Blue Archive -Document GUYS feat.LXXX- 作:LN58
“シャーレの先生”でかつ“GUYSの先生”である北条 アキラの名声は軍事顧問として率いる【キヴォトス防衛軍】の活躍が知れ渡ると共にキヴォトス中に広がっていったわけであり、怪獣退治の実績や防衛体制の構築をもって名実共にキヴォトスの頂点に立つ存在となっていた。
しかし、【連邦生徒会】による統制が失われた現在、力こそが正義であるはずのキヴォトスにおいて頂点に立つ存在である北条 アキラはあくまでも失踪した“連邦生徒会長”が招聘した怪獣退治の専門家という立場は決して崩すことがなく、そのおこぼれに預かりたいと接近する大人たちの
教壇に立ってチョークで板書を書いて生徒たちに語りかける小学校の先生として、公権力とは切り離された 自由主義に基づいた 教育を受ける権利の庇護者として、キヴォトスに生きる人々に地球人が教わったウルトラマンの心を広めるために授業を受け持つことを好んだ。
そのため、プライベートな活動として給与をもらうことなく【ゲヘナ学園】で毎週続けている公開収録のフリースタイルの授業もあっという間に同時視聴者数が1万人を超えるほどのキヴォトスで流行の一大コンテンツとなり、【連邦捜査部
本職が小学校の先生なので一通りの科目を教えることができ、担任として受け持ったクラスの授業6コマに相当する時間をぶっ続けで教壇に立ち、昼食の時間となったら宇宙に誇る地球の食文化を広める料理人としての腕前を見せ、気分が乗らなかったらギターの弾き語りなどを行うので、実に雑多とも言える多岐に渡るジャンルの公開収録が行われていたのだった。
また、故郷である地球のことや北条 アキラ個人のことについての質問会が行われたかと思えば、授業に出席していた【ゲヘナ学園】の生徒たちを壇上に立たせて部活動の紹介や宣伝を行わせたことにより、【風紀委員会】空崎 ヒナより存在感がないことを嘆く【万魔殿】羽沼 マコトは自分たちの存在をキヴォトス中にアピールすることに成功して自尊心が満たされて上機嫌であった。
ただ、キヴォトスの頂点に立つ存在である北条 アキラとの関係性をこれでもかとアピールして【ゲヘナ学園】ひいては【万魔殿】の優位性を主張したはいいものの、公開収録で永久保存となった羽沼 マコトと北条 アキラのやりとりから、どちらかと言うと【万魔殿】羽沼 マコトさえも一目置いて厚遇している北条 アキラの
というより、完全に学級崩壊して教育機関としての体をなしていないことが知れ渡っているほどに犯罪率がキヴォトス屈指の危険地帯で公開収録の授業を毎週やり続けていること自体が嘘みたいな本当の話として持ち切りとなっており、
それがやがて『先生がいる時間と空間だけ【ゲヘナ学園】にキヴォトス最高の理性と秩序が取り戻されている』と世間に高く評価されることになり、同時に犯罪撲滅に貢献した実績をもって【風紀委員会】と【連邦生徒会】から表彰を受けることとなったのだ。
そこまで人気ともなると、当然ながら【ゲヘナ学園】だけで公開収録が行われていることへの不平不満が上がるわけであり、【ゲヘナ学園】が先生の授業を独占していることに対して各方面から圧力が掛けられるわけなのだが、大胆不敵な【万魔殿】羽沼 マコトには嫉妬と羨望に塗れた負け犬の遠吠えに聞こえて最高の気分を味わえていた。
そもそも、【ゲヘナ学園】での公開収録のフリースタイルの授業は【連邦捜査部
裏返すと、毎週【ゲヘナ学園】に足を運んで授業を行っているのは完全に
羽沼 マコトにはそのちがいがわかっているからこそ、黙認という形をとることで北条 アキラの影響力を【ゲヘナ学園】に取り込むことに成功しており、他校から何と言われようが、毎週【ゲヘナ学園】に足を運ぶ北条 アキラの存在を決して手放すことはないのだ。思いつきで面倒事を増やすだけの単なるアホではなかったのだ、羽沼 マコトは。
また、なぜ北条 アキラが【ゲヘナ学園】で授業を開くことになったのかを問われれば、それはたしかに最初の怪獣:クレッセントによる異常現象の調査がきっかけで始まったが、
あらためて【ゲヘナ学園】である理由としては『それが【ゲヘナ学園】でしか許されないこと』なのを羽沼 マコトには告げられているため、北条 アキラが【ゲヘナ学園】を捨てることはありえないのだから、いくらでも他校に対して
そう、【ゲヘナ学園】が自由と混沌を極めた結果、学級崩壊して完全に教育機関としての機能を失って生徒たちが好き勝手にしているだから、先生の方もそれに倣って好き勝手にして自分のやりたいことを押し通しただけに過ぎないが、この崩壊した教育現場である【ゲヘナ学園】だからこそ、領土となる自治区を治めるべきエリートを育てるはずの重要な学園ごとのカリキュラムに干渉することを気にする必要がないのだ。
これが極めて重要な点であり、普通の学園で地球人の先生がカリキュラムにない地球人の価値観に基づく授業を開いたら、キヴォトスでは重大な内政干渉に当たる可能性があるのだ。それこそ、『いまを生きる』の
というより、たしかに地方自治は民主主義の学校とも言うし、自治区を運営するキヴォトスの生徒会活動はまさにその通りの意味を持っており、さすがに地球の義務教育に地方自治に必要な法律や経営の勉強など存在しないのだから、素人がしたり顔でカリキュラムに口出しをするわけにはいかないのだ。
また、人類が目指すべき光であるウルトラマンの心を伝えるために教師の道をキヴォトスでも歩んできたが、同時に公職の身で自分の思想を押し付けてはいけないのだ。あくまでも地球人である北条 アキラの個人的な活動に終始しなければならないという制約があったのだ。そこからは思想の自由になる。
だからこそ、自分がやりたいように好き勝手にフリースタイルの授業をやりながらウルトラマンの心を教えられる教壇に立てる時間が最大の癒やしになっており、そこでは“シャーレの先生”でもなく“GUYSの先生”でもない“
これはある種の悟りであり、北条 アキラの諦めでもあった。世の中には解決できる問題と解決できない問題があり、キヴォトスで一二を争うマンモス校【ゲヘナ学園】での学級崩壊を解決する見通しなど立たない以上、真っ当な手段での解決に見切りをつけて、そんなことよりも本質的に大事なことを追究することになったのだ。
もう学力や教養なんてどうでもいい。今はXデーを迎えて怪獣頻出期に突入して滅亡の淵に立たされているキヴォトスの未来を築くために必要なことを実現するために、失踪した“連邦生徒会長”に喚ばれた怪獣退治の専門家としての本道に忠実であることを選んだのだ。
けれども、許されるのならば、ウルトラマンの心を教育現場で実践する初心を貫きたくもあり、先生と生徒の間の信頼関係を築くためにも防衛チームの基本であるface to faceによる継続的な関係構築にも力を入れたかった――――――。
そうして出来上がったものが毎週定例の【ゲヘナ学園】での公開収録のフリースタイルの授業というわけであり、【風紀委員会】と【連邦生徒会】から表彰を受けたのを機に、今度はもっと突っ込んだ内容や他校との交流を目指すこととなった。
こうして放課後の課外授業と評して趣味と実益を兼ねて生徒から紹介された映画やテレビ番組の同時視聴も始めるようになり、毎週定例の授業日はますます盛況となっていくのだった。
一方で、動画配信サイトを通じての学園間交流も積極的に行うことで学園間の対立を氷解させ、融和を促進させ、怪獣災害にキヴォトス中が一丸となって立ち向かう機運を盛り上げていくことになり、学園の指導層である生徒会役員たちへの信頼関係の構築も図ることとなった。
繰り返すが、【ゲヘナ学園】での授業はあくまでも【万魔殿】が黙認する形で“シャーレの先生”でもなく“GUYSの先生”でもない“
しかし、尽きぬ水瓶のように新鮮な価値観と刺激に満ちた情報を
――――――突如として地球人:北条 アキラはライブ放送の枠を2日間もらい、誰でも参加自由の音楽フェスティバルの開催を宣言したのである!
