印されたとあった」
北条先生「だから、平和観音像はズラスイマーが封印されている場所として現在も厳重な監視下に置かれながらも、ウルトラマン80に力を貸して怪獣を封印するという御仏の奇跡が顕現した場所として
ロボット職員「そんなことが本当に起きたんですか?」
北条先生「実際、そうなのだろう。でないと、そういう言い伝えや伝承が残るはずがないし、本当に何の力もない偶像だったのなら、ウルトラマン80が現実の脅威である怪獣を前にして平和観音の力を借りるはずがないんだ」
北条先生「他にも御仏の力で封印されていた怪獣にえんま怪獣:エンマーゴなんかがいるけど、多くの人たちが見ている前でウルトラマン80に力を貸して怪獣を再封印した例は唯一無二のものだ」
北条先生「平和観音像自体は戦後に開眼したものだけど、元々 大谷町では大谷磨崖仏こと大谷観音の信仰があったわけだから、戦後の怪獣頻出期の到来に合わせて大谷観音が平和観音像となって御仏の思し召しでズラスイマーの封印の強化を行っていたと思うと合点がいく気がするな」
ロボット職員「そうですか……」
北条先生「別に、人類の歴史を紐解くと怪獣を人間がどうこうすることはまったくおかしなことじゃないですよ」
ロボット職員「え?」
北条先生「日本列島が大陸と陸続きとなっていた氷河期、ナウマンゾウを追って旧石器時代の人類が日本列島に進出した歴史がある以上、自分より遥かに大きい存在であろうと人類は知恵と勇気を振り絞って今日まで生命のバトンを渡してきたんだ」
北条先生「他にも、箱根神社を開いた万巻上人が芦ノ湖の龍が暴れているのを調伏して守護神として祀ったとされるのが九頭龍神社であるし」
北条先生「そうそう、
北条先生「まあ、怪獣頻出期の絶頂期である大怪獣が登場していた頃の【ドキュメントZAT】の記録には、ウルトラマンタロウを一度は倒した改造ベムスターの目玉を潰した塾講師なんてのが登場しているわけだからね」
北条先生「だからね。人間、やってやれないことなんてないのさ」
北条先生「初代ウルトラマンを倒した宇宙恐竜:ゼットンを倒したのも人類科学の結晶である
ロボット職員「……そういう歴史を知っているからこそ、先生は怪獣に立ち向かえるわけなんでしたね」
北条先生「そうだよ。だからこそ、僕は【アーカイブドキュメント】を残していかなくちゃならないんだ。他にも、僕が人生で学び得たものをアーカイブに残していくようにしているのは、後に続く人たちがそれを見て現実に立ち向かう勇気や閃きを得るためなんだ」
北条先生「何も知らないからこそ無謀にも立ち向かうことができる勇気がある一方で、知っているからこそ恐怖を我がものとする勇気が生まれる」
北条先生「日本を代表する空海、最澄、親鸞、道元、日蓮の5名の高僧の生い立ちや人生、宗教観などについて詳しく書かれた『開祖物語』とか、西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮という五人の歴史上の人物の生き方を通して書かれた日本人論『代表的日本人』なんかを読めば、ここまでのことをすれば歴史を動かせる偉人になれるという目安が生まれる」
北条先生「この目安というのが大事で、この目安を目標にしていると それに合わせて意識が動いて 心身が整うようになるわけだから、先人たちの知恵や業績を知って人生観を磨くことは己の矮小さを克服して現実の困難を乗り越える原動力になる」
ロボット職員「じゃあ、大昔に怪獣退治をしてきた先人たちもきっとそうだったんでしょうね」
ロボット職員「そうか、ウルトラマンの力がなくても怪獣退治はできるものなんだ……」
ロボット職員「でも、そうなるとウルトラマンの力を求めてしまうのは弱い心の現れなのかな?」
