居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア   作:鳩胸な鴨

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万由里ジャッジメント その2

「私と〈雷霆聖堂〉の役目は終わったわ。

あとは存在を解いて、世界へ還るだけ。

あなたたちが知るように、私は…システムケルブはそういうふうにできている」

 

それだけ言うと、「役目は終えた」と言わんばかりに微笑む少女。

ミオが哀れみを向ける横で、出久はベンチから立ち上がり、少女に問いかけた。

 

「どうしても消えなくちゃダメなの…?」

「……ありがとう。優しいのね。

気にしなくてもいいわ。いなかったものがいなくなるだけよ」

 

我慢できなかった。

「消えるために生まれた命だ」と諦めを抱く彼女の顔が、どうしようもなく救けを求める顔に見えてならない。

方法は思いつかない。

だけど、救けなければ。

そんな感情が突き動かすがままに声を発した出久に、少女はまた諦めた笑みを浮かべた。

 

「…せめて、名前。名前を教えて」

「……万由里」

「そっか。…ありがと、万由里さん」

「…消える私の名前なんて聞いて何になるのよ。始原の精霊の機嫌が悪くなるわよ?」

「……うん。無理言ってごめん」

 

万由里の体が光に包まれる。

消える前兆だろうか。

結局、どうにもできないのか。

出久が悔しげに歯噛みしていると、ミオがその肩に手を置いた。

 

「…君は私から生まれたもの。だから、私と同じ感情を持ってるはず。

消えるのは止められないけどさ。

せめて最期に、イズクに言いたいこと、言ってもいいんじゃないかな」

「………じゃあ、一言だけ。

アンタともうちょっと、話してみたかったわ」

 

それだけ言うと、万由里の装いが神々しいものへと変貌する。

あれが精霊としての、システムケルブとしての本来の姿なのだろう。

彼女が天へと昇りかけた、その時だった。

 

肌を貫くかの如く放たれたまばゆい光が、夕焼けをかき消したのは。

 

「……私は本心で話せと言ったつもりだったんだけどね。

君自身は気づいてなかったのかな?

自分が『消えたくない』って顔してるって」

「………は…?」

 

自覚していなかったのだろう。

表情筋を確かめるように、頬に指を這わせる万由里。

その感情に呼応し、空に鎮座する球体が光を放ち、ごきっ、ぱきっ、と音を立てて変貌していく。

顕現するのは、黒の球体。

それを中心に展開する翼に、鉤爪のように鎮座する車輪、どこまでも伸びる鋭い尾。

万由里の天使…〈雷霆聖堂(ケルビエル)〉の羽ばたきが、高台から見える街を撫でた。

 

「アイツ、なにを…?」

 

ごきっ、と音を立て、黒の球体にぽつんと砲身のような穴が開く。

なにかまずい。

その砲身がこちらに向いたとわかるや否や、出久は高台から飛び上がった。

 

「力を細胞の隅々に織り込んで…、ワン・フォー・オールを巡らせる…!」

 

ワン・フォー・オールに限って言えば、出久の体で扱える力はせいぜい7%程度。

それを精霊としての力で底上げすべく、右腕に重点的な強化を施す。

〈鏖殺公〉の意匠が右腕に走るとともに、赤い光が駆け巡った。

 

MALKUTH(マルクト) SMASH(スマァアアッシュ)ッ!!」

 

ごぃんっ、と甲高い音と共に、砲身が天へと逸れる。

そこから放たれたのは、地上に落とすにはあまりにも膨大すぎる雷。

その余波に吹き飛ばされた出久は咄嗟に受け身を取り、高台へと着地する。

 

「イズク、大丈夫?」

「ぃい゛…、だ、だい、じょばない…」

 

体を再構築し、赤く腫れ上がった手に息を吹きかける出久。

その腫れが炎に舐められて治癒すると、出久は変貌を続ける雷霆聖堂へと目を向けた。

 

「あの、ミオさん?なんか、その…、聞いてたより硬いんだけど…?」

「イズク、次来る」

 

ぐぽっ、と音を立て、球体に夥しい数の目玉がびっしりと並ぶ。

出久たちがそれに目を見開くより先に、雷の弾幕が降り注いだ。

 

「ミオ!!万由里さん!!」

 

全身にワン・フォー・オールを巡らせ、2人の体を掴む出久。

今は避けるので手一杯。

降り注ぐ雷の雨を潜り抜け、出久は街から離れていく。

雷霆聖堂の狙いは恐らく、自分たちだ。

ならば、一度街から離れてしまえば、こちらに目を向けるはず。

出久の推理を裏付けるかのように、雷霆聖堂はこちらへと向きを変え、ゆっくりと移動を始めた。

 

「〈雷霆聖堂(ケルビエル)〉…!?