北条先生「僕は地球人を代表して宇宙に誇れる地球の文化を発信し続けましたから、今度はみんなが大好きなものを教えて欲しいな」
ロボット職員「さすがは先生ですね。そこまでのことをしたのはキヴォトスでは先生が初めてのはずです」
北条先生「そのきっかけはキヴォトスの外から定期的に公演にくるセミプロの楽団をガリバーさんが紹介してくれたからですよ。コラボレーション企画として招待したわけですよ」
北条先生「やっぱりね、戦いばかりに頭を使っていると人間を人間足らしめる文化性が削られていくから、日常生活で積み上げられていく文化活動も積極的にやり続けないと、段々と人間でなくなってしまうよ」
北条先生「油断とは言わないけど、アブドラールス相手に【キヴォトス防衛軍】が戦術で対抗できるところまでいって一息つけるようになったから、そろそろ僕の趣味も実益を兼ねてやろうと思いまして」
ロボット職員「本当に素晴らしいですね。こういうのを『ワーク・ライフ・バランスに優れている』と言うのでしょうか。まさに文武両道ですね」
北条先生「うん。本当は太陽エネルギーだけで食べることも働く必要もないはずのウルトラマンたちがわざわざ宇宙の片隅にある太陽系第3惑星までやってきて地球人類の守護者になってくれる高度な精神性を見習ってね、怠けることなく精進し続けるんだ。防衛チームの隊員が戦いがない暇な時に一生をかけて打ち込めるものを見つけるのが義務でもあるとね」
ロボット職員「それでこそ、地球人:北条 アキラですね」
ロボット職員「――――――で、本当のところはどうなんですか?」
北条先生「次の怪獣が音を食料とする騒音怪獣:ノイズラーである可能性が高いので、ノイズの大きい爆音や騒音をたらふく食わせてお帰り願おうと思いまして」
ロボット職員「――――――『音を食料とする怪獣』ですか。銃声や爆発音が鳴り止まないキヴォトスなら食料に困らないですね、それ」
北条先生「正直に言って、ここまで【ドキュメントUGM】の順番通りに怪獣が現れていることには疑問しかないんだけど、順番通りに現れたからこそ アブドラールスの対策が活きたわけで、闇雲に対策するよりかはよっぽど効率的でしょう?」
ロボット職員「出現する怪獣とその対策がわかっているのなら、その通りにした方がいいのは間違いないですけど、盲信するわけにもいきませんよね」
北条先生「僕もそう思う。いつ【ドキュメントUGM】の順番通りにならなくなるのか――――――、すでに【ドキュメントUGM】には記録されていなかった未知の能力を行使する例が多数見られた以上は油断大敵」
北条先生「でも、これは僕の個人的な趣味と実益を兼ねた活動なんだ。ガリバーさんはあくまでも【連邦捜査部
ロボット職員「いえいえ、失踪した“連邦生徒会長”に代わってキヴォトスのみんなを導いておられる先生の活動にぜひ参加したいと願う生徒たちは日に日に増えているんですから、私も先生のボランティア活動に参加させてください」
北条先生「ああ、なるほど、ボランティア活動か。英語の"volunteer"の語の原義は十字軍遠征の際に
ロボット職員「――――――『
ロボット職員「まさしく志願制で今も入隊者が続出の【キヴォトス防衛軍】の在り方そのものですよね、それ」
ロボット職員「では、早速、キヴォトス中から集まった音楽フェスティバルの参加希望者のリストを集計して割り当てましょう。主催者枠として先生が選んだ生徒を優先的に入れることもできます」
ロボット職員「音楽フェスティバルは土日の2日間ということで時間に余裕は持たせていますが、全部が全部 見る余裕はないので、ライブ出演とビデオ再生に分けて時間管理を行いましょう。どのみち、私たち主催者は各学園のライブ会場にはいないのですから」
北条先生「お、ひとまず、
ロボット職員「それなら、
ロボット職員「他には、おお、【レッドウィンター連邦学園】の軍事パレードなんかも送られてきていますね。同様のものが【ゲヘナ学園】からも送られています。これは順番を考えないと苦情が来る」
北条先生「ああ、やっぱり、各学園の威信を示すために軍事パレードが多いのか。【ハイランダー鉄道学園】や【オデュッセイア海洋高等学校】なんかもそうなってくるのか」
北条先生「……あの、軍事パレード以外って他に無いのかな?」
ロボット職員「えっとですね、芸術分野は【ワイルドハント芸術学院】の領分ですので、そこが断トツで多いですね」
北条先生「となると、【ワイルドハント】の生徒だらけになるのも避けたい。それなら【ワイルドハント芸術学院】単独で主催すればいいのだから。僕はね、キヴォトス中のたくさんの人たちの音楽活動に触れたいんだ」
ロボット職員「難しいですね。デコレーションした愛銃の銃声を愛用の楽器にしているのがキヴォトスの生徒たちです。自分から芸術分野に強い学園にでも入らない限りは自主的にバンド活動をしているような生徒は相当に珍しいですよ」
ロボット職員「いや、待ってください。これは、【トリニティ総合学園】のガールズバンドがありました」
北条先生「え、あのミッション系のお嬢様学校でガールズバンド?」
ロボット職員「ああ、なるほど。これは【放課後スイーツ部】ですね。先生のギターの弾き語りに触発されてバンドを組んだのかな」
北条先生「まるで【ティーパーティー】みたいな名前の部活動があったんですね。たしか、副ホスト:桐藤 ナギサさんの趣味はお菓子作りでしたか」
ロボット職員「他には、のど自慢で参加する子もそれなりにいるみたいですね。参加フォームに人数とジャンルの項目を用意しておいたおかげで分類がしやすくていい――――――」
ロボット職員「――――――ああ!? あ、ああああアツコぉ!?」ガタッ
北条先生「……うん? ああ、秤さんものど自慢で参加希望してきたわけですか! これは楽しみですよ!」
北条先生「――――――曲目は『キヴォトスの外の歌』? へえ、これは聞いてみたいな!」
ロボット職員「………………!」
ロボット職員「……アツコ」
秤 アツコ「ララーラ、ララーラ、ラララーラ……」
錠前 サオリ「残念だったな、姫。このカラオケボックスとやらにも姫の歌の手がかりはなかった……」
錠前 サオリ「だが、知らなかったな。姫がずっと『キヴォトスの外の歌』を歌い続けていただなんて……」
秤 アツコ「うん。だって、歌と言ったら【アリウス】だと敵性文化だから、気づかれるわけにはいかなかったし」
――――――だから、一緒に歌おう、サッちゃん。この歌が希望や幸福を望む者には厳罰を下して子供たちを利用するマダムへの宣戦布告になるの。
地球人:北条 アキラの個人的な活動の中から呼びかけられた音楽フェスティバルはその第一声から始まり、キヴォトスでは知らない者がいないほどの“シャーレの先生”であり“GUYSの先生”がみんなのことを知りたいと言ってくれたのだから、先生に憧れている生徒たちはこぞって参加フォームに投稿するのだった。
もちろん、開催中に怪獣災害が発生すれば、その時点で先生は対応に向かうことは明言されているわけで、万全の態勢で平和の祭典を開催できることを危機管理能力の証明ということで【連邦生徒会】にも賛同を得ることができていた。