北条先生「いや、そうじゃない。数々の仏典を読破して僕が学んだこととしては、仏様としては『楽をさせてやりたいが、怠けさせたいわけじゃない』に尽きるんだよ」
北条先生「どうにも、こうにも、どうにもならないそんな時にウルトラマンが欲しいと思う心を否定することはない。実際、浄土信仰の中心となる阿弥陀如来は地獄に落ちた先祖を救う発願をした仏様なわけだし、助けたいから名乗り出たものなのだし」
北条先生「だから、人事を尽くして天命を待つ、ウルトラマンと肩を並べて共に戦えるように自らを鍛え上げることが大切というわけだよ。要は、二人三脚であればいい」
ロボット職員「やっぱり、先生って前世はお坊さんだったりします? それも、メチャクチャ徳が高い」
北条先生「そうかもしれないですね」
北条先生「と言うより、現代のように知識を蓄えることができるのは公教育の普及のおかげであって、大昔は知識階級というのは特権ですから、もし前世が学識が高い人間だったとするなら宗教者であったことは間違いなさそうですね」
北条先生「実際、よいお坊さんは民衆教化のために法話が得意ですからね。いや、そもそもとして仏教の開祖であるお釈迦様こそ、数え切れないほどの譬え話を駆使して真実の教えを広めようと呻吟なさった御方なのだから、良い宗教者は良い教育者でもあったわけですよ」
ロボット職員「本当にそうですね。先生はきっと後世にキヴォトスの学問の神様として祀られてそうです」
北条先生「畏れ多い話ですが、IT革命によって情報の記録が永久のものになった以上、時の権力者によっていいように改竄されて話に尾鰭がついて実態を損なうことはないとは信じたいですね」
北条先生「そうだな、お釈迦様の時代にはなかったデジタルアーカイブで大蔵経の一切経典を超えるつもりで頑張ってみるのも悪くないかな。ブリタニカ百科事典ぐらいは余裕で超えてみせるさ」
ロボット職員「ところで、『ウルトラ観音光線』って言ったじゃないですか」
ロボット職員「もしかして信仰の対象であれば、“ウルトラダビデビーム”“ウルトラマリアビーム”とかもアリだったりするんでしょうかね?」
北条先生「――――――アリなんじゃないんでしょうかね」
北条先生「平和観音像にしたって材質としては石像に過ぎないのですから、信仰の対象として いかに気持ちが込められているかでしょうね」
北条先生「だからこそ、“光”となることで怪獣の石像に封じられた力が機龍丸に宿ることにもなるわけです」
――――――それこそ、新約聖書だと『はじめに言葉ありき』で言葉の重要性とあるけれど、旧約聖書だと『はじめに光あれ』となっているわけですからね。
-Document GUYS feat.LXXX No.16-
ムチ腕怪獣:ズラスイマー 登場作品『ウルトラマン80』第42話『さすが! 観音さまは強かった!』登場
栃木県宇都宮市大谷町の平和観音像の下に封印されていた怪獣であり、左腕の巨大な電子鞭と頭頂部から生えた蛇のような首が特徴。
一般公募でデザインされた怪獣の一体として、ある程度 花を持たせるためか、ウルトラマン80が平和観音の力を借りて再封印するしかなかった強豪怪獣になっている。
最大の武器は左腕の電子鞭であり、普段は鉤爪となっている右腕と同じぐらいの長さなのだが、身の丈ほどの長さまで一瞬で伸ばして器用に相手を絡め取って投げ飛ばしたり叩きつけたりすることができる。
また、地底怪獣らしくパワーに秀で、火山深くに埋まっていたので熱に強く、水を浴びせても一瞬にして蒸発してしまうほどに体温が高く、UGMの攻撃を諸共しない上にウルトラマン80の格闘攻撃にすぐさま応戦する頑強さを誇る。
しかし、大谷石の硬さには敵わず、落ちてきた石で足や頭を痛め、建物を破壊しようにも硬すぎて腕を痛めるドジっ子ぶりを見せており、
