居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア 作:鳩胸な鴨
システムケルブ事件は、表向きは万由里の個性が暴走したという名目で終着した。
ラタトスクとプロヒーロー、オールマイトの奮闘で被害は最小限に抑えられ。
結局、「いつものイベントか」と言わんばかりに注目はあっという間に薄れ、皆がいつもの日常へと戻った。
「出久、ミオ!一緒に帰ろ!」
「………せめて離れた場所で合流しない…?」
約1名を除いて。
あんなクソナードのどこがいいんだ。
そんな疑問と嫉妬の目に晒されるようになって、早9ヶ月。
校内どころか、世界屈指の美少女2人の好意を一身に受ける出久は、それはそれはもう白い目で見られた。
これでもかと怨嗟を書き殴った呪いの手紙が下駄箱に入っていたことすらある。
ただでさえ受験勉強という重圧があるのに、これ以上追い込まないでくれ。
「………でっかぁ」
そんな悩みも今日で終わり。
聳える校舎を見上げ、出久が小さく呟く。
待ちに待った雄英高校ヒーロー科入試当日。
初めてぶち当たる、人生の大きな分岐点。
その緊張を振り払うべく、出久は深呼吸して、一歩を踏み出そうとする。
「退けデク!!」
「か、かっちゃん!?」
「俺の前に立つな殺すぞ」
いつも通り不機嫌な爆豪が吐き捨て、雄英の校門を潜っていく。
あの不機嫌が治る時はくるのだろうか。
…いや、来たら来たで不気味だ。
さわやかスマイルのかっちゃんとか気持ち悪過ぎるな、などと失礼なことを思いつつ、出久は一歩を踏み出す。
が。不吉にも足がもつれ、転んでしまった。
「…………あれ?」
いつまで経ってもこない衝撃を不思議に思い、下を見る出久。
体が浮いている。
ふわふわと重力がなくなったかのように浮かぶ体を前に困惑していると、いつの間にやら隣に立っていた少女が「大丈夫?」と声をかけた。
「私の『個性』。ごめんね、勝手に。
でも、転んじゃったら縁起悪いもんね」
「ど、どうも、ありがと…」
「どういたしまして!お互い頑張ろうね!」
個性を解き、校門へと向かう少女。
出久はその後ろ姿を前に、苦笑を浮かべた。
「……ミオと出会ってなかったら、緊張で声出なかったろうなぁ…」
女に免疫はついてきたらしい。
ナードから卒業できる日も近いかも、と淡い期待を抱きつつ、出久は校門を潜った。
♦︎♦︎♦︎♦︎
『今日は俺のライブにようこそー!!
エヴィバディセイヘイ!!』
試験会場はライブ会場じゃない。
キャラ設定を忠実に守るのは素晴らしいことだと思うが、もうちょっと真面目にやれなかったのだろうか。
そんなことを思いながらも、出久は眼前で1人盛り上がるヒーロー…プレゼント・マイクを前に独り言を放とうとし、口を抑える。
────受験中に独り言はやめときなよ。落とされるかもだし。
出る前にミオにそう釘を刺されたっけか。
危ない危ない、と思いつつ、実技試験要項が書き並べられた資料に目を通す。
ややこしい問題が多く、難解だった筆記試験と違い、実技試験の内容はシンプル。
数グループに分かれ、10分間の模擬市街地演習を行い、そこに跋扈する仮想敵を討伐するだけ。
仮想敵にはそれぞれポイントが割り振られており、中にはただ単に邪魔をするためだけに存在する0ポイントのものも存在するのだとか。
説明を聞き終えた出久らはそれぞれのチームに分かれ、演習用に作られた市街地へと向かう。
たどり着いたのは、まさしく街。
敷地内にこんな場所があるのか、と皆が感嘆の声を漏らす中、出久は己の手札を確認すべく顎に手を当てる。
(僕の個性は表向きは『肉体改造』…。
肉体を〈
可能な限りはワン・フォー・オールと〈
〈
そんなことを思っていると、ちょん、ちょん、と爪が当たる感触が肩に伝わる。
出久がそちらを向くと、黒髪の少女と目が合った。
「……あの…、なんでしょうか…?」
「失礼。わたくしの知り合いと似ていたものでして。
どうやら勘違いだったようですわね。申し訳ございません」
「はぁ…。お、お気になさらず…?」
「お気遣いありがとうございます。お互いに頑張りましょう」
仕草の一つ一つが気品に溢れている。
どこかいいところのお嬢様だったりするのだろうか。
スタートラインに並ぶ人混みへと紛れていく少女から視線を戻した、その時。
『はいスタート!!』
あまりにも唐突に、開始の合図が響いた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「『士道さん』と同じ力を持つ少年…。
見れば見るほど、彼よりも力の使い方が上手いのがわかりますわね」
その日の夜、とあるマンションの部屋にて。
ソファに腰掛けた少女が、パソコンに映る映像を前にため息を吐く。
雄英高校が保管している入試記録。
とあるツテからこれを受け取った彼女は、その映像の中で動き回る少年を見やり、考察に耽る。
「優秀なアドバイザーが側にいるからか、それとも彼自身の分析力の賜物か…。
どちらにせよ、『こちらで生まれた始原の精霊』から力を受け取っているのは確実。
十香さんや琴里さんのような精霊を封印して手に入れたものか、それとも別の方法で手に入れたものかは定かではありませんが…」
顕現したシステムケルブ。
死して尚、世界中に悪意をばら撒くアイザック・ウェストコット。
そして、躊躇いもなく人を助けるために飛び出し、天使を駆使するもじゃもじゃそばかすの少年。
個性云々を抜きにすれば、あまりに状況が出来過ぎている。
少女は何とも言えない違和感に、眉間を押さえた。
「〈
無い物ねだりしても仕方ありませんわね」
どこまで行っても、こういう事件に巻き込まれる運命なのか。
少女はソファにもたれかかると、深く息を吐いた。
「………これで何回目でしたっけ…。高校生になるの…」
緑谷出久…普通に合格。周囲に被害が出ないようにと気を使いすぎた結果、かっちゃんには勝てなかった。帰ったら「別の女の匂いがする」とミオに詰め寄られた。
???…なんらかの事故で別世界に迷い込んでしまった少女。あるツテからの依頼で雄英に入ることに。不満を漏らしたものの、聞き入れられることはなかった。ヒーロー科は落ちたので普通科に入学。