ウマ娘アイルトンシンボリ   作:Simca Ⅴ

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 今回はキャラストーリーをイメージして作っていますが、同時にチーム[ライジェル]をベースにしたものとして展開しています。
 戦績が史実と違うことにアレルギー反応がある方や、無駄に有能な新人トレーナーなんてイラネって方。
 そして、冒頭は少し鬱展開入りますので、ご注意ください。

※本作品は本編にて2023/05/23 21:45に投稿したものを再掲載したものでございます。



チームライジェル編
①「変化」


 ───幼い頃。

 父は、ボクにとってのヒーローだった。

 でも───、

 

【な、なんてことだ!! 2番のウィリアムズのマシンがクラッシュしました!!】

 

 ───世界は時に無常で、残酷で、ある日突然、大事なものを奪い去っていく。

 ボクは3歳の誕生日の時にそれを知った。

 

 3歳の誕生日。

 ボクは「アイルトンシンボリ」になった。

 けれども、それを祝ってくれる最愛の父は……いなくなった。

 

 幼い頃の記憶は、その後は暫く()()()()()()

 お葬式で泣き崩れる大勢の人々。

 お母さんも泣いていた。

 ボクは……分からない。泣いていたのかもすら覚えていない。

 

 父が亡くなってから、母とボクは地球の反対側に引っ越した───母の親戚がいるニホンという国に。

 

 ニホンにやって来ても、ボクの目は未だに色を捉えられなかった。

 何もかもが白黒だった───あの日が来るまでは。

 

「ねぇ、()()()。船橋に行かない?」

 

 ある年の9月のある日。

 あの日、母は仕事で家を留守にしていたと思う。

 夕飯をどうしようか。ボクと母が世話になっている親戚の伯母さんとそんなことを話していたら、伯母がある場所へ連れて行ってくれた。

 

 それは、電車でほんの25分。

 辿り着いたのは、「船橋レース場」という駅*1

 

「船橋レース場……? こんなところに()()()()()()()()が?」

 

 今となってはすごく間抜けな質問をしていたと思う。

 あの頃のボクが知ってる()()()というのは、車が登場して当たり前のものだったから。

 

「う、うーん……そっちじゃないかなー」

 

 そろそろ日が落ちる時にしていた伯母さんの困った顔を今でも覚えている。

 

 船橋レース場。

 入場してみると、屋台と大勢の人たちが行き来していた。

 伯母さんに連れられたまま、ボクが目にしたのは、まるでファッションショーで目にするようなランウェイを行き交うウマ娘たちの姿。

 

「伯母ちゃん、あれは何してるの?」

「あれはパドックっていうの。これから大きなレースがあるけど、そこに出てくるウマ娘さんたちがレースを見てくれるお客さんにアピールする場所よ」

「アピールして、お客さん(ボク)たちは何をすればいいの?」

「あそこで気に入ったウマ娘さんたちに投票するの。投票したウマ娘さんが一位になったり、着順を当てたら、ウイニングライブで良い席が取れるという仕組みなの*2

 

 アイルトンシンボリことアイリが見つめる先では観客と思われる人々がある建物に吸い込まれるかのように歩み進めていた。

 

 そして、その日の夜開催されたのは、日本ダートG2レース、さざんかテレビ杯*3だった。

 

「行け、行け、行け!!」

 

 観客席で応援していたアイルトンシンボリ、その横に座っていた伯母がいつもとは違い、自らの推しのために熱狂する姿を見せていた。

 

 だが、幼き日のアイルにもその理由が何となくわかった。

 

 F1レースとは違って曲がりくねっていない、平凡なオーバルコースを駆けていくのは自分や伯母と同じウマ娘たち。

 

 アスファルトの上で繰り広げられる高速レースと、土埃を巻き上げながら切磋琢磨するウマ娘のレース。 

 

 同じ「レース」でもその性質は全く異なる。

 しかし、そのナイターを見てから、アイルトンシンボリの視界に()()()()()()()()()。父が亡くなってから長らく全てが灰色にしか見えなかった彼女にとって、伯母さんが応援していたウマ娘が一着でゴールした瞬間、全ての視界がクリアに透き通って見えた。