また、キヴォトス中がネットワークを通じて場所に縛られずにお祭りに参加できるというのも画期的な試みであり、『非日常の楽しみを生徒たちに提供する』という意味でも学園を活気づかせるきっかけとして各学園の生徒会から歓迎されることになり、自治区の地域住民も巻き込んだ興行ともなれば、その収益は馬鹿にならないものになるだろう。
そんなわけで、主催者である北条先生としては動画配信サイトの放送枠を土日の2日分確保して参加者に時間を割り振ることしかやっていないのだが、そこに経済効果や政治的意義を見出して各学園で独自に興行することにはこちらから口出しすることではなかった。
結果、キヴォトス中の各学園の生徒会が2日間の音楽フェスティバルに向けて何かをしようと動くわけであり、その先頭に立ったのが毎週定例の公開収録の場となっている【ゲヘナ学園】ひいては【万魔殿】ともなれば、ライバル校である【トリニティ総合学園】も面子にかけて何か催しをしなければ、今後そのことで下に見られてしまう――――――。
一方で、同じキヴォトス三大学園の一角【ミレニアムサイエンススクール】としても、あの北条先生がただ単なる思いつきで開いた娯楽の催しであるとは誰も思っていないわけで、いつ怪獣災害が起きるかわからない状況下で平和の祭典を行えることの政治的意義を【セミナー】調月 リオがわかりやすく説いて回ったため、政治的パフォーマンスとして重要であるとして積極的となっていた。
そのため、キヴォトス三大学園がこの音楽フェスティバルに積極的ともなれば、自然とキヴォトス中の津々浦々にある学園にも話題が広がっていくわけであり、元より【ゲヘナ学園】で公開収録を続けている動画配信者としての抜群の知名度を持つ北条先生の呼びかけでキヴォトス中がお祭り騒ぎになるのは自然なことであった。
北条先生「音楽フェスティバルが始まる前からキヴォトス中がお祭り騒ぎになってきたなぁ……」
ロボット職員「すみませんね。用意できる出演料は微々たるものにしかならないのですが」
チェロ弾き「まあまあ、私たちはアマチュアでもセミプロっていうのかな。暇な趣味人の集まりだよ。だから、こういった催しに喚んでもらえるのは素直に嬉しいものだよ」
チェロ弾き「ところで、先生も私たちと同じようにキヴォトスの外から来たと聞きますが、音楽はお好きですか?」
北条先生「ええ。本職が小学校の先生なのでピアノや鍵盤ハーモニカ、リコーダーといった楽器の指導もできるように訓練されていますけど、僕自身はショパンのノクターンとか好きですよ。ロックバンドのボーカルなんかもやりましたよ」
ロボット職員「それは凄い! まだまだ引き出しがいっぱいあるじゃないですか! 一人で音楽番組を作れますよ、それ!」
北条先生「音楽もまた地球が誇る文化ですから。クラシックでもロックでもジャズでも演歌でもオペラでも何でもまかせてください」
北条先生「――――――音楽の力。僕はそれを信じていますから」
チェロ弾き「そうですか」
チェロ弾き「いや、疑っていたわけじゃないですが、先生と一緒の舞台に上がることが今から楽しみです」
ロボット職員「しかし、やはり【ワイルドハント】からの応募が多過ぎたので制限をかけることになりましたね」
北条先生「そう。だから、普段から芸術活動に励んでいる
ロボット職員「うまいやり口ですねぇ。最初から枠を渡された上で最高のものを寄越すように言われたら、【芸術学院】の誇りにかけて本当に最高のものを送り出してくることでしょう」
ロボット職員「実際、音楽フェスティバルの枠を求めて【ワイルドハント】では選抜コンクールがかつてない熱狂で行われているとの情報が入っています」
守月 スズミ「………………」
ロボット職員「あ、すみません、スズミさん。せっかく来ていただいたのに」
守月 スズミ「いえ、私のことはおかまいなく。むしろ、キヴォトス中を巻き込んだ先生の音楽フェスティバルが楽しみでしかたがないんです」
守月 スズミ「――――――あれから随分と変わりましたよね、キヴォトスも、ここも」
北条先生「そうでしたね。僕が初めてキヴォトスで目覚めた日、キヴォトス中が“連邦生徒会長”失踪の混乱の真っ只中でしたね」
守月 スズミ「ええ。“連邦生徒会長”が【シャーレ】に赴任させた“先生”ってことでしたけど、先生は頑なに私たちの指揮を執ろうとしてくれませんでしたね」
ロボット職員「……そうだったんですか?」
守月 スズミ「ええ。先生は年端もいかない生徒である私たちが人に向けて銃を撃っているキヴォトスの日常にカルチャーショックを受けていたんです」
チェロ弾き「ああ、先生はたしか、人類同士の戦争が過去のものになった地球からお越しになったわけなんですよね。地球人である先生の認識だと
北条先生「……よくご存知で」
チェロ弾き「音楽フェスティバルにお声をかけてもらった以上、先生のことを知っておこうと調べたら、記事に書いてありました」
守月 スズミ「今ならよくわかります。“連邦生徒会長”が先生を喚んだ理由が」
守月 スズミ「先生はまさに人類同士の戦争が過去のものになった
守月 スズミ「先生のおかげでエデン条約締結前からキヴォトス三大学園が集結した【キヴォトス防衛軍】が結成され、【トリニティ】を硫酸ミストで覆った怪獣の脅威からも守られ、怪獣にも対抗できるほどのサンクトゥムタワーの強固な防衛体制の確立もされたんです」
守月 スズミ「本当に先生は凄い人です。ここ最近はこうしてゆっくりと落ち着いた時間も過ごすことができています。体感的にもゲヘナ生の嫌がらせも少なくなっていますから、これは本当に偉業ですよ」
守月 スズミ「でも、先生の有無を言わさぬ凄さを最初に体験したのは、【シャーレ・オフィス】奪回に協力させられた先生にとっては最初の4人である私たちなんですよね」
ロボット職員「……あれ、その時は指揮は執っていなかったのでは?」
北条先生「そうなんだけど、最初は子供同士の
――――――けど、相手が戦車なんて持ち出してくるから、さすがにそれは反則だと思って、トライガーショットで破壊しちゃった。
チェロ弾き「おお!」
ロボット職員「先生自ら!?」
守月 スズミ「あの時の先生、本当に怖かったです。凄い形相で相手を睨みつけていて、使っているのも誰も見たこともないような光線銃で、一撃で戦車を破壊した時はみんな言葉を失って前と後ろを二度見しましたよ」
守月 スズミ「なので、絶対に怒らせちゃいけない人だと思いました」
北条先生「あれ、そんな風に思われていたの?」
守月 スズミ「少なくとも、突破するために徹甲弾でどうにかしようとしていた私たちの焦りと苦労は一瞬で塵になりましたね」
守月 スズミ「だから、これから“連邦生徒会長”失踪で引き起こされた混乱を収めた先生を中心にしてキヴォトス中が凄いことになるんだと思っていました」
北条先生「キヴォトス史上最大の軍事力【キヴォトス防衛軍】の軍事顧問としての地位を確立するまで随分と時間がかかりましたけどね」
ロボット職員「そうですね。【シャーレ】が開設されてすぐに、私が先生の仕事を支える裏方として雇われることになりましたが、それまではひたすら周辺地域の治安回復とキヴォトスの情勢把握に努めていましたから」
ロボット職員「怪獣退治の専門家として本領発揮していくのは、最初の怪獣:クレッセントによって引き起こされた異常現象がキヴォトス中で起きてからでした」
チェロ弾き「たしかに、怪獣退治の専門家として先生は喚ばれていたわけですから、そこまで【シャーレ】の活動に乗り気ではなかったのは想像がつきますね」
