居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア 作:鳩胸な鴨
一部不適切な表現があったので修正しました
例えば、ゲームにバグがついて回るのが当たり前だとして。
それは現実世界にもあるのだろうか。
僕…緑谷 出久なら「ある」と全力で、肺の空気がすっからかんになるくらいの大声で答えることができる。
─────諦めた方がいいね。
まず一つ目のバグ。
「個性」と呼ばれる超能力がありふれた世界で、完全に無力である「無個性」なる人種の存在。
僕がその中に該当するのだから、まず間違いなく世界にバグは存在する。
どれだけ嘆いたって、悲しい現実は変わらないのだけど。
───── デクってのはなんも出来ねーやつのことなんだぜ!!
二つ目のバグ。
生まれながらにしての絶対的格差。
これは幼馴染との間に感じることが多い。
やればなんでもできる幼馴染と、勉強以外は努力してもトントンにすら行けない僕。
埋まらない差は今なお開くばかりである。
…前言撤回。今はちょっと、どうかわかんないけど。
─────ありがとう、イズク。大好き
そして、肝心の三つ目。
これが多分、僕が感じているバグの中で1番大きいものだと思う。
何故なら、彼女…、緑谷 ミオは…。
「はい!新しい力!
これでもっとヒーローに近づけるね!」
「……あの、一応聞いておきたいんだけどさ、どんなの?」
「………凍る?」
「怖い怖い怖い怖い!!
説明が動詞オンリーなの尚更怖い!!」
「本当に凍るくらいだよ?消えるとかじゃないし」
「だーかーらー!!君と比べちゃダメだからね!?」
おやつ感覚で、僕にオーバースペックにも程がある個性…いや、『天使』を渡してくるのだから。
♦︎♦︎♦︎♦︎
なんとなく、放って置けなかった。
当時、齢10歳かそこらの子供だった僕が抱いたちっぽけであやふやな正義感が世界を救った。
そう。なんの誇張表現もなく、世界を救ってしまったのだ。
僕が拾ってきた薄汚い格好の女の子は、世界のバグとしか形容できない存在だった。
曰く、とある魔術師によって生み出された『精霊』という存在である。
曰く、その元から逃げ出した。
曰く、追ってきた魔術師に殺されかけた。
曰く、逃げて、逃げて、ようやくたどり着いたのがここだった。
曰く、誰も助けてくれなかった。
長い時間をかけて聞き出した彼女の過去は、個性なんてものが一般的となった現代でも到底信じられないものばかりで。筆舌筆舌に尽くし難いほど、過酷で壮絶なものだったことを知った。
だけど、ソレを易々と否定できない怯えと絶望が、彼女の瞳に座していた。
敵意と殺意しか向けられたことのない女の子が、まだ10歳そこらの世間知らずだった僕でもひどく哀れに思えた。
「大丈夫だよ。僕が来たから」
なんの力もないけど、憧れだけは負けない。
そんな気持ちで吐いた言葉が、世界の命運を大きく狂わせた。
彼女の力に気づいたきっかけは些細なことだったと思う。
台所にゴキブリが出た…いや、カメムシだったっけか。とにかく、その程度のハプニングだったと思う。
僕と母さんが2人揃ってきゃあきゃあと悲鳴をあげていると。
─────
触れたら完全消滅するとか言う物騒にも程がある技を、彼女はたかが台所に出た害虫程度に使ったのである。
恐らくは、近場にあった殺虫剤を使うくらいの軽い気持ちで。
そこから始まったのは、僕と母さんによる根気強い情操教育。
彼女はあまりにものを…世界や人を知らなさすぎた。
それこそ、易々と世俗に晒せない程度には。
ミオは自分の持つ力を「当たり前のもの」として認識している。
でも、いくら個性が蔓延している世界でも、「世界そのもの」をどうこう出来てしまうような力が「当たり前」の枠組みに収まるはずもなく。
そこにはどうしても、無視できない、埋められない歪みがあった。
ソレを悟った僕たちが、決死と根気を掛け合わせた説得を続けること三ヶ月。