 

 それと同時に、観客席では歓声が上がる。

 伯母さんも何かを叫んでいた───その時からだった。ボクの中で何かが変わったのは。

 


 

 ───4月。中央トレセン学園に新入生が入ってきた桜と始まりの季節。

 そんなある日、[ライジェル]という小さなチームの一室でのこと。

 

「え!? トレーナー!?」

「あ、兄貴ぃ、それマなの!?」

 

 チーム[ライジェル]、在籍ウマ娘はたったの2人。

 そのチーフトレーナーの名は矢萩と言う。

 彼はあることをこの場で宣言した。

 

「あぁ、それは本気さ。そもそも俺はこの仕事は単なる繋ぎのつもりだったからな……」

「で、でもでも!」

「そうだよ、勿体無いよトレーナー! せっかくチームルームまで貰ったのに!」

「だ、だから、ねー、兄貴ぃー。後輩スカウト行こうよー」

「そうだよトレーナー。パーマーさんも後輩いなくて寂しー」

「だぁー! お前ら引っ付くなぁ!!」

 

 左にサイドテールと青い毛先の鹿毛のウマ娘、右に同じく鹿毛で長い髪をポニーテールで纏めているウマ娘。

 美人でナイスバディのそんなウマ娘2人にキャバクラよろしく挟まれてたら、普通の男性なら嬉しいはずだろう。

 

 ところがどっこい。

 その張本人であるチーム[ライジェル]のチーフ、矢萩トレーナーにとって、今はそんな気分になれなかったのである。

 

 ちなみに、敢えて(ことわ)っておこう。

 この男、()()()()()()()()()()()()

 

「おいヘリオス、パマちゃん、一旦離れろ。で、そこに正座ぁ!」

 

 2人を振り払い、そのまま対面のソファの上を「正座ぁ!」とビシッと指差す。

 一方で2人は「ちぇー」とか「あーぁ、失敗かー……」などと漏らしながら口を尖らせていた。

 

 畳や床の上、もしくは薄い座布団のようなクッション性のない場所ではなく、フカフカのソファの上を正座の場所とさせたのは彼なりの優しさではあった。

 

「……はぁ〜、まぁったく。何度も言ってるだろーが。()()()()()退()()()()()()()退()()()()()()()()()()()

 

 ソファの上で正座というシュールな光景だが、それでも矢萩の担当ウマ娘である「ヘリオス」と「パーマー」は彼の引退予告に異議を挟んで抗議する。

 

「ダメだダメ」

 

 その抗議に素気なく否定で応戦する矢萩。

 そんな彼に対してヘリオスとパーマーは目をキラキラさせながら、「「お願いー!」」と縋るのだが。

 

「……んな顔してもダメなもんはダメ」

 

 そんな時だ。

 ドアからノックの音がした。

 

「「「?」」」

「……兄貴ぃ。誰か来る予定あった?」

「いや全然……どうぞ?」

 

 突然の訪問者が何者か。

 その正体は推測すらできないので、入ってもらうことにした。

 すると。

 顏に幾らか皺のついた、ハンチング帽を被った、いかにも「優しいお爺さん」という感じの人物が入ってきた。

 その人物をチーム[ライジェル]のメンバーたちはよく知っていた。

 

「「丘部トレーナー!?」」

「え、丘部さん!? い、一体、何かご用事ですか……?」

 

 マズイ、さっきの会話聞かれていたかもしれん。

 そう、()()()()()()()()()丘部トレーナーだが……。

 

「……んの、バッカモーンッ!!」

 

 ひと昔前の大袈裟なアニメ表現で言えば窓が割れんばかりの大声を出す老トレーナー。

 一喝した後に「はぁ……はぁ……はぁ……」と息遣いが荒くなるが、それもたった一瞬のこと。

 

「矢萩ぃ! 一体何考えてんじゃ!!」

「な、何、って一体何が?」

「聞こえとったぞ! ()退()()()ってな!」

 

 やっぱり聞こえていた……。だが、これに関して矢萩は引くつもりはなかった。

 