北条先生「そうなんですよ。銃弾1発で死にかねない脆弱な地球人としては銃乱射事件が日常のキヴォトスでは慎重に慎重を重ねる立居振舞をせざるを得なかったですから」
北条先生「あと、小学校の先生をやってましたから――――――、見たくなかったんですよ、銃声と硝煙に塗れたキヴォトスの生徒たちの日常を」
北条先生「ですから、ガリバーさんが鋼鉄の身体を駆使して戦場と化した場を収めてくれていたことには大助かりです」
ロボット職員「ええ、支えてきた甲斐がありました。“シャーレの先生”としての実績はそこそこでも、Xデーを迎えてからの“GUYSの先生”としての功績は計り知れないものがあり、結果としてキヴォトス中の治安回復にも貢献していますから、【連邦生徒会】からも表彰を受けました」
チェロ弾き「本当に素晴らしいことですね。たしかに、昔よりも今のキヴォトスは銃声や爆発音が静かになったように思いますよ」
守月 スズミ「はい。いつか本当にキヴォトスから銃声がなくなる日も来るんじゃないかって、そう思わせてくれるんです、先生は」
北条先生「防衛力や独立自尊のための武力となるものをなくすことはできないですけど、少なくとも銃犯罪と呼ばれるものはなくなっていくはずですよ」
守月 スズミ「その時が楽しみです、先生」
チェロ弾き「いやはや、今日はいい話がたくさん聞けました。ありがとうございます、先生。それとガリバーさん」
ロボット職員「いえいえ、こちらこそ、また会えて嬉しいですよ」
ロボット職員「何年ぶりになりますかね?」
チェロ弾き「そうでしたね。今は【シャーレ】の職員でしたが、昔 会った時は【トリニティ】の職員でしたね」
守月 スズミ「え」
チェロ弾き「おや、今の子たちはご存知ない? 彼は【トリニティ】で“
守月 スズミ「そ、そうだったんですか?」
ロボット職員「……まあ、そんな頃もありましたね」
北条先生「………………」
守月 スズミ「それなら、どうして――――――?」
ロボット職員「――――――『どうして【トリニティ】を離れたのか?』ですか?」
守月 スズミ「だって、“
ロボット職員「スズミさんが【正義実現委員会】ではなく【トリニティ自警団】の一員として活動しているのと同じ理由ですよ」
守月 スズミ「え」
チェロ弾き「……まあまあ、人にはそれぞれ事情というものがあるわけですから」
守月 スズミ「は、はい」
チェロ弾き「ご存知だとは思いますが、Xデー以来 キヴォトスでは“
チェロ弾き「ですので、現在進行形でキヴォトスの経済が縮小しているわけで、それに伴う流通の悪化で間接的な要因で経営破綻に陥って廃校になった学園も出始めた厳しい状況でもあるんです」
守月 スズミ「そ、そうだったんですか!? 道理で怪獣災害で目立った被害がないはずの【トリニティ】でトラックの交通量がめっきり減っていると思っていましたよ!」
チェロ弾き「そう、キヴォトスの外ではキヴォトスは呪われた地として切り捨てられることになっているんですよ」
守月 スズミ「そ、そんなことって……」
チェロ弾き「ですが、私たちはこうして怪獣災害が起きるかもしれないキヴォトスにまた足を運ぶことになりました」
チェロ弾き「それがどうしてだか、わかりますか?」
守月 スズミ「………………?」
チェロ弾き「それは私たちと彼が年来の友人だから、無事かどうかを確かめに行こうと思ったからなんだよ」
チェロ弾き「それと、大変な時だからこそ、私たちの演奏でキヴォトスに元気を与えようと思ってね」
チェロ弾き「だから、キヴォトスに希望を与えている先生が私たちと出会って音楽フェスティバルを開いてくれると聞いた時、本当に光栄に思ったよ」
チェロ弾き「ねえ、先生? 音楽フェスティバルでキヴォトス中を盛り上げるわけですが、その最中に怪獣がもし現れたとしても私たちは演奏を続けていてもいいですか?」
北条先生「いいですよ。戦闘区域にコンサート会場が入らない限りは音楽フェスティバルは止めるつもりはありません。避難命令は【キヴォトス防衛軍】の権限で発令されますので、それがない限りは安心して演奏をしてください」
チェロ弾き「心強いお言葉、本当にありがとうございます」
チェロ弾き「じゃあ、そろそろ、私は帰りますね。心残りのないものにするためにね」
チェロ弾き「ああ、そうだ、先生。先生は地球という星の出身なんですよね」
チェロ弾き「この宇宙には音を出す生物はたくさんいる。でも、音楽の力を信じると言ってくれた先生がいるように、音を、音楽を、その音の響きを純粋に楽しむことができるのはごくわずか――――――」
チェロ弾き「だから、守ってやってください、キヴォトスに住まう人たちを。一緒に音楽を楽しむことができる仲間たちを」
北条先生「まかせてください。そのために僕は遠くの星からやってきました」
守月 スズミ「…………?」
ロボット職員「……どうしたんだろう、あんなことを言うだなんて?」
そして、動画配信サイトのネットワークを利用した
“シャーレの先生”“GUYSの先生”と言った肩書に依らずに北条 アキラの個人的な活動の呼びかけに賛同して集まった有志たちが思い思いの音楽性を発揮して、キヴォトス中で銃声や爆発音の代わりに音楽が奏でられていった。
今回の趣旨は地球の文化を発信し続けてきた北条 アキラにキヴォトスの音楽を披露するというものであるため、主催者側がアンケートで順位をつけるといったことはなく、動画配信サイトのコメントの雰囲気で良し悪しが決まるだけである。
しかし、他校のことに基本的に関心がないキヴォトスの生徒たちはこういったキヴォトス中が注目している大舞台で自分たちを売り出そうと勇んで参加した新進気鋭のアーティストたちの独自性に衝撃を受けることにもなり、それは激しい銃撃戦にも似た昂揚感をもたらした。
芸術分野が専門の【ワイルドハント芸術学院】ともなると、最初から枠を与えられて最高のものを寄越すように言われていただけに、選抜コンクールで勝ち抜いてきた学園を代表するトップアーティストたちが意気揚々と画面に現れるのだ。学芸会の出し物とは明らかに次元がちがう完成度のパフォーマンスだ。その後に演奏することになる生徒たちが気の毒に思えたほどだ。
なので、【ワイルドハント芸術学院】の推薦枠の後には必ず主催者である北条先生の少し長めの枠となり、後に控えているアーティストたちの緊張を解すように立ち回り、それでいて多彩なジャンルの音楽性を発揮して地球の音楽を情熱的に奏で上げたのだった。
最初はピアノでショパンを演奏したかと思えば、小学校の音楽の授業で取り扱う名曲を次々とピアノで演奏し、ジョン・レノンの名曲の弾き語りで締めたことで、観客のいないコンサートホールに拍手が響き渡ったのだ。これは【ミレニアム】で開発された動画配信サイトの拍手機能に連動して会場に拍手が鳴り響く音響設備によるものである。
それから各学園の威信を示した軍事パレードが行われたのだが、バカ正直にライブ中継して何が何だかわからなくなっている【ゲヘナ学園】に対し、見所満載のハイライト映像に編集してきた【レッドウィンター連邦学園】【ハイランダー鉄道学園】【オデュッセイア海洋高等学校】が高評価であった。