防御力は地底怪獣らしい水準であっても攻撃性に関しては同じように腕が鞭となっているグドンに劣るものかと思われ、過去に封印することができたのもその攻撃性の低さとドジっ子故か。
それでも、ウルトラマン80が撃破ではなく再封印を決断するぐらいには手強い地底怪獣だったことには間違いなく、唯一にして最大の武器である長射程の電子鞭と地底怪獣としての基本能力さえあればウルトラマンなど恐れるに足りないということなのだろう。
大谷石の産地として有名な栃木県大谷町;この町の郊外には巨大な観音像が立てられ、町民からも親しまれていたが、
この地にはかつて江戸時代の有名な大泥棒:マサゴエモンが盗んだ千両箱をどこかに隠したという伝説があり、その埋蔵金を狙ってコソ泥が観音像の周囲を探りまわっていた。
一方、UGMでも大谷町の周辺で地磁気の乱れを観測したことで調査に出動し、矢的隊員とイトウチーフは観音様の夢を見たという信夫少年の家にご厄介となるが、その夜に矢的隊員と信夫少年はそろって涙を流す観音像の夢を見る。
虫の知らせで危険を感じた二人は観音像へと向かうが、コソ泥が埋蔵金を掘るために仕掛けたダイナマイトの爆発で観音像が倒れてしまい、地中から怪獣:ズラスイマーが出てきてしまったのである。
特徴的な左腕の電子鞭でウルトラマン80を大いに苦しめるものの、ボディスパークで怯んだ隙に80が抱き起した観音様の有り難い力を借りて放ったウルトラ観音光線の力によって花畑に変えられて再び地下深くに封印されてしまった。
死海に沈む遺跡の最奥部の地底湖に鎮もる“地底大王母”イーリスが、別れ際にロボット職員:マウンテンガリバーを
実際に北条 アキラは 地元で廃校となった中学校に“ウルトラマン先生”がいたことを知ってウルトラマン80に興味を持つようになり、ウルトラマン80の戦地として一際有名となっているズラスイマーが封印された平和観音像まで足を運んでいる。
そこでウルトラマン80についてもっと詳しく知りたいと願ったことで、当時の防衛チーム:UGMの名将である大山キャップとの縁が結ばれることとなった。
作中の描写としては名前すら判明せずにここでちょろっと解説されているようなマイナー怪獣に思えるが、
北条 アキラにとっては怪獣頻出期を生きた地球人の常識としてウルトラの奇跡や宇宙人の存在は当然のものと信じていても、オカルトやインチキに思えていた神仏の存在を何となく信じるようになったきっかけになった。
というのも、ウルトラ観音光線によってズラスイマーが再び封印されるのを目撃した生き証人が多数いるため、現代に蘇った御仏の奇跡として平和観音が知名度抜群のパワースポットとしてウルトラの奇跡を語り継ぐ場所として持て囃されているのだ。
それだけにウルトラマン80と平和観音のコラボで売り出している観光地に初めて来た時の印象は深く刻まれており、最推しがウルトラマン80になるのも自然な流れであった。
そこに導かれた縁こそが、自身の前世がズラスイマーを観音様の加護で封印した高僧だったことなど知る由もなく――――――。
ここで重要なのは、北条先生とコーイチ先生がヒトが見上げるしかないぐらいに山のように大きい存在である怪獣を相手に古来から戦いを挑んでいた勇者を前世に持つ共通点が判明したことと、
前世がはっきりわかると断言している“地帝大王母”イーリスに 北条先生はコーイチ先生にとっての あなたであって あなたではない “もうひとりのあなた”と太鼓判を押されている点である。
ただし、『ウルトラマンという“宇宙人“が人間に変身するもの』というM78ワールドの人間の視点と、『ウルトラマンは人間が“光”になって変身するもの』というネオフロンティアスペースの人間の視点のすれ違いが根底にあるのがミソである。