「聞いてましたか……」

「ったりまえだ。考え直せ。お前、折角中央のトレーナーの免許を取得して、()()()()()()()で2人しかいない担当にそれぞれG1を勝利させたではないか。普通のトレーナーであれば、担当に重賞を勝たせるだけでも何年も掛かるものなんだぞ? にも関わらず、最初の担当を受け持って特別にチームルームも与えられたというのに、まだ3年も経ってないのに辞める? そんな生半可な気持ちでトレーナー業をしとったのか!」

 

 その丘部トレーナーの後ろに小さいウマ娘が隠れており、そんなウマ娘が顔を出して様子を伺ってることに気付いたヘリオスが小さく手を振ると、そのウマ娘はまた丘部トレーナーの影に隠れた。

 

 そんな光景が繰り広げられている脇で、怒鳴る丘部トレーナーと、何を言われても動じない様子の矢萩という修羅場。

 

「生半可? とんでもない。むしろ俺は()()()()()の人生に関われたことは喜ばしいことですよ。()()()()()()G()1()()()()()()()()してくれたことは既に最高の思い出になってます」

「じゃあ何故辞める?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「「えっ!?」」

 

 突然にそんなことを言われたものだから、ヘリオスは喜びで顔を綻ばせて頬を赤く染め、パーマーも喜ぶが顔をヘリオス以上に真っ赤にしていた。

 

 一方で、事情を知った丘部トレーナーは苦笑した。

 

「なるほど……その気持ちは少し分かるかもな」

 

 丘部の脳裏をよぎったのは、()()()()()()()()()()()()()()()

 シニア期には()()()()()()と共に別のチームを立ち上げて移籍することが分かっていた、そんな自分に、別れ際のお礼の代わりと言わんばかりにその年の有馬記念を制覇する大金星をプレゼントしてくれた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それに、自分の知識を受け継いで独立していった()()()

 この3人との出会いは丘部にとって最高で最良の時間だった。

 だからこそ、皇帝と教え子が自分の元から独立していった時、丘部も中央のトレーナー業から引退しようと考えたものだ。

 ……この内情はその三人に対しても未だ明かした事がない。

 そんな彼が引退を思い留まった理由、それは。

 

「だがな……矢萩。お前はもうトレーナー以外の仕事は出来ないと思うぞ?」

 

 そう言われた矢萩はムッとする。

 

「……それはどういう意味ですか?」

 

 慌てたかのように丘部は言った。

 

「あぁ、別にお前のことを貶しているわけじゃないさ。前職は、確か自動車整備士だったな? トレーナー業を引退したらまた整備士(そっち)に戻るのか?」

「そのつもりですが?」

「そうか……私が言いたかったのはな。整備士としての腕前は衰えていなくても、きっとその仕事に満足できないと思うぞ?」

「え? ……何故そう思うんですか?」

「……流石に自覚は無いか。それはな……」

 

 丘部は何か言い掛けたが、矢萩の両脇に控える形でこちらを見ているパーマーとヘリオスと目線が合って、それをやめた。

 

「……いや、私がそれを言うのは野暮というものだ。答えはお前自身が見つけるべきだろう。私もそうだったさ」

「丘部さんも?」

「あぁ。……で。すまない。本題を話してもいいか?」

「……あ。そういえば」

 

 思えば、丘部がわざわざチーム[ライジェル]の部屋にまでウマ娘を一人連れて現れたのは、矢萩(じぶん)の進路について諭しにきたのが理由ではないことに今更気付く。

 雰囲気や空気に飲まれてしまい、その本題というのを聞きそびれた。

 

 矢萩は慌てて来客用の湯飲みに、冷蔵庫で冷やしていた麦茶を入れて、それをソファに腰掛けた丘部に差し入れた。

 

「でだ。お前さん、一体いつ引退するつもりなんだ?」

「えっと……」

 

 矢萩はヘリオス、パーマーと目を合わせてから、こう答えた。

 

「……コイツらがトゥインクルシリーズを引退するまでです」

「ドリームトロフィーリーグに進んだら?」

「……そこを引退するまでは付き合うつもりです」

「ほう。別に今日明日の話ではないんだな?」

「え、えぇ、ご迷惑をおかけしたみたいで……」

「なら、この娘をお前に任せたい」

 