そうして再び壇上に現れた北条先生は【GUYS】の制服を着て地球の防衛チーム【GUYS】のワンダバを歌い上げ、歴代防衛チームで一番好きなワンダバを、恩師:大山キャップに捧げるつもりで【UGM】のワンダバを記憶から書き起こした譜面で自動再生したものを披露し、観客のいないコンサートホールで画面の向こうの数え切れないほどの観客に向けてタクトを振るうのだった。
まさに地球文化を発信する地球人代表としての才覚が遺憾なく発揮された舞台となり、こうした実演と進行が大変好評となり、音楽フェスティバルはまだ一日目なのに北条先生のパフォーマンスに魅了された【ワイルドハント芸術学院】の生徒たちがラブコールを送ってくるほどであった。
次の部は
そして、キヴォトスの伝統芸能への返礼として、北条先生がまた着替えてきて座布団に正座すると日本の伝統芸能である落語の口演となった。代表的な演目『寿限無』は画面上に字幕が表示されることで落語が初めてのキヴォトス人にも伝わりやすくする工夫を凝らした結果、観客のいないコンサートホールに再び拍手が鳴り響いたことで大好評で終わることになった。
ロボット職員「おつかれさまです。楽しかったですよ、落語」
ロボット職員「いやはや、先生は本当に何でもできるんですね」
北条先生「それはよかった。地球の文化が他の星でも認められるのは嬉しいことですよ」フフッ
北条先生「今のところ、怪獣出現の報はないですね?」
ロボット職員「ええ。至って平和です。まさに平和の祭典です」
北条先生「このまま無事に終わればいいけど――――――」
――――――その時、宇宙怪獣が大気圏突入したことを警告するアラームが鳴り響く!
北条先生「ああ、来ちゃったか……」
ロボット職員「まさか、本当に宇宙怪獣が――――――?」
北条先生「というわけで、【キヴォトス防衛軍】は厳戒態勢! 関係ない地域は音楽フェスティバル続行! 北条先生は怪獣退治に向かいます!」
北条先生「実は、楽しみにしてたんだよね、この時をッ!」
――――――怪獣よ、
――――――
調月 リオ「……ノイズラーの誘導に成功しました」
――――――
北条先生「うん。やはり、ノイズラーはハードロックが好きか。趣味が合うな。『クリーム』や『ローリング・ストーンズ』の名曲をいっぱい聴いてくれ」
北条先生「ウッドストック・フェスティバルじゃないけど、今宵は怪獣さえも聞き惚れる音楽の祭典だッ! イエーイ! 最高にロックだぜ!」
飛鳥馬 トキ「信じられません。怪獣が先生の演奏に合わせて踊り狂っています」
北条先生「さあ、きみもこっちに来て歌ってみなよ! ここからはキヴォトスで定番のナンバーのハードロックアレンジのコーナーだ! イエーイ!」
飛鳥馬 トキ「――――――!」
飛鳥馬 トキ「そういうことでしたら――――――」
飛鳥馬 トキ「イエーイ! イエーイイエーイ!」
――――――
調月 リオ「…………これはいったいどういう状況なの?」
――――――
“ビッグシスター”調月 リオをはじめとして緊急出動した【キヴォトス防衛軍】の面々は呆気に取られていた。
宇宙怪獣:ノイズラーの襲来を予期していた“GUYSの先生”の指示通りにローター音を自重しない無人ヘリコプターを接近させて搭載した特大スピーカーで音量全開で曲を垂れ流してノイズラーの気を引いたところで、空気砲の原理で閉じ込めた空気を振動させて音響を届ける新兵器:ノイズクラスターが炸裂する。
新兵器:ノイズクラスターは音響を封じ込めた空気弾が直撃することで立ち所に爆発する立体音響が全身を襲うものであり、圧縮させた空気を破裂させた衝撃で攻撃することも可能だが、第一はこの不可視の空気弾からの反響音で怪獣の内部構造を分析する目的のものである。
しかし、騒音怪獣:ノイズラーはローター音を喰らい、特大スピーカーで垂れ流される音楽も平らげ、ついにはノイズクラスターから解放された音響さえも吸い取ってしまったのだ。
怪獣退治の専門家である北条 アキラの言うことを信じていなかったわけではなかったが、世にも奇妙な音を食べる怪獣のことは半信半疑であり、実際に遠くからでも聞こえていた音が吸い尽くされていくさまはまさに人知を超えた超常の存在“
そうして怪獣の周りが人知を超えた超常現象によって沈黙したところで、突如として歪んだ音のエレクトリックギターをリード楽器とした大音量のソロ演奏が差し込まれるように怪獣退治の戦場に響き渡ったのである。
いったいどこのバカが怪獣退治の真最中にロックなことをかましているのかと辺りを見渡した時、怪獣退治にお誂え向きの更地に用意された屋外ステージを陣取っていたバンドマン:北条先生の姿があったのだから、これには怪獣退治の最前線にいた【風紀委員会】銀鏡 イオリは開いた口が塞がらず、【正義実現委員会】仲正 イチカは目を見開いて食い入るように見つめ、【温泉開発部】鬼怒川 カスミは腹が捩れるぐらいに笑いこけた。
当然、合理主義を極めた【セミナー】調月 リオは何が起きているのか意味がわからなすぎて、一人で屋外ステージに立ってエレキギターを掻き鳴らしてハードロックの名曲を熱く、熱く、熱く歌う北条 アキラを言葉を失って目で追うばかりであり、ノイズラーも静まり返っていた世界にロックを吹き込んだ存在に興味津々であった。
そうだろう そうだろう。ヘヴィメタルと同一視されることがあるハードロックだが、ロック分野だけに留まらず、ポピュラー音楽の発展にはアメリカの黒人奴隷たちが唄った労働歌に根差すブルースがあり、謎の超巨大学園都市:キヴォトスでは最初から成熟したJ-POPらしきものが流行しているだけに 歴史的なものがかえって真新しく感じているはずだ。
歴史的に
そして、ハードロックのヒットソングメドレーを歌い終えると、今度はキヴォトスで定番のナンバーのハードロックアレンジを交えて演奏し始め、護衛として側にいた【C&C】飛鳥馬 トキを誘って即興のデュエットに洒落込んだのである。
結果、常にキヴォトスの命運を背負って戦地に赴いてきた覚悟と誇りを胸に抱いていた【キヴォトス防衛軍】の勇敢な生徒たちは、憧れの先生とデュエットという羨ましい状況なのに真顔でろくにハモらせることのない【C&C】飛鳥馬 トキにブーブー文句を言いながら、みんながよく知っている曲になると怪獣退治しに来たのも忘れて画面の向こうの先生と一緒に歌い出すようになったのを銀鏡 イオリは『もうどうにでもな~れ』と思いながら状況を見守っていた。
しかし、ふと【風紀委員会】銀鏡 イオリは思い出していた。キヴォトス一治安が悪い【ゲヘナ学園】に先生が来るようになって、相変わらず【風紀委員会】に対して理不尽な対応は多いが、あの【万魔殿】の面々ともいつからか一緒に笑い合えるようになっていた。毎週の先生の授業を【ゲヘナ学園】のみんなが楽しみにするように変わっていった。
だからこそ、地獄のような【ゲヘナ学園】でさえも地上の楽園に変えてしまえたのなら、50m級の山のような大きさの怪獣でさえも先生ならわかりあえてしまえるのは何も不思議ではなかった――――――。
むしろ、怪獣の心さえも動かしてしまえるほどの力を先生は持っていたからこそ、【ゲヘナ学園】が変わっていけたのだと、初めて認識することになったのだ。それは銃弾一発で瀕死に陥る脆弱な地球人の身体能力からだとまったく想像もつかなかった偉業であり、果たして銃も使わずに怪獣をどうにかできる人間などキヴォトスに存在するだろうか――――――。
――――――大きい! とにかく大きい! 大き過ぎる! これがウルトラマンの心?