軽い気持ちで壊されそうだった世界をなんとか救えたのである。
が。ミオの中でとんでもない思想が生まれていたことに僕は気づかなかった。
そのことに気づいたのは、僕が中学に上がったばかりの頃。
当時はミオもかなり世間に馴染んでおり、僕と同じ中学に入学した。
個性発現による混乱の影響か、人口の8割に個性があるとされる現代でも、無個性の子供は多く存在する。
彼女もそんなレアケースの1人として、わりとあっさり受け入れられた。
…まあ、彼女の場合は容姿が暴力的なまでに端麗だった、という下心満載な理由もあるのだけれど。
閑話休題。
その日、僕たちは珍しく、寄り道をして帰ろうと街を散策していた。
寄り道といっても大した用じゃない。
ゲームセンターで遊んでみたいとおねだりする彼女に根負けしただけのこと。
問題はその帰り。
僕たちはたまたま、そこらを彷徨いていた敵に狙われてしまったのだ。
「ガキ、こっちに来い!!」
「うわぁっ!?」
「イズク!?」
ありていに言えば、人質に取られた。
駆けつけたプロヒーローも、暴れ回る敵の個性に攻めあぐねていたのだろう。
そこらじゅうに帯のように伸びた爪を振るい、牽制する敵に近づけないヒーロー。
このままではまずい。
ミオがあの力を人に向けてしまう。
僕がそんな危惧を抱いた、まさにその時だった。
「ガキ!!自分がどういう立場かわかってんのか!?
個性なんぞ使いやがって!!」
「……はぇ?」
はて。僕に個性なんてものはなかったはずだが。
僕がそんな疑問を抱くよりも先に、敵の凶刃が僕の喉を引き裂いた。
が。痛みも一瞬で、僕の喉元から、傷を舐めるように炎が広がったのだ。
僕にそんな個性なんてなかったのに。
せめて父さんのように口から火を吹けるようになれば、と妄想したことはあっても、ソレが叶うことなんてなかったはずなのに。
疑問も束の間、炎が収まるとともに、致命傷クラスの大怪我は跡形もなく消え去った。
驚くべきはそれだけではない。
犯人が振るっていた刃すらも、どこからか吹き出した炎によって焼き尽くされていた。
エンデヴァーか、ソレに似た個性のヒーローが来たんだろうか。
でも、それらしき姿は見当たらない。
気がつけば僕はヒーローに囲まれ、危険な真似はするなと怒られていた。
「ごめん。私、頑張ったけど、人間のこと、よくわかんなかった。
だから、人間のことをよくわかってるイズクに、私の力を使って欲しい。
イズク、お願い。私の『世界を殺す力』で、ヒーローになって」
それがミオの力だと知ったのは、家に帰ってからのことだった。
高揚はなかった。
ただただ、世界の理を書き換えかねない力を手にしてしまったことに背筋が凍った。
でも、ミオのことが怖いとは思わなかった。
彼女は自分の力の怖さをしっかりと理解した上で、僕に力を授けた。
その決断に、どれだけの勇気を振り絞ったのかはわからない。
僕は彼女の信頼に応えるよう、その細い手を強く握った。
「はい、イズク!」
「……何これ?」
「何って…、二つ目の力だよ?」
「………えーっと…、二つ目?」
「あれ、言ってなかった?
私の力、これ含めてあと九つ残ってるよ?」
「ここのつ!?!?!?」
その力が、たったの10分の1程度に過ぎなかったとは知らず。
…そうだ、言い忘れていた。
これは僕が最高のヒーローになるまでの物語じゃない。
僕が1人の女の子を救うまでの物語だ。
緑谷 ミオ…本作のヒロイン。デアラ原作における始原の精霊とほぼ同一の存在。迷惑系転生者が適当にトラウマを植え付けてポイしたところ、ヒロアカ屈指の善性の化身たる緑谷出久に拾われる。
迷惑系転生者…思いついたことをやるだけやって半端に放るクソ野郎。このあと、AFOに殺された。
緑谷 出久…拾ってきた女の子がとんでもねぇ厄ネタだったヒーロー。自身のオタク部屋で一緒に寝てるとクラスメイトに知られると、爆豪にすら「ないわ」とドン引きされた。