 そう言って丘部は、連れてきたウマ娘の背中を叩いて、まるで差し出すかのように矢萩たちの前へ引き寄せた。

 

「「「……ゑ!?」」」

 

 思わずあまり使わない字の読みが飛び出すほどの驚きが、チーム[ライジェル]の三人を襲う。

 

「何だ、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして」

「い、いやいやいや、丘部さん、今の話聞いてました!?」

「バーロー、話が理解出来んほど耄碌しとらんわ。矢萩、お前がトレーナー業を引退するにしても最低でもあと2年か3年は掛かると私は理解したが?」

「え、えぇ、そのつもりですが?」

「問題はドリームトロフィーリーグだろう。あれは5年か……長いと10年間現役生活を続けるウマ娘も珍しくない。ならば、お前の猶予は12年もあるではないか」

 

 「もちろん単純計算だがな」と言いながら矢萩が出した麦茶を啜る丘部。

 対して矢萩は、「それは考えてなかった……!」という驚愕の顔を浮かべていた。

 

「12年だぞ。自動車整備士に戻るにしても長すぎはしないか?」

「で、でも……一度担当を請け負ったなら、誰かに受け渡して「はいさようなら」っていうのも無責任じゃないですか。なら最後まで……」

「兄貴ぃ……!」

「トレーナー……!」

「だぁー、わかったから引っ付くな」

「全く、お前はホントにクソ真面目だ。その姿勢自体は見事だ、立派だよ。……だが12年も新しい担当を持たないトレーナーなど、中央に居られると思うなよ(中央を無礼るなよ)?」

「がぁっ……!?」

 

 矢萩は自分の人生設計が浅はかだった事実を突き付けられて悶えることになった*4

 

「だ、だから……トレーナー業を辞められない、と?」

「恐らく3分の1はそれが当てはまるだろう。残りの部分は自分で探してみるといい」

 

 そう言い残して、丘部は足早に[ライジェル]のチームルームを去っていった。

 ……彼が連れていたウマ娘も置いてく形で。

 

「あ、兄貴ぃ、大丈夫ぅ!?」

「丘部トレーナー、容赦ないなぁ……でもトレーナー、ありがと。私とヘリオスのことをそこまで考えてくれていたなんて……」

「すまん……ホントにすまん二人とも……」

 

 改めて自分の人生設計が甘かったことを痛感させられた矢萩。

 相手は自分よりも二回り以上は人生経験豊富なベテラン中のベテラン、丘部という男は、もうそろそろ定年だというのにそうは感じさせない、まだまだエネルギーを蓄えた雰囲気を醸し出していた。

 かつて丘部は、チーム[プロクシマ]の発起人であり、中央トレセン学園における栄華の一時代を築いたことがある、もはや伝説級の人物である。

 

 現在の中央トレセン学園における強豪チーム[スピカ]とチーム[リギル]、そんな二大強豪に挑むチーム[カノープス]などを率いるチーフトレーナーたちも、新米だった頃は丘部、もしくは、彼と同世代のベテランである六平(むさか)銀次郎らの指導を受けていた。

 

 かくいう矢萩も研修期間の頃は丘部のもとでトレーナーとしての応用課題を学んできた。

 

 そんなベテラントレーナーの言葉には重みがあり、その重みは、矢萩自身に痛烈な右ストレートのような打撃を与えてみせた。

 

 しかし、甘い人生設計を破壊されてダウンこそした矢萩だが、自分の担当であるダイタクヘリオスとメジロパーマーに対する思いは芯が通っており、2人は矢萩を気遣いつつ、ある意味では惚れ直した。

 

「あ、あの!?」

 

 そんな3人の空気に置いていかれがちで孤立していたのは、丘部が「矢萩、お前が面倒を見ろ(意訳)」と言って、この部屋に置いていったウマ娘だった。

 

 中央トレセン学園の紫色を基調とした、見慣れた冬服。

 薄い色だが鹿毛だと辛うじてわかる髪の色、前髪には逆二等辺三角形を思わせる白いメッシュ。

 頭頂部には短いアホ毛がゆらゆらと揺れており、ウマ耳は両方とも緑色を基調としたイヤーカバーで覆われている。ちなみに、右耳のイヤーカバーにだけ、三つの白の横縞が入っていた。