ただただ仲正 イチカの見開かれた両目からは大粒の涙が止めどなく零れ落ちていく。理由はわからない。ミッション系のお嬢様学校である【トリニティ総合学園】では絶対に聞かないだろう激しく歪んだ騒々しい音楽性に恐怖を覚えたのだろうか。
けれども、ハードロックアレンジされたキヴォトスでは誰もが知っている曲を先生と一緒に周りが口ずさんでいるように、その涙は物凄く温かみがあり、先生とデュエットしている【C&C】のエージェントなんて最初からいなかったかのように画面の向こうの先生の姿しか見えない。
最初に会った時に先生が胸の【CREW GUYS】のロゴマークを指差しながら『副部長:羽川 ハスミよりも大きい翼を心に宿している』と言い張っていたのを思い出す。
あの時は大人としてちゃんとした人だという第一印象を抱きながらも、小粋なジョークも言えるおもしろい人だと感心していたが、実際はそんなことは全然なかった。
銃弾1発で致命傷になるというキヴォトスではありえない脆弱さでありながら、人間なんて蟻のように簡単に踏み潰せるような人知を超えた超常の存在“
だからこそ、歌に込められた平和への思いの強さに圧倒されているのかもしれない。ただ人として正しいことを貫き通す、その姿勢が眩しくて眩しくて眩しくて、もっともっと世間に対して、世界に対して、みんなに対してやれることがあったはずなのに“一所懸命”でいられないことが後ろめたく思えて――――――。
先生は何だってできた。仲正 イチカもだいたいのことを卒なくこなせる才女として【正義実現委員会】のみならず内外で多くの人たちに頼りにされてきたわけで、その社交性と要領の良さから他校生徒ともたくさん仲良くすることができていたが、
さすがに治安最悪で学級崩壊している【ゲヘナ学園】で途切れることなく毎週の授業を受け持ち、今まさに“災害の化身”として誰からも恐れられる怪獣を相手に魂を込めた歌をぶつけてしまう北条 アキラの頑張りと比べたら――――――。
ウルトラマンになりたくて防衛チームを志し ウルトラマンの心を教育現場で実践するために教師の道へと選び直した ある一人の地球人が重ねてきた思いの強さと熱さと優しさがどっと押し寄せてきた感じがするのだ。
そう、何事も人並みに熟せるが故に何事にも熱中できずに理想も目標も信念もなく、周りの人たちと一緒に心から楽しめる一体感を覚えられない疎外感――――――、
必死に自分も夢中になれるものを追い求めては長続きせずに何かを始めようとして買ったものを綺麗サッパリ売り払ってしまうような自分の中には何も無いのだと人知れず嘆いていた彼女に対して先生は明確に答えを与えてくれた。
先生が一人でピアノもギターも指揮もできるという音楽性のちがいをいくつも内包して音楽フェスティバルという1日の出来事で多芸多才を披露した時の衝撃は【ワイルドハント芸術学院】のみならずキヴォトス中が衝撃を受けた――――――。
この時、仲正 イチカが生まれて初めて『あんなふうになりたい』と強く目指したい目標像が明確になったわけであり、多芸多才ぶりはもちろんのこと、歌や演奏に込める思いの強さも見習っていこうと思ったのだった。
北条先生「みんな! ありがとう! 愛してる!」
北条先生「イエーイ!」
飛鳥馬 トキ「イエーイ!」
北条先生「それじゃ! また会う日まで! バイバーイ!」
飛鳥馬 トキ「――――――ノイズラーが!」
――――――
調月 リオ「ノイズラー、飛翔を開始」
調月 リオ「……追撃の必要は、ないか」
調月 リオ「そのまま大気圏を離脱するものだと思われます」
調月 リオ「――――――本当に歌だけで怪獣を追い払ってしまうとは。先生」
調月 リオ「本当にあなたは規格外ですよ。さもなければ、怪獣退治の専門家とは言えないということでしょうか」
――――――
北条先生「ありがとう、調月さん。あなたが制してくれていたから、ノイズラーを宇宙に還すことができました」
北条先生「もちろん、相手がノイズラーだったから歌で対処できたのであって、他で通用することはまずない」
北条先生「それでも、戦うばかりが道じゃないことをキヴォトス中に示しておかないといけないから」
――――――
調月 リオ「………………」
――――――
北条先生「……さすがに疲れた。ノイズラーに僕の中の歌エネルギーを吸い取られた気分だよ」
北条先生「だから、音楽フェスティバル1日目は北条先生はもう出ません。怪獣退治に出ている間、僕の番になったら流すことになっているミュージックビデオで後は勘弁してください」
北条先生「とは言え、ノイズラー以外にも怪獣が出てくる可能性はゼロではないので、次の出撃に備えて疲労回復のために休憩に入ります」
北条先生「解散、解散。部隊も早急に撤収させて次に備えさせてください」
北条先生「この調子だと、次に出てくるのは復活怪獣:タブラじゃないだろうな……?」
――――――
調月 リオ「……おつかれさまでした、先生」パチパチパチ・・・
――――――
こうして【キヴォトス防衛軍】限定の秘密の屋外コンサートライブは地球人もキヴォトス人も宇宙怪獣も関係なく盛り上がることになり、全くもって嘘としか思えない『戦わずして怪獣を追い払った』という伝説がキヴォトスに刻まれたのだった。
しかし、騒音怪獣:ノイズラーへの対策として出撃した【キヴォトス防衛軍】の面々しか見ることができなかった往年のハードロックの名曲を屋外ステージで聴かせる奇策もそうだが、
それ以上にキヴォトスの定番の曲の数々をハードロックアレンジしたり、音楽フェスティバルで自身が出撃中に流すミュージックビデオの撮影をしたりと、いくら【キヴォトス防衛軍】の実力がついて心理的余裕が生まれたからと言って趣味と実益を兼ねた芸術活動に全力で勤しんでいたことの方がみんなには驚きだろう。
出撃中に流すミュージックビデオに至っては、世間でウルトラマンを称える応援歌やイメージソングが少しずつ流行っていたわけなのだが、ウルトラマンの心を伝える北条先生が軍事顧問として率いる【キヴォトス防衛軍】の作戦記録:ウルトラマン80の戦闘映像を使って、ヒューマニズムに満ちた作風の山上 路夫による作詞、TALIZMANによる作曲・編曲の地球防衛チーム認定曲を音源がないので自分で編集したものを流していたのだ。
軍事機密とも言えるウルトラマンの戦闘映像を惜しみなく使った上で、現代日本的かつ近未来的な価値観の学園都市:キヴォトスではやや古臭く感じるが、ロックバンドによる清涼感のあるヒーローソングは一周回ってウルトラマンのことをよく知らないキヴォトス人にとってはウルトラマンの本質がよくわかるものとして心に刻まれたことだろう。
そう、北条 アキラは極めて現代的かつ先進的な感性の持ち主であり、もう二度と地球に現れるかももわからないウルトラマンの心を次の世代に伝えていくためには小学生の間でYouTuberが人気であるように情報発信力が重要であるとして動画編集に取り組んできた経歴があり、元から動画配信者としての経験値はあったわけなのだ。