なんで、どうして…!?精霊は安定して…」

「…自分が消えるってわかってて怖くない人なんていないよ」

 

だから、誰も悪くない。

出久がそう付け足すより先に、困惑した万由里が声を張り上げた。

 

「そんなわけないっ!!

だって、私はそういう命で、それは私も納得してる!納得、して…」

「できてない!!できるわけがない!!

だって君は、生きてるじゃないか!!」

 

熱がある。鼓動がある。心がある。

これを命と呼ばずして、何と呼ぶのか。

真っ直ぐに万由里へと感情をぶつけた出久だったが、そのことで動きが雑になってしまったのだろう。

軌道を読んだ〈雷霆聖堂〉の弾幕が、出久の体へと迫る。

彼が咄嗟に2人を放ると、その体を雷が貫いた。

 

「い゛っ…、だぐ、ない゛っ…!!」

 

ぼとぼとと臓物が落ち、血反吐をぶちまける。

器を破壊すると謳うだけのことはある。

そんなことを思いつつ、出久は治癒の炎で傷口を癒やし、万由里とミオへと駆け寄った。

 

「2人とも、無事!?」

「それアンタが言う!?」

「ご、ゴメン…。体が勝手に…」

 

精霊があの程度で死なないのは知ってるが、衝動に逆らえなかった。

出久の長所でもあり悪癖でもある自己犠牲に万由里が面食らい、ミオがため息をつく。

後でたっぷり小言を言われるだろうな、と思いつつ、出久は再び2人を抱えて走り出した。

 

「……なんで、そこまですんのよ…」

「万由里さん…?」

 

ぽつり、とこぼす万由里。

彼女はその一言を皮切りに出久の手から逃れ、踵を返す。

彼女は出久からある程度距離を取ると、大きく声を張り上げた。

 

「私はただのシステムなの!!

役目を終えれば消えるだけ!!それだけのもので十分だったの!!」

 

自分はただのシステムでいるべきだ。

そう思うために、彼女は大好きな人の手を振り払う。

 

「生きた意味なんていらない!!証なんていらない!!

そういう生き方が私!!そういう命が私!!もういいでしょ!?私をただのシステムでいさせてよ!!」

 

生きた意味が欲しい。証が欲しい。

生きていたい。こんな命は嫌だ。

誰か助けて。

そう叫びたくなるのを堪え、万由里はぼろぼろと泣きながら出久に叫んだ。

 

「なんで迷わせるの!?

なんで、消えたいって思わせてくれないのよ…っ!!

私はこんな、こんなことしたくないのに…。したくないから、消えたいのに…!!」

 

破壊の矛が街へと降り注ぐ。

プロヒーローやラタトスクの皆が奮闘してくれているおかげで被害は抑えられているが、それも時間の問題。

泣き崩れる万由里に、出久は目線を合わせるように屈み、手を差し伸べた。

 

「君が、救けを求める顔してた」

 

その優しさを穿つように、雷の塊が迫る。

回避が間に合わない。出久が身構えた、その時だった。

 

「もう大丈夫だ、少年!!」

 

雄叫びじみた決め台詞。

見覚えのある巨躯が出久たちの前に落ち、その拳を引き絞った。

 

「私が来た!!!」

 

DETROIT(デトロイト) SMASH(スマッシュ)

平和の象徴が放つその拳が、世界を殺す矛を吹き飛ばした。




MALKUTH SMASH…〈鏖殺公〉をベースに作り替えた部位で放つ打撃。出力が上がれば世界の壁を破壊し、別世界への穴を作り出すことが可能。名前は10番目のセフィラ「マルクト」から。

オールマイト…ラタトスクが急ピッチで仕立てたコスチューム型の顕現装置を装備したことにより、全盛期に近い力を取り戻した。
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