 見たところ背丈は130cm前後しかない。

 ……ヘリオスが156cm、パーマーが160cmということを踏まえるとより小さく見えた。

 

「……えっと。君は?」

 

 矢萩が尋ねるより先にパーマーがそのウマ娘とファーストコンタクトを図った。

 すると、

 

「ぼ、ボク、あ、アイル、アイルトンシンボリです! おお、伯父さんがどうもすみません!」

 

 そのウマ娘の名前はアイルトンシンボリ、と名乗った。

 ……え? 今この娘は何つった?

 

「……今、君、丘部トレーナーのことを伯父さんっつったか?」

「え、えぇと……は、はい。大伯父です……」

 

 改めて問い質した矢萩。

 答えるアイルトンシンボリ。

 それに対するチーム[ライジェル]の反応は……、

 

「「「……ゑヱぇぇぇぇっ!?」」」

 

 ……五月蝿くて失礼しました。

 


 

 暫くして落ち着いてから、矢萩は、何故アイルことアイルトンシンボリがこのチームに連れて来られた(放り込まれた)のか、その事情を理解した。

 

「えーと、つまり、アイルトンシンボリは……」

「あ、アイルでいいですよ、トレーナーさん」

「……アイルはつまり、丘部トレーナーが大伯父で。だけど、その大伯父さんのチームに入ろうとしたら、断られてしまった、と」

「あ、はい……お恥ずかしいことに……」

「……」

 

 皮肉だが、矢萩とチーム[ライジェル]のメンバーたちは何故丘部がそのような対応を又姪に当たるはずのアイルにしたのか、その理由を実は知っていた。

 

「あー……別に、アイルのせいじゃないと思うよ?」

「そ。だから落ち込まない。……兄貴ぃ、パマちん、ちょっちいい?」

 

 ヘリオスはパーマーと矢萩を呼ぶと3人で不完全な円陣を組んだ。

 

「まさかだけど、アイル、おかっぺがチームを縮小中なの知らないん……?」

「だろうな……あの人も歳だし」

「丘部トレーナー言ってたもんね、よっぽど骨のあるやつしかプロクシマに残せない、なんて」

「え、そんな理由が!?」

「ちょ!」「えっ?」「わっ!?」

 

 いつの間にかしれっと円陣に紛れ込んできたアイルに3人揃ってびっくりする。

 

「す、すみません……やっぱり大伯父さん、ボクのことがあんまり好きじゃないのかも……」

「「「……」」」

 

 そして、内心三人とも同じことを思った。「ヤベェ、これどうしよう」と。

 本当なら、矢萩はチーム[プロクシマ]と同じく新メンバーの受け入れを停止したかったところだったのだが……。

 

「……兄貴ぃ、マジでどしよう?」

「それな……」

「うーん……」

 

 3人とも言葉少なめで、側から見れば何を言ってるかわからないだろう。

 だが、3人揃って同じ疑問に行きついていた。

 そこで……。

 

「聞く?」

「聞いてみるか?」

「聞くしかないっしょ!」

 

 そして3人は最初はグー、ジャンケンポン、で、その疑問をアイルにぶつけてみることにした。

 

「……くぁー、負けた!」

「どんまい兄貴ぃ」

「聞き出しよろ」

「ったく他人事だと思って……」

 

 ジャンケンに負けた矢萩は意を決して、アイルに質問を切り出した。

 

「あー、その、な……アイル、なんでうちに来たんだ?」

「えっと……その……ゴニョゴニョ……

「何だって?」

 

「そ、その……ボク……ボク、クラシック三冠を獲って有馬記念に出たいんです!!

 

(……ジーザス! なんて爆弾を置いてってくれやがったんだあの人……!)