それが【キヴォトス防衛軍】の戦闘記録の確認をしながら【キヴォトス防衛学園】で使う教材を作るのにもっとも役に立ったスキルであり、音楽フェスティバルでも十二分にその能力が発揮されたのだ。教壇に立つだけが教師の能じゃないということだ。
なので、教師の存在感が皆無でビデオ学習が通常となっているキヴォトスで北条 アキラが公開収録の授業をしてきたのには、いずれは動画コンテンツを通じてキヴォトス中を
つまり、音楽フェスティバルの開催は騒音怪獣:ノイズラーの襲来を予期してのものと一部には言ったが、実際には【キヴォトス防衛軍】の防衛力が一定水準に達したのに合わせて平和の祭典と銘打って開催するのは教育計画から既定路線であり、
忘れられがちだが、北条 アキラは 予備役とは言え 防衛チーム【CREW GUYS JAPAN】の候補生だったのだから、そこから教師の道に転向するぐらいは実に容易いトップエリートなのである。その上で、地球でも最高峰の最新技術に日常的に触れる機会があり、怪獣退治の専門家として日常に潜む怪奇現象にも目を光らせているので、自然と観察眼も人並外れたものにもなろう。
また、【
ロボット職員「宇宙怪獣が飛来しましたが、無事に1日目は終了となりました。反響が凄まじいですよ、先生」
北条先生「そうですか。明日も何事もなく終わればいいですね」
ロボット職員「そうですね」
ロボット職員「しかし、まさか『歌だけで怪獣を追い払う』だなんて、先生が宿すウルトラマンの心は本物です」
北条先生「あれはあくまでも【ドキュメントUGM】に記録されていた騒音怪獣:ノイズラーだったから できたことなのであって、未知の怪獣相手にやる度胸はないですよ」
ロボット職員「いや、でも、それでも怖いじゃないですか! 相手は見上げるばかりの巨大な怪獣!」
ロボット職員「どうして、先生にはそれができたのですか?」
北条先生「だって、
――――――喝! それは違う! 人間誰だって一生懸命になれば、怪獣の1匹や2匹やっつけることができるもんだ!
北条先生「防衛チームの隊員でもなんでもない普通の塾講師:海野八郎氏は特訓の末に習得したロープ投げで、地上80メートルの高さにある改造ベムスターの角にロープを括りつけて、そのまま改造ベムスターの顔に飛び乗ってナイフ片手にベムスターの眼をぶっ刺しまくって片方を使用不能にしてましたから」
ロボット職員「は」
北条先生「しかも、その時は怪獣が同時に3体出現するという最悪の状況だったのに、
北条先生「まあ、さすがにとどめは
ロボット職員「………………
北条先生「まあ、恩師:大山キャップも他の支部のキャップを暗殺してきた宇宙人の刺客を返り討ちにしてましたし、地球では実戦経験のなかった僕としてもウルトラマンに負けない心を発揮したかったから……」
ロボット職員「――――――Xデーの衝撃に勝る新事実ですよ、それって」
北条先生「うん。だから、【
――――――愛と勇気と誇りをもって怪獣や侵略者の脅威に敢然と立ち向かうことができる人類の偉大さも次の世代に語り継がなくちゃいけないんだ。できるんだってことをね。
トリニティ自警団「今日の音楽フェスティバル、最高でしたね! 明日も楽しみです!」
守月 スズミ「そうだね。今日に限っては他校の不良たちも本当に見かけなかったし、キヴォトス中がお祭り騒ぎなのに、ここまで閃光弾を使わない日が来るなんて思わなかったよ」
トリニティ自警団「他ならぬ“GUYSの先生”の呼びかけだもんね。怪獣退治を一所懸命やっているキヴォトス中の憧れの的になっている先生が私たちの好きな音楽を聞かせて欲しいって言ってくれたんだもん」
トリニティ自警団「そうそう。あの不良グループがガールズバンドを組んでこっそり練習していたって噂があるし、みんな、先生に興味津々ってことだよね」
トリニティ自警団「音楽フェスティバルの今日も怪獣退治で緊急出動しちゃったけど、無事に宇宙怪獣をキヴォトスから追い払えたみたいだし、【キヴォトス防衛軍】の強さも安心できるものになってきたよね」
守月 スズミ「うん。本当だね。一からキヴォトスの防衛体制を築き上げて キヴォトス
トリニティ自警団「きゃああああああ! 見て見て!」
守月 スズミ「え、何? どうしたの?」
トリニティ自警団「何これ!? どこで撮った写真!? 屋外ステージでギターを弾いてたっけ、今日の先生?」
トリニティ自警団「これ、どうやら今回の宇宙怪獣が音を食べる怪獣ってことだから、先生自ら屋外ステージで怪獣相手にライブをしてたんだって!」
トリニティ自警団「ええええええ!? 音楽フェスティバルの裏でそんなことが!?」
トリニティ自警団「だから、これは怪獣退治に出動していた【キヴォトス防衛軍】しか視ることができなかったシークレットライブのお宝映像ってこと!」
トリニティ自警団「わーお!」
守月 スズミ「音量を上げてもらえる?」
トリニティ自警団「あ、うん」
守月 スズミ「――――――」
守月 スズミ「…………これが先生の歌。好きかも」
トリニティ自警団「もっと無いの? 続きは?」
トリニティ自警団「どうだろう? 今日の怪獣退治に参加していた【正義実現委員会】の子からもらったものだから、他に持っているとしたら【ゲヘナ】の子に強請ることになると思うけど……?」
トリニティ自警団「じゃあ、【ゲヘナ】の連中が利用しているSNSに投稿されていないかを見てみるー!」
トリニティ自警団「そうだ! 【ミレニアム】だって怪獣退治に参加しているはずなんだから、そっちの方面を当たってみる!」
守月 スズミ「みんな」
守月 スズミ「先生。先生の歌に込めた想いがキヴォトスを1つにしていってますよ」フフッ
とうとう来てしまいますね。
もっともっと、演奏したかったな。
やるしかないんだよ、俺たちは。
――――――その翌日、キヴォトスに巨大な隕石が3つ降り注いだのだった。
-Document GUYS feat.LXXX No.07-
騒音怪獣:ノイズラー 登場作品『ウルトラマン80』第7話『東京サイレント作戦』登場
音を主食とする宇宙怪獣で、大きな耳で音を探知する。近くにノイズラーがいると食べられた音が聞こえなくなるという摩訶不思議な能力を持つ。
その生態から捕食している音にも好き嫌いがあり、登場した個体は騒音や爆音に分類されるものが好みであるらしく、新幹線やジェット機、エレキサウンドを好物とし、矢的 猛の出勤先の桜ヶ岡中学校のバンドのギター演奏に合わせて踊るなどコミカルな描写もある。
一方で、弱点はなんとウルトラマン80のカラータイマーの音で、これを聞くと大人しくなってしまう。シルバーガルやスカイハイヤーといった騒音対策のされている音も嫌いな模様。
おそらくはノイズの多い荒々しい音が好みということでエネルギーは強いが波形が汚く表示されるようなカロリーのお高いジャンクフード好きであると見える。
音が伝わらない宇宙空間では食事ができない上、自然界に存在する環境音に騒音や爆音のようなものが発生するのは稀であるため、立ち寄った星星で得られたエネルギー効率の良い食料として騒音や爆音といったものが貴重であったために悪食になったものだと推測される。