 

 アイルの望みは、ズバリ、クラシック三冠を獲り、尚且つ()()()()()()()()()()()()()()()()()───つまりは、丘部にとっての集大成でもある()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

「え、でも、ちょ、ちょっと待って! それっておかない(おかしいよね)?」

「そ、そうだよ! クラシック三冠を獲るんだったら、実績のあるチームの方が……そ、それこそ、リギルとか!」

 

 ヘリオスとパーマーの指摘通りだ。

 クラシック三冠を獲るのが目的なら、わざわざこんな弱小チームに来る必要がない。

 リギル……は強豪すぎて壁が厚すぎるが、スピカやカノープスであればその門戸は開かれている上に、沖野トレーナーや南坂トレーナーならば、矢萩よりは経験豊富なはずだ。

 何なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という選択肢だってある。

 

「え、でも、大伯父さんが、矢萩トレーナーなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って」

「おぅふ……」

 

 何かの間違いだ……と、大声を上げて抗議できないのが辛いところだ。

 何故なら、まず、矢萩は妹のダイタクヘリオスを阪神ジュベナイルフィリーズに出走させて1着をもぎ取っている他、同じジュニア期に小倉ジュニアステークスも制している。

 そのままティアラ路線へと歩ませるも、桜花賞はアグネスフローラに敗れ、オークスは()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。それでも()()()()()()し、そのままマイルCSも勝利してみせた。

 

 一方でメジロパーマーは、クラシック期にして()()()()()()()()()()()()()()()して、メジロマックイーンとの激戦の末に()()()も勝利した。ついでに、今月末に控えている天皇賞・春の()()()としたG3の()()()()()()()()()()()も一着である。

 

 そのような実績を既に()()()()()()()()()()()()()()で出してしまっていて、特別に担当ウマ娘が二人の状態でもチームルームを与えられたのだから、丘部トレーナーからの推薦内容もあながち間違っていないのが困りどころだ。

 

 ……矢萩本人としては、単純に「運が良かっただけ」ということと、「ヘリオスとパーマーが凄かったから」と思っているだけだった。

 尤も、そんなことをよく口にしては同僚のトレーナーたちにいじられてるのだが、彼の場合は妹とその親友を自慢に思っているが故に、ネット上によくいる「誰が指導しても勝てるだろ」と主張するアンチたちの戯言をこれまで華麗にスルーしてきた。

 

 パーマーもヘリオスも矢萩が自分たちを本気で誉めているが故にアンチからの攻撃をたまに受けていることを理解しているが、彼女たちはむしろ矢萩のトレーナーとしての実力を信頼しているため、彼が思うような()()()ではないと考えている。

 

「だ、だけどな……」

「待って、兄貴ぃ。アイルを受け入れて!」

「そーだよトレーナー!」

「ちょ、お前ら何勝手に……」

「だって兄貴に、トレーナーをクビになって欲しくないもん!」

「そうそう。パーマーさんも後輩ちゃんが増えて嬉しいんだから!」

 

 先ほどの丘部トレーナーの言う通り、今年はともかく来年以降も新入部員が現れなければチーム解散どころか矢萩が中央のトレーナー資格を失ってしまうことになる。

 それだけはどうしても避けたかったヘリオスとパーマーはアイルの加入にいまいち乗り気でない矢萩を置き去りにして、話をトントンと進めていった。

 そうしてアイルがチーム[ライジェル]に加わるまでに、それからあまり時間は掛からなかった。

*1
実在の京成線「船橋競馬場」駅がモデル

*2
ウマ娘の「一番人気」や「二番人気」という投票を何故やる必要があるのか、システムをちょっと考えてみたらこうなりました、解釈違いだったらごめんなさい。

*3
実在の「日本テレビ盃」がモデル、らしい。

*4
筆者「」(ギクッ




前々からクロススキッパーのウマ娘ストーリーを描きつつ思っていたことは、
「前提条件を語っていないから作り込みが我ながら甘いなぁ……」というもの。
描きたいエピソードがあまりにも多すぎて、そっちを優先しようとしても、そこだけでも順序立てて説明しようとしても結局、間の話が抜けていて読み手にとって理解し難いものになってしまっているという悪循環……。

そこで、今回は番外編ながらチーム[ライジェル]の過去エピソードを描きつつ、本編の内容の補完を試しています。

ローマは一日にして成らずとはよく言ったものですわ、昔の人……。
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