実は、ザンドリアスの件で味を占めたのか、ザンドリアスと同様に『ノイズラー・カムバック作戦』という着ぐるみを新造するクラウドファンディング企画が開催されており、
これもまたザンドリアスと同様に2017年12月12日から2018年3月1日までに目標金額は『ウルトラマン80』38周年にかけて38万円として開始して、なんと翌日には目標金額を達成してしまっている。
最終的には127万4400円が集まり、これは目標金額の335%であり、参加人数も93人であった。
結果として、ザンドリアスと並ぶ80怪獣の代表格として近年のウルトラ作品に登場するようになり、ウルトラマン80に倒されることなく宇宙に送り返された比較的温厚でコミカルな怪獣ということで、ザンドリアスとペアの扱いで語られることが多くなった。
能力は目から発射する光線:レッドサイレンサーと、カッター状になっている翼。
また、マッハ5で空を飛ぶことができるが、ウルトラマン80よりも速かった親子怪獣:ザンドリアスと比べるとかなり遅い扱いになってしまう。
しかし、特徴的な大型の耳によってあらゆる音を聞き分ける優れた聴力と予想外の格闘能力によって簡単に攻撃をいなすことができ、最初の宇宙怪獣:ギコギラーの弱さはいったい何だったのかと思うほどにザンドリアスとはちがった意味で手強い宇宙怪獣である。
また、怪獣らしい外見の宇宙怪獣でありながら、怪獣空手なる謎の武術を習得している裏設定があり、コミカルな描写がなされているが、ウルトラマン80相手に相撲を取ったり、ボクシングで殴り合ったりと、ここまでウルトラマン80と対等に渡り合える格闘能力を持つ怪獣が序盤に立て続けに登場することとなった。
エレキギターの演奏に合わせて思わず踊り出すことや、80と会話しているかのような仕草を見せてウルトラマン80の誘導で宇宙に還っていったことからも、ザンドリアスと同様に相当に高い知能があることがうかがえる。
宇宙からやって来たノイズラーは中央アルプス上空にいた超大型旅客機を襲う。この飛行機は設計段階で騒音が問題視されて国際世論で批判されていた代物であり、宇宙怪獣の襲撃に遭って墜落しても「報いだ」と言われるレベルだった。
その後、主食であるエネルギー源である音を求めて、東京に飛来したノイズラーは新幹線の騒音を食べながら町中で暴れ始めた。UGMの攻撃でさえも、その耳で聞き分け、のらりくらりとかわしていく。
それを見た矢的 猛はノイズラーが音に反応していると気付き、『東京から音を消せば動けなくなるのでは?』という常人には考えつかないような突飛な作戦を考えつくのであった。
結果、東京中から完全に音を消すという ある意味で壮大な『東京エリア サイレント作戦』として採用され、東京近郊の全ての活動を停止させることで、UGMはザンドリアス同様に問答無用に排除するのではなくノイズラーの好みの音を探って懐柔させる方向性でいくが、探り当てる前に東京中の民衆が限界を迎えてしまう。
そのため、UGMは作戦を変更し、無音の中で寝ているノイズラーを殺処分しようとするが、矢的 猛が出勤している桜ヶ岡中学校の生徒たちのバンドが怪獣の近くでエレキギターの演奏を開始したことでノイズラーは突如として目を覚ましてしまうのだった。ノイズラーはこの音が気に入って踊り出す始末。
隙だらけだったためにUGMの容赦ない攻撃を食らうことになったが、怪獣の近くにいたことで生徒たちが攻撃に巻き込まれたことで避難することになったのだが、優れた聴力と知能から音源を察知して『演奏を再開しろ~!』と言わんばかりに生徒を追いかけ回すことになってしまった。
そこに登場したのがウルトラマン80であり、『東京エリア サイレント作戦』によって騒音や爆音といったご馳走を取り上げられたことで休眠せざるを得なかったノイズラーは 食べ物の恨みは恐ろしいということで 怒りの矛先を目の前に現れた巨人に向けることになった。
目から破壊光線を放って80に攻撃するが回避され、逆に80にウルトラアローショットで反撃されると、光線では分が悪いとでも思ったのか、ノイズラーは四股を踏んで80に相撲での勝負を持ちかけ、まさかの上手投げを炸裂。
その後もジャブをかましてボクシング勝負を持ちかけるのだが、ダッキングで一度目のソバットを見事に回避するが、連続で繰り出されたソバットで蹴り飛ばされた時、80のカラータイマーが鳴り出してしまう。
ここで実はカラータイマーの音が大嫌いだったことが判明し、聞くだけで戦意を失っておとなしくなったノイズラーを80はそれ以上は攻撃することなく、声にならないやりとりを通じて宇宙へ連れ帰ることにしたのであった。
人類側への被害自体はかなり大きかったものの、明確な悪意もなかったということもあってか、ザンドリアス同様に寛大な処分となったというわけであった。
ただし、如何に憎めない一面があるとはいえ、ザンドリアスの場合と同じく、人間の立場からすれば決して人畜無害な怪獣とは言い切れないのである。
ただ、怪獣だからといって問答無用の排除を最初に選択しないところが怪獣との付き合いが長い地球人らしさでもあり、ウルトラマンとしても可能な限り殺生は避けたいという切実な思いと重なるため、そこがウルトラマンたちが地球人に可能性を見出すことになった美点でもあるのだ。
【ドキュメントUGM】の順番通りにキヴォトスに飛来した個体もまたエレキギターの音色が好きだったらしく、ウルトラマン80の地球防衛チーム認定曲を広めるついでに披露したハードロックにドハマリして、たらふく堪能したら上機嫌で宇宙に還っていった――――――。
歌だけで怪獣を追い払ったということで地球人:北条 アキラの嘘のような本当の話にまた1つ武勇伝が加わることになった。
しかし、本人が言うように【ドキュメントUGM】の順番通りに来ると予想されていたから事前に対策できたのであって、前情報も無しに怪獣相手に無闇に歌を聴かせようとする自殺行為をするつもりは一切ない。
あくまでもノイズラーが相手だったからこそできた芸当なのだが、そのノイズラーに対して効果的な策を実施して穏便に済ませられたのは、疑いようのない怪獣退治の専門家としての力量によるものだと言える。
怪獣と戦うだけでも防衛費は膨らんでいくため、最小限の努力で最大限の効果を引き出せるに越したことはない。今回は何もしていないように見える【キヴォトス防衛軍】でも出動させた分の燃料費や出撃手当はしっかりと支払われているのだから。
何より、地球に現れたウルトラマンたちが大抵最後に必殺光線を放つようにしているのも、無闇な殺生はしたくないという意思表示のようなものであり、ウルトラマンの側としても怪獣だからと言って虐殺していい道理を持ち合わせていないのだ。
戦うべき敵を見極めて勇敢に戦い、時には慈悲でもって相手を包み込むことも、ウルトラマンの心を実践する上で大切なことなのである。